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Little by Little・16
(16)







<何モ心配ナイ>
<ありがとう、本当にありがとう、イワン。・・・あのまま、あの場所にいたらとっても困ることになっていたと思うわ>


あの場所とは、ジョーが幼少時に一時期身を寄せていた教会の跡地。
気を失ってしまったジョーを腕に、フランソワーズはその場から動けなくなったとき、一台の車が人が歩く早さで、青緑色のフェンス越しに現れた。


<礼ハイラナイヨ。僕ハ僕ガスベキコトヲシタダケダカラ>


車のヘッドライトが、夏の夜の深い宵色に隠されていた姿を意地悪く浮かび上がらせて、乗用車とは明らかに違う装飾を施された車体に、フランソワーズは焦った。

フランソワーズの視界には、フェンスを飛び越えたときに落としたショルダーバック。と、向かい合ったパトカーが止まる。
助手席から出て来た、制服を着た警官が、それを拾い上げて、周りを見回した。が、そこに人の気配どころか、夏の夜独特な湿気臭さと、今になって耳届く虫たちの鳴き声がフランソワーズの緊張をさらに高めた。






「・・落とし物?」


長く放置されていた教会の敷地が、どのような経路をたどったのか、有名な不動産会社の手にわたり、マンションを建てる予定が立って敷地がフェンスで囲まれるまでの間、教会は取り壊されたものの、昔からあったマリア像を中心にしたガーデンを、周りの住人や教会に通っていた人々の手によって美しく維持されていた。

敷地は子どもたちの良い遊び場、地域交流の場として愛されていたが、同時に、夜になれば、人気がない場所であることを利用して、地域住民の安全を脅かす輩のたまり場にもなっていた。

そのために、パトロールコースとして、定期的に見回るようなって数年が過ぎる。
フェンスで囲まれて以来、厄介なことはそう起きなくなったはずだったが、不信な大きな物音がすると連絡を受けて、パトロールの時間外にやってきた。


「おい」


運転席にいた相方が、開けていた窓から顔を出した。


「女のものだな?」
「通報では、不信な物音だけで・・・悲鳴やそういうのはなかったみたいだけど、一応連絡しておくか・・」
「もう少し先まで行って観た方がいいな。この先は、”天王山”だ・・そっちに連れて行かれていたら、問題だ」


急ぎ足でショルダーバックを手にパトカーに乗り込んだ。


「?」


無線機のマイクを手に取った、運転席の警官が、助手席の相方を見る。


「どうしたんだ?」
「・・・え、ああ・・・・いや」
「どうやら、何もないみたいだな・・・ここにフェンスが建って以来、パトロールも楽なもんだ」
「ああ、そうだな」


{えー・・こちら、××ー△○区・・不信な物音があったと報告された教会跡地、問題なし}


報告し終えて、マイクを戻す。


「蝉が鳴かなくなったよなー・・最近は」
「ああ、そういえば、そうだなあ、昔はうるさくて眠れなかったんだが・・・」


不思議そうに聞き手をを開いたり、閉じたりしながら、警官は頭をひねる。


「何かを持ってたような?」
「ん?」
「いや、・・何か拾わなかったかなーっと・・・」
「意地汚いな、警官が拾い食いか?」
「そんなことするか!って・・そういえば、小腹が空いたな」
「帰りになんか買ってくか・・・」
「そうだな」
「牛丼?」
「さっぱりしたのがいいなあ」








<イワン、ありがとう・・・・>






####



昼の時間のイワンは、赤ん坊の躯に負荷がかからない程度の軽い睡眠を必要とする。
能力を使えば、使った分の体力を取り戻すために眠りにつく。が、今回はそれほどの能力を使わずに昼の時間が終わりそうだ。と、思う。が、能力以外のことでは、いつもよりも疲れたように感じている。


<ヤレヤレ・・・>


ギルモアとグレートが休んでいるホテルに一緒にいたはずのイワンだったが、今は、その身をアルベルトが泊まるホテルの部屋に移していた。


「何かあったのか?」


赤ん坊らしからぬため息をついたイワンに、手にしていた単行本から目を離した。


<・・・・結果ヲ聞キタイ?ソレトモ、経過カラ順ヲ追ッテ知リタイ?>
「(やっと)教えてくれるのか?」
<009ト003ノぷらいばしーヲ侵害シナイ範囲デナラ教エテアゲルヨ>
「大げさだな・・・」
<僕ニのぞきノ趣味ハナイシ、芸能関連記事ミタイニ、ムヤミヤタラニ人ノすったもんだニ鼻ヲ突ッ込ム趣味ハナイカラネ>
「まるで、オレはあるみたいに聞こえるが・・・」


