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そんなところが好き/京都・嵐山2泊3日の旅・5
突然ジョーが頭を下げた。
少し離れた場所にいた、4人に向かって。


「湯田さんっ、水沢さん、稲畑さん、原さん!!スミマセンっここからはボクら別行動しますっ!!!」
「!」


フランソワーズはただ、呆然とジョーを見る。
湯田の声がフランソワーズの耳に届く。と、ジョーがなんとも言えない緊張を解かないままに息を吐いた。
その息が、温かな晩秋の空気に染まっていく。と、同時に、さっとフランソワーズの手を取り、彼女に説明も、何もなままに、4人とは逆方向に歩き始めた。

ジョーの歩く早さと広い歩幅に、フランソワ-ズは無言のまま足場の悪い川辺を、つま先ががまんまるな、白のアンクルブ-ツで小走りに付いて行く。


渡月橋の下をくぐるとき、橋下の影に感じた肌寒さが心地良かった。


20段ほどの石段をのぼると、渡月橋脇の歩道に出る。
勢いを止める事なく、一気に石段を駆け上った。
突然表れた青年と少女の姿に、歩行者の何人かが驚いたように足を止めかけた。が、そのまま視線だけを彼らに残して通り過ぎて行く。


11月の、金曜日に、ここ、嵐山は人で溢れていた。
東京と比べれば、ゆったりとした流れだけれども観光地としては十分な込み具合である。


石段を上りきったところで、大自然に慣れていた目が、いきなり文明開化(観光地化)された街を映し出し、その差にたじろいだために、ジョーの勢いが止まった。
彼に掴まれていた手首をフランソワーズはそっと外して、遠慮がちにジョーを見上げた。


「あ・・・・え、あ、ええっと。その・・・・・」
「・・・・・・」


フランソワーズは何も言わない。
ただ、じっとジョーを見つめる。


「その、ね?・・・・・・あの,,ええっとさ・・・・そういう・・・・ことに・・なった?みたいな?」


何も言わないのではなく、言えないが、正解。


「なんて、いうか、まあ・・・そういうことだから、さ」


ジョーの傍らに立ち、まっすぐにただ彼だけを見つめる、フランソワーズ。
その視線をまともに受け止めて、彼女と視線が合う事を避けるように、通りの向こう側の歩行者を目で追う。


---何をどう・・・って、いえば、って言うって・・・???




しどろもどろに言葉にならない説明をする、ジョーを見上げていたフランソワ-ズは、彼の視線の先へと瞳を移動させた。


「!」


唐突に、車が行き交う車道を絶妙なタイミングで横断しはじめたフランソワーズ。


「h、あ、え?!えええっちょっ危ないってっっフランッッ!!」


すぐに追いかけたジョーだが、耳を塞ぎたくなる急ブレーキと、クラクションを鳴らされた。


「うわっ!ごめんなさい!」

と、一緒に両手を合わせて、秋の陽射しに反射したフロントガラスで顔が見えないドライバーに謝った。
何事かと、人々の注目を浴びながら車道を渡り終えたら、そこにフランソワーズの姿がなかった。


「フランソワーズ!?!」


左右に首を振る。
ぐるりと体を反転させてまた同じ動作。そして、意味も無く上下に首を振ってから360度にぐるりと躯を回したら、そこに魔法でも使ったように、フランソワーズが現れた。


「何してるのっ!ジョーっこっちよ!!」
「フランっそっっ・・・・」


今度は、ジョーがフランソワーズに引っ張られて行く。
彼女の白くてほっそりとした指が、ジョーの手に絡まって、人が歩く波に逆らう。

握られている手の、フランソワーズのその手の力があまりに弱くて、不安になるジョーは、彼女の手を強く握り返したのと同時、フランソワーズの足がある店前で止まる。


「ここっ!」
「・・・あ」
「ふふ♪ネットで観たお店よね!!」
「・・・・・あ、うん、ここ、だったんだ・・・・・・」


車道の方をちらりと振り返ると、ちょうど斜め先に、先ほど上った石段が見えた。

四角く整った道の角に、控えめに掲げられた紺色の旗に白で店の名前が漢字4文字で書かれている・・・ようにみえた。
風がない今日は釣られている棒にしんなりと絡みついていて読む事は困難だ。

