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PRENDRE UN CANON 4



時計の秒針の音が、かちり、こちりと鳴るのを無意識に数えてしまう。 ふとした瞬間に耳に届くその音を振り払おうとするけれど、振り払うどころか気づけば時計へと視線を走らせていた。


誰よりも早く起きて朝食の支度を整え、イブの夜に企画されているパーティのためのごちそうの下準備。に、加えて日常のこまごまとした、いつもの家事仕事。

邸にいる人数が増えれば、自然と家事もいつもよりも増えて。
食器洗いも選択ものも、屑篭のゴミを集めるのも、なにもかもいつもの倍に時間がかかる。何もイブの今日に限ってすることでもなく、1日2日くらい先延ばしにしても良さそうなものだけれど、躯を動かしていないとこころが落ち着かなかった。

家事の合間合間に通り過ぎるリビングルームには、フランソワーズが飾り付けを途中で放棄してしまったツリーがあった。仲間たちの手で去年と同じく枝にオーナメントを飾り終えていたのを観ると、ほっと安堵の息を吐き出す。
けれど、ちらっとそちらに視線をむけるばかりで、ツリー全体をじっくりと眺めるようなことしない。ぱたぱたとリビングルームを通りるだけで足を止めることはなかった。



午後のお茶の時間も、普段はリビングルームでこなすことを今日はすべてダイニングルームで何かの作業の傍らですませた。


「聴こえんなあ」
「グレート?」


リビングルームを通り過ぎて行くフランソワーズに視線でおいかけたグレートが、首を傾げた。


「ほれ、あのチリンちりん鳴る鈴が聴こえんなあと・・・」
「え?」
「フランソワーズが携帯電話につけているアクセサリーだ。」
「ああ!」
「聴こえなかった。」
「携帯電話を持ち歩いてないってこったなあ、それじゃあ」
「いいんじゃない?約束のクリスマスだしさ、今日か明日には帰って来るだろうし」
「けどなあ、今着いたよーとか、帰るからねーとか連絡がくるかもしれんだろう、なあ?」


昨日は久しぶりに我を忘れて童心に還り、外観のイルミネーションの飾りつけに燃えた。その反動からか、今日はまったりと、ゆるやかな時間の流れとクリスマスムードを満喫しているグレート、ピュンマ、ジェロニモ。
イルミネーション計画を昨日一昨日の夕方には完成させたので、あとは点灯を待つばかり。

張大人はずっとキッチンで奮闘中。
ギルモア博士にはクリスマスなど関係なく、いつもと変わらずに地下で研究を続けている。夜の時間のイワンは、ニューイヤーの前にならないと起きてこない。今も3人と一緒にリビングルームにあるベビーベッドですやすやと眠っている。

その眠っているイワンを、クーファンにうつしてツリーの下に置き、1人で聖劇、受胎告知をするぞ。と宣言したグレートは誰からも相手にされず、ちょっと哀しい気持ちで昼食をすませたのは、2時間ほど前。
アルベルトは朝食の後、姿が見えず、それはジェットも同じ。


「帰るっていう連絡は、入れるんだ?」
「いや、突然。気がついたら、ああ、ジョーがいるぞ。とは思うが、普通に夕食を食ってたり、リビングルームで寝ていたり・・・で、旅から帰って来たような感触がまったくなくてな。あれ?旅に出ていたんだよなあ?もしかしてこいつはずっと邸にいたのか?って思っちまうくらいの、リラックスぶりで。旅先の匂いとか雰囲気なんてもんがないんだ、おもしろいくらいに。そういやあ・・・一度も”お帰りなさい”とか、”どこに行ってたのよっ!バカっ!”とかそういうのも、聞いた事ないなあ」
「フランソワーズにだけ連絡してた、とか」
「携帯電話を持たせた意味が、わかんらないくらいに、連絡はない。」
「ジェロニモ、わかんないよ?」
「それは、ない。・・・”そういうのって恥ずかしいから”と、言っていた。今帰ります。と、報告するのは、自分を待っていてくれ、出迎えてくれと押し付けてる感じがするらしい」
「ほお」
「へえ・・・、でもジェロニモ、なんで知ってるんだい?」
「注意したからだ。こまめに連絡できないなら、せても帰ってくるその日くらい連絡を入れろ、と言った。」
「なに!」
「そうなの?」
「ああ。」
「で、その効果は?」
「全くない」
「「だろうなあ」」
「今回も、ないままだろうな。」
「帰って来るのかあ?」
「約束してるって、言ってたよねえ、クリスマス一緒に・・・って、フランソワーズ」
「前夜祭の今日か、それともご生誕の日か」


