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こうすればあったかい/京都・嵐山2泊3日の旅・1
”オオガミ”と書かれたプレートが張られたドアの向こう側から、2人の女性の声が聞こえる。


「今回の慰安旅行に、一般の参加者は・・・ご家族のある方も遠慮していただいているはずですけれど・・・」


人類学デパートメントの秘書、水沢美奈子が旅行のスケジュールと、その参加者の確認のために、オオガミ教授の部屋を訪れていた。


「ああ、アルヌールさんでしょう?彼女は特別よ。私がお誘いしたから。彼女にはあの後もメールで何度も助けてもらったの、ずっとお礼ができてなかったし、島村くんも参加するならっていうことで、彼女の養父(保護者)のギルモアさんからも許可をもらったから、何も心配いらないわ」
「・・・島村くんが参加するから?」
「あら、知らないの?水沢さん、あなた島村くんと仲がいいのに・・・アルヌールさんと島村くんは一緒に住んでいらして、同じ方のお世話になっているのよ」
「え・・・・」
「コズミ博士のご友人らしくてね、ここに島村くんが来たのも、そのご縁からよ。そうそうコズミ博士が言うには、2人は・・・って、あれ?水沢さん?ちょっと??どこ行ったの?!」







***

ギルモア邸はフランソワーズの”旅行”にてんやわんや。


「も!大げさよっ、ドルフィンで世界中を駆け回っているのよ!!私だって!たかが京都じゃない!関西じゃない!八つ橋だし、きんつばに、抹茶ソフトクリーム、みたらし団子とたこ焼きよ!」
「・・・よく勉強してるね、でもたこ焼きは違うと思うよ」
「子どもじゃないわ!」
「・・・・じゃあ、そのわけのわからない・・・・・マスコットたちは置いていったらどうかな?」
「ええっ・・・駄目?」
「・・・・・何しにいくの?」
「えっと・・・」


ギルモア邸のリビングルームに広げられた、ジョーとフランソワーズの旅行支度のために用意された品々。

いくらジョーが同行しているといえど、彼女の知らない人間にまじっての旅行に、フランソワーズに今回の旅行を強引にすすめたギルモア自身が、今更になって誰よりも不安になっていたりする。
少しでもフランソワーズが旅行で困らないように、邸を離れた彼女が寂しがらないようにと、手放しにフランソワーズが旅行することを喜ぶグレートとともに買いそろえた物たちは、何に使うのかわからないものが多く混じっている。



それらを目の前にして、ジョーは深いため息をついた。
その中に、上手くフランソワーズは以前から欲しがっていたものをちゃっかり買ってもらっていたりするから、要領がいい。



「たった、2泊3日なのに・・・」
「そうよねえ・・・ちょっと多いわよね?」
「ちょっと?・・これだとさ、ジェットとジェロニモを訪ねて、アルベルトに会って、帰りに・・・・フランスで、3、4泊して帰ってこられるよ?」
「素敵ね!いいわね、それ!・・・でも、フランスは別にいいの、行かないでいいわ!」
「フラン・・・あのs」
「ねえ!!いつなら行けるかしら?」
「・・・・・・旅行?・・・行くなら春先かな?」
「大学は大丈夫?」
「・・・新学期が始まる前までなら」
「素敵だわ!ピュンマのところへ一度みんなで集まって、そこからみんなの国をまわるのはどうかしら?」
「ドルフィン出した方が良さそうだね」
「駄目よ!それじゃいつもと変わらないわ、ジョー、ちゃんと旅行がいいのっ」
「そうなると、博士に色々と負担が・・・さ」
「ん~・・・難しいわね」
「ボクはしがないアルバイトですから」
「あら、私なんて”家事手伝い”らしいわ」
「・・・あんさんら、・・・・二泊三日の旅の準備はどうしたアルか?」
「「あ・・・」」



彼らは昼食後に準備をし始め、今、夕食が出来たと、呼びに来た張大人は、会話を聞いて呆れてた顔で、リビングルームからダイニングルームへとつながるドア口に立っていた。


「な~んも変わってないアルよっ!いったい二泊三日の旅行の準備に、何時間かかってるアルか?!」









***

「例の子がくるんでしょ?」
「アルヌールさんのこと?」



O大学院、人類学部/文化人類学科研究室の2泊3日の慰安旅行兼、K大学で開かれるブラウンダイズ・ユニバーシティのDr.スティットの講演会の参加が、今回の目的である。


参加者は、人類学科のヘッド・プロフェッサー・オオガミを筆頭に、オオがミ研+サガミ研の学院生14名。セミナーから参加希望生徒5名+秘書(水沢)、研究室のアシスタント(島村)そしてオオガミのゲスト(アルヌール)の計26名


「彼女が来たとき、私いなかったから知らないんだけど・・・大丈夫?」
「なにが?」
「だって、すごく落ち込んでたでしょ?」
「気のせいよ。りか子ってば、そんなことばあっかり」
「島村くんのこと、好きなくせに」


リノベーションが済んだばかりの集合場所、東口エントランス/コインロッカー前で、集合時間よりも40分ほど早く来た、文化人類研究室の秘書、水沢美奈子と、同期であり、オオガミ研に属する稲葉りか子は、とても仲が良い。


「・・・別に、・・・アルヌールさん・・・・・彼女じゃないと思うし・・」
「でもすっごくからかわれてたじゃん!学校内で手を繋いで歩いてたの、坪井先輩が観たってすごく騒いでたし。あの後だって、どれほどそのアールヌーボーさんが可愛くて、綺麗だったか、研究室で持ち切りだったじゃない・・・、それに比例して美奈は元気なくなるしさあ・・・」
「もうっ、自分だって湯田先輩がアルヌールさんのことを根掘り葉掘り島村くんに聞いてるのとか、すごく気にしてたくせにっ。私のことより、自分のことを心配したら?」
「うるさいなあ!美奈の面食い」
「りか子の三枚目好き」
「元・ジョニーズのおっかけだっただけあるわよね」
「何よ、筋肉マニア」
「ボーイズラブ読者に言われたくない!・・・島村くん知ってるのかなあ・・・」
「りか子!」


きゃあ、きゃあと集合場所前で騒ぐ2人。
ぽつりぽつりと顔見知る人間が出てきて、2人の会話は別のトピックに代わったが、今回の参加者に女性がオオガミ教授を入れても8人。
集合時間10分前には、そこに女性だけのグループができていた。


「まだ来てないのは?」
「ええっと・・・」


オオガミ教授が携帯電話の時間をチェックして、美奈子に確認させた。


「・・・島村くんと、アルヌールさんだけです」
「あら。・・・こういうときだけはみんな遅刻しないのね?ま、島村くんが遅刻するわけないでしょうから、すぐ来るでしょう」


