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溶けるくらい見つめて告白/VD・4

~キミとチョコレート5題~ 今日一日で耳を塞ぎたくなるほど、仲間にジョーはどうした? どこだ?一緒にいないのか?などと、フラソワーズは 声をかけられた。 それは、今日と言う日に、日本にいることが原因。 「ジョーはどこだよ、今日もバイトかよ?」 ---そして、おっせかいな鼻を突き出してくる トリのせいっ!! 「私は知りませんっ彼がどこで、何をしようが彼の 自由じゃないっ!」 「逆切れかよっ?!」 ---なんなのよっ。 「今日は特別な日なんだぜ?」 「特別な日なんかじゃないわよっ。ただのチョコレート会社の 戦略よっ商法よっ!!」 包丁を持ったまま、ジェットにむかって勢いよく振り返る。 「あっぶね!」 「ランチの準備をしているときに、話しかけてきたジェットが 悪いのっ邪魔!」 「逆ギレかよ?」 「もっ邪魔よっ」 フランソワーズは再びサンドイッチ用に食パンの耳を 切り落としていたまな板と対峙しつつ、長い影で 自分を背後から覆うジェットにむかって肘を使い ”離れて!”っと主張する。 「まあたサンドイッチかよ?料理がぜんぜん うまくなんねーな?」 「嫌なら食べないで」 4つ重ねた食パンの耳をざん!っと勢いよく切り落とした。 「張々湖はどうしたんだよ?」 「今日はお店の内装の打ち合わせに出るっ言ってたじゃない」 「昼飯の用意くらいして出かけてくれりゃーいいのになあ・・・」 「・・・・・」 パンの位置をくるっとまわして、包丁をあてる。 「ジョーの野郎、最近バイト、バイトで全然いねえしよ」 「・・・・」 張々湖のように、リズムよく切れないことに、苛つきはじめる。 もともと、できないのが当たり前なのだけれど。 「ったく、サイボーグがバイトしてどうすんだっつーの」 「・・・・」 「張々湖のヤツ、オレら(家族)の飯より赤の他人さまの 腹を満たすことに燃えてるっつうし」 「・・・・」 切り落としたパンの耳はちゃんと別で保存する。 かりかりに焼いて、あとで夕食のおかずの何かに混ぜると、 さくさくとした食感がするネ。と、 でかける前にフランソワーズにむかってちゃんと取って おくように言った、張々湖。 「暇だよなー。暇ってこたあ、いいんだろうけどよー、 なんつうか、なまるよなー躯がよっ!! 張りがないっつうか、なんて言うか、戦士としての 感っていうのがよ、・・・」 サンドイッチに使う四角い白を、お皿に載せて 乾燥しないように、ラップをかける。 「よお、ケチらずにがっつりロースト・ハムを重ね・・・」 耳のついた食パンに伸びたフランソワーズの手を 視線で追ったジェット。 その手が、袋の中にあるパンにではなく、ぐわしっっと、 袋をつかんだ。 「もうっうるさいっっっっっ!!」 「うげ!」 振り返り様に、食パンのはいった袋を振子の勢いを 載せて背後に立つジェットの顔をめがけて叩き付けた。 「なんなのよっ、みんな!たかがバレンタイン・デーじゃないっ。 ジェットのせいよっ」 「いっってーなあっっ!!」 「ジェットが余計なこと言うからっ!」 1週間ほど前に、日本の”バレンタイン・デー”が” 女の子が好きな男の子に告白する日”であることを、 ジェットが夕食の席でジョーに確かめたのだ。 『日本はそうだね。女の子のための日みたいになってるよ。 ・・・アメリカは、みんなの国は違うの?』 ジェットがもたらした日本のバレンタイン・デーについて その後各個人で調べた仲間たちは、何かにつけて、その話題を フランソワーズにふる。 しかも、個人的に。 ジョーのいないところで。 ”気持ちが大切だが、まあ、なんだ。小道具あってこそ 芝居の表現が引き締まる事もあるが・・・、カードもいいが、 想いは口にするべきだぞ” ”キッチンはいつでも使っていいアルから。何か質問アルとき、 遠慮することないネ。24時間いつでも訊くヨロシ” ”・・・甘いのは苦手らしいからな。