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Little by Little・6
(6)





先ほどから様子が気になる同室のピュンマへ、身支度を整えながら海は話しかけた。



「誰と会うんだっけ?」
「コズミ博士と真鍋さくらちゃんだよ」


あ、そうそう。と、今日会う予定の人を確認する、海。


「ギルモア先生の・・」
「うん、親友。で、さくらは・・」
「確か、下宿だっけ?」
「コズミ博士とさくらのお父さんがお友達なんだって」
「ふうん・・・で、ピュンマ」


ユニットバスに置いていた歯ブラシを手にとって、歯磨き粉をどこに置いたっけ?と探しながら、海はクロゼットに頭を突っ込んで荷物整理をしているピュンマへと少し声を張り上げて聞いた。


「なに?」
「なんで溜め息ばっかりついてるの?さっきから」
「え?!・・そ、そう???」


彼の慌て具合に、見つけた歯磨きと歯ブラシを持って、ユニットバスから顔を出す。


「うん」
「いや・・・そ、そんな事ないよっ?!」
「何か・・・心配事でもあるのかな?」
「いやっあ・・あるのは、あると言えばあるけれど、それはやっぱり、僕の出る幕ではないけれど、でも気になるし・・・」


もごもごと口ごもるピュンマ。
彼の持って来たスポーツバッグの中から、Tシャツを取り出すと、それに袖を通した。


「?」
「・・・・何もかも、ジョーがモテるのが悪いんだ・・・・・」


すぽん!と丸首の穴から顔を出して、深く、深く、ふかああく、溜め息をついたピュンマ。


「モテるのってそんなに悪い事かなあ?」


歯磨き粉のチューブのキャップを洗面台のシンクに置いて、にゅる。と、昨日から使い始めたばかりの、まだなんとなく馴染まない歯ブラシの毛先にのせた。


「モテるのは、別に悪くないんだけど”モテすぎる”のが悪いんだヨ!」
「・・・・そんなに、モテるの?」
「そんなにモテるんだよ・・・」
「ピュンマの方が、カッコいいよ?」
「え!!???」
「ぼくが女の子だったら絶対にピュンマに惚れる!」


ばく。と歯ブラシを加えた、海。


「へへ・・・ありがと!!」
「あれ?」
「ん?」


海の頭の中にある図式が出来上がる。


篠原はフランソワーズが好きだと公言しいて、何度か2人きりで出かけたことは海も知っている。お土産だと、フランソワーズが買って帰って来た焼きプリンがすごく気に入って、どこで買って来たのかを篠原に訊ねたことも記憶に新しい。

その彼女の本命はジョーであるらしく、彼もそうらしい。
はっきりとしない関係の2人を”カップル”のように扱っているのは、彼らの家族、と言う、仲間たち。

ギルモア邸で初めて”さくら”と言う子の名前が出たとき、微妙な空気が流れたのを、海はしっかりと感じていた。
それ以後も、”さくら”と言う名前が出るたびにその名前には似つかわしい空気を伴った。

そして今、ピュンマの”ジョーがモテるのが悪い”発言と憂鬱な溜め息が、中学からずっと全寮制の男子校で青春を過ごす、恋愛に少しばかり縁遠い海でも、気づいてしまう。


「もひかひて・・・」


口よりも、眼が海の思考をピュンマへと伝えた。


「・・・・はい、海・・大当たり~」


ピュンマから、話しても問題ないと009の承諾を得た範囲で、彼らについてのおおよその経歴と過去を知った、海。

彼らがなぜ、サイボーグになったのか。
なぜ”サイボーグ”であるのか。

なんのための戦いを強いられてきたのか。





事件に関わったことから、サイボーグたちの監視下の中で生活する海にとって、サイボーグたちの”プライベート”な部分が見え隠れする環境が、小さい頃に大好きだった”戦隊モノ”と呼ばれる子ども向けのTVヒーロー・シリーズには無かったものだ。

それは当たり前か、と思いつつ、なんともアニメや映画と現実は違うんだなあ、と言う感想を持たせる。

アニメや映画のような存在の彼らの人生は、それらのように、綺麗に起承転結でまとめられてはいなかった。
一緒に生活することで知った、普通過ぎる彼らの生活は、奇妙な感覚をもたらせることの方が、大きい。その奇妙さは、自分が彼らを”サイボーグ”と言う特殊なフィルターを通して見ているからで、どうしてもそれは、好きだったヒーローたちの生活にあてはめてしまうためであると、気づいている。

