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PRENDRE UN CANON 5




空っぽの胃も気になるけれど、とにかくみんなが外にいるからと、ジョーはフランソワーズと一緒に外へ。
フランソワーズの話しによれば25日0時ぴったりに、その日が誕生日のジェロニモがフランソワーズの部屋のバルコニーのスイッチを押す役目だったらしい。

ギルモア邸の玄関の外に置いていたはずの荷物が、玄関”内”に移動していることに”あれ?”と首を傾げつつ。
「ジェロニモに悪い事しちゃったな」と苦笑したジョーに、フランソワーズはクスクスと笑いながら、言った。


「仕方がないわ、ジョーは知らなかったんですもの。それに少しでも”おかしい”と思ったら調べることがあなたのお務めだものね、みんな解ってくれているわ」






輝くイルミネーションに飾られた邸は、夢のように美しく、魔法の世界にでも紛れ込んだような錯覚にフランソワーズは感嘆の声を上がる間もなくうっとりと眺めた。
その世界で待っていてくれているはずの仲間たち。の、姿が見あたらず、リビングルームに繋がる庭に置かれていたはずの、ガーデンテーブルだけが、魔法世界で2人を迎えた。

2つのシャンパングラスとハーフサイズのシャンメリーと一緒に。


フランソワーズの耳に、携帯電話がメールを受信したと言う、振動がとどいた。
ちりりん、ちりりんと、揺れた鈴の音もフランソワーズにメールが届いたよ、と報せてくれる。








”みんなが誕生日の祝いとして、真夏のクリスマスに招待してくれた。31日には戻る。置いていったのではない。旅から帰って来たばかりのジョーをまた旅に出すのは、どうかと思っただけだ。フランソワーズ、ジョーのことをまかせた。こころから2人を愛している。そして、2人も愛しあう仲であることを、世界の平和とともに願う。メリー・クリスマス。by5”








クリスマスのデコレーションとして飾っていた邸内のロウソクを集めて、リビングルームでそのすべてに火を灯した。


「まったく・・・。電力を地下から繋げばいいのに。電飾を付けるために、邸内の電源を全部落とさないといけないなんて。もっと上手くできなかったのかなあ」
「ふふ、そうねえ。色々と考えたらしいのよ。イルミネーションを観ている間は、邸の中になんていないから、別に問題ないってことになったみたいなの」
「じゃあ、あれをつけたままの、僕たちが悪いってことなんだね?」
「ええ、私たちがルール違反なの」


温めた、ジョーの好きなクラム・チャウダーをスープボールにたっぷりとつぎ、3枚のプレーンクラッカーを添える。
外に出されていた、空になったシャンメリーとシャンパングラスを持ち帰り、新しいシャンパンを1本用意する。フランソワーズは白ワインも出して来た。

ダイニングテーブルに出された9人分+アルファされた量に、ジョーは「新年まで料理しなくていいみたいだね」と言って笑いながら、自分が食べたい好きな料理を大皿によそっていく。その雑さを見かねて、009にリビングルームで待機するように命令した、003に「yes、mam」とおどけた。


フランソワーズが大皿3枚に綺麗に見栄えよく飾った料理を運び、2枚の取り皿、銀のフォークとナイフ、そしてクリスマス用のイラストがプリントされたペーパーナプキンで、背の低いテーブルの上に小さなパーティをコーディネートしていった。

ッ準備が整うまでの短い時間を待ちきれず、すでにテーブルの上にあったクラム・チャウダーを無心に頬張るジョーを見て、呆れながらも嬉しそうに笑うフランソワーズは、ソファには座らず、テーブルを挟んでジョーの正面、彼と同じように毛足の長い絨毯の上に直接座ったとき、ジョーは手に持っていたスプーンを置いた。


「ちょっと、待ってて」
「どうしたの?」


ジョーはフランソワーズが、順簿を整え終えて腰を下ろした事を確認してから、おもむろに立ち上がった。


「眼を使って、僕を追いかけて見たら駄目だよ」
「ふふ、わかったわ」
「フランソワーズに、クリスマスプレゼントがあるんだ」
「あら、プレゼントは25日の朝に開けるものなのよ、ジョー」
「渡したいときに渡すのが、009流だよ」


ジョーは早足にその場から去る。
フランソワーズは、恥ずかしさに躯がくすぐったくて、もぞもぞと躯を揺すった。


ジョーの荷物はエントランスに置かれたまま。
待っている間、揺らめくロウソクの炎を見つめながら、フランソワーズはジェロニモから送られたメッセージを頭の中で反芻する。
ジョーには見せていない、メッセージ。


『ふうん、そうなんだ。気を使ってくれて嬉しいけど・・・。夏のクリスマスかあ、まあ、もう出てしまったんだから仕方ないね』


彼女は言葉で仲間たちがなぜ邸からいなくなったのかを伝えたときのジョーは、ちょっとそこまで買い物へ出た仲間たち。というような感じで捉えたようにみえた。


「フランソワーズ、・・はい、これ」


すぐに戻って来たジョーは、腰を落ち着かせるることなく立ったまま、まるで板チョコでもわけてあげるような気軽さで、B5サイズのシンプルな銀色のフレームを渡した。
クリスマスプレゼントと言われたけれど、ラッピングも何もない、むき出しのまま渡されたプレゼント に、フランソワーズは”これが009流?”と笑った。笑ったまま、受け取ったフレームのヒンヤリ冷えた感触に視線を落とす。


