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Little by Little・21
(21)






「話したいんだけど、時間は・・大丈夫だよね?」と、声をかけてジョーを呼び止めた当麻だけれども、目の前にいる彼に、当麻は自分の胸の中にある言葉を、音にすることができないまま時間を過ごした。


「・・・・・・・・」


脳内に広がる無数の言葉をかき集め、必死で掬いあげようとする。しかし、指の隙間から水がこぼれ落ちてしまうかのように、かき集めたはずの言葉は当麻の思考からすり抜けていくだけ。
もがくようにかき集めて胸に抱え込んだけれど、どこからともなく吹き付ける風にさらさらと吹き去っていった。


「・・・・・・・・・・・」


視線を落とした状態で沈黙を続ける視界に、自分が握り込む拳がある。
今日の気温の暑さにじっとりと汗ばむ手のひら。それは本当に、気温が暑いせいだろうか。何もまとめることができないカラッポの頭と同じくらいに、水分をなくしてしまっている口内で、何度かない唾液を飲み込むように当麻は喉を鳴らすように動かした。

そんな当麻の姿を、ジョーは見つめている。

一般道とホテル・エントランス前の道をを区切る鉢植えに、当麻は軽く腰を降ろし、ジョーは当麻の正面に立つ。2人の距離は3歩半あるか、ないか。

1台のタクシーが一般道路からぐるりと弧を描くように右折して、ロビー前に車を止めた。ジョーの視線が無意識に当麻から離れて、エントランス前に泊まったタクシー2台へと移ったとき、ジョーは囁いた。


「・・・言ったよ」


当麻の肩が、びくっと怯えたように震えた。


「俺の、気持ちをフランソワーズに言った。昨夜は、・・・そんなつもりでじゃ、なかったんだけど、・・・結果的にそうなった」
「・・・・」
「・・・フランsー」
「ずるいよ、・・・・・・島村」
「・・・・・・ずるい?」


走りさって行くタクシーから視線を改めて当麻へと戻した、ジョー。


「・・・・・・・・・・島村は、なんでも、・・・・・なんでも・・持ってるじゃないか」


青空に栄える緑が当麻の背を支えている。


「?」


午後の日差しは燦々と降り注ぎ、吸い込む空気は排気ガスにまみれた上に肺を焼くように熱かった。


「家族と呼べる、仲間、親友、・・・親(博士)、帰る家も、・・・・彼女と一緒にいる理由だって、なんだって、持っていて、それ以上・・・なんて、ずるい」


湿気に吸い取られていく体力。
人の行き来に、開かれた自動ドアの奥から流れ出る冷やされた空気が、ありがたいと思ったのは、ジョー。


「それ以上、何が、必要なんだい?」


植木の端に腰を下ろしてうつむき、視線を下げたままで当麻は言った。
彫刻のように動かない当麻の着ているシャツの襟が、太陽の光を鈍く反射させる。


「さあ、・・・な」


当麻は落としていた視線を顔と一緒に上げてジョーを観た。
彼の目が晴れた光に細められる。


「・・・・わからないの?」


青い空に描かれる栗色の髪が日差しを浴びて金茶色に変えたジョーに、視線を合わせながら、ゆっくりと立ち上がった。


「・・・・大切なものをこの腕で抱えて守り抜くには、さすがに限界があることだけ、わかってるけれど、ね」


ジョーは、寂しげに微笑み、言った。


「その腕に、フランも・・・だなんて、無理だよ」
「・・・」
「限界があるんだろ?」
「・・・・ああ」
「そんな腕に、守られる彼女が・・・かわいそうだと、思う」
「・・・・・・」
「ぼくは、島村のような力も強さも何もない、けれど・・・ぼくの腕は彼女だけのために、あった。ありたいと思って、ぼくは両手を広げて彼女を待っていた、ぼくは・・君とは違うぼくだからこそっ・・・」
「・・・」
「けれど・・・今、ぼくの腕には、何もない。彼女の手が選んだのは・・・」
「・・・」


昨夜、自分の告白をフランソワーズが受け入れてくれなかったら、立場はまるきり逆だっただろう。ジョーは今目の前にいる当麻を自分と重ねて見る。
出会ったときから、迷うこともなくはっきりとフランソワーズへと気持ちを打ち明けていた、当麻の前に震えだしそうな膝に力を入れて、必死でその場に立つ。