イワンは、ツインのベッドが2つ並んだ、窓側のベッドに寝かされていた。同じベッドに、アルベルトはヘッドボードに背を預け、脚を伸ばしてナイトスタンドの明かりを頼りに単行本を読んでいた、アルベルトの手によって抱き上げられる。


<マズ、2人ハ今、ギルモア邸ニ帰シタ>
「向こうに?、こっちではなく・・・?」
<ウン。じぇろにもニ任セタ。・・・張大人ト篠原当麻モ、ギルモア邸ニ辿リ着クダロウケド、じぇろにも二頼ンデ、彼ラハホテルヘ戻ッテキテモラウ>
「無事なんだな?」
<事件性ハナイト、言ッタヨ?>
「解ってはいるが・・・」


あやめ祭に遊びに来た、コズミ博士とさくらをコズミ博士の家へと送るために、ジェット、ピュンマ、海が同行した。
5人を見送った後、アルベルトは夜の時間のように、大人しいイワンへと呼びかけると、イワンは、素直にアルベルトの呼びかけに答えて、彼の泊まる部屋へと姿を現した。
アルベルトからのイワンへの要求は、ホテルに戻ってこない009と003を行方を追うこと。張大人、篠原当麻の安全の確保と彼らの行く先を常に報告すること。そして、彼らが009と003に接触することをさけること。

イワンはそれらを承諾したが、張大人と篠原当麻の乗った車の行き先を一定間隔で報告する意外は、2人のことの”経過”をアルベルトに一言も伝えることはなかった。

始めに、009と003は一緒に居て、無事である事だけをアルベルトに伝えただけ。
それから数時間の間、張大人と篠原当麻の行く先の街の名前や走っている道などの報告以外は、お互いに会話らしい会話もなく過ごした。


<誰よりも一番心配性デ過保護ナノカモネ、あるべると>
「妹と言うより、娘を持った父親な気分だな」
<息子ジャナイノ?>
「息子は放っておけばかってに育つだろ?」
<あるべるとガ本当ニ娘ヲ持ッタトキ、僕ハキットソノ子ニ多大ナル同情ヲ寄セルコトニナルト思ウ>
「どういう意味だ?」
<ソウイウ意味ダヨ・・・、息子ジャナイ、弟ニタイシテ、これダカラネ>
「弟妹両方だからな、2倍だ」
<相手はじょーダヨ?タッタノ2倍?>


アルベルトは苦笑して、抱き上げたイワンの前髪を撫でるようにかきあげた。
いつもは髪に隠れているイワンの双眸と、視線が合う。


「今日はそのままギルモア邸か?」
<みっしょん中ダヨ>
「イワン、お前が前に言ったように、今日は何もないと言うなら・・・」
<ソレハあるべるとガ決メルコトジャナイ。僕デモナイ。009ダヨ>
「それなら、戻ってくるな、絶対に・・」


ヘッドボードにもたれさせていた背を離し、間に置いていた枕の位置を変えて、アルベルトは再び背をヘッドボードに寄せた。


<ソウダネ>


膝に抱くイワンを抱き直しながら、ナイトスタンドに置いた、読みかけの単行本を手に取った。
彼の口角の端が、くっ。と、嬉しげにあがった。


「やっと、か・・・」
<ヤット。カナ?>
「なんだ?」
<アノ2人ノコトダカラネ>
「ああ、そうだったな。あの”2人”だからな・・・」


ぱらぱらと読みかけていたページを探す。
単行本の紙が作り出す微かな風は、優しくイワンの頬をくすぐった。
印刷されたインクと、古書独特な香りを胸いっぱいに吸い込んで、イワンは言った。


<2人ヲコッチニ連レテクルノハ、アノ3人デイイヨネ。ツイデダ>
「本当についでか?」
<ウン。ツイデダヨ>
「・・・ついで、か?」
<ソウダヨ>
「ママを取られたから・・・、じゃなく?」
<やだナ、あるべると。僕ガソン小サイ男ダト思ッテイルノカイ?>
「実際に(躯は)小さいから、いいんじゃないか・・・・・?」
<ダヨネ>
「・・・」