宝塚の男性役を彷彿とさせる振る舞いと、ルックスを持つオオガミ教授は、あたりを伺うように駅構内をぐるり。と、見渡した。


「あ・・・島村くん?」


りか子が声を出した方向へと視線が向かう、オオガミと美奈子。


ゆっくりとこちらへ向かってくる、栗色の髪の青年と、光を弾くように輝く亜麻色の髪の少女。

集まっていた学生がジョーの姿に気付き、その隣にいる異国の少女に視線を固定させると同時にみな一斉に話題のトピックを変えた。


「う・・・噂以上ね」


こそっと呟いた、りか子の声にオオガミは微笑む。


「そして噂以上に可愛くておもしろいわよ」
「おもしろい?」
「島村くん、おはよう」


自分の声が届く距離までに来たジョーに声をかけた。
その声に答えるように、微笑みながら片手をあげる。そして、ジョーの後ろに隠れるようにしてフランソワーズも、美奈子にむかって会釈した。


「おはようございます」


ジョーはオオガミの周りに集まっている全員にむかって挨拶すると、フランソワーズはジョーの後ろに立って、ぺこり。と、頭を下げた。


「おはよう、島村くん。ジャスト・タイムね・・・アルヌールさん、来てくれてうれしいわ」


オオガミに話しかけられたフランソワーズは、ジョーに背を押されて、挨拶するように促される。


「おはようございます。このたびはお誘いくださってありがとうございます・・。旅行中の間、どうぞよろしくお願いします」


恥ずかし気に少し頬を染めて、溢れそうな大きな瞳を瞬かせ、抜けるような青空色の瞳でジョーと同じだけの背丈があるオオガミにむかい、花が咲き揺れるように愛らしく挨拶をしたフランソワーズに、オオガミの頬は緩む。


「こちらこそ、たくさん楽しんでね」


オオガミの言葉に頷きながら、フランソワーズは自分の隣に立つジョーにむかって微笑む。と、”よくできました”と言わんばかりに、ジョーはフランソワーズの背をぽん。とたたいた。


初めてフランソワーズを目にしたりか子は、目を見開いて食い入るようにフランソワーズをじっと見つめ、周りにいた女の子たちも、フランソワーズに魅入る。その視線に、フランソワーズは少しばかり不安になるが、背に感じるジョーの手のひらに励まされて、にっこりと微笑みを絶やさない。



フランソワーズが遠出をするときは、”ドルフィン”を使う用事がほとんど。
個人的に外出すると言っても、商店街やスーパー、駅前。そして、電車に乗って彼女のいきつけのデパートぐらい。あとは、ジョーの運転する車で日帰りできるくらいの場所。

ギルモア邸とドルフィンでしか生活しないフランソワーズに対して、この機会に”女の子”の知り合いをつくり、外へ出るきっかけになればと、ギルモアは考えていた。

常に邸で赤ん坊と老人、酔っぱらいと口うるさい調理人の世話を焼き、肝心の青年はちっともそれらしい進展をさせないままで、彼女を外へと連れ出すのはもっぱら買い出しと、”ついでに”といいわけする、マンネリ化したデートコース。

いくらなんでも、年頃の女の子の生活にしては・・・と、トレンディ・ドラマをチェックしながらギルモアはフランソワーズを心配する。













***


「新幹線!」
「うん」
「これに乗るの?」
「そっちじゃなくて、こっちに来るよ。ほら・・・乗るのは東京 発 ~ 新大阪 行の、のぞみ、301号」
「でも、止まってるわよ?」
「でも、違うんだよ」
「そうなの?」
「そうだよ」
「どれくらいかかるのかしら?」
「約2時間20分」


見上げて、ホーム上に取り付けられている、電光掲示板を指差して説明する。


「・・・・あの、アルヌールさんは、もしかして・・・はじめて?」


2人のそばで会話を聞いていた美奈子が声をかけた。


「彼女は新幹線も、京都も初めてだよ・・・、普段は車ばかりだし」
「飛行機には乗るわ!」
「いったいいつの話し?」
「そうだけど・・」


む~ん、と、考え込むようにして、電光掲示板を見ていたと思うと、飛んで来た雀ががレールの上に止まったのを見て、ぱっとそちらに視線を移した、かと思えば、きょろきょろと興味深げに新幹線の到着を待つ人々に、ホームにある軽食店や、売店に次から次へと視線を移動させるフランソワーズの様子を見て、苦笑する。


「売店で何か買ってくる?」
「いいの?」
「何かお菓子でも買ってきたらいいよ・・・ついでに」
「わかってる!行ってくるわ」


ぴょん、っと、飛びはるようにして数メートル先の売店へ向かう、フランソワーズを見送った後、ジョーはあらたまって美奈子に声をかけた。


「・・・水沢さん」
「?」
「フランソワーズのことをよろしくお願いします」
「え、あ、もちろん。こちらこそ・・・」
「フランソワーズは旅館も初めてなんだ・・・、いつもどこかに泊まるときはホテルだからね。・・・何も知らないんだ、彼女。一応はそれなりに・・・まあ、ボクが知ってる程度のことを教えておいたけれど、それでも、色々とみんなに迷惑をかけることになると思うから・・・、でも、水沢さんと一緒だから、安心してる。・・・甘えてしまっていいかな?」


はにかむように微笑んだジョーに、美奈子の胸がどきん。と、跳ねる。
その音を聞いたりか子が会話に参加する。


「ねえ、島村くん。彼女どれくらい知らないの?」
「・・・畳の部屋に泊まるのも初めて、かな?布団の上げ下げもわからない・・・と思う。住んでいる邸が完全な西洋式で、土足OKで生活しているし、そういうことも含めて、・・・・温泉も初めてと言うか、パブリックバス自体が初めてで、ええっと・・さすがにその辺はお願いしたいんだけど?」


温泉。の、発言に照れてしまうジョーに、美奈子はくすくすと笑って、了解する。


「お箸の使い方は?」


冗談っぽく聞いてみる、りか子。


「あ、それは大丈夫。それだけはボクでも教えられたからね」
「本当に、”ちゃんと”教えられたのかしら?」
「ひどいな、水沢さん・・・、彼女の箸使いを見てから言ってくれる?」
「あんなに日本語が上手いのに、不思議だわ!」
「外出しない上に、あまり日本文化に接するような家でもないし」


”家”と言う言葉に、反応する美奈子。


「島村くん、オオガミ教授に聞いたのだけど・・・」












***


ジョーの”ついでに”である、ブラック缶コーヒー(無糖)と、自分用に紅茶(ホット)l。
ビッグアポロに、東京焼塩ポテトを2袋を購入し、それを両手に戻ろうとしたとき、視線の先に楽しげに会話する美奈子とジョー。そして、紹介されたばかりの稲葉りか子が、いた。


