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君に振り回される自分がいる / 3
「道場の先輩の友人が来ててさ・・・」


仮面ライダー・ショー、のアクション担当役者として敵の兵士役Cをこなす竹岡は、ジョーのアルバイト先である大学の友人、湯田(竹岡にとっては空手道場の先輩)にチケットを渡すとき、ジョーの名前を聴き知っていた。
その名前をネットを通して集めた、ショーへの参加者希望リストの中から見つけたときの驚きを思い出す。

年齢、名前ともに、同じ。
そして、カメラが撮るモニターから、子どもたちとその親。しかいない参加希望者のための指定席エリアに躯を小さくして座っているジョーをみつけた。


以前、湯田が京都土産を道場に持って来たきとに見せてもらった写真から、島村ジョーと言う青年がどのような容姿であるか、知っていたのだ。


「いいけど・・子どもじゃなくていいのかなあ?」


同じ敵の兵士役Aの南川と2人、竹岡は指定席エリアの中から子どもを、ショーのための演出上、選ぶことになっていた。


「誕生日らしいから。ほら、誕生日、そういう子を選べって書かれてたよね?」
「ああ、そうそう」


選ぶ基準などは事前にマニュアルをもらっており、それに従う。
希望者が少なければ、希望する子ども(たまに大人)を選択するようななことなく、全員(グループ)で参加してもらうが、今日のように、立ち見も出て来るような日は、リストの中の参加希望理由から選び、エリアの中からその子どもの名前を呼んだり、理由なくその日たまたま目があったから。と、言う理由でも選んだりする。

込み合った日に複数の参加者を選ばないことになっていた。
過去の経験上いろいろと面倒な問題がおこったため、暗黙のルールとなっている。


「じゃ、決まり」
「・・・いいのかなあ」


竹岡はモニターに指をさしたとき、下手から舞台に出る予定だった南川は舞台進行の係員に呼ばれた。


「んじゃ、そういうことで!」
「オッケー」


開演、5分前の出来事。

舞台上では入場入り口にいた係員たちと同じ遊園地の制服を着た司会役の女性が、「みなさーん、こんにちは~」と、客席にむかって演技中の注意事項などを観客席にむかって話していた。










***

派手な爆発音がスピーカーから流れ、ざわざわとしていたイベント用野外特設ステージ内に緊張が走った。

その場にいる全員が舞台に注目する。
舞台袖から、傷ついた敵役が現れると、悔しげに叫んだ。


「こんなはずではっ!こ、こんなはずではっっ!!」


地鳴りのような、何かが崩れていこうとする音が爆発音に混じる。
すると、倒れていた科学者らしき男が、傷ついた敵に這いつくばって近付き言った。


「まだ、完成していないが・・・、ぐっ・・タイムマシンが、あるっぐおおおっ、過去に戻り、我々を潰した、があああっ・・・ライダーを、仮面ライダーをっ倒すのだあああああ!」

今まで一番大きな音で、爆発音が鳴る。
たくさんのスモークが舞台を包み、敵の声。


「行くぞっ過去へ!!そしてっ仮面ライダーをこの世から抹殺するのだーっ」


敵の声とともに敵兵士たちの気合いの入った応答。


「大変っ!未来から仮面ライダーの命を狙う強敵がやってくるなんて!!」


司会の女性が、舞台上ではなく、関係者入り口の半円アーチを描きカーテンで仕切られた場所からマイクを手に出て来ると、客席から拍手が湧く。

舞台の上はスモークで隠されているようで隠されていない状態で舞台転換。


「仮面ライダーは未来から敵がやってくるなんて、知りません!」


大げさなジェスチャーで観客に訴える。


「どうなるのっ仮面ライダー!!」


言葉と一緒意、大きく腕を振りあがながら舞台を指すと、指した方向へと会場中の視線が移動する。
すると、ライダーが舞台中央に、いつの間にかできた岩の上で、ポーズをとっていた。

ヒーローの登場に拍手喝采の中、仮面ライダーの名を叫び、子どもたちの歓喜の声ががわき上がる。
舞台には、仮面ライダーが倒したと思われる、敵がごろごろ転がっていた。


「この世の未来と平和と夢を守るっ!!」


派手に岩から飛び降りて、ポーズを決めると、さらに特設ステージは盛り上がった。
司会役の女性が出て来た場所と同じところから、倒れている敵たちとは別の(デザインの着ぐるみを着た)敵兵士たちがワラワラと登場する。


