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手放す決意の水曜日
いつもなら、朝食の支度のためにキッチンに立っているはずの
フランソワーズだったけれど、今朝は違った。

彼女は、今、邸の玄関のドアを開け、帰って来たばかり。
そして、それを迎えたのは、チビ(子犬)を抱いたジョー。


「チビの散歩に行ってくる」
「あの、ジョー・・」


何かを言いかけたフランソワーズを無視して、彼女を押しのけるように
邸のドアを乱暴に開けて出ていった。


開け放たれたそこに、佇んでジョーを見送るフランソワーズの手は
伸ばされたまま、宙を漂い、不安げに彼女の胸に拳を作って押しつけた。









月が顔を隠して眩しい陽の光が海面の波に弾かれる朝に、フランソワーズは
帰ってきた。



邸近くの海岸を歩く、ジョーとチビ。
繰り返す波のようにジョーから走って離れては、遊んで!っと訴えるように、
ジョーの足下で勢い良くジャンブする。



「ほら!とっておいで!!」


適当に拾った枝を、軽く投げる。
大喜びで、砂をけり走っていくチビをみて、微笑んだジョー。



への字を描いたままの口元で。




ギルモア邸近くの海岸を歩き、そのまま歩き続けて。


長い長い、散歩になってしまったチビのお腹はギュルギュルと鳴り、
座り込んで、くううん。くううん。と鼻を鳴らしたころ、ジョーと
チビは駅近くまでやってきていた。

駅前にある、たった1つのコンビニエンス・ストア内にあるペット
コーナーで、よくCMでみる、1個400円もする、人も食べられる
んじゃないの?と思ってしまうような豪華なチビ用の朝ご飯と水、
自分に、缶のお茶、ツナマヨ、焼きたらこのおにぎりを買った。

レジでもらったレシートを見れば、チビの朝食はジョーの、よりも
高かった。


「今日だけだよ・・?お腹をいっぱい空かせてしまった、お詫びだ
からね」


バスロータリーの一番隅っこにあるベンチに座って、ふたりで朝食。
通学、通勤ラッシュのさまを眺めながら、ぼんやりと過ごした。


チビは基本、拾ったときにつけていた首輪のみで、リードをつけていない。
けれど、ジョーの半径1m以上離れることはなく、彼の足下、ジーンズの
裾と格闘し、スニーカーの紐とじゃれあった。

その様子を制服を着た団体の女の子たちが『可愛い~』など声をあげて、
通り過ぎていく。
愛想のよいチビは、アン!っと彼女たちにむかって愛らしい姿を見せた。


「・・・モテるんだね、チビ」


愛想を振りまくチビに苦笑するジョー。
子犬も確かに可愛いが、その視線が最後は自分に留まっていることに、
本人は気づいていない。





「さて、と。・・・チビ。どうしよっか?」


張大人の店への方角にジョーの足が勝手に向かおうとする。
けれど、今日はフランソワーズが店を手伝う日だ。と、思い直して立ち
止まった。
朝に邸へ帰ってきた彼女だから、店を休むかもしれない。という考えは
すぐに却下された。