「・・・・フランソワーズに、告白したんだね」
「うん」
「島村は、フランのことが好きなんだね」
「・・・うん」
「・・・・・フランの気持ちも同じだった・・・んだよ、ね?」
「・・・・」


ジョーは、震えた当麻の最後の質問にたいしてうなずいただけで答えた。その姿をスローモーションをかけたような、映像のようにとらえた、当麻。
彼の胸の中が爆発したマグマのように沸騰し、かっと頭に血が上った瞬間、すうっと冷たく氷つく。
その落差に目眩を覚えた。


「どうして?」
「え?」


頬を伝った汗の鋭い冷たさに、当麻の後頭部がビリビリとしびれる。


「・・・・・いつから?」


口にしている言葉は、自分じゃない。まったくコントロールできていない、自分自信に、当麻は翻弄される。


「・・・・・・・・・ずっと前から、って言うと・・嘘になる、かな」
「・・・」
「彼女のことを、”好き”だって・・・この気持ちはそういうことだって思えたのは、最近で。・・・・・・色々、あって。本当に、色々と・・・・話すこともできるけど、長く、なりすぎる」


目の前にいる、勝利者にたいして、怒りも嫉妬も、敗北感もない。
ただ、彼の言葉を耳でとらえて、鼓膜をふるわし、脳内に電気信号として送り、言語を理解する。その奥に潜んでいるだろう音にされていない言葉の意味を読み取ろうと必死になった。


「サイボーグだから?」
「違うって言いたい。けど、嘘になる・・・。出会ったときすでに、そうだった」


当麻の頭と体とこころはシンクロすることなく、制御不能となった自身を投げは放ち、ジョーの前に立っている。


「じゃあ、003なら、・・・フランじゃなくてもよかったてことだよね?」
「・・・・今、彼女が003であるのは、まぎれもない事実だよ」


会話の中で、複雑に絡んだ感情と思考が解け合い1本の線を導きだした。


「・・・・彼女が、サイボーグだから、サイボーグ同士の傷のなめ合いとか、都合良く、とか、そんな考えなんかない」
「そういうことが言えるってことは、そう思ったことがあるってことじゃないのか?」
「篠原・・・?」


それだけを無我夢中で必死にたぐり寄せる。



「・・ぼくの気持ちは変わらない」
「・・・・・」


たぐり寄せたそれに必死にしがみついた。














『当麻さん』


フランソワーズが、オーブンから取り出したばかりの焼きたてクッキーを嬉しそうに見せてくる。


『良い香りでしょう♪』


無邪気に笑う、フランソワーズがいる。
彼女が見せてくれる、笑顔は誰にでもなく、自分にだけに向けられていたもの。たとえ、彼女の瞳が自分と別の誰かを重ねていたとしても、その誰かを重ねられるのは、島村ジョーではなく、自分。

あの笑顔は、まぎれもなく、島村ジョーへ向けられることはない。と、確信している。



フランソワーズに『兄』がいると知って気づいたこと。




彼女のそばにいられるなら、それでもいいと考えた。
いつか、彼女が自分に重ねる兄の姿との比率が逆転することを祈り、時間が解決してくれることを狙って。



「ぼくは、フランソワーズが好きだ。・・・・フランの口からはっきりと島村を好きだと聞いても・・・、それに、そんなこと・・・は、・・・・。それでも・・・かわらずに、彼女を好きと思う気持ちは、ここにあったから」
「・・・・けど・・フランソワーズは、俺の気持ちに・・答えてくれた」


ジョーは唇を噛み締めた。


「わかってる、ちゃんと理解してる」
「・・・・・・・・篠原、」


ジョーの言葉を遮った。


「わかってる・・・。島村、フランソワーズと、島村の気持ちが同じだと言うこと、わかってる、わかった上で、言わせて欲しいんだ」


昨晩一睡もしていないのが嘘のような、すっきりとした真摯な視線を揺るぎなくジョーに向けた。


「・・・・・・・ごめん、篠原・・・、俺はそんなにできた人間じゃないんだ」
「?」


眉根を下げて力なく首を左右に振り、肩の力を抜くように息を吐き出したジョーは、視線を当麻から外し、空を仰いだ。
正直、もうこれ以上彼を、当麻を観ていられない。


「・・・・暑い、な」


ジョーの動きに自然に当麻の視線がちらりと上へと投げられたが、一瞬だった。
ジョーは脳波通信を短く送信する。


「・・・島村、ぼくは」


じわり。と、会話の中で忘れられていた夏の気温が蘇ってくる。
ホテルのシャトルバスらしきミニバンが、ホテル裏側の駐車場から出て行き、エントランスへと回り込んでくると、2度、クラクションが鳴らされた。


