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LIttle by Little・12
(12)




ギルモアが泊まる部屋を出たとき、突然、海は何かを思いついたようにピュンマの腕をひっぱり、合図をするようにジェットと視線を合わせ、アルベルトとコズミにむかって、自分たちが戻って来るまで帰らないで欲しいと言った。

海の勢いに、ピュンマはただただ彼についていく。
走りだした海を追いかけるピュンマが投げた部屋の鍵をキャッチすると、アルベルトは、ふうっと、ため息を漏らす。


そのため息は、どこか楽しそうだ。


「ほほ、若いもんはエネルギッシュだねえ」
「すみません、お疲れでしょうに・・・」


いやいや。と、コズミは朗らかに微笑みながら、アルベルトとともにピュンマと海の部屋へとむかった。
そこに、コズミが預かった友人の1人娘、さくらが失恋で痛めた胸を抱えて眠っているはずである。


「あの子には、ええ経験じゃて・・・」


どことなく寂し気に呟いたコズミの言葉に、アルベルトは苦笑することでしか答えられない。


「・・・そう、考えてくださるとこちらとしても、助かります・・・・リーダーの至らないところは、我々が補わなければならいので」
「島村くんのせいじゃないのは、よう解っとる。初めから、島村くんが誰を思っておるかも、よう知っておったでなあ・・・。さくらは・・」
「ずっと、1人で抱え込んできた気持ちを、初めて”共有”できる相手を見つけたために、ですね」
「あの子が育った環境は・・・ちと変わっておるでなあ・・・。目に見えんが、いまだ階級(クラス)が存在する世界じゃからして」
「・・・世界は、広いですからね」


コズミが呼吸を置いた、その間にアルベルトが言葉を次いだ。


「・・・恋愛とすり替わっても仕方ない。しかも島村くんはそんじゅそこらにいない、”ナイスなイケメン”じゃし・・・ちと、優しすぎると言うか、”センシティブ”すぎるんじゃが、そこがいいんじゃろ?ほれ、”草食系”のイケメンとか言うでな?」


少しおどけたように、アルベルトにむかってニンマリと笑うコズミ。


「恋愛くらいのすったもんだですんで良かったですよ・・・。もしも、さくらが彼女の父親と関わりが深かったら、・・・そっちの方が危険でした」


ホテルの廊下をコズミの歩調に合わせて歩く。
日付が変わろうとする時間。


「・・・・・真鍋は悪い人間ではないぞ?」
「コズミ博士のご友人を疑ったりはしません、しかし・・・それだけ。では、我々は納得もできません」


コズミは、身長さのあるアルベルトを見上げた。


「島村くんは、もちろん知っておるのだろうねえ」
「・・・そんな理由で、ジョーがさくらを振ったわけじゃないですよ」


廊下に出ている人影はなく、しん。と、静まり返っていた。
どこかの部屋で、誰かがテレビを見ているのか、アルベルトが聞き慣れないイントネーションの日本語が、うっすらと壁から流れていた。


「それは、よおおく、よおおく、解っておるよ、そんな小さい男じゃないからねえ、島村くんは」
「小さい男ですよ、うちのリーダーは。・・・さっさとまとまっていれば、こんな面倒にならずによかったはずですから。しかし、こればっかりは・・・せっかくの科学力(補助脳)も役立たずです」


エレベーター前で、矢印が上へ向いたパネルを押した。
コズミは、アルベルトの指先を見つめながらニンマリと、笑った。


「科学は人の手で成長する。人はこころで成長する。人の手がなければなにもできん”それ”が、こころなんぞ永遠にコントロールなんぞできんわい・・計算じゃないんじゃ、知識でもない。経験と・・・」
「?」


アルベルトはコズミの次の言葉を待った。


「己の魂の声じゃよ」
「・・・確かに、それは・・・・科学力ではどうにもなりませんね」
「どうにかしようと言う考えの方が、間違っとる。科学技術はそれを知る手がかりになれど、それそのものになろうとは、間違った考えじゃ」
「人は、人でしかなく」
「科学は、科学でしかない、じゃな」