ヒーローには必ず、ヒロインがいる。

恋愛問題は老若男女、万国共通だが、サイボーグにも共通していたのかあ。と、そこはハリウッド映画の定番的な展開だけど、と考えた。

この場合、ヒーローとヒロインは必ず”結ばれる”ことが前提でシナリオが進む。
それはもう1+1=2と決まっているのと、同じに、絶対なのだ。



---そう考えると・・・

「ヒーホーってひうより、・・・ねへさんたひの、しょうしょ漫画のせかひだへ」


力ない拍手を海へと送るピュンマは、なぜかすでに疲れていた。


「篠原先輩は、フランソワーズで、フランソワーズは、さ。それでジョーは、ね。さくらはジョーなんだよねえ・・・」


小さなつぶらな瞳をまん丸く見開く、海。


「うは~・・・ふ、ふくざとぅ・・」


ユニットバスへと引っ込んで、しゃこしゃこと歯磨きに集中する。










####


イワンがふう、と溜め息をついた。
その溜め息のつき方が妙にマセた感じがすると、グレートが笑う。


<篠原さえこハイイノ?>
「午後に合流する手はずだ!なあに、今日は朝から石川んとこだしよ、ジェロニモがいんだろな?」
<・・・イナイヨ>
「なぬ?!」
<ア~、コレガ009にバレたら?ドウナルンダロウ???>


グレートは慌ててスズメバチに変身すると、篠原総合病院へと向かった。


「イワン、ミルクよ・・・」
<ウン>


ギルモアが泊まるホテルの部屋で、イワンのミルクを用意したフランソワーズがクーファンに寝かされていたイワンをそっと抱き上げると、ベッドの上に腰を下ろして抱く。


「イジワルなイワンね?少しくらいグレートがここに居ても、ジョーは怒ったりしないわ」
<009ガ『みっしょん終了』シナイカギリハネ、ソレナリニけじめハ必要ダヨ>
「ま!厳しいのね?」


んく。んく。っと、超食のミルクを勢い良く吸う。


<ボクハ001ダヨ?>


テレパスで話しかけながらも、その口はミルクを吸う事を止める事は無く、くすくすとフランソワーズが笑う。


<泣イタノ?>
「・・・・」


自分を見下ろす、きらきらの碧の宝石のふちがいつもより赤い。


<ふらんそわーずヲ泣カセルナンテ 僕ガ許サナイヨ?>
「そうなの?」
<ウント、オ仕置キシナイト!>
「?」


力強く吸い上げたミルクをごくん!と喉を鳴らして飲み込んだ、イワンの眼がいたずらに光り、イワンがミルクでお腹一杯にさせた直後に、フランソワーズは脳波通信を受信した。





「ぐわああっっまずっsっっっ?!」


ホテル・ロビーの喫茶室で、朝食を囲うのは、ギルモア、張大人、アルベルト、ジェット、ジョー、ピュンマ、津田海、篠原当麻。


「!?」
「こっちに飛ばすなっ」
「うわっ汚いっ!!」
「トリっ!」
「アイヤ~!!!!」
「これ、行儀が悪いぞ、ジェット」


リフィールしたばかりの珈琲を一口飲んだ途端、その奇妙な味に吹き出した。
ジョーが、テーブルにあったペーパーナプキンをジェットに渡す。


「ちげっ、珈琲の味が変なんだよっ!」


その言葉を受けて、同じようにリフィールされた珈琲を飲む、ジョー。


「・・・・・・おかしくない、よ?」
「かせっ!!」


ジョーの手から奪ったカップから珈琲を飲む。と、・・・同じように吹き出した。


「gだああああああああっっ!?おかしいじゃんかよっ!!」
「・・・・汚い」
「うるさいぞ、トリ。大人しく珈琲のひとつも飲めないのか?」
「これっ飲んでみやがれっ!」


ずいっと、手に持っていたジョーの分の珈琲をアルベルトに差し出す。
苦い顔をしながらも、ジェットの手からカップ取り、一口飲む。


「・・・・・・普通だが?」
「はあ?!そんなはずねえよっ!!!」


アルベルトの手から珈琲を奪い、再びそれを飲む。
さきほど味わったこの世のものとは思えない奇妙な味が、消えて、ごく普通の珈琲だった。


「あんさん・・・・イワンに何かしたアルか?」


張大人の一言に、アルベルトとジョーが納得する。
イワンのことだ。何かしら昨日の事に気づいて、その原因の一端が”ジェット”にあると気づいたのだろう。
イワンの”ママ”である、フランソワーズ。彼女が泣いたことに関して、何かしらの”お仕置き”があって当然だろうと、2人は視線だけで頷き合った。