気をつけろよ” ”出かけるなら、いつでも(ジョーに内緒で)車を出すからね、 どこのお店がいいか相談にのるよ?” ”チョコレートである必要はないらしい。” ”夜ノ時間ダカラ、何モ助ケテアゲラレナクテ、ゴメンネ” ”まあ、・・・無理しなくてもいいと思うが、・・・せっかくの日じゃしのお・・・。 ジョーと出かけたりする予定はあるのかのお?” 「放っておいてよっ!」 「お前のこと心配して言ってんだぜっ」 「余計なお世話っていうのっ!」 ジェットの顔から離れてフランソワーズの手にぶら下がった、 食パンの袋を再び、ぶん!っと勢いづけてジェットにむかって 振り上げたとき、慌てるジェットの背後に飛び込んできた人物を 視界にとらえて、フランソワーズが固まった。 振り上げ来た食パンは、ちゃんとジェットの顔にヒットするが、 1回目よりも勢いがなかった。 「何してるの?」 その声に、ジェットは勢いなく顔面に”あたった”だけの食パンの理由を知り、 フランソワーズの手から、さっとそれを取り上げた。 「よ!ジョー、昼飯が”また”サンドイッチだってさ」 フランソワーズが繰り出した1回目の衝撃をもろにうけた食パンは、 すでにサンドイッチに使えそうもない形に変わっていた。 「邪魔したら駄目だよ、ジェット」 ジェットがまた何かちょっかいを出して、フランソワーズを怒らせたと、 呆れたようなため息をついた、ジョー。 「どこ行ってたんだよ?」 「バイト。早朝シフトだったんだよ、今日は」 フランソワーズはジェットが差し出した食パンの袋を抱きしめるように 受け止めて、くるりと2人に背をむけると、再びまな板と向かい合いながら 耳は想い人の声を追う。 「ごくろーさんなこったで」 「ジェットもする?」 「ばーか、外国人はビザの関係で就労できねーんだよ!」 「・・・・どうとでもなるだろ?」 「オレは自由の国、アメリカ生まれだぜ?」 「それとバイトの何が関係あるんだよ? 「必要ねえことはしねえんだよ!」 「言ってること、めちゃくちゃだよ・・・」 苦笑しながら、ジョーは手にもっていた紙袋をキッチンの カウンター・テーブルにおいた。 「土産か?」 ジェットは軽い足取りで、ジョーがカウンター・テーブルに置いた 紙袋を覗き込んだ。 「土産って言えば、・・・そうかな?全部チョコレートだよ」 「はあ?」 「もらったんだ、ほら。今日はバレンタイン・デーだろ?」 「!」 「ほおおおおっ!?!」 「義理チョコレートっていうやつ。女の子が、まあ、職場や同僚、 お世話になった人に日頃の ”お礼”みたいなので、配る。そういうチョコレートがあるんだよ」 「へえええええええええええっ」 ジェットはわざとらしい大声をあげて、ジョーの言葉に納得する。 「バイトに行ったら、用意してくれていてね。・・・嬉しいけど、お返しの ホワイト・デーが面倒なんだよね・・・」 「ホワイト・デーだあ?」 「?」 「なんだよ、そのホワイト・デーって??」 「2月14日にもらったら、3月14日に今度は男がお返しするんだよ。 知らないの?」 「しらねーっ。ホワイトなんてねえよ!そんなもんっ!」 「え?・・・ないの?」 「初めて訊いたぜ?なあ、フランソワーズ!!」 2人の視線が、フランソワーズに向かう。 フランソワーズの止まっていた手が作業をしてました。と、 言い訳するように慌ただしく動いた。 「え、ええ。は、は、初めてきいたわ!フランスには、ないわ、 ホワイト・デーなんて・・・」 背をむけたまま、フランソワーズは答えた。 「でよお、マジでこれ全部、義理ってやつ?どっかに本気なのが 紛れ込んでんじゃねえの?」 がそごそと紙袋に手を突っ込み、チョコレートを次から次へと カウンター・テーブルに出していく。 「全部、義理だよ。・・・一緒になんかしないって」 フランソワーズは肩に唇を寄せるようにして振り返り、 ジェットの手から並べられていくチョコレートたちを見た。 「!」 「一緒にしたら、失礼だろ?・・・みんなで食べてよ。部屋に戻って ちょっと寝るから、・・お昼ができたら起こしてくるかな?」 最後の言葉は背を向けたままでいるフランソワーズに 向かって投げられた。 