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おでこ、合わせて/京都・嵐山2泊3日の旅・7
「アルヌールさん、大丈夫なのか?」
『微熱程度ですし、・・・ただちょっと疲れただけだと思います。さっき旅館に戻って来たんですよ・・』
「ああ、それで・・・。メールもらった後に、電話をかけたんだが繋がらなくってなあ」
「すみません」
「いや、遊覧船乗ってるときは繋がんないからなあ・・。微熱か、初めてづくしの旅行で疲れたんだろう」


---色々と。


湯田は携帯電話でジョーと話しながら、自分から離れた場所で土産物屋の店を眺めている、同じ大学の後輩2人と、文化人類学科研究室の秘書、水沢美奈子をちらりと見た。


『あの・・・それで誘ってくださったレストランのことなんですけれど・・』
「そっちは心配しなくていいぞお。・・・それより、やっぱ駄目か?」
『このまま、休ませようと思ってます』


と、ジョーがきっぱりと言った後ろで、可愛らしい抗議の声が聞こえた。
湯田の耳にざざざ。と、物がすれあう音が聴こえたと思うと、丸くこもったジョーの声。


『”駄目だよっ!大人しく寝てて!!それ以上熱があがったら博士に連絡するよ!”』
『”たわわちゃんっ!!”』
『”いいから、ほらっ。寝ててよ・・・。今、電話中なんだから、駄目だよ、布団から出たらっ”』
『”いやあ~んっ!ジョーっ!”』


---おお?


「島村ぁ・・・襲うなら電話切ってからにしてくれないかあ?」
『!ちがっ。フランがそっちに行くって言ってきかないんで・・・こらっ!なんでコート着てるんだよっ』
『”たわわちゃんで、ご飯だものっ”』
「・・・島村、その”たわわちゃん”ってなんだ?」
『なんか、京都タワーのイメージキャラクターらしいですっ。ちょっ・・・フランっ熱があがったらどうするんだよっ!!』
「・・・・元気だなあ」
『薬のお陰ですっっ!フランっなんで言うこときかないだよっ!!』
『”だってたわわちゃんっ!!ジョーの意地悪っ、オルゴール館だって行ってないのにっ!!”』
「行ってないのか?」
『人力車に乗ってるときに、フランソワーズの熱に気がついて、そのまま帰ってっ来たんでっ、まてっフランっ!!』
『”ああんっ!離してっ”』
「おうい、島村・・・だから、襲うなら電話切ってからに」
『解りましたっ!』
「おお、解ったのか、じゃ襲うんだ?」
「!!っ・・違いますっ!とにかく、レストランは無理ですっ誘ってくださったのにっすみませんっ!!じゃっ、後でかけ直します!』
『”たわわちゃあああああああああああんんっ!”』
『フランっ!ボク、本気で怒るよっ!?”』
『”怖くないもんっ!”』
『っ怒るk』
「じゃ、島村がんばれよ~」


ぷつん。と、通話を切った湯田はぶはっ。と吹き出した。


「湯田さん?」

くくくっと、笑いながら、美奈子、りか子、千里が眺めている土産物屋へ入って来た湯田の不気味な一人笑いに、3人は眉を寄せ合う。


「いやあ、面白い事になってるみたいで、あっちは・・・」
「面白いって・・アルヌールさんが体調を崩したって、それが面白しろいんですか?」
「思ったよりも・・・元気、みたいだよ」
「じゃ、夕食は大丈夫なんですね?」


りか子は言葉を残して、縮緬生地のがま口財布を手にレジに向かう。
藤色と紅色と悩んだけれど、結局両方買うようだ。

レジに向かうりか子を見ながら、湯田は首を振って彼女の言葉を否定した。


「予定変更、レストランはキャンセル」
「ええ?」
「そんなに具合が・・?」
「いや、アルヌールさんは予想以上に元気、元気、そっちよりも島村が心配」
「島村くん・・?」
「意外な島村一面が見られるかもなあ?」
「「?」」


ニヤニヤとした笑いを浮かべる湯田に、さらに眉間を寄せて湯田の言葉の意味を探ろうとする美奈子と千里。
レジからご機嫌な様子で戻って来たりか子。


「稲葉、買い物はすんだか?」
「あ、はい・・すみません、おまたせして」
「いやいや。じゃ、これからの予定を言うぞお」
「「「?」」」」










####

「も!ジョーは博士以上だわ!!」
「熱出したの誰だよ?!」


ジョーは人力車に乗っているときに、気がついた。


「もう熱、ありませんっ」
「それは、博士が持たせてくれた薬のお陰なだけだよっ。またいつ熱があがってくるかわからないから、今日はゆっくり休むんだ!」


眠り込んでしまったフランソワーズが、ただ”眠ってしまった”のではないことに、ジョーはその体温の高さと、寝苦しそうについた熱い息に気がついた。


「行くのっ」
「フラン~・・・・興奮すると熱が上がるから、大人しくする!ほら横になるっ”ふわ”っしてあげるから!」


俥男に頼み、行き先を渡月橋の船着き場に変更してもらった。
そのまままっすぐに旅館に戻ってきた。
熱のせいで、ぐったりと胸の中で紅い頬をしたフランソワーズは幻だったのではないか?と、その復活の早さにジョーは喜びたくとも、正直、喜べない。

熱い息に混じった声で呼ばれた自分の名前。
病人にむかってそれは失礼かもしれないけれど、はっきりと言うと普段のフランソワーズからは想像できない”色”を持っていた。否応にも自分が”雄”であることを自覚する。


「”ふわ”は、昨日したもんっ」


布団に寝かせて、すぐに博士が持たせてくれた薬を飲ませたあと眠ったフランソワーズは、ジョーの携帯電話の震動で目覚めた。


「今日もしてあげるから・・・」
「だってっっ」


さきほど、”京都タワー”へ行くと言うフランソワーズと、それを引き止めるジョーの間であった”どたばた”騒ぎのために、乱れてしまった布団の上で、フランソワーズは自分のコートを抱きしめていた。


「明日、時間があったら京都タワーにはのぼれると思うから」
「・・・」


フランソワーズの傍らに胡座をかいて座るジョーが溜め息をつく。
こんなに元気なら。と、思えなくはないけれど、もしも明日、熱を出して心配した周りが”病院”と言い出すのを避けたかった。


「ごめん・・・」
「・・・」
「オルゴール館も、京都タワーホテルの食事も、たわわちゃんも、・・・ごめん」


ジョーの”ごめん”の言葉に、フランソワーズは抱きしめていたコートに顔を埋めた。


「ごめんね、フラン・・・。でも、キミの体調が一番だから・・・・・・ごめん」



ジョーのせいじゃない。
熱を出した自分が悪い。

無理をして”もしも”のことが起きてはいけないことも、理解している。





「ジョーが謝るの、間違ってるの・・」
「フラン・・・?」
「ごめんなさい・・・。熱を、出したのアタシだもの・・・、ジョー、行きたかったでしょう?だって、ジョーの・・お友達の・・みなさんからのお誘いだったんですもの。・・・ジョーが行かないの、行けないの、アタシのせいだもの・・・・・・」
「フランソワーズ、気にしなくてもいいんだよ?」
「ごめんなさい。熱を出して、ジョーをここに戻ってこさせることになって、・・ごめんなさい」



---そんな・・・ことを、気にして・・・?



