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そんなところが好き/京都・嵐山2泊3日の旅・6
フランソワーズが持っていた鞄と和菓子の入った紙袋を、俥夫が預かり、それを人力車の後ろ、幌(ほろ)の下に取り付けられている、荷物箱に入れると、車軸にひっかけてあった踏み台のための木箱を出した。

俥夫が手を貸して、先のジョーが車に乗るのを助けた。見た目よりも高さのある人力車に、ジョーは少し驚く。
野宮神社前にとめられていた人力車のため、通りかかった多くの人がフランソワーズが人力車に乗り込むところを眺めた。

先に乗った、ジョーが手を伸ばす。
踏み台にとん、と、足をのせて俥夫が出した腕に手をそっと添える。ジョーが伸ばした手にむかって、左手を伸ばすと、ふうわりと、車に吸い込まれた。


「まあ、とっても高いのね!」
「同じ景色なのに、ぜんぜん違うように感じるね?」


2人が車の席につくと俥夫が、おおきな1枚の紅い膝掛けを2人の膝にかけた。


「車をおこしますから、少し揺れます。どうぞ背を後ろにあずけてリラックスしてくださいね」


俥夫の背に、車屋の屋号がプリントされていた。
左手に梶棒(人力車の車体から伸びる棒であり、引き手が操作する棒でもある)を握り、俥夫の前にある支木(縦に二本伸びる梶棒を繋ぐ横棒)を右手で握る。

ゆっくりと地と平行になっていく梶棒に従って、自然と背もたれによりかかる姿勢になっていった2人。


「では、竹林の道がつづきまして、落柿舎へ向かいます」


同じ屋号の仲間から「行ってらっしゃい!」と声がかかった。
その声と同時に車が動き出すと、人々の注目が集まる。


「・・なんだか、恥ずかしいわ」


ふふ、と口元で笑い肩をすくめて、ジョーをみる。
むけられた視線を意識しないようにと。


「・・初めだけだよ」


そう言ったジョーの頬が少しだけ赤らんでいる。



---やっぱり、カメラ用意した方がよかったかも・・・。



2人はなんとない気恥ずかしさに微笑み合う。
その姿が絵に描いたような可愛らしい恋人同士の姿に映っているなど、本人であるがために気づかないまま・・・。


心地よい風が、すっとした清々しい凛とした竹の香りとともにまう。
今まで見ていた同じ竹林風景でありながら、視界の高さがかわっただけで、まったく別の世界を作り出した。

左右でくるくるとまわる車輪の音が耳心地良く、リズム良く駈ける俥夫の足音。


「いいね、人力車って」


俥夫が作り出す揺れの感覚が安定したとき、ジョーがそっとささやいた。


「ジョー」
「なに?」


寄り添ってすわる座席はとても柔らかく、予想していたよりも直接的には震動が伝わってこない。


「・・・・・あのね」
「うん」


竹林の道が終わろうとする。


「アタシ、・・・・とっても甘えん坊なの」
「へ?」


人力車が開けた路に出ると、ジョーの方へと曲がった。
躯が自然とそちら側へとよる。

フランソワーズは、微かにかかった重力の助けを借りて、するっとの自分の腕をジョーの腕に滑り込ませ、その腕をきゅうっと抱いた。


「ふ・・っ」


曲がりきった車から去った重力。
けれどそのまま、ジョーの方へと体重を預けて、彼の肩に頭をあずけた。


「すごく、すごく・・・甘えん坊で、困らせてたの」
「!」
「・・・・・たくさん甘えたのよ、そして、甘えさせてくれたの」
「・・・お・・・兄さん・・・?」
「ええ・・。いっぱい、いっぱい、お姫様みたいによ・・・」



たくさんの家族を見た。
なぜかジャンの顔が先ほどからちらつく。


幸せな家族を、旅先のここでなくても、いつもの街でも見慣れているのにも関わらず。


昨日、ホームシックにかかったせい?と、フランソワーズは自分に問う。
胸奥に隠している涙を誘う感情が、まだその時期ではないのにも関わらず、溢れ出しそうになってくる。




きゅうっと、胸が切なくちぢこまる。
きゅうっと、ジョーの腕を抱く力が強まった。


「フランソ・・・ワ-・・・ズ?」


からからと車輪が鳴る。
車輪の上方を覆う、銀色の泥除けが傾き始めた陽を弾いて眩しい。



「・・・たまに、ごく、本当に、ごく、ごく、たまに、ね?・・・・あの時のように甘えたくなるの」
「あ、の・・とき?」
「・・・2人きりで暮らしてた、日本なんて、・・名前くらいしかしらなかった時」


---サイボーグに、なる前だね?