フランソワーズは、こくん。と頭を動かしたことで、返事する。 「なんだよ、その言い方っまるでもらったみたいなよっ!!」 「想像にまかせる。ジェットはおしゃべりだからね、サイボーグにだって プライバシーってあるんだよ」 「・・・・・・」 ひらひら、手を振りながら大きなあくびをその場に残して ジョーはキッチンを去っていった。 「よお、どうすんだよ?ジョーのヤツ、モテモテだぜ?」 「どうもしないわ」 去っていったジョーをカウンターテーブル越しに見送ったジェットは、 フランソワーズにぼそっとした小さめの声で話しかけた。 「どうもしないわ」 形を崩してしまった食パンの袋の口をきっちりと閉めて、 新しい食パンの袋をあける。 「”義理”だってよ、フランソワーズ。好きなヤツじゃなくても 日頃の”感謝”を込めて渡すらしいじゃん、オレらにチョコレートあんの?」 「ないわ。・・・そんなの・・・」 ジェットは小さくため息を吐きながら、フランソワーズに近づき 彼女の背中に多いかぶさる形で腰を曲げると、彼女の右肩に顎を のせてささやいた。 「今からでも用意しろよ、みんなと一緒なら別に問題もねえし、 いいじゃんか」 「もおっ!!チョコレートなんて用意する訳ないじゃないっ」 フランソワーズは振り返ってジェットの胸を両手でどん!っと押した。 「?!お、おいっ」 どん!っと、フランソワーズがジェットを押すと、その衝撃に負けて、 ジェットの足が一歩、二歩、と後退していく。 「私はフランス人っ!日本に住んでいるからってっ!どうして 日本式のバレンタイン・デーをしないといけないのよっ!もおっ!! 邪魔しないでっ出ていってっ!!」 どん!っと最後の力強い一突き。 「うわ!」 ジェットはよろけ、キッチンから出てダイニングルームで 尻餅をつく。その上にジョーの持ち帰ってきたチョコレートたちが バラバラと振ってきた。 「チョコレートを食べ過ぎて虫歯になればいいわっ」 #### 昼食が出来上がったと、一斉に”通信”で知らせる。 邸にいる家族たちがダイニングルームに集まってくる。 地下の研究室に籠るギルモアへはダイニングルームにある電話の 内線を使って知らされた。 2つの大皿に綺麗に並べられた、3種類のサンドイッチを好きなように 手に取り皿に載せ、テーブルについた者から食べ始める。テーブルには珈琲、 紅茶、オレンジジュースが用意されており、デザート用のフルーツも、人数分の グラスの器に盛られてあった。 しかしそこには今日の昼食を作ったはずのフランソワーズの姿はなく、 テーブルについた順に、フランソワーズは?と言う声が飛び交った。 そこにジョーがいないことを確認し、1番にダイニング・テーブルについていた ジェットがあるやり取りがあったことを素早く伝えた。 「ジェット、フランソワーズは?」 「知らねー」 ダイニング・テーブルにみんなに遅れる事30分。 「なんで?・・・一緒にいただろ?」 部屋で仮眠を取っていたジョーに昼食ができたと脳波通信で 教えてくれたのは、その場にいないフランソワーズ。だが、その彼女の姿が 見えないことに、ジョーは首をひねる。 「追い出されたかんな、チョコレートと一緒に」 ジョーは半分ほどになったサンドイッチが並べられた大皿から、適当に自分の 食べたいだけの量をのせた。 「チョコレートと、一緒に?」 「てめえのせいだよっ」 ジェットの隣の席につく。 「なんで、ボクのせいなんだよ?」 ジョーの正面に座るジェロニモが、ジョーの分のグラスの小皿に 盛られたデザートを、腕を伸ばして彼の前に置いた。 「てめえがっs」 それ以上は言うな。と、仲間たちがジェット個人に通信を送る。 「疲れたんだろ。あまり料理が得意じゃないからな。 ・・・最近は張々湖に代わって台所に立つ事が多いからな」 話しのトピックをアルベルトが替えた。 「あと少しだね、お店!」 「一番客として、みんなで行く。」 「グレートはどうしたんじゃ?一緒に店か?」 「そうみたいだ。」 「よお、ジョー」 「なに?」 「春にはオープンって言ったよね?」 「もう少し早くなるかもしれん。」 