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Day by Day・9
(9)

さくらの部屋に、もうすぐ着る予定のラベンダー色のドレスがかかっている。
実は、それはあまり・・・さくらが好きではないタイプの甘い雰囲気のドレスだった。

親の仕事上、海外での生活が彼女の年令の2/3以上をしてめている。そのためなのか、容姿にたいして掛けられる言葉は、アジア人のアジア人らしいシャープなイメージをもたれていた。さくら自身も、女の子が女の子らしい、カラフルな色のふわふわとした、甘い洋菓子のようなモノは好まなかったので、周りが持ってくれるイメージが心地よかった。

「きみらしいね」

そのラベンダー色が、さくらに良く似合っていたことはさくら自身、鏡の前に立つ自分で確認済みである。けれども、タイトに躯にぴったりと沿うよう作られていながら、裾や胸元、腕周りのデザインが、どうもゴテゴテと飾り付けられた印象で、さくらは嫌いなピアノの発表会に無理矢理に着せられた、ピンクの綿飴のような、生地をむやみに遣い、膨らませるだけスカートを膨らまし、過度に装飾を施した品のないドレスを思い出した。

「きみらしいね」

ジョーは、言った。
その言葉は、試着室から出てきたさくらを見て、ぽつり、と呟くように、彼独特なすこし照れたような、笑顔に添えて。

意見をもとめるつもりがなかった予定外の人物、アルベルトは、細かにさくらのドレス選びにアドヴィイスをくれた。彼のそれは、はっきりとして的確な、・・・大人の男性の意見だったので、さくらは次第にアルベルトの意見を参考にしていた。フランソワーズは、突然に自分の分のショッピングをすることになったために、さくらのドレスを選ぶ余裕がなかったかのように思えたが、さくらが試着室にいるあいだ、始終彼女のようすを伺い、あれこれと世話を焼いた。

「きみらしいね」

ジョーは、さらり と言った。
フランソワーズの時と違い・・・一言だけだけれど、さらり と言った。

「きみらしいね」

その一言に浮かれて、さくらは決めた。

「きみらしいね」

ジョーが自分をこのドレスのイメージを持っていてくれていることが、嬉しかった。


き み ら し い ね


でもそれは、本当にそうなんだろうか?
帰る前に、どうしてもレディス・ルームに行きたかったが、1人では行きたくなかった。
だから、無理矢理にフランソワーズの腕を引っ張り、付き合ってもらった。

さくらは知らないうちにフランソワーズにたいして、女性特有な目線・・・視点で自分は彼女を下にみていたような気がした。それは彼女があのワンピースを着たときにハッキリ、とした。

今までどちらからと言うと、そういう目で他の女性や友人たちをみなかった、と言えるほど、さくらは人が良く、聖人のようなできた人間ではない。それなりに嫉妬や虚栄心。プライドに、自分が生まれた環境、人格形成の上での後天的影響は、それなりに気をつけてはいたものの、無意識に態度に出ていた経験がある。

今回は、態度には出ていなかったとしても、明らかにさくらのこころの奥底ではそういう気持を持って、さくらはフランソワーズに接していたように思われた、いや、思う。

レディス・ルームでさくらは鏡越しにフランソワーズをみた。


コズミ邸は完全なら日本ならではの、日本の家。
広い敷地に雄大に構える屋敷は、観光客らしき人がたまに紛れ込む。
コズミは、そんな迷い人にお気に入りの和菓子と、ちょっとだけ濃く淹れた緑茶を振る舞うのが趣味だった。

コズミがさくらのために、本宅にのみある2階を全てを彼女用にした。
年若い女性なので、色々とプライベートも必要だろうと言う心遣いと、コズミ邸で唯一フローリングの床があるのは、その2階のみだっためだ。

日本人でありながら、日本での生活経験が皆無に近いさくらのために、少しでも過ごし慣れた環境に近いものを、とコズミがそうしたのだ。

彼女の家から運ばれてきた、フル・サイズのベッドに両手両足を広げてうつぶせに倒れているさくらの目の端に、カバーにかけられたドレスの肩先についていラベンダーよりも少し薄い色のレースが見えた。

