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番外編・”キスの甘さを味わうムース”



フランソワーズが通うバレエスクールが新しく建てられたビルに移転してまもなく、彼女がケーキやクッキーを買って帰ってくることが多くなった。
以前も買ってきていたが、一定の店を買い続けているので、かなり気に入いっていることがわかる。

オリジナリティ溢れるケーキに種類豊富なハーブティ、そして何より、カフェの店主の妻、萌子にとても可愛がってもらっているために、”お友達の家へ遊びにいく”ような気軽さでそのカフェに通っている。と、楽しそうにジョーに報告する。


フランソワーズのレッスンは平日だが、彼女はアシスタントとして、土曜日の一般クラスを教えている。

そのために、土曜日にもかかわらず朝が早い。





昨日から降り続いた雨も止み、カーテンの向こう側から白い朝の光が揺れている。
フランソワーズはまだ寝ていたい気持ちもあったが、ここギルモア邸から新しいスクールまで、電車で約1時間かかるために、どう考えても、今起きなければ遅刻してしまう。

まだ少し躰に”甘い疲れ”が残っているが、シャワーを浴びる時間を考えると、時間がない。

フランソワーズは起きあがろうと、その細い腕に力を入れたとき、寝ていたジョーが彼女を後ろからしっかりと抱きしめて、彼女を逃がさないとばかりに、腕に力をいれた。


「・・・ジョー・・・?起きてるの??」

返事はない。

彼は無意識に力を込めて彼女を抱きしめたようだった。
フランソワーズは躰をジョーの方へと寝返りを打った。


「・・・・寝たふりしても、わかるのよ?・・・私」


返事はない。


「もう起きないと、時間がないの。・・・・ねえ」


フランソワーズはジョーの顔を隠す前髪を、優しくかきあげて彼に話しかける。


「・・・買ってきて」


ジョーは起きていた。
彼はウィンクするように、右目だけをゆっくり開いて、悪戯っ子のように微笑んだ。


「あの、チョコレートムースのビターのやつ。買ってくるなら・・・君を解放してあげる。車でおくってあげるよ?」
「あら、珍しいわね、ジョーがリクエストするなんて」


















ドアのチャイムが ちりりん っと鳴る。


「いらっしゃいませ、フランソワーズさん!!」


レジに立っていたのは、カフェ”Audrey”の店主の弟、大地。
1ヶ月前くらいに、彼の義姉である萌子がフランソワーズに紹介したのだ。


「こんにちは、大地さん」

大地はさっとメニューを持ってフランソワーズを席へ案内しようとしたが、彼女は慌ててそれを止めた。


「あ! 今日はもう・・・あの、自宅用に包んでいただける?」
「すみません!つい・・・」


大地は彼女がテーブルにつくものと思いこんでいたようで、彼は恥ずかしそうに謝った。


「何をお包み致しましょうか?」
「”NYはチーズケーキの思い出”と・・・」

フランソワーズは現在ギルモア邸に滞在してるメンバーの顔を思い出す。


「”初恋の苦みを思い出に重ねて”(チョコレートケーキ)と・・・”午後の口づけ”のクッキーセットそれと!キスの甘さを味わうムース(ホワイトチョコレートのムース)に・・・、”君を想う・恋はビター(ビターチョコレートムース)をお願いします!」


大地は丁寧にそれらを箱に詰めていく。そして、「おまけです」と、彼女の好きは’”七つの恋のタルト・季節の予感”も箱に詰めた。


「そんな!申し訳ないわ・・・いつもいつもおまけしてもらって・・・」
「いえいえ!フランソワーズさんは、この店のお得意様中のお得意様ですから、当然ですよ」


このおまけは義姉である萌子でないかぎり、バイト代から引かれるのだか、大地は自分が彼女のレジを打つときは、萌子に負けないほどに彼女にサービスをする。

彼女に少しでも自分の気持ちをアピールするために。フランソワーズはそれらに込められた特別な気持ちに、まったく気づく様子はなく・・・彼の努力は虚しく過ぎていくばかりだった。