「時期的に店を開けるには、どうなんだろうな?」 「日本の4月は始まりの季節じゃし、いい時期じゃよ」 「義理じゃねえチョコレートはもらったのかよ?」 「「「「「「ジェットっ!!」」」」」」 ジョーにむかって言った言葉を、ジョーではなく、テーブルについていた 全員が突っ込んだ。その声に、ジェットではなくジョーが驚く。 「・・・・何?何かあるの?」 「あんなにがっつり、チョコレートもらってきてよお・・・他のお前と 同じバイトの奴らも同じ量をもらったのか?」 「さあ・・・、知らない。でも、いつももらう量ってあんなものだよ」 「な?!」 さらりと言ったジョーの言葉に、(今までの”経験”から)無言で納得しつつも、 なぜこんな奴がいいんだ?と言う声がギルモア邸のダイニング・ルームを泳ぐ。 「・・・・だいたいバレンタインってこんなもんだよ? みんなは違うの?」 サンドイッチを頬張りながら、立ち上がって軽くなってしまっている 珈琲ポットを手に、使われていないカップへ注いだが、半分ほど注いだところで なくなってしまった。 「・・・・誰か用意してる?」 視線がテーブルについている家族の顔を順に見ていく。 いつもなら珈琲党が多い家族のために、フランソワーズの手によって 予備のポットが常に用意され、なくなるということはない。 「しらん。」 「無精せんで、自分で用意したらどうじゃ?」 「さあな、ないからないんだろう」 「紅茶ならまだたくさんあるよ、オレンジジュースもね、こっちにしたら?」 「フランソワーズはどうしたんだい?」 椅子に座りなおし、家族の言葉を聞きながら、ジョーは半分しかない コーヒ-を飲み、テーブルに着いてすぐに尋ねた質問を繰り返した。 #### フランソワーズは昼食を準備し終えた後にそっと 邸を出ていった。 張々湖が新しい店の準備に外出が増えたついでに、 グレートも同伴することも多く、その帰りに買い出しをしてくるので、 フランソワーズは外に出る機会をなくしていた。 特に買い出し以外での外出を禁じられているわけではないが、なんとなく、 目的なく街に出る事は気が進まない。 「・・・・なんでチョコレートなのよ、バレンタイン・デーがなんなのよ・・・」 徒歩で最寄りのバス停まで15分。 時刻表と携帯電話が表示している時間と比べて駅まで歩くことに 決めた。 途中、バスに追い越されて、徒歩に決めた自分にむかって 腹を立てた。 駅について、券売機の前でしばし考えるが、いつもの街の、いつもの駅までの 切符を購入する。 それ以外の街に自分独りで足をむける勇気がない。 券売機の受け取り口からチューングガムサイズの切符を取る。 それを改札口へと飲み込ませた。 人の波に乗って、ホームへと進む。 「・・・今日は・・土曜日なのね」 日本のバレンタイン・デーについて、ジェットが自慢気に話す前から 知っていた。 偶然手に取ったファッション誌に特集が組まれていたからだ。 いつもはその場でパラパラとめくって終わり。なのだが そのときはなぜか買って帰った。 みんなから色々と個人的に言われたせいじゃないから!と、言い訳しつつ。 ベッドの中で、なんども特集記事に目を通し、おすすめ!っと書かれていた ブランドのチョコレートにたいする評価を読み、その中から選んだお店で、 ギルモア博士に頼まれた用事をすませるついでに、こっそりとチョコレートを 購入したのは、4日前のこと。 買った自分に浮かれたのはお店の中だけで、邸に持ち帰ってから後悔した。 あげて、どうするの? ジョーにこのチョコレートを渡したら、”好きです”って言うことになる。 冷蔵庫に入れることができなくて、部屋の中でも温度が低い クロゼットの中にクーラーボックスを持ち込んでしまい込んでいた。 その日から、こころが重くて。 意味もなく、”バレンタイン・デー”と言う言葉に過敏に反応する 自分が嫌で、イライラした。 たかがチョコレート。 お菓子会社の商業戦争にかこつけたイベント。 軽く考えてればいいだけなのに。 4日前に購入した店名が、プリントされれいる紙袋に入ったチョコレート。 