3人の視線が自然とリビングルームの飾り棚にあるアナログ時計にへとのびた。
時間はかちり、こちりと規則正しく過ぎて行く。



タイムスリップしたかのように、あっという間に日が沈み、各部屋のカーテンが幕を閉じはじめたころになって、イルミネーションの点灯をいつするのか?と言う話題になるころ、外出していたアルベルトとジェットが一緒に帰宅。
手みやげに、大量の酒、酒、酒。


それらをキッチンへと運びながら、今回の総てを仕切ったピュンマが言った。


「25日0時ぴったりにねっ!外でお祝いの乾杯をしようっ」







いつもの時間に、いつもとは違うクリスマス・イヴのための料理が、ダイニングルームのテーブルいっぱいいっぱいに並びはじめる。

リビングルームのツリーの下には大なり小なり様々に賑やかで派手なラッピングを施したプレゼントが、山となって積まれており、そのプレゼントをさらに派手にするのは、ジェットが買ってきた使用されなかった電球たち。ツリーとプレゼントを取り囲むように配置されて、照明を落としたリビングルームで、チカチカと元気よく、今日と言う日はなんて素敵な日なんだろう!と、光り続けていた。



「じゃあ、乾杯は0時までおあずけってことアルね」



ダイニングルームのテーブルには、9人分のディナープレートが用意されて、パーティが始まる。

イワンのクーファンにも、チカチカと光る派手な電球が取り付けられ、ダイニングルームに飾ったリースと一緒に並べて写真を撮った。
手編みの赤いとんがり帽子にふわふわのモヘアボールがついたのを被せるのも、忘れない。ついでに来年の干支だとシマシマの寅柄パンツ(おむつカバーパンツ)を着せられておもちゃにされつつ。次々に運ばれる料理に、シャンパンに、ワイン、ビールと、美味しい料理のせいにして酒が進む、進む。

アルベルトが用意したレコードプレイヤーに彼が選んだオーディオ機器セットがしっかり用意されていたのを観て、今の世の中はこれだ!と、ジェットは最新ミニマムサイズのipodとスピーカーで対抗し、一時期180度ジャンルがことなるクリスマス・ソングが流れ乱れた。


「ジェット、空を諦めてお前の足の噴射口の使い道がなくなったら、そのスピーカーを足裏に埋めたらどうだ?・・ジェロニモ、チキンをとってくれないか?」
「おお!人間スピーカー!白より赤はどこいった?なっもう空けてしまったのかいっ?!張大人、赤が足りないっ」
「そっちのマッシュポテト、まわして!それでさ足裏のスピーカーって・・・需要あるの?」
「ピュンマ、クランベリーとクスクスのサラダをこっちに、・・・。なんじゃ、それくらいならわざわざ噴射口をふさがんでも、つけてやるぞ?」
「あいあい~。出来立てガーリック・パンに、赤!チーズは足りてるアルか?」
「サラダボール空いたのね、大人、アスパラガスのを出して来ていいかしら?」
「お願いネ!」
「前から思ってたんだけさ、僕。サンタクロースの服って色のせいもあるかもしれないけれど、防護服っぽいよね?」
「そういやあ、そうだなあ」
「けど、何か足りない。オレ、まだ鮪のタルタール食べてない。」
「今日さ、街でおねーちゃんたちが着てたぜ!003の防護服の裾に白いふわふわしたやつがあれば、」
「イワンの赤のとんがり帽子は必需品だよね?ジェロニモ、お皿かして」
「それもいいけど、ズボンなし!これっきゃないだろっ!!なま足!黒ブーツっ」
「・・・マニアックだな」




「「「「「・・・(なま足、妄想中)」」」」」



「・・・色を変える時期がきたかのお」
「博士、色よりデザインを・・・」
「どうじゃ、手始めに来年の干支の’寅柄の模様にマフラーをかえるのは!」


ダイニングルームとキッチンを隔てるカウンターの上におかれた、デジタル時計が1分ごとに数字をかえていく。楽しい時間は確実に過ぎていく。


「携帯電話、持ってないのアルか?」
「え?」


キッチンに立ったフランソワーズを追い掛けるようにやってきて張大人は、冷蔵庫のドアを空けながら、他ずれた。


「鈴の音が、・・・聞こえないアルからなんだか寂しいネ。今日だからこそいっぱい鳴らさないといけない思うのネ」
「あ・・。ふふ、持っていても・・・連絡がないのだから。それに・・よく考えたら、別に持ち歩かなくてもメールが届けばどこにいても”聴こえる”のよ、私」
「・・・」
「でも、そうね。・・・クリスマスに鈴の音は、ね?」


