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Little by Little・23
(23)



「・・気分はどうかの?」


滞在先の主であるアイザック・ギルモアが穏やかに微笑みをその顔にのせて、ベッドに椅子をよせて篠原当麻のを診察していた。


「お早うございます、ギルモア先生・・。気分はいいのですが、正直ベッドの上にいることの方が辛くなってきました」


長くベッドの上で過ごしていたための全体的な気だるさは拭えないけれど。


「もう大丈夫じゃな・・・、どれ、今朝は一緒に朝飯を食べようかの?下のダイニングルームでな」
「はい・・でも、すぐにとは・・・その、シャワーとかもういいですよね?」


当麻は眠気を吹き払うかのように軽く利き手の甲で目元をこすった。


「気になるか?病人だったから仕方なかったろう。ジョーとアルベルトの看病では、その辺りまでは気をまわしてもらえんかったか?」
「・・・ぼくの気分の問題です。さっぱりしたいんで」
「かまわんが、疲れんようにさっとじゃぞ?よく髪を乾かすこと、そして、ベッドの上とは言わんが今日、明日中は邸内で大人しくしておくこと、よいね?」


確認するように当麻の顔を覗き込んだギルモアの、名を挙げたアルベルトとよく似たアイスブルーに少し緑がかった瞳にむかって当麻は頷いた。


「フランソワーズ」
「はい」
「・・・・」


同じ室内にいながら、当麻を診察している間フランソワーズは手に水のはいったグラスをのせたトレーを持って、じっと背をドアに貼付け、ギルモアからの指示を待っていた。
ギルモアが彼女を呼んだことで、やっとその足が当麻がいるベッドへと近づく。


「お早うございます、当麻さん」


フランソワーズはギルモアの斜め後ろに立ち、当麻にむかって微笑みながら言葉をかけた。


「・・お早う」


約1週間ぶりに当麻はフランソワーズをその、シナモンカラーの瞳に写す。
当麻が体調を崩し、夏風邪をこじらせて高熱に身をおかされている間の看病は、ギルモアが言ったようにジョーとアルベルト、そしてメンテナンスに入る前のジェロニモがこなした。


「お水と、こっちのお薬は・・・」
「朝食前に一錠飲んでおいてくれるかね?栄養剤のようなもんで、薬もこれで最後じゃな」


トレーを当麻へとグラスを受け取れる距離にまで移動させていたフランソワーズの手に合わせて腕を伸ばし、自分が良しとする距離を保った。
フランソワーズが取ろうとしている距離よりも遠くに線を引く。


「・・・・」


冷たすぎることもなく、自分の体温よりもひんやり冷えたグラスコップ1杯の水と、ラムネのような形の、味のない白い薬と一緒に喉に通した、当麻は、1/3ほど水を残して、それをまたトレーの上に置いた。
当麻が薬を飲み終えたのを見届けて、ギルモアが椅子から立ち上がった。


「じゃあ、儂は先に下におるでな」


フランソワーズも一緒に部屋を出て行くのだろう。と、予想して、当麻は何か彼女を呼び止める理由を探すが、頭にもこころにも何一つそれらしい文字が浮かんでこない。


「当麻さん、ダイニングでお待ちしてます」


フランソワーズはいつもと変わらないハズの笑顔で言葉を残し、当麻が予想した通りにギルモアと一緒に部屋から出て行った。


「・・・・うん」


ドアが閉められた音を聞いて、当麻は今、止まってしまっていた時間の流れを感じた。










####


バスタブが勢い良く熱い雨を弾き、当麻の体を伝いながれる泡をすべらせた。
使用しているゲストルームのユニットバスで、一週間ぶりのシャワーを浴びながら、わだかまっているものをすべて一緒に洗い流してしまいたかった。


「・・・・・なんなんだ、ろう・・」


ベッドに伏していた間の出来事も交えて、すべてが夢の出来事であったかのような感覚におちいる。



「・・あの、笑顔は・・・」


1週間以上寝込んだ当麻を渾身的に看病したのは、フランソワーズではなく月見里学院でルームメイトだった、島村ジョー、だ。そしてそんな彼を見兼ねて、アルベルト、ジェロニモが看病に参加した。