今日はテーブルに着かないので、なんとか少しでも長くフランソワーズを引き留めようと、大地は必死にフランソワーズに話しかけようとするが、何を話しかけていいやら、もごもごと口の中で言葉を噛むだけ。

哀れな義弟・大地の姿を見て助け船をだすこころ優しきお節介な萌子。
彼女は笑顔でフランソワーズに近づいて話しかけた。


「今日もありがとうございます、フランソワーズさん」
「こんにちは、萌子さん」
「今日はお持ち帰りだけかしら?」
「ええ、少し早く家に戻りたいので・・・」
「残念!」
「またすぐ来ますから!」


フランソワーズは大げさな仕草を披露する萌子に笑いかけながら、
大地から包んでもらったお菓子たちを受け取った。


「このごろムースがお気に入りなのね?」


フランソワーズのオーダーを聴いていたのだろう、萌子は興味深げに聴いてきた。


「あ・・・ええ・・・そうなの」


萌子の言葉に曖昧に返事をするフランソワーズは、何が恥ずかしいのか、少し俯いて、白く輝く頬を淡いピンクに染めていく。


「? フランソワーズさんのお気に入りじゃなくて、誰かお家の方が好きなのかしら?」


曖昧な返事に萌子は訊ねた。
その質問にフランソワーズはさらに、頬を濃く染め上げていく。


「・・・あまり甘い物を食べないのに、珍しく買ってきてって言われたんです・・・今日。だから早く食べてもらいたくって」


掠れるような、けれども愛おしそうにそれを頼んだ人物について語るフランソワーズを観て、萌子は彼女から「特別」な人がいる気配を感じるが、目の前にいる義弟は、そんなことにまったく感じないのか、デレデレと鼻の下を伸ばして、目の前に恥ずかしそうに佇む可憐なフランス女性を眩しそうに見つめていた。

情けない!とため息をつきながら、萌子はフランソワーズに話しかける。


「じゃあ、今度はそのリクエストしてださった方と一緒にいらしてね。テーブルに出すムースは持ち帰り用とは、少しかえてあるから、是非そちらも試してもらいたいわ!」
「ええ、いつか必ず・・・」


フランソワーズが嬉しそうに微笑んだその笑顔は、女の萌子から観ても華やかで、美しくウットリと見惚れてしまうばかりだった。

フランソワーズが去った後。萌子は ばしっっ! っと大地の背中を叩いた。


「もっとしっかりしなさい!」
























ジョーが夕食前に入浴を済ませ、リビングに入ってきたとき、ちょうどフランソワーズが帰ってきたところだった。


「・・・迎えに行ったのに。電話は?」
「ただいま。今日は香奈恵さんが車だったから送ってくれたの」
「・・・そうなんだ、おかえり。」
「すぐにお夕飯の支度をするわ」


フランソワーズは ぱたぱた とキッチンへ急ぐ、その背中に向かって、「あ、急がなくていい、今日は俺と2人だよ」とジョーは言った。

キッチンからまた ぱたぱた と戻ってくるフランソワーズ。
そんなの知らなかったとばかりに、不思議そうな顔でジョーを観る。


「どうして?」
「博士はイワンとアルベルトを連れてコズミ博士の家。帰ってくるのは明日」
「そうなの?ジェットは?」
「ピュンマを迎えに行ったついでに、彼と一緒に帳大人の店。そのまま飲むみたいだから帰ってこないと思う」
「あらら。本当に2人ね?」
「・・・そうだね、外食する?」


フランソワーズはジョーの申し出は嬉しかったが、それをやんわりと断った。
珍しく彼がリクエストしてきたムースも買ってきていることだから・・・。
ジョーはお風呂上がりの爽やかな石けんの香りをさせながら、フランソワーズをゆったりと抱きしめた。