兄に会いたい気持ちが溢れ出した夜に、彼女は1人で泣いている。
知ったのは、去年の、まだ桜の季節には少しばかり早く、肌寒さ残る季節だった。


「ずっとなんて、無理だし・・・ジャンだってね、・・・(サイボーグにされることなくアタシと)暮らし続けていても今みたいにエヴァとフランシーヌと家族になってたと思うの、でもね・・・」
「でも、何?」


ジョーはまっすぐに前を向いていた視線を、フランソワーズを見る。
フランソワーズは、ジョーの視線が自分にむけられたことに気づき、彼の腕に顔を隠した。

押し付けられる感触が強くなると、ジョーの鼓動が人力車が走る早さを少し超える。


「・・・ごめんなさい」


頭に浮かんだ言葉をわざわざ言葉にするのが辛く、振り払うように頭を左右に振る。
ジョーの着ているコートとフランソワーズの蜂蜜色の髪がすり合った。


「変な話しをして・・・だって、・・・アタシは”同じ”じゃないでしょう?違うもの。離れている間にかわっちゃったの・・・。わかってるのに、・・・ごめんなさい」


様々な想いがフランソワーズの胸の中をまさぐり、望んでも仕方が無い過去のイメージが脳裏を駈ける。


人力車に乗ったことに少し後悔した。


歩いていれば、躯を動かしていれば、それなりに気が紛れる上に、自分からジョーとの物理的に距離をあけることができた。
気持ちを切り替えるために、なんでもできた。

けれども今は・・・。

通り過ぎていく風は古都の香り。
耳に届くゆるやかな時間の流れをつげる、車輪の音。
道は細く京都独特なうねりに、人力車は心地よいリズムを作り、フランソワーズのこころを揺らす。
身を任せる少しだけ古びた座椅子に座る、隣には・・・・触れ合い、絡めた腕がとけない距離に、ジョー。

自然と、大好きな彼に甘えたくなる。
普段よりも、ずっと、ずっと。ずうっと強く。

一緒に居たいと言う気持ちが、好きと言う名前に代えて、ジョーとは違う方向にあったジャンへの気持ちとない交ぜになって、強くなる。
突き上げるような、熱を持ってジョーに甘えたくて、素直に躯がフランソワーズの気持ちに動いた。



「・・・謝らなくていいよ。言わなくても・・・わかるから。・・・・・ありがとう」


1人で泣いちゃ駄目だ。と、言った。

淋しいとき、泣きたいときはそばにいる。と、ジョーはフランソワーズに言ったけれども、彼女は相変わらず、淋しさも、苦しさも、苦く重たい、喉にそれらを通す辛さに耐えて何もかも全てを飲み込んでしまい、彼女の哀しみを映し出した深い濃紺の空のカーテンに隠れて、星のように静かに涙をまたたかせる。

その日は、ジョーも眠れない。

彼女の部屋のドアをノックする、勇気がなく、・・もしかしたら、1人でこそ、彼女の、それらを”乗り越える”儀式なのかもしれない。と、踏みとどまってしまう奥病な自分に言い訳して、フランソワーズのドアに背を預けて夜を明かす。


「?」
「嬉しい」


ジョーの腕に埋めていた顔をあげる。


「キミから、・・・”あの夜”みたいにでなく、泣かずに、ちゃんと・・・お兄さんの話しがきけて、そして、ボクに話してくれて嬉しいから」


微笑む、ジョーの瞳の色がお日様のように温かく、柔な木漏れ日よりも優しくフランソワーズを見つめた。


「・・・・ありがとう、ボクに話してくれて」
「ジョー・・」
「それに・・いいと思う、よ?」
「?」
「いいよ。甘えて・・・・。旅の間くらい、・・別にそれ以外でも、・・毎日だって、さ。迷惑じゃないし、大丈夫だから。あ、・・・甘えてよ、ボクでよか・・たら・・・だ。けど・・・」