無意識に、さすが003。と、褒めてしまう。そして、その”好きなもの”関して常に反応するアンテナに、ジョーは苦笑した。





「ね!そうよね!」


店前ではしゃぐフランソワーズの隣を、くすくすと微笑ましい眼差しで通りすぎて行った4人の女性たち。彼女たちが店に入って行ったので、フランソワーズも続いて店に入ろうとした。


「駄目だよ」


繋いでいた手でジョーがフランソワーズを引き止めた。
まさか、止められるとは思っていなかったフランソワーズは歩き出した勢いのままに、くん!っと後ろに、ジョーの方へと引っぱり戻された。

フランソワーズの肩が、ジョーの胸で受け止められる。とん。と、触れ合った部分が今朝つけられた朱痣に響いた。


「どうして!ここにはっ」


抗議するようにすぐさまジョーと向かい合う形で頬を膨らませた。


「わかってます、嵐山限定、抹茶ソフトクリームあんみつに、季節のオリジナル・アイスクリーム。他にキミが食べたいスイーツどころがそろっている店ってわかってます・・・けど、お昼食べてないよ?」


いつもの自分だ。と、ジョーはフランソワーズに注意しながら、ほっとする。


「お昼ご飯なんて食べてたら、入らないもの!」
「お菓子を昼ご飯にするなんて、駄目だよ。軽くでもちゃんとしたご飯食べたい」
「喫茶室があるわ!」
「甘いのしかないよ、ボクはちゃんとしたのがいい」
「もう、我が侭ねえ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どっちが?」


---いや、フランソワーズの言う通り、ボクか・・・な?






名残惜しそうに店を離れるフランソワーズ。
お昼を済ませたら戻ってくると約束した上に、お土産(フランソワーズ用)をジョーが買うことを”約束させられた”。

再び、メイン・ストリートとされている大通り、渡月橋まで戻ったジョーとフランソワーズ。けれど、どこで昼食をとれば良いのか、決めてはいない。


人の流れに乗って散策しつつ、通りに建つ多くの土産物屋に興味を示すフランソワーズは、ときおり足を止めて店の中へとジョーを誘った。歩きながら携帯電話で”嵯峨野・嵐山/美味しいものグルメ・ナビ”を見つつ、ジョーは旅行前にネットで観た店たちを思い出した。


観たページのレイアウトから、店の名前、住所、電話番号まですべて詳細に思い出せる。


こういうときだけ、サイボーグで、”補助脳”なんて物が頭に詰まっていてなんて便利なんだろう。と、都合の良いように考えてみたりする。

持っている機能を使用したらいけない、なんて規則(ルール)はない。
戦うための兵器として開発されたけれど、戦う必要がなくなった場合は、持っている能力をそれなりに戦いのない世界環境に順応させるのが正しい生き方だ。と、言い訳(?)していたのは、ジェットだったか、グレートだったか、仲間の誰だったか思い出せないジョーだけれど、絶対に2人の内のどっちかだろうと、決めつけた。


「フラン、お昼に何が食べたい?」
「嵐山限定抹茶ソフトクリームあんみつに、あずきの白玉パフェ、栗づくしア・ラ・モー・・」
「・・・わかりました。ボクが決めます」


フランソワーズが行きたがっている店からあまり離れない方がいいと思ったとき、ちょうど点滅信号機が目にはいったので大通りの反対側へと渡ることにした。

通りの反対側で、いくつか食事ができそうな店の看板も目にしていたこともある。
混んでさえなければ、その内のどれかでもいいな。と、ジョーは手に持っていた携帯電話をジーンズのポケットにしまった。

手から携帯電話が消えた。が、いつの間にか離れてしまったフランソワーズの手をとるのに、どうもきっかけがないと難しいな、と。何もない持たない手を淋しく感じる。


「決めたの?」


信号待ちの間に、フランソワーズはコートのポケットに手をいれようとしたのがみえた。


「だいたいね。フランが行きたがった店の近くがいいと思ってさ・・・向こう側に渡って、ちょっと戻ろう」


彼女の手がポケットに滑り込む前に、その手をジョーは握った。


「・・・・」


フランソワーズのコートのポケットにしまわれたままの、たった1枚の紙切れ(名刺)が、まだある。
それに触れて欲しくない。と言う、意識が勝手にジョーの躯を動かした。のと、先ほどから、彼女の手を握ってないない手が淋しく痛かった。


「渡るよ、ほら」


車道には、残念な事に白線はシマシマに描かれていなかった。
白い部分だけを踏んで渡ることができなかったけれど、ジョーが手を繋いでくれた。と、その嬉しさが自然とフランソワーズの頬の位置を高くする。


