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Little by Little・25
(25)




ルームライトを消すよ?と、声をかけられていつものように答えた。

ピュンマの部屋に運び込まれた、シングルベッドはメンテナンスルームにあったもので、元はドルフィン号に積んでいた予備の折りたたみ式。
ピュンマの使うベッドの隣に、人が一人分通れる隙間をあけて置かれた、それがギルモア邸で用意された海用のベッド。

病院のベッドと変わらない印象のそれに付属してきたシーツなどは、本当にそれらしくシミ一つない、白さだった。
ゲストルームを使わなくなり、ピュンマの部屋に居候が決まった翌日。さっぱりとした若草色の裾に、独特なロゴを組み合わせた、ダブル・ラインが入ったシーツでベッドメイキングをしたのは、フランソワーズ。


「おやすみ」


ルームライトが消える。
明るさに慣れていた目は闇に覆われてしまい、その闇になれるまでは完全な黒を写し取る瞳。
耳にhあピュンマのはいているスリッパが、ひたひたと忍ぶようにベッドへと戻ってくる音と、彼がたどり着いた先で、マットレスのスプリングを鳴らした、音。


「あのね、ピュンマ」
「・・うん」


布同士が刷れる音が聞こえて、海は黒い天井を見上げながら、ゆっくりと瞼を閉じて自分の声に集中した。


「言わなかったんだけど」
「・・・うん」
「ぼくさあ」
「・・・うん」
「・・・・・・・・・・聴いてたんだ」
「・・・うん」
「一昨日に、ね」
「・・・・うん」
「・・・・・・・・・・・・」


ごくん。と、のどを鳴らした音が耳に響く。
ピュンマにも、聞こえていただろう。


「・・・フランソワーズさんが」
「・・・うん」
「ここ(2階の)階段前のスペースで・・話してるのを聴いちゃったんだ、ぼく」
「・・・・・ジョーと?」
「一緒にいたのは、・・・アルベルトさんだった」
「そっか。・・・それで、・・・何を聴いたの?海は・・」


一昨日の夜のことなら、ピュンマも覚えていた。
夜中にトイレに起きた海がなかなか部屋に帰ってこないので、心配して様子を見に部屋を出たときのことを。

海がちょうどとジェットの部屋のドアと、アルベルトの部屋のドアの間の壁の間に背を預けて、首だけを明かりがついている方向へとむけていた。


「・・・・聴いちゃ駄目だって思ったんだけどさ」
「うん」


海が見ている先にいる人物が誰と誰であったのかも、海に言われなくてピュンマにはわかっている。
2人の話しに聞き耳を立てている海を注意するでもなく、かといって誘ってその輪に入ることなく、ピュンマは部屋に戻ってベッドに潜り込んだ。


「・・・・・・・さくら・・ちゃ、さん、がさ」
「うん」


彼が何を聴き、何を思うか、興味があった。
さくらの失恋やけ食い(酒込み)に一晩中につきあった海は、さくらとジョーそして、フランソワーズの関係を知ったために。


「・・言ってたフランソワーズさんのこと、聴いていたときにはピンとこなかったけど、今ならちょっとわかる」
「・・・・へぇ」


そこに海がいることを、気づいていないアルベルトであるはずがなく、その”004”が何も言わずに海にそこにいることを許しているのだから、ピュンマは自分が口を挟む必要はないと判断したのが、その日。


「・・・・・・・ぼく」
「うん」


おろしていた瞼をゆっくりと押し上げた海は、闇になれた瞳が、カーテンから滲む月明かりのおかげで浮かび上がる室内の輪郭を確かめるように視線を動かし、躯をのっそりと寝返り打つように、ピュンマのベッドの方へと傾けた。


「女の子をあんな風に悩ませるのは、男としてどうかと思ったんだ。・・・フランソワーズさんの優しさにつけこんだ、篠原の甘さなんだよ。欲しいおもちゃが手に入らないって駄々をこねてるようにしか、みえなくなったんだ」
「言うねえ・・」
「でも・・・明日。・・・・篠原に謝るね。おやすみ、ピュンマ」