舞台の筋書きは、ずっとGWから繰り返されているもの。

敵は、自分たちの組織が潰される原因である仮面ライダーを倒しに未来からやってきた。彼らは未来からやってきたので、仮面ライダーの行動がすべてわかる。
危機に陥った仮面ライダーだが、敵が未来からやってくるところを見た人間(参加希望者)が人質になったことで、過去にはなかった出来事のために、未来が狂い、仮面ライダーはその人質(参加希望者)のお陰で敵を倒すことができた。で、ある。


「ああ、未来からの敵が!」


司会者が叫ぶ。
仮面ライダーにはその敵は見えていないようだ。


「見たなっ!!」


敵兵士の1人が、舞台から見て左端最前列、ロープで仕切られたエリア(参加希望者指定席)の前に立った。

子どもたちから悲鳴と喜びが入り交じった声が飛び交う間、わくわくとした、期待に胸を膨らませる青い瞳が真剣に敵兵士を見ていた。


「仮面ライダーに報告されては困るぞ!」
「よしっ!人質だっ!」


敵兵士が、さっと移動して、今日の参加者を決めた。


「え?」
「な?!」


がし。っと、観客の1人の手を掴む。と、拍手がおこった。
適役の兵士に優しく立つことを促されたのは、明らかに子どもではない、そして、髪色、その容姿から日本人とは思われない、スタイルのよい女性が特設ステージ内の注目を一斉に浴びる。


「あ・・・ちがっ」


後方に居た、別の敵兵士役が、仲間が掴んだ参加者に驚き、声を上げた。


「見られたからにはっ、一緒に来てもらうぞ!」
「あのっアタシじゃなくてっ!」


敵兵士は、フランソワーズの腕を取っていた。
指定席内の子どもたちから羨望の眼差しがフランソワーズに向けられる。


「ああ!!仮面ライダーっ”お友達”が危ないっ」


司会の声がスピーカーを通して、拡大される。


「ジョーっ」


呆然と状況を見ていたジョーにむかってフランソワーズが、彼の名を呼んだので、無意識にジョーの躯が動く。


これは、ショーなのだ。
実際の”敵”なんかじゃない。

当たり前のことを、当たり前に頭で解っていながらも。


「離せっ」


ジョーは敵兵士の手からフランソワーズの手を振り解いた。


「人質だ!」


ハプニングなのか、これは演出なのか、会場中の雰囲気が何かの期待に色が変わる。
敵兵士は、ジョーのことなど気にしない様子で再びフランソワーズの腕を取ろうとした。


「彼女は違うんですっ」


その敵兵士の手を再び払う。


「見ていただろっ!!見られたからには人質として来てもらうっ!!」
「ジョーが人質になるわ♪」


フランソワーズはにっこりと微笑みながら、敵兵士に言ったが、敵兵士は自分の手を払った青年を一瞥しただけで、首を左右に振って断る。


「いや、君に来てもらう」


敵兵士役A、南川は、同僚バイトの竹岡が指差した相手を、勘違いしてしまっていた。モニターの荒れた画像で、あまり視力が良いとは言えない南川は、派手な髪色のどっちかだと、曖昧に判断していた。その上に、男よりも可愛い女の子の方がいいという私情も挟んで、選んだのは、ジョーではなく、フランソワーズ。


「ジョーじゃないとダメよ!」


フランソワーズは手にもっていた参加希望用紙を敵兵士に見せようとしたとき、もう1人の敵兵士が言った。


「2人一緒にくるんだ!」


フランソワーズを捕まえた敵兵士(南川)の相方である、敵兵士(竹岡)は、ジョーの腕を掴むと、「どうぞ舞台の方へお願いします」と、丁寧にジョーにお願いしたのだった。


そんな様子を観客席後方から観ている、ものすごくテンションが高くなった日本に観光でやってきた(?)グループと思われる、赤ちゃん連れの一行がいた。









***

「ああ!仮面ライダーのお友達が未来からきた敵に捕まってしまいましたっ」


敵兵士に連れらる途中、入場ゲート入り口でチケットを切っていた係員のうち1人が、ショーの様子を眺めていた。
連れて行かれるジョーにむかって頬を染めて微笑み、口元に「よかったですね」と言う形を作り、手を振る。その姿に気づいたジョーは、恥ずかしそうに手をあげて女性の言葉に答えながら、係員の女性の前を通り過ぎた。
その様子をフランソワーズはジョーの後ろを歩きながら、しっかりと見ていた。


舞台に立つ事になってしまった、ジョーとフランソワーズ。
舞台上でポーズを決めたままの仮面ライダーは、オブジェのように動かず、成り行きを見守っている。


「大変ですっ」


司会の女性が、持っていたセカンドマイクをジョーの腕を掴んでいる敵兵士に渡した。
舞台に上がった2人は舞台中央に迎えられる。
ちょうど、仮面ライダーを隠すように。注目が舞台上の人質に映ると、仮面ライダーは舞台セットの岩の裏に引っ込んだ。