「・・・・フランが、・・それとも・・」


---・・・ぼく自身が・・・・・。







妄想とした意識の中で訊いた、いくつかの言葉が当麻の脳裏に甦る。


『彼は僕が看ます。・・・ああ、博士・・002のバイタル・チェックデータと術中の人工心臓をサポートする血液循環・・・』


『ジョー、オレが代わる。フランソワーズをここには近づけさせんから、心配するな・・・。地下のジェットにだけ集中しろ。お前さんが決めたことだろ?優先させるべきは一体何か、見えてないのか?』


『・・・・・フランソワーズの気持ちは、よくわかる、から・・』


『・・・人が幸せになるのに”条件”や”資格”、”許可”や”権利”なんてない。判断するのは”自分”のみ。それは愛も同じだ。覚えておけ。』




アイロンがかった半袖のシャツに袖を通しているときに、あやめ祭のためにホテル用にまとめていた荷物が、きちんと洗濯されてゲストルーム内のチェストに収まっていることに気がついた。

彼の持ち物が、あやめ祭が始まるまでの間に毎週末訪れていたときと同じようにゲストルーム内に納められている。
月見里学院の秋学期が始まるまでの間、ギルモア邸に当麻が滞在することを認めているように。








「よ!ぼっちゃん、具合はもういいのかい?」


久しぶりに与えられていたゲストルームから出て、ダイニングルームへと顔を出した当麻を笑顔で迎えたのは、ダイニングルームとキッチンを仕切るカウンターテーブルのチェアに座った、グレートだった。


「よかったアルヨ!さあさあ座ってね!!」


キッチンからカウンター越しに首だけが見える張大人も、同じように嬉しさいっぱいの笑顔で当麻のために朝食を準備する。


「みんなは・・どうしたんじゃ?」
「アルベルトはクラークんとこでさあ、ピュンマと海は病院で、とっくに朝食を済ませて出ましたよ!」


張大人から教えてもらったことを、さも自分が彼らを見送ったといわんばかりのグレートの物言いに、苦笑しながら張大人は彼に朝食の配膳を促した。


「博士、今朝はジョー、食べるアルか?」


先にダイニングテーブルについて、朝刊を読んでいたギルモアに促された当麻は、10人の大家族が余裕で食卓を囲むことができるテーブルの、ギルモアの隣の席についた。


「フランソワーズに呼びにいかせたわい」
「・・・と、噂をすれば」
「?」


リビングルームへと通じるドアとは違う、バスルームやイワンの部屋のある方角のドアから姿を現したフランソワーズに、ダイニングルームにいた者の視線が集まった。


「これはこれは、姫、今日もお美しいこと変わりなく・・我が輩っ」
「フランソワーズ、ジョーと一緒じゃないアルか?」


グレートの長台詞が始まる前、朝食をのせたトレーを彼に押し付けた張大人は大きな声でグレートの”我が輩”の後の言葉に自分の質問をかぶせた。


「おいおい、大人!我が輩の姫へ愛ある朝n」
「朝っぱらからうるさい男アルね!モテない証拠アル!」
「・・・今はちょっと手が離せない、ですって」


二人のやかましいやり取りの声に消されてしまうほどの音量で、フランソワーズはジョーの様子を報告した。


「アイヤー・・!いっつも”手が離せない”アルよ!いつ離せる日が来るアルか・・???」
「・・・まったく、みんなが揃うときには顔を出せと言っておるんじゃがなあ・・。何がそんなに面白いのか・・」
「いや、博士。博士がそれを言ったらおしまいなんじゃ・・・・?」


押し付けられたトレーを持って、ギルモアのそばに立ったグレートは、こっそりと当麻の様子をうかがった。


「・・ぼくが呼びにいきましょうか?」


そのグレートが、当麻の発言にトレーの上にある張大人特製薬膳エネルギーチャージ100%の熱々な朝粥をテーブルに落としそうになる。


「あっっっちっちちちのちいいいいいっ!!」
「アイヤイヤイヤー・・のヤー・・・気にしなくて良いアルよ!当麻くんは我が家のゲスト様様ね!そんなことしなくて良いあアルのことよ!!」


こぼしてはいないが、張大人はキッチンからテーブル用の布巾を持って飛び出して来た。


「そうそう!その通り!ぼっちゃんのお手を煩わせるようなコトではございませぬぞ!」
「そうアル!呼ぶなら”通信”でも十分ぶんぶんアルからね!」
「そうだ!通信!通信がある!そうアルなあ!なあ大人!」
「あるアル!そうアル、あるあるアルミ缶の上にあるみかんアル!」
「おお!!”アルミ缶とあるみかん”たーシャレてるねえ!大人!あんたのシャレおシャレだねえ!」
「それで、島村は彼の部屋ですか?」