ジョーはフランソワーズの装いに、何もコメントもせず、褒めもしなかった。
彼が口数少なく、シャイな正確なのはさくらもこの数回のグループ行動でよく理解した。
けれども、さくらがそれなりの質問で、答えを求めたらジョーはきちんとそれに答えていた。
優しく甘いベージュの瞳を少しだけ細めて、その目元は少しだけ困惑の色を見せるけれど、
口元は穏やかに微笑みながら。

さくらは、いつも待っていればよかった。
彼女は好きなことを、話せばよかった。
ときどき甘えて見せて、そして、ときどき拗ねてみせて。
ちょっと我が儘を言ってみた後に、ちゃんとごめんなさいをする。
大げさかな?と不安になりつつも明るい声で笑う。
媚びにはならないように、品良くお願いをする。

そうして待っていれば。
電話がかかって「好きだ」と言われる。
街を歩きながら、「好きだ」言われる。
お茶をしていたら、ふいに手を握られて「好きだ」と言われる。

2人きりになれなかったら、むこうがそれなりに、そう言う状況になるように、
努力してくれた。


待っていたら、かってに好きになってくれる。

さくら自身もそうなるように、ちょっとした魔法を使うけれども。


どうやら、ジョーには今までの魔法は効かないらしい。
しかも、相当手強い恋敵が出現してしまった。
彼女自身はそれを認めたくないのか、知らないのか、知らないふりをしているのか、言いたくないのか、気づかれたくないのか、何か都合が悪いのか、本当に彼女が言ったとおりに大切な家族なのか・・・。

アルベルトのフランソワーズとジョーにたいする接し方は、さくらの恋を応援してくれる、年離れた従兄弟のそれに似ていたような気がする。

わざわざフランソワーズにターンさせた。着飾った女性にそうやってまわって見せろと促すのは普通だけれども、それをなぜにジョーの目の前で、彼がよく彼女を見ることができるように気を遣いながら、2回も くるり くるり と彼女を踊らせる必要はあったのだろうか?

ジョーはあんなに眩しそうに、フランソワーズを見るなんて!

自分が着たドレスを見せた時のジョーの反応。
フランソワーズがワンピースを着て見せた時のジョーの反応。

さくらにたいしては、いくつか賛辞の言葉を口にしたが、
フランソワーズには、一言も言うことができなかった。


「バレエ公演って・・・何よ・・・それ」


車の中でさくらは、ジョーの言葉が頭から離れなかった。
さくらもそのポスターのことを知っていた。

あの、水族館と映画の日。
珍しく、フランソワーズがそのポスターに見入っていたために、
エレベーターのドアが開いて、乗り込んだジェットとさくらに気づかなかった。
ジェットはそんなフランソワーズに声をかけようと口を開いたと思ったら、ニヤニヤしながら彼は、ピュンマの方を振り返って言った。彼は「開」のボタンを押している。

「先に行ってようぜ、フランソワーズが興味があるもんが貼ってあるみたいだしよ!」

ピュンマは何も言わずに、「開」のボタンから「閉」のボタンに指を置き換えた。

「待って!ジョーもまだよ!」
「ああ?ジョーがフランソワーズを連れてくるからいいんだよ、あれで。1人にしたら可哀相だろ、フランソワーズが」

エレベーターの扉が閉まる。
さくらの視界から世界が切り離される。
完全に切り離される、その扉の向こうで、ジョーがフランソワーズに近づいて、彼女の肩に触れた姿が、さくらの瞳に焼き付いた。

フランソワーズは振り返り、ジョーは笑っていた。
チンっと無機質なベルの音が、さくらの胸を意地悪く抓った。

「応援してくれるってお願いしたのに」

フランソワーズはさくらのお願いに、yesともnoとも返事をしてない。
ただ作り物のような綺麗すぎる顔に微笑みを貼り付けていただけ。
その時に、フランソワーズのチャームポイントである、深く不思議な碧い瞳は光を捕らえることなく、夜の海のように静かに揺らいでいたことを覚えている。