エレベーターのドアが開き、先にコズミを乗せたとき、ふと。ジェットの姿が消えていることに今更ながらアルベルトは気づいた。

一緒に部屋を出たのは覚えている。
海とピュンマと一緒に?と、疑問を顔にのせたとき、コズミ博士が言った。


「彼は自由の国の戦士じゃ、空が、彼を呼んだのじゃろうよ」
「・・・・・空が、ですか」
「人類の夢は、彼の足にあるのお」
「空を自由に、ですね・・・」
「見る目線が、違うんじゃ地上に生きる我らとなあ・・」
「ただのおせっかいな鼻ですよ」
「立派なもんじゃ」
「・・・コズミ博士」
「なんじゃ?」


エレベーターのドアが閉まる。


「豊富な経験と己の魂の声で選んだ、奥方(シズカさん)の話しは、いつ聞かせてもらえるんですか?」
「!」











####

「あれ?そういえば、ジェットは???」


一緒にジェットもついてきていると、勝手に思い込んでいた、海。
海がピュンマを誘ったとき、ジェットとも視線を合わせたことを覚えていたからだ。


ホテルの目と鼻の先にあるコンビニエンス・ストアに飛び込み、手に持った買い物カゴに思いつくままスナック・駄菓子・スイーツ、などなどを考えなしに放り込んでいく。
そのカゴから、吟味して不要と思われるものを商品だなに戻していく、ピュンマ。


「さあ?部屋を出たときにどっかに行ったんじゃない?放っておいたらいいよ、ジェットだし!海!ちょっと、なんでもかんでも見境なくカゴに入れちゃ駄目だよ!考えてよー!!」
「いいんだよっ!ピュンマっこれでっ!!何を勝手に戻してんの!?」


ピュンマがカゴから戻した商品の倍を、海はカゴへと入れた。


「うわわわっ海!こんなに食べるの!?」
「いいだって!食べられなくてもっ、これらが”ある”ことってのが重要なんだ!」
「???」
「急ぐよ!」


海はお腹が空いたのだと、ピュンマは単純に考えていた。
ギルモア、コズミ、悵大人は夕食をすませてホテルに戻ってきた。

その他の家族は食事を1日2日、抜いたところで、特に問題はない。
そのために、海が、さくらが、夕食を取っていないことをすっかり忘れていたピュンマは申し訳なく思う。





---こういうとき、人じゃなくなってしまったんだなあって・・思うんだよね。
   





居なくなるはずのない。
連絡が取れなくなるはずがない。

ミッション中。




---そういえば、篠原先輩も食べてないよね・・・。





事件に巻き込まれたのか、何かあったのか?と、疑った時間の長さが、今のピュンマの躯を重たく感じさせた。


「ジョー・・、フランソワーズも、ちゃんとご飯食べたかなあ?」


手に持ったスナック菓子の袋を見つめて呟いた。


「食べてるよ!美味しいのを2人で秘密で食べてるって!きっとさ!!帰ってきたら問いつめようね!さっレジに行こう♪」
「海?!な、」


ピュンマが物思いに耽っている間に買い物カゴが1つ増え、カゴから溢れんばかりに品が詰め込まれていた。


「これでいいのだ!」


何がいいんだよ!っと言葉を無くして呆れ返るピュンマに向かって、にいいい。と、笑った、海。


「人間、生きてる限りお腹が空くし!お腹が満たされたら、よけいなこと考えなくなるんだよ!!悲しいけど幸せなんだよ、お腹がいっぱいで!」


がっさがっさと、コンビニエンス・ストアのマークが入った買い物袋を両手に下げて急ぎ足に2人はホテルへ向かう。


「・・・海、これって、・・・・全部、さくら、に?」
「女の子を泣かせっぱなしにしたままなんて、男として最低だと思わない?」
「うん。うちのリーダーは本当、最低だよっ、ね!!」
「でも、・・・・それが似合うのが凄い」
「似合うって・・・・海、褒めてないよ、それ」
「ぼくは似合わないし、みんなに最低!って叱られる」
「あ、ボクも似合わないよ!!」
「うん、ピュンマが似合ったら、子犬でも似合うよ!」
「・・・・」
「そういう事が似合って、そして、それをしても周りから許されるって言うか、理解されている、・・島村先輩って・・・」
「?」
「・・・・・・・・・しんどいんだろうね」
「え?」
「・・・何をしても”ジョー”だから、”009”だからだと、言われたら、もしも自分が最低だ!って思っている事でも、周りがそうやって認めてしまったら、さ・・・。彼は、いつも、自分の気持ちを誰にも受け止めてもらえないままで、そして、誰からも面と向かって彼へ気持ちをぶつけていないってことじゃない?」
「!」
「別にっみんなが、ピュンマの家族がそうとは言ってないけどっ!!ほら、ギルモア先生が、帰ってきてからきつううううっく怒るって言ってたし!!」
「・・・・・・・・・大丈夫だよ、海」
「?」
「ぼくはどーーん!っとジョーにぶつけてるから!!帰ってくるのが楽しみ!」
「ピュンマ?」
「急ごう、短気なアルベルトの気が変わらないうちにね!」













