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雨は降り続く
一昨日も昨日も、そして今日も雨だった。
つけっぱなしのまま誰も注目しないTVはスピーカーの役割を押し付けられて、雨音を遮るためのBGMを求められていた。


細々と流れる男性のウェザー・リポート。
当分このまま雨の日が続くらしく、各家庭の洗濯の心配をしてくれていた。




雨の日の朝は落ち着いている。
気怠さと紙一重の空気はしっとりと邸内を浸していた。
ときおり、光を鈍らせる雲の厚さに朝も昼も感覚がわからなくなることがあるが、今はお腹の空き具合で朝だと確認できた。

空気の重さも香りに影響するのだろうか。
キッチンを満たす毎朝の珈琲の香りが湿っている気がした。買い置きの豆が痛まないのかと、珈琲にこだわりのある一人に尋ねた。

「これくらいで痛むほどの影響はない。管理を怠ってないからな」

どのくらい長くダイニングテーブルを占領し、今口にしているマグが何杯目なのか聞く気にもなれない。
とにかく彼の珈琲好きは見事なものだった。おかげで、インスタント珈琲が”不味い”と感じてしまう贅沢な舌になってしまった責任を取って欲しい。
自分で手軽に珈琲を飲めなくなったのだから。

「自分で美味しく淹れられるようになってみたらどうだ?」

上手く淹れられないから困っている、と言い返したかったが止めておく。練習あるのみ、と言い返されて飲ませてもらえなくなるのはさらに困るからだ。

「1杯、もらっていくよ」
「ああ」







「潜るのかい?」

雨なのに。と言う言葉はつけなくても、顔に表れていたのだろう。

「雨だろうが槍だろうが、海の中は関係ないからね♪」
「いや、さすがに”槍”は問題じゃないかな・・・」

雨の日の海はまた、晴れた日とは違った趣があって好き、だそうだ。

「目の前が海なんだから、最低でも2日に1回は潜らないと息が詰まるような感覚に落ちいるんだよ」

嬉々として地下研究所へと向かおうとする彼は競泳水着姿。耳に聞こえる雨音と気温にまったくマッチしていない。

「ちゃんと着用してるね」
「まあ、女性の”目”もあるって言われたら仕方ないよ。僕は気にしないのだけど?」
「・・・・してくれよ、さすがにその辺りは」
「あ、でも今は気にしなくて、いいよね?」
「365日24時間、気にしていて何も問題ないから」

海沿いに立つ邸であっても、完全に隔離されているわけではない。私有地から一歩でれば、国道が通っており、数は多くないが日に何度かはバスが往復する。

「見られても恥ずかしくないモノなんだけどなあ」
「自慢したいのは分かるけど、・・・・大衆にむけては必要ないと思うよ」

小さなアジア圏内の島国だと、彼の容姿は否応なく目立つ。その上に生まれたままの姿で堂々と海岸に立っていた、なんてことになれば、・・。頭が痛い。
たとえ人が寄り付かない浜だとしても、行き交う車から目撃されては”どんな煙”が立つか想像するだけでも、アルコールを一気に煽りたくなる。
今、手に持っているのは珈琲だけれど。

「着ない方が楽なんだけど・・・・開放的で」
「解放しないでくれるかな。・・・・・風呂場以外では」

ピュンマの真っ白な白い歯を輝かせながら、笑う。

「難しい世の中だよな、人が人らしい姿をさらせないなんてさ」
「文句があるなら、リンゴを食べたアダムとイブに言って欲しい」







「雨の中、ご苦労さんなこったで」
「最低、2日に1回は海に潜りたいみたいだよ」

地下研究所へと向かう海パン男の背を見送ったのは、一人だけではなかった。

「おはよう」
「ああ・・・いい香りだなあ」

顎を突き出して、鼻をひくひくと動かした。
熱さを失いつつあるマグの中の珈琲だったが、十分に魅力ある香りを振舞うことができた。

「まだ口つけてないよ、飲む?」
「んー・・・せっかくの申し出だが、今は吾輩の口は濃い目のイングリッシュ・ティーを求めておるんでな」
「何かつくるの?」

朝食は各自好き好きに。それが共同生活を始めたときに自然とできたルールの一つだ。

「喰ってないのか?」
「まあ・・珈琲があっただけラッキー・・だったかな?」
「なんだあ・・そうなのか?」
「コーンフレークが品切れ中」
「あちゃー・・お前さんはまったく・・じゃあなんだ、コーンフレーク組は朝抜きか?」