---・・・迷惑どころか・・・・・嬉しいし。


耳がじんじんと熱い。
ジョーは緩やかに通り過ぎる風景へと視線を流し、顔をフランソワーズからそむけた。






”・・・・ありがとう、ボクに話してくれて”


ジョーの優しさが染み込んでゆく。
こういう人なんだ。と。あらためて、彼を知る。

何度も、何度も、彼を知る。

自分とは関係のない、他人のことでも、まっすぐに、そのままのことを、そのままの状態で彼は受け止められる、強い人。
ただ受け止めただけじゃなく、それを、彼らしい思いで包んでくれて・・・不安を悲しさも、辛さも、淋しさを、ゆっくりと溶かしてくれる。


包んで温めてくれた新しい思いを、手のひらに置いてくれるときに言うの。




『大丈夫だよ・・・』




だから、みんなアナタに恋をしてしまうのよ。

アタシも、その1人だから・・・わかるの。


009になる前も、そうだったのでしょう?
昔は”それなりにジェットに負けない悪”だった。なんて、口ばっかりなんじゃなくて?


アナタは、そういう人だもの。











次第に、ジョーの視界がゆるゆるとスピードを落とした始めたとき、俥夫が2人の会話が止んだ間を逃さずに、話しかけてきた。


「京の田舎風景がこれから続きますよ。大分人がはけてきたみたいで、・・・静かですねえ、ここが落柿舎ですよ」


2人の目の前に、広がるのんびりとのどかな、時間の流れを感じないほどに”のどか”と言うことばが似合う風景があった。


「落柿舎は元禄の俳人で芭蕉の門人の向井去来の遺跡でして、庭の柿を売る契約をしたあとに、柿がすべて台風で落ちてしまったことから、落柿舎と呼ばれているそうです・・拝観なさりますか?」


「いいえ、このまま御願いします」
「はい、では・・・目の前の田んぼをぐるりと一巡しまして、次へ参りますね」


俥夫は、振り返り、ジョーの言葉に応えた。
他にもたくさん歴史的な案内の言葉を勉強してきたが、彼らには基本的なことだけで十分だと判断したのか、それ以上の言葉をかけずに、いつもよりも足を遅めに進めた。

四角く区切られた田んぼの刈り取られた稲の色と、周りの薄まった緑に色射す秋が、日本独特な空気に深くフランソワーズは深呼吸する。
ほのかに吸い込んだ紅葉の色に胸が温まる。


「・・・いいの?アタシ甘えても・・・?・・・・・すごおおおおい、のよ?」


フランソワーズは、こぼれ落ちないかと余計な心配してしまうほどの宝石を、きらり。と、嬉しさを隠して、いたずらに光る。


「覚悟はできてます」


神妙な顔で頷き答えたジョーにたいして、くすっとフランソワーズが笑う。


「ふふふ♪じゃ、遠慮なく・・・今だけ、兄さんみたいに、ね?」


声の感じから、彼女の気持ちの揺れが落ち着いたことをジョーは感じた。
腕により強くフランソワーズを感じる。

フィジカルに感じる、その部分にどんどん血が溜まっていくのを必死で命令して流す。
これも”サイボーグ”であったからできることなんだろうか?と、くだらないことを考えながら、フランソワーズのある単語にひっかかった。


「・・・兄さん”みたい”にじゃなくて、さ」
「なあに?」
「兄さん以上に、でいいよ」
「え?」
「・・・・・・・それくらい、100倍、1000倍大丈夫だよ。千歳飴、しっかり食べたしさ」


不思議そうに瞼をまたたかせて、フランソワーズは先ほどの会話を思い出した。


「そうね!ちとせあめ食べた009は強いものね?アタシが甘えたくらい、へっちゃらね!」
「違う」
「あら?どこが違うの?」
「009じゃなくて、”ボク”」
「・・・・・・え?」
「009に甘えるんじゃなくて、ボクに、その・・ボクにさ、甘えてくれる?」


からり、、からり、、と、なる車輪。
どの角度から見ても、同じ風景を目にしているにも関わらず、2人の目には、360度全てが新鮮だった。

ジョーの腕にからめて体重を預け、彼の肩に頭をのせ、見上げるようにしてジョーの横顔を瞳にうつす。





この、角度。と、こころで呟く。






優しい光をたたえた琥珀色の瞳に、影を落とした頬。
まっすぐな視線に、彼の優しさと知的さを表す、顎のライン。

お日様の機嫌を窺うように色を変える、髪の色は、昼間は金茶色に輝いていたけれど、今は落ち着いて、栗色にかわりつつある。

なに?と、問いかけるように、フランソワーズの視線に答えた。


「ほんとに、静かね?」


---アナタのそんなところが、好きになったの。


「うん・・・」


---アナタの、そんな全てが好きなの。


「・・・・ジョー」
「ん?」


---甘えてもいいの?・・・・・あの人の前でも?