####


暗く濁った空気の部屋。
さくらの涙の温度に等しいだけ、暖まった部屋。

そっと、コズミに肩を揺すられて目覚めたさくらは、コズミの声を聴いた途端、再びぼろぼろと泣き始めた。


起き上がったさくらは、腕を伸ばして、コズミにしがみつく。
泣き枯れてしまったせいで、まともに声が出ない状態。

コズミは、しっかりとさくらを抱きしめて、彼女のベッドに静かに腰を下ろした。
アルベルトは、窓を全開に開けて部屋の空気を入れ替える。
エア・コンディショナーの設定を下げて部屋を冷やすと、バスルームへ向かい適当に手に取ったハンドタオルを水で冷やし、固くしぼったそれを、コズミに向かって差し出した。


コズミがアルベルトの手から、冷たいおしぼりを受け取り泣き咽せるさくらの両瞼にあてがった。


「やれやれ、美人が台無しじゃなあ・・・」


ひっく。と、しゃくりあげるさくらは何かをコズミに語ろうとするが、まったく言葉にならない様子。


「いい、いい。無理せんでいい・・・」



窓から雨の街独特な匂いと、湿気が入り込む。
冷えた風、とは言い難い空気がのんびりと、入り込む。

エア・コンディショナーの人口の風が妙に新鮮に感じた。



全開にした窓を、1/4ほどにして、アルベルトは窓から離れた。


「ロビーで、一服してきます・・・」


アルベルトが、気を利かせて部屋を去ろうとしたとき、ノックもなくドアノブがまわされた。


「誰だ?」
「オレだよっ!!」


聞き慣れた、おせっかいな鼻の声。


「ジェット?」


アルベルトが、部屋のドアを開ける。
ドアを開けたアルベルトを無視してずかずかと部屋に入って来たのは、いつの間にか姿を消していたジェットだった。


「戻って来たのか?」


彼の背にむかってアルベルトが言った。


「戻って来ちゃ悪ぃかよ!ほらっ」


アルベルトへと振り返って、彼に向かって突き出したジェットの手に、ぶら下がるのは大きな紙袋。


「腹が満杯になりゃ、ちったあ増しになるかと思ってよ」


ジェットは顎で、ベッドの上のさくらを指した。


「・・・単純だな」
「夜遅くまで、ケーキ屋って開いてんだな、ま。そのおかげで買えたんだけんどよ」
「お前みたいなヤツが多いんだろうな・・・」
「オレ様のためか?いいじゃん、それ!」


突き出された箱を、中に入っているものが崩れないように(すでに崩れているかもしれないと、思いつつも)慎重にジェットから箱を受け取ったアルベルト。


「心配ねえって、中はエッグ・プティングのキャラメルソース(プリン)のと、クリームパフ(シュークリーム)だぜ」
「結構な量だな」
「あるだけつめさせたかんな。さくらが”駄菓子”ん中でも好きなもんだ」


ずっしりと腕にのせた重さに、紙袋の中を覗き込む。
ドライアイスが入っているのか、部屋より冷んやりとした空気が紙袋の中にあった。


<クリームパフの皮がよっ!あんなに薄くてふっくらしてんのって、世界中探したって日本の以外でねえし、プリンはまあ・・・思い出のってやつらしい>
「・・・そうか」


ジェットはアルベルトが受け取ったのを確認すると、コズミにしがみついて泣く、さくらに向かって大声を出した。


「ばーか!あんなつまんねえ、しょーもねえ男なんかのせいで泣くんじゃねえよっ!!もったいねえぞ、さくら」


長い足を素早く動かし、コズミとは反対側から、さくらへと近付く。
ジェットは彼女のベッドの上へと身を乗り出す形で、コズミにしがみつくさくらを背後から引きはがすようにして、抱きしめた。