「疲れてる?」
「少し」
「外の方が楽だろ?」
「・・・うん。だけど、せっかくだからお家でゆっくりしたいわ」
「そう?」
「うん、そう」
「俺が作るよ」
「・・・悪いわ」
「簡単でいいだろ?」
「甘えてもいいの?」
「俺以外の誰に甘えるの?」


フランソワーズはちょっと拗ねた言い方をしたジョーがおかしかった。
ジョーは孤児院を出てからは、1人で家事をこなしてきたらしく、料理も簡単な物だったら作れるし、日本食の味付けなど、フランソワーズに教えられる程度の知識はあった。


「大丈夫よ。私が用意するわ。シチューが冷凍してあるの。帰りに香奈恵さんお薦めのパン屋に連れて行ってもらったのよ。明日の朝の分と一緒にバゲットも買ってきたら、切るわ。それと・・・」
「簡単なサラダなら、俺がやる。シチューくらい温められる。パンも切る。君が風呂から上がったら支度が調ってるさ」


有無を言わせないようなジョーの物言いに、フランソワーズは幸せを感じながら、背中を押されてお風呂場へ向かわせられ、ゆっくりと疲れを癒して、ダイニングへ行くと、ジョーが言っていた通りに、予定通りの夕食が並べられていた。

ジョーが食後に入れた紅茶を渡されて、リビングに居るように。と、夕食の後かたづけもジョーが引き受け、フランソワーズはキッチンから遠ざけられた。


「2人だからこそ、俺に甘えてろ」


ジョーの言葉を思い出しては、胸が温かくなり、頬が緩くなる。


「1人でにやけてる・・・」


フランソワーズが買ってきた、ジョーがリクエストしたムース2つと、大地がおまけしてくれたタルト、そしてジョーの分の珈琲を乗せたトレーと一緒に、彼はリビングのソファに。フランソワーズの隣に座った。

「なに考えてた?」
「内緒」
「またケーキのことだろ?」
「もう、いつもお菓子のことしか考えてないみたい!私」
「考えてるだろ?いつも」
「・・・そんな風に見える?」
「みえる」
「意地悪!」
「でも、好きだろ?ケーキ?」
「好きよ!すっごく好き・・・いけないかしら?」
「・・・・じゃあ、俺とどっちが食べたい?」
「?!」


ジョーの言葉に、ビックリするのと同時に、時々すごく大胆なことを言う彼に、目眩がしたフランソワーズ。
普段は口数が極端に少なく、自分や仲間以外の人の前では、礼儀正しく、大人な対応ができる好青年な彼だが、今日のように2人になると、僕から俺に代わり、態度も大胆になりそして子どもにもなるジョー。(でも泣き虫 笑)

けれども、常にフランソワーズにたいする優しさは変わらない。


「どっち?」
「・・・ジョー、ムース一口もらってもいい?」


フランソワーズは話題を変えようと、トレーからジョーのために買ってきた、ビターチョコレート・ムースとスプーンを取る。


「話しをそらすなよ」
「た・・・食べないの?食べないなら、私が食べちゃうから!」


フランソワーズはムースの入った容器の蓋を開けて、スプーンですくった。
ムースが愛らしいフランソワーズの口の中へ消えた瞬間、「だめ。それ俺の」と、言う声が聞こえたかと思えば、ジョーはあっという間にフランソワーズの唇に自分の唇を重ね、舌で彼女の唇を割って進入し、彼女がムースを味わう前に彼女の舌の上からそれを奪い去った。


「!?・・・な!」
「かってに食べない。それ、俺のだから、だめ」


フランソワーズの手からムースを取り上げようとする、ジョー。


「私が買ってきたんだもん!私も食べる」


突然のキス?に頬を紅くしながら、フランソワーズは怒ったように言う。


「・・・俺が頼んだんだけど?」
「白い方もあるでしょ?」
「・・・俺、ビターを頼んだよ?」
「一口くらい、いいでしょ?」
「だめ」
「食べるもん!」
「だめだよ」