「別に、応援なんていらないわよ」

さくらは仰向きに体制を替えて、未だに見慣れ慣れない天井を睨んだ。

「応援なんていらないわよ!そっちがそうやって逃げてるんだったら、それでいいわ!!あとで泣いて、色々言ってきても遅いんだから。ウジウジとしてればいいわ、私はそういうの向いてないのよ、自分の気持ちに責任もてない子なんて、応援してもらうだけ邪魔よね」


####


「こんにちは!!」


街はずれの海岸沿いに隠れるように建てられた洋館。
そこには小さくギルモア研究所と言う表札が掲げられていたのを確認してから、ドアのインターフォンを慎重に押した。

滅多に鳴ることがないインターフォンのチャイムの音が、静かなギルモア邸の午後を揺るがした。その邸に身を寄せている誰もが、日常では見ることができないほどに、殺気を帯びた目を鋭く光らせ、素早い身のこなしで・・・戦い慣れた戦士へと瞬きが追いつかぬほど早く身を変えた。

インターフォンのチャイムがもう一度、鳴る。
誰もが刹那に今日、この邸に訪れる予定がある者がいたかどうか、思い出す。
いや、予定はない。

リビングに居た者、部屋に居た者、庭に居た者・・・。
全員が一斉に、通信回路を開く。

<誰だ?>
<今日は予定はないはずだ>
<おい、フランソワーズ!>

<・・・・さくら・・・さん?>

「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」

ギルモア邸から緊張の糸が切れた。
誰もが深い安堵の息をつき、やれやれ・・っと、呆れている。

いつ、どこで、どのように、再び「それ」が始まるかわからない。
彼らは常に、それに備えていた、備えていなければならなかった。

愛らしい訪問者を歓迎しながらも、平和な日常にふと訪れた嫌な緊張感は、簡単には彼ら胸の内に穏やかさ得るには、しばしの時間が必要とされた。

さくらを出迎えたのは、勢いが良い赤毛の髪に、長い鼻。派手なTシャツの上に じゃらり とぶら下がるシルバーアクセサリー。

「よ!」

「えへへ~・・・遊びに来ちゃった!」


観音開きタイプの右側だけを開けて、ジェットはさくらを見た。

さらさら と風に揺れる直毛の黒い髪。猫が目を閉じたような感じの切れ長の瞳に恥ずかしさと、イタズラが成功した、好奇心旺盛な瞳が ぱちぱち っと素早く瞬き、目の前に立つ、自分よりはるかに背が高い、ジェットを見上げた。

「急だなああ、ビックリすじゃねえかよ・・・ったく、連絡くらい入れてくれや・・・・」

面倒臭そうに、彼は赤毛の髪を がりがり と掻きむしった。

「だって、いつも来てもらってるし!サプライズ~!!」

自分がプレゼントだ、とでも言いたげに、両手を広げてジェットにハグをする。
彼女の日本人とする外見からみえれば、それはとても大胆な行動に思えるが、彼女が育った生活習慣からは、自然な好意だった。ジェットも、さくらからの友好的なハグを優しく受け止めた。

「お邪魔してもいい?」
「ここまで来たやつを追い返せるせるかよ・・!入れ」
「美味しいケーキを買ってきたの!」

さくらはジェットによってギルモア邸のリビングに通された。
もの珍しそうに目線をいろんな所へ飛ばしながら、勧められるままにソファに腰を下ろす。
そこには、青みがかった銀色の髪を持つ、きりっとした目元が涼やかなアルベルトが新聞を広げてくつろいでいた。アルベルトは、新聞紙から目線を上げて、さくらを見る。
彼独特の左口角を上げて、嗤う。

「いらっしゃい。今日は来る予定だったのか?」

大きな、大きなソファに座ったさくらは、子猫のようだ。
アルベルトの問いに、さくらは照れたように頬を染めて首を左右に振った。

「サプライズだってよ!」

どかああっ と、ソファに飛び乗るようにさくらの隣に座ったジェットは 彼らしくもない、少しキツイ目線をアルベルトに投げかけた。

「とっても、とっても美味しいケーキを買ったから、いつもお世話になってるお礼がしたくて、来てしまったんです。連絡したかったんですけれど・・・電話はいつもおじ様がなさってから、私うっかりしていて・・・」