「向こうのホテルへ戻ろう」


ジョーは左足を動かし、一歩、当麻から後退すると、くるり。と彼に背を向けた。
宙に浮いてしまった会話が、夏の気温に晒されて蒸発する。


「このままここで干上がるのは、勘弁してほしい。・・・篠原、顔色が悪い」


すたすたとホテル敷地内から出て行くように歩き出したジョーを、当麻が腕を伸ばして追い掛ける。


「島村、まだ話しはっ・・・」


話しは終わっていないと訴えた当麻が伸ばした腕が彼を引き止めた。
当麻の腕がジョーの肩をつかみ、ジョーの躯が当麻へと振り返る。


「?!」


ジョーの肩を掴んだ当麻の手が力なく落ちた。


「これ以上は無理するな」


くしゃっと潰した、泣き笑いの顔に褐色の瞳に揺れ溢れた涙がこぼれる。


「・・・・ピュンマ頼む」


予想もしていなかった人物の名前がジョーの口から発せられ、背後を振り返ったとき、その名の人が困ったような顔で立っていたことを瞳に写した当麻は、意識を手放した。


「一睡もせずに、炎天下の中・・・なにやらせてるんだよ、ジョー」
「すまない」
「・・・あーあー・・・」


腕に抱きとめた篠原当麻の顔を覗きこんだ、ピュンマは大げさにため息をついた。


「これでシニア・オークションの内容をだまっていたこと、チャラにしてよ・・・・?」
「・・・・このことは」
「誰にも言わないよ、約束する。・・・ジョー」
「・・・なに?」


ジョーは泣き顔を隠すように俯いて長い前髪に顔をかくした。


「ジョーはもっと自身を持って、宣言すべきだと思うよ。フランソワーズはオレの女だ!って」


当麻の体を支えるピュンマに背をむけ、彼の声に答えないまま足を部屋を取っているホテルへと進めた。

ジョーの背を見送りながら、ため息を1つその場に残してピュンマはひょいっと当麻を背におぶった。
通りかかる人々が何事かと、ピュンマに注目するが、ピュンマは今自分が友人を背負っている姿は何も問題などないと言うように、堂々と、当麻をホテルの海が待つ部屋へと連れて帰った。





<ピュンマ、・・・今、当麻とホテル前の一般道に、いる。・・・・助けて欲しい>








---ジョー、今、君は最高に幸せでいなきゃ、いけないのになあ・・・・。









####



あやめ祭、3日目。

月見里学院は日本の教育システムとはかけ離れているために、従来の入学・卒業式などがない。
高等学部シニアとして残っている生徒の半数は、その教育システムによって海外の大学へと進学を可能となっていた。
今年の9月から各大学にフレッシュマンとして進学が可能なために、留学を決めていた生徒は一般の留学生よりも3ヶ月~半年ほど早く日本を離れる。それを可能にしているのも、1年2学期制度と高等部は、一般大学と同じく単位取得制で卒業が決まるからだ。


今日、あやめ祭3日目に催されるシニアのためのプロム・パーティ(後夜祭)が卒業式の代りを兼ねてられている。

今年に新設された学院本館に付属する星辰(せいしん)館(大)ホールで行われたオークション会場と同じ場所でおこなわれている、後夜祭兼プロム・パーティ。
2階建ての大ホールは半円形を描く形に作られている。普段は並べられているヴォルカン色のシートは、1階席、2階席ともに今夜はすべて取り外されている。広いホール内の左側の壁にビュッフェ式の豪華な料理が並び、真白いクロスに覆われたテーブルを囲う人々の笑顔で埋まっていた。


<009。状況確認>


会場は学院生徒、関係者とオークション参加した者のみと限られていたが、毎年、華やかに賑わい、笑い声が絶えることのないまま終えようとしている。


<002、会場内!>


今年は、例年以上に盛り上がった。
理由はサービス精神旺盛なプロム・キング(002)とクイーン(007)のためだ。
やりすぎだ!と、キングとクイーンに飛ばされた彼、彼女(?)の家族たちからの通信は、ことごとく無視され、2人のムードが会場を包み込んだととき、あやめ祭の最後を締めくくるため、3日間で集まった寄付金などのおおよその金額などが発表された。今回のあやめ祭にたいする感謝の言葉を学院理事である篠原さえこが述べ、シニアたちにむかって月見里学院の生徒であったことを誇りに、新しい世界へ旅立って欲しいと願った。