演技がかった彼の仕草に頬が上がる。

「そうなるかもね」

つるりと輝く頭を掻きながらため息をつく姿が、絵になる。と思っていても本人を目の前にしては素直に言えないことだ。

「仕方ない、吾輩が腕をふるってしんぜよう。出来たら呼んでやるよ」
「え、いいの?」
「たまにはな。姫樣(プリンセス)がいない今、王子様(プリンス)の健康管理に目を配るのも騎士(ナイト)の役目ってもんだろさ」
「誰がプリンスだよ、誰がっ」

キッチンへと向かうグレートの足が、スキップを踏む。

「本格的なブリティッシュ・ブレックファーストを王子様(プリンス)にお召し上がりいただこう~♪」







”本格的”と言う声を聞いて、どれくらい時間がかかることか不安になりつつ、リビングルームでゆっくりと珈琲を楽しんでいたときだ。

「食え。」
「?!」

頭上から降ってきた、トマト・・

「コーンフレークがもうなかっただろ。」

・・は膝上にストンと落ちた。

「雨なのに、ハウスに行ってたんだ?」

邸の西側に彼が手塩にかけて作った畑とビニールハウスがある。

「世話は毎日するものだ。サヤエンドウもある。糖度が高いから生でいけるぞ。」

ジェロニモの小さな王国。

「ありがとう・・」

膝上に落ちた赤い宝石は指先をジンっと痺れさせるくらいに冷たく、ずっしりと重かった。

「?」

ソファの後ろに立つ彼を、見上げるために大きく頭を仰け反らせる。

「グレートが朝食作ってくれてるんだ」

逆さに見るジェロニモはルームライトを背負い、眩しかった。

「そうか。それは良かった。」

逆光になってしまい、表情はよく見えないけれど。
姿勢を正して、正面を向くと観ていなかったようで観ていた番組がCMに入った。次はどっかの街の商店街をリポートするコーナーらしい。

「・・・美味しい!」

手に持っていたトマトを、口に運ぶ。
プツリと弾けた皮からなトマト独特のゼリーみたいな実が口に飛び込んでくる。

「珈琲には合わないがな」

ソファの背後にいたはずなのに、いつの間にか移動してダイニングルームのドア前にいた。

「買い出しに行かないと・・」

二口目を頬張りながら、薄いレースのカーテンが引かれたままの庭へと通じる窓を見る。
波音が雨音に負けてしまって聞こえてこない。
TVの画面がどこか知らない街を映しだした。