「ありが・・・と・・・・・」




固い文字が並ぶ、フレームの中に納められていた1枚の書類の文字を、一瞬で読む。
















フランソワーズの様子を窺いながら、ジョーは、2口クラム・チャウダーを頬張り、シャンパンではなく、フランソワーズが選んだ白ワインを開けて、グラスにそそいだ。


「それが、・・・邸を出ていた理由」


とくとくと音をたてて淡くゴールドがかった液体を見ながら、説明する。


「レーサーになる」


「嘘でしょう?!」と口から出ないかわりに、フランソワーズの瞳がおどろきに見開いて、ジョーを見た。


「・・・トップを目指す・・世界に出るよ、僕は。・・・見ていて、フランソワーズ。それはまだ”仮の国内Aライセンス”で、ちゃんとしたのが手に入るのは、2ヶ月後。それからCレース免除を狙う。・・・それでキミに、持っていて欲しいんだ。ここから始まる、僕の覚悟を」
「・・そんな、・・世界って、ジョーっ何を、・・・な、そんなのっだって、私たちっ・・・だって・・・無理よ・・何を言って・・・」


フランソワーズの困惑の顔と視線に、ジョーは余裕を持って対応した。


「無理じゃない。僕は諦めない、逃げない、サイボーグだからって、僕らは人間だよ。・・それに、サイボーグが世の中に出ていったらいけないなんて、法律はない、どこの国にも、ないよ」
「ジョーっそれはっ」


そそいだワイングラスを手にもち、フランソワーズへと差し出す。


「お祝いしてよ、クリスマスと一緒に」


差し出されたワイングラスと、手に持っているフレームに納められた書類を忙しなく往復させる瞳が、彼女の混乱と焦り、悲しみと不安、すべてを表している。


「一緒に・・僕のこれからを祈って・・・。キミが祝ってくれないと、僕は前に踏み出せない」
「ジョーっ、私っ・・・」
「本当は・・・見守っていてくれるだけでいいと思ってた。キミが見ていてくれるなら、何よりも心強い。でも・・・僕はそれだけじゃ満足できない我が儘な男なんだ。キミを連れて、世界に出ていきたい」
「連れて・・っ・・・ジョー、あなたが走ることは止めないわ。でもっ・・・上を目指すって、世界って・・・今までのように・・・どうして、今までのままじゃ駄目なの?」


ジョーは、グラスを持ったまま、腰を浮かせて躯をぐっと前に乗り出し、テーブル越しにいるフランソワーズの腕を掴んだ。


「どうしてだろうね?・・・それは、きっと・・・・・僕が、島村ジョーだからだよ」
「・・・ジョー・・・だか・・ら?・・・でもっ」
「009じゃなくて、島村ジョーとして生きて行きたいから、フランソワーズ・アルヌールに、訊いてるんだ」


フランソワーズはされるがままに、腕を引っ張られて、強引にグラスを握らされた。


「・・・たくさん、話したいことがある。・・僕と同じくらい、キミも言いたいことがあると思う。でも、これだけは譲れない・・。もしも、もしもキミが、」





反対するときは・・。









ジョーの手が、両手でグラスを握らせたフランソワーズの手を包む。
その、手の温かさと、大きさと、迷いない強さは、009ではない。


島村ジョーの、手だった。








---出会ったときから、ずっと、ずっと、変わらない。


これからも、きっと、変わらない。
信じている、こころから、ジョーを信じている。・・信じているから。


009じゃなくて、あなたを、・・・ジョーを、信じているから、




信じているのなら。







「PRENDRE UN CANON 」





フレームを床に置き、腰を浮かせて膝立ちになる。そして、グラスへと顔を、唇を近づけて、ジョーの両手が自分の手と一緒に支えているままのグラスの白を、一気に飲み干した。


その様を、傾いていく自分の両手と一緒にみていた。


「・・・ジョー・・・、私、・・たくさん酔って忘れてしまうわ。この躯のことも、過去も、ナンバーも・・・・・フランソワーズ・アルヌールとして、答えたいから・・」
「フランソワーズ」
「・・・情けないけれど、お酒の力でも借りないと・・・、私・・・」
「・・・・・わかるよ。僕の、想いを押し付けてるようなものだから・・・フランソワーズ」
「・・・」
「勢いで、言ってしまってよ・・・、今日のクリスマスのムードに、お酒の勢いに、さ・・それでいい」


フランソワーズの手が、動く。
グラスがテーブルの上に、置かれた。


「僕は、レーサーになるよ」


ジョーの手も、同じように、動く。
テーブルの上に置かれたグラスから離れた手を、フランソワーズが捕まえた。







「ジョー・・、応援するわ。世界最速の”島村ジョー”と世界中の人が、・・あなたを知る日が来る事を、私は、・・・信じてる。・・・置いて行かないで、私も、・・連れて行ってちょうだい。・・・・おめでとう、これからのあなたの・・レース人生に、ちゃんと乾杯・・しなくちゃ、ね」








フランソワーズの唇が、1つ1つ言葉を形作るのを、ジョーは見ていた。


「僕たちの新しい一歩に、・・・・乾杯・・」


その唇が作り出した言葉を訂正できないように、固く、鍵をかけるため、キスをした。


それは、いつ、どのタイミングで渡そうか、やっぱりやめておこうか、どうしようかとずーっと長い間迷っていた、内緒のクリスマス・プレゼント。






「キミの誕生日には、トゥ・シューズをプレゼントするって決めてるから」と、離れた唇が、告げた。





end.





*なぜか・・・単発連載になってしまったクリスマス(涙)のお話。
おつきあい下さってありがとうございました。
『PRENDRE UN CANON 』は親しい間柄で使う”乾杯!”の意味があるそうです。 本来は「今夜は飲むぞ!」「一杯飲むか!」に使うらしいです。



イラスト by ふるるか
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