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Little by Little・11
(11)





変わらない、と。
いつもの自分だ、と。

思い込もうとしているだけ。
そう、思い込んでいるのは、ジョーだけ。


「・・・私も一緒に、行くわ」








気がつけば。
さくらから逃げるように加速装置を使ってその場から離れていた。


さくらの目の前で。
彼女が、自分の言葉で傷ついた瞬間に閉じたまぶたの形が、未だにジョーの網膜に焼き付いている。







「・・フランソワーズ、戻っていいんだよ?」


ギルモアが泊まるホテルの裏口で加速を一度解いた。が、人の気配に気づき、すぐにその場を離れた。

次に向かったのは、自分が寝起きしているホテル。
運良く、清掃員が出入りするために、バケツをドアにはさんで解放された状態の非常扉をみつけた。

そこからホテルに入り、自分の泊まる部屋前で加速を解いた。


「・・・当麻さんにはグレートがいるわ、イワンも一緒だもの」
「・・・・」






---003に気づかれてしまうなんて・・・



リーダーとして、さすがだ。と、褒めていいのか。
・・・島村ジョーとして・・・悲しむべきなのか。



”ミッション中”であるために、彼女が定期的に”眼”と”耳”を使用することはわかっていた。


---わかっていた。けど・・・・・。偶然に?それとも・・・俺は・・・・・。



「ジョー・・・」
「キミはホテルに、・・・・戻るんだ」
「いいえ、一緒に行くわ。問題ないから大丈夫よ」


1人あの場に放り出してしまった、さくらが気になった。
彼女を放り出して逃げるように”ここ”にいる自分勝手な行動と、その弱さに腹を立てることを通りこして、ただ、無責任すぎるだろ。と、自分を蔑むしかない、ジョー。


「それで・・・どこへ行くの?」


学院へ、戻ることに決めていた。いや、戻らなければならない。と、奇妙な責任感が生まれてくる。


「学院」


2回目のフランソワーズの問いに、ジョーははっきりと答えた。
ジョーの言い切った言葉にフランソワーズの瞳が揺れる。キーカードを持っている手を、ジョーにむかって差し出した。


「・・・さくら、さん・・・を、待たせているの、なら、・・急いだ方が、いいわ」
「待たせていない」


フランソワーズからキーカードを受け取りながら答えた。


「待ってもいないよ・・・」


ジョーはキーカードを受け取ってゆっくりとフランソワーズから離れ、部屋を出るために足を意識的に動かした。
左右の足を交互に部屋のドアへと向かわせながら、キーカードをジーンズの右の尻ポケットに押し込んむ。
そこに、痛んでしまった財布と、使用可能か確認しなければならない携帯電話。


フランソワーズはショルダーバックを手に、ジョーに続いて部屋を出た。
背後に感じるフランソワーズの気配に、ジョーの胸がじんっと痺れ、手のひらにじんわりと汗が浮かんでくる。


背中で、全身で、彼女を見ている。
感じている。




<フランソワーズ・・・・・戻るんだ・・・・>


ホテルに戻ることを促すジョーからの脳波通信が1度だけ、届いた。駅に向かう道の途中に通りかかった、当麻がいるホテルの前で。


「・・・・」


フランソワーズは何も言わずジョーの背中だけを見つめて歩き、何も答えないままにジョーを追った。
ジョーは足を止めずに、ホテルの前を通り過ぎる。


1mほどの距離をあけて歩く2人。
生温く重たい湿気を含んだ風がフランソワーズの頬をなでた。


「・・・・また、雨が降るわ」


フランソワーズの声を背中で訊き、左右交互に出していたスニーカーのつま先を眺めていた視線をあげ、ホテルの部屋を出て初めてジョーはフランソワーズへと振り返ると同時に、足を止める。ジョーとの間に開けた距離を縮める気はないらしく、フランソワーズもその場に足を止めた。


「・・・・・・・・・・晴れてるのに?」


アスファルトが濡れていた。
”また”と言った言葉に、自分が学院にいる間にささやかな通り雨があったのだろうと、気づく。
しかし、ジョーの視界の上にとどまる空は、夏の空。と、言う感想しか抱けないほどに雲ひとつ流れることなく晴れやかだった。


立ち並ぶビルの一角にある電光掲示板に、気温と時間、そして最新ニュースが一定の時間を置いて流れる。
時間は邸にいる家族の1人が持つ数字を示していた。








####


言葉を交わす事なく駅までたどり着く。
乗車券販売機の前を無視して通り過ぎようとしたが、ジョーはふと、足を止めて財布の中にある関東圏のJR、私鉄,バスが1枚で乗り降りできるカードを出した。