みんながこころの中で描いていた?クゥエッション・マークに勇気を持って尋ねた、張大人の言葉に笑って答えたフランソワーズは、ジングルベルをハミングしながら、「部屋に行ってくるわね」と言い、パーティが続くダイニングルームを離れた。

プレゼントを護るようににチカチカと光る派手な電飾にふっと微笑み、通り過ぎる。
リビングルームを抜けると、少し温度が下がった、エントランスホールに出る。ドアをくぐった右手に二階への階段があり、見上げれば、吹き抜けの作りのためにフランソワーズが使う部屋のドアが見える作りだった。


「?」


最後に部屋を出たとき、ドアをきっちりと閉めたはず。フランソワーズはその時の自分の動きを脳裏に走らると同時に、見上げた自室のドアが、壁との間に黒い線を引いていることに、神経を尖らせた。

003が人の気配のない部屋の隙間から、ちりりん、と鈴の音がかすかにこぼれたのを、聞き逃さない。





---侵入者!?



眼と耳が、一瞬にして自室へとフォーカスされる。
ばつん。と、ギルモア邸が何の前触れもなく、闇に落ちた。







「何事だっ!」





「005っ!」


「博士、イワンはまかせろ。」

「奇襲かっ」

「地下へ急げっ002っオレと来いっ!」
「わかってるっ」

「003は部屋ネっ」










瞬く間も与えずに、サイボーグ戦士が戦闘態勢に入る。












「うわーっっ!すごいなあっっ今年はスペシャルだね!!」






興奮しきった感嘆の声が部屋奥のベランダから、003の耳に響く。


「ジョーっ!?」


003の驚きにひきつった叫び声が、ダイニングルームを満たした戦闘態勢の00メンバーたちへと届くと、おうむ返しに一同、同じ名前を一斉に口にした。


「「「「「「「「ジョーっ?!」」」」」」」


暗闇の中、我先にと走り出した00メンバーたち。しかし、ジェロニモは、その闇の中でギルモア博士が怪我をしないように気を配り、イワンと一緒に抱きかかえた状態で、メンバーたちをゆっくりと追いかけた。


「ジョーはどこだっ」
「外・・・」

一番に飛び出して来たジェットに声をかけられて反射的に答えた。
呆然と階段下で自室を見上げているフランソワーズを置いて、みなが外へと飛び出していく。
先頭を切って飛び出したジェットは、すぐに海側方面からの光に気がつき、みんなをそちらへと導いた。



「うおおおおおおおっすげっ」
「おおおっ美しいっ!さすがだなあっピュンマ!」
「なんでえええええええええええええええええええええええええっっ?!なんでっ???!!!」
「デモの3Dより迫力満点っ!大成功だなっオレのアイデアもなかなかのもんだろ?」
すごいっアルっすっごいアルっ!!うっひょーーーーっ」
「ジェット、屋根のセクション1-bから降りている、47番目と48番目の幅が他に比べて広すぎる、直せ」


ピュンマが宣言した点灯時間まで、まだ1時間以上もあるにも関わらず、燦々と輝く”星降る聖夜に願いよ届けっ!愛と平和(とジョーが戻って来る)を祈る、00ズ製作・イルミネーション”。




「あ!」





タイトル通り、ジョーがイルミネーションの点灯とともに、ギルモア邸に戻って来た。


「メリークリスマス!すごいね、そっちからはどお?すぐ下に降りるよっ」


フランソワーズの部屋に通じるバルコニーで、グレートが買った光ファイバー・ツリーの珍しそうに眺めているジョーが、見下ろす仲間たちにむかって、恥ずかしげに小さく手を振った。


「なにやってんだよっジョーっ点灯は25日0時きっかりって決めてたんだよおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「そうなの?」


ピュンマが悔しさを力一杯、叫びにかえる。が、ジョーにはその悔しさがイマイチ通じてはいない。


「なんでフランソワーズの部屋にいるんだよっジョーっ!」
「総てのケーブルがここに集まってたから、点灯用のスイッチがあるだろうなーって、それだけだよっ!このツリーっすごくいいねっ今流行の光ファイバーってやつ?」