「・・・・」


先ほどよりもジョーと美奈子の距離が近い。
自分とジョーが一緒にいるときよりも、近いようにみえた。


彼女は今日もお洒落だった。

キャラメルカラーの厚手のトレンチコートの襟を立てて、腰のベルトだけを止めてウェストを絞り、膝丈のボックススカートは、雪のように白く、裾が2cmほどコートの裾から見える。コートよりも少し濃い色のブーツ。髪はゆるくアップ・ヘアでまとめて、わざとおろしている部分がくるくると巻かれている。



旅行鞄は、ヴィトンの柄にサクランボのイラストレーションがプリントされていた。
フランソワーズがちらりと見た彼女の爪は、小さく雪の結晶の絵が描かれていた。

今日の彼女の服装にとてもあっている。
くるりと巻いた髪が、ジョーと会話するたびに、やわらかく揺れる。
同じようにくるり。と、カールされた睫に、瞼はきらきらとしている。
くちびるがほんのりピンク色で艶があり、耳元に飾ったピアスがハートの形の小さな石で光っていた。



「どうかした?」
「!」
「あ、驚かしてごめんっ・・・アルヌール・・さんだよね?」


背後から声をかけられて、飛び上がらんばかりに驚いた。けれど、見た事のある顔に、落ち着きを取り戻す。


「前に一回会ってるんだけど?覚えてるかな?湯田みつる、オオガミ研です」
「はい・・・お久しぶりです」
「それで、どうかした?ぼーとしてたら、置いてけぼりくうよ?」
「い、いいえ、あ、す、スミマセン!」


湯田みつると名乗った青年は、ジョーよりも少し低いくらいの身長に、スポーツ刈りの、何か格闘技でもやっているのか、と思うくらいに、しっかりとした体格。
11月を迎えたばかりの季節だけれど、それにしては薄着で、フランソワーズは見ているだけでも寒く感じる。


「いや、謝らなくても・・・」


フランソワーズは、ぺこ。と、お辞儀をして、早足にその場から離れてジョーのいる所へと駆け出す。


「いや、そんな逃げなくても・・・」


苦笑して、走り去るフランソワーズを見つめた。











平日の木曜日。
普通車の指定席であったが、その車両はジョーたちの団体にほぼ占拠された。

ジョーとフランソワーズはごく当たり前に、2シート並んだ席に座る。
荷物棚に荷物をあげるとき、りか子は気づいた。


「・・・ねえ」
「なに、りか子?」
「・・・・・アルヌーボーさん」
「アルヌールさんよ!」
「荷物は?」
「え?」


彼らの斜め前の3シート並んだ席に座ったりか子と、美奈子、そして、サガミ研の原千里(はら ちさと)。
通路側に座っている千里はりか子の2年後輩にあたる。その彼女がそっと振り返って2人の様子を見た。


「それ、私も気になってたんですよ!島村くん、スポーツバッグ1つ肩にかけていて、一緒の彼女・・・ショルダーバッグだけでしたよ。森君や中岡さんも、言ってたし」


3人はさっとジョーとフランソワーズの座る席の荷物棚を確認する。


「・・・・1つですよね?」
「あれ持ってたの、島村くんよね?」
「・・・・・・さっき聞いたじゃない、りか子、・・・一緒の家に住んでいるって」
「ええ?!」


美奈子の言葉に、千里は大きなリアクションを見せて、りか子に口をぱっと塞がれた。
すると、声のボリュームを極端に落とし、ひそひそと話し始めた。


「一緒って・・・同棲?!」
「違うわよ!・・・・アルヌールさんと島村くんは、・・・お家が複雑らしくって養父になってくださってる方がアルヌールさんと同じ人なんですって、それでよ」
「じゃあ、兄妹なんですか?」
「さあ・・・、そうなのかしら?」
「ま、血は繋がってないから、そういうのは関係ないんじゃない?」
「でも、荷物が1つってどういうことですか?」
「泊まる宿も一緒だから、・・・それに帰る場所も・・・じゃないかしら?」
「でも、美奈子!それでも一緒の部屋に泊まるわけじゃないのよ?!」
「・・・え、ええ・・・・」
「なんだか、意味深・・・ですねえ・・・・。って言うか・・・・」


水沢美奈子がアシスタント(雑用バイト)の彼に片思いしていることは、文化人類学科の研究室にいる女性はほとんど知っている。美奈子に憧れる男子学生も多く、文化人類学科のアイドル的存在である彼女は、優しく面倒見良い性格に加えて、女性らしいファッションとスタイルに、男子学生同様に憧れる女学生も多く、彼女の恋を応援する女性も少なくない。が、ライバルも同じ。しかし、研究室に通う女学生たちのほとんどは、美奈子の恋を応援する傾向でいた。


「・・・強敵なライバルが出現ですよ・・・水沢さん」
「え、やだっ・・・もう、千里ちゃん!」
「この旅行でしっかり島村くんとの距離を縮めてください、アールヌーボーさんをできるだけ、私たちが島村くんから遠ざけますから、ね!りか子先輩」
「アルヌールさんよ!アルヌール、さん」
「うむ、ここは親友として、人肌脱がねば!」


小さく、りか子と千里は「えい、えい、おー!」と盛り上がった。




窓側の席に座らせたフランソワーズは始終ご機嫌で、初めての新幹線を満喫し、降り立った京都の、つん、と肌に凍みいる冷たさに驚いた。
ぶるっと、躯を震わせたフランソワーズに、ジョーは心配する。


「寒い?」
「大丈夫、新幹線の中が暖かかったから・・・」


見上げてくる、フランソワーズのちょっと興奮した様子に、ジョーは頬を弛ませる。


「知ってる?」
「なあに?」
「この京都駅のデザインはフランスの建築家らしいよ」


フランソワーズは”眼”も使い、くるり。と、その場で周り、後ろに倒れそうな勢いでを見上げた。


「・・・・・・日本にたいする愛情不足を感じるわ!」
「愛情って・・・厳しいなあ・・フラン」













***


K大学とは頻繁に交流があることから、参加者の半数以上が何度も京都へと足を運んでいることもあり、参加した学生のほとんどが東京とは違う交通機関の仕組みに慣れていた。そのため、移動も問題なく、京都駅から地下鉄で阪急線、烏丸駅で下車。烏丸駅から桂駅。そして、嵐山線へと乗り換えて、スムーズに予定時間よりも少し早めに終点の嵐山駅へと着いた。


気がつけば、ジョー、フランソワーズ、美奈子、りか子、そして千里、と、なぜか湯田みつるも加わって小さなグループが出来ていた。





阪急嵐山の駅に降りて、広がる道。
紅葉シーズンを少し過ぎた感じはするが、京都の雰囲気を味わうには十分に楽しめた。

徒歩で5分ほど歩くと、川の流れる音が聞こえ始め、中之島公演を抜けて、視界に桂川をとらえると、四方を山々に囲まれた風景が広がった。
全長250mの橋、渡月橋がかかる桂川。