海はを体を反転させ、ピュンマに背を向けた。


「・・・海はさ」
「?」


中途半端にしか乾いてない、海の髪が流れている方向を確認するように彼の後頭部を見つめながら、ピュンマは尋ねる。


「本当に、・・・本当に、今はもう恨んでない・・?」
「・・・・・」
「足のこと」
「・・・・・・・・乗り越えたつもりだけど、・・まだちょっとどこかに、そういう気持ちが残ってるって・・感じてる」
「・・実験台にされたことは?」
「それは、違うよ。篠原は関係ない、ぼく自身が自ら選択して石川先生の言葉に頷いたんだから、篠原は関係ないよ・・・」
「・・・・」
「そうやって考えたら、足を切断されるようなことになったのは、あのときのぼくの判断が間違っていたからで。・・・・あのとき、ぼくは篠原を助けようとするんじゃなくて、大声を叫ぶなり、走って学院に戻るなり、車のナンバー控えるなり、飛び込んでいくんじゃなくて”大人”の助けを呼ぶべきだったんだ」
「・・・・海が取った行動は、正しかったと思う」
「・・・ありがとう、ピュンマ」
「・・・・・おやすみ、海」
「おやすみ・・・」


海は再び体を動かして、いつものように体をうつぶせにした。








####

つなげられているブラグが送電し続ける音が、静かに寝息が規則正しく拍をとる部屋に響く。


『・・・今後は、篠原当麻に必要以上に近づくな』


アルベルトの声が響いた。


『接するならフランソワーズとしてでなく、003の態度で接しろ』


ささやくように話す、フランソワーズの声が答えた。


『003も、同じ、私よ?・・変だわ』



それらはまるで、ちゃんと作曲されている譜面通りに演奏されているかのように、乱れる事なく波音と合奏されて、海をなだらかな丘(現実)から、滑るように夢の世界へと連れていった。




『変じゃない』
『変よ』
『割り切れと、言っているんだ。振られた男と、振った女が一つおなじ屋根の下に居る以上、はっきりとそうなった以上は、区切りをつけろ。それは・・ジョーにたいするお前さんの確かな”気持ちの証明”にもなるだろう?恋人として』


アルベルトから、ジョーと両思いになったと示す言葉を口にされたフランソワーズは、恥ずかしさに身をよじり、見ている側の方が羞恥心に身を焦がされるような仕草をみせた。


『・・、私たちっ、はっ・・・別にっ。そんなっ』
『そうえいば、まだ、言ってなかったな・・・。おめでとう、・・と』
『!』
『よかったな、出会ったときからずっと憧れていた009が、いつも好き好き光線でおいかけていた、あのジョーが、これからは”恋人”だ』


ジョーから”篠原当麻に近づくなと言われて以来、フランソワーズは彼の想いとは別にして、距離を取らざる得ない状況をあたえられた。
ゲストルームに近づかせる暇をもたせないよう意図して、002,005、004と立て続けにおこなわれる予定のメンテナンスの手伝いを命じた。



『恋人だなんてっ・・私たちはっだからっ・・別にっ・・・』
『違うのか?』


それでもフランソワーズは、ギルモアが当麻の診察をするときにはかならず付き添い、当麻の回復を祈り彼女ができる範囲の看病をするが、それには特にジョーは何もいわなかった。


『違うわっ何もっ・・だって、っ・・ただ、』
『ただ、なんだ?』


当麻の容態が安定して回復にむかい始めた兆候を認めたギルモアを、ゲストルームを出て見送った後、一緒に診察につきそったアルベルトに誘われて、階段上がり口に広がるコモンスペースに2人、並んで座った。


『気持ちを打ち明けた、だけでっ・・だからっ・・・そのっ・・・ジョーは、私の、気持ちを知っていて、私も、・・だって言うことな、だけよっ・・・』
『フランソワーズ・・・』