フランソワーズはそれを持って邸を出てきた。 ジョーが持って帰ってきたチョコレートの数にも驚いたが、自分が 購入したものよりも高価なチョコレートのブランドがいくつか混じっていた (女性雑誌でリサーチ済み)のがショックだった。 そして、今、手に持っているのとまったく同じチョコレートが、あった。 用意した本命チョコレートと、同じ義理チョコレート。 「・・・・値段とかそういうのじゃないってわかってるわ、でも・・」 その中にはジョーに”本命”として渡されたチョコレートは 含まれていない。 彼は別にあるようなことを、ほのめかした。 ---もらったの?・・・受け取って、なんて答えたの? ・・・・・・・・・誰からもらったの? 『全部、義理だよ。・・・一緒になんかしないって』 『一緒にしたら、失礼だろ?』 「どんなチョコレートをもらったの?」 ---手作り?とても高価なチョコレート?それともジョーには、 どこかにお気に入りのメーカーとか、好きなチョコレートが・・・。 ほどよく人がいる電車内。 心地よい揺れが座るシートから感じる。 膝の上においた紙袋を見つめて。 ただ、見つめて。 気がつけば、降りる予定であった駅を通り過ぎ、初めて”終点の アナウンスを訊いた。 初めて降りた駅で見つけたゴミ箱へと持っていた紙袋を中身と一緒に捨てた。 小さな駅の改札口から出ることもなく、そのまま折返しの電車に乗った。 同じ揺れを感じながら、流れ行く景色を見る。 結局。 ---私はいったいどうしたいの? #### 「・・・・いない」 昼食後、フランソワーズの部屋のドアをノックした。 何度も。 人の気配がドアの向こう側に感じられないために、2、3回のノックで 自分がしていることの無意味さに気づいていたけれども、それでも、 ドア前に立ちノックを続けた。 キッチンはもちろん。 庭、ダイニングルーム、リビングルーム、ゲストルーム、客室、地下、 夜のイワンが眠っているコモン・ルーム、地下、メンテナンス・ルーム、 書庫、書斎、ドック、整備室、ギルモア邸から少し離れた場所にある車庫、 フランソワーズが散歩する海岸、バス停、どこにも、彼女の姿はない。 最後にもう一度戻ってきたフランソワーズの部屋前で、深くため息をついた。 「珍しいね、フランソワーズが独りで外出なんて」 1階の階段を上ってきたピュンマはジョーの姿を見つけて話しかけた。 「どこかにでかけるって訊いてる?」 ジョーは階段を上ってきたピュンマにむかって尋ねながら、自分は リビングルームに戻ろうと、階段を降りる。 「訊いてないよ。・・・・子どもじゃないんだし、夕食前には戻って くるんじゃない?」 「・・・・・・・夕食前に戻る方が子どもじゃない?」 2人の足が、止まる。 「心配?それとも、何かフランソワーズに何か用事があるわけ?」 「うん・・・ちょっとね」 何かを悟られたくないのか、ジョーは長い前髪に表情を隠した。 「ジョー」 「なに?」 「フランソワーズから、チョコレート欲しい?」 「・・・・・・・」 ピュンマのはっきりとした言葉に、ジョーはたじろぐ。 「義理チョコだったとしても欲しい?」 無言のまま躯の階下にむけて足を一段下におろした。 「・・・・・欲しいよ。でも、彼女は日本人じゃないし、日本に住んでるからって 日本のバレンタインじゃなくていいと思うから」 だだだっっと背後で駆け下りていった音を訊きつつ、ピュンマの頬は緩む。 「日本のバレンタインじゃないバレンタインを、ジョーはするって ことかなあ・・?」 #### リビングルームに置かれた、ガラス作りの巨大な楕円形のローテーブルの 上に、にぎやかな色が散らばっていた。 「アイヤー・・・もてもてアルネ・・・あんさん、どこで買ってきたアルか? 寂しい男ネ」 「は?!ジョーだよっジョーがもらってきたんだよっこれら全部っ!!」 「うはあ・・・これ、高いぞおお、な?!もうないのかっ!!」 「悪ぃ、とっとと食っちまった、うまかったぜ、それ」 「全部食べたアルか?!」 「オレだけじゃねえって、いくつか他の奴らもつまんでったぜ」 「ジョーのだろう、ジェット食っていいのかい?」 