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Little by Little・8
(8)









目に染み入る夏の空にどこからか流れて来た純白の雲。
横切った風の熱さに、呆然とジョーを見つめていたさくらを現実に引き戻した。


「どうしようも、ないんだ・・・」


じめじめとした絡み付く梅雨が過ぎて。
からりと渇いた7月の晴れやかな日に、不似合いに流れ落ちる雨滴。

恥ずかしがることもなく、その涙を拭うこともしない、濁りのないアンバー・カラーの瞳から溢れこぼれ落ちていく。


痛いと言って泣く。
自分の気持ちに正直に。


さくらの恋に、自分の恋を重ねて、その痛みを理解して。


「う・・そ・・・。なんで?・・・なんで、泣く・・・の?」
「・・・・・わから、ない・・。けれど、痛い・・から」
「痛い・・って、痛いのは、痛いのは、私っだよっっっ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・う、ん・・」
「好きよ・・私はジョーが好きっ」
「・・・・・・だけど、俺はフランソワーズが好きなんだ」


受け止めてあげられない痛みに涙して。
初めて人と向き合って、自分の気持ちとも向き合って。


ジョーはさくらをそっと、自分の胸から離して1歩半ほどの距離をおいた。
掴まれた両方の二の腕の力を拒むことができないままに、距離を取らされたさくら。
掴んでいたジョーのシャツからも、指の力がするりと抜け落ちて、だらり。と、重力にしたがって落ちた。


ジョーは微かに口元で微笑みをかたどり、優しく細められた瞳から、もう、新しい雫は流れていない。
利き腕の袖で、無造作に光る跡を拭うと、いつもの、彼に戻る。
けれども、その彼はさくらが一目惚れしたジョーではなかった。


「さくらが、俺の何に惹かれたのか、わかる・・・・・・同族依存だよ。・・・・・・同じ経験をしているから、同じ種類の闇を抱えているから、惹かれ合ってしまうのは、自然なことだってわかる、さくらはとても魅力的で、・・・・・でも、それは。・・それだけ」
「それ、だけ?」


会っていなかった間に、ジョーは変わった。


「俺が、フランソワーズを想う気持ちとは、違う・・同じじゃない」
「どう、違うの、よ・・」


言葉にできない、変化。



「・・・・・」
「私と、彼女と、どう違うの?!」



さくらはその変化を恐れていた。



「・・・」
「長くっ長く一緒にいてるから、一緒に住んでいるから!私よりも彼女のことを知ってるから!」


---もう、これで、・・・・・・終わり?



「違う」
「!」




さくらの喉がぐっと締め付けられた。







「・・・違う、よ。さくら、それは違う・・・」

















さくらを見下ろす、ジョーの瞳にさくらは映っていない。
そこには、違う女性がいた。







”おかえりなさい”


BGが放った偵察機が、ドルフィンを隠していた海岸近くに姿を現した。
009は一人で、その偵察機が放たれたBGの基地と思われる研究施設(表向きは工場)へと侵入した。


”・・え?”


潜入捜査を終えて、ギルモアに研究施設内の様子を報告し、部屋を出たときに声をかけられた。


”?・・・おかえりなさい、009”


数日前からドルフィンを隠した海岸近くのホテルに滞在中の00メンバーたち。


”あ・・・・、うん・・・”
”おつかれさま、・・雨、やまないみたいね?”
”あ、ああ・・当分は降ってると思う・・よ・・”
”そう・・。009、躯が冷えたのじゃなくて?すぐに、紅茶を、あ。珈琲がいいかしら?それとも・・”


ジョーは戸惑う。


気がつけば、”サイボーグ”にされて。

最新型プロトタイプ戦闘兵器と、いわれて。
BGという組織から追われる身になりながらも、そのBGを倒すために続ける戦い。


まだ、信頼しているとはいい難い、けれど、今の状況下では、仲間と呼ばなければならない、年齢、出身国バラバラの同じ”兵器”。



---おかえりなさい?・・体が冷えたから、紅茶???




ジョーは戸惑う。
施設を出て以来、”おかえりなさい”など、言われた記憶がない。




---サイボーグなのに、体が冷えるのか?





”・・・なんでもいい、よ”
”・・もう遅いものね、今なら紅茶の方がいいかしら?”
”あるもので”
”駄目よ、009。ちゃんと教えてくれなくちゃ”
”どうして?”
”どうして・・・って・・・・その、あの・・だって・・・・、その、・・・好きなものが飲みたいでしょう・・?”



---好きなもの・・・・。




”・・ありがとう。でも、本当になんでもいいだ”





---・・・・・・帰ってきた、から。おかえりなさい。か・・・。普通・・なんだよな・・?