イワンが”ママ”のための、小さなイタズラのような”お仕置きは、仲間内では誰もが経験済みであるために、昨夜のことを知らない00メンバーとギルモアでも、なんとなく気づく。


「イワンだあっ?!」
「・・・すみません」


ジョーは手をあげて通りかかったウェイトレスを呼び止めた。


「問題ないぞ?」


アルベルトは手に持っていた、まだたっぷりとあるカップをジョーの方へとむけてテーブルに置く。


「・・・・・・気分的にもう、飲みたくない」
「僕、追加でフルーツヨーグルト御願いします。で、ジョーは珈琲?」


ウェイトレスを呼び止めたジョーではなく、ピュンマが先にウェイトレスに追加注文する。


「いや・・・カフェオレ、と・・・」


テーブルの端にキープしていたメニューを取り、朝のモーニングセットに目を通す。
ウェイトレスが、ジョーの斜め後ろに立ち注文を待つ。


「・・・・・・リコッタチーズのフレンチトーストにサイドでイチゴとブルーベリーをつけて、メープルシロップも・・・。あと、グラノーラー・ヨーグルトをプレーンで」
「はい、かしこまりました」


ウェイトレスは笑顔でジョーの注文を取り、席を離れていく。


「ええ?!ジョー、まだ食べるの?!」
「っつか、そんな甘えの、てめえ喰えるのかよっ!」
「食の好みが変わったアルか???」
「まるで、フランソワーズじゃのう・・・」
「フランソワーズの、だろう、ジョー?」


アルベルトの言葉に、微かに口元で笑ったジョーは席から立上がると、テーブルから離れて喫茶室を出る。ロビーと繋がっている喫茶室。
ロビーとの区切りはプランタに品良く植えられた観賞植物のみ。
そのために、テーブルについていた全員がジョーの背を追うことができた。


ジョーはまっすぐに、フロント脇にある2つのエレベーターのうち、左側のドア前に立った。
四角いプレートの数字が小さくなっていく。

1階を現すRの文字のプレートが光ると、エレベーターのドアが開き、何人かがエレベーターを降りてくる中に、赤ん坊を腕に抱いた、光弾く亜麻色の髪の少女のような女性が姿を現した。



海は、そっとテーブルに着く全員に視線をめぐらす。

隣のピュンマは嬉しそうに笑っていた。
ジェット、アルベルトは何か含みのある笑いをつくり視線で会話し、張大人は何事もないように、テーブルの上のモーニングセットBを腹にしまう。
ギルモアはジョーの飲まなかった珈琲へと腕を伸ばして手に取って飲んだ。が、ブラックは苦かったらしく、ミルクを足す。

篠原当麻は、どこか悲し気にエレベーター前から少し離れて向かい合って会話する2人を見つめていた。
ぐるりと、それぞれの反応を見回した後、海の視線もジョーとフランソワーズへと向かう。


何を話しているのかは、距離的には聞こえない。
もしかしたら、ピュンマは聞こえているのかな?と、海は思う。

頭の中にある通信機でフランソワーズと連絡を取り、こちらへ来る前に彼女の分の朝食を注文した?と、想像し、なぜ、それがジョーであったのかを考える。


009が訊ねたのか?
いつ降りてくるのか、朝食は何にするのか?と?



003がちょうどエレベーターから降りてくるタイミングで、彼女を迎えに行った、009。
ここには、002、004、008が、009以外の003の仲間がいる。


その中でも、009が。


彼は彼女を想い、彼女は彼を、と、ピュンマからはっきりとは言葉にしなくても、それとないニュアンスで訊いている。








「・・・・完全に恋人同士じゃん」


ぽつり、口の中で呟いた海の声は、隣の席にいた当麻に届いていた。
















「キミの分、頼んでおいた、よ」
「ありがとう、ジョー」
「イワンと少し・・・話しがあるから」
「ジョーは、もう食べ終わったの?」
「食欲を減退させられたから、イワンのせいで、ね」
「え?」


