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あの星空を2人で
ランドリー・ルームの熱気にあてられた肌が火照り、じんわりと白い肌を潤わせるが、さらりとした感覚とはほど遠い。
べったりと肌につく襟ぐりがV字に大きく開いたワンピーズの胸元をつまみ、風を作った。

ランドリールームの窓を叩く雨音は、風に従順に踊る。
フランソワーズの胸元から起きた風は、額にはりつく前髪を揺らすほどの強さはない。

日本の梅雨と呼ばれる時期の洗濯ものほど、楽しくないものはない。と、ため息をついた。
ドアを開け放ち、エアコンディショナーで人工的に覚ました空気を呼び込むけれど、乾燥機が作り出す熱には追いつかなかった。
いつもはランドリールームで畳み、アイロンがけもすますけれど、乾燥機で乾かした洗濯物を、空になったカゴに入れて、それをエアコンディショナーがよく効いたリビングルームに持ち込んで、たたむことをに決めた。

リビングルームのドアを通り抜け、ひんやりとした空気に人心地つく。
そんな、彼女をちらり。と、ページをめくる瞬間に盗み観ただけの、午前中に1時間ほど家を開けていた人。

フランソワーズは、フローリングの床にきちんと正座して座り、膝をつかって畳んでいく。
カゴから1枚ずつ取り出す布の温かさを指先で感じながら。

一枚、一枚、丁寧に。



「足、痺れるよ?」


フランソワーズは、洗濯物をたたんでいた手を止めて、視線を動かした。
リビングルームのソファに座り、買ってきたばかりの雑誌をソファとセットになっているロー・テーブルの上には置かず、自分のおもちゃを取られないように警戒してい子どものように、自分のすぐ脇に置いているジョーに、フランソワーズはくすっと笑った。


「大丈夫、慣れてるの」
「慣れてる?」
「ええ、慣れてるのよ」
「ふうん」


それ以上の会話は交わされず、ぱらり。と、ジョーは、持っている雑誌のページをめくった。
窓を叩く雨音がリビングルームの壁に飾られている時計の秒針の音に絡まる。

洗濯ものをすべて畳み終えたフランソワーズは、すっくと立ち上がり、エアコンディショナーによって清々しく火照りが引いた躯に、足取り軽く、痺れなどないと証明するようにすたすたと歩いてリビングルームから出て行った。


「・・・可愛くないなあ」


出て行ったフランソワーズが後ろ手に閉めたドアの閉まる音を聴き、3冊目の雑誌を閉じて、読み終わっていた2冊目の雑誌がある、自分の座るソファの左側に置いた。
ジョーの右側には、未読の雑誌があと1冊。


「わざとでもいいから、こう、・・・可愛く、・・」


ジョーはソファの背にだらしなく躯を預けて、リビングルームの天井を見上げた。
日が高い時間の午後だが、重く厚い雲に覆われてしまっている空のために、ルームライトを付けていなければならない。

煌煌と光るルームライトにむけて瞳を細めた。
ライトの光がにじみ視界いっぱいに広がり、脳内で想像した数パターンの”足が痺れたフランソワーズ”が上映される。


「・・・・うーん、2番目のが、好みかな?」


ジョーの手が動いて、最後の雑誌を掴み、膝の上にそれを置いた。


「いや・・・でも・・・・」


ぱたぱたとなるスリッパが再びリビングルームへと近付いてくる。
いつの間にか、聞こえなくなっていた雨の音に気づいたのは、その足音のせいだった。


「ねえ、ジョー」
「なに?」


4冊目の雑誌を膝上で開いた。


「雨、止んだみたい」
「そうみたいだね」


リビングルームに入って来たフランソワーズへ視線は移さずに、雑誌に集中する。


「ねえ」
「なに?」


一人分の間を開けて、フランソワーズはジョーの右側に腰をおろした。


「雨がやんだのよ」
「うん」


フランソワーズはジョーの顔を覗き込むように、少し背を屈めた。


「ねえ」
「うん」


雑誌から視線を外す様子のないジョーにたいして、フランソワーズは少し拗ねたように、唇を尖らせた。


「だから、雨が止んだの」
「そう」


2人の座る間にあった一人分の空間が1/2になる。


「・・・・ねえ」
「なにかな?」
「だから、雨がね」
「うん、止んだね」


ジョーの膝上にある雑誌のページが、ぱら。と、めくられた。
新しいページに書かれている文字を、フランソワーズもジョーと一緒に読む。


「・・・」
「・・・・・」


書かれている記事の特集内容に、意を決してフランソワーズはジョーの着ている半袖のシャツ、二の腕部分へと手を伸ばし、そっと、触れた。


「雨がね、止んだの・・・。だから、ね?」


いつの間にか、2人の間にあった距離がなくなり、寄り添うようにソファに座っている。
ジョーの二の腕部分に触れているフランソワーズの手から伝わる、彼女の体温。
室内にずっといた、ジョーの冷えた皮膚の、その部分だけがじんわりと暖まる。