バルコニーの手すりに近づき、身を乗り出して仲間たちの声に答える。


「我が輩からのっ姫へのプレゼントだっジョー」
「いいなあ、これ!どこで買ったんだい?」
「それよりっいつ戻って来たアルかーっ?」
「さっきだよ!タクシーが捕まらなくて駅から歩いてきたんだ。ホリデーはこういうとき不便だねっ」
「とにかくっ降りて来い!」
「わかったよ!待ってて」


ジョーと仲間たちの声を聞きながらジェロニモが玄関を抜けたとき、表に投げ出された見覚えのあるスーツケースと、スポーツバッグ。そして、帰りにデパートメントに寄ったのか、店名の入ったショッピングバックが3つが、ギルモア博士の目にとまった。


「やれやれ」


ギルモア博士はジェロニモの腕から降ろされながら、ふっと微笑んだ。


「やっと全員揃ったな」
「はい。」
「ジェロニモ、イワンをこっちへ・・・。ジョーの荷物を邸の中に入れてあげてくれんか」
「了解した。」
「そして、固まっとるフランソワーズを、」


ジェロニモはイワンをギルモア博士に抱き渡しながら、それは断る。と、首を左右に振り拒否した。


「それはジョーにまかせておいたら良い、博士」






仲間たちと楽しげに会話を交わすジョーは、邸を出て行く前と何一つ変わったところなどなかった。


「・・・j・・ぉ」


今、フランソーワズの眼も耳も、彼だけをフォーカスしていた。
バルコニーの手すりに巻き付けられている電飾を避けながら、階下にいる仲間たちへと身を乗り出す、その後ろ姿。クセのある跳ね方をした髪の色が、白い電飾に色が金色っぽくみえた。


彼がぱっと、ドアの方へと振り返る。
満面の笑みに、久しぶりに会う仲間にたいして少し照れた感じの目元と頬の高さが、とても彼らしい。


「あれ?・・・フランソワーズは・・・???」


再び、確認するように手すりへと上半身を捻って階下を見下ろしたが、そこに彼女の姿を見つけることができず、バルコニーから素早く部屋に戻った。
点灯と同時にギルモア邸内の電源がすべてoffになるように細工されていたらしく、邸内は真っ暗な闇におおわれていたけれど、不自由することなく闇の中をすたすたと問題なく歩いていく。
フランソワーズの部屋を出てドアを閉めると、乾燥した空気のせいか、力を入れて閉めたわけでもないのに妙に大きな音を立てた。
その大きな音に、階段下にいたフランソワーズはびくん!と躯を縦に跳ねさせると、がくがくと膝が笑いはじめた。

見上げたままの首が、廊下を歩き階段まで進んだ彼を追うように動く。
自分の眼と耳の性能には100%の自信があるものの、今はまったく信じられなかった。けれど、ジョーの口から自分の名前が出てきたのを聞き、彼は幻ではないのかもしれないと、放心するこころが呟き、瞬きを1つ。


乾燥した空気のせいで、とても痛かった。











「フランソワーズ?・・なんだ、そこにいたんだ」



吹き抜けの明かり取りのための窓から、海側の外観を飾るライトの光をうけて、霧のような白い光の膜を、薄いサテンの生地をたらすように、エントランスに差し込んでいた。

足音のない、足音。
空気を踏む微かな気配だけで階段をすべらかに降りて、ジョーはフランソワーズの前に立った。


「すごいね、外の飾り!」
「・・・」
「綺麗だよ、みんなも外だから一緒に行こう」


邸を出ていた時間を感じさせない。
ジョーが出て行く前まで、タイムスリップしたような感覚が、小刻みに揺れていたフランソワーズの膝の揺れに力を加えた。がくんがくん。と、揺れ始めて耐えられず、腰が抜けるようにべたん。と、座り込んだ。



「フランッs?!」


また、名前を呼ばれた。

座り込んだ位置から、見上げて。
何をそんなに慌てているのだろうか?と、フランソワーズがかすれた思考に浮かべたとき、ジョーはフランソワーズをおいかけるように片膝をついて、床に腰をおろした。
ジョーは凛々しい眉を下げ、心配そうなに覗き込んでくる褐色の瞳をフランソワーズへとむける。フランソワーズはなにがなんだからわからないと言う、焦点のあっていない視線でジョーの瞳の中にいる自分をみつめた。


