RSSリーダー
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
web拍手 by FC2
風のない街
 音のない音に、彼女は敏感に反応した。


「・・・ジョー・・・・」


 眼の見えない子猫のように擦り寄せて押し付けて来た素肌は、先刻の情事を示す残り香だけをまとっていた。
高まっていた熱は感じられず、こちらの体温を奪う勢いで冷たく冷めている。


「ただの、風だ・・・・」


 強化された瞳が窓の外へ向けられた。


「・・・?」
「・・波音、だよ」


 彼女を腕の中に再び捕らえて、亜麻色の髪を鼻先でかき分ける。うなじからうっすらと浮かぶ、やわらなかな骨のラインに沿わせてキスをする。


「でも・・」
「今日は風が強いからね・・・裏の雑木林が、だよ」


 彼女を捉える腕に力をくわえて、抱き締める。甘えるように躯を半回転させた彼女の腕が、助けを求めるように首にまきついてくる。


「・・・怖い」
「フランソワーズ・・、大丈夫だ・・・ここは僕もいるし、・・・みんなもいるだろ?」


 幼子をなだめるように、膝上に抱き上げてしっかりと腕に抱き、躯を揺すった。


「怖くないよ・・。怖くない」





 慣れ暮らしたギルモア研究所と、今日でお別れ。


「ジョー・・」


 彼女がおびえるその音を、もう二度と僕らは耳にすることはないだろう。


「大丈夫だよ」
---本当に、大丈夫なんだろうか?



 彼女を安心させるために抱く腕は、自分を落ち着かせるために彼女へとよせる唇は、震えているのをごまかすため。

 躯をゆりかごのようにゆするのは、・・・僕自身も恐れていることを悟られないように。









また、始まる。






「・・・・・・ジョー」
「フランソワーズ・・」


また、始まるんだ。





「009」
「003」


 覆われた紅の下に隠れた肌は、あの日のように触れ合うことができない。擦り寄せ合わせて体温を共有し、なぜキミが僕じゃなくて、僕がキミではないのかと、意味があってないような言葉で戯れることもできない。




あの日、あの夜のフランソワーズに今度はいつ、逢えるんだろう。


「009っ!ぼぅっとしないでっ」


 003の叱責をくらって僕は白昼夢から引きはがされて、戦場=現実に連れ戻される。


「ごめん・・」
「しっかりしてっ!加速できなくてもっアナタの強さはこの地上最強よっ」


 怖いって、冷たい躯を押し付けて生まれたての子猫のように小刻みに震えていたのに、さ・・。
 ベッドの上でのキミと今のキミは、本当に同じ女性とは信じられない。


「003」
「待って・・・、今・・・向こうで誰かが無線で連絡を・・・取ってる・・・」


 あの日の夜と同じように、彼女は強化された瞳で遠くを見つめ、耳を澄ませた。


「敵に・・おうえ・・ん、が・・・・来るっ・・」


 僕の右腕に伸ばされた手が、赤色に触れた。


「・・・フランソワーズ


 あの日と同じ、凍ったように冷たく震えている手が布を握りしめる。




「大丈夫だ、003。・・・・・加速装置なんてなくても指一本他の男にキミを触れさせやしないさ」
「?!」
「・・・女性型の量産サイボーグ兵士には出会ってないからね。そうなると、みんな”男”だろ?」
「いやらしい!今の状況でそんなことを考えていたのっ」
「それくらい、僕は余裕ってこと、だよ」



 余裕だとキミにいうことで、自分に言い聞かせた。









 フランソワーズ。
 この戦いが終わったら。

 風のない街で暮らそう。





 誰にも、何者にも僕らの存在を報せないように。
 キミを不安にさせる悪戯な音など、聴こえない場所へ。



「生きて、僕たちは帰るんだ、フランソワーズ。・・・・もう一度、キミを抱きたい」




 キミを震わせるのも、その髪を揺らすのも、僕だけでいい。





end.









*9よ・・・、そのために生き延びるか・・・。

がんばれ。
web拍手 by FC2
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。