くすぐったい気持ち。

殺人兵器として改造されたのになあ。と、苦笑してしまった。







おかえりなさい、009。
おつかれさま、ジョー。

おはよう。
おやすみなさい。

気をつけて。
無事に、もどってきて。


大丈夫よ、あなたは009だもの。





無理しないで。










どれが好き?

どっちがいい?










”なんでもいい”じゃ、困るわ!
ちゃんと”島村ジョー”が何がいいのか言ってくれないとっ。

あなたは、あなた、なんですものっ。
みんなと一緒でいい、で、いつまでも甘えないでっ。

ちゃんと、”あなた”を教えてちょうだい。

サイボーグだからって”個性”までなくしたなんて、勘違いしないでっ。
私たちは人よ、生きてるわっ。

諦めていないから、戦っているのっ!


人であることを諦めていないのなら、ちゃんと教えてっ。




”甘いものが駄目なら、駄目って言ってちょうだい!!無理されている方が辛いわっ。”
”・・・たかが、カフェオレひとつで・・サイボーグだの、人だの、もちださなくても・・・003”
”『なんでもいい』、『あるもので』、『適当に』、『同じで』、なんて、自分を諦めてるようにしか聞こえないわっ”
”じゃあ、今後は全部、僕のは無糖で・・”
”そんなのっ甘くなくて美味しくないわっ”
”・・・教えてくれって言ったの、003だけど”
”でもっカフェオレは甘いものだからっ・・”
”・・・・・・・・僕はいったいどうすればいいのかな?”



はじめて、z・・フランソワーズに怒られた日。
はじめて、彼女が俺の想像を遥かに超えた甘党だと知った日。

温かいな、と。感じた日に、彼女はイワンのミルクを嬉しそうに作っていた。




嬉しそうに、楽しそうに、湯を沸かして、ミルク粉をはかり、哺乳瓶を並べて。





きらきらに、輝いて見えた。
いいな。と、思った。
綺麗だな。と、思った。







彼女の中に、欲しくて、欲しくて、欲しくて仕方がなかったものを、見つけた日。

特別な人になった。







「フランソワーズ、だから」
「・・・」



ふっと、口元が弛んだ。次の瞬間、真一文字に結ばれた。



『・・・ぼくは、フランソワーズが好きで、彼女に交際を申し込んでいる』



篠原当麻の存在が、ジョーの”想い”に水を差す。



『友達からゆっくりと時間をかけて、彼女の気持ちがぼくに向いてくれることを望んでいるんだ。
もちろん、彼女の状況も、特殊な環境もすべて理解した上でだよ・・・。
サイボーグだからって、恋愛をしてはいけないなんて、法律もルールもない、そうだよね?・・・009』



今までにも、フランソワーズの魅力に取り付かれた輩は多くいた。
数えていたらきりがない。

そんな彼らは彼女が”サイボーグ”であることに怖じ気づき、逆に、”サイボーグ”であることに、”永遠に変わらない”の容姿に異常な興味を示した。




けれど、篠原当麻、は・・・。




自分と同じ視線で、仲間たちと変わらない気持ちで、フランソワーズを見ている。

彼女を好きだから、気がついた。
フランソワーズを好きな自分だから、気づいてしまった。





「j・・・」





色のない闇がジョーの瞳の奥底で揺らいだのを、さくらは見逃さなかった。


ああ、彼だ。と、さくらは本能でわかる。
自分がずっと隠していたものと同じ。





本当の”島村ジョー”がいる。




さくらはがむしゃらにジョーを抱き寄せた。
その細腕を伸ばし、彼の首にまきつけて、渾身の力を込めて、自分へと、抱き寄せた。


「あの、”彼”でしょう?あの、篠原って人とフランソワーズさんは、同じ世界の人・・・・」


さくらの動きに、ジョーはひきづられた。
ジョーのウィーク・ポイントを、さくらはよくわかる。


自分と同じだから。
僻み、嫉妬、憧れ、永遠のコンプレックス。













捨てられた。
いらない人間。


誰にも必要とされない、いらない子。
表面的にどんなに”同じ”であっても、こころの底にある孤独と憔悴感にのたうった”どうして?”の言葉。



父親に人取られ、養母に愛されて、何不自由なく、人が想像する裕福さを遥かに超えた家庭で、人生のほとんどを過ごしても、常に足首に繋がれた、枷。


忘れられない独りの記憶。
意味のわからない寒さに震える肌は、温めた部屋で肌を重ね合わせても満足することなく、震え続ける。








「よくわかるわ、ジョー・・私は誰よりもジョーを理解できるっ」


つま先立ちになり、ジョーの首に絡めた腕をに触れた彼の髪の感触にさくらの頬は上気する。


「ジョー・・・フランソワーズさんは一生、あなたのものなんかにならない。ううん、無理なのよ、初めから。わかっているでしょう?そんな”奇跡”みたいなこと、起きない。フランソワーズさんがジョーを好きになることなんて、ないんだから・・」
「・・・・・・・・・・さくら」
「もう、無理しないでいいよ、ジョー・・・・・無理しないで、等身大の自分でいいの、私の前では”素”のままのジョーでいいよ」




---素の自分・・・・?