「誰に訊いた?ここの場所を・・・」
「えっと、最寄り駅は知っていたし。バスもそこから海方面へは2本しか出てなかったから、駅員さんに訊いて、街じゃない方を教えてもらったんです」
「・・・頭が良いな。探偵になれそうだ」
「海の音しか聞こえないような、辺鄙なところだよってピュンマが言ってたの、思い出したんです」
「ふ~ん・・・それだけでここ、わかったのかよ?」
「バスの運転手さんに、事情を話して・・・そしたら、最後のバス乗車停のところから、20分も歩いた先に、どっかの気まぐれな金持ちが趣味のように不便そうなところに建てた、人が住んでないと思う洋館があるって訊いて・・・」

そのバスの運転手は、地元の人間なのだろう。
最終のバス停からギルモア邸までは、ずっと坂道が続く。滅多に人は寄りつかない。
たまにみかける人間がいたととすれば、少し遠くまで足を伸ばした、海に来ることを目的としたグループか、地元の人間がふらりと海岸に散歩のようにやってくるくらいで、ギルモア邸が存在することに気づきもしない。そのために、ここはまさしく人に忘れ去れた土地だった。彼らにとってはこれ程に都合が良い土地はそう滅多にない。

「人が住んでないと思う洋館に、1人でよく来たな?」
「・・・あの・・・私、ご迷惑だったんでしょうか・・・?」

アルベルトのそれは、質問というよりも尋問に近い気がした。
さくらは小さな体をより小さくして、不安げな瞳をアルベルトに投げかけた。
「ああ、すまん。気にしないでくれ・・・ほら、ここはこの通り、怪しい赤毛もいれば、どでかいインディアンも暮らしているし、かと思えば赤子もいる・・・ちょっと妙ちきりんな、構成でな。変な勘ぐりをされたくなくて・・・まあ、そういうことで。すまん。歓迎するよ」

アルベルトは、さくらを怖がらせた感覚に、バツが悪そうに、眉がしらを寄せると謝りまた、新聞に目を移した。

「日本って、変なところで知りたがりですものね!お節介というか・・・」

彼女の独り言のような言葉に、アルベルトはもう何も言わない。
口を開けば、また、尋問することになる。と知っているからだ。

「いらっしゃい!さくらちゃん」

2階の階段から小気味よいスリッパの音が、明るい青年の声と混じる。
声の主を全身で見ようと、さくらはソファで身をよじった。

「ピュンマ!! サプライズ~!」

ピュンマの笑顔を見て、自分の気持ちをもう一度盛り上げようと、明るい声で彼の名前を呼びながら、両手を広げた。
ソファの背を挟んで2人はハグをする。

「ビックリしたよ~!来るなんて訊いてなかったから」
「だってサプライズだから!」
「あははは、そうだね。君のそれは成功だよ!」

2人はニコニコと微笑み愛ながら、包容をといた。

「あれ、何?」
「お土産!!いつもお世話になってるから、とっても有名なケーキ屋さんなの!!」

ピュンマが指さしたその箱は、上等な包みに金色のロゴに店名が書かれ、厳かにテーブルに置かれていた。

「みんなでもらっていいのかな?」
「モチロン!!そのために買ってきたの!」
「じゃあ、ついでだからちょっと早いけどお茶にしようよ、ジェット、アルベルト。・・・あれ?フランソワーズは?彼女はキッチンにいるの?」
「そうじゃね~の?なんか甘ったるい臭いさせてたし・・・」
「ねえ、ピュンマ」
「何?」
「ジョーは今日、いるの?」
「ああ、ジョー?いるよ?・・・さっき見かけたけど・・・」
「っっんだよ、結局、このケーキもサプライズも、ジョーのためじゃん、さくら!」
「ちがうわよ!みなさんによ!・・・でもいっつもジョーが車を運転してくれるし、ジェットは全然、しないじゃない?」
「あいつは好きで運転してるんだぜ?オレの広~~~~~~~~~~~~いこころで、あいつの好きなことをちゃんとやさせてやってるんだよ、オレ優しいんだぜ?」
「都合の良い優しさじゃない、それ~?・・・そうやって何人ガールフレンドがいるの?」