####


「んだって、直でホテルに帰らず、ギルモア邸に寄らなきゃなんねーんだよ!」


ジェット、ピュンマ、イワンはさくらの失恋のウサをはらさせるために、買い込んだ食料品とともにコズミ邸で一晩を過ごした。
ただ、泣き続けるだけのさくらに対して、彼ら3人は特に何も言葉をかけることなく、さくらの部屋としてあてがわれている、2階の1室で、派手に食べ始めた。

自分を心配してきてくれたはずの3人に構われることなく、ホテルにいたときのような慰めの言葉も書けてもらえない状態で放って置かれっぱなしのさくらは、さめざめと泣き、自分がどれほどジョーにひどいことを言われたのか、そして、どんなにジョーを好きだったかを、3人にむかって自分への対応の抗議も兼ねて涙にむせた。
聞き取れない日本語で話し始めたと思えば、海が英会話ができることを知り、さくらは英語でべらべらと不満と怒りをぶち巻き始めた。

どうやら、彼女は日本語よりも英語の方が、気持ちを伝える方法として楽らしい。


ジェットがこっそりコズミ邸のキッチンから失敬して来たアルコールも手伝って、胸に支えた思いをすべて吐き出させた後、こんな駄菓子なんて口に合わないだから!っと、言いつつも、海が進めた激カラスナックを頬張ったまま眠ってしまったさくら。

定時にやってきたコズミ邸のお手伝いであるミズエに、ピュンマがさくらのプライドを傷つけることのないように、事の起こりを説明し、後を任せた。

さくらの車でコズミ邸までやって来た3人は、タクシーを使ってホテルに戻ることにする。
コズミ邸から電話を入れてタクシーを呼んでもらったとき、イワンから直接テレバスが飛んで来た。


「うわっ」


頭に直接響く、幼い子の声に海はその通り飛んで驚いた。


「イワン。おはよう」


飛んで驚く海にたいして、ピュンマは笑いながらイワンに朝の挨拶をする。
そして、彼から伝えられた”ぷち・ミッション”のために、タクシーの運転手に伝えた行き先は、ギルモア邸。

ジェット、ピュンマ、海の3人は今、邸のリビングルームにいる。
正確には、海が、だ。
夜通し起きていた海は、タクシー内でうつらうつらと船を漕ぎ始め、そのまま起こされることなく、今はリビングルームの特大L字型ソファを1人で占拠していた。

海を起こさないように、ジェット、ピュンマはジェロニモが入れてくれた珈琲を手にダイニングルームにいる。


「・・・知らん。」
「イワンがさ、ギルモア邸で珈琲を飲んでからこっちに帰ってこいって言うんだ」
「・・・・・・そうか。」
「っでよ、ジョーとフランソワーズは結局どうなったんだよ?」
「・・・」


さくらの相手をしながらも、ずっと携帯電話からの報告を待っていたジェットとピュンマ。
イワンからのテレパスを受信したとき、もしや。と、身構えた。

それが、”ギルモア邸で珈琲を飲んでから帰ってこい”とのこと。



「あいつら、マジに無断外泊かよっ!?」


何も答えないジェロニモにたいして、ジェットが驚きの声をあげた。
ピュンマは静かに、いつもよりも少し薄めの珈琲を楽しみながら、ジェロニモとジェットの様子をうかがっていた。


「・・・むう・・・・」


ジェロニモは悩んだ。
ジェットに言うべきか、言わないでおくべきか。
(ピュンマ1人ならきっとジェロニモは迷うことなく言っていただろう。)


2階にいる、2人のことを。


いったい、何を意図していこの3人をギルモア邸にわざわざ呼んだのか。
ジェロニモはイワンの考えが理解できないでいた。

それならば、張大人と篠原当麻を追い返した理由に意味がないではないか。と、天才児に疑問を投げかける。


「イワンが意味もなく、僕たちをここに呼ぶわけないから・・・何かあるんだよ、ジェット」


ピュンマはちら。と、ジェロニモに視線を流した。
迷いのあるジェロニモは、反射的に、ピュンマから視線をそらせてしまった。その自分の行動に、あ。と、後悔した。


ピュンマは戦いのプロであり、策士でもある。
敵との見えない心理ゲームにおいて、彼のその野性的感と洞察力は009に匹敵すると言ってもいいほどに鋭く群を抜いて優れている。