「フランソワーズ」



機械の躯なのに。と、ジョーは思う。
フランソワーズに対する想いに反応する、心臓が握りつぶされたように痛むのだ。

敵から受けた”物理的”な痛みとは違う、痛み。
そして、背中の下側からつきあげてくる衝動は、制御不能と点滅するエラーを嘲るかのようにジョーの躯を動かそうとする。

分析不可能な”人のこころ”が生み出す行動は、”機械”には真似できない。
恋愛はまさしく、”人”である証拠。


ボクが人である証拠は、フランソワーズを好きだという気持ち。


「そんなたいしたことじゃないよ。食事くらい・・」


熱は、まったく知らない人の中での、緊張と疲れのせい。と、ジョーは考える。
それが”ストレス”になったのかもしれないと、邸に帰ったらギルモア博士に報告する必要があると判断した。


「でも、ジョーの・・大学の大切な・・お友達たちが誘ってくださったのよ。ジョーは行くべきなの」


人と関わることを恐れるようになった彼女の原因を根本的に解決しないと・・・。と、考えたけれど、もしもその”原因”が解決した時、彼女はギルモア邸を恋しがり、”ホームシック”にかかることもなくなり、フランスへ帰ってしまうのか?と、うなじ部分に鈍い衝撃を受けた。

フランソワーズがいないギルモア邸を、ジョーはもう想像することも、思い出すこともできない。





「アタシは、1人でも大丈夫なの、ジョーの言う通りに大人しく寝ているわね?」






1人で大丈夫。と、言っても、ジョーは優しい人だから。

きっと彼はここにいる。

自分のそばにいてくれる。と、フランソワーズはジョーの行動を読む。
だからこそ、”自分も行かないと”。と、躍起になった。けれど、今のジョーの様子では絶対に無理だ。と、判断する。


「ね?」


フランソワーズはコートに埋めていた顔をあげて微笑んだ。
アタシは大丈夫、平気よ。と言う想いをこめて。


「熱もお薬のお陰でひいているわ、アタシが行けなくても、ジョーは行けるでしょう?せっかくの京都タワーに展望レストランなのでしょう?・・・今からでも湯田さんにお電話すればきっと間に合うわ」
「熱を出したキミを置いていけると思う?」


フランソワーズの想像通りのジョーの言葉に、嬉しさを噛み締める。
甘えて良い。と、言ってくれた言葉を思い出しつつも、ちらつく”あの人”の顔がフランソワーズのこころを固くしていく。


「大学の方々との”おつきあい”は大切にしないといけないって、博士が常々おっしゃってるわ」
「それは・・・”飲み”とか、そういうのだろう?また違うよ」
「違うことないわ。ね?・・・行ってちょうだい」
「フラン・・・」


手に持っていたコートをフランソワーズは置いて、膝立ちになった彼女は乱れてしまった布団をととのえ始めた。


「ここで待ってるわ」
「だから、フランソワ-ズ・・断ったんだよ、もう」
「でも、約束していたのは8時半でしょう?今からでも大丈夫よ、湯田さんにお電話してちょうだい」


ジョーの口がへの字をつくる。
フランソワーズの見えない手が、ジョーの躯を押して距離を取ろうとしているように思えた。


「心配性ね、アタシは003よ?」


機嫌が斜めになってくれた方がましだ。と、ジョーは思う。
今みたいに取りつく島を与えないように突き放す、こういうときに”003”でいようとするフランソワーズをジョーは嫌う。


「フランソワーズ」


掛布団の端っこを手にもち、軽くはためかせてねじれをなおす。
宙に浮いた掛布団からふうわりと起こした風が、ジョーの長い前髪をはらうと、彼の琥珀色の双眸があわられる。

ととのえた布団に潜り込むと、躯をジョーの方へと寝返り打ち、にこ。っと笑った。


「ね?・・・・・・平気よ、アタシは1人でも平気なの、009の言う通りに大人しく寝てるわ」
「・・・・」


ジョーの利き手が伸びてフランソワーズの前髪をよけ、おでこにあてられた。
フランソワーズは瞼を閉じて、ジョーの手の感触にそっと溜め息を吐く。

ジョーの手が移動して、フランソワーズの頬にあてられれ、左手も同じように。
フランソワーズは頬を包まれて、閉じていた瞼を開くと、ジョーの琥珀色の瞳の中に映る自分と目が合った。


ジョーのおでこと、フランソワーズのおでこが音も無く触れ合う。


「・・・」


呼吸するための空気を奪い合ってしまう距離に、フランソワーズは息を止める。


「・・・さっき暴れたから、また少し熱があがってるよ・・・。でも、フランソワーズは薬を飲んだしね、これはボクの熱かも・・ってことで、フランソワーズと一緒に休むことにする!」


フランソワーズのおでこから離れたジョーは、そのまま畳の上、フランソワーズの布団の隣にごろん。と、俯せに寝転がった。


「ジョー!」
「ああ、くらくらする。多分、ボクも熱があるんだ」


ねかせていた躯を起こしてフランソワーズはジョーを睨んだ。


「嘘っ!!」
「嘘じゃない、ボクの顔、紅いよ・・・熱のせいだ」


確かに、ジョーの顔はフランソワーズよりも明らかに紅い。
それは”熱”のせいじゃないことなど、本人が一番わかっている。


「ほら、寝るよ!」
「も!!」
「病人は寝るもんなんだから!」


ぐいっと、フランソワーズの腕をひいて、彼女を再び布団に寝かせた。


「はい、お休み!」


フランソワーズが起き上がらないように、腕を押さえて、顔はフランソワーズの方へむけたままジョーは瞼を閉じた。


「・・・・・痛いのよ?」
「勝手にたわわちゃんに会いに行かれたら困るから」


瞼を閉じたまま紅い顔で答えた。


「・・・」


仰向けに布団に横になったフランソワーズは、掴まれた腕を動かした。


「!」


さらに、ジョーの顔が紅くなる。


「こっちの方がいいわ、寝やすいもの」


フランソワーズの言葉にジョーは答えない。
電気がついたままの、明るい部屋。
遠い、川のせせらぎが聴こえてくるほどの静寂が部屋に訪れた。



「・・・・・ジョー、ごめんなさい」
「・・・フランソワーズのせいじゃない。」


ジョーは繋いだ手に力をいれた。


「ごめんなさい」
「・・・・・・・・・・・今度言ったら、怒るからね?」
「怖くないわ、ジョーが怒っても」
「でも、怒るから」


フランソワーズは顔をジョーの方へと動かして、じっと、瞼を閉じたジョーを見つめる。


「ねえ」
「・・・・・・・・・」
「ジョーは・・・」


フランソワーズの言葉の続きを待つ。
けれど、先が続かないために、ジョーは片目を開いた。


「なに?」


フランソワーズの胸前あたりで繋いでいた手が、顔前まで移動した。
すると、仰向きだった躯をフランソワーズはジョーの方へと向けた。


「・・・・甘えていいの?」
「・・・・・・いい、って・・言ったよ・・昼間」


機械の心臓に牧場などない。
競馬ゲームのデータを取り込んだ補助脳が暴れ馬を買ってしまった方が、まだ正しい表現であるかもしれない。


「手、繋いだままでもいい?」


あけていた、片目の瞼をおろした。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・イチイチ訊かなくて良いよ。手くらい、いつだって、いつまでだって繋ぐよ」


ぶっきら棒に答えた。


「いつでも?」
「いつでも」
「明日も?」
「明日も」
「明後日も?」
「明後日も」
「・・・・・・・ずっと?」
「ずっと、どんなときでも、つなぎたいときに、つなぐ」