団体は橋を渡る。





「同じ日本なのに、ぜんぜん違うわ・・・・・・」
「・・・日本らしい、って言うと変かな?」
「変じゃないわ!だって、ここ日本じゃない・・!ジョーが見せてくれた・・・、京都の写真の通りだわ・・・。綺麗」


うっとりと景観を楽しむフランソワーズに、ジョーの胸は弾む。


「・・・フラン、船に乗って旅館へいくんだよ、言ったかな?」
「え?船で?!」


先頭を歩いていたオオガミが、自分のすぐ後方にいたフランソワーズへと振り返る。


「アルヌールさん、この橋から南、の・・あの山だったかしら?標高375m・・・あたり?の、あれが”嵐山”よ・・・多分!」
「教授、多分って・・・どうなんですか、それ!」
「オオガミ教授の故郷なんですから、しっかりしてくださいっ!」
「地元だから知らないのよ、観光客の方がよく勉強してるわ・・・・宿へは別館前の船乗り場からいくの、姉が嫁いだ先が京都旅館で本当にラッキーよね!」


2隻の遊覧船に乗り込んで桂川上流、同じ川だけれど、途中で保津川と名前がかわり、その川をさかのぼって10分ほどで到着する。

オオガミ教授の身内、そしてシーズンオフということもあって多少の我が侭を融通してもらい、本館から2分ほどさらに上にあがった1棟を、文化人類学部だけで使う。


「オオガミ教授さまさま!」と、山奥の高台に立つ、風情豊かな純和風の建築に誰もが満足し、オオガミにむかって柏手を打って拝み、高笑いするオオガミは、姉(女将)を連れ立って、広い座席に集めらた学生たちに各自の部屋割りと大雑把にスケジュールを説明。


「ま、みんな知ってるだろうし、公演会は最終日の午前中だし、今日は1日温泉三昧か、この辺ウロウロしておきなさい。明日は観光組と勝手に彷徨い組、ショッピング組にだいたいわかれるでしょ?ああ、今夜は一応の宴会予定だから、外出組は午後の6時までにはここへ帰ってくること、遅刻者は、宴会参加資格無し!以上」


その大雑把な説明のあとに、細かく丁寧に秘書である美奈子が補足する。


割り当てられた棟は、6つの部屋と1つの座敷から成り立ており、2つを女性陣が、あとの4つを男性陣にあてがわれた。
フランソワーズはその場で、美奈子、りか子、千里の4人と相部屋が決まり、2部屋ずつオオガミ研とサガミ研に分かれた男性側で、ジョーは湯田、そして参加希望したセミナーの2名と相部屋となった。

オオガミ、サガミの両教授は本館に泊まる。



各自の部屋に移動するとき、ジョーはおもむろにスポーツバッグを開けて、中から雑誌が入る大きさのナイロン地で作られたピンクとグレーのトートバッグを取り出し、フランソワーズに渡した。


「これで全部?」
「ええ、・・・せっかくたくさん用意していただいたのに、申し訳ないわね・・・博士に」
「いや、これで正解だと思うよ・・・結局大人が全て詰めてくれて、楽だったし」
「でも、大人もイジワルよ・・・!」
「・・・・・なにに使うのか教えて欲しいんだけど、あれらを」
「ジョーは使わないの?」
「使わないから、普段からもってないんだけど・・・ね」
「帰ったらあげるわ!」
「・・・・・・・・・・・遠慮します」


荷物を受け取ったフランソワーズを、千里が確認してから話しかける。


「大丈夫ですか?お部屋にいきますけど?」
「あ、・・・は、い・・・・」


千里に声をかけられ、フランソワーズは戸惑いがちに返事をすると、美奈子とりか子もフランソワーズのそばによる。


「・・・・じゃあ、フランソワーズ。・・彼女のこと、よろしく御願いします」
「ええ、島村くん」


美奈子はジョーがフランソワーズを過剰に心配する様子に、少しだけ気になりながらも笑顔で答える。
湯田に呼ばれて、割り当てられた部屋に向かおうとしたジョーをフランソワーズが呼び止めた。


「ジョー、あのね」
「あ!そうか・・・博士に電話しないと。荷物をおいたら、そっちへ行くよ」


こくん。と、頷く。


「大丈夫?」


再び、フランソワーズは首を縦に動かした。


「じゃ、後で」
「ええ」


ジョーの部屋は玄関口から一番近い部屋。
フランンソワーズの部屋は、最奥の部屋。



「アルヌールさん、私たちも行きましょうか」
「は、はい・・・」
「そんなに緊張しないでよ、食べたりしないわ!」
「・・・はい」


不安げに見つめ返してくるその姿が、なんとも言えないくらいに、可愛らしい。


「・・・・可愛い」と、思わず呟いたりか子。
「夕食までどうします?」と、千里。
「温泉じゃない?この棟用の露天風呂があるんですって」と、美奈子。


部屋へと向かうために歩き出した3人について、フランソワーズも歩く。


雑誌から抜け出したような、水沢美奈子。
スポーティで、シンプルな、稲葉りか子。
流行ものをばっちり押さえた、原千里。


そこに、自分が知らない、ジョーが接する女性たちがいた。










***



4人で使うには十分過ぎるほどに広く、部屋から眺める景色に興奮し、おしゃべりを初めた3人。部屋に用意されていたポットからお茶を入れた美奈子は、その一つをフランソワーズにすすめた。


「そんなに、緊張しなくてもいいのよ?」


美奈子の優しい声に、フランソワーズは、こくん。と小さく頷く。


「アルヌールさんっていくつ?」

りか子が美奈子からお茶を受け取り、テーブルに用意されていた茶菓子の1つを口にしながら問う。


「・・・・・・j。17、歳・・・」
「え?高校生?!」
「いいえ、・・・学校には行ってません」


美奈子、りか子、そして千里の3人は、フランソワーズの答えに顔を見合わせた。
その様子に、フランソワーズの心臓がきゅううっと痛んだ。

17歳は・・変な事?何かおかしなこと、言った?と、不安になる。
実年齢を言えば、そっちの方がおかしい。そのために、改造された年の年齢を答える事が、仲間たちの中で暗黙のルールとなっていた。



「じゃ、普段は何してるんですか?」


お茶を啜りながら、千里が質問を続けた。


「・・・ご飯を作って、お掃除をして、お洗濯をして・・・、イワンのお世話に、お買い物や、博士のお手伝いや、張大人のお店のお手伝い・・・に、お菓子を作ったりとか、色々・・・・」


フランソワーズの答えに、視線を交差させる3人。


「お家の・・・お手伝いをしているのね?」
「はい」


それを”家事手伝い”と言う事を最近知った、フランソワーズ。


「そうなんだ・・・。それでさ、島村くんと一緒に住んでいるって聞いたんだけど?」
「・・・はい」
「ね、島村くんて家でもあんな風?」


りか子の問いに、不思議そうにフランソワーズは小首をかしげる。すると、ハチミツ色の髪がさらりと肩から流れて、彼女の細く白い首にかかった。

思わず、りか子もつられて首を傾けてしまいそうになる。


「ジョー?」
「そう、島村くん。ねえ、島村くんって家でいつもどんな風に暮らしているの?」
「りか!」
「い~じゃないっ!興味あるくせに!!せっかくだから、色々聞いておこうよっ」


