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その夏の出来事は、日本で。

梅雨と呼ばれる雨の季節が過ぎ去ると、日本に本格的な夏が訪れる。
小さな東の島国は、多湿な気候なために、テレビで観るコマーシャルのよくあるうたい文句”気分爽快な夏”なんてあり得なかった。
べたべたと肌にまとわりつく感覚は、エアコンディショナーが作動している室内以外、フランソワーズは蒸し風呂気分。と、言うよりもずっとサウナに入っているようだ。と言う感想をため息まじりに漏らす。

これぞ、日本の夏!と、夏ばて気味なグレートは、それを誤摩化すように団扇をあおぎ、どこから手に入れて来たのか、ちりりん。ちりりんと、愛らしく耳心地よい音を鳴らす風鈴を買って来た。
海沿いに立つ洋館は、人が立ち寄らないような場所にひっそりと建つ。海側に面したリビングルームの窓に飾ったガラス作りのそれを風の鈴と書いて、ふうりん。と呼ぶことを、ジョーから聞いたフランソワーズ。


昔の人は、この音を聞いて暑い夏を涼んだんだよ。
ささやかな風に揺られて、鳴る音に、風を感じるんだ。


風流だろ!と、その声に重なるグレートの声。
フランソワーズは耳を澄ませて海風に揺られて鳴る音に集中し、すゞやかさを感じようと、一度リビングルームのエアコンディショナーを切ってみた。


「私に”風流・日本の情緒”・・日本のフィロソフィを理解するなんて無理なんだわ」
「え?」
「鈴の音を聞いても、全然涼しいなんて思わなかったもの。それに、コズミ博士がたてて下さったお抹茶も苦くて、苦くて、ミルクと砂糖が欲しかったわ。くださった浴衣も、ウェストが苦しいし、歩幅がとれなくて歩きにくい上に、すぐに来崩れちゃったし、下駄をけり投げちゃったりもしたし、山の形をしたかき氷を上手に食べられない」
「ああ・・・」

初めて日本で夏を過ごすフランソワーズの言葉に、苦笑気味に相づちを打つ、ジョー。
車庫に仕舞われている車を出そうとした車内はシートに腰を下ろす気にさせない熱気で充満していた。

「夏休みの宿題は朝顔の観察日記。なんて、言うのもよ」

ジョーは、エンジンをかけて4つのドアを開け放ち、エアコンの設定を強にした。

「どこで聞いたの?そんなこと」

開け放った運転席のドアに凭れたジョーは、驚くようにフランソワーズに聞き返した。
彼女はこれもまた、コズミ博士にいただいたレース作りの小さな日傘をさして、ジョーのすぐそばにたっていた。

すべて、コスミ博士の愛娘が置いて行ったものらしい。

「テレビドラマよ。・・・・夏だからって、朝顔でなければならない理由ってなんなのかしら?日本人は朝顔、好きね?」

もらった浴衣が朝顔の柄だったことをさし、そしてグレートが持ち歩く扇の絵だったことをフランソワーズは言う。そして、近くのスーパーにも何かとスイカに、朝顔に、花火のイラストが目に入るようになった。

「え・・・っと・・・」

そして、今から彼女を連れて行こうとしている場所も、朝顔。だったりすることに、ジョーは焦った。

夏の風物詩のひとつ、「朝顔市」

小学生の夏休みの宿題ではないけれど、新聞でその日を知ったジョーは、なんとなく朝顔の鉢をいくつか買ってこようと思い立った。「朝顔市」に行く事は、フランソワーズを驚かそうと内緒にしている。

ちょっと出るから、一緒にこない?と誘った。今までその言葉以外でフランソワーズを誘ったことはないけれど、一度も断られたことがない。
一緒にこない?と、誘ったドルフィン号の中でも、断られなかったから、彼女はここにいる。

「・・・朝顔は、gloire du matin。belle de jourでもいいと思うけど。有名な映画のタイトルになってるわ。その映画、知ってる?」

真っ白な日傘を左肩に当てて、くるくるとまわす。
レースの細かな模様目からおちる陽の光だけれど、まるでフランソワーズ自身が輝き弾く光のようにジョーの瞳に映り、眩しかった。

「い、・・いや・・・知らないよ」

そんなフランソワーズから、さっと視線を外し、腰を折って、車内に上半身を突っ込んだ。
他愛のない会話の間に、車内の温度は収まっていた。

冷たい風を作り送り出す送風口に、ジョーの長い前髪が揺れる。
顔をずらして、わざと頬に当てた。

その背をフランソワーズは見つめる。

「・・・・ジョー?」

手に持つ日傘をくるくるとまわす。

「なに?」

手に持つ日傘をくるくるとまわす、指先は迷いもなく、慣れたようにトリガーを引く。その感覚は消えることはなく、常にフランソワーズの指先にあった。
ジョーは車内に突っ込んだ姿勢のまま、運転席に乗り込んだ。
その彼を見て、今日こそ、見えない銃口を彼に向けてみてもいいかもしれない。と、フランソワーズは考えた。
そのために、ここにいる。


鍋の中でことこと煮込まれているような、日本で。
わけの解らない、フィロソフィに振り回されながら。




”一緒に来ない?”の言葉の意味を、確かめるために。




くるくると指先が遊んでいた日傘の回転が止まる。
夏の焼けるような痛みさえも感じる日差しに、フランソワーズのむき出しの白い肩が晒された。

「そろそろ、行こうか」

日傘がついっと、たたまれて。
助手席に向かわなければならない足が、2歩前に出て、運転席へ。

さきほどまでのジョーと同じ姿勢を真似て、車内に上半身を覗き込むように押し入れると、すぐ目の前に、どうしたの?と、問うてくる瞳。を、無視するように、瞼を閉じた。






驚きに見開いたままの瞳は動揺を彩りながらも、冷静に彼女の芸術的に薄く引かれたアイラインの美しさに気づいた。

心地良いとは言いがたい温度の潮風が、風鈴を鳴らす。

ちりりん。と、響いた音が波音に混ざり、それを合図にジョーは瞼を閉じた。
ちりりん。と、響いた音を耳にして、それを合図にフランソワーズは重ねていた唇を放した。

「日本の夏は、・・私には難しいわ」

ちりりん。と、風鈴が鳴った。
波音は季節とは関係なく、そこにある。


走り去った彼女が落とした日傘が、ジョーの視界に映る。

「簡単だよ・・」

フロントガラスに飾られた青に、初めて感じた感触を何度も再生させ、ごおごおと唸る車内の無機質に冷えたエアコンディショナーのに身を晒した。















木箱に入ったそうめん。
小さな鉢と、土と、朝顔の種。

花火セット。

フランソワーズの言った、映画のDVD。

コンビニエンス・ストアで買った、カチンカチンのかき氷。と、イベント情報雑誌。
に、観察日記用のノートを1冊。



そして、何度も車の中で反芻した言葉を胸に。
1時間後、それらを手に、彼女の部屋のドアをノックした。











end.




*予定では”もう、爽快感突きつける青春だね!きゃーっ”を目指したんですが・・・。
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