エレベーターから降り、ジョーに誘導されてドア前から離れる。


「まあ、そういうことで・・・」


フランソワーズの腕に抱かれている、イワンに向かってこっちにおいで。と、彼を抱き受けようとする。


「どこへ行くの?」
「・・・・ちょっと目のふちが赤いね・・」


イワンを抱き取ったジョーは彼を縦に抱く。
ジョーの言葉に、少し俯き加減に瞳を伏せた、フランソワーズ。


「・・・ジョー・・・イワンとどこへ?」


話題を逸らそうと、質問する。


「朝の散歩・・・このあたりをぐるっと回ってくる・・・・・それだけだ、よ」


ジョーの肩にマシュマロの白い頬をぶに。と押し当てているイワンが、お腹がいっぱいになった満足感に、ジョーから香る、彼が吸う煙草の香りに、満足気にあくびをした。


「・・・イワン?眠いの?」


ジョーが少し膝を曲げるようにして、躯を揺らした。


「お腹がいっぱいなのよ、まだ夜まで長いわ」


ジョーの肩にぐりぐりと猫のように顔を左右にすりつけるイワンの仕種に、フランソワーズは微笑みながら、イワンの顔が見える位置へと移動して、彼を覗き込む。
そのために、ジョーとの距離が一気に縮まると、ジョーの鼻腔に届くフローラルの香り。
いつもと、少しばかり違う気がするのは、ここが邸ではないからかもしれない。


「イワン、すごくあったかいんだけど?」
「ミルクの後だもの・・・冷房が効いているいるから、いいのだけど・・・」
「そうだね・・・今日は昨日よりも暑くなるよ・・きっと」
「ジョー、私はやっぱり報告したように、今日はここにイワンと残るわ・・・ギルモア博士も、コズミ博士も、そう向こうには長居なされないでしょうし・・・」
「・・・・・どうする?イワン」


ジョーがイワンを見る。
フランソワーズがジョーと同じように、イワンを見る。
イワンは紅葉のような小さな手を、ジョーの躯に押して、彼の肩にもたれていた上半身を起き上がらせて、ジョー、フランソワーズと、交互に見た。


まぐ、もぐ、もぐ、と、黄色いお気に入りのおしゃぶりを揺らす。


フランソワーズはジョーにすり寄るようにして、さらに近づく。
ジョーのイワンを抱く腕が、フランソワーズと自分が、イワンの視界に入るように抱き直した。


防護服を着ていない2人がイワンの視界に映る。







自然に寄り添う彼らの距離。
009でも003でもない日常で、やっとここまで縮んだ、距離。


満足そうにイワンはリンゴ色の頬を高くする。




人の未来を覗くことは、そしてそれを弄ることは彼のルールに反している。が、彼もたまには、自分のためにその先を覗いてみたくなる。


<・・・・・>
「イワン?どうしたの?」
「・・・何、考えてる?」


フランソワーズのやわらかい手が伸びてきて、イワンの頬に触れる。


<ここニ、残ルヨ>
「2人だけは、少し不安だな・・・」



<007ヲ呼ンンダライイ。向コウハ何モ起コラナイ・・・。007ハモウ、彼女カラ離レテ問題ナイ。>
「・・・・解った。・・・イワンががそういうなら、そうしよう・・・フランソワーズは、それでいい?」
「もう・・・さっきまでグレートはホテルにいたのよ?イワン、あなたがグレートを病院へ行くように言ったのに」


柔かなくるりとした癖のあるイワンの猫っ毛を撫でながら、フランソワーズは、困ったように、眉根を下げた。


「そうなのか?」
<時ト場合ニヨリケリ。臨機応変ニ対応デキナイトネ!>


イワンをはさんで、普段では絶対にないと思われる至近距離まで近づいた、2人の視線が交差して、可愛いらしい容姿とは裏腹な、人使いの荒い天才児に苦笑しあう。


「・・・あまり長くは駄目よ?」
「散歩?・・・うん、わかってる」


イワンがわざと甘えるように、ぱたん。と、ジョーの首元に、顔を埋めるようにして上半身を再び、ジョーに預けた。
その動きを支えるようにして、ジョーの腕がイワンを抱き直す。