ジョーは自分の体温がどんどんあがっていくのを感じて、それに素直に反応する皮膚組織の優秀さに舌打ちをつきながら、フランソワーズの方を向いていた顔を、繋いでない方の腕にのせて隠した。


フランソワーズはジョーと繋いだ手を見つめた。その先にぼやけてみえる、栗色の髪。



自分の手よりも大きな手。




---ジョーはアタシと手を繋いでくれているのよ・・・。







瞳で捕らえる繋いだ手。
その手の温度に、感触に、京都旅行が決まったときから感じていたすべての不安が溶けていく。

初めて出会った人たちに囲まれた緊張も、何もかも。


京都駅で再び目にした水沢美奈子の、姿も。



フランソワーズが知らないジョー。

水沢美奈子と一緒いいるときのジョー、湯田と話す時の、稲葉りかこと、原千里と、・・・フランソワーズの知らない人々と接する、フランソワーズが知らないジョーも、ジョー。

手を繋いでいてくれる、ジョーと同じ人。





自分の知らないジョーがいるって、もしかしたら素敵なことなのかもしれない。
まだまだたくさんの”ジョー”に出会える。





その全部のジョーを知ることができたら・・・。






きゅ。と、指に力をいれると、それに答えるかのように、ジョーの指にも力が入る。
ゆっくりと瞼をおろして、フランソワーズは再び眠った。


---ジョーに、好きって言っても大丈夫?










####

湯田が泊まる部屋は、泊まる別棟の玄関に近い部屋。
その部屋に、同室のジョーどころか、岸辺、橋本の姿もなく、真っ暗だった。
あっちか。と、湯田は呟く。


「ここじゃないなあ。ま、当然か?」


買った荷物を放り投げるように部屋に置くと、部屋の入り口に立つ3人に言った。


「アルヌールさんを寝かせるならここじゃないですって」


当然!と言う感じでりか子が言った。
手に持つ戦利品とともに、フランソワーズとジョーがいるであろう部屋に向かった。


千里が部屋の鍵をあける。

かちゃり。と、ドアに鍵が差し込まれた瞬間、ジョーは迷いなく瞼をあけた。


その気配が、何者ものであるかを確認すると同時に、さっと空気さえも振動させることなく身を起こし、手をつないだ、隣に眠る大切な人の安全を確認する。


「・・・帰っていらしただけ」


静かに、フランソワーズが瞼をあけることなくジョーに言葉をかけた。


「あ。うん・・・・、そうみたいだ、ね」
「朝もそれくらいちゃんと起きて欲しいのだけど・・・」


青の宝石があらわれて、あくびを噛み殺すかのように深呼吸しながら、フランソワーズは呟いた。


「いや・・・なんと言うか状況が、色々と・・・違うし、さ?」


うにゃうにゃと言い訳するジョーに、ふふ。と、布団に潜ったまま笑う。





「どうだあ、島村、アルヌールさんの具合は」
「薬のお陰で彼女の熱はもう・・」


鍵をあけた千里のすぐ後に、湯田がジョーに声をかける。
続いて、りか子、美奈子と続いた。


「せっかく誘ってくださったのに、すみませんでした・・・」


4人が手に持つ、荷物のがさがさとした音に消えてしまいそうなフランソワーズの小さな声。


「気にしない、気にしない。疲れたんだね・・・もう大丈夫かな?」
「具合どうですか?」
「顔色はいいみたい、ね、美奈子」
「・・・喉はかわいてない?お茶か・・お水がいいかな?いれわね」


ゆっくりと布団から起き上がったフランソワーズに4人それぞれに、反応し、視線はフランソワーズに寄り添うジョーの膝上に一瞬だけ集中したことに2人は気づかなかった。


「すごい荷物ですね・・・それに・・・」


夕食をすませて戻ってくるには、戻ってくるのが早いと思われた。


「予定を変更したんだ」
「・・・すみません」
「いやいや、これはこれで、なかなかいいぞお!夕飯喰ってないんだろ?」


千里が行きたがっていた二澤頒布の店に行き、それぞれに気に入った品を手に店を出た直後、湯田の携帯電話にジョーからメールが入った。

メールを読み、すぐに湯田がジョーの携帯に電話をかけたが繋がらなかった。その後30分ほどして、旅館に着いたジョーの方から湯田の携帯に電話がかかり、ジョーからの電話の内容を聞いた後、4人は予約をいれたレストランをキャンセルし、河原町まで出ると、その土地でなければ食べられないもの。を、合い言葉に、たくさんの食料(すぐに食べられて調理不要)のものを手当り次第に購入し、旅館へと戻って来た。


「これも旅の醍醐味だあ!島村、地酒!”つき○桂”に”古○千年”に”松○みどり”!!ビールはまだ準備室に残ってるみたいだからなあ、取りにいくぞお」
「!」
「あとは冷やでだ!」


にんまり。と、ジョーに笑いかける湯田。


「食べ歩きって、けっこう”量”はこなせませんし」
「人数が居た方がいいですよね、味見がいっぱいできて!」
「嵐山にきたらこれ、食べないと!」
「「どらサ○ヤ!!」」
「りか、千里ちゃん、それはデザートよ」
「!」


二間ある部屋の、大きな木造りのテーブルの上にどかどかと並べられる”戦利品”たちを、ジョーとフランソワーズは呆然とみつめた。


「島村くん、アルヌールさん、ボウッとしてるとなくなるわよ?私たちお腹空いてるんだから!」


ちゃきちゃきと、りか子が2人をテーブルにつくように呼ぶ。


「気分は?」
「・・お腹空いたわ」
「・・・・」


昼間あれだけ食べたのに?と、呆れながら、ジョーはフランソワーズと繋いだままの手に視線を一度、落とす。
その視線に気がついて、フランソワーズは手の力をぬいて、手を離そうとしたけれど、ジョーは逆にしっかりとフランソワーズの手を握った。


「ジョー?」
「・・・別に、ただ、・・まあ・・・ずっと?」
「アタシはいいけど・・・あのね」
「なに?」
「ジョーは俯せだったでしょ?」
「うん」
「アタシは仰向けだったの」
「うん」
「ジョーは背中を向けたまま食べるの?」
「あ・・・」


ジョーの膝上の繋がれた手はともに左手で繋がれていた。


「なんだあ?島村、アルヌールさんじゃなくて、お前が熱あるんじゃないのかあ?」
「いえっ!!」


湯田の声に、くすくすと笑うフランソワーズは、そっとジョーの手から自分の手を離して言った。


「ご飯のときは無理よね!」
「・・・・・・そうですね」


紅い顔で、素直に頷いておく。













####

6人分、を遥かに超えて広げられた”ご当地”もの。
テーブルについたジョーは、改めてスケジュールを変更させてしまったことを謝り、そして、フランソワーズと一緒に、並べられた夕食に礼を言った。

熱を出していたとは思えないフランソワ-ズの食欲に、ジョーは安堵するも、逆に”食べ過ぎ!”と心配する姿に笑いが起こる。フランソワーズは”これもデザートに”と、ジョーに買ってもらったチョコあられをテーブルに並べた。

フランソワーズのことを気遣い、早めに夕食を切り上げる。が、酒に、十分なおつまみも残っているので、フランソワーズの体調を見つつ、一度温泉にいき、続きはその後で。と、湯田はジョーを温泉に誘った。