にひひ、と嗤いながら、りか子は話しを続けた。


「島村くんて何が好き?」
「好き?」
「そう、例えば、食べ物とか!」
「・・・・なんでも、好きで・・嫌いなのはないと、思い、ま。す・・・・」
「朝は和食、洋食派?」
「りか!アルヌールさん、リラックスできないじゃない!!アルヌールさん、色々初めての体験で、疲れてるんじゃなくて?」
「あ、だ、大丈夫、です・・・」
「なによ、こうやってお互いの交流を深めていくもんなのよ!それで?」
「・・・毎朝、食パンにたっぶりバターを塗ってから、焼いたのが・・・。あと珈琲と、オレンジジュース」
「聞いた?美奈、パン党ですって、一緒じゃん」
「りか!」


美奈子の頬がうっすら紅く染まる。


「ほら、美奈子だって聞きたい事いっぱいあるんでしょ?島村くんについて!」


ずきん。と、フランソワーズの胸が痛む。


「ね、色々美奈子に教えてあげてね!」
「りか子、もうっ!」
「いいじゃない、減るもんじゃないんだしっ」
「・・・・」
「アルヌールさん、りか子の言ったことなんて気にしないでね?」
「・・・・あの、ジョーの、何が知りたいんですか?」


美奈子の気遣いに、見たくもない自分の中のどろっとした苦い感情に触れてしまい、フランソワーズは不快な気分になる。


「美奈子、ほら!教えてくれるみたいよ?」
「そんな、・・アルヌールさん、いいのよ、気にしないで」
「りか子先輩、水沢さん・・・は、今からどうされるんですか?」


突然、話しの流れを変えるように、新しいトピックを持ち出した千里は、フランソワーズにむかってにっこりと笑う。
その笑顔になんとなく、ほっとしたフランソワーズ。


「そうね、そう!せっかくだから、温泉にいきましょう、お昼は各お部屋にお弁当を配ってくださるから、その前にすっきりするのはどう?」
「お弁当っていつですか?」
「あと、1時間くらいかな?」
「それならとっとと行きませんか?お弁当がくる前に」
「続きは裸の付き合いね!ってことで、アルヌールさんも行くでしょ?」
「あ・・・・・・」
「初めてなのよね?別に怖いところじゃないから、安心して?私たちも一緒だし」


りか子が先頭をきって、温泉へ行く準備を始めた。


「浴衣があるけど、サイズは大丈夫かな?」
「何枚あるの?」
「一応5枚・・・あ、やっぱりサイズバラバラ・・・、服でもいいけど、旅館は浴衣じゃないと!」
「電話したら持って来てくれるはずよ」


美奈子がスピードダイヤルを確認し、本館へと連絡し、電話を終えて受話器を戻したとき、部屋をノックする音。
何をどうしていいかわからずに、ふかふかの座布団の上に小さくなって座り、傍観しているしかないフランソワーズは、その音が耳に届いていなかった。





手足がかじかむように、心臓が痛い。












「え?もう届けてくれた?!」
「そんなはずないじゃない、りか子」


どこか遠い会話。
けれど、水沢美奈子の声だけが妙にはっきりとフランソワーズの耳に届く。


「は~い!誰ですかあ?」


千里が大きな声で答えるが、ドアを開けに行く様子はない。苦笑しながら、すっくと立上がった美奈子が、ドアを開けた。


「島村くん!」
「水沢さん、すみません。フランソワーズは?」


ジョーの声に、フランソワーズはぱっとドア口を見る。


「・・どうぞ、入って・・・・アルヌールさん、島村くんが・・・」


「お邪魔します」と美奈子の後ろからジョーが部屋へと入って来た。
りか子は手をあげて答え、千里は笑って会釈する。


「フラン、博士に繋がってるよ」


ジョーの手には携帯電話が握られており、フランソワーズの隣に腰を下ろすと、彼女に持たせた。
あたりまえのように、フランソワーズの隣に座るジョーを横目に、美奈子は小さな溜め息をつく。


「・・・・博士?」


ジョーの手から、携帯電話を受け取ってそっと耳に押し当てた、フランソワーズ。


『フランソワーズか?無事についたそうじゃの』


ギルモアの声に、鼻奥がじいん、じいんと痺れる。
震え出すくちびるを噛み締めて我慢する。

まだ離れてから数時間しか経っていない。
買い出しに出て戻ってくるよりも短い時間。



『どうじゃ?嵐山は?紅葉はみれたのか?旅館のお部屋は気に入ったかのう?同室の人たちはお前に親切にしてくださっているのかのう?』


優しい、優しいギルモアの声。
きゅうっと、喉が締め付けられる。


『フランソワーズ、どうしたんじゃ?聞こえておるのか?』


ギルモアの声と一緒に、今の時間ならとっくに店にいるはずの張大人とグレートの声が聞こえた。
どうやら、博士の次にどっちがフランソワーズと電話で話すかで揉めているようだった。


「・・・・・・は、か・・せ」
『む?どうしたんじゃ?元気がないぞ』
『だ~からっ!次は吾輩だっつうの!』
『なああああああに言うアルか!何か忘れ物無いか、ワタシ確認する義務アルネ!』


瞳に浮かび上がった涙が熱くて、熱くて。
ギルモアに返事を使用と口を開けるけれど、肺が上手く動かない。


『フランソワーズ、聞こえんぞ?』
「・・・・・・博士・・」


しぼり出した声が、ひきうったような高い音。


『ん?なんじゃ』
「か・・・・え、る、・・・」


ジョーは、フランソワーズの言葉に驚いた。


「フラン・・・?」



ジョーの声に、ギルモアの、グレートの、張大人の、声に、ぽろ。と、こぼれ落ちる大粒の雫。
胸をつきあげてくる、淋しさが、なんなのかフランソワーズにはわからない。


『聞こえんぞ?どうしたんじゃ?』


ギルモアが、邸にばかりいる自分のことを心配してくれているのは、知っている。
だから、がんばろうと、思った。



「・・・・・・・・も、帰る・・邸に、帰りたい・・・」


するすると、フランソワーズの頬伝って、ぽたぽたと、彼女の膝に落ちていく。


『何を言ってるのか聞き取れんのじゃ、・・・もう少し大きな声で話してくれるかの、フランソワーズ』
「・・・・帰りたいっ!」


美奈子の、ジョーの分のお茶を用意する手が止まった。
ひっく、としゃくりあげたフランソワーズの声に、りか子が驚き、千里がフランソワーズにむかって身を乗り出すようにして彼女を見た。