「・・・・・ジョー・・あの、・・」
「?」


ジョーが、イワンを抱き直した躯の揺れに、フランソワーズの手がイワンから離れて、彼女の胸元へと軽く拳をにぎるようにして戻る。


「覚えてるから・・」
「・・・え?」
「・・・・・・・友達以上には思って、ないのでしょう?・・・・それは」
「フランソワ・・ズ?」
「それは、私も・・同じなの・・・・・」
「!」


視界の端に、ジョーが注文してくれた朝食がテーブルに運ばれるのが見えた。


「行ってらっしゃい、2人とも気をつけてね」


フランソワーズは、早足にジョーから離れて喫茶室のテーブルへと向かう。
離れて行くフランソワーズを追いかけるようにして振り返ったジョーは、フランソワーズの言葉を頭の中でリピートさせた。








---同じ?
  さくら、のことを、友達以上に思っていない気持ちが、・・・同じ?
  














<篠原当麻ノコトニ決マッテルジャナイカ。他ニ誰ガイルンダイ?>


---本当に?・・・・・それは、俺のことじゃ?


<ドウシテ、ソウ自身ガナイワケ?>


---あるわけ、ないだろう・・・・・、自信なんて・・・・・。














<ソウイウ気持リガ、彼女ニモ伝染シテシマウンダヨ?>




















少し、目元が赤くなっていることに気がついたのと同時に、なんとなく緊張しているような、焦っているような、恥ずかがっているような、・・・カフェオレボールを両手に包み込んだ指先が震えているのに、海は気がついた。

テーブルに着いてすぐに、砂糖を足さずにカフェオレを飲むフランソワーズにたいして、ピュンマがさりげなく砂糖の入った容器を彼女の近くに置いたが、それに礼を言っただけで、彼女は甘くないそれが今は必要なのだと、言うように飲んだ。


「なんでジョーがフランソワーズの朝食がわかってんだよ!」


と、ジェットがからかうようにフランソワーズに言う。


「・・・・さあ、どうしてかしら?」


アルベルトが、フランソワーズの答えに驚き、優しげに瞳を細めて彼女を見つめる。
ジェットは素直に驚き、たじろいだ。
ピュンマは、フランソワーズの言葉の意味を探ろうとしたが、そのままにしてフルーツヨーグルトを口に運んだ。


フルーツの甘さに、ほんのり酸っぱく感じるプレーンヨーグルト。
恋の味とは、こんな感じかなあ?と、思いながら、フランソワーズを見るピュンマ。美味しそうにフレンチトーストを頬張るフランソワーズが、昨日とは別人のように感じた。

ピュンマと同じように、海も、目元の赤い色が彼女を昨日とは違う人のように見せていた。













####


朝食を済ませて、各自、自由となる予定であったけれども、イワンと朝の散歩に出かけていたジョーが戻る前に、007が001からのテレパスによって009からの指示を受けて再びギルモアの泊まるホテルに戻った。
フランソワーズがイワンとジョーの帰りが遅いと心配しはじめた頃、2人はギルモアの泊まる部屋に帰ってくる。


004が朝食後に、その足で月見里学院に単独で向かったと、報告を受けた009。
その場で、007と003が001とホテルに留まることを伝えると、当麻も学院へは行かないと言った。

それについて、009は何も言わない。
003は一言、言い添えた。


「最後なのに、よろしいの?」


と、彼の高校生活最後の”あやめ祭”を楽しまないでいいのかと、心配する。

海の姉たちは明日の後夜祭までは別行動となっていた。
彼女たちは1日目ですでに満足したらしく、それぞれにしたいことをするために、朝早くからホテルを出ていた。


「6回目だし・・・。少し疲れたのも正直な気持ちなんだ・・・やっぱり緊張していたんだね」


そのように答えて、自分が彼女と残る事を否定されなかったことに、安堵する。
ギルモアの部屋に集まった全員が今日のスケジュールをチェックしていた途中、ジェットが座っていたベッドから腰を浮かせて携帯電話を取り出した。数秒後に、ジョーの携帯も揺れた。


ジェットが携帯電話のメールを確認するが、ジョーはしない。


「・・・・予定より早いみたいだぜ?13時じゃなく、こっちに12時には着くってよ!」
「わかった」


ジョーは時間を確認しようと、ジェットから視線を外して室内を見る。


「10時54分アル!」


張大人が、懐中時計をポケットから出して確認した。


「あと、約1時間だね・・・ロビーで会う事になってるから、まあ・・・それまでは、自由・・・・それで」
「オレは適当にすんぜ!学院にはいるからよ、なんかあったら呼び出せや!」
「了解・・ピュンマたちは?」