例年にない盛り上がりに貢献したジェットにたいsて、シニア・オークション参加者のジュニアたちが「このまま学院に残れ!」と口々に叫ぶ。
ピュンマは残るのに!と、彼を引き合いに出されつつ、ジェットは嬉しさを隠しながら同級生たちにむかって「学院が”共学”になるならな!野郎ばっかで貴重な青春を棒に振ってたまるかっての!」と、一蹴した。


「あなた、もういいわ」


スピーチを終えたさえこの隣に立った美人秘書(に変身している007ことグレート)にむかって、穏やかに言った。


「企画・イベント/マーケティング部の方に明日から移動してちょうだい。私の秘書よりそっちの方が向いてるみたいね。派手な人は苦手なの。ここはそういうエンターテイメント性を育学校でもないから」


何の前触れもなく、その場で事異動を発表。
彼女の周囲に集まっていた人々が、さあっと潮が引いたようにいなくなった。
微笑んではいたが、さえこは明らかに不機嫌さを全身から発している。けれども、原因は美人秘書の派手なパフォーマンスだけではないようだが、周囲の人間がその原因に気づくことはない。


<そろそろ、帰って行く客が出て来たな、004セキュリティ・ルームから移動中>


004は会場となった本館内のセキュリティルームのある階にいる。
ノータイの青みがかった黒いスーツを着て、火がついていない煙草を口に銜えながら壁に背を預けた。


<無事に何もなく終わりそうだね。008、002と同じく、会場内>


ホール内で海と2人の姉たち、4人で動いていたピュンマが素早く答えた、学院生は全員制服着用、夏場だけれども正装(ジャケット、ネクタイ)を強いられている。


<あのバカ騒ぎじゃ動けば目立つから、動いてくれた方がありがたかったがな>
<あはは!海もコーラで酔っぱらったみたいになってしてるし、林ちゃんってばジョーからジェットに興味がうつったみたいだよ>
<マジ?やっりー!>
<でも、明後日にはメンテ入るんでしょ?デートとかしているそんな暇ないね>
<005と変わりゃいいんだよ!>
<うるさい、そういうのは口で話せ>


報告に必要のない内容が、今夜のミッションがどれほど緩いものかを現している。


<ほいほい~、006アル。ホテル。喫茶室から今部屋に戻って来たアルことね。料理は美味しいアルか?>


006はギルモア、001とそして、篠原当麻と一緒に宿泊ホテルに待機していた。


<おう!金かかってるぜ!>
<そんな料理の感想きいたことないよ、002!>


宿泊しているホテルは学院から脳波通信が届く距離を計算して選んでいるために、ホテルに待機している001、006も学院での仲間たちの動きを知る事が出来た。


<そうアルかあ、そっちに行けないのが残念アルよ。ああ、ミンナに005からの報告があるアル、005が今病院から出たそうね、お見舞いの時間がおわったのこと。今からギルモア博士を迎えに来るとの事ね、当麻くんも一緒に邸に戻るとのことヨ>
<<<<了解>>>>


宿泊ホテルのピュンマと海の部屋で、ジョーと別れてから1時間ほどで意識を取り戻した篠原当麻。けれども昨夜から一睡もしなかったことと、その間にろくに水も食事も取らなかったこと、精神的疲労が祟って体調を崩し、発熱。
シニアでありながらも今夜は欠席しているのは篠原当麻、そして六間口護(ろっけんぐちまもる)の2名。


<003>
<よお、お前どこいんだよ?>
<・・・・本館1階のロビー、会場入り口にいるわ。こちらも・・・・以上なし、よ。会場を出ていく人の中に、怪しい人はいないわ。1日目に私が聴いた声も、聞こえてはこないし、海さんを特別話題にしている会話もないわ。それに・・・・>
<どうした、003?>
<001が今日ここへこなかったことが、そういうことなんじゃないかしらって思っただけ>