「・・・ジェロニモ」
「なんだ。」


喉を鳴らして、咳払いをするジェロニモの怪しげな態度。


「ジョーとフランソワーズは、どこにいるんだろうね?本当に何も知らない・・・はずないよね?」
「ん、・・・あ・・・珈琲のおかわりはいるか?」
「まだ連絡がないって言うのは変だよね。張大人と篠原先輩はどうしたの?」
「ホテルにいるだろう。」
「じゃあ、ジョーとフランソワーズは、見つかったってことだよね?」
「・・・む。」
「でも、ホテルにはいないんだよね?」
「ああ・・・」
「じゃ、ここに居るんだね?」


ジェロニモは深く、深くため息をついた。




まだ、ジョーは起きてはいないのだろうと、ジェロニモは考えている。
きっと起きていたら、とっくに顔を出しているころだと思えたからだ。

イワンの瞬間移動(テレポーテーション)によって邸に戻ってきた2人。
意識を失っているジョーはともかく、意識のあるフランソワーズも一緒だったことにジェロニモは驚いた。


<彼女ノこころハじょーノコトデイッパイデダッタカラネ、余計ナモノガナカッタカラ問題ナク>


どうやら、イワンは自身の能力の成長をきちんと把握しているらしく、以前は物体(意識をなくした人)以外の瞬間移動(テレポーテーション)は無理だったが、最近は意識のある人間でもその人物の思考が1つのことに集中し雑念がない場合なら可能になったと言う。


ジョーとフランソワーズの間に何があったのかは、イワンのような”能力”など必要なかった。
イワンから連絡を受けてジョーの部屋に居たジェロニモに、姿を現したフランソワーズを観れば、言葉など何もいらない。

フランソワーズと一言、二言、言葉を交わし、ジェロニモはジョーの部屋を去った。
2人には、2人だけの時間を誰にも邪魔されることなく過ごしてほしい。と、ジェロニモは願ったからだ。のにも関わらず。


「いる。」


ジェロニモの発した二文字に、ジェットは驚きと意地悪な悪巧みに加えたニヤけた顔がいっしょくたになった、とても奇妙な顔で、珈琲を一気に飲み干した。


「ダメだよ!ジェット」


先に素早く釘を刺す、ピュンマ。
ニヤニヤとした笑いを顔中にひろげて、ジェットはジェロニモに珈琲のお代りを催促した。


「これで、まったくぜんっぜんっ、蟻の一歩ほどにも、進展がなかったらよっ、さくらのためにも、フランソワーズのためにも、オレは009に決闘を申し込むぜ!」
「放っておいてやれ。」
「・・・・003を省いて、まあ、001もかな?」


意外なピュンマの台詞に、ジェロニモが驚く。


「博士もこっちだぜ!」
「僕だって、そろそろ胃痛から解放されたいんだよ」


驚いているジェロニモに対して、にっこりと笑ったピュンマの目は本気だった。















####

「ジョー・・・?」


枕の布擦れの音に、フランソワーズはジョーが目を醒すのだと、緊張した。
ずっと、にぎっている彼の手に思わず力が入ってしまう。

もうそこまで浮かび上がっている意識に呼びかけるように躯をジョーの眠るマットレスに体重をおき身を乗せて、彼の顔を覗き込む。

その行動に、ちょっとしたデジャブを感じた。













躯を完璧に修復されたというのに、長く、意識が戻らない、009と、002。

奇跡の生還と喜んだのは、ほんの一瞬のこと。
海底に沈んでしまったドルフィン号(1st)のような、以前構えていた研究所のような施設などなかったために。
自分たちの手で潰し、BGから放棄されたいくつかの、研究施設を頼り、がらくた同然の機材をなんとかより集めて、反BGを訴えるギルモアを通して活動していた研究者たちの援助の元、懸命に2つの命を繋ぎ止めようとした時間。


処置が手遅れだったのかもしれない。と、諦めかけながらも、希望を捨てきれなかった。


同時に。


2人を科学の力で”甦らせる”ことなく、願わない死ではあるけれど、サイボーグであっても自然の摂理から言えば、2人をこのまま安らかに眠らせるべきではないのか。という声も聞こえていた。