---・・その手、それ以外の場所に動いてみろ・・・。


ジョーは舞台云々よりも、フランソワーズの腰を抱くようにして、彼女を捕まえている敵兵士が気に食わない。顔には出ていないと思っているのは本人ばかり。


「アイヤー。ジョー不機嫌ネ」
「敵の命が(本当に)危ないかもしれない。」
「お芝居ってことわかってるよな・・・?ジョー・・」
「うむ・・・003に何かあると、感情的になってしまうのはあまり関心せん傾向じゃな・・・」
<博士、オ芝居ダカラ>
「いやいや!芝居だからと言っても、あの態度はよくない!!芝居だからこそっよくないっ!」


素人でも舞台に立つなら最低限のマナーが!っと、鼻息を荒くするグレート。


「でも、恋人と一緒に人質になってしまい、彼女を守れなかった不甲斐なさで機嫌が悪いって解釈できるネ」
「なるほど。」
<アノふらんそわーずヲ捕マエテイル敵役、ヒッツキスギ>
「しかし、せっかくジョーだけでなく、フランソワーズも選ばれたのに、なんじゃ・・・フランソワーズも浮かない顔をしておるのお・・・」
<ヒッツキスギ・・・>


自分の知らない人間がフランソワーズに意味もなく、近付くことをあまり快く思っていないイワンの機嫌がナナメに傾きはじめた。





「人質になったからには、名前を教えてもらおうっ」
「・・・」


司会者からマイクを受け取った(ジョーと共通の友人を持つ)兵士が訊ねるが、ジョーは思いっきり無視をする。


「そうか!名前は島村ジョーだな!!」
「!?」


教えてもいないのに、敵兵士はジョーの名前を大きな声でマイクにむかって叫んだ後に、そのマイクをフランソワーズを捕まえている敵兵士に渡した。

敵兵士はこそっと、ジョーにむかってささやく。
マスクをしているので、すこし籠った音になり、小さい声のために、ぼそぼそと聞こえたが、彼の言葉はしっかりジョーの耳に届いた。


「湯田先輩の後輩の竹岡です、来てくださってありがとうございます」
「名前はっ!」
「あ!!・・え....!あの、今日のチケットの?・・え、役者さんだったんです・・・か?」
「フランソワーズです」
「はい・・、楽しんでくださいね」
「どこから来たんだっ」
「すみません、知らなくて・・・チケット、どうもありがとうございました」
「日本」
「日本のどこだっ」
「いやよ、それは教えてあげられないわ」


思わずジョーは姿勢を正してチケットの礼を述べて頭を下げようとしたが、竹岡がそれを止める。


「敵ですから!」
「そうだ・・すみませんっ」
「日本人ではないなっ?」
「でも日本に住んでいるわ」


客席から笑いが起こる。
その笑い声に、ジョーと竹岡が敵兵士Aとフランソワーズのやり取りに気がついた。


「どこの国の生まれだっ?」
「あなたに関係あることかしら?」
「フランソワーズ・・・」


彼女の返答の様子から機嫌が再びナナメになっている気がしてならない、ジョー。
楽しみにしていた仮面ライダー着ぐるみショー。しかも(予定通り?)フランソワーズ自身がショーに参加できたにも関わらず、なぜだ?とジョーは悩む。けれども、どうやら会場はそんなフランソワーズにかかわらず盛り上がりを見せた。


「あることだ!!」
「それなら。フランスです」


自分は名前だけだったのにも関わらず、なぜフランソワーズにはたくさん質問するんだ?と、ジョーがむっとした様子で敵兵士Aを睨むように見る。


「では、マドモアゼル」
「mademoisellle」
「?」
「mademoisellle」
「...もぁどまあぜう?」
「・・・ダメね、国際的悪の組織に所属してるのに、そんなんじゃ、兵士さんは一生そのまま兵士さんで出世できないわ」
「大きなお世話だ!・・・で、いくつだっ?」
「万国共通して、女性に年を聞くなんて失礼だわ」
「それは確かに。・・・すみません」


敵兵士Aはおどけたように、フランソワーズに謝った。
会場内に和やかに楽しい雰囲気で笑いが起こる。


「フランソワーズ!君は仮面ライダーを知っているな!」
「ええ、もちろん♪」
「しかし、助けを求めても無駄だ!」
「そうだ、仮面ライダーを呼んでも無駄だぞ!」


竹岡が間の手を入れるようにして、会場内にむかって言うと、場内にいる子どもたちから、仮面ライダー・コールがはじまった。
その中の声に、助けてあげてー!捕まっちゃったよー!!お友達が大変だよー!などの声もたくさん含まれる。