「そうよ、ジョーと一緒だと、私は私で居られるのと同じ!」














####

さあああっと、カーテンを勢い良くひいたような音がフランソワーズの耳に届いた。


ギルモアが泊まる部屋を出て、エレベーターを待っていた。
ホテル内に人気はなく、当麻とフランソワーズだけ静まり帰った廊下に立つ2人。

階数を示すプレートが、2人のいる階をさすように光る。
開かれたエレベーターのドア。
小さな箱へと乗り込んだ当麻は、フランソワーズと向かい合う。


「雨・・・?」


意識せずに、呟いた言葉に合わせて”眼”のスイッチをいれて、フランソワーズは振り返るように躯を捻った。

その瞬間。


二の腕を掴まれて、引き寄せられる。
力なく、抵抗する暇もなく、フランソワーズは当麻の腕の中に納まってしまった。




街は少し傾いたフレームの中に納められて、写真を無造作にカッターナイフで切り込んだような、雨模様。を、隠したのは、閉じていくエレベーターのドア。


隔離された空間に閉じ込められた。


「当麻さん、・・・・・私はサイボーグです」


仲間でも、、009でも、兄でも、バレエのパートナーでもない、人の腕の中。


「知ってる」


簡単に身を委ねてしまったことに、自分のこころの底に張り付いていた気持ちが浮かび上がる。



「そして、生まれたのは、当麻さんが生まれるずっとずっと前・・」
「それもわかってる」






---また、私は・・・・同じ事を、繰り返すの?















ぐっと、腕に力を入れて、当麻の胸を押した。


「離して・・」


当麻は、フランソワーズの言葉に従い、素直に腕を解いた。


「フランソワーズ・・・・」


フランソワーズは当麻から、2歩ほど後退して距離を取った。

警戒しているわけではない。
けれど、再び当麻の腕に捕われることは避けたかった。

背中に感じる壁から何も震動が伝わってこない。
異動先を指示されていないエレベーターは、ドアを閉じた状態のまま、2人を乗せて留まっている。

視線を床に落としたフランソワーズを、みつめる、当麻。








「・・・・009がぼくだったら?」
「え?」


沈黙をを破ったのは、当麻だった。


突然、アルベルトが連れて来たアーティスト、恩田充弘の言葉は当麻に思いがけない人生の選択肢を与え、そして、あの”絵”が追い打ちをかけるように、当麻の胸をかき回した。


イワンが”わざ”と残したと思われる、スケッチブック。
フランソワーズだけを描いた1冊。
ページがなくなり、新しく購入した1枚目に描いてしまった”2人”の絵。



009の島村と003のフランソワーズ。





なぜ。
彼で、ぼくじゃない?







「009がぼくだっt」
「”もしも”はないのよ、当麻さん。009はジョーよ」



---・・・たら、ぼくを想ってくれた?






下に落としていた、フランソワーズの視線がまっすぐに当麻を射す。
濁りの無いその青は、言葉をより強調させた。


「・・・想像できないかな?」
「そんな意味のない想像はしないわ。・・・・仲間について、今現実に生きている世界が、私の全てだもの」


青が深まる。






当麻は今、003といることを、意識した。

ホームステイをした彼女でもない。
ギルモア邸にいる、彼女でもない。


深い、深い、深い、青の瞳を持つ人。


サイボーグであることを知った後に、数回、それもほんの瞬間的にしか出会う事がなかった、彼女。
ああ、彼女が003なんだ。と、当麻はその、凛とした強い眼差しに射抜かれた心臓に、焼き付けた。







世界でただ1人、サイボーグ化された女の子。















「009はジョー、ただ1人よ。誰でもないわ」
「・・・・・・・」


当麻は、フランソワーズにむかって腕を伸ばした。


「1階の、喫茶室でいいかな?」


フランソワーズの左肘あたりにあった、Rと描かれた丸いボタンを押す。




イワンが”わざ”と残したと思われる、スケッチブック。
フランソワーズだけを描いた1冊。


満足いく彼女がかけない間に、ページがなくなり、新しく購入した1枚目に描いてしまった”2人”の絵。


009の島村と003のフランソワーズ。



そこには確かに、003がいた。

ほんのわずかな時間でしかしらない彼女を捉えていた。
それは、その絵を唯一目にした007が認めている。

何度も、何度も描いても納得しなかった、フランソワーズ。
可憐な笑顔の中に、花が咲き溢れる、華やかな微笑みの中に、隠れた強さ。

ぼくの知らない彼女は、003であるフランソワーズ。











ぼくと、島村との差は?