彼の部屋かと聞いている自分であるが、フランソワーズがダイニングルームへと入って来たドアの方角には2階への階段はない。
当麻の言葉に慌てふためくグレートと張大人の二人は、同時にジョーへと脳波通信を飛ばす。


「儂の部屋じゃよ」


ギルモアはグレートにむかって「はよ食わせんか」と、無事であった朝食の配膳を催促しながら、にっこりと当麻に笑ってジョーのいる場所を教えた。


「ギルモア、先生の?」


しかし、それは嘘。


「そうじゃ。探しものをさせっていたんじゃよ・・・・。当麻くん、ジョーのことは気にせんで食べなさい」
「当麻さん」


いつの間にか、グレート、張大人2人の後ろに立ち、彼らの背中にそっと手を添えて落ち着くようにと仕草で伝えたフランソワーズが、当麻に向って声をかけた。




『・・・・・当麻さん・・、を、たくさん、傷つけたの・・、私のせいだわ・・・・私・・の、せい・・』




フランソワーズが呼んだ声のイントネーションが、呼び起こした、フレーズ。




「ジョーのことはお気になさらないで。・・いつものコトだもの」




自分の腕に点滴を打つジョーの背後に立ち、泣くのを必死で堪えた喉でひきつらせた声。
その声にむかって言いたかった言葉を思い出した。





---・・・君を苦しませたり悲しまたりするために・・好きって言ったんじゃ、・・・ない・・よ。











『ごめんなさい・・・当麻さん・・・・・・・ごめんなさい・・・、ごめんなさい・・・』




ギルモアから視線をフランソワーズへと移した当麻の耳に、熱と薬のせいで夢と現実を彷徨っていた間に聞いた、フランソワーズの言葉がこだまする。




『ごめんなさい・・・。ジョー・・・・・・・。私・・は・・・・・』






「彼は何か一つのことに集中し始めると、”それ”しか頭に入らない人だから・・」


フランソワーズはずっと微笑みをその顔に浮かべている。
ジョーにたいして『手のかかる弟』のような物言いをするフランソワーズに、大きく相づちを打つグレートは、トレーに載せていた粥のはいった器とレンゲをギルモアと当麻の前に置いた。




『私は、・・・・だから、・・・・・・許してくださらないと、』




「とっても美味しそうね!いい香り。・・大人、私の分もお願いできて?」



テーブルの上に置かれた朝食を見て嬉しそうに張大人に話しかけるフランソワーズに、当麻は微かに眉間をぴくりと動かし、疑問を投げかける。








---何を許せって・・・・・?


許すもなにも、ぼくはまだ変わらずにフランソワーズのことが好きなんだよ?






・・・・好きでいたいんだ。

















そんな顔・・・で、笑わないで。





####


<ジョーーーーーーーーッ!!ダイニングルームに今すぐに来るんだあっっ>
<大変アルっ!当麻くんがあんさんを呼びにいくと言てるのコトっ!!地下の存在がバレるアルーーー>


ジョーの通信機の音量が壊れそうな勢いの大音響。


「っ・・・」


002と005が横たわるベッドを前にして、彼らの改造データを読みふけっていたジョーは、突然の出来事に、座っていたいデスクチェアからひっくりかえりそうになった。


「・・・・いつになったら音量の”加減”がわかってくれるんだろう」


耳鳴りならぬ、頭鳴り。
キーンとハウリングしたスピーカーの気持ちになったジョーは額を押さえつつデスクチェアから立ち上がる。


<・・・了解。・・・だけど、あと・・さm>


「30分くらいでそっちへ向う」と言おうとしたけれど、再び大音量の通信で彼の意見は却下されたけれど、すぐにフランソワーズが、グレートと張大人を追い掛けるように通信をいれた。


<ジョー、・・・・・。心配しないで、先に朝食をいただいてるわね>
<・・・変に思われてもなんだし、今からそっちにいくよ>


フランソワーズへは、彼女の回線(チャンネル)に指定して言葉を返した。


<でも、さっき手が離せない・・って・・・・>
<・・・・俺と一緒にいるところ見られたくない?>
<!>
<彼は夏の間いるんだし、だろ?>
<・・・そんな風に考えたことなんてないわ、私・・>
<・・・・・ごめん、・・気にしてるのは、・・・キミじゃなくて俺だね>