「帰るっ!」



なぜ、淋しいのか、わからない。
なぜ、悲しいのか、わからない。


楽しまなくちゃ!と、自分に言う。
ジョーが誘ってくれたのだから!と、自分に言う。
迷惑をかけちゃ駄目!と、自分に言い聞かせる。


水沢美奈子に、ジョーが関わる、自分の知らない世界の彼を見ても、平気だわ!と、がんばる。





がんばれると、思っていた。




「はか、せ・・・博士、博士っっ・・・・・か、帰るうぅぅ・・・・博士、アタシ、・・・か、かえ、帰りたいいぃぃ・・・」
『フランソワーズ、泣いておるのか?!どうしたんじゃっジョーっ!何があった?!』


電話の向こうでパニックになるギルモア。そして、その声に、グレートと張大人が叫び出す。


「・・・・フランソワーズ」


フランソワーズの手から、そっと携帯電話を抜き取ると、パニックになっている博士と言葉を交わす、ジョー。
携帯を持っていない方の手で、フランソワーズの髪を撫でると、さらに激しくしゃくりあげて、泣き出す彼女の後頭部を押して、自分の胸に泣く彼女を支えた。

美奈子の視線がフランソワーズの髪に絡まるジョーの手に、そして、その腕の中に収まったフランソワーズに投げられて、りか子は、そっと心配そうに美奈子を見つめ、千里は驚きながらも、眉を下げてフランソワーズを見ていた。


電話越しに、ギルモアにもフランソワーズの大泣きする声が聞こえている。


『ジョーっ!フランソワーズは泣いておるのか?いったいどうしたんじゃ!!』


ジョーのシャツにしがみついて泣く、フランソワーズ。


「・・・博士、どうやらフランは、ホームシックにかかったみたいです」
『ホームシックじゃと・・・・?』
「ジョー、帰るぅぅぅっ・・・h・・く・・・ひ・・・か,え h・・・帰るのおおぉお」
「・・・また、かけ直していいですか?」
「だめぇっ!」


電話を切ろうとしたジョーにフランソワーズは泣き崩れた顔をあげて、訴えた。


「フランが落ち着いたら、またかけ直します・・・」
『大丈夫か?!ジョー、今すぐにでもフランソワーズをつれて帰っておいで!おお、可哀相に・・・・そんなに泣いて・・・』
「博士、一時的なことですよ。無事に旅館について、博士の声を聞いたから気持ちが弛んだんでしょう、様子を見ます。またかけ直しますから、グレートと大人にもよろしく伝えて下さい」
『しかしじゃな・・』
「またすぐにかけ直します、切りますよ?」
『う、うむ・・。ジョー、フランソワーズを頼むぞ?』
「・・・はい、失礼します」


「いやあっ、切っちゃ駄目っ博士っ!」


携帯電話を持つジョーの手へと腕を伸ばすが、それよりも早く、ジョーは携帯の通話を切った。
ひどい!と、ジョーをなじり、さらに激しく泣き始めるフランソワーズ。


その様子を美奈子、りか子、そして千里はみているしかなかった。
ジョーは苦笑しつつ、3人に詫びる。


「すみません・・・、あの、予定があったら、どうぞフランにかまわず行ってください、ボクは彼女を見てますから」


3人は視線を合わせて、考える。と、再び部屋をノックする音が聞こえると、本館から仲居が浴衣を届けにきた。そして、フランソワーズの泣く声に、驚き心配するが、ジョーは「しばらくしたら落ち着くと思いますから、大丈夫です。」と、心配していくれる仲居に礼を言った。


ここでフランソワーズが泣き止むまで顔を突き合わせっているのも、どうかと言うことと、自分たちがいるとフランソワーズをよけいに刺激するのでは、と言う考えがまとまり、3人はジョーにフランソワーズをまかせて、露天風呂へとむかう。が、美奈子は、そこから離れることが辛い。


ホームシックにかかったフランソワーズを、ごく自然に慰め、腕に抱く姿が、いつも大学で接する、美奈子が知る彼ではない。


初めて見る、彼だった。

フランソワーズにたいしてだから?
ジョーとフランソワーズの関係は”家族”だけではない気がしてならない。







つき合ってるの?
彼女は島村くんの・・・特別な人なの?














***




「びっくりだわ」

3人は横に並んで肩まで露天の湯に浸かり、しばしウットリと日頃の生活のことなど忘れて温泉を楽しんでいたが、頭のすみからフランソワーズの泣く姿が離れないでいた。


「・・・りか子があんなに質問するから、怖かったのよ、きっと」
「私のせい!?・・・たかが、あれくらいで?・・・それにホームシックって何よそれ?たった二泊三日の旅行に?」
「そういうこともあるんじゃないですか?修学旅行でホームシックにかかって泣く子もいるじゃないですか」
「・・・島村くんに、お願いされたのに・・・ちゃんとアルヌールさんの面倒をみるの・・泣かせちゃったら・・・」
「あっ、は~ん!そっちかい!そうよねえ、信頼が落ちちゃったわよねえ」


にやにやとした顔でりか子は美奈子を見た。


「それにしても、かっこ良かったですよね・・・、こう、アールヌーボーさんの髪を撫でて、引き寄せた感じが、・・・ドラマを見ているみたいで。絵になるなあ、って・・・・。島村くん、いつもよりもずっと、”男”らしかったですね」
「あ、私もそれ思った」
「りか子先輩が?!」
「私だって島村くんが見栄えのいい男だってことくらい、普通にわかります!でも、なんか優男な感じで頼りないし、いつもおだやか~に、人畜無害な顔してさ、誰にもでもいい顔ばっかりで、言われたことも文句一つ言わずに働くじゃない?たかだかバイトなのに、今じゃ、美奈子と同じくらい働いてさ、”いい人”過ぎるって、ちょっと気持ち悪いのよね!」
「島村くんのファンに殺されますよ、りか子先輩。カッコいいのに、それに全く本人が気づいてない感じがいいんですから」
「千里ちゃんって島村ファンだったっけ?」
「目の保養にはしています。癒されるのは、確かですね」
「それをファンと言うの!ま、美奈子の応援をするくらいの、ってことよね!で、美奈子、どうしたの?」


見下ろす絶景に、下に流れる保津川は歴史あるせせらぎの音。
目に染み入る紅葉のグラデーションに、落ちてくる葉の揺らめきの早さが、冬の訪れがすぐそこまできていることを伝えている。


「・・・・島村くん、彼女のこと”フラン”って呼んでたわ」


耳たぶが湯にさわるほどに身を沈める。
思い出す、ジョーが当たり前のようにフランソワーズを胸に抱き寄せた風景。


「フラン?・・お菓子ですか、それ?」
「ああ、そういえば・・・、そうだったような気がする」
「私は、いつまでも”水沢さん”で、あの子は”フラン”って・・・いいなあ・・・・」