「どうしたのっ?!どこか痛いっ??」


慌てふためくジョーをただただ保けたように見つめるフランソワーズに、彼女の肩に手をおいて、軽く揺すった。


「フランソワーズっ?!」



---ジョーの手は、大きくて、温かい。


フランソワーズは肩を揺するジョーの手に、自分の手を重ねた。


---今、肩に置かれている手も、同じ。


そして、重ねた手にぎゅっと力を入れて、握った。


「大丈夫、よ・・・なんでも、ないわ。・・・びっくりしただけ」


---ああ、ジョーなのね?


ジョーの手が、フランソワーズの肩を揺するのを止めて、握られた手に視線を映す。
すると、火がついたように、彼の手が熱くなった。


---本当に、ジョーなのね?


「・・・・・・その、・・・」


ジョーはフランソワーズを目の前にして、口ごもった。


「あの、ね・・、なんて、いうか」


邸を出ていた間のことを、その理由を、どんな言葉から彼女に伝えれば良いのか。


ギルモア邸へと向う道中、ずっと考えていたけれど、結局まとまらないままに邸に到着しまい、なんとなく邸に入りずらく、耳にうっすらと届くクリスマス・イブのディナーを楽しむ仲間たちの声を聞きながら、邸の周りをうろうろと歩き回った。
さっさと玄関のドアをあけて、”お腹が空いた!”とでも言いながらディナーに参加すればいい。途中で寄った駅の地下街で買った、お土産と一緒に。と、決心したとき、一般道に面していない、海側の外観がおかしなことになっていることに気づいた。
一応のことを考えて、それらをチェックし、外観を覆う大量の電飾ケーブルの線がまとめられていく先が総てフランソワーズの部屋のバルコニーだと知る。


自分の知らない間の出来事が、フランソワーズの部屋にある。そう思うとなんだかもやもやとした気持ちに押し出されるかのように、自分が暮らしていた邸にも関わらず気配を消して忍んでに邸へと入り、フランソワーズの部屋へとむかった。


「部屋に、勝手に入って・・・ごめん、ね・・・。びっくりさせて、ごめん・・・」


---ここにいるのは、紛れもない、ジョー、彼なんだわ。




「・・・ジョー」

「?」

「ジョー・・・」

「なに?」

「ジョー・・・・」

「?」

「ジョー・・・、ジョー・・・・・」

「フランソワーズ?」

「・・ジョー、・・・・・・・ジョー・・・・ジョー、・・・・・・ジョー、」







ぎゅっと握っていた手を、フランソワーズは離して、目の前の彼の頬にそっと触れた。
フランソワーズの動きとその指先の感触にびっくりしたジョーは、フランソワーズから躯を引いたが彼女の手は動じる事なくおいかける。


「っジョー・・・」


両手で彼の頬を、水面にはった氷にふれるかのように、包みこんだ。


「・・・・約束したからね」


両手に触れている、ジョーの頬の温かさを、フランソワーズの指先がなぞる。


「帰って来たよ・・・。僕が、帰ってこないなんて、ないよ」


ジョーは自分の頬を包むフランソワーズの手の甲に触れ、指先を滑らせるように、手首から腕。腕から肘、そして二の腕と伝い、彼女が自分の頬に触れているように、触れた。


「メリー・クリスマス・・ジョー」
「うん・・・。久しぶりだね」
「・・・・元気だった?」
「元気だったよ」


ジョーの手が、フランソワーズの手が、久しぶりに目にして触れるお互いがお互いの存在が此所にいることを、幻でもなく、夢でもなく、ちゃんと現実にいることを確認するように、髪に触れ、肌を撫で、肩を寄せ、腕に、抱きあった。


「・・・・温かい部屋で休めていて?」
「うん・・、ちゃんとした部屋で、生活していた」


胸の中にいるフランソワーズの、くぐもった声を拾おうと耳をよせる。



「病気とかしてなくて・・?」
「うん、大丈夫だった」


自然と、くちびるが彼女の甘い香りのする髪へと寄せられた。


「3食、きちんと食べていて?」
「うん、食べていたよ」


ジョーの胸に押し付けている頬が、彼の着ている服を超えて、伝えてくる体温に染まる。



「好き嫌いなく?」
「残さなかったよ」


華奢で細い背中をそっとなでた。


「・・・酢豚に入ってるパイナップルもよけずに?ポテトサラダにはいったリンゴも?マンゴーカレーのマンゴーも、ドライカレーのレーズンもちゃんと?」
「・・・・・・・残さなかったよ。っていうか、そういうフルーツが入った料理ってほとんどなかった」