---彼女の中にいる、009である島村を超えるには?




ぼくが知らない、けれど、島村は知っている、フランソワーズを知る事から始めよう。

---彼女の気持ちはわかってる・・・・。焦るな、焦っても仕方が無い・・・・・・、まだ出会ったばかりじゃないか。











エレベーターが1階に到着したと、知らせる音が鳴る。
ちん。と、キィの高いベル・サウンドが1つ。

当麻は先にフランソワーズをエレベーターからおろして、彼女にいつも行く喫茶室へ向かうことを促した。


「・・・・・・ぼくの絵のモデルに、なって欲しいんだ」



エレベーター内で途切れた会話とは、つながりが無い話題で当麻は再びフランソワーズに話しかけた。


「絵の・・・モデル?・・・・・・私、が?」


ウェイターが2人をウィンドウ側の席へと案内すると、ウェイターと入れ違いに、見覚えのあるウェイトレスが、メニュー、水、おしぼりを置いて、2人が座るテーブルから離れて行った。


「恩田さん、だったよね?・・・フランが相談に乗ってくれると嬉しいな・・・・・。今までちゃんと”将来”なんて考えた事無かったから、・・・漠然と、いつかは”篠原”の一員になるんだって思ってたから。でも、その必要もなくなったし」
「それと、絵の、モデルと・・・?」
「・・・何度か出展してみないかって、誘われた事はあったんだけど、・・あくまでも趣味だったから、賞なんかにも興味がなくて・・・」
「・・・」


フランソワーズは、すでに補助脳に記録してしまったメニューを、開いた。
意識しなくても、“眼”から入った情報は、同じものを数回眼ににしただけで覚えてしまう。
時間がくれば、どのように処理されているのか、自分でもわからないが、それは”忘れて”しまったかのように処理されていく。


不必要な情報と判断されてしまうのだろうが、一度メモりされたために、それは外部から強制的に”消去”されないかぎり、本当の意味で”忘れた”わけではない。


「でも、ああやって、アルベルトさんがプロの人を呼んでくれて・・・ちゃんと批評されたの、初めてで、学院にも美術の先生いるけど、・・・誰も、そっちの方へはいかないしね。中等部から他の学校へ移った生徒でなら、いるかもしれないけど」
「私よりも、お母様の、さえこさんにご相談なさった方がいいんじゃなくて?
「さえこさんに?相談する必要なんてないよ、さえこさんなら、たとえ、僕がフランと同じ”サイボーグ”になる。って言っても、反対しない人だから」
「当麻さんっ」


心臓に悪い冗談だと、フランソワーズの顔色が変わる。
冗談に受け止められない。


今回の事件(ミッション)の全貌を知らない当麻であるが、彼は元・BG研究員”トーマス・マクガー”の孫であり、その研究資料を保管していた、月見里学院理事、篠原さえこの息子。
事件の首謀者だった篠原グループ総帥、故・秀顕の孫にあたり、そして、未だに交通事故から意識を覚醒させない、サイボーグ再開発の主犯、石川斗織を実父にもつ。


彼のまわりは、いまだにBGの匂いがまとわりついている。
一歩間違えれば、いつどこで、彼が、フランソワーズが歩く道へとやってくるかわからない。


「・・・・・ごめん、あまりよくない冗談だね。心配しないで、そんなつもりはないから。あくまでも、ぼくは自然に・・・生きるよ。フランがそうであるようにね」
「・・・」
「”友人”として、・・・モデルを引き受けてくれないかな?」






フランソワーズのこころにいる島村を超えるには、009を超えるには、彼の存在を消す事はできなくても、彼とは違う位置立つことはできる。




彼女が望む、世界に生きている”人”である、ぼくだから。


「フランソワーズを描かせて。”今”の、君を描きたいんだ」



















====9 へと続く。


・ちょっと呟く・

・・・まあ9だし(笑)
それにしても、予想してなかった展開(笑)自分で言うか!
さすが、1ヶ月開いただけあって、新鮮な空気が・・・、←入ってない、入ってない

方向的には間違ってない。と、思っておこう!イエイっ!!
(久しぶりなので、ちょっとハイになってます・・・)

今回は”繋ぎ”ですね。
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