ジェットと同じベッドに腰をおろす、ピュンマ、そして海を見る。


「みんなで遊ぶつもりだったんだけど?」
「・・・・・それは、遠慮してもらって良い?」
「?」
「さくらと、約束してるから」
「約束?」
「・・・・・・ああ、2人でまわる約束だから」


とっさに、その場にいた00メンバーたちはフランソワーズを見る。
彼女は、その視線に気づいていながらも、気づかないフリをする。

動揺しないわけではない。
けれども、”覚えている”から、こころは落ち着いていた。


フランソワーズではなく、彼女が座るシングルソファと対になった正面に置かれたソファに座る、当麻の方が動揺する。


”さくら”と言う女性について、彼はただ”知人の家にいる、サイボーグである彼らをサイボーグとは知らずに付き合いある女性”としてしか把握していないためだ。

海ほどに、彼は”サイボーグ”である彼らの生活に興味を示していない。
彼が興味を示すのはすべて”フランソワーズ”関する情報のみ。
彼の身のまわりで起こった”事件も、彼はほとんど把握していないのと、ほぼ同じような状況だった。


「いっつの間にだよっ!それっ」
「・・・・昨日、ちょっとね」
「だよ!だからかよっ決めていた時間よりも早く来るのはよっ!

ジョーの言葉に混乱する当麻。



昨日、ジョーは自分に宣戦布告したのではなかったのか?と、思い出そうとする。

手を繋ぎ合ったままのフランソワーズと009。


『(島村も、フランが好きだと、)そういうこと?」と、当麻はジョーに訊ねた。
帰ってきた答えは「(彼女を想っている、)そういうことだよ」と、当麻の考えを固定するものだった、はず。




なら、なぜ?
”さくら”と言う女性と2人で?









自分にむかって言った言葉はなんだったのか!と、言う疑問と、フランソワーズが彼を想う気持ちを察した、怒りに近い気持ちが混じりあった視線をジョーに投げつけた。


「non of your business」


薄く笑った口元で答えられたが、その瞳はぞくりと当麻の背を一瞬で凍らせて、静かにギルモアが、無言の気配でジョーをたしなめた後、息子たちに注意を促した。



「やんちゃなのもほどほどにしておかんと、いかんぞ、ジェット、ピュンマ、・・・そしてジョー、まだお前たちは”学院生”だと言う事を忘れちゃいかんぞ?・・・最後の最後で問題を起こされてはかなわんわい!」













####


「ジョー!!!」っと、甲高い女性の声。
その発音が、JOEであることに違和感を持った海が、その声の主の方へと視線を走らせた。


さらさらとした黒髪を肩先で切りそろえた、日本人形のような容姿の女性が、ジョーの前に嬉しそうに立つと、腕を伸ばしてハグを求めるが、ジョーは困ったような顔をして、それをさりげなく拒否する。女性は一瞬、傷ついたように切れ長い瞳を揺らせたが、すぐに元の笑顔に戻り、相変わらずね!と、拗ねたように言った後、ジョーの隣に立つジェットに、久しぶり!と、ハイ・ファイブで、ぱん!と渇いた音をホテルのロビー内に響かせて、その音の反響が消えないうちに、素早くキスと、ハグを交わす。
次に、はピュンマへと、同じようにキスとハグ。

その自然な動作が、彼女が日本で育ったのではない事を告げる。


ギルモアに対しては、敬愛をこめて、少しゆったりとした動作で、挨拶をし、それは張大人とグレートへも同じだった。
腕にイワンを抱くフランソワーズに驚きの視線だけを向けて、彼女にだけはなぜか、頭をぺこり。と、下げただけで”日本風”に挨拶をしつつ、フランソワーズの隣に立つ、篠原をさっと値踏みするかのように視線をむけ、それを誤摩化すように微笑んだ。

その彼女の後方からひょろりとした、スーツに身を包んだ初老の男がニコニコとした笑みのまま、ゆっくりと彼らに近づいてくる。


ピュンマは、コズミ博士にむかってにっこりと笑いかけ、そして、2人を紹介する。


「コズミ博士、さくら、紹介します。彼は僕たちの友人で、津田海くん、そして、こちらが、篠原当麻くん」
「こんにちは、津田海です」
「・・・・はじめまして、篠原当麻です」