「使えない、だろうな・・・」


切符を購入するために券販売機の人の列に加わった。
フランソワーズもジョーのすぐ後ろに並ぶ。

フランソワーズの視界がジョーの背中だけで埋まる。


「1人で、買える?」


1分も待つことなく切符を購入する順番が回ってくると、ジョーは財布からお札を1枚取り出した。
紙幣がなんとなく、くったりと柔らかい。

挿入口に紙幣を飲み込ませ、背後に並んでいるフランソワーズに自分が立っている位置を譲るように、躯をずらした。
フランソワーズのすぐ後ろに立っていたスーツ姿の男が、隣の券売機に移る。


「買えるわ」
「・・・・・・・覚えた?」



---篠原のおかげで・・・か・・。



篠原当麻がギルモア邸に出入りするようになり、フランソワーズの外出が増えた。
それに伴い、彼女は少しずつ”外の仕組み”を、邸の者に教わる事なく覚えていっていた。


「・・・・・ジョーが教えてくれたのよ・・・アランに会いに、ジョーがついてきてくれた日に」


フランソワーズの指が月見里学院のある駅名が含まれるエリアのボタンを押そうと、伸ばされた。


「2枚」


ジョーがそれを制するように、少しはずれた場所にあるボタンを押した。


「1枚、1枚、買う必要ないんだよ、ここに、・・・2、3、4枚、一度に買えるようになってる。往復券の場合は、ここだよ、フランソワーズ」


2枚。のポタンが押された。
フランソワーズはそのボタンが放つ光に緊張を少し緩めた。ジョーが同行することを認めてくれたと感じて。


「ジョー・・・?」


”2枚”のボタンを押したジョーの指が、迷う事なくフランソワーズが足をむけたことのないエリアのボタンを押した。
駅構内に満ちる忙しない音から隔離された、機会音がピーっと。鳴る。
受け取り口から、2枚の切符と金属が叩き合う音をたてながら出てきたおつりを取り、財布に仕舞わずに直接ジーンズのポケットへいれた。


「・・・・・・・ジョー、どこへ行くの?」
「学院だよ」


いつの間にか自分たちの後ろにできていた列。
背後にいた不躾な視線でフランソワーズを値踏みする女性と券売機の間から、ジョーはフランソワーズを守るようにして離れた。


「学院は、このエリアじゃないわ」
「・・・」


フランソワーズは視線をジョーから渡された切符に落とす。
印刷された漢字が、読めなかった。


「これで、合ってるんだよ・・・」


フランソワーズの背にまわした腕が感じる彼女の体温に、ぐっと縮まった距離から普段よりも強く香る彼女の香りに、視界に入る明るい亜麻色の髪が揺れて、こころが震えた。







---フランソワーズ・・・



瞼に焼き付いた、自分が言い放った言葉に傷ついたさくらが、ジョーを見ていた。













####

電車内は、予想していた以上の人の多さだった。
今日が、週末の土曜日であることを思い出す。

夏の暑さに汗じみたスーツを着た人々、平日なら制服姿であろう派手にお洒落をしたグループ、雑誌が推奨する”OL”ファッションを忠実に再現する女性たちなど、など。
私鉄電車と言う名の箱に集めた現代の日本人、コレクション・ボックス。

どやどやと狭い入り口から押し込まれるようにして電車に乗り込んだ、ジョーとフランソワーズ。
進行方向に向かって右側のドアからフランソワーズを先に乗せ、彼女の背を押すように誘導し、左側のドアの入り口の角ある、広告文のスペースに、ジョーは電車の壁と自分との間に、彼女を立たせると、ジョーの右腕がフランソワーズの肩の高さに伸びる。開閉するドアの銀色部分に右手をついて、さらに人々からフランソワーズを隔離した。

ホームから響く発車ベルの音。
ドアが閉まる。

ホームのアナウンスが遠くなると、電車が動き出した。
その揺れに合わせて、ジョーに遮られた視界の隅から見えた人々が進行方向とは逆に流れた。


ぎゅうっと押し込まれた車内に、人々の不満の空気がそこかしこに浮かび上がる。
頭をさらに傾けジョーの躯をよけるようにして、フランソワーズはこぼれ落ちそうなほどに見開いた蒼い瞳で車内を見た。