安らかな眠りの先には、もう戦いはないのだから。と、何人かの学者たちがギルモアに意見しているのを、フランソワーズは聞いた。



「博士、ダメですよ・・。ジェットもジョーもお寝坊さんなんですから・・・・。もう少し待ってあげなてください・・・」


毎朝、フランソワーズは決まってギルモアに言い、意識のない2人の世話をし続けた。


「まだ、ジェットはお腹が空いてないんですわ・・・。ジョーは、きっと夢の中でも旅をしているのね」


そんな毎日の中でジェットの、ジョーの、”目覚め”のサインを見つけたのは、フランソワーズだった。
見間違いかもしれないと、彼の反応を確かめたくて、じっと、じいいっと、身を乗り出してジョーの顔を覗き込む。

陽の色によってかわった髪色を枕に押し付けるように、微かに左右に振る。
重たい瞼を押し上げるために、力が入った眉が眉間に皺を作った。
潤いのない声帯をかすめた空気が、かすれた音を出す。
握られている手に反応して、肩がびく。と、震えた。

ジョーの動作のひとつひとつを見つめる、フランソワーズ。


「・・・m・・・・n・・?」


覗き込むために体重をかけていた両肘が、その重さから解放されると、握ってた手が離れる。
握られて動きを制限されていた手が、自身の顔まで移動すると、額にかかっていた髪を鬱陶しそうに梳きあげるように払いのけて、乾燥している唇を巻き込み噛んだあと、浅いため息が漏れた。


睫毛が揺れ続けて。
揺れる睫毛の間から見える、琥珀色の輝きに、フランソワーズの胸が興奮に早鐘を打ち、高鳴り、心臓の動きに会わせて躯が揺すぶられて。

あのときは声が出せなかったために、脳波通信から送られた電子信号だったけれど、今は、その声を耳で聞いた。


<・・・・・ここ、は?・・・僕は・・?・・・・・・・・>
「・・・・・ここ、は?・・・俺は・・?・・・・・・・・」





ジョーの視線がぼんやりと人物を映し出す。
瞳の焦点をあわせようと、何度も瞬きを繰り替えす姿をフランソワーズは見つめる。


「ここは、・・・ギルモア邸の、ジョーの部屋よ・・」














####

黎明。と、言う言葉をいつどこで読み知ったのか、ジョーは覚えていない。
言葉とはそんなものだ。と、思う。

意識して、学業として学んだ言葉もあれば、無意識に過ごす日常で聞き知ったものもある。


心地よい目覚めだった。
躯もこころも羽のように軽く、季節風のようにさらりと、目覚めることができた。


視界にはいった眩しい光の中に綺羅めく蒼色に、朝焼けの海の香りにを感じて不意にそんな言葉が頭の端をよぎり、自分の今いる場所がどこなのか、なぜ、ここにいるのか、無意識に発した言葉に返って来た声で理解した。




ここは、”家”か。と、頭の中で言った。
”家”と意識した言葉に、ジョーは安堵している自分が不思議だった。


「・・・・部屋?」


ピントがずれた視界は線のない水彩画ようで、ぼんやりとしている。
数回またたきを繰り返しながら、ゆっくりと自室のベッドの上に横たわる躯を、起こそうとした。


「・・・ジョー、気分はどう?」


耳に心地よく響いた声が、脳内のあるスイッチを押した。昨日のことをクリアに”現実に起こったこと”として、ジョーに総てを告げる。



「・・・・・・・・・・・・・悪く、ない・・よ・・」


ゆっくりと上半身を起こす。
利き腕を支えにして、枕元近くに付き添う、フランソワーズには視線を合わせず、マットレスの端に行儀よく添えられた彼女の爪先に視線を置いて。


「・・・悪く、ない・・・・・」


床にぺたり。と、座り込んでいるフランソワーズは躯を起こしたジョーを見上げる。
窓からの光に細められた蒼は、観なければ一生後悔すると思わせるほど美しく輝いていた。


「イワンが・・」
「・・・・うん。・・・・・・・・だと、思った、よ・・」


フランソワーズの爪先から、時間をかけて視線を上げていく。
途中、彼女の唇を捕らえたとき、彼の動揺を顕すかのように、視線が離れ、幾度かその瞼が忙しなく動いた。


長く耳に残るゆるやかな波音を聞く。














フランソワーズから離れた視線がむかった先は、窓の外。
空の青か海の青か、わからない一面の青に瞳を染める。


「・・・・・・・・・・昨日、のこと、・・・dけど」
「・・・・」
「その場の、とか、・・・・・・・・一時的な、そういのじゃ、ない」
「・・・・」
「・・・でも、・・・・押し付ける、つもり、ないから・・」
「・・・・、しない、わ・・・」
「・・・・・・」
「・・・あんな、キス、私・・・、はじ、めて・・、で・・・・・・・」