”飲み”なら女性陣の部屋でなくてもいいために、フランソワーズを早めに休ませるなら、会場移動予定である。


「迷惑かけちゃ駄目だよ?」
「ええ」


フランソワーズもお風呂でさっぱりしたいと言ったので、同室の女性陣も話しの流れ的に温泉へむかうことになった。


「しんどかったら、無理しないですぐにあがるんだ、いい?」
「わかってるわ」
「気分は?」
「大丈夫よ」
「長湯は駄目だからね」
「気をつけるわ」
「昨日みたいに待ってなくていいから、湯冷めしたら意味ないんだから」
「風邪をひいたわけじゃないのよ?」
「わかんないだろ?・・・だから、すぐに部屋に戻って布団の中にいるんだよ?」
<そうだ!出るときは一言、通信してくれる?それなら、タイミングをあわせられるから>
「も!」
「いいね?」
「・・・」
「温泉からあがったら水分補給だよ?」
「・・・」
「わかってる?」
「・・・」
「返事は?」
「・・・」
「聴いてる?」
「・・・」
「アルヌールさん、お風呂って意外と体力消耗するから、水分補給は大切だよ。気をつけてね?」
「はい、気をつけます」
「・・・・・・・・・湯田さんには素直なんだ」
「ジョーがしつこいの!」
「しつこいって・・・」
「子ども扱いしないで!」
「してないよ、ただちゃんと確認を・・・」
「それが子ども扱いなの!」


くくく、と湯田が喉で笑う。
りか子はその”心配性”具合に呆れて、千里は別に気にする事無く、温泉の入り口、男女にわかれる前の廊下で、ジョーとフランソワーズのやり取りを見物。
美奈子は、部屋からここまでの廊下の間、親友のりか子とも何も言葉を交わすことなく無言であった。
フランソワーズからではなく、ジョーから繋がれた手を、その瞬間を目にしていたために。


「悪化したら困るから、言ってるんだよ?」
「しないわ!博士のお薬飲んだもの!」
「薬は万能じゃないよ、知ってるだろう?」
「自分のケアは自分でできるの」
「・・・・熱出したの、どこの誰ですか?」
「それとこれとはお伽の国よ!」
「別っていいたいんだね?」


にっこり。と、花が咲くように愛らしく笑ったフランソワーズに、もうジョーは何も言えない。


「ジョー」
「なに?」
「そんなに心配なら、アタシそっちに入っても良いのよ?」
「「「「?!」」」」
「おお、それは嬉しいなあ。なあ、島村」
「だって、ジョーのh」
「ふらああああああああああああああああああんっ!!!」
「ふぽrkなんt、mんrtrmno!」
(躯なんて、見慣れてるもの!)


フランソワーズの口をジョーは力任せに塞いだ。


「温泉!フランソワーズ、ここは邸のお風呂じゃないんだからっ」
「家では一緒に入っているのか・・・島村?」
「nm~!」
「違いますっ!!フランは勘違いしてるんですっ、邸だと風呂は1つだしっ男女共有でしょ、別れないし!!」
「ああ、なるほどね!」


りか子が納得する。
千里はふうん。と、頷き、湯田は納得しているものの瞳は明らかに疑っていた。


「じゃ、行きましょう・・・」


美奈子は、微笑みながら温泉に入る事を促した。


<出る時はちゃんと言ってよ、いいね?>
<も!わかりました!!>






夜の露天風呂は、その周りを灯籠の灯に囲まれてほんわりと浮かび上がる紅が幻想的であり、濃紺の夜空にくっきりと浮かぶ下つ弓張と星の穏やかなまたたきに、深く、深く躯中の空気を吐き出した。


「そんなに、好きか?」


特にこれといった会話がなくとも、湯田とジョーは各々に湯を楽しんでいた。
ジョーにとって、自分が”サイボーグ”であることを意識することも、何もなく、ただ”友人”として同じ空間にいることができる湯田の存在は大きい。


「はい」


そんな湯田の唐突な言葉に、照れることも隠す事も無く、ジョーはきっぱりと言い切った。
湯田にはすでに、フランソワーズにたいする自分の気持ちを打ち明けている上に、彼女と自分が持つ”複雑”さも、肝心な部分は隠して、話している。


「島村は彼女のさ、どこが好きなわけだ?容姿とか、それはナシな?誰が観ても文句無く美少女だから、それはカウントされないぞ?」


男側の露天の湯には、湯田とジョーの2人きりだった。
ジョーは肩までしっかりと躯を沈めて、瞼を閉じた。


部屋にいたときよりもはっきりと聴こえる川の流れに、波音が恋しくなる。


「・・・フランソワーズが好きなことが、好き。なんです」
「?」
「彼女を好きでいることが、・・・そんな自分が嬉しいんです、ただ・・、うん。・・・どこが好き、とか、そういうのよく、わからないんですけれど、フランソワーズを好きだなあ、て感じるときが、好きなんです」
「・・・そうかあ」
「人を好きになったら、・・・・・・”損”をするって思っていたのに」
「損?」
「言いましたよね?ボクは・・・施設育ちで親の顔も知らないって」
「ああ」
「・・・・・・怖かったんですよね、好きになっても”捨てられる””別れる””嫌われる””受け入れてもらえない”・・
なんでも人間関係、”どうせ俺なんて”って言う投げやりな・・・ネガティブに全部ナナメで物事を捕らえていたんですけど」
「今の島村じゃ、信じられないなあ」


ざばあ。と、湯から上げた湯田の手が拳をつくり、ジョーの肩を突いた。


「かなり・・荒れてましたよ?」


当時を思い出したのか、ジョーは恥ずかしそうに、苦笑した。


「毎回、その話しをきくけど、いまいちピンとこないんだなあ・・・まあ、それはそれで、おもしろいけど。そんときに会ってたらどうなってたかなあ」
「・・・会わなくてよかったです。湯田さんにぼっこぼこにされてたと思うんで・・・」
「ははは!そうかもなあ」
「フランソワーズって・・・そういうの考える暇を与えないっていうか・・・・彼女と一緒にいると・・・・、必死になれるんです」
「必死に?」
「生きることに、幸せになろうってことに・・」


どぼん。と、ジョーは湯に頭を沈めた。
そのジョーの答えを機に会話は消え、川の流れの音だけとなった。


「そこまで言うなら、誰も・・・・・・島村の気持ちを変えるなんてできないなあ・・・・」


ざば。っと、湯から出て来たジョーにむかって湯田は笑った。


「なあ、島村」
「はい」

ぬれた長い髪をなでつけるように、かきあげると、滅多に見ることがないジョーの双眸が湯田の前にあらわれた。


---いい顔してるよなあ・・・前髪で顔半分隠してなかったら、今の1000倍持ててるぞ・・・?