「・・・満員電車って初めてなんだね」


フランソワーズの頭上から落ちてきたジョーの声が、少しだけ笑いを含んでいるように思えた。
その声に、フランソワーズはジョーを見上げる。


「あ・・・」
「?」


フランソワーズが予想していた以上に近い距離に、ジョーの瞳があった。
反射的に、ぱっと視線をそらしたフランソワーズの瞳に、流れていく風景を飾る額。


「雨が・・・」


その額が水滴に滲んでいた。


「降ってきた、ね」


小さな箱の中に押し込まれた人間たち。
たくさんの人がいるにも関わらず、ジョーとフランソワーズの会話だけが、その車内に響いているように思えた。


「・・・ジョー」


流れる風景に視線を固定させたまま、フランソワーズが言った。


「切符のね、漢字が読めなかったの・・・・」
「後で、教えてあげるよ」








####

学院へ行かなければ。と、思う。
けれど、そこにさくらはもういない。と、わかる。

あのまま、ジェットがさくらを放っておくはずがない。



彼の気配を近くで感じていた・・・・。




それだけの理由。
それだけの理由で、学院へ戻らなければと言う考えに反した、行動を取った。


---フランソワーズが、ついて来たから。


彼女を言い訳にする自分をジョーは知る。
そして、自分の”どうしようない運命”なんてものを自覚するしかなく、覚悟を決めた。






戻って来た自分を見つけた、彼女。

フランソワーズが、ついて来たから。



---見つけて、欲しかったのか・・・、こうなることが、すでに・・・・。



「ジョー・・」
「心配ないよ」


大きなカーブを描くために、電車のスピードが落ちた。
車内が傾き、左側へと徐々に遠心力がかかっていくと同時に、車内の空気が重く、非難の色に染まっていく。
ジョーの背に、それらがかかる。

彼は平然とそれらを支える。
車両1つ分に乗り込んだ人々を軽々と背におい、フランソワーズを護る。


「でも」
「よく知ってるだろ?」


余裕の声。

ジョーの躯によって作られた小さなバリケード内に、フランソワーズはいるために、彼女は無事だった。
背中を電車の壁にぺったりともたれさせ、祈るように胸前に合わせていた手が解かれて、バリケードとなっている彼の右手に彼女は手を重ねた。彼のスポーツバックと同じブランドのものだと、彼の肩にプリントされているマークで気づく。

濡れていた髪は、完全に乾ききっていた。
そして、その髪に濡らされた首元も、夏の暑さに乾いていた。


「・・・ありがとう」

重ねれた手に、ジョーの視線が止まる。


「・・・・・・礼なんて、いいよ」


ぶっきらぼうに、言い放った。


「ありがとう、ジョー・・・」


カーブを曲がりきると、背中に背負った重さが少しずつ薄れていく。
それと同時に、フランソワーズの手が強くジョーの手を握り、彼女の躯が重ねられた手の方向へとねじられた。

凛とした、美しいフランソワーズの横顔を見下ろす、ジョー。
誰の目にも、誰にも触れさせないとばかりに、彼女を被う。


「今度は私の番よ。・・・・だから・・・あなたを1人になんてさせないわ」
「え?」
「独りでなんて行かせないの・・・、ジョーがそうしてくれたように、私も、・・・・」
「・・・」
「そうでしょう?ジョーは、いつでも・・・今みたいに、・・・ね?」




フランソワーズは思い出す。
日本を定住先に決め、そして、邸へと越して来た日からのことを。


昨夜のジェットの言葉から、その日からの日々を。
さらに遡って、戦いの日々を。

少しずつ、少しずつ、今までと違う目線で振り返る。


---・・・・ジョーのために私ができる事は・・・。


フランソワーズの胸にだけ、自分の中でだけ、許される行為。
愛している人を、抱きしめる。

現実には想いのままに抱きしめられないために、せめてその想いの分だけでも、彼のためだけに行動する。
今にも、脆く壊れてしまいそうな、大切な人を放っておくことなど、フランソワーズにはできない。



「・・・・フランソワーズ」
「泣きたいときに、泣ける場所が、辛いときに、その辛さを癒せる場所があるのって・・・・、素敵だと思うわ」
「!」
「間違ったかしら?」


フランソワーズはゆっくりと瞼を閉じると、彼女の瞳を縁取る、まつげが繊細に揺れて、頬に影を落とした。









初めて日本を訪れたとき。
戦いの中、つかの間の平穏を過ごしたとき。




日本にいる間。

何も言わずに居なくなる。

ふと、いなくなり、不意に、戻ってくる。

それは、決まった法則があるような気がした。

放浪癖のあるジョーの、気まぐれな旅。とは、違う。

都心から、それほど離れていない場所だと、思う。



誰も知らない、場所。
誰にも教えない場所。


誰も彼が居なくなっていたことなど、気づかない時間。


ジョーの秘密の場所が、どこかにある。







ないかも、しれない。








「・・・間違った、かしら?」


名前の解らない、駅名。そして、ジョーの今までの行動。

それだけを頼りにフランソワーズは語ったが、そんな場所があったと仮定しても、自分を連れて行ってくれるだろうか?と、フランソワーズは自惚れた独りよがりな想いと行動に、不安になり、ジョーの右手に重ねていた手を離した。