恋愛偏差値マイナスの上に、奥手も奥手、信じられないほどの純粋(ピュア)さを見せつけられて、アルベルトは脱力する。

彼は軽く額にかかる、白銀に近い色の髪をかきあげながら考えた。
初めて恋が成就したときの自分はフランソワーズのようであったかどうかと。
遥か遠い昔を思い起こそうとしたが、男と女の違いもあることから過去への詮索を止めて、隣に座る恋愛若葉マーク保持者にむかって、ささやいた。


『落ち着け・・』
『だって、あなたがっ・・変な事をいうんですものっ』


今時の小学生よりも幼い反応を見せる、湯煎にかけたトマトのように色鮮やかなフランソワーズへと腕を伸ばして、その肩を抱いた。


『そういえば・・・、ジョーにも”兄さんの、面影を重ねていたときが、あったよな?』
『っ・・・それは』


抱かれた肩を振りほどくことなく、逆にジョーの”恋人”と言う位置づけをされた恥ずかしさをアルベルトの胸に隠すように、甘えた。


『理由をきいた事があるのは覚えているが、内容をもう忘れてしまったな』
『・・・』
『重ねた相手がジョーのときと当麻と、どう違うか・・・わかるな?』


胸に感じる重みの無防備さが愛おしくも、心配で仕方がないことに、アルベルトは苦笑する。




---”恋人”ができた女が、これだからな・・・。




本人に恋人だと言う自覚がないせいだとは、思えない。
フランソワーズという女性は、根本的な部分はそういう女性なのだと、アルベルトは解釈している。


『・・・兄を想い慕う想いを重ねて見る視線が相手を勘違いさせたとしても、それがそうであると”知って”いながら、お前にアプローチしてきた相手、篠原当麻の問題であって、フランソワーズ、お前自身に落ち度はないんだ』


アルベルトは言いながらもほんの少しばかり、篠原当麻に同情した。
彼がもう少し恋愛経験ある大人であれば、フランソワーズがどういう性質の女性であるかを見抜くことができただろうも、と。


『篠原当麻は、”人間である”ことを、お前が重ねる幻影を利用しようとしただけで、乗り越えようとはしなかった。ジョーは重ねられていた兄の幻影を乗り越えて、・・島村ジョーとして、お前の幻影に勝った・・と、思っている。ジョーは・・・”過去にあった幸せ”を置い続けるお前に、”今眼の前にある現実の幸せ”を・・・。オレが言いたいこと、わかるな?フランソワーズ』


どこに視点をあわせているのかわからない、曖昧な碧を漂わせながら、アルベルトの胸に頬を押しあてたフランソワーズが苦しげに呟いた。


『・・アルベルト』
『なんだ?』
『・・・・・・・・・・・ジョーは、・・当麻さんは、・・・・こんな・・私を、・・・・どうして』
『・・・さあな』
















バスタブに勢い良く流れ出す適温の湯が、ほっそりとした指で、パネルのボタンを押されたことにより、その勢いをぴたりと止めた。

以前に一度、邸の作りの古さが原因となってお湯が出なくなったことをきっかけに、地下のユーティリティ作動制御システムと繋げてしまうという大胆な工事を施した。
その結果、蛇口をひねれば、という動作がフランソワーズの部屋のユニットバスから消えていた。


ゲストルームも同じようになっていなければならなかったのであるが、”ミッション”が始まり、何かと優先させなければならない事柄が増え
たため、1階の共同バスルームとフランソワーズの部屋の後は、リフォームしないままである。


衣服を脱ぎ捨てたフランソワーズは、ゆっくりと利き足からバスタブの中へとおろして、そろそろと湯に身を浸らせた。
足を伸ばして、吐き出した息が全身の緊張を解いていく。
透明な湯にゆらゆらと揺らめき天井に埋め込まれているフローレンスライトが、反射する。

