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窓から色を消しに差し込んでくる夕闇の時間を躯が覚えて
しまっていたのに、いつもの時間ではなかったことに、
気づかなかった。

モニターの青白い人口的な光だけが灯り、静かな室内で1人
キーボードを打つ音が浮き上がっては消えていくのを繰り
返し聴いていた。
ナイル川の川底に落ちたような色を肌で感じたとき、やっと
視線をおいかけていた記号の羅列から視線を外して、デスク
チェアから立ち上がる。

「陽が、」

ふと視界に入った右上のデジタル時計の時間と、室内の明るさが
釣り合わず、感覚的に決めていたスケジュールがずれていた。

「……長く、なってきてる」

立ち上がって部屋の窓へと近づく。
奇妙なグラデーションに染まる空は、夕日の色をオレンジだと
塗ったクレヨンが間違いだったことに今頃気づかせられる。


一時も同じ色を保つことができない飽きっぽい性格らしい空。

空気がぬくもりを含み始めたことに過敏に反応し、流行物に敏感な
年頃の女の子のように変化する。


「・・・」


日本の空の色は乳白色に淡くて優しい色だと言った人がいる。

長いまつげを淋しげに揺らしながら、閉じた瞼に入った二重の
ライン。
そのラインの形が、自分が走り書きしたメモを強調するために
ひいた下線によく似ていた。

僕は、その閉じた瞼の瞳に映る空を観ることができないことに
たいする苛立ちを、自分の意思もなく、風にながれるままに、
流されていく雲のように、その場の空気に流してしまっていた。









その空をキミは…


キミは、諦めない。







二度と観る事ができないことを知っていながらも、求めて。

帰ることができない時間に恋して。


愛する者がいない、故郷へと帰っていった。



「フランソワーズ」








こぼれ落ちたキミの音を、耳にするたびに僕は見上げる
空が憎くて仕方がないんだ。

キミをとらえて離さない、空の色を僕は観る事ができない。
知る事ができない。

手を伸ばすことさえ敵わない、キミの空に僕は嫉妬する
どころか。



キミが焦がれる以上に、焦がれている。
キミをとらえて話さない、空に恋い焦がれて。



今日が、終わっていく。









「ジョー、飯の支度ができったってさあ」


部屋のドアがノックされて、答える暇を与える事なく
ドアノブがまわされた。
部屋に入り込んでくる廊下の光が、頼りなく淡くて、
役立たずであったことが切ない。

「なんだ?・・どうした」

窓辺に立つ僕を観て、心配そうに眉を下げて首をのばす
グレートに振り返る。

「別に……」
「…博士はもう食べ始めてるぞ、早くな」
「…うん」

グレートは言葉言い切った後、視線で僕の様子をうかがい
、短く息を吐き出してドアから離れた。
彼の手が一度ドアノブへとのばされたが、途中で止まる。

「……なんで止めなかったんだ?」
「………さあ……どうして、だろうね」

口からではなく、鼻から吐き出した息の圧力は、かすれる
音を作り出す。
その重さが、グレートの不満を正直に僕に伝えた。



視線をグレートから外して、再び窓の外の海とも空とも
境界線のない世界へと投げた。
ドアが閉められる音は聴こえないままに、廊下を去って
いくグレートの足音が聴こえる。


その、彼が踏みならすスリッパの音に、僕は溜め息をついた。







彼女の、軽やかになる音じゃないから。







『ジョー、お夕飯ができたわ。一緒しましょう』






どこで覚えた言い回しなんだろうか?


「………一緒しましょう」


彼女は好んでそのフレーズを使った。





お茶を一緒しましょう。
おやつを一緒しましょう。
買い物を、一緒しましょう…

映画を、図書館を、デパートを……散歩を………夜を、


迎える明日を………








共有した時間の長さが、キミの瞼の奥に描いた空に
勝てなかった。



伝えられた言葉に、彼女はお気に入りのフレーズを
続けることなくエア・チケットを買った。



「………フランスへ一緒しましょう」













一緒、に、”    ”しましょう。

動詞の前に来る、目的語が抜け落ちた、日本語。
わざとキミはその部分を入れないようにしていた?



断言しない言葉使いがキミらしい。
出身国のイメージからはっきり物事を言うと思っていた、
ステレオタイプの印象が崩された。




「……違う、言わなかったんじゃない、言えなかったんだ」


目覚め手以来、たとえどんなに小さなことでも、キミは
常に僕にどこかしら距離を置いていた。


「言わせなかったのは、……僕だ」









……深い海の底に眠る人に遠慮して。









「一緒に、来て欲しいって………僕はちゃんと、言ったじゃないか」




一緒しましょう。





「連れて行ったのが、僕なら……また、帰るときだって僕は、一緒に………」




一緒に。









「できなかった、僕は、キミを待つしか………ないのかな…」


キミが待っていてくれたように、僕も、同じ時間を
同じ想いで。











離れているこの距離を、一緒しよう。
一緒に、この距離を埋めていこう。














見上げる空が、キミと僕の瞳に同じ色で映る日を、
願って。


一緒しようね。







一緒の空を描こうね。

フランスでも日本でもない、2人だけの、空を一緒に
作ろう。











目の前に広がる空の色が深みを増していく。
深みが増していくのを見つめながら、同じ色に
染まった世界で眠っている人に、言葉をかける。




「君と、一緒……に…は……い(逝)けなかった」





ごめん。


………ごめんね。

守ることもできず、救うこともできず、一緒に
旅立つことできなかった。

















”一緒しましょう”



「フランソワーズが、一緒がいいって言うからさ……」




ブラインドをおろす、細い紐へと指をかけた。

天井近くで、その位置を固定している金具を指に
かけた紐を左へと引っ張ることで外す。
ざああっとプラスティックがぶつかり合って、
紐が金具に吸い込まれて。

今日の空を隠した。







「僕も、…………一緒がいいんだ」







開け放されたままのドアを抜けて、階下へと降りる。

リビングルームに入ったら、美味しそうな夕食の香りが
部屋を占領していた。




「どうしたの?今日はごちそうだね」
「新メニューのお試し会アルよ!さあさあさあ!食べるネ!」






フランソワーズ




また、キミと、夕食を一緒する日を………
待ってる。







僕は、…………待ってるよ。








「ジョーや」
「はい。なんでしょう、博士」
「ちょっと使いを頼まれてくれんか?」

















end.







ライン
背景素材/ふるるかさま



				
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