さくらの瞼にあてられていた、おしぼりが、床に落ちる。


「ったくよお、おしめが濡れた赤ん坊みたいに泣くなって。さくららしくねえぜ?」


そして、布団の中に腕を通し、彼女の膝裏を抱えて抱き上げる。
抱き上げられたさくらは、ジェットの首に腕をまわし、彼の首元に顔を埋め、泣く。


「オレもジーさんの家、今晩邪魔していいか?」
「おお、そうしてくれるかい?」


コズミはゆっくりとベッドから立ち上がりながら、ジェットを見上げ、微笑んだ。


「運転・・・は、結局オレか」


ドアのロックが外される音と、アルベルトの声が重なった。


「「ただいま!!」」


ピュンマと海の声がぴったりとはもる。
そして、部屋に飛び込むように戻って来た2人の両手にぶら下がるコンビニエンス・ストアのマークが入った買い物袋を見て、コズミは声を出して笑い、アルベルトも面白そうに左の口端をあげて笑った。


「もう少し・・解っていると思っていたが、鳥と同レベルか?・・・ピュンマ」
「僕?!違うって、これは海が!!!」
「さあ!食べようっ!!!」


海のかけ声に、ジェットがにやっと笑う。


「おお、でもここじゃねえ、ジーさん休ませないといけねえしよ、やけ食い場所はコズミ邸だっ!!」
<・・・・ピュンマ>
<何?>
<変わってくれ>
<ん?>
<コズミ邸に海が行くなら、お前もだろう?それなら、運転はお前さんにまかせていいか?>
<いいけど・・アルベルト?>
<ジョーの、携帯は・・・壊れているわけじゃない>
<!?>
<そういうことだ>


ギルモアが泊まる部屋で、フランソワーズが忘れた携帯電話を手にしたときに確かめた。
ジョーの携帯電話は、送受信に何も問題はない。


壊れていない。と、思う。



<本人が、オレたちも、だが・・・”壊れた”と思い込んでしまっただけだ。と、考えている>
<でも、博士はそんなこと一言もっ>
<博士はオレたちよりも...だ>


先ほど、自分の手からフランソワーズの携帯電話を受け取ったギルモアが、短い時間ないに何かを細工した可能性がないとは言えない。と、胸の中でアルベルトは呟く。

そうなると。と、一晩中、その細工に振り回されることになるかもしれない、篠原当麻と張大人のことを考えた。


「ミッション中だと言うのに・・・平和、この上ないな」


イワン。と、アルベルトはずっと”夜の時間”のように大人しい001に話しかけた。

















####

フランソワーズでも知っている、大きな駅へ向かった。
そこから別の沿線に乗り換える。途中で電車を降り、各駅停車へと乗り継いだそこで、やっと座席を確保することができた。


「疲れた?」


亜麻色の髪が風もなく左右に揺れる。



電車を乗り換えるたびに、場所が変わるたびに、都心から離れて、彼の向かう目的地へと近付くほどに、景色を縁取る電車の窓は、どこか長閑さを含んでいた。






どれほどの時間を移動に使ったのだろう。
移動に時間がかかるほど。
都心から離れるほど。




繋がれているはずの手が、とても遠くに感じていた。




近くに居て。
直接、手に感じるジョーの体温。




にも関わらず、とても、遠く、遠く、に、感じる。

その感覚を、懐かしいと思ったのは、なぜだろう?と、フランソワーズはジョーを見上げて考えた。









ドルフィン号から邸へ越してから、まだ1年も経っていない。


その間に。






---素直に、あなたを愛していると想うことができるようになったの・・・
  ただ、それだけのこと。
  けれど、ずっとできなかった、こと・・・。








少しずつ、少しずつ・・・・。


















旅の終わりは、小さな駅だった。


「少し歩くよ・・・」
「・・・」
「そんなに遠くないから」




改札口が規則正しく動く。
通り過ぎた電車が走り去る。
人々の足音。







冷房が効いた列車の中で、冷えてしまった躯には、妙に心地よく感じてしまった夏の暑さ。
長く空を独り占めしていた太陽が、月にその場を譲らなかればならない時間。


知らない町の名前をジョーに教えてもらった。
知らない道をジョーと並んで、離れることがない手を、繋いで、歩く。


「本当に、疲れてない?」
「ええ」
「無理しないで、ちゃんと言って」
「電車に乗っただけだもの、大丈夫よ。でもちょっとだけ、文句を言っていいかしら・・・」
「文句?」
「・・・・漢字って意地悪だと思うの」


