RSSリーダー
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
web拍手 by FC2
優しい誰かに預けた土曜日






そこは、ジョーの知らない街だった。
始めて訪れた街の、道の、塀に、フランソワーズと2人きりの車の
中で、運転席から倒したリクライニング・シートから身を乗り出し
て、フランソワーズを嬉しさのままに抱きしめた。

本当に、嬉しかったから。


もしかしたら。
もしかしたら、もしかするのかも。

フランソワーズがベビー・シッターを始めた理由。

フランソワーズがベビー・シッターをしていることを隠していた理
由。



それが、僕。
それが、僕の。

それは、僕のプレゼントのため!



「・・・ジョー、無理しなくていいのよ?」


フランソワーズの声に。
ぎゅう。っと抱きしめた、とてもすごいプレゼントをくれた人の言
葉らしくない、言葉に。

胸を押し返された片腕。


押し返された反動にバランスをぐらり。と崩し、後部座席のバック
シートに左肩でささえ、どすん。と、尻餅をつくような形で座り込んだ。
右足だけを、そのまま倒したバックシートの上にのせた状態で伸び
きっている。


「・・・無理?・・・え?」


ジョーはフランソワーズではなくフランソワーズの腕の中にいるチ
ビを見た。


「無理、しないで」


次に、視線をあげてフランソワーズを見た。
彼女は微笑んでいた。

唇の端っこが震えている。
一生懸命に、微笑みを形作ろうとして失敗している笑顔だ。

ぐっと。固く瞼を閉じて、そして、たくさん瞬きを繰り返した。


「ジョー、いいのよ。別に・・・私からの、プレゼントで
も・・・。どうか、ジョーが一緒に楽しめる人と行ってちょうだい。
来週だから、今からジェットにもで連絡したらどうかしら?ピュンマ
は?・・・きっと喜んで飛んでくるわ・・そうね、ジェットがいいわね?
よく、車の話しを2人でしてるもの・・・」


ジョーは、フランソワーズが一体何を言っているのかよくわからな
かった。


フランソワーズは、ジョーから視線を逸らし、その視線をチビをに
落とす。チビを震える手で、忙しなく何度も撫でた。

その力加減がイマイチなのか、チビがふうん、ふうん。と、心地よ
い位置に躯をずらそうともがいた。


「一緒に・・・行ってくれないの?」
「私と・・・よりも、他の人との方がジョー、これは、あなたへプ
レゼントなの。だから、あなたが一緒に楽しんで行ける人と行って
ちょうだい」







わからない。


どうして?
どうして、フランソワーズ・・・。






「・・・じゃあ、いらない」
「っ・・・」
「いらない、せっかくだけど、すごく嬉しいけど・・・」


ジョーはいつの間にか握りしめてくしゃくしゃになってしまった封
筒を、倒した運転席のバックシートに乗せて伸ばしっぱなしのひざ
の上で封筒を撫でてしわをのばし、それをフランソワーズにむけて
差し出した。


「いらない」
「・・・・・気にしないで、私のことは。本当にいいの」
「よくない」
「お誕生日プレゼントなの。ジョー、誰とでも、好きな人といk」
「だからっフランソワーズと一緒に行けないならっいらない!!」


---あ・・・・・。



フランソワーズの腕の力が抜けて、チビのカラダが自由になると、
チビはひょん。っとフランソワーズのひざを降りて、後部座席の腕
からジョーがフランソワーズにむかって差し出している封筒に飛び
ついた。


かぷ。っとそれを口にくわえて、ひっぱる。
するっとジョーの手からぬける。





はふ、はふっと。嬉しそうに封筒を加えてしっぽを振るチビへと、
ジョーは顔を動かし、チビを抱き上げて、涎で濡れてしまった封筒
を、フランソワーズからのプレゼントをもう一度その手に持った。

アンアン!っとチビが『おもちゃ』を取りあげたジョーに抗議する
鳴き声をあげた。


「フランソワーズも、そのつもりでこれを、2枚にしてくれたん
じゃないの?」


ずるい言い方だ。と、思ったけれど、すでにそれは空気を伝ってフ
ランソワーズの耳に届いてしまっている。


「僕のなら、僕の分だけで良かったのに・・・・。2枚って、
さ・・・」


フランソワーズは躯を捻ってジョーに背をむける。
車の窓ガラスに映る自分の顔をじっとみる。


「一緒に行こうって言ってくれるんだと、思ってた」
「・・・」
「そのための、”2枚”なんだって思った・・・」
「・・・」
「・・・・ありがとう、フランソワーズ」
「・・・」
「本当に、嬉しい。だけど、・・・受け取れない」
「き・・」
「・・・・」
「・・・・・k・・rいっ・・・」