半分ほど勢い良く食べたトマトが途中で手を止めた隙にそれが消えた。・・・訂正。
手を止めた隙に、奪われた。

「うおっ・・・旨いっ!」
「だろ?」

半分になったトマトを追いかける視線の先にいたのは、”美味しそうな匂い”を嗅ぎつけてやってきた、スラっとした鼻の持ち主。

「もらっていいか?」
「・・・手より先にそっちを聞きたかったよ」

食べられてしまったことに対して怒るつもりはない。そういう男だと知っているからだ。

「お前のモノはオレ様のもの」
「ジャイアンかよ」

少しだけ残っていたマグの中の珈琲を飲み干した。
たしかに、トマトと珈琲は微妙な組み合わせだった。口の中に違和感のある不思議な味が広がる。

「frosted flakeが切れてただろ?腹減ってんだ、恵んでくれ」
「いいよ。僕はグレートに朝食を作ってもらってるから」
「なんだと?!」

グレートにはまだ呼ばれてはいないけれど、マグの中の珈琲がなくなったのでソファから立ち上がった。

「羨ましい?」
「朝食のために指揮権の無駄使いかっ」
「命令なんかしないよっ、彼の好意に甘えただけだ」

トマトを口一杯に頬張ったジェットが、キッチンへと足をむけた僕についてくる。
多分、彼の分もあるだろう。







雨は降り続く。
強弱をつけて降り続く。

風に晒されながらも降り続く。


空を塗り潰した重たい雲から降り続ける雨の日は、静かだ。
晴れた日と何も変らない時間が過ぎているのにも関わらず、空気が違うだけで、こんなにも静かだ。

陽の光が薄らいで、明るさが足りない邸を照らすルームライトが、静かだ。


舐めるように一文字も漏らすことなく端から端までゆっくりと新聞を読むアルベルトが手を伸ばした先に、あるはずの珈琲カップの感触を得られず、眉をしかめた。
伸ばした手に渡されたのは、熟したトマト。

「飲み過ぎだ。いい加減にしろ。」

渡されたトマトを凝視したアルベルトの隣りに座るグレートが、紅茶を奨めた。

「珈琲は躯を冷やすんだぞ?それ以上冷たくなってどうするんだ?ええ?アルベルト」

笑えないジョークだ。

「トマトも同じじゃねーの?夏野菜だから、違ったか?」

本格的なイングリッシュ・ブレックファーストのメニューは、ワンプレートで出てきた。
缶詰のベークドビーンズをジェロニモのトマトと一緒にさっと炒めたもの。目玉焼き。厚切ハムを焼いたのが2枚に、スライスされたマッシュルームが散っていた。皿からはみ出すように薄くてペラペラな塩味が効いたホットケーキ3枚。
オレンジジュースと紅茶が並び、とって付けたように、大皿に洗われたサヤエンドウがざっくりと置かれてる。
ジェットはそれにオートミールにブランシュガーを入れて足した。


「しっかしまあ・・・よく降るなあ・・・」

リビングルームから続くダイニングルームの窓をトツトツと叩く雨音が強くなっていた。

「ピュンマはどれくらい潜るつもりだろう・・荒れてくるかもしれないなら、その前には戻ってきてくれないかな・・」
「なんだ、ピュンマは潜っているのか?」

読んでいた新聞をアイロンがけしたかのようにキッチリと畳んだ。

「心配ない。海は荒れないだろう。」

それに手を伸ばしたジェロニモが答えた。

「さあって、これから何すっかなあ・・・昼寝か、ゲームか、・・・」

頬杖をついたジェットは、皿に残っていた最後のパンケーキをくるっと巻いてフォークを使わず手で口に運んだ。

「おいおい、朝食を食べながら言う事かぁ?いい若いもんが」
「ずーーーーっと雨だぜ?」
「たかだか3,4日続いただけだろうが?雨でも気にせず外に行けばいいだろうに」
「待機命令だされてんだ、仕方n」
「じゃあ命令解除」