「お前が好きだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ありがとうございます」
「女でなくて、悪かったなあ」
「いえ、湯田さんは男上等です」
「いやあ、・・・オレが女だったら、アルヌールさんに勝てるかなあっと、こう、勝負師としては・・・」
「勝てるわけないですよ」
「おおっと?」
「相手はフランソワーズですよ?誰が勝てるんですか?」
「すごいな・・・言い切るか?」
「知らないんですよ、湯田さんは・・・彼女のすごさ」
「のろけか!」
「いや・・・のろけとかじゃなく、本気で・・・すごいんですから・・・・・」


そこで溜め息をつくか?と、湯田はジョーをのぞきこむ。


「島村、その”すごい”はどれだ?」
「・・・・・・・・・・・いろんな意味で、です」


そこには”言えない”もう1人の彼女の姿。


「今朝の起こし方とか?」
「たわわちゃんとか・・・」
「ああ。そういえば、前に・・・女の子の好きなものって何かぶつぶつ言ってたなあ?」
「今回だって、家族用の土産の”和菓子”しか買ってないんですよ・・・、行く前にあれだけリサーチしていたのに・・・品を目の前にして手に取るだけで・・・・」
「そういうこともあるさ。・・・なんだ、そんなこと気にしてたのか?」
「気にします」
「でも、しっかり”食べてる”からいいんじゃないか?島村さあ、心配性というか、過保護と言うか、過干渉は嫌われるぞ?」
「そうでもしないと、・・・・・彼女、隠すんです」
「隠す?」


ジョーは躯の向きを少しだけ女湯との境界となっている簾の方へとむけた。


「放っておくと、なんでもかんでも・・・自分のせいにして、・・・・・他人のことも自分のことのようにして、捉えるから、彼女のこころが壊れてしまうんじゃないかって・・・・」
「こころが壊れるねえ・・・」
「ボクは昔”遊んで”たから・・・それなりに自分の息抜きって言うか、”誤摩化す”ことを知ってるけど、フランは・・・」
「そんな風には見えないけどなあ・・・」
「上手いんですよ、だから・・・怖いんです」
「怖い?」


遠くで、人の声が聴こえた。


「今回のこの旅で彼女はどれくらい傷ついたのかって考えてしまうんです」
「傷つく?なんでだあ?」
「・・・熱を出してしまうくらいに、何か思い詰めてしまうことがあったのかって、ボクの知らない間に」
「その原因が自分にあるって思わないのか?」
「え?」
「・・・・・・・・・あのさあ、島村」
「はい」


室内湯のほうに数人の学生がやってきた様子だ。


「彼女のためにも、もう少しちゃんと周りを見ろ。まわりの人間(女性)にもほんの少しでいいからアルヌールさんくらいに、注意を払え。それが、彼女のためになるから」
「・・・・湯田さん?」
「誰にでも優しい、みんなの”島村くん”でいられないときだってあるだろう?平和主義なのはわかるが、それだけじゃ世の中渡って行けないぞ?」
「・・・」
「解らないなら、解らないでいいけど、そんなに好きな子なんだったら、その子のためにもしっかり人間磨かないとな!」


ジョーにむかってぴゅう!と湯田は湯鉄砲を飛ばした。
綺麗に弧を描き、ジョーの肩に命中する。


「湯田さん」
「おう、なんだあ?」
「ボクも好きです」
「そうかあ・・参ったなあ・・・・ペアリングはどこのにする?」
「・・・クロ○ハーツあたりでどうですか?」
「ロイ○ル・オーダーでもいいぞ?」
「おまかせします」
「クリスマス・プレゼントはそれでいいか?」
「じゃ、ボクは・・・・ケーキ焼きますね」
「いいよ、ケーキは・・・ホテル予約しておくから」
「そんな!それじゃ湯田さんにばっかり・・・・」
「いいって、いいって・・・島村のためなら、さ」
「湯田さん・・・」


露天へと移動しようとした学生たちが、その入り口で息を顰めて立ち尽くしてしまった様子を知り、ジョーと湯田は大声で笑いあった。











####

<ジョー、アタシ出るわね>
<フランソワーズ、大丈夫?>


ジョーと湯田が楽しそうに笑い合う声に、数人の学生たちの声が混ざり、フランソワーズは通信を送ることに躊躇うが、言われた通りに、身支度を整え終えた後、報告をいれた。

<大丈夫よ>
<じゃ、ボクもすぐに出る>
<いいの・・・・・。ジョーはゆっくりして?笑い声がこっちまで聴こえたわ!楽しんで・・・。ね?>
<気にしなくて良いよ、人数も増えたし、これ以上ここにいたら長湯になるし>
<長湯じゃない、ジョー>
<そうだけど、ゆっくり入るのはもう無理だよ。だから出る>


フランソワーズから脳波通信を受け取り、ジョーも温泉から出ると、湯田とジョーの”ジョーク”であったと知ったあとでもぎこちない様子の学生たちに告げた。
湯田はもうしばらく湯を楽しむといい、湯に残った。


「疲れた?・・・元気がないけど・・・・・」
「そんなことないわ!・・ちょっと喉が渇いたの」
「温泉で何かあった?」
「何もないわ!」
「・・・また隠す」
「隠してなんかなくてよ?」


温泉前に別れた場所と同じ廊下で会い、ジョーはフランソワーズの手をとり、行きと同じように手を繋いでフランソワーズの泊まる部屋まで歩く。

湯であがったジョーの体温が、さらにあがる。
この旅から帰ったら、博士に検診してもらう必要があるかも。と、ジョーは自分の人工心臓の耐久力がどれほどのものか、自信がなくなりつつあった。



「ボクに言えないようなこと?」
「別に、そういうのじゃないわ!・・・ただ、やっぱりアタシはって・・・・・思ったの」
「やっぱり?」


フランソワーズは足を止めて、ジョーを見上げる。
フランソワーズを待たせたくなくて急いで出て来たために、髪はまだ濡れたままで、肩にタオルをかけていた。


「怒らないでね?」
「怒るようなこと?」
「いいえ」
「じゃあ、怒らないよ」
「でも、もしかしたら・・ジョー、大学にいずらくなったり・・・」
「ええ?どうして???」


フランソワーズの言葉に、ジョーは驚く。
自分が大学に居られなくなるようなことが、このほんの3、40分ほどの間にあったとのか?と。そうなると、ジョーが思い当たる原因は”サイボーグ”である何かが知られてしまったことしか思い浮かばない。


「・・・・アタシの肌に、シミも、ホクロもないの」
「!」


ジョーも同じことを言われたことがあるのかしら?と、言う疑問もあり、フランソワーズは言われた言葉を口にした。
どんな小さな事が”サイボーグ”と言うことに繋がってしまうか、解らない。
009であるジョーには報告の義務がある。


「ホクロ1つないのね、って・・・忘れていたわ、そういうの・・・」
「そんなの誰も気にしないよ」


なんだ、そんなことか。と、ばかりに緊張した躯の力を抜いた。
ジョーの脳裏に浮かんだ状況とはまったく比べものにならないほどに、フランソワーズの口から出た内容は小さなことだった。


「産毛なんて、戦闘に必要ないもの、ね?」
「・・・・・欲しい?」
「わからないわ。でも、それがあるのが”当り前”でしょう?」
「・・・他は?」


ジョーは、部屋にむかって歩き出した。
その歩みに従うかのように、フランソワーズは先ほどの会話を思い出すように、口にした。


「他は、あんなに食べて、太らないの、とか。・・・・手足の長さに、プロポーションとか、胸の形とか、色とか・」


それらの内容に、覚えがある。
施設育ちのジョーは、思春期の”女の子”たちのリアルな会話を耳にしていた経験がある。
女の子は、結局いくつになっても、話す内容は変わらないんだな。と、男だって似たようなものだと言うことを棚にあげた感想を持った。


「隣の芝は青い。隣の隣りの糂味噌。隣の宝を数える。隣の花は赤い・・・だよ、気にしないで良い」
「なあに、それ?」
「他人ばかりがよく見えるってこと。まず、サイボーグ以前に、フランは”日本人”じゃないしね、日本人は欧米人体系コンプレックスってあるんだよ。それにさ、今の世の中、レーザーとか審美医療とか、すごい大金払ってシミ・ホクロ・産毛なんかを除去する世の中なんだし・・・。羨ましいんだよ。ただそれだけ」
「・・・・」
「昨日、オオガミ教授と一緒だったとき、そんなこと言われなかっただろ?」
「そうだけど・・・」
「みんなが、同性の子が羨ましいくらいに、綺麗なんだよ、フランソワーズは。改造されたって言ってもさ、整形したわけじゃないんだよ。前のまんまなんだし。それは”同じ”ボクがよくわかってるよ、ボクは男だから、細かいところまで、そんな風に気がつかなかったけど・・・・。フランソワーズがすごく可愛くて綺麗なのを、ただ羨ましくてそういうことを言ってるだけだと思う。だから、逆に自慢してもいいよ」
「ジョー・・・?」