フランソワーズの言葉に、ふっと、口元で笑った。
けれども、彼の瞳から消えることの無い、哀しい色。











空が水色を薄めて暖色のグラデーションに染まり、短い夜の訪れを告げた後。

綺麗に舗装されたアスファルトが吸った昼間の熱が、ストラップサンダルを履いているフランソワーズの足首に絡む。

明るいとは言い難い街灯の感覚が開いていく。
電柱にかかる電線の色が藍色に紛れてしまう。

視界に入るフレームをなくした空が広く感じる。
都会と違って空をいびつに区切るビルは、なかった。


どこかで犬の遠吠え。


駅から同じ方角へ歩く人々にまぎれて。
駅の方角へと向かう人々とすれ違いながら。

ときおり、投げられる好奇な視線を受け止めつつも、ジョーはまっすぐに目的にへと足を進め、そして、フランソワーズはジョーについて行く。

何かを思い出したかのように、フランソワーズにむかってジョーは小さな駅のある、小さな町の説明をする。


「この道の向こうに、小学校があるよ・・そこに、半年だけ通った」
「半年だけ?」
「・・・うん、半年だけ」


「山が近いんだ・・・よく、怒られた。子供だけでは行ってはいけませんって」
「でも、行ったのね?」
「行くなって言われて、行かない子供はいないと思う」


1台の自動車が歩行者優先の道路を時速40km未満の速さで2人を追い越した。
車が通りすぎた先を追うように、2人は歩く。


フランソワーズの目に留まった道路標識。けれど、デザインが少しばかり違うように思えた。古いものを、未だに取り替えることなく使用されているのだろう。


2車線の大通りへと出ると、小さな店が寄り合っていた。



酒屋、ベーカリー、薬局、花屋、写真屋・・の角を曲がる。
民家が集まった地域から少し外れてくると、どこからともなく聞こえていた”生活”の音が遠くなる。


「・・ジョー・・・?」


更地にされた、何も無い広場の前で、ジョーは足を止めた。




「ここに、教会があったんだ・・・」



足を止めたフランソワーズにではなく、アスファルトに落ちていた自分の影に向かって言葉をこぼした。


「前来たときには、・・・こんなものなかったのに」


電柱に、ついでとばかりに取り付けられている白く眩しい光が、人気のない細い道を照らす。
フランソワーズの背後にある街灯の光に押し出されるようにして、青緑色のフェンスの影がフランソワーズの足下から薄暗いフラデーションを作り出しながら何もない更地へと伸びていた。


がしゃん。と、音を立てて揺れたフェンスに、フランソワーズの肩が跳ね、彼女は反射的にジョーを見あげた。
フランソワーズと手を繋いでいない方の手の指が、フェンスの金網に縺れて、留まる。


「ここに、こんなものは、なかった・・・・・」


街灯の明かりを弾く、フランソワーズの髪が揺れて、フェンスの網に取り付けられている、白いボードをみつける。
日が落ちた暗闇の中、街灯の光が届かない位置にある、その文字を読んだ。


---マンションが、建つのね・・・。







首を右にめぐらせれば、100mも離れてない場所に、建てられたばかりだろう新築の家があった。
窓に灯る明かりが優しい印象をフランソワーズに与える。

人が暮らしている光は、街灯となんら変わりないものであるにも関わらず、温かく優しい色に見える。


「なかったのに・・」



ジョーは立ち尽くし、フェンスに囲まれた何もない地面を長く、見つめ、音のない時間が2人を包む。












「!」


繋いでいた手が、突然、離れた。
フェンスが、揺れた音が、フランソワーズの耳に届く。

その音に、どこかにいる犬が反応して、吠えた。


「ジョーっ」


フランソワーズは離れた手を、追いかける。が、彼の両手はフェンスに触れて、ひらりと身を高く宙に浮かせ、向こう側へと。
青緑色のフェンスで囲まれた更地へと足を降ろした。


「・・・・」


金網で編まれたフェンス越しに、ジョーはフランソワーズを観る。




さらり、と。揺れる、亜麻色の髪は、艶やかに光を滑らせて、蜂蜜色のように甘く。
こぼれ落ちてしまいそうなほどに大きな瞳の色は、海のように深く、空のように澄み切って、煌めく。
どこかで観たことのあるような、けれど、決して同じ色であることはない、宝石を囲うまつげは長く、フランソワーズが瞬くたびに、くすぐったい風を生み出す。
ふっくらとした形よい、唇が、呼ぶのは、自分の名前。