「今夜、晴れるとは限らないよ?」
「でも・・・」


触れていただけのフランソワーズの手が、甘えるように、ジョーの袖を握って、1度、それを引っ張っる。ジョーは、答えるように、膝上にある、まだ読み終えていない雑誌を閉じた。


「そんなに慌てなくても、星は逃げないよ・・・夏は長いんだし」


視線をゆっくりとフランソワーズへむけたジョーは、彼女の控えめなおねだり。が、可愛いな。と、思う。
雑誌に書いてあった日本全国、花火大会/夏祭りマップを目にしていながら、フランソワーズは、それに連れて行って。とは、言わない。
ジョーは、フランソワーズに言われたら、面倒臭いや、人の多さが嫌だとか、そんな事は言わず、さらりと彼女の希望に答えただろう。


「・・・もちろん、わかってるわ。・・でも」




少し時間を過去へと巻き戻す。
それは、数年前の出来事。

短い旅を終えた後に、体験した不思議な出来事を、邸に戻ってきたときに土産話として、夕食の席で披露したとき、フランソワーズがうっとりと言ったのだ。


『見上げたら、星だけの世界だったなんて、素敵・・・』


先週、テレビのニュースで流れた”七夕まつり”の話しで、ジョーの旅の話しを思い出したフランソワーズが、独り言のように呟き、それにジョーが答えた。





『観てみたいわ・・・ジョーがみたのと、同じ、星の世界』
『観たい?・・・だったら、この雨が止んだら出掛けよう』
『連れて行ってくれるの?』
『・・・・・・うん』





拗ねたように、下唇を押し上げて尖らせていた唇。


「・・・観たいんだもの」


上目遣いに、ダメなの?と聞く、久しく観ていない青空の色。
つん。と、袖をひっぱる力が1度目よりも強めに感じる。


「今夜は、ここで晴れるかどうか確認しよう。出掛けるのは、晴れてから。・・・明日がいいよ」


ジョーは、彼女を困らせることになるだろう。と、今、未来の彼女に謝っておく。
自分が観た、同じ”星の世界”が観たいと言った、彼女のリクエストに忠実に守るため。
数年前にたどった道を、今度は独りでなく、2人でと、考えて。

日帰りできない、距離。
そんなことを一言も言わず、彼女を連れて行く自分は、彼女にとってどんな男に思われるのだろう。


「・・・明日ね?」
「うん、明日」
「・・・珈琲、いる?」
「うん、いれてくれる?」
「ええ、待っていてね」


袖を引っ張っていたフランソワーズの手が離れ、彼女はすっくとソファから立ち上がった。


「明日よ?」


ダイニングルームへと続くドア前で、確認するように、ジョーの後頭部に向って言った。
ジョーの返事は片手を上げて、Thumbs up。


「・・・?」


ドアが閉まる音が聞こえないのを不思議に思い、ジョーはソファに預けていた重心をただして、ダイニングルームに繋がるドアへと振り返った。


「・・・・何泊くらいになるのかしら、ね?」
「?!」


振り返った先には、あでやかに頬を染めて微笑む、フランソワーズ。
ぎょ!っと、驚きの顔で固まったジョー。
・・・・の、止まった時間が動き出したとき、呟いた。


「・・・やっぱり、・・可愛くない」


紅い顔をして、雑誌の文字など、まったく頭には入ってこないだろうことにも関わらず、閉じた雑誌を再び膝上で広げた。
晴れるかもしれない、翌日を考えて、プランを練り直しながら、エアコンディショナーのリモートコントローラーの温度設定を、2度ほど下げた。








end.


*夜には、空をおおっていた雲が風に流れ、ギルモア邸からでも、素敵な星空を2人で眺める・・・。の、数時間前の出来事。と、言う事で・・・。
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