彼女からの通信が返ってこないのを機に、ジョーはデスクチェアからたちあがった。




「・・・少しの間、ここを離れるから」


並んで眠る二人に向って言葉を口にするが、当然、こちらも返事は返ってこない。
ジョーはデスクチェアから立ち上がって、ぐっと両腕を伸ばして座りっぱなしだった躯を伸ばし、大きく行きを吐き出した。
それからメンテナンスルームを出て、キッチンの隣の収納室を改造して作った出入り口を使わないように通路を出ると、いつもとは違う方向へと歩き始めた。


<エントランス側(階段下にある地下階段)からそっちに行くよ>


一応確認のために、ダイニングルームにいるメンバーに通信を送った。


<駄目だ、ジョー!>
<?>
<博士の部屋で調べものしていることになってるアルヨ!>
<・・了解。博士の私室に直通のエレベーターを使う・・・>


ジョーはくるっと180度方向転換する。
通り過ぎたばかりのドア、ギルモアの書斎へと歩を戻した。





地下に設けたギルモアの書斎と、ギルモアが使用する寝室は直通できるように改造していた。”もしも”のときに備えて、すぐに非難できるようにである。
ギルモアの寝室を出ると、イワンの部屋となっているコモンルームに出る。そのイワンの部屋を共有するドアは、あと2つ。ジェロニモと張大人の部屋。

飾り窓にかけられている紗のカーテンは、眠っているイワンのために直射日光を避けている。
日が移動してもイワンの顔に日光が直接当たらないようにベッドの位置は今は使用されないジェロニモの部屋のドア寄りに少し、移動していた。


そのベビーベッドへと近づいたジョーは、夜の時間を堪能しているイワンを覗き込んだ。
すー、すー、と、聴こえる鼻づまりのない健やかな寝息の規則正しさが、ジョーの頬を緩めて、乱れたとは思っていない気持ちに平穏をもたらせる。

ふくふくとした白にピンク色に色づいた頬は、”美味しそう”と例えるフランソワーズの言葉を思い出させた。
ジョーは、触り心地の良い毛布から手が離れないような感じ。と、例えたいとこころ密かに思っていた。


爪が頬に触れてしまわないように気をつけながら、指の腹でそっと撫で、イワンに話しかける。


「・・・・朝のミルクはすませた?」















『・・・・ジョー・・・・聞いて欲しいことが、あるの・・』



あやめ祭3日目の夜。



『私は、・・・・だから、・・・当麻さんが、・・許してくださらないと、・・』



月見里学院からフランソワーズをホテルへと送り届ける道中に、ジョーはフランソワーズの中に居続ける人の話を聞いた。


その存在の大きさと、愛おしさと、恋しさ。
それを無意識に出会う人に重ね、取り返せない思い出を追い掛ける、未練。

重ねてしまった相手に、してはいけない態度で接していた。
そんな身勝手な心で、篠原当麻の好意を利用していた。







そんな醜い最低な自分は、俺に好きだと、想われていることに答えられる人間じゃない。



『当麻さんが、・・許してくださらないと、・・・私には、・・・・、この先の、ジェットが言うような、ことは、・・考えることは、何も、・・・ジョーに、・・・想われている・・資格なんて、好きだなんて、言う権利なんて、・・・ないわ』


フランソワーズの口から告げられた内容に、戸惑いや悲しみよりも、自分と”同じ”であることに、そちらの方にジョーは気持ちが大きく揺さぶられた。




---ジェロニモの言う通り、今なら・・少しはわかる・・。誰かを好きになっても良い、悪い、とか、そういうのに、”資格”や”権利”なんて・・・いらないってこと・・・。でも、今のフランソワーズの気持ちは・・すごくよく・・・わかるから。



フランソワーズが胸に落としている影の理由と、彼女がそう考えてしまう気持ちを、ジョーは深く自分のことのように理解できた。
ジョー自身、フランソワーズを好きだと言う”資格”なんてない。と、思い込んでいたから。そして、今までの彼の人生に様々な影を落としていた理由の1つでもある。




---今まで通り、”家族”で”仲間”・・・で、・・か。






ベース(サイボーグ)は変わる事は、永遠にない。自分たち。
それなら、これからの未来(さき)は、永遠に、このまま・・・?










それは、自分とフランソワーズにとって良いこと?悪いこと?