「なんでもないわ・・」
「そう・・・」









####


「じゃ、そういうことでな」


湯田が持っていた携帯電話を切った。


「大丈夫なんですか?」


りか子が訊いた。


「今、野宮神社で、そこから人力車でぐるっとまわってくるらしい。その後は公園かオルゴール館、もしくは土産屋をまわるってさ」
「・・・しっかり観光ですね」
「人力車降りたら、電話くれるってことだ」


JR嵐山駅の、改札口から離れた待合室に4人、湯田、りか子、千里。そして、美奈子がいた。


「1日しかないからなあ。そんなもんじゃないか?」
「8時半、でよかったですか?」
「頃合いなんじゃないか?食事して、展望台よって・・・こっちに戻ってくるだろ?遊覧船の最終が11時15分、だから、それには遅れないようにしたいしなあ、で。稲葉、原、水沢はどうするんだ?」


湯田は、平安神宮、京都国立博物館、美術館に行くと言い、彼にはすでにお気に入りのコースがあるらしい。
話し合い、店に連絡して予約をした後に、ジョーに連絡をいれたのは、たった今。


「・・・時間的にも人力車でまわるコースなんて決まってるからなあ。夕食前に合流しようと思えばできるぞ?」


なんとなく美奈子の顔色を読みとって湯田が言った。


「はいっ!」


昼食の店の候補を上げたときのように、ぴしっと手を優等生のごとく挙げた、千里。


「はい、原」


それを教師のようにさした、湯田。


「それでもいいんですけど、私は目的の店があってできればそこ行きたいです」
「どこだ?」
「二澤頒布の店」
「ああ・・・名前はきいたことあるぞ」
「京都に来たら、寄れるときは寄って買ってるんですよ、友達に頼んだり」
「へえ」


その年ごろの女の子たち代表!のような流行最先端を絵に描いたような千里、から、以外な言葉だった。


「好きと流行(はやり)は別ですからね」
「そうですか・・・。1人でも大丈夫なのか?」
「あの辺はばっちり。それに、待ち合わせが京都タワーホテル内のレストラン、で。どうやって迷子になるんですか?100人訊いて100人とも道を知ってますって」
「それならいいが・・・」


千里と話しながら、湯田の視線が、りか子、そして美奈子へと向かう。


「どうする、美奈子?」
「りか・・は・・・」
「千里ちゃんと一緒に、そのお店言ってもいっかな~って。なんかよさそうだし?」


そういって、りか子は千里を見る。


「前に、りか子先輩が、褒めてくれた鞄、あれがそこのなんですよ」
「!そうなんだ。ほら、美奈子も言ってたの」
「あのシンプルな手提げトート?」
「そうですよ」


美奈子が興味を示す。
美奈子、りか子も、大学関係、プライベートも合わせても、京都の旅は片手以上の回数を有に超えている。

嵐山はとくに、”オオガミ”のコネクションが強いために、毎年と言っていいほど来ている。
美奈子は学会、出張などにつき合う度に、も、付け加えておく。


「別に、こっちでもいいんだけど?」


湯田がにっこりと笑う。
美奈子はりか子を見る、彼女は美奈子に選ぶ権利を委ねているのか、首を傾げて美奈子を見ている。

どうしたいの?と、心配気にこちらを見ていた。

りか子のことを考えれば。湯田についていったらいいのかもしれない。
みんなで先に千里の目的の店に行き、そのあと湯田のコースに進むのは?と、考えた美奈子。
それくらいしか、思い浮かばない。