りか子と千里が顔を見合わす。


「でも、水沢さん・・・恋人っていうよりも、妹の面倒みる”お兄ちゃん”って感じがしません?」
「そうよ!美奈子っ。一緒に住んでいるのだから、ハンディがあって当然じゃない。家族してるんだったら、恋愛なんてできないわよっ!ちゃんとアタックもしてないくせに、なにいじいじしてんのよ、美奈子、モテるじゃないっ。それを島村くんに使わなくてどうするの?さっきのだって、妹をなぐさめるお兄ちゃんの図よ!よくハリウッドとかでも見るじゃない、アールヌーボーさんにあわせて、西洋式に慰めたのよ、西洋式に!」


美奈子は、部屋を出る前の2人を思い出し、泣き出しそうにくちびるを尖らせたので、りか子に千里は言葉を並べて励ました。


「・・・いつも、肝心なところで、はぐらかされてる気がするの・・。私だって今までぼーっとしてたわけじゃないわよ」
「水沢さんに迫らせて、落ちないなんて・・・島村くん、さらに人気が出そうですね」
「あんたの押しが弱いのよ、・・・よしっ!!私がきっちりこの2泊3日の間、あの子の面倒を見るわ!島村くんの手が出ないくらいにね!!だから、しっかりゲットするのよっ」
「・・・・・・ありがとう」
「Dカップが泣くわよ、使わないと!しっかり島村くんに捧げないと!」


りか子はがばっ美奈子の胸を掴んだ。


「きゃっ☆りかっ!」
「むかつくなあっ!!このでかさっ。これだったら、アールヌーボーさんに負けないって!」
「・・・りか子先輩は湯田先輩に揉んでもらわないと、ですね?」
「・・・・・・ぐ」












***



部屋に戻った3人を出迎えたのは、ジョーでもなく、フランソワーズでもない、湯田だった。


「なんで湯田さんがここに?」
「湯上がり美女、3人!!いい眺めだねっ・・・・。島村がなかなか戻ってこないから、1人で美女4人を襲っているのではないかと、心配してだな・・・」


湯田の出現にりか子は動揺する。
美奈子と千里は、りか子の背で視線を合わせて微笑みあった。


「あれ、これ・・・もしかして」


部屋に入ると、すでに弁当が置かれており、数は6個。


「オレと島村の分。ここで喰っていいか?」


美奈子が腕で隣のりか子をつつく。
そして、りか子が美奈子をつつき返しながら、弁当の1つを前に座った。


「それで湯田先輩、島村くんとアールヌーボーさんは?」
「アールヌー・・・?・・・ああ、彼女ね!気分転換させるために、この周りを散歩させて来いって’追い出した。15分前くらいかな?弁当が届いているのは、知ってるからそろそろ戻ってくるだろうけど・・・」
「湯田先輩、彼女はまだ泣いてました?」
「いや、もう大分落ち着いてたよ・・・。かなり緊張していたみたいだね。まあ、初めて会った人間といきなり、寝起きを共にして、温泉だもんな。怖がって当然だし、これも予想範囲のことだったから、何も心配いらないよ」
「予想範囲?・・・て、湯田さん、どういうことです?」
「まあ、色々とね。・・・日本語ペラペラだから、日本で育ってみたいに勘違いしやすいけどさ、日本人じゃないんだよ、彼女。バスルームなんて、向こうは超プライベートエリアだし、島村が言うには・・・」


ヨーロッパの留学経験のある湯田は、ジョーからフランソワーズについて聞いた話しを混ぜて、日本とヨーロッパの生活スタイルの違いや、その考えを3人にレクチャーする。


「本当はこの旅行も初めは断ったんだよ、島村が」
「島村くんが?」
「うん、アイツってさ、彼女のこととなるt」


と、話しを続けようとした時、ジョーとフランソワーズが部屋に戻って来た。

ジョーは3人にあらためて、詫びる。
フランソワーズは目の縁を紅くして、まだ完全にはふっきれてはいない様子だったが、落ち着きを取り戻したのは確かなようで、ジョーに言われて、泣き枯れた声で3人に謝ると、水沢がフランソワーズを庇うように言葉をかけた。
フランソワーズへと話しかけながらも、美奈子は湯田の話しの続きが気になったが、それ以上の話しは本人の前ではできない。


「あのお・・・せっかくお弁当が届いているんだから、食べませんか?」


ぐうっとお腹がなった千里が、テーブルの上の弁当のふたを開けながら言い、すでに彼女の前にある割り箸が割られている。


「そうだな!これ喰ったら、島村、オレらも温泉いこうぜ」





昼食の間、湯田が中心となって会話が弾んだ。
その会話の運び方にフランソワーズの気遣いがみえ、ジョーは感謝する。

ジョーが研究室に通い始めたころ、美奈子よりも湯田が色々とジョーの世話を焼いたことがきっかけになり、今では邸の仲間たちとは違った意味で、ジョーの中で湯田は”兄”的存在になり、いつしか仲間には言えないような超個人的な相談もするようになっていた。
湯田だけが唯一、”サイボーグ”と言う事を除いた事情を知っている。




「・・・ジョー」
「ん?」


出された弁当は六つ仕切り(お造り・前菜盛・煮物・天盛・酢物・ご飯)に、お吸い物とフルーツが付いた弁当に、箸が進む。
明日はどこへ行くかと、テーブル上は盛り上がっている中、フランソワーズはそっと囁くようにしてジョーに話しかけた。


「・・・・・博士にお電話したいの」
「話せる?」
「・・・あのままだと、博士にご心配をおかけしたままですもの、もしかしたら、こちらへ来ちゃうかも・・・」
「正解」
「え?」
「・・・・・さっきメールが届いてたの、知ってるだろ?」
「いらっしゃるの?!グレートも?大人は?」
「・・いや、来ないよ」
「・・・・・」


しゅん。と、元気がなくなるフランソワーズ。


「フラン、帰ろうか?」
「・・・・・・」
「帰りたいなら、帰ろう・・・キミがそんな状態だとみんばに迷惑がかかる」
「・・・・・・」
「1人で帰らせることなんてできないから、ボクも帰るよ」


美奈子が、箸を止めた。


「子どもじゃないもの、1人で帰れるわ」
「子どもじゃないなら、なんで泣くんだよ?」
「だって・・・」
「だってじゃない」
「おい、島村」


ジョーの強い口調に、湯田が注意をするように割り込む。が、それを無視して話しを続けた。


「帰るならボクも一緒、キミを1人にはしない」


美奈子がくちびると噛み、俯く。どういう意味?と、こころの中で叫ぶ。


「アルヌールさんを京都駅まで送って、向こうにご家族の誰かが向かえに来てもらうのだったら、新幹線の中で座っているだけだし、・・・・大丈夫なんじゃないですか?」


フランソワーズの正面に座る千里が声をかけた。


「ごめん、それも・・・。ちょっと事情があるんだ」


ジョーは困ったように、微笑む。


「・・・・お電話するわ」
「帰るって言うの?」
「・・・・」


フランソワーズは、微かに首を左右に振って否定した。
5人がそれを見ていた。


「食事が終わったらね、電話しよう」
「・・・・今じゃだめなの?」
「食事中に電話はマナーが悪いって言うの、だれ?」
「・・・」
「食事中はメールだって駄目っていうくせに・・・。全然食べてないよ?全部ちゃんと食べるまでは、電話はなし」
「・・・イジワル」
「いつもフランがボクに言う事だろ、食事中に本を読むなとか、色々、同じ事だよ」