今夜は篠原当麻のパートナーとなるはずだった003は、002にエスコートされて会場入りし、プロム・パーティ中は002と行動する意外は、単独で動いた。


<篠原当麻はいいとして、もう1人の欠席している生徒、六間口護の方はどうなってる?欠席理由などはわかったのか?009>


009は表からでも問題なくホールへと入る事ができたにも関わらず、ひっそりと裏から004と会場となっているホールへと姿を現し、クラスメートと短い会話を交わして出席していることだけを周囲に印象づけただけで、ホールから出て行った。


<彼は海外組じゃない。推薦で国内の大学が決まっているし、夏休み後も学院へ戻って来る。オークションで彼を落札したのは、彼の身内でなく姉妹校の生徒会の人間だ。その生徒も会場入りしていない。初めから参加するつもりはなかったのかもしれない。彼が今どこにいるかは把握できていない、001に報告はした。明日にでも彼の現在地と今夜何をしていたのかを一応調べたい>
<009が調べるの?>
<007、頼めるかい?・・欠席の連絡をしてきたのは、本人からだ。電話番号から電話をしてきた場所は彼の実家からだということはわかった>
<リーダーどの直々のご命令、しかと承りましたぞ!>
<007、さえこさんに当麻君は心配するほどの事じゃないと伝えてネ。博士が心配なら明日にでも邸へお越し下さいとのこと伝えるアル>
<了解、了解!>


007は篠原さえこと一緒にすでに星辰(せいしん)館(大)ホールを出て、学院関係者専用の駐車場へと秘書としての最後の勤めをこなしながら、009から伝えられた今夜の欠席者の情報を記録した。


<六間口はクラス内では大人しく寡黙な人物だった。石川斗織が開いていた勉強会とも関係がなかったから、さほど重要視はしていないけれど・・>
<009>
<yes,008>
<僕と海、と夢さん、林ちゃん、そろそろホテルに戻ろうかと思ってるんだけど?>


ほどよく酔っているご機嫌な海の姉の夢がピュンマと腕を組み、可愛い年離れた弟の海にデジタルカメラを押し付けていた。


<了解。008はそのままホテルへ戻ってくれていい。明日、2人の見送りまで定時報告だけで十分だ。任せる>
<了解、009>
<んじゃ、オレもそろそろ空に移動するぜ。上から余計な虫が悪さしないか観てなきゃな。帰りは単独で邸へ直帰予定>


ジェットは遠目にその様子を観ながら、同級生たちと別れの挨拶を交わしつつ、会場出入り口へと足を動かした。ホール内を進む途中、ピュンマが夢と写真を取り終えて、照れ笑いをジェットに向けた。
ジェットは4人とは少し距離があるために、大きく手を振り、会場出口を指差して自分がホールを出る事だけを伝えた。


<僕はこのまま学院に残って予定通り明日の朝までここにいる。004、頃合いを観て003とホテルに戻ってくれ>
<断る>


004の即答に、00メンバー内の会話が止まる。
その中でただ一人、002だけが楽しそうな微笑みを浮かべ、別れを惜しむ同級生たちにむかって新しくアカウントを開いて作ったメールアドレスを教えつつ、ホールの外のロビーに置かれたモダンなデザインの長椅子に遠慮がちに腰を下ろしている003へと歩み寄った。


<・・・004?>
<残るなら、003がいた方がいいだろう。オレは007のサポートにまわる>


脳内に響く会話を時差なく受け止める2人。


「似合ってんじゃん、って、言ったっけ?」


ジェットが異国の少女の隣にどっかりと腰を下ろしたのをきっかけに、同級生たちはジェットから離れ、ホール内へと戻って行った。
数時間前にホールへと吸い込まれていた人の流れが、今は逆にホールから外へと向う流れをフランソワーズはジェットへは視線を打つことなく静かに、見つめている。
ジェットは制服の内ポケットから携帯電話を取り出し、時間を確認した。


デジタル表示が示した時間、10;13pm


「それ、お前らしいっていうか、・・・今までで一番似合ってると思うぜ」


制服の内ポケットに再び携帯電話をしまいながら、あと30分もすれば、学院内は関係者の人下だけになるだろうと頭に浮かべながら、フランソワーズに話しかけた。


「ありがとう」
「アルベルトの鋼鉄の鼻の下を伸ばさせたんだかんな、すげーな」


ジェットの言葉に、フランソワーズは口元だけで微笑んだ。

会場となっているホールから人が出て行く人波の中、ジェットの姿に気づいた学院生たちはにこやかに手を振ったり、日本風に頭を下げたり様々に、家族や友人たちに囲まれて星辰(せいしん)館を去って行く。それらに愛想よく答えながらジェットは通信を通してフランソワーズの口からではない声を聞いた。