答えなければ。と、焦る。
焦れば焦るほど、なぜか”島村くん”の顔が浮かんでくる。


関係のない、ことばかりが頭の中をぐるぐるとまわる。


---今までこんなことはなかったのに・・。


こんなにも、彼のことが・・・・好き・・。
”彼女”の存在を知らなかった頃にはなかった、感情が胸に渦巻いている。


「どこか行きたいところあるんですか?」


千里がのんびりと、訊ねた。


---行きたいところ


イコール 気になる 人の ところ。
会いたい。と、思う。


今までに経験したことのない息苦しさ。
重く沈むんだ鉛色だった胸が今は、きりきりとこれ以上は無理!と悲鳴をあげているにも関わらずに、ネジをまわして締上げる。


恋と言うネジ。
島村くんへの思いで形作ったネジ。


「今はみんなで、ぱあ!っとの方が、今夜のためには良さそうだなあ・・・」


美奈子の様子から、湯田は千里にむかって言った。
彼女も美奈子の様子と、湯田の言葉で理解したらしい。


「恋の病は医者なんとやら、ですけれど、友達はヴァイタミン剤くらいの効果はありますからね!アルヌールさんってとっても興味深いですけど、恋の応援は先に水沢さんを応援するって宣誓してますからね」
「宣言?」
「女が単独で行動するときは自分のためだけです。あとは群れをなすので、そこをどう上手く世渡りするかなんですよ」
「・・・怖いな、原」
「そういう勉強してます」
「原の論文発表、楽しみにしてるよ」


美奈子はゆっくりと、りか子、千里、そして、湯田を見た。
自分の気持ちを知っている3人。
そして、島村くんの気持ちも同じように。

あの彼女の気持ちもほぼ100%わかっている。


「・・りか子は、どうしたい?」
「私?」


再び、隣にいるりか子を見る。


「私のことは気にしなくていいから、りかは?」
「美奈子がしたいことにつき合うわ!」
「そうじゃなくて」
「だって、見てらんないんだもん!」


湯田が、美奈子、りか子から離れた場所のベンチに腰を下ろした。
2人の会話がぎりぎり聞こえるか、聞こえないかの距離。


湯田なりの配慮がうかがえた。


「りか・・」
「美奈子と友達になって初めてなんだもん、美奈がさ、自分から”好きみたい”って私に相談してきたの”島村”くんが初めてでしょ?あとはみ~んな相手からだしさ」
「・・・・」
「だから、ちゃんと応援するのっ。いい?美奈子は自分からこんなに恋愛で行動したのって今まであったの?」
「・・・・」


千里も、”親友”である2人の会話なために、ちらり。と、湯田に視線を走らせると、そっとその場から離れて、駅構内の売店へ向かった。


「美奈子ってばさ、いっつも妄想の中の王子様を、だったでしょ?」
「空想って・・」
「・・・ま、いいけど。実際に彼氏がいたって、やめなかったし」
「別にっ!・・そんなの・・・関係ないでしょ」
「一緒よ!ふられた理由だって、そういう”妄想”視点でみてきたせいもあるって気づいてる?」
「りか・・・」
「空想の彼はいいよねえ、痛くも切なくもなくて、自分の”理想”だもん」
「・・・何がいいたいのよ、りか子!」
「嫉妬してるでしょ?アルヌーボーさんに」
「!」


りか子の言葉に、ぎくり。と、肩が跳ねた。
自分の胸の内を見透かされた驚きと、そんな感情が伝わっていた恥ずかしさの入り混じった瞳で、りか子凝視した。


「焼きもちやいてるでしょ?」
「・・・彼女は島村くんの・・」
「家族?でも、島村くんは、そう思ってないんだけど?」
「だけど」
「片思いだって、湯田さん言ったでしょ?はっきりと」
「でもっ」
「見ているかぎり。・・・美奈子は気づいてないかもしれないけれど、ね、アルヌールさん、美奈子と島村くんが一緒にいるところを、なるべく見ないように、見ないようにしてるのよ?」
「え?」
「・・・旅で緊張してるんじゃなくて、初めての旅館とか、そういうのよりも、どっちかっていうと美奈子のことで気が張ってるじゃないのかなあって、千里ちゃんとね」
「そんな話しを?」
「けっこう飲んでたでしょ、美奈、寝るの早かったし、私と千里ちゃんは宵っ張りなのよ?アルヌールさんも、疲れてぐっすり眠っていたし・・・」
「・・・」
「アルヌールさんも島村くんのこと好きみたいだけど、プラトニックには両思いでも、行動に出てないのよ。行動に出られない”何か”があるかもしれないんじゃない?」
「何か?」
「千里ちゃんと話していて、やっぱり、同じ養父にお世話になっているんだし”兄妹”ってことが邪魔してるとか・・・」