正直に、ジェットに指摘されるまで、気持ちを伝えたら、それで終わりだと単純に思っていた。
そこから先のことなんて、想像もしていなかった。

なぜなら、今手に入れた結果など、考えていなかったから。








フランソワーズに抱く気持ちを伝えて、受け取ってもらえて。
しかも、彼女も俺が抱いていた気持ちと同じ気持ちで、俺を想っていてくれたことが、わかった。今。




映画や小説のようにthe endで幸せの中で幕を閉じ、人生が終わるわけじゃない。ことに、ジェットに指摘されて気づいた間抜けさと、形容しがたい高揚感に支配されたが、それは一瞬で吹き消さなければならない状況となってしまった。




「篠原が・・許す・・・・・、か・・」


ベビーベッドの柵に腕を載せて顎をのせたジョーは、ふにん、ふにん。とイワンの頬をつついた。



---篠原が許す、許さないの問題じゃなく、フランソワーズ自身が・・・自分を許さないと・・。




「キミのmamaはみんなにはとっても優しい人なのに、自分に厳しすぎて真面目で・・ストイックすぎるんだよ・・・」


柔らかく弾力のある頬の跳ね返しに、今度は肉厚のたっぷりある頬の厚みを計るように軽く、むにん。とつまんだ。




<<<似た者同士ッテコトダネ>>>




いやいやをするように、顔を軽く左右に揺すったイワンが、うーっと声出すと、上半身を右側にねじった。


「・・・初めて見た」


腰を鳴らすようなストレッチをしている状態から、ぼってりと、寝返りをうったイワンに、ジョーはちょっぴり感動した。


「つかまり立ちが出来たんだから、・・・寝返りはできて当たり前・・だね」


眼の前にあるまんまるい後頭部。
いつもはたくさんの空気を含んでふさふさの髪が、長く枕におされていたせい頭の形にそってぺったりはりついる。


「・・・つむじは左回りなんだ」


枕にべったりと顔を突っ伏しているイワンのつむじを確認しながら、ジョーはそっとイワンのおでこに手を差し入れて、彼の枕に埋まっていた顔を自分の方へと方向を変えさせる。
息苦しくないならそのままにしておいた方がいいのかも、と思いつつも、大丈夫だとは思うが見ている方にはあまり良い寝相とはいえなかったからだ。


「本当に、やわらかいんだ・・」


頭の重さにぶにゅりと片頬が枕に押しつぶされて、イワンのぶっっくりとした唇がおもしろいように歪んだ。


「変な顔・・っf・・あはは・・・・イワンのこんな顔、貴重すぎる」


加速装置の使用で壊しまい、新しく買い直した(改良はまだしていない)携帯電話をジーンズの尻ポケットに入れていたと記憶していたため、手をそちらへとまわした。


「・・・・あれ?」


携帯電話らしい感触がポケットのどこにもなく、ベビーベッドに預けていた躯をのばして、自分の腰回り何度か確認した。


「・・どこに置いたんだろ?」


ジョーはちらりとベビーベッドの中にいるイワンへと視線を投げる。
眠りが深い様子で、当分は同じ姿勢だろうと判断し、その場からさっと音もなく離れた。


「お!やーっとおいでなすったな!我らがリーダー殿!」


開けられたままのドアから、姿を現したジョーにいち早く声をかけたのは、グレート。


「・・・お早う」


ダイニングテーブルにむかって軽く片手を上げて朝の挨拶をするが、その足は止まることなくすたすたと、ダイニングルームを通り過ぎていく。


「え、お、おい、・・・おーいジョー、ジョーぉぉぉ?ジョーさんやーい・・ダイニングルームはここだぜーえい?」
「アイヤー・・・朝食を食べに来たんじゃないアルかー?」


リビングルルームへと続くドアにまっすぐに向うジョーを、テーブルに着いている全員の首が彼にならって移動する。


「今、手が離せないからちょっと待って」


リビングルームへと消えた、ジョーに向ってグレートはレンゲに掬った最後の一口をばくりと食べた。


「ジョーだから、まあ・・仕方ないこったで」
「寄り道ばっかりアルよ、・・ここにくるまでに朝食以外で興味惹く何かを見つけたアルな・・・」
「朝食のコトはすっかり頭から抜け落ちとるんじゃろうて・・・。ジョーは人間の三大欲がちと欠けた男じゃからなあ」


