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雨の日、シェルブール気分。



薄汚れた白が、狭いビルとビルの間、無理矢理に押し込まれていた。

渋滞する車道から吹き出す色が肺を満たすごとに、キッチンの換気扇
フィルターの汚れを想像させられて、入ろうかと迷った、アメリカ発
のコーヒー・チェーン店へ向かおうとした足を鈍らせる。

街全体が少しばかり、生活のリズムを終わりに向けて早めていく中で、
不安気に見上げた視線を、安心させるかのように肩にかけていたカバン
から取り出した、カラフルな折りたたみ傘。

「傘?」

隣りを歩く連れが手に持つ折りたたみ傘は、購入したばかりのものかと
思うほどに、きっちりとたたまれている。
物持ちが良い連れが、その傘を選んだ日を覚えている。そんな意味の
ない記憶力は、喧嘩するたびに、終わってしまった過去のことを、まるで
3分前に起きた出来事のように、クリアに並べ立てる女のようで、長く
愛用している連れの傘に対する、感想は言わないことに決めた。

いまだに新品とかわらない傘に、連れの性格が出ているな。と、感じ
ながら歩いていたら、「傘?」の問いに答えてはくれなかった連れが、
「よかったの?」と、空にむけていた視線をこちらにむけて、別の
トピックを立てた。

結局は通り過ぎてしまった、アメリカ発のコーヒー・チェーン店に
たいしての答えは、首を縦に一度動かしただけで、終わらせる。


肌にまとわりつく湿気のために、歩いていても本当に足が前へと
進んでいるのかわからない。歩く速度に合わせた風を観じることが
できず、往来する車の排気ガスが空中に散っている感覚も感じられない。
通りすぎる人々とすれ違い様に生じるはずの空気摩擦も、すべてが
空気中に舞う水分によって和らげられてしまう。

重力と言うものがあるような、ないような。
不可思議な皮膚感覚から生じてしまう、視界に映る街と
聴覚から得る情報がブレて、数値にしがたい微妙な感覚のづれ。
その狭間に、すこん。と、思考が落ちてしまうことを、連れは
よく知っている。
こういう時の会話は短く、主題のないものになることが多く、
続かない。けれど、慣れているので、連れはまったく気にしない。



視界の端にちらつく、カラフルな折りたたみの傘は、その身を
銀色のボタンで、まとめられていた。
ぷちん。と、はじけるような音がきこえ、続けて、ナイロン地が
こすれ合う、さらさらとした音。
連れの利き手首が左右にひねられると、まとめられていたときには
わからなかった、絵柄がわかるようになった。

次の点滅信号から住所が変わる事を示すための、日本だと
いうのに横文字で書かれた町名を表示している、標識。それを
無意識で読んだ後、朝よりも薄まってしまった、連れの香りを
探すように、足を止めた。
連れも、同じように足を止める。

「雨?」
「ええ、くるわ」

2段階式のはじきを手で伸ばし、玉留部分にあるボタンを
押した。
ぽん!と、勢い良く開いた傘が、周りの、自分たちが立つ歩道の。
いや、連れの差した傘が目に入る人々、全員の注目を、浴びる。

傘はすっくと立ち上がり、連れと自分との間を細い銀色の線で
隔てながら、街から持ち主プラス1人を隠すと、歩道を行く人の
足が鈍り、おもしろいように、みな視界を上へとむけた。


そんな人々を目にして、くすっと笑った連れが、「潮がひいて戻って来る
瞬間の、少しだけ留まる間の音に、少しばかり似ているのよ」と、教えて
くれた。


耳をすませて。

その音が聴こえるかどうか、集中してみる。
雑多で意味のない人工音に埋もれてしまったこの街の中に立ち、
家近くの海辺を思い出す。

「くるわよ」

ぽつん。と、連れの差した傘を弾いた雫が一滴。

それが、始まりの音だった。

不可思議な視線で、連れが差した傘を見ていた人々、街、に、
彼女の意図が通じた瞬間だ。

周りから驚きと動揺の声は、彼女の言った意味とは違うけれど、波が
浜辺にかえしてきたときの音に、似ているな。と思った。
空は何を勘違いしたのか、そんな街の声を歓迎されていると受け取った
ようで、バケツをひっくり返した勢いで、雨を降らせる。
やんちゃないたずらっ子が、町中を蹴飛ばすように、アスファルトを
弾いて、弾いて。弾いて。

雨音が響く中で突然、鳴らされたクラクションが、まるで連れを褒めて
いるかのように聴こえた。

アスファルトから跳ね返る雨と、その冷たさに、ジーンズの裾が重く
なる。傘を持つ連れの手に、自分の手を重ね、連れの手が離れて、傘を
持つ、担当をかわってもらう。

「この傘じゃ、ダメかもね」
「そお?」
「戻ろうか」

さっき通りすぎた店を指して言った。

「あなたがそうしたいなら」
「キミは?」

連れの答えは、誰もが梅雨時に待ち望む、晴れ渡った青空の
ような笑顔。
激しくなる雨の勢いに合わせて、濁り霞む街の中に栄える、
目の覚めるような、カラフルな傘は、連れの故郷で買ったもの。

「この傘、お気に入りなの」

あっと言うまにできた、水たまりを遠慮なく壊して走り行く
車から、連れをかばい、歩き始めた。

「この雨でキミの躯が冷えきってしまう前に、温かい紅茶
でもカフェオレでも、・・・飲ませたいと、思ってる」
「ねえ、Les Parapluies de Cherbourgの映画、観たくならない?」
「あまり好きじゃないんだ、その映画」








end.



*もう、2週間くらいずーっとぐずぐず雨です。
 今日も朝起きて雨・・・。
 雨。

 9は嫌いと言ってますが、私は好きな映画です・・(笑) 


写真素材(c)NOION
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