ううむ。と、眉間に皺を寄せて、数年前に流行ったドラマの名刑事役の推理をする仕種を真似たりか子。


「ドラマの見すぎよ・・・」


ふっと、口元で美奈子は笑った。


「とにかくですねえ・・・・。美奈子は今まで通りに動いたらいいと思うの!遠慮してないで。ちゃんと気持ちを伝えないで終わっていいなら、いいわよ、それで。でも、それが納得いかないから、島村くんがアルヌールさんを好きで、”両想い”なんて訊かされても、諦めきれないんでしょ?」
「・・・」


りか子はまっすぐに、美奈子を見た。


「でしょ?告白して振られたら、辛いけど、落ち込むけど、意外といいもんよ?相手に自分がそういう風に見てるって、伝えられるし」


人差し指で、美奈子の肩を3回、スペルと一緒につついた。


「そ、れ、に!」
「?」
「島村くん絶対に気づいてない」
「え?」
「彼、絶対に、わかってない。そういうのにとおおおおおおおおっても鈍い。その辺は湯田さんに訊かないと駄目だけど、・・・きっと爪のあかほどにも美奈子に想われている。なんて、考えないよ」
「まさか・・・、だって」
「美奈子は美奈子なりに、積極的にがんばってたの知ってます。普通ならもうとっくにつき合ってるかなんらかの”反応”があってもおかしくないと思うのだけど・・・まあ、美奈子のアプローチに問題がなければ、の話しだけど・・・。普通さあ、考えてよ!周りがみ~んな美奈子の行動に気づいてんのによ?」
「・・・」
「肝心なところではぐらかされてるって言ったわよね?それってきっと違うわ、気づいてないから、そういう風にさらっとながせるのよ!アルヌールさんだって、数回?しかあってないのに、美奈子の気持ちに気づいてるっぽいのに、本人の島村くんはぜんぜん。そこに問題があるのよ!!」
「りか子・・・」
「いつものパターンよ!」
「?」
「”まさか、水沢さんが○○”よ、多分、島村くんもそうじゃないの?」


りか子の言葉に、そうなのかもしれない。と、振り返る過去。


「湯田さんに2人が両思いでもってさらっと言ったときの美奈子、私好きよ」
「りか子・・・」
「堂々としてたし、それが本音なんだから。そんでもって、美奈子らしくない!」
「私らしくない?」
「東京からこっち、どうしたのよ?どんどん暗~くなっていってさ!ほんと別人みたいよ?」
「そう・・・かしら?」
「ダメダメ!しっかりしなさいって、その胸は飾りなの!?」
「り、りか子!!」


むにゅ。と、りか子の指が美奈子のDカップをつついた。のを湯田が見ていた。


「稲葉って男前だよなあ・・・ある意味」


りか子は興奮してしまっているのか、声が大きくなっていたため、彼女たちの会話はしっかり湯田に届いた。
遠慮して移動した意味がない。と、苦笑する。


「島村が好き。か・・・。オレもそうだもんなあ、好みが似てるってことかあ・・・・」


うん。と、1人納得する。


「水沢さんが告白したら、島村・・・」


と、そのシーンを1人妄想してみる。


「・・・・・・それはそれで、うん」


再び、1人で頷いた。


---今は水沢さんより、島村の方が気になるなあ・・・。


なんて言う考えが浮かんで、ちょっと別の意味で自分を心配したりもした。


---別の意味で可愛いからなあ・・・・。


「・・原」
「?」


売店から戻って来る千里に気づいた湯田は、手招きするように千里を自分側に呼んだ。


「オレは自分の恋愛よりも友情を優先させるようだ」
「?」
「男の友情」


うん。と、頷いてから、なぜか千里にむかって謝った。


「水沢の応援よりも、本来通り島村の応援をします。すみません・・・」
「・・・先輩」
「なんだ?」
「自分のためじゃなく?」
「今は自分の恋愛云々はそれほど重要じゃないらしい・・。ま、今はその程度の小さいもんっだってことかな、まだ」
「・・・・」


千里は湯田に背を向けて、話しが終わった様子の2人に手を振った。


---りか子先輩、まだチャンスありあり!!