細身な印象の見た目とは違う、厚みのあるしっかりと広い背中にまわした腕にいれた力を、少しゆるめて、彼の脇下あたりの布をにぎった。


「おやつのパンケーキにバナナを混ぜて、ハチミツと一緒に出されても?文句を言わずに食べたの?」
「だから、それはパンケーキで。僕が食べたい”ホットケーキ”は何も入ってない粉と牛乳と卵だけのプレーンなものをバターで焼いて、メープルシロップなんだよ」


こぼれる、クスクスとした笑いにゆれた、フランソワーズの亜麻色の髪が、彼女の華奢な背にまわしているジョーの手をくすぐった。


「ラムレーズのアイスクリームも食べていたの?」
「あれは鼻につんってくるから食べないんだよ、残すとかじゃない。初めから食べないって決めてる」


温められているギルモア邸内に、うっすらと冷たい風が紛れ込む。


「好き嫌いしてるじゃないの」
「趣向の問題で”好き嫌いに入らないよ」


薄く開かれたドアが、聞き耳を立てていた。


「・・たくさんの人に、出会ったのかしら?」
「うん、・・・たくさんの人に会ったよ、いろんなところへ行った。お世話になったし、親切にしてもらった」
「そう・・」
「うん」
「毎週、ジョーが観ていたドラマが終わったわ」
「知ってる、1話も飛ばさずに観てたよ」
「年始にね、スペシャル2時間ドラマになるのよ」
「それは、知らなかったな・・・」
「知らなかったの?」
「うん、知らなかった」

ジョーが真剣にうなずいたことを、フランソワーズはジョーの腕の中の揺れで気づく。


「・・・・お夕食は?」


揺れと一緒に、くうっとなったジョーのお腹。


「まだだよ、もちろん・・・僕の分、あるよね?」
「・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・ね?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・みんながもう全部食べちゃ・・った?・・・とか、ないよね?」


フランソワーズは、ジョーの胸から押し付けていた頬をはなして、彼を見上げて微笑んだ。


「ジョーの好きな、・・クラム・チャウダーを温めなおすわね」














入り込んでいた12月の冷えた空気が、ぱたん。と、途絶えた。


「で。・・・これからどうするの、僕たち?」
「まだ食い足りないぜ?」
「飲みたりないぞお!」
「博士、大丈夫ですか?」
「地下へ降りるかの、・・・」
「ドルフィンで二次会アルね!」
「酒あるのかあ?」
「こういうときにこそ、イワンが起きてればなぁ」
「このままいっそのことジョーの真似をして、みんなで旅にでちゃおうか?」


冗談とも本気ともとれないピュンマの発言に、その場にいた者全員が注目する。


「書き置きでもしてさ、”ニューイヤーには帰るから、約束する。”でいいんじゃない?僕たちが一生懸命に準備したクリスマスをぜえええええええんぶっジョーにあげてさ!」


彼はジョーが戻って来たことを喜びながらも、彼がしたことにたいしてそこそこ不機嫌なままだった。


「あげるっていうか、押し付けるか?」
「いいかもな、それ!」


1人、また1人と、邸の外からでも地下へと、ドルフィン号が納められているドックへと通じる場所へと歩き出した。


「アイヤー・・」
「それで、ドルフィンでどこへ行く?国外か?」
「そういえば0時の乾杯用に、シャンパンが外に・・忘れないようにしなきゃなあ」
「ふむ・・。どうせなら真夏のクリスマスとかどうじゃ?南半球で真夏のクリスマスを過ごすとかどうじゃ?」
「いいじゃん!それっ」
「おおっさすが博士っ!!」
「アイヤーっ!美味しそうね!!」
「オーストラリアあたり、ですか?」
「フランソワーズの携帯電話にドルフィンからメールを入れておこう。」
「決まり!常夏のクリスマスへ出動!」













携帯電話がゆれて、フランソワーズがつけいた幸せを呼ぶ招き猫のキーホルダーの鈴がちりりん、と鳴った。





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イラスト by ふるるか (あと、短いエピソードで終わる・・はずっ)
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