彼女は約束はキチンと守る人だから。


どんなに疲れていても、事前にキャンセルの断りをいれてない
場合は、這いつくばってでも、ちゃんとお店のお手伝いをする。



だから、きっと店には彼女がいる。
もしかしたら、そんな彼女であることも、”永尾”さんは知って
いるかもしれない。

だから・・・フランソワーズのことを心配して、お店にやって
くるかもしれない。
張大人の口ぶりでは、フランソワーズが店に出る日を知っている
みたいだから。

きっと、いる。






「・・・」







フランソワーズのプライベートなことだから、僕には関係ない。


デートしようが。
それが誰と・・でも。


どこの誰とフランソワーズが、でかけて。








朝、帰って来て・・・・。




「心配だっただけだよ、・・・女の子だし。何かあったらっ
て、・・連絡もなくてさ・・・僕は、009だし」



つん。っと、鼻奥がしびれた。










目頭が熱くなる。
喉が閉まって、なんだか息苦しいと言うか、痛い。








「・・・チビ、おいで。帰るよ」







くるりと踵を返して、邸へ戻る道へと足を進めようとしたら、
ジーンズのポケットに突っ込んでいた携帯電話が鳴った。












***


「配達のアルバイトの子が事情で家に帰っネ・・・。助かるアルヨ」
「・・・・グレートは?」
「今日は”本業”の方へ行っていないネ」


週に2回、グレートは私営劇団のアドヴァイザー件脚本家として
活動するために店には出ない。


「ホールのアルバイトは午後からね。ランチラッシュで、ワタシも
フランソワーズも忙しくて店を離れられないアルよ・・・」


張々湖飯店が開店するのは、10時30分。


「ランチの間だけだよ?・・・チビの飼い主からもしかしたら連絡が
あるかもしれないし・・・」
「アイアイね!もちろん、昼が過ぎたら帰っていいアルヨ!夕方には
別のバイトが入るアルからね、アリガトね、ジョー!!」
「ボクが働いている間、チビはどうしたらいい?」
「1人ぽっち可哀そアルがランチタイムに店に置いておくのは、ちと
問題ね・・・。2階の部屋、使うネ」






今日もフランソワーズは空色のチャイナ服を着ていた。


「ジョー・・・あの」
「大人、配達用に原付借りるよ?どれを使ったらいい?」


ジョーはそれらしいものは着ずに、長袖のTシャツとジーンズに
スニーカー。
配達の注文があれば外に出るので、わざわざ”中華店”の雰囲気
作りを手助けする必要はない。


「1台はパンクしたままアル」
「まだ直してないの?」
「そこまで頭まわらなくて、つい忘れるネ」
「僕が直すよ」
「そりゃ、助かるネ」


ジョーの眼の端に、フランソワーズがいる。
彼女は何度もジョーに話しかけようとタイミングをはかって
いたが、ジョーは意識的にそれをさけた。

始めはフランソワーズも開店準備の忙しさのせいと思っていた
けれど、自分が避けられていることに気づいた。

そのまま、2人は張大人の店を手伝うための必要最低限の会話
以外なかった。

2階の部屋に独りにさせているチビが気になる、ジョー。
ごくたまに、配達に出かける前、裏口から出て行くジョーの耳が
チビの鳴き声が聞こえたが、いつもと変わらない元気な声にほっと安堵
する。
そして、チビの悪戯に部屋がとんでもないことになってないことだけを、
祈った。

配達が終わって、1度チビの様子が気になって2階のドアの隙間からちらっ
と覘くと、まんまるいお腹をみせて、のんきに寝ていた。


張大人が用意してくれたのか、ミルクが入ったお皿が部屋の隅っこに、
置かれていた。









***

「ジョー・・あの、」
「休憩中の札は出しておいたよ」
「・・・ご、ごめんなさい」


2階へあがろうと、フランソワーズに背をむけて1段目に足を
かけたジョーの背に触れた声。


「どうして謝るの?」


喉が酸っぱくて痛い。


「あの、ごめんなさい、連絡もせずに、その・・」
「僕には関係ないことだよ」


ジョーが投げ捨てた言葉をその場に置いて、早足に階段を
駆け上がった。




ドアを開けるなり、ジョーの足跡を聴いて待ち伏せていた
チビがジョーに飛びかかる。
そのチビを抱きしめて、ジョーは言った。










「フランソワーズなんて、キライだ・・・」




---なんて、口で言えるほど簡単に嫌えたら、いいのに。








流すつもりはなかった涙を、チビは慰めるように一生懸命に
ぺろぺろとなめた。




「・・・・僕と一緒にいて”もしも”のことがあったら、君は
また独りになってしまう・・・」








今更、


この胸に

ぽっかりと空いてしまった

穴の痛みの

名前が

なんであるか

知ったところで、

何もできない。





「やっぱり、きちんとした飼い主を捜そう・・・」




フランソワーズは、仲間だけど。
フランソワーズは、仲間だから。

だけど・・・・。








「探そうね・・・・」


くぅぅぅぅん。と、小さく鼻を鳴らしたチビ。
ふさふさとした茶色の毛に頬をすり寄せて。


「うん・・・。探そう、僕みたいなヤツじゃダメだよ」





チビのぬくもりがじんわりとぽっかりと空いた穴を埋めていく。





---何をやってるんだろう、僕は。





「フランソワーズがキライなんてウソなんだよ、チビ・・
あのね、・・・・その、逆で・・・」


















木曜日に続く

お題元 Fortune Fate 素材/mintblue
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