テーブルに着いていた大人が立ち上がって、食べ終えた食器を片付け始めた。


<おい、聞いたか大人>
<人間の三大欲いうたら、あんさん・・・睡眠ネ>


「珈琲か、(冷温)紅茶、(冷温)ジャスミン茶、どれがいいアルか?」


フランソワーズがさっとキッチンへと足を向け、トレーを持って戻って来ると張大人が重ねた食器をのせて、またキッチンへと入って行く。


<欠けてるなあ>
<食欲は?>


「儂は、そうじゃなあ冷たいのでジャスミン茶をもらおうかの」


<見事に欠けてる、食べるときは食べるがなあ・・>
<そいで、最後は・・・>


ギルモアが自分の隣に座っている当麻に尋ねるように視線を投げかけた。


<それは我が輩、今後にこうご期待!>
<ワタシはノーコメントにさせてネ・・・>


「ぼくは紅茶を、お願いします・・あの、ぼく手伝います」
「病み上がりのゲストさんをこき使うなんてとんでもないアルよ!手はここに十分あるから、ゆっくりするヨロシ!」


張大人は隣で朝食で満腹になった腹をさすっていたグレートの手首を掴み、「役立たずだけれど、しっかり教育中あるよ!」と挙手させた・・・ところで、ジョーが再びダイニングルームへと戻って来た。


「・・・・おかしいな」


手には、ピュンマの(部屋にあった)デジタルカメラ。
首をひねりながら、またすたすたと歩いてダイニングルームを通り過ぎて行く。


キッチンから水音が聞こえ始めて、、フランソワーズが食器洗いをしだしたことがわかった。
その音に、ジョーは反応してくるりと躯を方向転換させると、キッチンカウンター越しからフランソワーズに尋ねた。


「・・・見当たらないんだ」


ざーっと流れる音に、かちゃかちゃと食器が触れ合う音に紛れたジョーの質問。


「書庫じゃないかしら?」


食器を洗う手は止めずに、首だけをジョーの方へと傾けてささやくように答えた。


「あ。ああ・・。そうかも・・・」


グレートが調べたあやめ祭3日目のプロムパーティを欠席した、篠原当麻以外のもう1人の学生、六間口護(ろっけんぐち まもる)の報告をを受けとったのが携帯電話だったことを思いだした。


「ジョー?」


今度は、フランソワーズがジョーの名前だけで尋ねた。


「すぐ戻る、よ」


彼女の質問に正確に答えて、また、くるりと躯を方向転換させると、ダイニングルームから出て行った。


「・・・も少し周りにも理解できる会話をせんか?」


二人の主語のない会話に、意味がわからず、ぽかーん。と口を開けているグレート。
”それらしい”と言う意味に”脳波通信”の多様で、”ない”人間には通じないことに非難を込めたギルモア。
張大人は、グレートの隣から、いつの間にかキッチン内へと移動していて、食器洗いをしているフランソワーズの横でぬっと腕を差し出して「ちょっとごめんアルネ」とテーブル用の布巾を濡らして絞り、ひょこひょことまたダイニングテーブルに戻って来て言った。


「いつものことアルが、ジョーは本当にマイペースね。寮では当麻くんにたくさん、たくさん迷惑をかけたんじゃないアルか?ワンちゃんっぽくみえてジョー本来の気質は猫ちゃんアルから・・・」


手際良くテーブルを拭く大人は、当麻の眼に今の2人がどのように映り、感じたのか様子を探る。
それは、彼を思ってのことだ。


「迷惑なんて・・・、島村は今までのどのルームメイトよりも・・一緒に・・・居て、」


当麻は文を途中で切り、言葉をかえた。


「・・・・・いなかったですし、・・色々忙しそうで、ほとんど1人のときと変わらなかったですから」








今までのどのルームメイトよりも・・一緒に・・・居て、居心地よかった。























振り返ってみれば、フランソワーズと一緒に居るときの心地よさに似た、空気だった。


















####


ギルモアは張大人の用意したジャスミン茶と一緒に、所用があるからとダイニングルームを後にした。
グレートは当麻の体調を気遣いながら、彼をリビングルームに誘った。


ジョーはフランソワーズに「すぐ戻る」と言いながら、結局はダイニングルームへとは戻ってこなく、昼ちょっと前にようやく自分の腹の空腹感に耐えかねたように、キッチンにひょっこりと顔を出して1人朝の残りの粥を温めていた。
ちょうどそのとき、昼食の用意をしようとキッチンへとやってきた張大人に見つかり、「お昼が入らないアル!」と嘆かれてしまった。