ジェットは少し胸をはるような仕草をみせて答えた。

「数えられね! それぐらいモテんだよ。オレ!!」


####

ドアのチャイムが鳴った。
今日は誰も来ないはずだ。

体が一瞬にして強ばった。
手に持っていたものをキッチンシンクに投げ入れた。

目と耳のスイッチを入れる。

通信回路が開いたと同時に襲われる音の洪水は、ここが街中でないことにこころから感謝した。

目に映し出される壁向こうの風景。
少しずつ、向こう側との物理的距離が、彼女が持つ特別なそれによって、縮まっていく。

もう一度チャイムが鳴る。

玄関から聞こえる、それを視るために微かに首を左へと傾ける。
そこに見えたのは・・・

<・・・・さくら・・・さん?>



小刻みに震える躯。
震えが留まらない。

いつでも、戦いに戻るためのこころの準備はしていた。
いつでも、日常の中の自分を律していた。

「それ」が来たかもかもしれない。っと思わせられただけで。
こんなにも動揺してしまった、自分が情けなかった。

恥ずかしかった。
悔しかった。

痛い。


フランソワーズは自分の腕で自分を抱きしめる。
ぎゅうっと自分が出し切れる力を込めて・・・。


怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。


怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、


怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!



襲い狂う爆撃音。
爆煙が彼女の喉を通る。
雨のように降り注ぐ弾丸。
巻き上がる砂煙に混じって、石のように投げ捨てられた。

人。
サイボーグ。
人。
サイボーグ。



サイボーグ。


耳に流れ込むは人の悲鳴。
最後の叫び。
断末魔。

目に映り込んでくるのは、死。

人。
サイボーグ。
人。
サイボーグ。
人。
人。
人。
自分。




「フランソワーズ!!!!!」


009の声。
彼はなぜナンバーで呼ばないのだろう?

ああ、彼がいれば大丈夫。
この戦いはもうすぐ終わるわ。

彼が・・・きっと。

きっと、その背中で・・・。


その腕・・・・で・・・・・。






「フランソワーズ!!!!!」






ジョーはフランソワーズの腕を掴み、彼女を自分の方へと振り返らせた。
彼女の瞳は、何も意思をもっていない。
ただの蒼いガラス玉が、ジョーの顔を映していた。

フランソワーズの躯の震えが、ジョーが彼女に触れる部分から嫌という程伝わってくる。



彼女は「あの日」と同じように、自分を自分の腕で抱いている。


そうやって堪えてきた、彼女を知ってしまった。
そうやって励ましてきた、彼女を視てしまった。




「009、大丈夫よ・・・」


彼女の色を亡くした唇から漏れた・・・抑揚のない声。
その声は、戦場で傷つきながらも自分は戦えると、まだ自分は戦れると、訴えるときの彼女の強さ。

なぜ、フランソワーズが?
なぜ、フランソワーズだ?
なぜ、フランソワーズに?


なぜ、フランソワーズはこんなに苦しまなくてはいけないんだ?!

僕が、守りたい。
僕が、助けたい。

俺が。
僕が。

俺が、抱きしめたい。
俺が、その闇を・・・引き受ける。



「ここにいる、ここに、いるから!!!」
ジョーは震える彼女をその腕に、抱きしめた。



駄目だ。
抱いたら駄目だ。

彼女の躯は、柔らかく。
彼女の震えが、愛おしく。
彼女の髪から香る、それに・・・酔う。


駄目だ。
彼女は違う。
彼女は俺と違う世界の人だ。




彼女は・・・・

迷い込んだだけなんだ、黒い森に。
でもキミはきづいてるはずだ。
明るい月の光がキミをみていることを。

キミはちゃんと、知っている。
その月の光の先に、闇を抜ける道があることを。

キミは、夜に少し冒険をしたんだ。
そして迷い込んでしまっただけ。

ちゃんと、還るための道はキミのために輝いてる。


だから、俺は駄目だ。


キミをこの闇に引き留めていたいから!
この闇の中で生きる俺だから!