フランソワーズの跳ねた後ろ髪の先が揺れ始める。


「kら・・・いって・・・」
「・・・なに?」


華奢な肩が小さく、小さく縮こまる。
とたんに激しく揺れ始めると、フランソワーズの嗚咽が漏れ始めて。


「嫌いってっ!ジョーっ・・・私のことっ嫌いなんでしょうっ!」
「?!」


背をむけていたジョーへと振り返って叫んだ。
チビがビックリしてジョーのひざとバックシートの間に頭を突っ込
んだ。


「嫌いな私なんかっ仲間だからって言う義理でなんてっ!!無理し
なくていいわっ、ジョーが嫌いな私なんてっ一緒にいけるわけない
ものっ!!」


フランソワーズはドアを開けようとレバーを引っ張る。
けれど、ドアにはロックがかかっていたために、レバーは最後まで
引くことができずに、ガチっ。と、固い音を立ててフランソワーズ
の手に抵抗した。


「もうっ!」


怒りと悲しみに頬を濡らして、それらの感情を車のドアのロックに
ぶつける、フランソワーズはそれを叩いて解除した。


「嫌いなんて言った事ないよっ」


ドアのロックが外された音と重なって、ジョーが叫んだ。


「うそつきっ」
「うそじゃないっ!」


フランソワーズが車のドアを開けた。


「”フランソワーズなんか嫌いだ”って言ったものっ、聞いたものっ
張大人のお店でっ!」
「言っていないっ」


フランソワーズの足が、アスファルトを踏む前に、ジョーの手が伸
びて、フランソワーズを引っぱり車内に押しとどめる。


「離して!」


狭い車内で、倒れている運転席のバックシートのスペースを使い、
ジョーは躯を反転させ自分が座っていた位置にフランソワーズを
押し座らせて、彼女の躯を乗り越えて、開けられたドアを閉める。
と、フランソワーズは反対側のドアのロックを外し、レバーを引っ張り、
ドアを開けた。


「フランソワーズを嫌いになんかならないっ!絶対にない!」
「ウソ、ウソウソっ!!」


ジョーは素早く身を捻り、ドアにかかっていたフランソワーズの手
首を掴みぐっと車内中央に引っ張った。


「言ってない!!」
「ウソつきっ!!」


チビは2人のやり取りに驚いて、非難するように運転席のシート下
に潜り込んでしまっている。


「嫌いなんて言ってない」
「言ったわ、聞いたものっ」
「いつ?!」
「前にっ」
「前っていつ?!何月何日、何曜日!?」
「っ・・・そんなのっ」
「何時何分、何秒っ、いつどこで、聞いたの?!」
「アレクシアが熱を出した翌日よっ、連絡を入れることなんてすっ
かり忘れてっ気がついたら朝になってた日っ!!」


投げられた言葉に、ジョーは思い出した。







---聞いてた?・・でも、あの後・・・・










「嫌いっていったものっ、」
「うん・・・」





掴んでいた、フランソワーズの手首を、離した。
フランソワーズは離された手を胸前で手を重ね、必死で震えを留め
ようとぐっと力を入れるが、嗚咽と涙に支配されてしまった躯の揺
れは簡単には収まらない。


「朝に帰って来て、理由を言ってくれなくて、その影に知らない男
がいて、デートだって言われて、・・・嫌いに、なるよ・・でも、」
「デートなんかっしてないわっ・・言ってないわっ」
「そう聞いたんだ」
「どうして、私に聞かないのっ!」
「聞けるわけないよっ・・・聞けるわけないだろう・・・、教えて
くれなかったのは、フランソワーズ・・だろ・・・」
「・・・・」


ぼろぼろと落とす涙を拭う事なく、ただ流れるままに、漏れてしま
う嗚咽もそのままに、フランソワーズはジョーを見つめた。


「秘密に、してたの・・・・・僕に、何も言ってくれなくて、不安
にさせたの・・・・僕が、・・・」



---勘違いしたのはっ





「フランソワーズのせいだろっ!!」


ジョーが吠えた。
その声圧に、フランソワーズの躯がするどく跳ねる。

運転席の座席シートの下に潜り込んでいたチビーがジョーの声に反
応して顔をひょこ。と、出した。

見上げる2人に、音も鳴く鼻をひくひくと動かす。


「・・・・・・・・・だって・・・・・」
「・・言ってよ・・・・・フランソワーズの方こそ、なんで・・・・・」




どれだけ、寂しかったか。
どれだけ、胸が痛かったか。



どれだけ・・僕が・・・・・。



それが僕のためであっても、すごく嬉しかったけど。
だけど・・・






「・・・・・・プレゼント、私だけの、力で、お金で、買いたかっ
たんですもの・・・・・・・」
「・・・・」
「きっと・・言えば、ジョーは自分も・・行くのだからっ
て・・・、みんな・・・協力して・・・くれるでしょ?」
「うん、だって嬉しいし、その気持ちだけで、そういう風に僕のこ
とを考えてくれた、”こと”が嬉しいから」


