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雨が止んだ、そのときには・・・

暖かな日が続いていたので、浮かれて履いたオープン・トウのサンダル。
急な雨に冷やされた空気にさらされ、アスファルトを跳ねる雨水に唇の両端が下がり、への字を描いた。

薄いスプリングコートの下は、キャミソールと七部袖のアンサンブル。
伝わってくる冷気に、固く身を縮めながら、自然と右手が左の二の腕を忙しくさする。

色のない雨が桃色に染まって、幻想的な世界を広げながらも、桜の花びらの絨毯は観るも無惨な状態になってしまった上に、とても滑りやすい。


さらさらとした霧のような雨が長々と続く。



雨さえ降らなければ満開の桜の下で、春の暖かな日差しに見守れながら、ゆっくりとお気に入りの小説を、一文字、一文字、音にするかのように読んでいける。

それは、とっても素敵なことだと、フランソワーズは花見よりも、『花見の場所取り』を楽しもうと
思っていた。


張々湖飯店から車で20分ほどの植物園に付属する公園は、ちょっとした桜の名所でもある。けれど、昨今の”マナーの悪さ”から、なぜか花見をするために”申し込み”が必要となり、申し込み希望者が多い場合は”抽選”となっていた。

運良く、指定した日が平日であったこともあり、許可書がギルモア邸に届いたのが、10日ほど前。

いつの間に、誰が?と言う疑問は言いっこなし。



「許可書が取れても、いい場所が取れる保証なんかないからな!」と、言い出したジェット。
「昼よりも夜桜と洒落たいねえ」と、秘蔵の酒をこっそりと車のトランクに積んだグレート。
「ライトアップは今年が初めてなんだってね。でも、夜の11時までだよ」と、許可書に付属していた、注意事項一覧の部分をしっかりと読む、ピュンマ。

張大人はお店の厨房で今夜のためのお弁当作りに追われて、ジェロニモはイワンと一緒にギルモア博士と子済み博士を迎えにいく。

「まあ、時間になったらそっちへ行くさ」と、面倒なことに巻き込まれないように、さっさと邸を出て行ったアルベルト。

「場所取りって、桜が綺麗に眺められるところにシートを敷いて座っていればいいのでしょう?」と、フランソワーズ。
「1人で大丈夫?」とフランソワーズを訪ねるジョーは、当日はすでにアルバイトの予定が入っていたので、夜にならなければ躯が空かない。


「ええ、大丈夫よ。ゆっくりと桜を楽しみながら本でも読んでいるわ」










***

雨が降り始めて、フランソワーズは慌てて敷いていたシートを畳む。
ちらほらと見かけた、フランソワーズと同じ”仕事”をしていた人たちは、みな携帯電話を耳に押し付けている。


すぐに止むわよね。と、今日の天気予報を信じている、フランソワーズ。
午後に曇りと言っていたけれど、雨が降る確率があるなど聞いていない。


フランソワーズが選んだ、少し広場から外れた場所に立つ桜の木に背を押し付けて、霧のように視界を霞める雨と、空気をピンク色に染める桜を見あげる。

桜の隙間から除く、雨雲の色が和紙のように思えた。


「だから・・・ああいう絵になるのね」


以前にギルモア博士とコズミ博士の付き添いで行った日本画の展覧会を思い出す。


「・・・・」


淡く可憐に、儚く散ってゆく。
雨に濡れて、別の美しさで魅せる。




「・・・・・・・ジョー」




ピンク色の世界に散る音は。




「・・・ジョー」




想い人の名前。






「ジョー・・・・」






1人でいるとき、不意に呼んでしまう、口癖。











「・・・ジョー・・・・・」










雨の冷たさがしみ込んで。
さくらの色が淡く染める。







「・・・・ジョー・・・・」










何度も、音にして散らす、想い。









「・・・ジョー」










閉じた瞼に焼き付いた、桜の景色。に、フランソワーズは想い人を描く。
耳に馴染んだ雨音に紛れてなら、誰にも聴こえないだろうと、描いた人にむかって、降らす桜色の気持ち。








「・・・・・・・好きなの・・」







雲に隠れた青が姿を見せたとき、想像の中で描いていた人が、目の前に、いた。











「ふ・・らん・・そわー・・ず・・・・?」








やっぱり1人でなんて、心配だから。アルバイトを”家の都合で”と言って抜け出した。
途中で、今にも雨が降り出しそうな曇り空が気になり、立ち寄ったのは、24時間開業の店。




途中降り出した雨に、ああ、やっぱり。と、買ったばかりの折りたたみ傘を広げたとき、聞こえて来た声を、彼女の声を聞き間違えるはずはない。






「・・・・雨に濡れる桜が・・・ね?」


反射的に舌が動く。
悲しいほどに、自分の気持ちを隠すのが得意になってしまったフランソワーズは、柔らかな和紙のような雲を見上げて、ため息をひとつ。



「・・・・・・・僕、は・・」



彼女の仕草を追うようにして、ジョーも見上げる。


「雨が降りそうで・・・それで、・・キミが風邪をひいてしまうのが、心配で・・・」
「・・・だから、来てくれたの?」
「・・・・・・・・・う、うん・・・それもあるけど・・・」








桜の下で、キミと2人で過ごせるチャンスだと、思ったことは、言えないままに。




「雨、止むかしら?」


傘をとじて、フランソワーズと同じように桜の木に背を押し付けて雨を凌ぐ。
隣と言えばいいのか、後ろとは言えない、斜めな位置からちらり、と視線だけを彼女へと送りつつ。


「う・・ん。止むといいね」


”好き”の前に降っていた自分の名前が、気のせいなんかじゃないことを確認したく。
けれど、雨の中観る桜も確かに素敵だから。と、自信がもてなくて。



「・・・・綺麗ね、桜」
「うん」












この雨が止んだら。と・・・・・。


賭けてみる。








「さっき、雨に濡れる桜が好きって言った、前に・・・さ・・・・」








end.





*うーん・・・?


写真/空に咲く花
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