細い瞳を子猫のようにっ半円を描くように細めて微笑みながら、さくらは2人に挨拶をする、人懐っこい、その表情があっと言う間に、海と当麻の初対面に対する警戒心を解かす。


「はじめまして、真鍋さくらです。ヨロシクね!」
「ギルモアくんから訊いとるよ、はじめまして。コズミじゃ・・・・おやおや、イワンくんもか!」


コズミは00メンバーたち、それぞれに言葉を交わしながら、フランソワーズに近づき、彼女が抱くイワンを覗き込んだ。


「起きとるのか?」
「はい・・・」
「フランソワーズさんや、ミツエさんから預かりもんじゃ」
「?」


ごそごそとスーツの内ポケットからグリーティングカードを出した。


「彼女は先週末に娘さんと北海道へ行って来ての、送る予定だったんじゃが、こっちの方が早いからのお」
「コズミ博士、ありがとうござます・・」
「んん。・・イワンくんや、フランソワーズさんのこれをちょっと持っていてあげてくれのお」


カードをそっとイワンの胸に奥と、小さなふくふくとした手が、しっかりとそのカードを握りしめた。


「じゃあ、グレート、ヨロシク頼むぞ」


ギルモアがグレートの二の腕をぽん。と、触れた。


「アイアイ・サー!姫と王子は騎士・グレートに御任せあれ!」
「なんじゃ?フランソワーズさんは行かんのか?」
「夏の暑さは赤ん坊にはきついでなあ」
「そりゃ、儂らも同じじゃて」
「ふむ・・。確かに」
「まだまだ、夏の暑さに負けるような、博士たちじゃありませんわ。楽しんで来てくださいね」


ジェットが、学院へ向かうことを促す。


「行ってくるアルネ!グレート、ちゃあああんっとフランソワーズとイワンを頼むアルよ!!」
「大人に言われなくても、大丈夫だ!それより、大人こそ、しっかり博士たちを頼むぞ!!」
「行ってくるね!!何かいるものがあったら、連絡して!」
「んじゃな!土産はジョーに頼めよ!」
「・・・」


エントランスのドアに向かって、歩き出す。

先頭を歩くのはジェット。
続く、ピュンマと海。そして、張大人とコズミ・ギルモア博士。さくらはジョーの腕を取り歩き出し、途中、振り返ってフランソワーズと、紹介されたばかりの当麻を見る。
腕を絡められた、それを、そっと外しながら、ジョーは、ちらりと当麻を見ると、視線がぶつかり合った。

怒りに似たような視線をそのまま受け止めた状態で、ジョーは視線をフランソワーズへと移す。




<行ってきます・・>



人である当麻が絶対にできないことで、彼女との距離を縮める。
使えるものは、なんでも使う。







---覚えていて・・・・










今日、きちんとさくらに、自分が誰を好きであるかを伝えるから。
その後に、きっと必ず・・・・。







だから、どうか、覚えておいて。
彼女には友達以上の気持ちはない。





俺のすべては、キミだけに・・・・・。








<昨日の、ケーキの件ももあるし・・・。お土産、待っていて、ね・・・フランソワーズ>
<・・・・・・>






”伝染”するなら、いっそのこと、この想いも、俺がキミを想う、この気持ちも伝染してくれればいいのに。








「我々も部屋に戻りますか!」

家族たち、と、その友人がホテルのドアを抜けて真夏の街へと消えて行った後、涼しいえあ・コンディショナーに、汗を忘れ去った皮膚が、少しばかり冷えてきたのを合図に、グレートが部屋に戻ることを提案した。


「ええ」
「まあ、なんつってもじいっとホテルにいる必要もねえしなあ・・・ランチは我々も外に出てみないか?」
「そうね・・・イワンのお昼を済ませて、近場ならいいわね?」
「・・・」




見送るフランソワーズの視線は、ただ1人に固定されていた。
当麻はジョーに向けていた腹立たしさを、正直な想いを乗せた言葉を受け入れてくれないフランソワーズに、薄くつもり始めた苛立ちに乗せてしまう、自分に気づいていなかった。
















====へと続く。


・ちょっと呟く・
さくら出ました!
当麻くん、ジョーとさくらの関係に純粋に(勘違いして?)怒ってます(笑)


海くん・・・注目!
さて、2日目に突入でが、もう7・・・なの!?

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