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犬のいない日曜日



朝、目が覚めるとそこにいるはずの、・・と。
寂しい気持ちがジョーの胸によぎった。

誕生日を迎えてから、半年近くが過ぎても、その前夜に消えた、ふ
さふさのしっぽを千切れんばかりに振って鳴く声を、不意に目覚め
た朝に思い出す。


あれから、どうしたんだろう?
ちゃんと、ご飯を食べてる?


春が過ぎて、夏が過ぎて、そして、冬が来た。



ロング・スリーブのTシャツを着ていた季節から、ショート・ス
リーブにかわり、再び、あの日、フランソワーズの涙で濡れてし
まったTシャツに袖をとおして、その上に毛糸のセーターを着る季
節。


チビがいなくなってから、すぐに、フランソワーズはジョー
に内緒でそっとイワンにチビの行方について訊ねた。



<大丈夫。ちびハ元気ダヨ、心配シナクテモ、ソノ内戻ッテクルカラ>
















日曜日の朝。



静かな波音だけが、ジョーの部屋に響いた。
ベッドから身を起こし、寝ぼけた頭の中に響いた、元気な子犬の鳴
き声。


アンアン!っと、散歩をねだる鳴き声。
コンコン!っと、ジョーの部屋のノックの音。


「・・・フランソワーズ?」
「おはよう、ジョー」
「おはよう・・・」
「起きたのが”視えちゃったの”」


小さな赤い舌をぺろっと出して、ジョーの部屋のドアをちゃんと開
けずに軽く開けた隙間から顔を出して覗き込む。


「ね、お散歩しない?今朝はとっても空気が澄んでいて、綺麗な
の。今日は昨日よりもずっと暖かいみたい」


ジョーは笑って頷く。
こういう日は、かならずフランソワーズが”散歩”をおねだりしてく
ることを知っているから。


「5分で用意するから、待ってて」
「ね、朝ご飯を浜辺でなんて、どおかしら?」
「寒いよ?」
「だから、暖かいのよ、今日は!」


着替えて、バスルームに駆け込み、顔を洗って歯を磨いて。


「本当に、海辺で朝食?・・・もう11月だよ?」
「あら、私たちは平気でしょ?」


玄関で待っていたフランソワーズの手に、朝ご飯が詰められた藤の
カゴ。


「ちゃんと珈琲もあるのよ?魔法瓶にいれたの」
「じゃ、いいか・・・・。冬の海岸で朝食でも」


2人は揃って邸を出る。
歩いて15分ほどの、人があまり立ち寄らない海辺まで。


「そろそろ空港券を買わないとね」
「アレクシアは、12月10日のチケットよ」
「独りで大丈夫かなあ・・・」
「やっぱり、同じ飛行機のチケットにした方がいいかしら?」
「でも・・・」


ジョーとフランソワーズは視線を合わせて、同時に同じ言葉を口に
した。



「「1人でできるもん!」」



最近覚えた、アレクシアの日本語。
お気に入りのその言葉は、アレクシアの頑固さに拍車をかけた。

フランソワーズは、相変わらずアレクシアのベビー・シッターを続
けている。ジョーは、週に1度フランソワーズと一緒にアレクシア
の日本語の先生になる。



クリスマスをフランスで過ごすアレクシア。
その母と娘から、一緒にと招待されたジョー、フランソワーズ。

永尾は年始にジョーとフランソワーズとは入れ違いで母娘の元へ行
くことになっていた。



浜辺におり、海風に邪魔されないように岩場の影にフランソワーズ
が持参した小さなビニールシートに、2人は寄り添って座る。

フランソワーズの手で魔法瓶からそそがれた熱々の珈琲が出す湯気
に瞳を細めて、それを受け取ったジョーの耳に、届いた。







ワホッ!









「すみませーんっこらああっ!!チビっそっちはダメえええ!!」












”チビ”と言う名前と不釣り合いな立派な体格の成犬が、ジョーにむ
かって大ジャンプ。


「?!」


長く、もっさもさした茶色のシッポを千切れんばかりに振って。
赤い首輪に、シルバーのキーホルダーは『C』の形。


「きゃあああっジョーっ!」


ジョーの手から、彼お気に入りの朝の珈琲が浜辺に落ちて、犬の下敷きになる。


「あああああああっチビっ!!あんた、なにやってんのーーーーーっ!?」


わほ!っとジョーにむかってきらきらの好奇心いっぱいの瞳をむける。
そして、べろん!っと、ジョーの頬を嘗めて、フランソワーズにむかって、元気
よく、わほっ!っと吠えた。




<大丈夫。ちびハ元気ダヨ、心配シナクテモ、ソノ内戻ッテクルカラ>












藤のカゴから出したばかりの、銀色のアルミにつつんだ、美味し
そうなチーズの香り。

それを手に持つフランソワーズにむかって。


わほっわほっ!!
”いただきます!”





ジョーの朝食である、熱々のホット・チーズサンドをぱくり。と、くわ
えて走り去っていった。


「ああああっ!?ごめんなさいっごめんなさーーーーーいっ!すみませっ
取り返しますっチビっ!!まちなさいっ!!かえしなさーっいっ!!」


浜辺をチビに負けないで走る、トレーニング・ウェアに身を包んだ女性は、
”チビ”と言う名の大きな犬を、砂浜に足を取られる事なく追いかけた。





「・・・・ジョー、大丈夫?」
「う・・・・うん・・・・」


倒された躯を起こして、ジョーは小さくなっていく1人と一匹を見つめた。








「・・・・・・取り返してくださっても困るわね?」
「・・・僕の朝食・・・・なんだけど」
「チビちゃんにあげちゃっていいじゃない」
「・・・じゃあ、僕のは?」
「チビちゃんと、半分こするの?」
「ねえ、僕の分は?」


砂まみれになったカップをフランソワーズが指先でつまんでシート
の上にのせた。


「私と半分こは、イヤかしら?」






















end.






*間に合った・・・(汗)
 ジョー誕生日用/わんこで一週間。に、おつき合いくださってありがとうございました。
 



お題元 Fortune Fate 素材/mintblue
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