「無駄だ、無駄だ!!いくら仮面ライダーとは言え、未来からきた我々だ!仮面ライダーの戦い方は全てお見通しだ!!」


言い終えると、ジョー、フランソワーズを連れて、敵兵士の2人は司会者のそばまで移動する。


「仮面ライダーっ!お友達が捕まってしまったわ!!助けて!さあ!みんなで仮面ライダーに教えてあげましょう!!」


司会者が会場中に呼びかけて、仮面ライダーを呼ぶコールを促した。
舞台中央の岩のセットの影に隠れていた仮面ライダーが、舞台中央にいた敵兵兵士2人と、ジョー、フランソワーズが舞台袖に移動するのと同時に、出て来ると、仮面ライダーにカラー・スポットライトが当たり、テレビでおなじみのテーマソングが流れ始める、と、一気に特設ステージ内がヒートアップした。


「すごいわ!こんなに間近で見られるなんて♪」
「・・・フラン」


舞台の上で仮面ライダーがテーマソングに合わせて、捕まった友達(ジョーとフランソワーズ)を探すと言う名目でワンマンショーを繰り広げ始め、フランソワーズは嬉々としてショーを同じ舞台の上から観劇する。


「素敵ね!」
「あの・・、フランソワーズ?」


ジョーにではなく、花が咲くように愛らしい満面の笑顔で人質らしからぬ態度で敵兵士に微笑みをむける。


---いったい、何なんだよ・・・。ただの着ぐるみショーだし、本物じゃないし、あれくらいのバック転、ボクだってできるし・・・。


何をたかだか特撮ヒーローと張り合う理由があるのか。
現実と”ショー(お芝居)”は違うと、わかっているけれど。話しかけても、聞こえないかのように舞台の上で繰り広げられている仮面ライダーのワンマンショーに、魅入っているフランソワーズにたいして、むくむくと沸き出す嫉妬心。

ジョーが邸内以外では着てほしくないと思う、とっても似合う、ぴったりとフランソワーズの足の形を現すジーンズ姿。

そんな、フランソワーズに寄り添うのは、自分ではなく、敵兵士。心配したくなるほどに、括れたウェストに添えられたグローブをつけた手。

ジョーを担当する敵兵しは、ただジョーの腕をもっているだけで、フランソワーズのそばにいる敵兵士のような密着はない。(あったら、あったでジョーは困るだろうけれど。)


「すごいっ。すごい♪」
「いやいや、あれくらい!相手になりませんな!」
「フランソワーズ、ねえ」
「でもっ、仮面ライダーですもの!」
「未来から来ましたから!仮面ライダーの動きはすべて予測できるんです」


ジョーの声など聞こえないとばかりに、敵兵士Aと楽しそうに会話を続ける、フランソワーズ。
その原因が、自分にある(入場入り口チケットの係員とのやり取り)とは爪の先ほどにも想像できない、ジョー。

舞台の盛り上がりに、敵兵士Aとの会話が途切れたのをチャンス!と、ばかりにジョーがフランソワーズにむかって自分の方へと意識を向けさせようと、彼女の手へと腕を伸ばそうとしたら、不意に、フランソワーズが小さくささやいた言葉が耳に届いた。




「・・・・アタシだけのヒーロー・・が・・・・・仮面ライダーが、ずっと、そばに居てくれたら・・いいのに」







決め台詞と、ポーズをばっちり決めて、盛大な拍手と喝采を浴び、さあ。今から人質(参加者)を助けるための、山場、アクションシーンに切り替わる、会場中が再び舞台の端っこにいた人質たちに注目された、刹那の、見事なタイミング。


「フランソワーズっ」
「人質になったジョーくんと、フランソワーズさんを仮面ライダーが助けますっ!」


司会者が、人質であるジョーに”仮面ライダーに助けを求めてください。”と、言うためにむけたマイクが偶然にもジョーの口前にもってこられたとき。


「仮面ライダーになんかに助けてもらう必要なんてないだろっ、ボク(=009)がいるんだからっ!」


嫉妬と舞台上にいる高揚感がぐるぐると混ざりあった気持ちに、普段の彼らしくない言葉が、マイクを通し、テーマソングも鳴り止んでいたスピーカーがジョーの台詞を野外特設ステージに響かせた。


「・・・あ・・・・・・れ・・・・え?」







に続く。



*・・・長いですね、ははは、3回どろこじゃない。
5月が終わる・・・(汗)
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