「あ?義理チョコだからよ、みんなで食ってくれって言って置いてったのは ジョー自身なんだから、いいんだよ」 「でも、ジョー宛だろうよ?」 「いいんだよっ!手伝えっまだ少し残ってんだよっ」 「・・・あいやあ、あんさん、舌はしっかりしてるアル・・・高いのばっかり先に 食べたネ」 よっこらっしょ。っと、口癖になった台詞と一緒にソファに腰を下ろした グレートは、テーブルの上にり出されている、箱を美しく飾っていたのであろう ラッピングたちの残骸を手に取ってしげしげと眺めた。 「なんで必死に食ってんだ?」 「こんなもんがあるから、ったく!」 「そういえば、フランソワーズはどうしたネ?夕食の下準備を 頼んでおいたアルのに・・・」 張々湖は腰を下ろすことなく、キッチンへとむかう。と、彼の悲鳴のような 言葉が聞こえた。 「なにアルか?!なんで昼食の片付けされてないアル?!食器洗いどころか、 テーブルから下げられてもないネっ!!」 「だってよお、フランソワーズがいねえんだ」 口の端をチョコレートでよごしたジェットが、張々湖ではなくグレートに 肩をすぼめて言った。 「で、ジェット。これを全部処理したらいいのか?」 「とにかくよ、フランソワーズの目に留まんなきゃいいだよっ」 フランソワーズがいない。 ジョーが持って帰ってきた大量のチョコレート。 今日はバレンタイン・デー 必死に食べて証拠隠滅?しているジェット。 何があったかは、長くつきあっているからこそなんとなくわかる。 「・・・・・・だからって、お前の胃に納めんでも・・ああ、ああ、 これなんて、・・・ジョーのヤツ、わかってんのかい?こんなバカ高い チョコレートを”義理”でくれるわけないだろうに・・・・」 テーブルの上に散らかされたラッピング類を足下に落ちていた紙袋に 放り込みながら、それらのメーカーを見ては、グレートは呆れたように ため息をついた。 「おお!そいつはすっげー、ばか旨だったぜっ!!」 「・・当たり前だ・・・・・、ジョーのやつ、これを”義理”って言ったのか?」 「ああ、言ったぜ。グレート、義理チョコって知ってんの?」 「知ってるさ。・・・・・・・こんな高価なものが義理なはずないだろう?カードとか、 そういうのはなかったのか?」 「知らねー、みてねえよ」 「その辺はしっかりしてるなあ・・・」 「高かろーが、安かろーがジョーにとっては義理なんだろうぜ」 「・・・王子は姫からのを待っていると、言う事か」 「けどよ、フランソワーズ、用意してねえってよ!」 「だがな、ジェット。女の子からのチョコレートは今や古いんだぞ?」 「?」 #### 「ただいまあ!」っと、元気な声がギルモア邸に戻ってきた。 「張大人、ごめんなさいっ私、夕食の下準備どころか昼食の 片付けさえも・・・」 帰ってくるなり、ばたばたとキッチンに駆け込み大きな箱をぽん。っと キッチン・カウンター・テーブルにおいた。 「心配しないでいいアルヨ!まずは手を洗って、うがいしてくるヨロシ、 もうすぐできるから、ゆっくりしてるいいネ」 「張大人、冷蔵庫にいれておいて!デザートを買ってきたの、配膳を手伝うわ」 「ありがとネ」 フランソワーズがバスルームに向かう後ろ姿をちらりと視線だけで見送った後、 彼はどこにいるのかわからない末弟にむかって脳波通信を送った。 <フランソワーズが帰ってきたアルヨ!バスルームにいるネ> 返事はなかった。 張々湖は返事がかえってくるかどうかなど期待していはなかった。が、 フランソワーズがなかなかバスルームから戻ってこないことが返事となった。 ジェロニモが配膳を手伝い、すっかり夕食の準備が整って家族たちに 通信と内線電話を使って夕食の時間だと伝えた。 「なんじゃ・・フランソワーズはどうした?昼も食わんで、夜もか?」 ダイニングテーブルについたギルモアの言葉に、家族たちは、 そこにもう一人姿が見えない人物の席に視線を送ると、にやにやと笑い合った。 「イワンのミルクを忘れないようにしないとネ・・・」 #### 手洗い、うがいを済ませてバスルームから出ると、そこにジョーがいた。 