ジョーが”2人分”の切符を購入してくれたことへの、無意識の期待。


「そういう風な意識を持った事ないから、わからないな・・・」


離れていくフランソワーズの手を、ジョーが握った。




ホームに入ろうとする電車がブレーキを踏む。
車内が揺れる。

支えていた右手がフランソワーズの手を握ったために、ジョーの躯が電車の揺れに流れた。
フランソワーズを抱きしめるように、重なる。

ジョーは彼女の頭を、顎下に捕らえ左手が握っていた、銀色の棒にかすかに体重をあずけた。
握ったフランソワーズの手を、人の目につかないように自分の太ももあたりの位置までおろす。

解かれたバリケードに、隙間なく人が押し寄せる。
うつむいて、繋ぎ合った手に視線を落としたフランソワーズのおでこがジョーの胸に、あてられている。


「一緒にいてくれるんだね?」


明るい車内とは対照的に薄暗くなった外。
まぶしい蛍光灯が車窓に、人々を写し込む。


「私で、いいかしら・・」


強く、握り合った手。


「次で乗り換えるよ・・・」








俺は、さくらを、ちゃんと受け止めてあげられなかった。
・・・・今まで俺は誰1人と受け止めたことなんて、ない。

傷つけるか、切り離すか、忘れ去られるか、・・・捨てられる。か、しか、知らない。








「フランソワーズ、・・・・キミに、・・」


脳裏にこびりついていしまったさくらが、ジョーを見つめている。
これから起こるであろうことを、自分を、さくらに重ねた。


「?」


乗り換える。と、ジョーが言ったホームへと電車が止まる。
2人の視線が開かれたドアへと向かう。

自然と会話は止まり、人を押しのけるようにして2人は電車を降りた。
繋いだ手はそのままに。


「フランソワーズ」


混雑するホーム。
ジョーの手はフランソワーズを引っ張りながら、人をかき分けて、進んでいく。


「・・・・絶対に、手を離したらダメだよ」


振り返ったジョーの瞳が、浮かびあがった悲しみに揺れていた。
フランソワーズは何も言わずにしっかりと、頷く。


乗り換えるために、別のホームへと移動する。


素っ気ない利用者の目的だけを意識して作られた、段差の低い長い階段を上っていく2人。
人の波に埋もれてしまった2人。

誰も、2人が何者で、どこへ行くかなど、興味を示さない。






ただの人。
ただの、駅の利用者。

異国の少女など、見慣れてしまったように。
少し変わった髪色の青年など、最近の”若者”の1人だと。



空が夜の衣に着替える前に、家路を急ぐ。









###

「ここですか?」
「そうみたいネ!フランソワーズの携帯電話は、この街の地図を出してるアルヨ、ちゃんと見るネ」


張大人が運転するレンタカーの助手席に座っている当麻は、手に持っている携帯電話を見つめた。


「脳波通信が届く距離まで近づかないと、フランソワーズがどこにいるかポインターで表示されないネ」
「・・・じゃあ、この地図は?」
「少しずつ、拡大されて言ってる、イコール、フランソワーズとの距離を縮めてるって意味アルヨ!スンバらしいネ!その地図が縮小されたら、離れたってことアルから、よおく、見てるアルヨ!!」
「はい」
「それにしても、ここはいったいどこアルか~?フランソワーズと関係ないみたいネ・・あの子は行動範囲が狭いヨ。こんな所、知ってるはずないネ」


張大人の呟きに、当麻の脳裏にジョーが浮かぶ。
1日目の、オーディション後にしっかりと把握した、ジョーの気持ち。


「島村が一緒だということですね、それなら・・」
「・・・・そうアルネ」


張大人は、009、003に向けて、チャンネルを解放し、随時2人に呼びかけた。
携帯電話が、2人を発見する前に。と、願いながら。












====12へと続く。



・ちょっと呟く・

短!
そして、9・・・あなた、あんだけさくらのことで・・・ねえ、切り替え早いって(笑)

のんびりいかせてください・・・。
迷い迷いですので。

あ。泣かなかった。
いえ、・・泣いたのを書き直したのです・・あまりにあまりだったので。
予告になってねー(笑)
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