<004、009をサポートしたいけれど、服装が・・・。当麻さんがいらっしゃらない報告を聴いたのが遅かったのは、言い訳にならないけれど・・着替えを用意していないの、ごめんなさい。・・・だから009の邪魔になるだけだわ>


呆れたように肩をすくめ、盛大なため息をつきながらジェットはフランソワーズの横顔を見る。
彼女の大きな瞳の目元は、化粧では隠しきれなかった色を載せたままだった。それは今夜の身支度までの時間、ずっと泣き続けたという証拠だ。
ホテルの部屋でフランソワーズが泣き止むのをずっと黙って見守っていたジェットだから、目元の色と腫れなぞ気にはしない。

ミッションの計画上、00メンバー全員で学院へ訪れなかった。
みな現地である学院内で人並みに紛れて顔を合わせ、脳波通信で連絡を取り合う中、フランソワーズの顔を観たメンバーはいったいどんな言葉をかけたのだろうか。ジェットは昨夜2人きりでいなくなり、結果的に”ハッピー・エンド”を結んだはずのフランソワーズの目の縁の腫れと朱色を、家族がどう感想を持ったのか、少しばかり気になった。


「よお、何にも起らねえって・・・そのままでいーじゃんかよ。そんな格好をしていて見つかるようなヘマを、009がすると思ってんのか?」


ジェットの声を聞きながら、フランソワーズは座っていた長椅子から立ち上がった。
立ち上がったフランソワーズを視線だけあげて観た、ジェット。

ほっそりとした肢体は春色に相応しい薄いコーラルピンク色。
肩がむき出しになったソリッドタイプのワンピースを着ている、フランソワーズの背がオレンジがかったロビーの照明に、鮮やかに栄えた。
柔らかく透き通るような薄いシフォンの布地が幾重にも重ねられたゆったりとしたデザインのワンピースは、ロウ・ウェストのカッティングにもかかわらず、フランソワーズが動けばフランソワーズの肢体に沿うように流れて彼女の躯のラインが美しく描かれている。


「まだ、その格好見せてないんだろ?」
「・・・会場のどこかで、私が出席していることを確認していると思うわ」


棒読みのような解答に顔を苦々しく歪め、フランソワーズの後を追うように立ち上がったジェットの視界の端に、交わした会話で名を口にはしなかった人物の姿を捉えた。


<006、005がホテルに到着したら、報告を頼む。004、007のサポートは明日からでいい。002?>
<悪ぃ。002、現在ホールの外003の隣!009と合流!>
<004、学院が完全に閉鎖されるまではいてくれ>
<・・・了解した>


00メンバーのリーダー、009は潜入捜査のために月見里学院生を装っていた。潜入捜査を終えて学院生でいる必要はなくなったが、様々なことが重なって未だに学院生を続けているために、ジェット、ピュンマと同じく指定の制服を着ている。

その制服に袖を通すのも、今夜と退寮の手続きのためにあと1回学院の門をくぐるときのみとなった。それは、ジェットも同じ。

プロム・パーティの会場となっているホールの出入り口からではなく、出入り口から出て左に伸びる、関係者以外立ち入り禁止となっている方角から、まっすぐに歩いてくる。
彼は夏のために使用者があまりいない手荷物受け付け口(クロックコート)の前を通り過ぎた。

ホールから出て来た人の波を縫い、ジェット、フランソワーズの前に立ったジョーは、フランソワーズとは視線を合わせることなくジェットに視線をむけた。
その不自然さに、ジェットはジョーにむかって舌打ちをつく。

仲間が合流した姿をピュンマは視界の端で捕らえながら、一緒にいる3人が仲間たちに気づく事がないように上手く流れにのせ、人の波でロビー側が見えないように誘導しながらホールを出て行った。


<008、これからタクシーを使ってホテルへ戻るね>
<了解>


通信で届いた報告に、短く答えたジョーは、そのまま通信の会話を繋げる感覚で言葉を口にした。


「ジェット、アルベルトが駄目なら、君がフランソワーズをホテルまで送っていってくれ。空から戻って来てくれたら、そのまま任務についても問題ないだろ?」






====22へとつづく






・ちょっと呟く・

次から次へと、・・・大変な2人です。


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