お酒が入っているせいなのか、温泉の効能か、湯田とあのような話しをしていたためか、それともここが”旅先”のためなのか、これらが混じり合った結果であるためか、さらり。と言葉にしていることに、気がついていない。


「なに?」
「アナタ、熱があるんじゃなくて?」
「ないよ?熱なんて」


フランソワーズはジョーの前に立ち、彼の歩みを止めた。
じっと自分を見つめる大きな、こぼれ落ちてしまわないかと心配してしまうほどに大きな青の宝石。


「ジョー?」
「心配しなくても、ボクは熱なんてないよ?」
「・・・・・気にしなくて、いいのね?」
「気にしなくて良い」
「サイボーグって気づかれてなくて?」
「誰もそんなことくらいで”サイボーグ”になんて結びつけないよ・・・」
「・・・・ジョーが大学を辞めないといけないなんてことに、なったりしない?」
「絶対にないよ。辞める事になったとしても、それはフランソワーズのせいじゃない」
「本当に?」
「本当に」
「絶対に?」
「絶対に!」


フランソワーズはジョーの手を引っ張るようにして、部屋へと急ぎ足に進めた。


「ジョー」
「なに?」
「みなさんがいらっしゃらない間に少しだけ、アタシも飲んでいい?」
「地酒?・・そういえば飲んでないね、フラン」
「17歳だもの!」
「あ・・・・そうか。今度から20歳って言ったら?」
「ま!アタシってそんなに老けていて?」
「老けて・・て・・・それ、絶対に他の女の人の前で言っちゃ駄目だよ?」
「ジョー、急いで!!飲めなくなっちゃうわ!」
「別にみんなが居ても、飲んでもいいと思うけど?」
「未成年に飲ませた罪で、ジョー大学いられなくなったら困るし、警察に捕まったらどうするの?!博士にご迷惑を置けするし、イワンはまだ夜の時間なのよ?」
「・・・・・・大げさです」
「早くっs!!」
「わかったって、走らなくて良いよ、また熱が出るよ?・・・って、飲んでいいの?」
「お酒は百薬の長!」
「グレート・・・・」








####

「人の体のこと、あんな風に言うものじゃないと思う、千里ちゃん」
「すみません・・・つい。だって本当に綺麗だったし・・・作られたみたいに、完璧で・・・・」


援護を求めるように、りか子へ視線をむけた。


「まあ、確かに、あれは見事としか言いようがないわ!興奮してしまうのも、同性ながらに理解できる」
「でも、怖がらせたら駄目よ」
「あとで、アルヌールさんに謝ります」
「それがいいわ・・・彼女が気にしてなかったとしても、ね?」


りか子は、美奈子の様子が”いつも”の彼女過ぎて逆に不自然に思った。
手をつないでいた2人にたいしても、彼女は変わらない。

昨日と今日の昼食までの彼女の方が”自然”だった。


「美奈子、どうしたの?」
「なに、りか子?」
「・・・・・・なんか、ねえ」
「なんか、なによ」


湯からあがり、身支度を整えながら、脱衣所の壁に設えられた大きな鏡つきの洗面台の前に立つ3人は、鏡越しに視線を合わせる。


「今の心境を訊きたいなあって・・・美奈子の」
「・・・・・・よく、わかったわ」
「なにが?」


腕を伸ばして取った、備え付けのドライヤーのスイッチを入れる手を、止めた美奈子。


「嫌なくらいに、もう、見たくも訊きたくもないくらいに、島村くんが、アルヌールさんのこと大切に思ってるってことよ!」
「・・・・・・」


千里は洗面台に広げていたポーチの中身をささっとしまい、そこから離れて、カゴの中の荷物を手に持つと、”お先です”と、脱衣所をあとにする。まだ、彼女は化粧水さえつけていなかった。

からからから、と。スライドさせたドアが、ぱたり。と閉まったとき、美奈子はぽろぽろと涙をこぼしはじめた。


「だって、好きなんだものっ。どうしようないじゃない、・・・急にそんなっ、”はい、島村君はアルヌールさんが好きなのね、わかったわ。アルヌールさんも島村君が好きで、両思いなのね、それじゃあ私は出る幕ないわ、あきらめます。”って部屋の電気をつけたり消したりするみたいに、簡単に切り替えられると思う?!」
「・・・・・・・」
「急になんて無理っ!好きなんだものっ!!」
「・・・・・・うん」
「私はロボットじゃないし、パソコンみたいにdeleteを押して、この想いを簡単になかったことになんか、できないっ!」
「うん」
「好きなんだもんっ好きなのっ!失恋したってわかったわよっ」
「・・・」
「告白もしてないままよっ?島村くん、私の気持ち知らないのにっ!!両思いでもいいって言うしか仕方ないじゃないっ、そうでしょっ、だって好きなままなんだからあっ」
「うん」
「りか子の馬鹿!」
「うん」
「りかのせいだからね!!」
「うん」
「もう、全部、ぜええええええんぶ、りか子のせいっ」
「うん・・・」
「もう一回、温泉はいるっ」
「・・・・・1人がいい?」
「りか子もよっ」
「うん」
「好きなの、今はまだ、好きって言う気持ちの方が強いのよっ。頭でわかっても気持ちがついていかないの!」
「・・・・・・それで、いいんだと思うよ。美奈子は間違ってない。人を好きになるのは自由でしょ?好きでいてもいいいのよ、誰にもそれを、美奈子が島村くんを好きな気持ちを咎める権利なんてないから!」



着たばかりの浴衣を脱いで、再び露天の湯に戻った2人が、部屋に戻ったのは、それほど遅い時間でもなく、湯田が最後の地酒を開けようとしていたときだった。










####

「気分を悪くしたんじゃないかって・・言われて」
「あの、気になさらないでください」
「ごめんね」
「大丈夫ですから」


部屋にジョーとフランソワーズの後に戻って来た千里は、フランソワーズにむかって、美奈子に注意されたことを素直にフランソワーズにむかって謝った。

千里が悪気があって言った事でないことは、すぐに理解できた。そして、それを注意した美奈子に、その言葉に同意してフランソワーズに詫びる千里に、そして、りか子、湯田を思うと、自分は人に恵まれていると、気持ちが温かくなる。


「そんなに、かあ?」


けれど、酒の席。
話しは見事におかしな方向へと進む。


「すんごいです!」
「して、それはどのように?」
「湯田さん!?」
「島村、見るわけじゃないんだし、原の口くらい許せ!」
「信じられないくらい、くびれてますっ」
「ほお!」
「色白いし、シミないし、ほんのり光ってるみたいでつるっつるだしっ、華奢だし、手足長いし、高○留美子マンガみたいな感じで」
「ラムちゃんかあ?」
「どっちかっていうと、ら○ま女版」
「御見事!」
「同じ人間だと思えないくらい、線が細いのにっ」
「細いのにっ?」
「ちゃんと胸が、お尻があるっ」
「どんな風か、言ってみよう!!」
「ぼん!なお椀型のトップは若さなのツンと上向き、きゅーとキュートなくびれについた、芸術は立て臍っ!が、ぷるるん・ゼリーな桃!でしたっ」