上半身を支えているジョーの手が、ギュっとシーツを握りしめた。







見上げるジョーの背中。

いつも、その逞しく、強靭な背を見慣れているはずなのに、フランソワーズの瞳には、少年から青年へと変わろうとする狭間に立ちながら、必死に力をいれて、”男”であることを主張している、形にこだわる背中にうつっていた。

躯を支えるジョーの手が、握りしめているシーツの手が、汗ばんでいく。
その手とは違う、手を伸ばした。

行儀良く、マットレスの端にそえられた手が、力強く、握られた。
痛いくらいに、強く。



「俺も・・だ、よ・・・・」



その、手に視線を落とす。




フランソワーズが先に。
続いて、ジョーが。

握ったフランソワーズの手を見つめた。
握られたジョーの手を見つめた。










この手は、常に。






「・・好きだ、よ。・・・・・好き、だ、から・・・・フランソワーズのこと、好きだから、・・でも・・」





彼女の手を取り。
俺の手に取られて。


でも。





---それは、仲間だから・・・、・・・・キミにとって、俺は・・・。









「・・・・キス、して、キミの、気持ちを、無視して、・・・ごめん・・・・・。オレが、かってni・・・きmi・・・w」


ぽたり。と、手の甲に落ちた雫に、ジョーは跳ねるようにフランソワーズを観た。

今日、初めてフランソワーズを、観た。







「・・・・・・ 好 き ・・・・・・」








ぎしり。と、マットレスが大きく傾いた。









「・・・・・・・好き、な、の・・ジョーが、好き・・・・・・私・・、ずっと・・・」















---ずっと、ずっと、ずっと・・・・好きでした。










ずっと、ずっっと、ずううううっと・・・・。
あなただけを見て、あなただけを想って、あなただけを、・・・・。
















海鳥が風に乗り、気持良さそうに空を泳いで鳴いている。
近くの車道をバスが走り抜けていく。


停車したバスのアナウンスが、微かに耳に届くと、それにおおいかぶさるように、波がざああっと砂浜に打ち上げられて、引いていく。
白い泡が追いかけていくけれど、同じように残された貝殻の中で弾けて潮の香りとなって漂う。


砂の上のいくつもの跡が、波に消されて。
青に溶かされて。


繰り返し、繰り返し、終わりのないサイクルを繰り返し、繰り返し。

けれど、今の波と、これから来る波は、同じものでなく。
繰り返すけれども、同じ波は繰り返さない。

同じ波でも、同じ海から同じ浜にむかってくる波でも、それは常に新しく。








波と言う単語が同じなだけで、それは違うもの。
少しだけ、以前とは違う、それとなって。


変わらないように見えて、常に変化している。







少しずつ、・・・・少しだけ・・・・・けれど、確実に・・・・・。











「信じられ・・ない・・・・」


固く、固く、想い人を腕に抱きながら、呟いた。
胸元をその人の熱い涙で濡らし、亜麻色の髪に唇を寄せながら、何度も、信じられない。と、音にする。


腕の中の、人が、頭を動かして、同じ想いを通わせた人を見上げた。



「・・・・・・・・信じて・・・」



空気を揺らしただけで音にならなかった声。




「・・・・・・・・・・・フランソワーズ」









好きだから、・・・・・キス、したい・・・・・・。


キスをするのは・・好き、だから。











重ねられただけの、それが感じたのは、海に潜ったときに感じるのとかわらない味が、した。
どちらの、涙が、そうだったのか。

わからない。

















「・・・ジョー」
「・・・・・・、な、に?」
「・・・・・・・・・・・おはよう」






ジョーの唇から離れた、それが、頬に触れた。



「おはよう・・フランソワーズ・・・・・」
















====17へと続く。








・ちょっと呟く・

ここの9ですからね、また気絶(笑)
...いえ、大丈夫ですよ。
一回空気抜きましたからね。

00さんたちの予想より遥かに進展した2人でしたー(笑)


本当は3のお返事を引っ張ろうとしたんですが。
なんだか妙な展開になりそうだったので自粛。
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