腕を伸ばして2重になっているシャワーカーテンのうち、レースの模様がプリントされている方だけを、引いて、視界の範囲を小さくした。





フランソワーズは徐々に躯を湯へと沈めていく。
みぞおちあたりにあった湯が、彼女の脇下、鎖骨、肩、首もと、を浸食させ、顎下まできた湯をじっと見つめてた。
ゆらめくそれにうっすら映る、自身の顔と見つめ合う。




『・・・・ヒルダさん、なのは・・どうして?』





みつめている湯に浮かんでいたはずの自身の顔が、いつの間にか、篠原当麻へと変わる。


何かを言いたげに、訴えていた瞳。
きっかけを探して迷う、唇。
投げかけられている当麻のこころの声は、フランソワーズに届いていた。







『この女はオレが愛してやるんだ。と、思ったから、・・今もそうしているだけだ』

















フランソワーズはふと思い付いて、ジョーがすることを真似してみることにした。
人工肺呼吸から水中待機用の体内ボンベに切り替えて、すっぽりと縦長のバスタブにはった湯の中へと頭のてっぺんからつま先まで、躯をベッドに横たえるように潜り込んだ。






ジョーの”散歩”は、3種類。

1つは、行き先不明、音信不通になってしまう”旅”と言う名の、散歩。
1つは、本当にぶらぶらと、日光浴を楽しむような、観光のような、ただ歩くだけの、散歩。

最後の1つが、海に1人で潜る、散歩。





日本から遠い南半球の国で、誰もが壁にぶつかって打開策が見つからないミッションに、009が持ち込んだ目から鱗が落ちるような衝撃的な案を出してきた後、聴いたことがあった。

みんな、頭をうんうんと悩ませている間に、ちょっと気分転換に散歩に出ると行って、丸1日。
潮の香りが取れない彼に、珈琲を頼まれたときだった。


『009・・。散歩って海に、潜ること?』
『・・うん』
『何か、特別な意味でも、あるの?』
『別に・・。水の中ならどこでもいいんだ』
『水の・・中?』
『ヨガとかああいうメディテーションは苦手でさ。簡単にそれに近い感覚が得られるのが水中だから、かな』
『・・・それで、海に?』
『海だとプールと違って無料だし、街でいくつか・・スポーツジムを見つけたんだけど、会員にならなくちゃいけなくって、さ。』
『街にも、行ったの?』
『散歩だから』
『・・そう、ね・・・』
『体験なんちゃらっていうのがあったんだけど、後に色々勧誘されても面倒だし。そういえば、書類に書き込むアドレスに、”ドルフィン号”なんて書けないことに気づいて。身分証明所みたいなのも、持って出なかったし』
『書類をもらったの?』
『一応目を通してみた、・・・結局戻って来て、海の中になったんだけ』
『・・それで、・・一日中』
『うん』
『ご飯も何も食べずに、1人で耐圧ギリギリの深海まで・・潜って?』
『・・・・003・・”視てた”んだ?』
『ごめんなさい・・。』
『・・・・』
『一度、ドルフィンに戻って来たでしょう、・・・そのときに・・009があまりに深く・・怖くなって。ごめんなさい、プライベートなことなのに、今後は気をつけるわ・・・・」
『・・003、・・博士には内緒にしていてくれるなら、許すよ』
『え?』
『・・・実は、僕自身気づかないで本当に”危ない”ところまで潜ってて・・、ちょっと”ボンベ”がね・・』
『?!』
『だから、内緒にしておいて』
『駄目よっ!』
『え・・』
『許してくれなくっていいわ!うんっと私を怒ってちょうだいっ!!だからすぐに博士に観てもらってきてっ』
『・・・・・博士に怒られるから・・ミッションの後でいいよ』
『009っ!』
『・・・・・・ごめん、わかったから・・・。珈琲の、お代わり・・お願いしていいかな?』