フランソワーズはびっくりして、ばたん!っと、バスルームのドアを閉めた。 「・・・・」 こころの準備ができてない。とは言わないが。 まだフランソワーズの中ではジョーに会う予定ではなかった。 その上、バスルーム前にいた彼の様子は一瞬しか見ていないが、 まるで自分を待っていたかのような?まさか!と。パニックに陥る。 ドアノブを固く握りしめた状態で、フランソワーズはドア向こうからの ノックの音を聞いた。 「フランソワーズ?」 冷静を取り戻そうと、深く深呼吸をする。 そうだわ、ジョーはバスルームを使いたかったのよ!と、自分に言った。 「ご、ごめんなさい!」 ゆっくりとドアノブをまわして、バスルームのドアを開けた。 「おかえり、フランソワーズ」 「・・・・・ただいま」 フランソワーズはバスルームをジョーに譲かのように、廊下の壁に 肩をひっ付けてキッチンへ向かおうとするが、その足をジョーが 話かけることによって止める。 「どこへ行っていたの?」 「あ・・・ええっと、・・・・・・・んっと、あ、チョコレート・ケーキ! チョコレートケーキを買いにっ。ほら、ね?ジョーがたくさんチョコレートを もらってきたでしょう?それで、ああ、バレンタイン・デーなのね!って・・・ せっかか、かく、んっああ、っと、せっかくだから、私から みんなにって、思って、思い立ったら即行動で日本語で良い日d」 「思い立ったら吉日?」 「そう!ええ、それ!!だから、チョコレートケーキを買ってきたのよ! デザートにいただきましょうね!!」 妙にテンションが高く、早口に話すフランソワーズをじっと、見つめるジョー。 「ね、楽しみだわ!・・・あ!たくさん歩いたから私すごくお腹空いたわ!」 「・・・・お昼ご飯、食べてないからだよ」 「え、あ、そうね、そうだったかしら?チョコレートケーキのことで頭が いっぱいだったのね、私!そう、忘れてたの、お昼の後片付けも、 忙しい張大人にかわって、がんばるって言ったのに、駄目ね、私ってば ・・ほんと、駄目ね!」 「・・・昼に出かけて・・・ケーキ1つ買うのに、こんなに時間がかかったの?」 「s、そうっそうなのっ。いざ買おうと思ったら、あの、・・・たくさんっ! バレンタイン・デーだから、たくさんあって、どれがいいか迷って、 それで、色々なお店を見て回って、あの」 だんだんフランソワーズの声が小さくなっていくのに比例して、 少しずつ横へ、横へと、キッチンの方へと躯をずらしていく。 じっと、まっすぐに見つめてくるジョーの視線に耐えられない。 彼の瞳をみることができない。 話している間、フランソワーズの視線は落ち着かず、あっちこっちに 忙しなく泳ぎ、足下へ落としたことで、泳ぐことを止めた。 「ケーキって、みんなへ?」 「え、ええ・・大きいのを、とっても大きいのを見つけたのよ、 落とさずにもって帰るの大変だったわ!」 「ふうん・・・」 「あ。あの、ジョー・・・わ、私、配膳を手伝うから、い、行くわね」 「どこへ?」 「き、キッチンよ」 「どうして?」 「お手伝いのために」 「フランソワーズが手伝わなくても、誰かがするよ」 ジョーはじいっと、まばたきすらも忘れてしまったかのように フランソワーズを見つめた。 「そ、そういう、わけには・・私、お昼の、後片付けも・・・」 なんとかジョーの視線から逃れられないものかと、頭を働かせるが、 フランソワーズの脳内を駆け巡るのは、駅のゴミ箱に捨てたチ ョコレートのこと。と、ジェットがジョーが持ち帰った大量のチョコレートたちから 取り出した、フランソワーズが購入した同じブランドのチョコレート。 2つの写真がスライド・ショーのように交代に浮かぶ。 捨てたチョコレート。 受け取ってもらったチョコレート。 同じブランドの、同じお店のチョコレート。 自分が捨てた。 勇気がなくて、怖くて、でも、普通の女の子たちと同じようにしたくて。 ジョーが持ち帰ってきたチョコレートの1つになりたくなくて。 その1つにさえもなる勇気がなくて。 変なプライド。 意地のようなもの。 勇気どころか、拗ねただけ。 ヤキモチを焼いただけ。 