湯田が千里にむかって盛大に拍手する。


「アタシって、そうなの?ジョー?」


自分の躯のことでありながら、確認するようにジョーにむかって、小首を愛らしく傾げて訊ねたフランソワーズは、自分の躯が人とかけ離れて”変”ではないことが確認できたようで、嬉しそうだった。


「そうなのか?」


便乗する湯田。


「そうですよね!」


同意を求める、興奮気味の千里。


「みたことないっ、知らないっ、わかりませんっ!」


湯のみについだ冷酒を一気に煽って誤摩化した。


「それじゃこちらもそれなりに・・」


ジョーの心臓が早鐘を打ち、想像しようとする絵を必死で酒で押し流しつつ、この会話はかなりの”セクハラ”なのでは、とフランソワーズの気分を害しないかハラハラしていたが、フランソワーズは自分の躯が人とかけ離れて”変”ではないことが確認できたようで、嬉しそうである。

昨日よりもフランソワーズの態度が軟化しており、邸でみる彼女らしさがみられるようになってきたことが、ジョーにとっては一番嬉しい事だった。


「なんですか!」
「こちら、とても素晴らしいものをお持ちです」


湯田がテレビショッピングの司会者が今回の目玉商品とばかりに、ジョーを扱った。
かなり悪ノリし始めている。


「湯田さんっ!」
「さすが、ハーフですか?」
「さすがハーフでございます」
「素晴らしいって、ジョー、何をもっているの?」
「・・・・・・・・・・・・・・いいから、聞き流しておこうね?」


これ以上は湯田に飲ませない方が良いと、ジョーの過去の経験が知らせる。


「隠してるのね!」
「・・・・・・フランソワーズ」
「意地悪ね!」
「意地悪じゃないよ・・・」
「ずるいわ!」
「・・・・・・ずるいっていわれても」
「博士に言いつけるから!」
「いや、博士には言わない方が・・・」
「も!ジョーだけなんてずるっこだわ!」
「・・・・・・・ボクだけじゃないって、ボクだけってどうしてそうなるんだよ?」


---キミはボクのメンテナンスの時に、”見てる”って言ったから・・・・知ってると思うんだけど。今までの会話の流れで、どうして繋がらないんだよ・・・。


「原さん、これ以上は湯田さんには駄目ですよ・・・。変わります」
「島村くんしか生け贄はいないですね、ま。いいんじゃないですか?」
「・・・・・・・・・・嫌です」
「国際色豊かな家族構成と訊いてますから、キスくらい!」
「家族と挨拶のキスなんてしません」
「え?そうなんですか?」
「そうなの、ジョーはしないの!」
「アルヌールさんとも?」
「ええ、ひどいでしょ?」
「ひどいですね!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・いいから、・・・・フラン、そろそろ休もう」
「あ、その言い方、なんかやらしいなあ、島村ぁ」
「いやらしいですう、島村くん!」


湯田と同様に悪のりしだした千里のペースにジョーは溜め息をついた。
フランソワーズは自分のペースを乱すことなく、いつもと変わらないことが、すごいとジョーは思う。


「いやらしいの?」
「休もう、なんて夫婦っぽいです!」
「ふーふ?子○まのフーフちゃんがどうしたの?」
「???」


フランソワーズの解答に、目に?マークを浮かべる千里。
ジョーが助け舟を出す。


「・・・・・子○まの”フーフ”って言う絵本があるんだよ」
「はあ・・そうなんですか」


ちょっと外れたフランソワーズのテンポに、千里はときおり戸惑い、ジョーがそれらを補う形が、なんとなくパターン化してきた。


「・・・これが最後の瓶かあ」
「せっかくの地酒、お土産にされてはいかがです?」


ジョーは営業マンのような口調で、にっこり爽やかに湯田に言った。けれど、ちょうど、良い(悪い?)タイミングで美奈子、りか子が部屋に戻ってきたので、2人のために、その瓶はあけられた。

2人が部屋に戻ってくると、がらりの部屋の空気がかわり、ジョーはほっとする。
そして、湯田・原コンビの酒の席は要注意と、しっかりとその優秀な補助脳に叩き込んでおいた。





「フラン、薬・・・寝る前にもだよ、忘れないでね」


酒もつき、おつまみも食べ散らかされ、明日の朝も早いために少しずつ、終宴の雰囲気が漂う。


「ええ、でも・・・」
「ん?」
「ジョー、忘れてなくて?」
「んん?」
「ねえ、忘れてるでしょう?」
「んん・・・・・・ん」


フランソワーズが何を言わんとしているか、わかっているのであるが、言葉が出てこない。


「くるくる♪」
「!」
「明日?でも、朝早くここを出るのでしょう?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あの、ですねえ、フランソワーズさん」
「はい?」


隣に座っているフランソワーズに向かってジョーは胡座をかいていた足を正座し、姿勢を正したので、フランソワーズも躯をジョーの正面へと向かい合うように動かし、同じように正座した。


「くるくる♪なんだけどね」
「なあに?」


何事かと、りか子がチョコあられをつまみながら、ジョーとフランソワーズの会話に耳をすました。


「どんな風に、アルベルトから訊いたの?」
「温泉宿に泊まった男女は、絶対にやらなければならない、楽しい儀式(イベント)がまってるってよ?」
「・・・・・・・ある意味、はずれてはいません。でも、”かならず”で、絶対ではないよ」
「絶対じゃないの?」
「絶対じゃない。現に、誰も”くるくる”をしていないだろ?それにそんなこと、誰も言ってない」
「そうねえ・・・変ね、アルベルトが間違ったのかしら?」


湯田は、昨日からの話しの流れをすべて知っているので、面白そうに2人を傍観していた。


「彼はドイツ人だよ、日本人のボクが言ってるんだから、ね?」
「でもね、ジョーは朝起きられなくて、アタシが起こしたわ!約束は約束だと思うの」
「くるくる♪の意味をちゃんと理解してないよね?フランは・・」
「あら、意味ならわかってるわ」
「本当に?」
「ええ!時代劇の名シーンよ?」
「・・・名シーンと言えば、そうかもしれないけど」
「御代官様が、好きな女性を捕まえて来て」


美奈子がいれた熱いお茶を啜る千里は”御代官様”で、やっとジョーとフランソワーズの会話の内容を理解したとき、湯田からの説明がはいった。


「ちょっと違うような気がするけど、それで?」
「セリフは、”よいではないか、よいではないか、そちも楽しめるのじゃから”」
「・・・・・セリフはいいよ」


美奈子はもくもくとお茶をいれて、テーブルを片付ける作業に没頭する。


「それでね」
「それで?」


温泉で、吐けるだけの気持ちをりか子に訊いてもらい、その後、部屋に戻って来た。


「”おやめください、御代官様”で”逃げる出ない、そおおれ”または”ほおれ!”」
「だから、セリフはいいから・・・」


湯田があけた酒の力を借りて、いつもの自分でいられたが、その酒もなくなり、酔いも冷め始めたころから、ジョーとフランソワーズの姿を、声を聞いているのが辛くなりつつあった。

そんな自分を悟られたくなくて、甲斐甲斐しくまわりの世話をやく姿を、湯田は見ている。


「御代官さまが、女性の帯をくるくるくる~って」
「うん」
「”あ~れ~、ご無体な~”で”」
「で?」
「人間独楽ね!」
「独楽?!」


フランソワーズの言葉に湯田は吹き出し、りか子は、異文化交流の難しさを目の当たりにして、その物を知らないという怖さと面白さを同時に知る事となり、千里はジョーの家族、フランソワーズとその周りの人々に興味を抱いた。と、言うよりも、千里はかなりフランソワーズのその言動に注目し始めていた。


「帯を引っ張られて、くるくるまわして、まわされて遊ぶのでしょう?知ってるわ!着物だと高級で御代官様くらいのお金持ちの人じゃないとできない”高貴”な遊びなんですってね?だから、一般人は温泉宿でチープに遊ぶのでしょう?それが一種の温泉宿にたいする”礼儀”で、儀式化した伝統なんだって教えてくれたのよ」
「アルベルト・・・・・」


---どうして”中途半端”に間違ったことを含んだ余計なことをっいつも、いつも、いつもっ!!