「嵯峨野亭って言うところのランチのお弁当が美味しいって、ネットで見たの思い出して・・。ちらっとこっち側の道の角にそれらしい店が見えたんだ、確かめてみないとわからないんだけど、そこがいいかなって・・・どう?」


信号機が点滅し青から赤に変わる前に、ジョーは言った。
一緒に大通りを渡った人たちが、左右に別れて行く。彼らは、フランソワーズの左手側、再び、渡月橋にむかって歩き出す。


「日本のお弁当って楽しいから好きよ♪」
「楽しいの?」
「ええ!楽しいのっ。だって、綺麗な箱にたくさん色々入っているし、一つ一つがとっても可愛らしく細工されていて、まるで宝石箱みたいなんですもの!!」


ぴょん。と、フランソワーズがスキップすると、離れそうになった手にジョーは慌てた。


くすくすと笑いながら、フランソワーズが羽のようにふわふわと重力を感じていないかのように歩く。


「あのね、お弁当の中身がわかっていててもね、ふたをあける時、どきどきするのよ?」


すれ違う人はみな2人を観て自然と微笑む。
可愛らしい国外からのお客様。に、お供をする青年に。


「プレゼントの箱をあけるみたいな感じ?」
「ええ!それに美味しいわ!熱くもないし♪」


嵯峨野亭につくまでに、見つけた数件のお土産屋さんを覗き込みながら、目的の店に辿り着く。
ちょうど昼食時と言う事もあり、少しばかり待たされたけれど、ジョーは嵯峨野弁当、フランソワーズは渡月弁当を頼むことができ、運良く裏通りの窓側の席から、のどかな京の小径を眺めながらの昼食となった。

メニューに載っていた写真と説明から、お弁当の中身はわかっていたけれど、フランソワーズが言った通りにテーブルに置かれたお弁当をみて、胸の奥にちょっと”ウキウキ”した自分を確認したジョー。


お弁当を前に、2人は自然と瞳を合わせる。
笑いあって、お互いに口にだして、「いち。に。のさん!」で、ふたをあけた。


「素敵っ!!」
「美味しそうっ!!」


本当にささいな、小さなことを、特別にしてくれる。


「「いただきますっ♪」」


埋もれてしまった、忘れていた、気持ちを救い上げてくれるのは、いつもフランソワーズ。


「すごく美味しいよ、これ」
「ねえ、ジョー・・・この黄身色っぽいのなあに?」
「湯葉じゃないかなあ?」
「湯葉?」
「・・・多分」
「食べてみたらわかる?」
「もらうよ?」
「どうぞ♪」
「フラン、これは食べたことある?」
「なあに、それ?」


お互いのお弁当の中身をくらべて、お互いのお弁当にお互いの箸が往復した。











####

楽しく昼食をすませ、土産物屋を1つのぞいてから目的のスイーツの店へ。

どの土産物屋でも、とても嬉しそうに品々を手に取るが、購入する気配のないフランソワーズに少し不思議に思いつつ、別におかしな様子もないために、そのまま店に向かった。


漢字4文字の固いイメージだった店名とはかけ離れた、和洋折衷のシンプルな店だった。
店内は売店と、喫茶室と別れており、2人が席に案内されたとき、店奥から和菓子職人らしき壮年の男性がおおきな木の箱を抱えて店から出て行った。

念願の嵐山(使用している抹茶が特別らしい)限定・抹茶ソフトクリームあんみつを頬張り、ジョーはその店オリジナルのお茶セットを美味しくいただいた。

・・・上に、栗と柚子のアイスクリーム、一口の季節・ミニ和菓子6種類とみたらし団子(ジョーと半分にするつもりだったけれどほとんどフランソワーズが完食することになる)を追加オーダーし、お土産用に箱菓子や日持ちする和菓子を選び、郵送してもらうことにした。

さらに、「昼食前の約束をまもってね!」と、会計前に、ショー・ケースから食べるのがもったいないくらいの和菓子職人の腕が魅せる綺麗な和菓子をいくつか選び、そして。店を訪れなければ買う事ができない”チョコレート・あられ”6袋入り。を、ジョーに買ってもらった、フランソワーズ。

まだ食べるの?と、言う驚きの顔を必死で押さえるために、ひきつる笑顔。



---あられに、チョコレートコーティング・・・。この間のポテトチップスに、チョコレート・コーティングとどっちが・・・。そういえば、柿の種にチョコレートもあったっけ?