「ジョーっ待って!」


金網に縺れた、長く細い、指。
フランソワーズが預けた体重に、傾き、それを弾き返るように突っ張るフェンス。


「そこで、少し待っていて・・・・・」


街灯の光が、スポットライトのように、フランソワーズに当てられていた。
眩しげに、瞳を細めて美しい人を観たほんの数秒後、ジョーはくるりとフランソワーズに背を向けた。


「っj・・・」














3cmほどのかかとがある、オープン・トウのストラップサンダル。
白のエナメル、留め金部分に貝殻があしらわれている。

その貝殻部分が可愛くて、大型スーパーで、まだセールになっていないことを気にするフランソワーズにむかって、荷物持ちのジェットが「イライラすんなあったく!これくらい買ったって世界は滅びねえよっ!」と、彼が買ったサンダル。が、フランソワーズの足を動かす。

フランソワーズが来ているノースリーブのシンプルなローウェストのワンピースは、アイスブルーの色。
「『ローレライ』で春夏物を一通り揃えたと言っても、足りないだろう」と、どこで調達してくるのか、どんな顔で1人、女物のワンピースを買ってくるのか。
ギルモア邸の七不思議となっている、アルベルトからの「土産だ」。の、ワンピースがフランソワーズの躯をふわりと、浮かせた。

脳波増幅装置をお腹に埋められたフランソワーズのお友達の『ウサギさん』のぬいぐるみに、「お腹の綿を抜いてごめんなさい」と、ピュンマが首に結んだ細い蒼のリボン。
そのリボンを観て、お揃いだ。と、グレートが買って返ってきた蒼のカチューシャ。を、「ウサギさんとお揃い?キミの瞳と同じ色だね」と、言ってくれたのが、嬉しくて、嬉しくて。・・・その日以来、ずっと髪を飾る蒼。

腕を伸ばして、フェンスのトップ部分に手を置く。
張大人が「お転婆は元気でいい証拠だけど、防護服でないとき気をつけるアルヨ!」とのお小言が、こんな時にも関わらずにフランソワーズの耳に届き、スカートが風に乗る。



星がまたたきが、視界をかすめた。





ジェロニモが言う。


「そのとき、その場所に、その行動を取ったこと。が、全てだ。理由は後からでもつけられる。自分のこころの声をきけ」








ジョーの声が聞こえた。
イワンの声と重なる。


<ドウシテ逃ゲルノ?君ガ逃ゲテイルカギリ、終ワラナイ>

「・・逃げているわけじゃない。ただ、・・・伸ばす腕が見当たらないんだよ」

<マズハ ソノ手ヲ、腕ヲ伸バシテミナイト、ワカラナイ、始マラナイヨ>
(day72)





フランソワーズの肩から落ちた、シャルダーバックがアスファルトに跳ねた。


「可愛いじゃろう!どうじゃ?インターネットで買ってみたんじゃっ。いやあ、女の子の買い物は楽しいのお!!さあ、これを持って外へお行き、何も怖がることはないんじゃ、儂らはここで暮らし、幸せになるんじゃからのお」














ひらり。と、フェンスを飛び越える短い時間。


「ジョーっ!」





走馬灯のように駆け抜けた、思い出。
まだ、1年も経っていない暮らしの中で、たくさんの思い出がある。
新しい私たちがいる。



サイボーグ・ナンバーとしての私たちじゃない、ギルモア邸に住む、家族。






新しい、自分がいる。

少しずつ、少しずつ、変わった。
変わっていないと、変わりたくないと、思っていた私を・・・・ジョー、あなたが変えてくれたのよ。




「フラっs、危ないっ!」








自分がフェンスを飛び越えたときよりも、はるかに大きな音が背後で鳴った。
反射的に振り返る。

呼ばれた名前。











空に浮かんだ・・・フランソワーズは淡い光に包まれて。



















ジョーは腕を伸ばした。
フランソワーズにむかって、まっすぐに、ただ彼女を受け止めたくて。

腕を伸ばした。







====13へと続く。


・ちょっと呟く・

すみません。・・・・12をアップした3/17/09’の最後、
「ここに、教会があったんだ・・・」から下を付け足しました(3/19/09’)

(13)を書いていて、そっちの方がいい気がして・・・。
『でい~・72』からの引き継いでます・・。


まだ迷いはあるんですが、なんとなく行き先決まってきました。
集中してどっぷり『リトル』だけの妄想に浸っていればなんら問題ないことだったのかも・・・。
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