ジェットの声に被るように言った。

「あーっ?!なんだよ今更っ!」
「いいよ、ジェット1人くらい問題なし。外に出るなら買い出したのんでいい?」

ここ最近の中で一番豪華だった朝食に満足したけれど、食後の紅茶は少しカフェインが足りない。しかし今は珈琲を願い出る雰囲気ではなかった。

「それが本音だろっ!」

口に押し込めたホットケーキをオレンジジュースで流し込んだ。

「命令解除が今日なら問題ない。確かだな。」
「そうだが、・・・ジョー、」

トマトを食べることなく、手の中で遊ばせていたアルベルトが不思議そうにこちらを窺った。

「・・・時間はいいのか?」
「え?」

時間と問われて、思わず時計を探す。
オープンキッチンのカウンターテーブルの上に置かれたデジタル時計を。

「ああ、そういや・・2の3の4の・・・24日、今日だったか?」
「ええっ今日が24日っ!?」








一昨日も昨日も、そして今日も雨だった。
つけっぱなしのまま誰も注目しないTVは相変わらず雨音を遮るためのBGMを流すことを押し付けられていた。

甲高い声で流れる新人らしい女性のウェザー・リポート。
当分このまま雨の日が続くらしいと知った朝と同じく、明日も雨だと耳で覚えてから電源を切った。

雨の日の夜は、自然とみんな早々に部屋へと下がる。
今日は旅から帰ってきたばかりの仲間を気遣かってだろうか。夕食後は土産話もそこそこに切り上げて各個人の部屋へと散っていった。




「まだ、気にしているの?」

雨音をBGMに聴く旅の話しは、明日のお楽しみ。

「・・・まさか、この僕がだよ?キミたちが帰ってくる日を忘れていたなんてさ・・」

旅から帰ってきたばかりの彼女の荷解きを手伝いながら、久しぶりに過ごす自室ではない部屋。

「そういうことも、あるわよ」

小さなスーツケースの中から取り出されたお土産は、今朝食べたトマトと同じくらいの重さ。
四角い箱を振ってみると、サクサクとした音が鳴る。
その音と手応えで、綺麗にラッピングされているにも関わらず中身がわかった。

「あったら困る」

中身を見ることなく、僕はクスクスと笑うフランソワーズへと手を伸ばし、彼女を捕まえるとぐっと抱き寄せる。

「・・・・いつもと違う匂いがする」
「向うもね、ずっと雨だったわ」
「・・・雨の匂いなのかな?」

時間の感覚を、日付の進み具合を、降り続く雨のせいで麻痺させられていたようだ。

「ねえ、お土産は気に入ってくれた?」
「あれって・・コーンフレーク、だよね?」
「3種類あってどれをあなたにしようか迷ったのよ。もしも気に入らなかったらそれぞれで話し合って交換してちょうだいね?」
「あとの2つは?」
「決まっているじゃない、ジェットとピュンマへよ」

朝を簡単にコーンフレークで済ませてしまう3人には、見た目も可愛いカラフルなコーンフレーク(1回分3パックセット÷3人)がお土産だそうだ。

「ま、ちょうど良かった、かな?・・コーンフレークが切れててさ」
「買い出しをサボったのね?」

鼻を鳴らすようにして抱きしめる彼女の雨の匂いを肺へと送る。

「ずうっと雨だったんだから、仕方ないよ。晴れたら買い出しに行こうって思っていて・・・・・ああ、そういえば明日も雨だってさ」

耳の裏、うなじから下がって、喉もと。部位によって雨の匂いが変わる。

「お洗濯したいのに・・・・」

足元の片付けていない荷物を気にする仕草が彼女らしい。
今朝のウェザー・リポートの男性も心配していたな、と思い出した。

「雨のおかげかな・・、キミが旅立ってから今日まで、あっと言う間だった。ちょっとタイムスリップしたみたいな感じ」

振り続く雨は止むことなく、流れ続けるBGM。


「ジョーも・・雨の匂いがするわ」








雨の日の朝は落ち着いている。
気怠さと紙一重の空気はしっとりと室内を浸していた。けれど、この気怠さが続く雨のせいではない。

空気の重さも香りに影響するのだろうか。

「おはよ・・先にシャワー使う?」

雨の匂いは消えて、かすかな汗と石鹸の濁りだけが残っている。
目覚めようと寝返り打った彼女が朝の挨拶もそこそこに、振り続く雨に耳を傾けて言った。

「お風呂でシャワーを浴びるのと、外で雨を浴びるの・・一緒よね、海も近いし・・泳ぐのと変らないわね?」
「・・・・今、微妙にデジャブを感じたよ」




end.
















*…旅に出ていたのはG博、1,3,6です。
雨が続くと、時間の前後や日付けが混乱することがありませんか?・・・気がついたら、あれ今日何日?みたいな。*
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