「おおきにぃ~ありがとうございましたぁ」


黒い紙袋に金文字で小さく店の名前がプリントされた紙袋を手に、フランソワーズは店を出てぐーんっと伸びをした。

目の前に車道が通り、多くの人が車、バスが行き交う店前。
けれど、店内は長細く奥まった作りから、これらの雑踏は店内で一切聞くことがなかったために、時間の感覚や、自分たちが今、京都・嵐山に来ていることを忘れさせられていたことを感じる。


一歩店を出て、突然動き出した時間。
視界にとらえた川と、渡月橋に、ここが暮らし慣れた街ではない妙なリアルさに、ほうっと溜め息をついた。


「さて、と?」


フランソワーズの傍らに立ち、まるでそうすることが当たり前のように、紙袋を持っていない方の手を、繋いだジョー。


「嵐山と言えば竹林散策!・・・なんでしょう?」


けれど、照れは確実にあるらしく、フランソワーズの方は見ずに、遠くを眺めるように歩き出した。


「歩いて行く?それとも話していたように、人力車?」
「加速装置?」
「ええ?!」
「ふふ、冗談よ、そんなに驚かないで」
「・・・・・・う・・ん、でも、”アリ”なのは、確かだね」
「せっかくのお菓子が燃えちゃうわ」
「景観をみるくらいなら、問題ないよね・・・あと、目的地までの時間短縮ができる、か・・」
「・・・時間短縮なら、ジョーよりアタシの方が優秀よ、”視える”もの全部」
「・・・・・でも、フランは”そこ”にいるわけじゃない・・・し、ボクは視えないから、置いてけぼりなわけ?」
「そうね、アタシだけになっちゃうわね」
「そんなの・・”旅”じゃないよ」
「・・・でも、視えるんですもの」
「視えても、美味しくないだろう?お店に入らないと、食べられなかったよ?」




今朝から数えて、5度目の渡月橋前。

流れゆく人たちは、誰も2人の会話を気にもとめず、街も、車も、川も、山も、紅葉に、空も、・・・2人がサイボーグであることなど、知らない、気にもしない。

気にしているのは、自分たちだけ。



「フランソワーズ」
「なあに?」
「・・・・・歩こうか」


さきほど昼食をとった店のある方向に並ぶ人力車。
何人かの俥夫が呼び込みをしている姿を何度も目にしている。


「人力車なら、それらしいところを歩いていればすぐに捕まえられるしね、歩こうよ、そんなに遠いわけじゃないし」
「迷子にならないでね?」


なるわけがないと、わかっている。 


「なったら、なったで、いいんじゃないかな?」
「どうして?」
「・・・・道に迷うって悪い事ばかりじゃないよ、きっと。面白いよ」
「迷子になることが面白い?」
「うん。面白いかもしれない。ちょっとゲームみたいでさ。・・・自分の足で、歩いて、観て、・・・。そして、さ、たくさん話そう。邸で待っていてくれるみんなに、いっぱい今日のことを話そうよ。もしも迷子になったとしても全部、ね?大冒険だったんだってさ」
「・・・」
「写真も、いらないね。ボクたちが話せばいいだけだしさ。ちゃんと”体験”したことを、ここで感じた事と一緒に残った風景を、郵送してもらったお菓子とお茶と一緒にさ、美味しいお茶、いれてくれる?」


”ここで”の、部分で、ジョーは自分の心臓部分をさした。じん。と、近くにつけられた朱痣が熱くなる。












つん。と、フランソワーズの胸奥が痺れた。
















「いっぱい歩いたら、疲れちゃうわ」


少し拗ねたような言い方になった。


「そのための温泉だよ」


ジョーはそんなフランソワーズの言い方に微笑する。


「お腹もまた空くのよ?」


顔を俯かせて、視線だけをジョーにむけて上目使いに彼の様子を観る。


「・・・・・好きなだけ、食べたら良いよ。駄目って言わないから」


ちょっと呆れたように眉が下がったけれど、にっこりと笑う。


「ジョー」


ほんの、1、2時間前にのぞいた土産屋の前を通り過ぎた。



「なに?フランソワーズ」


バス停の近く、見落としてしまいそうな細い脇道に、竹林参道、野宮神社へは→。と、書かれた標識を見つけた。
2台の人力車が、からからとおおきな車輪の音を鳴らしながら、ジョーとフランソワーズの前を通り過ぎた。


