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心の奥が温かくなる/ホノカ二 アマク ボク ヲ クスグッタ。
川沿いの、ジャパニズムをうまく取り入れたカフェへと誘われるように入っていった。
それがいつ頃のことだったのか、うまく思い出せないでいる。

いつもはブラックで飲む珈琲を、その日は妙に口が甘さを恋しがったのでシュガーポットに手をのばしたんだ。
渋い焼き色のポットの中には、チロルチョコのような一粒づつ丁寧に包装された角砂糖が入っていた。

白い紙の真ん中に花のイラストとその花の名前がプリントされている。
無意識にシュガーポットを、手元に寄せて中を覗き込んだ。

いくつか種類があるようで。
手にとった黄色い花から順に一粒づつ取り出してテーブルに並べてみた。

全部でいくつあったかなんて、数えはしない。
ただ、どんな花があるのかなあ、くらいの気持ち。
珈琲を飲む目的いがい何も無いボクだから、手持ち無沙汰を紛らわすため。





昔は、この一粒がとても貴重だったんだろう・・な・・・。





絵柄だけで、たぶん全種類をテーブルに置いた。

運ばれてきた珈琲の香りをかすかに胸に吸い込みながら、指先が拾い上げていく小さくて四角いさらっとした手触りの紙に包まれている砂糖が、なにかとてもいとおしくなって、素直にこれらが欲しくなった。

だからボクは、躊躇することなく、テーブルから去ろうと背を向けたウェイトレスをわざわざ呼び止めてそれらを持って帰ってもいいか、尋ねた。



ご自由にどうぞ。と、返ってきた微笑を含んだ声にむかってボクは軽く頭を下げた。








いくつもある花の絵の中から、ボクでも知っている名の花であるたんぽぽが描かれた一粒を選んで、珈琲にいれた。









「素敵!」



いつもよりもほのかに甘くなった珈琲に喉奥がきゅっと緊張した。













瞼をとじたわけでもないのに、今、目の前の風景に浮かぶ、彼女の笑顔。
耳に響いた声のリアルさに、ボクの胸がくすぐられる。




ああ、そうだ・・・邸でフランソワーズが・・・。







家で飲む珈琲とはまた一味違った風味が名残惜しいけれど、ボクは熱さなどおかまいもせずに一気に飲み干した。
飲み干した勢いに席を立つとき、手のひらにいっぱいにした角砂糖を見上げるからっぽのコーヒーカップに言い訳する。



今度は、ゆっくりと飲みに来るから。
ゆっくりと・・・飲めるように、彼女と一緒にね。




「ありがとうございました」
「ごちそうさまでした・・・砂糖、ありがとう」














***


「お砂糖はいくつ?」


ボクはいつもブラックだろ?と、フランソワーズの問いに言い返すそうとしたジョーは、彼女が運んできた紅茶のセットに首をかしげた。


「珈琲じゃないの?」
「いつものを今朝で切らしちゃったの、うっかりしていたわ」
「え、気付かなかったの?」
「ああ、そろそろなくなりそうだわ。って思ってはいたのだけど・・・」
「思ってはいたんだ、思ってはね。思っているだけじゃコーヒー豆は増えないよ?」
「わかってます!」


ジョーの言葉につん!と唇を尖らせつつ、冬用に変えたばかりの毛の長いカーペットに膝をついたフランソワーズは、ソファに座るジョーを視線だけで見上げた。


「じゃあ、買いに行く?」
「もちろん!!」
「せっかくの紅茶だし、これを飲んでからだよ・・・」
「ねえ、ついでにでいいだけど?」
「・・・そっちが本命?」
「ふふ、・・・うっかりついでよ!」
「なあに?どこへ行きたいの?」
「秋晴れなの!」
「それで?」
「家にじっとしてるなんて、もったいないでしょう?ね?」
「それで?」


ジョーは砂が落ち終わる最後の一粒を見届けると同時に、フランソワーズの代わりに紅茶を注ぐ。


「イワンも、ここのところこのご近所くらいしかお散歩してあげられてないの」
「遠出したいんだ?」


フランソワーズの手が、ジョーの手と交差するように伸ばされた。
ほっそりとした白い指が、一粒をつまむ。


「コスモスよ、朝のニュースでとっても綺麗に咲いていたわ」






いったいいつ頃からだろう。
ギルモア邸のシュガーポットに花のイラストがはいった、角砂糖が定番になったのは。







「了解」


紅茶を注いだカップを、フランソワーズの前に奥。
カップソーサーから、ジョーの手が離れたタイミングでフランソワーズの指が選んだ角砂糖が、ころり。と、彼の手のひらに。


「・・・これ、コスモスじゃないよ?」
「そお?」
「ワスレナ草」
「ん!それは、コスモスを観に連れていってくれるのをうっかり忘れないでね♪ってことなのよ」
「・・・・無理やりだよ、それ。それにそんなにすぐに忘れません」
「わかんなくてよ?この間のジェットのパソコンみたいに突然壊れちゃうかもしれないじゃない?パツーン!って、ね?」
「こ、怖いこと言うなよ!」
「ふふ♪・・・毎日お風呂に入ってる時点で壊れちゃってるわよね?とっくに!」


珈琲よりも渋みが強い紅茶には、1粒の砂糖がちょうど良く、ボクは好む。


「・・・冗談でも、ああいうの自分の身に置き換えたら、けっこうリアルに怖いんだから・・、って、あれ?そういえば、・・コスモスってさ・・・なかったっけ?」
「え?・・・んー、どうだったかしら?あるのかしら?」


シュガーポットに再び伸びてくるキミの動きをボクの瞳は離さない。
そうして、無意識のキミの指先と意識するボクの指先が触れ合って、ホノカ二 アマク ボク ヲ クスグッタ。




キミとボクは角砂糖1つ分の、・・・なのかな・・・・。





「ジョーの強制再起動の仕方、博士に訊いておかなくちゃね!」
「そんなのできません!スイッチもありません!」



RIMG2197.jpg




END.
写真/ACHIKO
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