ほら。と、

フランソワーズの唇が動く。


---ほらね。

   やっぱり、私の考えは当たっていたわ。





ジョーの手が、動く。







---でも。
  驚かせたかったの。
  びっくりして喜んでほしかったの。


  私だけの力で、誰のためでもなく。
  ジョーだけのために。
  あなただけのために。


  私だけの”ジョーへの誕生日プレゼント”を用意したかったのよ。





着ていたロングスリーブTシャツの袖をひっぱり。
ぐいぐいっと、乱暴にフランソワーズの涙でくしゃくしゃになった
顔を拭う。







---大好きなジョーへのプレゼントは、”私”が、あげたかったの。




「お誕生日、おめでとう・・・ジョー」
「嫌いって・・・言ってごめんね・・・・・」


不慣れな手に力まかせに流す涙を拭われながら、フランソワーズは
それを振り解くように顔を左右に振った。


「・・・すごく、悲しかったわ」
「僕もだよ」
「辛かったの・・・」
「僕も同じ・・・」
「でも、・・・・」
「・・・・」




僕も。





私も。








『好き』は、ずっとずっと変わらずに胸の中にあった。





「誕生日プレゼントを、ありがとう」



ジョーはそうっとフランソワーズを自分の胸へと抱き寄せた。



「・・・一緒に行ってくれる?」



フランソワーズは抵抗しなかったが、ジョーの問いには頷かなかっ
た。


「それは、もう・・ジョーのだから。・・・・ジョーが行きたいっ
て思う人と観に行ってちょうだい・・・」
「うん・・・だから、フランソワーズ」



ジョーは腕に少しだけ力を加える。



「・・・・・一緒に、だよ」
「私で・・・いいの?」
「うん・・・・」
「本当に?」
「・・・うん」
「あとから、やっぱり、ダメって嫌よ?」
「ならないよ・・・」
「・・・・嬉しい」
「僕も、嬉しい・・・」



フランソワーズが開けた、運転席側の車のドアは開いたままだっ
た。

2人がじっと重なりあって、動かなくなったとき、チビはひくひく
と鼻を動かしてまわりの様子をうかがっていた。


静かになった車内で。


何もかもが魅力的で面白そうなこといっぱいの世界が、チビを呼ん
だ。

開いていた、ドアの向こう。







チビはそおっと、倒されたリクライニング・シートの下をくぐって、
車から抜け出した。
ふにふにとした、柔らかい肉球をぽてん。とアスファルトの上にの
せて。

ふっさふさの茶色のしっぽを千切れんばかりに左右に振って。




真新しい赤い首輪に、ジョーが商店街で見つけた、『C』の文字が
入ったシルバーのキーホルダーをつけて。













***


ジョーとフランソワーズはチビがいないことに気づき、一生懸命に
探した。

アレクシアも、一緒になって懸命に探した。
駅に、商店街に、アレクシアの家の周りに、たくさんの『”子犬(チ
ビ)探しています。』のチラシが貼られた。

剥がされては、何度も、何度も、貼り直す。


「もう少し、可愛い写真はないの?」
「だって、大変だったんだよ、チビはじっとしてないし、カメラを
おもちゃだと思って取ろうとするんだから」
『ジョー、へたっぴなのね?』
「・・・・」
「アレクシアの方が上手かもね?」
「じょおず?」
「それじゃあ、サメだよ、サメ」
「?」
「ジョー、おもしろくないわ・・・アレクシア、変な日本語は覚え
なくていいのよ」
『その、”じょおず”と、じょーはお友達かなにかの関係なの?』





剥がされては、貼って。
先週は、ジョーの誕生日だった土曜日。


誰からも連絡が来ないままに。
今週は、フランソワーズと初めてのファーミュラー観戦。



チビの行方がわからないままに。

貼っては、剥がされて。










チビを拾ったときと同じように、誰からも連絡はなく。
そのうち、チラシを作り直さなくなったころ。


ジョーとフランソワーズの働きかけで、アレクシアはフランスにい
る母親と週に一度、電話で話すようになり、フランス語と日本語
の混じった手紙を送るようになった。







***

チビは車の外に出て、一度だけ降りた車へと振り返った。

バック・フロントガラスからのぞく、優しい栗色と亜麻色の髪の2人に
むかってふんふん。っと、鼻を鳴らした。


大きな長い塀に沿って歩いた。

暗くなって明るくなって、暗くなって。
点された街灯と街灯の感覚が面白かった。

どこまで続くんだろう?っと好奇心がチビのこころをくすぐる。


「え?!」


夜中にゴミ出しは、ルール違反だけれど。
朝どうしても起きられない彼女は、そうすることでなんとかゴミ収
集の車を逃さないことに成功していた。


どさ!っと置いた、先週逃した分の、ゴミ袋が突然チビの進む道を
塞いだ。


アン!っと抗議の声で鳴く。


「子犬?!・・・え?なんでこんな時間に・・・、どうしちゃった
の、チビちゃん・・・お家は?迷子になっちゃったの?」


彼女はチビをひょいっと腕に抱き上げた。
真新しい、赤い首輪にシルバーの『C』の形のキーホルダー。


「あはは、”チビ”ちゃんであってるのね!」




アン!アン!っと、嬉しそうにチビは、ふっさふさの茶色いしっぽ
を千切れんばかりに振った。








それは、遠い街の優しい手に、再び拾われた夜の、できごと。






日曜日に続く



お題元 Fortune Fate 素材/mintblue
web拍手 by FC2
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。