「みんなが食べるときに一緒に食べないアルから駄目駄目ヨ!」
「・・・つい」
「ジョーの”ついうっかり”は、可愛くないアル!」
「可愛いとかそういうので、判断するのはどかと思うけど・・ごめん、大人」


ぷんぷん文句を言うが、残り粥だけじゃ足りないだろうと、手早くそれに合うものを作り始める、張大人。


「いったい何してたアルか?」
「・・・携帯電話が見当たらなくて、・・ピュンマのデジカメを借りてイワンの変な顔の写真を撮ったんだ。・・・それから携帯電話を探しに(地下の)書庫へ行って、見つけて、ピュンマにカメラを借りるために部屋に入ったと連絡を入れた。そのままそこで、前回のオーバーホールの記録(ギルモアの走り書きメモ)を見つけたときに、ああ、そういえば朝ご飯食べてなかったなって気づいて、今ここにいるんだけど・・・」


ジョーが午前中の行動を話している間に、彼の朝昼ご飯ができあがった。


「地下の2人の進み具合はどうアル?」


ジョーはキッチンを出て、ダイニングテーブルではなくキッチンカウンター・テーブルののチェアに座った。
朝、そこにグレートが座っていた場所だ。


「日本を離れるからね。細部にわたってチェックをいれてる・・・・。いただきます」


座った途端にレンゲを掴み、ぱくぱくと勢い良く食べ始めた。


「ジェロニモは(邸に引っ越して来る前)ドルフィン号で軽く全身をみてるから、もしかしたらジェットよりジェロニモを先にして取りかかるかもしれない。ジェットは、・・怪我が多い分」
「慌てないで食べるアル」
「ん・・」


キッチンから出た張大人はカウンター・テーブルのジョーの隣に腰を下ろした。


「パーツが・・第一世代ということ考慮しても、ひどく新旧入れ乱れていて、応急処置のままの部分とか出て来たり・・・。・・・・このお粥、すごくおいしいよ」
「アイヤー・・・、応急処置だけして、そのまま問題ないからと博士にお願いせず放っておいたアルね!あのトリは!・・・山車は鶏ガラ使ってるアルヨ、今度はジェットで作るアル」
「食べたくないよ、そんなの・・腹壊す」


ぷりぷりと怒る超大人に苦笑しながら、ジョーは食べる事と報告を続けた。


「・・・それでさ、滅多に全身のチェックをさせないから、・・・話してるだけで、疲れてくるよ・・・。今のぼくはジェットのメンテナンスで役立ちそうな事はないな」
「アイヤー・・・予定より遅れそうアルか」
「確実に。だからジェロニモには悪いけど、アメリカ行きは9月まで伸ばしてもらうよ・・8月の頭にって聞いていたけれど、ジェットを何回かに分けて見ないと・・・今、博士がジェットの中を見ながらそのスケジュールを考えてる」
「アルベルトが先になるかもネ」
「それも考えてる。ジェロニモのメンテナンスに入る前、アルベルトをスキャニングすると思う。今日、彼が返って来たら、教えてくれるかな?・・・・あ、そうだ、」


皿と口の間を忙しなく往復していたジョーの手が、ぴたり。と、止まった。


「そうだ。張大人に話があったんだ」
「ワタシにあるか?」
「うん」


ジョーは手に持っていたレンゲを置き、隣に座る張大人へと躯の向きを変えた。


「”マクスウェルの悪魔”のゲーム参加者のサーチを頼んだときに、張大人が、見つけてきた閉鎖されてる中華料理店についてなんだけど」
「アイヤ!そんなことは気にする事ないアルヨ、別に今すぐって話しじゃないアルから、放っておいていいネ」


張大人は苦笑いを浮かべながら両手を左右に”バイバイ”するように振ってみせた。


「次にイワンが目覚めたら、書類に必要な細工をしてもらってそれで完成する。・・あとは代理人(弁護士)をグレートに変身してもらってか、コズミ博士に紹介していただいてか、を決めて欲しいんだ」


ジョーの言葉にびっくりしながら、張大人は、会話の先を促した。


「そ、それは・・・・・どういう風に、違うアルか?」
「・・・僕らが管理することになると、”永遠”にその土地は誰の手にも渡らない。一般社会の管理会社と弁護士に頼むと、”もしも”のときの条件に当てはまった場合、その土地や店などは、他人の手に渡るという形になる」