ぷうっと頬を膨らませて、むんず、と箸を握りなおすと、フランソワーズはぱくぱくと、勢い良く食べ始めた。


「・・・お箸ちゃんと使えてるわね」


それを見て、ぼそっとりか子が呟いたので、ジョーは笑った。











***



昼食後の電話にて、フランソワーズはジョーの携帯電話からギルモア邸に電話をいれた。ギルモアに心配をかけたことを謝り、グレートに励まされて、張大人に慰められた。


「ジョー、博士がアナタと話したいって」


ジョーに携帯電話をわたし、ジョーがギルモアと言葉を交わしている間、フランソワーズは川が流れてゆく方向へと歩き出して、ジョーのそばから離れて行く。

電話をかけることと、フランソワーズをもう少し落ち着かせたいからと言い、湯田と温泉へ行く事も断って、彼女を保津川沿いまで連れて来ていた。





日が落ち始めて夕暮れの色が紅葉に混じりあう。
山の空気は冷えやすい。

川は豊かに穏やかに。
流れ行く先に瞳を細めながら、ジョーはギルモアと会話する。


冷たい風が通りぬける。
ざあああっと風が矢の木々を奏でる。

舞散る秋の葉が、旅に出る。


ギルモアが何を心配してくれているのか、ちゃんとフランソワーズにはわかっている。
こころの中で、甘えていてごめんなさい。と、謝る。











「・・・そろそろ戻ろうか」


携帯電話の通話を切り、時間を確認する。
いつの間にか、ジョーはフランソワーズのそばまで歩みよっていた、その彼に振り返って足を止めた。


「・・・あのね、ジョー」
「ん?」
「・・・・・・ごめんなさい」
「どうして謝るの?」


流れる川の先を瞳を細めて見つめる、フランソワーズの顔を覗き込む。


「びっくりしちゃったの、・・・博士が、みんながいないって思っちゃったら・・ね?・・・何をしていいか、わからなくなったの・・・・・だって、お掃除もお料理も、・・・何もかもしてくださるんですもの」
「・・・ホテルだって、そうだろ?」
「ホテルでも、・・・イワンのお世話をするし、何かと忙しいのよ?・・みんながいるし・・・」
「・・・・みんな、か・・・。ボクだけじゃ、やっぱり頼りない?」
「ジョーはいるけど、いないの・・・」
「なに、それ?・・・・・ああ、部屋が別なのは、当然だろ?ドルフィンやミッションじゃないんだし・・・これは”普通”の旅行なんだよ?」


フランソワーズの言葉の意味を理解できていない、ジョー。
そんな彼に微笑みながら、フランソワーズは旅館へ戻る道を歩き始めた。


「寒かったの・・・」
「え?」
「急にね、しんしんと冷えたの」
「え・・・そんなに寒いかな?急ごう、風邪引くといけないし、躯が冷えた?温泉に入ったらいいんだけど、・・・駄目だったときはオオガミ教授が泊まっている部屋のバスを借りれるようにお願いしてあるから・・・」


ジョーの優しさに、フランソワーズは嬉しさを噛み締める。


「ごめんなさい」
「なにが?」
「・・・・・・色々と」


ジョーの瞳にうつる人は、フランソワーズではなく003。





きれいな、奇麗な、キレイな人。
哀しい運命に翻弄された、彼女。


「いまさらだよ、フランソワーズと一緒にいたら、いろいろと、ね」





003ではなく、フランソワーズに戻って、と、願いを込めて。
本当は加速装置を使ってでも、彼女を今すぐにでも、邸へとつれて帰りたい衝動を抑えながら。



「寒いなら、こうすればいい?」



散弾が降る中を駆け抜けるよりも、心臓に悪い。
でも、今行動しなかったら、・・・絶対に後悔する・・・ような気がした。

何かに凍える彼女のこころをあたためたくて。
どんなことがあっても、何があっても、たとえ、離ればなれになっても。

いつでもキミを想ってる。



寒くなんかないよ。
ボクはずっとそばに、いるんだよ。




正面から彼女を抱きしめる勇気は、・・・緊急事態(彼女が泣くとか、戦場とか?)でないかぎり、無理。
彼女の後ろから肩に緊張で震える腕をまわした。

引き寄せて。
閉じ込める。



彼女の背後から、肩に、腕をマフラーのように絡めることが今は精一杯。







人口血液が、足先から爆発するように逆流する感覚。
どん!どん!どん!どん!と、大和太鼓が胸で鳴り響く。



















「ジョー、アタシは大丈夫よ・・・・」












*おまけ?と言うか、これがモジモジ本編では?*
~9、こころの葛藤&3のつぶやき~






---どうしよう、た、タイミングがわからない!い、いつ、この腕を・・・え、と・・・・。


---・・・そろそろ宴会の時間じゃないのかしら?暑くなってきちゃったわ!ジョーの腕、重いのだけど・・・。


---・・・なんで、彼女はいつも良い薫りがするんだろう・・・。



少しだか屈むような姿勢で、フランソワーズの左肩に無意識に頬を寄せた、ジョー。



---あら、ジョーってば、リンスをさぼってるわね?も!ちゃんとしないとあっという間にごわごわになっちゃうのよ!人口毛髪の交換って大変なのにっ....あら?あそこにいらっしゃるの・・・。


「・・・ジョー」
「!!」


不意に、ジョーの顔がよった左肩へと振り向いたフランソワーズ。
予想していなかった近さに、フランソワーズのくちびるが作り出した、音を吸い込んだ、ジョー。

その距離、3cm強。




チャンス!と、いうこころの声に、心臓がロケットのように飛んでいく。


「オオガミ教授がこちらにむかってきていらっしゃるのだけど?」
「!?」






ばっと、腕を万歳するかのように上げた。
その様子を見た、オオガミの大きな笑い声が保津川の流れにのってジョーに届く。


「邪魔してごめんなさいねえ、島村くん!!ちょうど遊覧船からあなたたちが見えたから!!そろそろ戻って、遅刻は宴会に出られないのよ!」







旅行編へ続く。

*・・・・・プロットを無視しまくったので、今後どうなるかわかりません・・・
 どうしたらいいんでしょう・・・もじもじしてない!?
 これで終わってもいい感じ?・・・続き読みたい方います?・・・・多かったら書きます(笑)
 水沢さん、いたら大変なんだもんっ!もじもじできないんだもんっ。
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