「アタシは迷子になりたくないわ」
「・・・フラン?」



4本の指を揃えて、重なり合っていた手のひらが少しずれた。


「だから、迷子にならないように手を繋いでいてね・・・・」


5本の指の間に、そこが、彼女の指が納まる形に作られていた。と、言いたいくらいに、ぴったりとはまる。


「視えないから、聞こえないから・・・手を離さないでね?」
「・・・うん」


---1人で平気。なんて、・・本当はなりたくないの・・・よ・・・・・









####

昼食中に、この後どうするかを4人は話しあった。

それぞれに行きたい場所があるなら、バラけるか?と、湯田が言った。が。夕食にあの2人を誘うなら、どこか先に店を決めて予約でもした方がいいのではないか?と、言う。


「それなら、やっぱりこの辺になるってことよね?」

抹茶ケーキをつつきながら、りか子が言った。
見晴らしの良いおおきな窓からの眺める京都の晩秋は美しい。

「勝手に決めていいのかしら、・・・先に、島村くんに訊ねた方が?」
「ここを出たら、電話するよ大方決めていた方が、誘いやすいと思うよ」


美奈子の疑問に、湯田が答えた。


「私、嵐山はだいたいまわってるんですよ、できたらどっか他に出ません?せっかくの京都だから、ここだけで終わってしまうのも、なんだと思いますよ?島村くんたちだって夕食だけでもここから離れるのってアリんじゃないですか?そっちの方が乗ってきそうな感じ」
「アリだな、原のアイデアは。候補の店しだいだろうけど」
「昨日たっぷり京都のお膳はいただいたし、今晩も?」