”もしも”のとき。





再び戦地へと赴かなければならない日を指している。




「・・・・・・張大人次第だから、今すぐってわけじゃないよ。だから、よく考えて決めて欲しい」
「・・・」


張大人は首だけをジョーへと向けて、彼の話を聞いていた。
ちゃんと彼と真正面で話すべきないようだけれど、興奮と驚き、そして胸の中で拭いきれない不安に、躯が固まってどうにも動かすことができなかった。


「・・店と土地の管理を、僕たちの手でこの邸と同じように管理するか、しないか、と」


ジョーは固まっているる表情の張大人ににっこりと微笑み、再び躯をカウンターテーブルと平行になるように戻し、レンゲではなく、箸を手にして張大人がぱぱっと作ってくれたおかずを食べ始めた。


「・・・・ちょっと前に土地と店を覗いたんだけど、放置されてけっこう長いね・・・・場所も商店街の中と言う訳でもなく、繁華街から外れているわけじゃないれど、落ち着いてるし、雰囲気もよかったよ。周りも問題なさそうだね、駐車場も月極があったし、駅からもそう遠くない。・・邸から往復1時間超えるのは気になるけれど、でもそれくらいなら、僕らには問題にならないし」
「み、観に行ったアルか?!」


いつの間に!と、張大人のつぶらな眼が精一杯見開かれた。


「・・・・・ちゃんと見たわけじゃないよ、事のついでみたいな感じだったし・・。契約前には、みんなで観に行きたいと思ってるんだ、すごく楽しみにしてる」
「・・・・・・・ジョー・・」
「それで、老朽化が酷いから一度建物を潰して更地にした方がいいみたいだね、水まわりも店としてはイマイチだったし・・・。一から建てるとなると建築会社も慎重に選ばないと。いくつかリサーチしてブックを作ったから、眼を通してみて。業者へのコンタクトは僕が取るから」
「・・・リサーチに、ブックまで・・・?!」
「ピュンマが手伝ってくれたんだ」
「デザインとか色々あるんだろうし、キッチン周りとかは張大人だってこだわりたいだろ?だから・・着工は早くても来年になるね・・・・急いで問題が出ても困るし、その辺は全部、張大人のペースでいこう。ごちそうさま」


ジョーは自分がおもっている以上に空腹だったようで、話している間にあっと言う間にぺろりと綺麗に食べ終えてしまった自分にたいして少しだけ鼻で笑った。


「お店ができたら、俺が・・一番目のお客になるって予約入れておくよ。忘れないでね、大人」


カンターテーブルのチェアから降りて、食べ終えた食器を手に、キッチンへと入り、自分の使った分の皿を洗い始めたジョーを、張大人は黙って見守った。


ぐずぐずとした感触が喉奥から始まって鼻がむずがゆくくすぐったくなる。
目頭が、ライターであぶられたようにどんどん熱くなっていく。どうしようもなく震え出すこころに反応する躯。






「善は急げって言うけど、慌てなくていいから。張大人が決めるまでの間は、あの土地は誰の手にも渡らない事だけ、009の僕が保証する」


皿をステンレスの水切り篭に置き終えて、水を止めると、濡れた手をぱっぱと振って水気を飛ばしながら、キッチンから出て行くジョーの姿が、滲んで見えない。


「じゃ、地下にいるから」


キッチンから出て来たジョーは、チェアに座ったままの張大人の肩に ぽん。と、手をおいた、そのとき。


「じょっおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっワタシはあんさんに一生ついていくアルよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!あんさんはワタシになくてはならんお人アルゥウウウウウウ」
「うわああああっ!?」


どおおん!と、全身で渾身の思いをこめてジョーに飛びついた。
予想できなかった張大人の行動とその勢いに、ジョーは思いきりキッチンの出入り口隣の収納室(地下へと続くドア)に背中と後頭部を打ち付けた。

その衝撃にたしいて、地下への侵入者有りと判断したセキュリティが”アラーム”を鳴り響かせた









====24へと続く。









・ちょっと呟く・


今回は96でした(おいおい)
それにしても、9はみなさんからタックルされまくってますね(笑)
すでに、8(一番飛びついてるイメージが)と6は終えてます。
全員に愛のタックルされる日も近いですね。


次は誰にタックルさせましょう?


それより、9が大人になってる・・・。
吹っ切れたか?この女は俺のもんだからな!はは~ん♪で大船に乗っているのか?!
・・・・・船に斧でばっきーん、穴を!!
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