馬鹿みたい。 ホールのチョコレート・ケーキを買った。 みんなへの日頃の感謝の気持ちを込めて。 その1ピースが、ジョーに配られる。 それだけでいい。 それが今の自分。 大きなケーキの切り分けた1つ分の、チョコレートケーキの関係。 「・・・・フランソワーズ」 「私、お手伝い」 「泣くほどにお手伝いが嫌なのにするの?」 「・・・・・・・・・」 ジョーの言葉に、ふっと口元で笑みを象ったが、溢れてくる涙は止まらない。 「ごめんなさい、私、ちょっと・・・」 「どうしたの?」 ジョーの声が耳に届くと、チョコレートを捨てた瞬間を 思い出す。 軽くなった手。 ほっとした、気持ち。 これで、自分の気持ちをまだ打ち明けなくてすむと、 思った瞬間の情けない自分。 私はジョーへの気持ちを捨てた。 たかがチョコレート。 されどチョコレート。 「フランソワーズ?」 ぼろぼろと落ちる雫を拭うことも隠すこともせずに、視線を 足下に落としたまま。 「どうしたんだい?なんで泣くの?」 優しい言葉が鋭い棘にかわってフランソワーズの胸を刺す。 「や!!」 フランソワーズは自分にのばされたジョーの手を、振り払った。が、 ジョーはそんなことはおかまないなしに、手をのばした。 「泣くなよ、・・・フランソワーズを泣かせたのは、ボク?」 「ちが・・・」 触れられた頬。 拭われる、涙。 「フランソワーズに渡したいものがあって・・・待ってたんだ」 ジョーの手が離れる。 そのままどこかへ消えてしまいたい。と、なぜ、自分には加速装置が ついてないのかと、ジョーを目の前にして、フランソワーズは唇をかんだ。 「・・・ハッピー・バレンタイン・デー・・・・」 ごそごそと、ジョーはジーンズのポケットに突っ込んでいた、 手のひらにのる小さな長方形の箱を取り出すと、フランソワーズの手を取り、 それをのせた。 「珍しいんだって・・・ローズ・ジャムのトリュフなんだ。もっとたくさん 買いたかったんだけど、でも、ほとんど売り切れていてさ、一番ちっこいのしか なかったんだ。ここのお店はチョコレート・トリュフで有名だって教えてもらって」 「・・・・」 「その、・・・日本は女の子の、ためにだけど、フランスは違うんだよね?だから、 別に、男のボクからでも、おかしくないと思って、・・・・ほら、最近日本でも ”逆チョコ”とか言うし、・・・知らないかもしれないけど」 ジョーの声がどんどん遠くなっていく。 手のひらにのせられた、チョコレートの箱。 オールドローズ・カラーの箱に焦げ茶色のリボン。 リボンにプリントされたお店の名前は、フランソワーズが 忘れることができない店の名前。 捨てたはずのチョコレート。が、戻ってきた。 「・・・・・・同じの・・」 「え?」 小さな2粒のローズジャムの・トリュフが入った箱を両手に包み込んで ぎゅうっと胸に抱いた。 「ありがとう・・・嬉しい、・・・・・・すごく、嬉しい」 「よかった・・・」 二人の視線が1つのになる。 じっと見つめて。 お互いの思いを交換する。 「でも、・・・私は・・・・・・何も、なくて、ごめんなさい・・・」 「いいよ、・・・別に何も、いらない」 熱く見つめ合う視線に、お互いの瞳にうつる自分を 確認できるほどに近づいて。 「もう、泣かない?」 こくん。と、ジョーの言葉にうなずいた。 「・・・ボクの気持ち、わかってくれたかな?」 素直に、首を傾げたフランソワーズの仕草に、苦笑した。 Fortune Fate end. *告白シリーズは得意なはずなのに(笑)めっちゃ苦労した! あと、・・・切ないブームが終わったらしい(笑)+私って3からの 告白ってかけないのかも?!っと、ちょっと思ったのでありました。 (今まで書いたの全部9から?かも・・・。なんで?) ちなみに、この後ちゃんと”好き”って言うのに、 ものすごーく苦労する9なんです。 なので、夕飯食べてる暇なかったのです・・・ってことで。 Photo by ミントBlue

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