「島村くん、それに・・・みんなも・・・・明日は今日よりも早いし、そろそろお開きに・・・ね?アルヌールさんも熱がまたあがると心配だし・・」


限界に近かった。
自分の声が、震えていないことだけに集中する。


「じゃ、こうしよう!水沢さん、くるくるのお手本を島村とがんばってくれ、準備ができるまで、オレらその辺ぶらついているから、電話でよびだしてくれな。行くぞ、稲葉、原、アルヌールさん、冷えたら心配だから、コートもね」
「え?」
「湯田さん?!」
「「!」」
「島村、水沢とよく”話して”な!じゃ!」


りか子はさっと立ち上がり、フランソワーズのコートを取り、次に、自分と千里の分を手に一番に部屋を出た。
千里は、「行きますよ!」とフランソワーズの手をひいて部屋を出た。


「原さ・・フランソワーズっ・・ちょっ湯田さん!?」


フランソワーズは手を引かれるままに、千里と部屋を出る。
一度もジョーへも美奈子へも振り返ることなく、その後ろに湯田が続いた。


「電話しろな!」
「待ってくださいっ、フランっ!」


立ち上がろうとしたジョーを、湯田は止めるように言葉を残した。


「島村!少しは周りをみろ、世界は彼女中心にまわってはないんだぞ、ちゃんと自分の周りをまわってるものにも注意を払え」
「!」
「じゃな・・・心配するな、アルヌールさんのことはまかせておけ」


一陣の風が去った後、部屋に美奈子とジョーだけが残された。


「いったい、・・・・どうし、て???」








####

部屋を出て、湯田はとにかくりか子が向かったであろう先を追う。
玄関先でコートを着た、りか子と千里、そして、りか子から自分のコートを渡されてそれを手に持ったフランソワーズ。


「さて、どうするか。本館の方を覗いてみますかあ」
「・・・」
「アルヌールさん、気分はどうかな?元気そうだったから、こういう運びになっても大丈夫だとふんだんだけど、もししんどいなら、島村とオレの部屋で休んでもらっていてもいいんだけど?」
「・・・」


湯田はフランソワーズの手から彼女のコートを取ると、フランソワーズに着せようとした。


「アルヌールさんの騎士(ナイト)の島村だけど、少しだけ水沢さんに貸してあげてくれるかな?」
「ジョーは、ジョーよ?」
「え?」


フランソワーズのコートを持つ手が、宙で止まる。


「貸す貸さないなんて、間違っているわ。ジョーは、アタシの騎士(ナイト)でもなんでもないの。だってジョーは・・・・」


フランソワーズが、ジョーと美奈子がいる部屋の方向へと首を巡らせた。
その仕種と表情の言葉にしようがないほどの気品と優雅さに、湯田は目を見開いて食い入るように003を見つめて、りか子、千里は、息をするのも忘れるほどに魅入った。


「ジョーは・・・・」



---ジョーは009だもの。



言葉が続かないかわりに、フランソワーズの瞼がしっとりと長い睫をゆらして、2度、またたいた。

”眼”を使えば視える。
”耳”を使えば聴こえる。


ふうっと静かに息をはいて、湯田の手にあるコートに袖を通し、ほっそりとした指でゆっくりとボタンをかけた。


「本館の温泉も、入られるのかしら?」


にっこりと、凛とした目元で、華やかに微笑んだ。


「あ、そうだね、うん。行ってみようか」
「はい」







####

美奈子も、ジョーも、ただ、呆然と部屋にいた。
片膝を立てた状態で固まっていたジョーの呟きに、先に我にかえった美奈子は、湯田の大胆な気のまわし方に、腹が立った。
けれども、すぐに気がついた。

気づかれたのかもしれない。
うまく隠したつもりだったけれど、泣いた事を。

気持ちを伝えないままに失恋した、気持ちを。


両想いでもいいと言った、強がりを。




りか子は2回目の湯の中で言った。


「気持ちを伝えたのと伝えないのとじゃ、その後の気持ちの持ち方が違うよ?成功する、しない関係なく、今の美奈子には”伝える”ことが大切なんだと思うんだけど。宴会のとき”告白しようかな”って言ったのは、どこの誰よ?アルヌールさんの存在くらいで、どうしてそんなに態度が変わっちゃうの?自分は自分じゃない!」







「準備もなにも、・・・くるくる♪はそんなもの・・・何を考えて・・・・・」


ジョーは最後に言われた湯田の言葉を思い出す。



”島村、少しは周りをみろ、世界は彼女中心にまわってはないんだぞ、ちゃんと自分の周りをまわってるものにも注意を払え”



「・・・・・・・・オフのときくらい、フランソワーズだけを考えて見ていたいのに」


はあ、と。溜め息に混ぜて言った言葉に、美奈子の肩がびく!と震えた。


「お、オフ?」


美奈子の声に、は!と、口に出していたことに気がつき、ジョーは慌てる。
立てていた膝をおろして、向かいのテーブルにいる美奈子と向かい合った。


「いや、あの・・っ。家業というか・・・、すみません」
「どうして、島村くんがあやまるの?」
「フランが変なこと言うから、湯田さんやみんなが悪ノリしてしまって」
「お茶、いれなおすわね?」


不自然な態度ではないか、笑顔はひきつっていないか。ひとつ、ひとつを意識して体を動かす美奈子。


「いや、その・・・すぐに呼び戻してきます、時間も確かに水沢さんが言う通りにもう、遅いし、コートを持って出て行ったってことは、フランソワーズを外に出す気みたいだから・・」


ジョーは立上がろうと、テーブルに両手をついたとき、そのうちの片方の手の上に美奈子は腰を浮かせて腕を伸ばし、手を重ねた。

自分の大胆さに驚くが、その行動が”特別に”思えるのはここが旅館で、お互いにお案じ温泉浴衣を着ているためだと美奈子は自分に言い聞かせた。


「待って、電話でいいっていってたし、わざわざ・・・行かなくてもいいじゃない?」


美奈子は胸の緊張をそのまま重ねた手に表した。


「あの、水沢さん?」
「島本くん、少しだけ、・・・少しだけで言いの」
「?」
「話せない、かしら?」
「・・・でも、フランが」
「・・・・・・・そう、よね。アルヌールさんが心配よ、ね・・」


美奈子は、ジョーの口から出た”フラン”の名前に、手をひいた。





”ちゃんと自分の周りをまわってるものにも注意を払え”





「・・・水沢さん・・フランは湯田さんと、それに稲葉さんに原さんとも一緒だし、・・・大丈夫だと思うから・・・話しって?」











旅行編へ続く。

*結局また、2つに分けることにしました。
 お話を長くしてしまう、私を許してください。
 これでもかなり削ったんですよ・・・(涙)さくっといった”つもり”なのに・・・。


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