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ちょっとそこまで。
階段をおりる足音の軽さから、その音の主がフランソワーズだと背中で意識した。
そろそろ買い替え時かもしれない、スニーカーのかかとを人差し指でねじ込んで履く。シュー・レースを結びっぱなしのまま履けるほどに馴染んでしまったスニーカーと、お別れするのは少し寂しい気持ちになる。だから、まだいいか。と考えた。

けれど、すでに新しく買うなら”あれ”。と、決めてあるのも事実。


それなら”あれ”が売っているかどうか、賭けてみようと思う。
あっちまで足をのばしてみようか。と、考えた。
店に”あれ”があれば・・・。と、今日の予定をさっと組み上げる。

・・・と、なんとなく、とても”忙しい人”のような頭の使い方だけれども、ただ、夕食前に一度車を出して欲しいと頼まれているので、その時間までに帰ってこられるかどうかを考えただけだったりして。


かかとと一緒に埋まっていた人差し指を引きぬいて、落ちていく足先をこんっ。と、玄関の大理石に跳ねさせた。


「いってらっしゃい」
「うん」


階段を降りきって自分に向かって声をかけてきたフランソワーズの方へ振り返ることなく、ジョーは答えた。


「気をつけてね」
「うん」


トレーナー素材のパーカーのポケットに左手を突っ込み、観音扉になっている邸の玄関の右のドアノブを握る。


「どこまで行くの?」
「ちょっとそこまで」


いつもの会話。
何もかわらない会話。


もう一度、ジョーはスニーカーの足先を、こん。っと鳴らすように大理石に当てた。


「そお、忘れないでね」
「うん。覚えてるよ」


玄関の扉を押して、春だよ、っと歌っている日差しを邸に迎え入れる。
予想していたよりも、ずいぶん暖かい。


「いってらっしゃい」
「うん」








ちょっとそこまで。




「・・・・」


フランソワーズはジョーの背中に向かって微笑んでいた。
毎日どこかへ出かけていく、ジョーを見送る。


どこへ行くの?っと、訪ねれば、いつも返ってくる答えは『ちょっとそこまで』
その『ちょっと』がどれくらいの『ちょっと』で『そこ』がどこなのか、フランソワーズは知らない。


「いってきます」
「いってらっしゃい」


バタン。っと、邸の扉が重々しく閉じる。


「・・・・・」


ふうっと、胸にたまった息を吐き出して、フランソワーズは暗くなった邸の玄関を見つめた。


「私も、ちょっとそこまで・・出てみようかしら」


独り言をつぶやいて、リビングルームへと向かった。






***

玄関の外。
履き馴らしてしまった、換え時のスニーカーを見下ろしながら、玄関の扉にもたれた。


「いい、天気だなあ・・・」



顔を空へ見上げるようにあおげば、眩しくて瞼が自然とおりる。


「・・・あったかいなあ」


ジョーの足が、光りの中へと進んでいった。




















「!」


リビングルームのL字型のソファを贅沢に独り占めして、ゆったりと座っていた、フランソワーズ。
読みかけていたハードカバーの小説を膝にのせたとき、ふと。良く知る人の、気配。


「・・・どうしたの?・・出かけたんじゃ・・忘れ物?」
「なんて言うか、・・・」


何の前触れもなくガラス戸が開き、ジョーが、そこに立っていた。


「だから・・ちょっとそこまで、さ」
「?」
「ちょっと、だし、そこまで、だけど、どおかなあ?って・・・」

へへ、っと照れた笑いを浮かべながら、そわそわと跳ねた後ろの髪を意味もなくわしゃわしゃとかきむしる。


「・・・・そこまで?」
「うん」


フランソワーズはソファから立ち上がり、開かれたガラス戸へと歩み寄る。
リビングルームと庭に段差があるため、いつもは見上げているジョーへの視線を下にして捉えると、あけられたガラス戸のふちに手をそわせた。


一瞬、ジョーの視線がフランソワーズの手を追う。


「どっちでも、いいんだけど・・・」


そう言いながらも、ジョーは頭にあった手をフランソワーズに向けて差し出した。
キミの手は、ここに。と、誘っている。


「・・・どこへ行くの?」
「・・・とってもあったかくて、天気がよくて、気持ちがいいよ」
「ジョー、それじゃ、わからないわ」


フランソワーズはガラス戸にそわせた手を離してジョーの手を取り、彼にエスコートされながら、庭においてあるサンダルを履いた。


「別に、どこって言うほどのところへは行かないし」
「出かけるなら、ほかの靴がいいわ・・」


庭用に買ってある、フランソワーズのサンダルはトウ・シューズのような形で、ビニール?でできている。キラキラとしたラメがたっぷりはいった、バービー人形の。みたいな、おもちゃみたいな、靴

濡れても何しても大丈夫!っと、ピンクと透明なそれは、2足で985円。


「大丈夫だよ」


にっこりとジョーは笑った。






「「ちょっとそこまで」だかr」









フランソワーズの声が重なる。
びっくりしたように、ジョーはくるりと目を丸くした。








二人の笑い声が、午後の光にとけていく。




「おや、お出かけかい?」


庭から出て行く二人に気づいた、グレートが紅茶のカップを片手にダイニングルームから出てきた。

グレートへと振り返った二人は視線を合わせて微笑みあい、秘密めいた、くすくすとした笑いをこぼしながら、言った。












「「ちょっとそこまで(よ)!いってきますっ」」













end.




*・・・春ですからね。
 お散歩、寒くないですからね。・・・のほほーん。
 原かなあ、と。個人的に。
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