####

からり、からりと、普段のペースよりもゆっくりと車を走らせた。
走らせる、と言うよりも歩ませる。が正しかった。


「・・・御連れ様、・・・眠ってしまわれたんですか?」


寝付きの良さは、の○太くん以上かもしれない。と、懐かしいアニメーションのキャラクター名を使い、こころの中で呟いた。


「・・・スミマセン」
「いえ・・・どうなさいますか?」


予定していた、大河内山荘にたどり着き、足を止めた俥夫。

おしゃべりな彼女が珍しく大人しいと、思ったら、会話が途絶えて10分ほど経つと、健やかな寝息が人力車の車輪の音と絶妙なハーモニーで聞こえてきたのだ。ジョーの腕にしっかりと捕まって、眠ってしまったフランソワーズの髪からの花の香りを吸い、ふうと溜め息をひとつ。


「あの、何時までですか?」


ジョーの問いに、首を傾げそうになるが、すぐにその言葉の意味を理解して返事を返す。


「車を走らせるのは、6時までとなっております」
「・・・どこでもいいんで、彼女が起きるまで、時間までいいですか?」
「あの、それでよろしいんですか?」
「はい・・・休憩とかってどうしたら・・?」


今から6時までは2時間以上もある。いくら仕事とはいえ、ずっと人力車を引き続けさせるわけにはいかない。


「このペースでしたら、・・・まったく平気です、休憩はいりません。せやけど」
「どのコースでもお好きに歩いてくだされば、それで・・・。彼女が起きた場所で降ろしてください。・・・時間が、6時になったら起こします。それまでは、いいですか?」
「お客様がよろしいんでしたら、私もそれで・・ですが、貸し切りとなりまして・・・1時間が最長ですので・・2回分の貸し切り料金が足されてしまいますけれど?」
「かまいません。大丈夫です」
「かしこまりました、では、私が好きに歩いてよろしいんですか?」
「はい」


俥夫はゆったりと頷き、車を歩かせ始めた。


「・・・」


止まっていた人力車がゆうるりと動く。
ジョーのすぐ顎したで、すう、すうと。可愛らしい息づかい。


---甘えるって・・・寝てしまうこと???


フランソワーズらしい、と、言えば、フランソワーズらしい。


---理解なんて一生できないよ・・・特に、フランソワーズは・・・・・。


人がいない路をゆく。
暮れゆく空がオレンジ色を含ませて、言葉では説明し辛い色にかわる。
少し目を離してしまったら、2度と同じ色には出会えないような気がして、ジョーは空と街から目が離せないでいる。

飽きるどころか。
これならずっと楽しんでいられる。


「・・・ん・・、」
「フラン?」


少しばかり身じろいだフランソワーズに、起きるかな?と彼女に声をかける。
けれど、聞き取れない言葉を発して、再び耳慣れてきた寝息にかわった。

安心しきって、自分に身を預けてくれるフランソワーズの体温が高くなっている。
陽が傾いて冷え出した空気だけれど、寒くない。


「明日は、今日よりずっと寒くなるて言うてはりましたよ」
「・・・そうですか」


からり、からり、と人力車が京都の細道を、長くなりはじめた影が追いかける。


---甘えてくれているんだよね?


濃くなった蜂蜜色の髪、彼女のつむじがありそうな場所に、そっとくちびるを寄せた。











フランソワーズを起こさないように、気をつけながら携帯電話を取り出す。
電話をかけると、話し声で起こしてしまうと思い、メールにした。

メールを打ち終わって送信した後、俥夫に声をかける。


「渡月橋の、船乗り場にむかってもらえますか?」
「はい、かしこまりました」
「・・・急いでませんから」
「はい」








旅行編へ続きます・・・。

*さくっといきます。(宣言)
 「1」を読んでくじける。
 書き方と話しの建て方かわってる・・・し、さ・・・(涙)。
 
言い訳・もじ設定裏事情(小話?)・


♪ここのジャンは生きてます(笑)

“あの夜”を描いたときにも、そういう設定でした・・・。
実は、3がフランスから日本へ行く決心、ジャンと二度と会わないと決める。
ことが中心のお話(ジャン視点)があって(プロットだけ、切なすぎて・・・書くのを放棄。笑)、その話しをモジモジに持ち込んだのであります。

ジョーはそういう”家族”的問題に疎い方で、きちんと事情を知ったのは、”あの夜”の翌朝、G博士に訊ねたからなのでした。



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