りか子が少し不満そうに言った。
美奈子は、白玉あんみつを食べながら、笑う。


「別に美味しかったらどこでもいいんじゃない?」
「お昼、島村くんたち、何食べたんでしょうね?」


抹茶パフェをほとんど食べ終わった千里が、硝子の器の底をすくった。


「やっぱ、それらしいのじゃないかあ?・・・ってことは、だ。別に”京都っぽい”料理じゃなくてもいいんだと思うぞ?」


食べ終わった、’そばがき’が気に入ったのか、追加オーダーしたのを待っている湯田。


「店さえ決まっていれば、現地集合もありですもんね」


ちらり。と、湯田の隣の席に座るりか子に視線をおくった千里。
その視線に、りか子は気づかないふりをして、最後のおおきなケーキの固まりを頬張った。

「お、きた」

追加オーダーした、そばがきをウェイトレスがテーブルに置く。
美奈子はサービスの緑茶を頼んだ。


「じゃ、どこでもいいから店決めて、予約入れる前に、島村に連絡でいいかな?」


話しがまとまった。














####

異世界へ紛れこんだと言うよりも、時代をタイムスリップした。が、正しい。





土と竹の香り。

のんびりとした冬の訪れを感じさせる冷たさに、凛とした風が、ささやかに竹林を揺らす。
小径の両側を竹林の壁に沿って、ゆっくり、ゆっくりと、歩いて行く。


芝の垣根の向こうは終わりのない、青緑の世界。


ジョーとフランソワーズが、小径に入ったとき、再び1台の人力車がかけていったのみ。
小径に取り残されたように、2人だけ。




竹林の影におおわれて、すとん。と、気温が下がる。
午後の陽の光がときおり竹の合間を塗って、こぼれおちて、土に触れる。


言葉なく、耳を傾けて。
静寂の中で竹林浴を楽しんだ。





竹林の小径の途中、嵯峨野めぐりの起点「野宮神社」。
近くなると、聞こえて来た会話と、人々の姿に”現代”へと戻る。


大きく膨らんだ路の端っこに並んだ人力車。
ジョーの言った通りに、乗ろうと思えばいつでも乗れると、フランソワーズは微笑んだ。


「ここが、神社?」
「ん、有名なね。あの、ひ・・」


光源氏。と、言葉にしようとして、止めた。
彼女は”あの”光”とこの”光”を区別できていない様子であったため。

自分でも名前くらいしかしらない”昔のアイドル”を、なぜ知っているんだ?と言う疑問は、邸に帰ってから訊く事に決めた。


「どうかした?」
「いや、別に。行ってみる?」


そして、ここが有名な”縁結び”の神社であることも黙っておいた。一応、学問も含まれているが、”縁結び”の野宮神社の方が強い。


「あら、車でもこられるのね!」


黒木鳥居の前の、拳ほどの段差しかない石段を上りながら、フランソワーズが振り返った。
そこに、1台のタクシーが止まる。


「ほんとだ。・・・へえ、いいんだね」


そして、タクシーの中から、晴れ着姿の小さな女の子が、母親に手をひかれて出て来た。


「可愛い!!」
「・・・・・あれって、七五三かな?」


七五三の行事をこなした記憶はジョーにはない。ただ、その年齢に神社仏閣にお参りする文化があると、知っている程度。お正月に除夜の鐘を108つ聴く、御参りするのと同じ感覚でしか知らない。


「七五三?」
「問題なく大きくなりますように、って御願いするんだよ、3、5、7歳の時に」
「なぜ、7からなの?」
「・・・どうしてだろう?あ。千歳飴は」


ふと。施設で7歳のときに千歳飴をもらったことを思い出した。


「ちとせあめ?」
「元気に長く生きられますように、って言う飴をもらった、うん。7歳のときに」
「・・とおおっても長く生きられのは、叶ったのね?」
「・・・・・だね」
「若いままだし」
「・・・・うん」
「人100000???倍、怪我には強いし」
「飴を食べたせいじゃないと思うけど・・・」


---飴を食べたらみんな、サイボーグなんて、変だしさ・・。


そんな会話で足を止めていた2人の横を、晴れ着姿の、うっすらお化粧をしてもらった女の子と、手をひく母親、その両親らしき初老のとろけそうな笑みを浮かべた夫婦が通り、ジョーとフランソワーズよりも一足先に黒木鳥居の中へと吸い込まれて行った。

鳥居は小柴垣に左右を囲まれて、その先がどうなっているのかフランソワーズはわからない。





今日は。
・・・・今は、視えない、聴こえないから。















「アタシたちも行きましょう!」


今日は特別な日。と、幼いながらにわかっているのか、着物姿が嬉しいのか、輝くような笑顔の女の子が可愛らしく、少し羨ましかった。


「あ、うん」


黒木鳥居をくぐり、フランソワーズは思う。


---今日はアタシにとっても特別な日なのよ・・・。




ジョーが予想していた通り、フランソワーズは”縁結び”の”縁”を、”良き人々との出会いにご縁があること”と、大きく捕らえて、それらの”縁”に恋人、生涯の伴侶探しが含まれていたりすることまで考えつかないようだった。




境内に入り、手水舎で手を清める。どうして?とフランソワーズに訊かれて、みんなしてるから。と、しか答えられなかったジョー。

人が向かう方向にしたがって、本殿へ進む。
本殿の端っこに小さく二拝拍手一拝と書かれていたのに気づいたので、それに倣う。
フランソワーズもジョーを観て、真似た。


「何をお願いしたの?」
「内緒」


離れた手がごく当たり前にもどり、繋がる。


「けち!」
「じゃ、フランは?」
「アタシ?ん~・・・ジョーには教えないの!」
「え?なんで、ボクには?じゃ、他の誰かには教えるの?」
「ん~~・・・、そうかもしれないわ!」
「ええっ・・なんで?」
「なんでも!・・・・でも、お願いが叶ったら?叶うかもしれないときがきたら?かしら・・その時に教えてあげるわね」
「それなら、フランソワーズの願いが叶いますように、ってお願いもしておくんだったよ」
「3つ御願いしたの」
「3つ?」
「その内の1つなら、教えてあげるわ」
「なに?」


ジョーは立ち止まってフランソワーズをのぞきこむようにみた。


「・・・ずっと、みんな(仲間)と一緒にいられますように、この縁が切れませんように」


視線を前に戻して、ゆっくりと歩き出す。


「・・・・・神様なんかにお願いしなくても、切れないよ。フランソワーズが泣いて嫌がっても、ずっとみんなフラソワーズと一緒にいるよ、ボクたちの”縁”がそんなに柔に出来てると思ってるの?」
「・・・」


フランソワーズは、観光客らしきグループの方へと視線を送ると、そのグループに紛れた家族に視線が止まった。
赤ん坊を抱いた母親に、父親に手を引かれた、蝶ネクタイをつけた男の子。さきほど目にした”七五三”の女の子と同じ理由でここにいるのだろう、家族。