「・・・ここにいるから・・・それしかできないから」



####

キッチンへと続く扉は開いていた。
赤毛の男は、ただ・・・悲痛の顔で見守っていた。

ーーーなんで、そうなんだよ?お前らは!


腹が立つ。
腹が立って、腹が立って、仕方がない。



けれども、それを自分がどうにも出来ないことも、知っている。


「ジェット・・・?」

ジョーはジェットが扉の陰に隠れるようにして立っていることに、気がついた。
自分の理性が勝ったことに安堵の息を吐いたが、自身の腕に抱いたフランソワーズを離すことが出来なかった。

「・・・おお、オレ。悪ぃ・・・邪魔したな」

それだけ言い、立ち去ろうとした彼をジョーは呼び止めた。

「ギルモア博士を呼んでくれ」


ジェットは改めて2人をしっかりと見た。
抱き合っているように見えたシルエットは、今は違う。
ぐったりとジョーの腕に、糸が切れた操り人形のようにもたれかかる、フランソワーズの姿は、明らかに彼女の意識がそこにないことが伺われた。

「どうしたんだ!?」

ジェットは反射的に2人に近づき、フランソワーズの様子をみた。

真っ白い、真っ白い、顔。


「・・・多分、貧血だと思う・・・」


####

2階へ行くためには、リビングを通らなければならない。
さすがに今、さくらがいるためにそれは諦めた。

キッチンから続く廊下から、メディカル・ルームへと運ぶ。
ジョーはフランソワーズを自室へ連れて行きたいと思ったが、仕方がない。
ジェットと軽く話しのつじつまを合わせる。

フランソワーズはギルモア博士と出かけたことにした。
回線を通じて、短く状況を説明する。
誰からも何も言葉が返ってこない=全員が了承したのだ。

ジェットは明るい調子で、「フランソワーズがいねえ!誰が茶を用意するんだよ~!」と
戯けて見せた。
ピュンマが、「じゃあ、僕が淹れるよ。グレートが居てくれたらヨカッタのにね」と、キッチンへ向かう。

キッチンに漂う甘い香りにピュンマの胸は痛かった。
彼女が3時のお茶のために、ブラウニーを作っていたことがわかった・・・。
それは、ピュンマがリクエストしたから。

たしか、2日前・・・だ。
たまたま雑誌に載っていた、それに指をさして言ったのだ。

「これ、何?」
「ブラウニーよ?ピュンマ知らないの?」
「う~ん・・・有名なケーキなの?」
「定番中の定番よ!」
「へええ。食べたことあるのかなあ、ボク?判らないや・・!」
「作ってあげる」
「え!本当!!」
「やだ、そんなに難しいものじゃないのよ?これ。意外と簡単につくれちゃうの」
「それでも、すごいよ!」
「んふふふ。じゃあ、さっそく外に出てる張大人に電話して、材料をお願いしましょ!」

嬉しそうに、楽しそうに、とても素敵なことを発見したような笑顔のフランソワーズ。


ピュンマは自分の胸元のシャツを・・・・握りしめていた。


####

<ジョー、お前はリビングへ来い。部屋かどっかにお前が居ることになっている>

アルベルトから通信が入る。
無視したいが、そうもいかない。

余計な詮索をされないために。
コズミ博士の知り合いだろうが、友人だろうが、絶対に怪しい形跡を残すことは許されない。

ジョーは立ち上がり、ドアノブを回する。

「・・・心配ない、ジョー。久方ぶりに勢いよくスイッチを入れた所為で、ちょっとビックリしただけじゃ、時期に元気に目を覚ます」

ギルモアの言葉に、ジョーは背を向けたままリビングへ向かう。

「フランソワーズを・・・お願いします。博士」



=====10 へ 続 く

・ちょっと呟く・

さくらちゃんが動いたら
お話がぐんっと進み始めましたな~・・・。
(5)くらいでここまでいきたかったのですが(汗)

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