009は苦笑しながら、ギルモアの元へと行くのを先延ばしするための時間稼ぎをするように、珈琲のお代わりをねだった。












---・・・ジョー。




海の中ではないけれど、バスルームのバスタブの中でだって、きちんと”水(湯)中”。
湯の中で聴く音の奇妙さが、頭の中の”ジョー”と言う言葉に反響し合う。


---当麻さん・・・。


固く閉じた瞼に浮かばせた当麻が、ジョーが、仲間が、自分に投げて来る視線。
脳内のヴィジョンのために、効果がないとわかりつつもフランソワーズは固く、固く瞼に力をいれた。


『・・解っていると思っていて、敢えて言うが、お前さんの”兄さん”は当麻じゃない。・・たとえ、当麻との縁が切れても、まだ実在する”本物”の兄さんとの縁が切れてしまうわけでは、ないんだぞ?』


どれくらいの間、湯の中で耐えられるのか、自動的に補助脳が数字にしてねじ込んでくる情報。
それらと重ねてゆく様々な声を鳴らし続けた。


『それと・・。同情は恋愛感情の一つに数えられる、だが、・・・それは先が続かない代物だ』


008は水中用サイボーグとして特化され、最長約144時間は水中内ですごすことができると、報告されている。
彼の次に水中内で活動できる時間が長いのは、007、そして、009。
003は搭載されている人口肺が別種であるため00ナンバーの中でも極端に短い。



頭の中のタイマーが心音よりもあきらかに早く回っていく。


<フランソワーズ?>


意識を自分の内側へ内側へと閉じ込めていしまっていたために、003でありながら”耳に届いていた音”に気づかなかった。














『篠原当麻に何を求めていて、それとおなじものを、なぜジョーに求めない?』









####


すでに、部屋で休んでいると思われる時間。


「フランソワーズ・・・、少し話しがあるんだけど・・・」


軽く握った拳の、人差し指の代に間接を使ってドアをたたいた。


「・・・」


反応がない室内に、もう休んでしまっているのかと思った。
けれど、ドアの隙間から証明を落とした廊下にこぼれる明かりが、とても休んでいるようには思えず、そして自分の応答に答えてくれない理由もわからないために、彼は再びドアをノックした。


「・・・・フランソワーズ?」


---静かすぎる。眠っているのなら、ルームライトがついているのは・・おかしい。


ジョーはさっと顔を右へとむけて、ゲストルームのドアを睨んだ。
近づくな。と、言ったことを忠実に護っている彼女が、まさか。と、疑った自分に罪悪感を胸に淀ませながら、ジョーは決心した。


「ごめん、開けるよ?」


”もしも”部屋で彼女が倒れていたり、するのなら。これは009の判断だ。と、言い訳しながら、ゆっくりとドアノブをまわしてフランソワーズの部屋のドアを開けた。


「・・・?」


目に入ったのは、ベッドと、その近くにおかれたスチール製の丸いテーブルに、同じく1脚の折りたたみ用の椅子。
そして、開け放たれたクロゼットに、顔を見せているスーツケース、のみ。

部屋にフランソワーズの姿はなかった。

引っ越してきたばかりのころと何一つ変わらない、簡素な部屋。
変わったとすれば、少しばかり物が増えて生活感があるように見えることくらい。


---フランソワーズ?


夜のイワンの就寝前のおむつは、張大人が替えていた。

地下はメンテナンスルームに篭る、ギルモアと002,005しかいなかった。
キッチン、ダイニングルーム、リビングルームを通ってきたジョーだから、今、フランソワーズの部屋のドアを開けるまで彼女の姿は見つけられなかったということ。


<フランソワーズ?>



最終手段。
脳波通信で、呼びかけた。


「j・・っs」


ジョーの声が脳内に突然響き、バスタブの湯の中に沈んでいたフランソワーズは驚いて、思わず通信であるにも関わらず、”声”で答えようと湯の中で口を開けてしまい、大量の湯が肺に勢いよく流れ込んできた。
そのまま人工肺内のボンベを使用していれば、口や鼻から器官内にはいってきた湯を処理されて苦しまなくてよかったが、深く自分の中に入っていたフランソワーズは冷静な状況判断ができず、言葉を発しようとして人工肺内のボンベから通常の肺呼吸循環機能へと切り替えてしまった。