「心配しなくていいよ」


きゅ。と、繋いだ手に力をいれたジョー。
フランソワーズの視線の先にいる家族に、ジョーは気づく。


兄と妹。

なんとなく、ジョーは3つの内の2つ目のフランソワーズの願いがわかったような気がした。





フランソワーズの願い。

ジャンに、ジャンの家族に、自分がサイボーグであることによる災いがふりかかることなく、婚約者のエヴァと、娘のフランシーヌの3人、幸せに深く縁ある家庭を、と。





二度と会わないと誓った理由。

ジャンとフランソワーズはもう、2人きりの家族ではなくなっていた。
新しい家族を”もしも”の危険を遠ざけるために、フランソワーズはエヴァに自分がサイボーグであることを告白しないと決めた日に、ジャンと(その家族に)一生会わないと誓い、それからずっとフランスへ帰ることなく日本で暮らしている。





別々の人生を歩み出した。と、言い。
ジャンはもう”アタシのジャン”じゃない。と、言い。




もう、いない。と、”いない人”と決めた。






---最後の一つは・・・?



力を入れて握られた手に、フランソワーズは笑った。


「壊れちゃうわ!私の手がっ!!」
「え?!」


慌てて手の力を抜いて、ごめん!と謝りつつ、ジョーは自分の願いを反芻した。


---家族(仲間)の幸せと、フランソワーズの幸せを、・・できれば、彼女の幸せをボクの手で・・・がんばります。だから、






フランソワーズは弛んだジョーの手を、逆にきゅうっと握りしめた。


---ジョーと・・・ずうっと一緒にいたいです。だから、・・・・お願いしてもいいですか?












この縁をもっと強く、永遠のものにしてください。
誰も切る事のできない強さと、終わりのないものにしてください。




フランソワーズが、好きです。
ジョーが、好きです。








この気持ちを伝えても、大丈夫ですか?


彼女が、彼が、受け入れてくれなかったらと考えると、怖いです。
今の関係が壊れてしまうかもしれないと、考えると、怖いです。
この縁が切れてしまうかもしれないから、怖いです。







フランソワーズとの縁をもっと、もっと強いものにしてください。
ジョーとの縁を切れないものに、永遠に繋がったものにしてください。

















長い月日、参拝客になでられ続けて、つるっつるになった「お亀石」にフランソワーズは笑いながら触れた。心地良い石の感触が気に入った様子だったけれど、ジョーはその磨かれた様に苦笑していた。

足をすすめて移動し、絵馬を興味深く観察。
日付を観て驚き、内容が”恋愛”が多い事に首をひねったので、ジョーはフランソワーズを引っ張るようにその場を離れた。境内はあまり広くなく、素朴な風情で、清々しい空気に包まれていた。

手に入れたパンフレットを手に、奥へ奥へと入ってすすむ。




じゅうたん苔と呼ばれる、一面の緑の苔の庭園に2人は時間を忘れて見入り、同じ境内に白福稲荷大明神、大山弁財天があるのを知った、フランソワーズは首を傾げる。


「日本の神様っていっぱいね?」
「・・・まあ元々仏教はキリスト教と同じように布教された宗教で、神道が正式な日本のなんだけど、なんていうか、ちょっと信仰の発想がギリシア神話的な感じだと、思います・・・って、あのさ」
「?」
「日本人だけど、そんなになんでもかんでも知ってるわけじゃないからね?」
「でも、だいたいは答えてくれてるわ」


おみくじをひいてみる?と、訊ねると、元旦の初詣まで待つわ!と返事が帰ってきた。
お守りは?と訊くと、神様(お守り)を持ち歩いて無くしたり、壊したりしたら、アタシずっと後悔するわ!と、答えた。
ジョーは、お守りなんてそんなものだよ。と、言い、クリスチャンがクロスを持っているのと、同じようなものだよ?と、説明する。興味深げにお守りが並んだケースを見ていたけれど、フランソワーズはそれを購入しなかった。


再び黒木鳥居をくぐって、竹の香りと色に包まれる。


「あ!」
「どうしたの?」


道案内の標識を観て、ジョーはしまった!と、声を出した。


「世界遺産の”天龍寺”飛ばした」
「飛ばした?」
「道順的に、・・・天龍寺で、野宮神社だったんだよ、確か・・・。天龍寺にいくと、一旦もどることになるのかなあ?」
「野宮神社の次はどこなの?」
「ええっと、この矢印だと、大河内山荘だね」
「世界遺産を飛ばすなんて・・・」
「いや、途中までは覚えていたんだ、ああ。ここだって、ほら、大通りを歩いていたら、開けた場所があったよね?」
「ええ、あったわ。おおきなお寺へ通じているみたいで、たくさん人がそっちへ行ってたわよね?ちゃんと”天龍寺”って掘られていた石を観たわ」
「・・て、フランソワ-ズ、気づいてたらちゃんと教えてよ」
「あら、私はフランス人だもの!」
「理由になってない、なってない・・・」
「でも、そこが散策の始まりだなんて、知らなかったもの!」
「・・う~ん、どうする?」
「世界遺産、と大河内山荘?ねえ、大河内山荘はなあに?」
「有名な日本の映画スターの山荘」
「・・・・・・・・・・世界遺産じゃなくて?」
「とってもいいらしいよ?それに、その先に、ええっと・・・」

ジョーの補助脳が動く、と、それを止めるかのように、道しるべの標識の前に立つ2人にむかって1人の俥夫が声をかけてきた。


「よかったら、この地図どうぞ。それと、お急ぎになった方がよろしいですよ。ここは盆地やから、日が暮れるのも早いですし、拝観されはるんでも、だいたい今の時期どこも5時までですからねぇ」


その声に、ジョーはジーンズのポケットから携帯を出して時間を確認する。
2時56分を表示していた。


「よろしかったら、こういうのどうですか?」


差し出した地図の上を。俥夫が人差し指でなぞった。


「乗ってくれはったら、拝観なさりたいお好きなところで降ろしてさし上げますし、私の勝手なおすすめですが、このまま竹林の道をすすんで、落柿舎をまわって、二尊院、少し道を戻りまして、常寂光寺と続きます。お話なさっていた大河内山荘、ここの山荘は拝観料に、御抹茶、お菓子が付きますから、ここでゆっくりなさるか、この前の常寂光寺で。ここは紅葉もまだまだ見頃で素晴らしいですよ。ですが、長い石段を上るので時間を考えますと、やっぱりおすすめは、大河内山荘ですね。こちらまで御連れいたしますから、あとは、お時間をみはって、天龍寺に行かれるもよし、亀岡公園で夕暮れの嵐山を見はっては?眺めがよく、トロッコ列車が通るのを見られますよ。ライトアップされた列車で亀岡まで行かれはってもいいですねえ。往復券を買われて同じ列車でこちらへ戻ってもこられますし。・・・今からですと、どこも拝観なさらないのでしたら大河内山荘まで40分以内には着きますよ」


完璧だった。


「オルゴールとかお好きですか?たしか今週末は、イベントで夜の8時まで開館してはりますよ」


紺色の短いエプロンのような前かけについているポケットから、嵐山・オルゴール館と描かれたカードを出してフランソワーズに渡した。親切にそんな情報までくれる。


ジョーとフランソワーズは視線で会話し、微笑みあった。
自分たちの足でも、十分にそれらをこなすことができるだろう、ちょっと一目をさけて”ズル”をすれば、飛ばされた祇王寺、滝口寺、化野念仏寺、もまわれるだろう。けれど・・・、


「それじゃあ、そのおすすめをお願いします。でも、まだどこでかは、決めかねてますので、一応・・・」
「はい、御決めになられましたら言って下さい、それで結構です。一応はご説明させていただいた、大河内山荘まで。と、させていただきますが、よろしいですか?」


俥夫は、さっとコースの値段などを説明する。


「いいよね?フラン」


ジョーの声に、にっこりと微笑み、そして大きく頷いたとき、ジョーの携帯電話が震動した。












旅行編へ続きます・・・。

*も!はりきって続いちゃお!・・・・・・すみません(涙)
 『そんなところが好き』も分けます。多分、上手くいって2つ・・・伸びたら(汗)
 ・・・さっくり、すっきり進もう!を呪文のように唱えながら書きます。

 ちなみに、天龍寺・・・毎回、飛ばしてしまうんですよ・・。
 今回こそは行くぞ!と言いつつ・・・気がつけば行ってないが、毎回のパターンで(汗)
 なぜ忘れるのか謎。
 友人が生まれも育ちも”嵐山”で、遊びに行く機会は山とあったのに・・・・。
 一度も行けないままでした(笑)
 ちなみに友人は、嵐山観光自体したことないし、トロッコ列車も川下りもしたことないそうです。 
 猿山もやねん!ってきいたときには、驚いたです。そんなもんですかねえ・・・。
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