「フランソワーズ!?」


ばしゃああん!と、砂浜を打ち付けるような水音と同時に、苦しげにむせ返る咳がジョーの耳に届いた。と、ほぼ変わらない時間差でフランソワーズの部屋のバスルームへと飛び込んだ。


「なにをやってっ!」


レースの模様がプリントされた、シャワーカーテン越しに見える、バスタブの渕にしがみつく細い腕にすべての体重を預け咳き込む姿。

ジョーはカーテンを引きちぎるように払いのけ、フランソワーズをバスタブから引き上げた。
肺や器官に入り込んだ湯を吐き出そうとする激しさに、苦しむフランソワーズを抱えてジョーは彼女をベッドへと運ぶ。


「フランソワーズっ!!!」


苦しさに涙しているのか、それが、髪からしたたる湯のせいなのかわからない。
湯から引き上げた状態のままベッドに寝かされて、みるみるリネン類が湯をしみ込ませる。
ジョーの眼の前で咳に揺さぶられる裸体は、苦しげにくの字に折られていたが、器官を確保する体勢へとジョーの手の誘導された。


「人工肺内のボンベに切り替えろっ、息を吸うなっ」


げほげほと、飲み込んでしまった湯のすべてを吐き出さんと咳き込むフランソワーズを抱え込みながら、ジョーは叱責する。


「大丈夫だからっ、切り替えるんだっ」


苦しい思いをしながら、言われた通りに、喉をくっと詰めるように肺機能を、体内ボンベに切り替えた。



「フランソワーズ、落ちついて・・そのまま、・・で、・・・そう、まだ肺呼吸に切り替えないで・・ボンベ使用中は、人工肺に異物(水や有毒ガスなどを含む)が入って来ても、影響を与えないように別器官になてってるから・・」




許して・・欲しいの・・・。
サイボーグになってしまったこと、を・・もう、おなじ”兄妹”でない、躯をっ・・・。






兄さんっ!!
許してっ許してっ・・・許してっ・・・・ゆるし・て・・。

















兄さんと何一つ、兄妹であることを示すことのない、・・躯の、妹を、・・妹と、認めてくれますか?






「フランソワーズ、・・・大丈夫。・・大丈夫だよ・・・。人工肺に切り替えて・・・・。ゆっくり吸って、・・そう、ゆっくり・・、薄く・・、・・・・・・・・吐いて、・・吸って・・・うん、大丈夫、もう大丈夫だ・・」






---ジョー・・・。




「ご・、・n・・n」
「お風呂で溺れる・・なんて、・・・」


咳の激しさに固く閉じていた瞼の力が抜けて、うっすらと開かれるころ、ジョーの両手がフランソワーズの頬を包み、彼女の様子をうかがった。


「ご・めんな、・・sあい」
「まだ、話さないで・・・・苦しかったろ?けっこうな量のお湯を・・」


咳が治まり、フランソワーズの呼吸が整いはじめて、彼女自身が再び通常の肺呼吸へと切り替えたのを知ると、ジョーは安堵の息を吐きながら、濡れてしまっているかけ布団だけれど、自分がおかしな気分になってしまう前に晒されている魅力的な裸体をぐるっと包んだ。


「・・・ご・、え・・ん、なさい」
「大丈夫だよ、Fanchon・・」


ジョーはしっかりとフランソワーズの裸体を掛け布団の中に隠してから、そっと、彼女を布団越しに抱き締めた。


「・・・・Fanchon」


耳に入って来た単語に、フランソワーズの思考が何もかもが一瞬にして、風船が割れた衝撃に似た感覚で、真っ白になった。

















====26に続く。






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>なかなか動かなかったのが、やっと動くぞ!!ブラコン卒業しようね、3!!
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