フランソワーズはさっとムースにスプーンを差し込み、口に運ぶと、先ほどと同じように、ジョーの唇に奪い去られるビターチョコレートムース。


「だめだっていっただろ?」


彼女の上に覆い被さるように、ジョーは彼女の逃げ道を塞ぐ。
彼の表情から完全に楽しんでいる様子がうかがえる。


「食べても、味わう前に俺が奪うから」


フランソワーズは観念したのか、ムースとスプーンをジョーに押しつけるように差し出した。


「いらないもん、もう食べない」
「もう終わり?残念・・・君、美味しいのに」
「///////」


真っ赤になってジョーから顔を逸らしたフランソワーズを観て、ジョーは面白そうに微笑む。
彼女の手から、ビターチョコレートムースを取り返すと、満足そうにそれを口にした時、フランソワーズは、ジョーの頬を両手で挟み、彼の唇から自分の口へとムースを奪い返した。

まさか、フランソワーズがそういう行動に出るとは予測できなかったジョーは、呆然と彼女のパライバトルマリンのような宝石の輝きにも負けない瞳をみつめた。


「んふふふ、美味しいわねv」
「・・・・ふ・・・フランソワーズ・・・」


満足そうに微笑むフランソワーズと、彼女に負けないほど顔を紅くしたジョー。
するのと、されるのでは恥ずかしさが違う。

お互いの唇から唇へと奪い、奪われるビターチョコレートムースは、いつの間にか、ホワイトチョコレートムースにまで及び・・・。









その夜は、
”キスの甘さを味わうムース”の名前の通り、たっぷりと甘いキスを味わい・・・。
















ドアのチャイムが ちりりんっと鳴る。

カフェ”Audrey”のテーブルに席に案内されたジョーとフランソワーズ。


「よ!いらっしゃい、こんにちは。フランソワーズさん」


ジョーとフランソワーズに交互に挨拶をする大地。

フランソワーズに失恋したけれども、ジョーとはいつの間にか親しくなった彼は、初めて2人が一緒に客としてテーブルに着いたのに驚いた。


「明日は雪か?・・・珍しいな!2人一緒なんて初めてじゃね?」


メニューを渡しながらニヤニヤと笑う大地。


「一緒に来ようとはずっと思っていたのよ、でもなかなか時間が・・・」
「まあ、ジョーは日本に滅多に居ないし、仕方ねーよな、今日はどうして?」
「レッスンが今日はキャンセルになったのを、私知らなくって・・・ジョーに送ってもらったのに・・・だから、せっかく時間もあるし、ジョーも夕方まで何も予定がないから、ね?」


ジョーはフランソワーズの言葉に頷く。


「そっか、で、何にする?」
「私は、アップルティと・・・・」
「ジョー、お前はビターチョコレートムースだろ?」
「・・・なんで?」
「だって、いつもフランソワーズさんが、お前用に買ってたし・・・」
「・・・ああ、あれはここでは無理」
「はあ?無理?・・・なんだよ、それ?」


ジョーはにっこりとフランソワーズに微笑む。


「あれは、家でしか食べられないよ、な?」


ジョーの言葉に、あっという間に全身を紅くして俯いてしまったフランソワーズ。
2人のそんな姿に?マークを浮かべつつ、「それじゃ、何にする?」と、オーダーを訊ねる大地。

「・・・ダージリンと”今日のランチの・・・・”」
「どれだ?”ほのかな口づけ淡い思い出”のサンドイッチ?”こころ暖か君色スープセット”?”ふわふわな気持ちは恋するオムレツ”か?・・・」


大地はわざとらしく、少し大きめの声で商品の名前を読み上げた。


「サンドイッチ・・・で」
「おう。で、フランソワーズさんは何にするんですか?」
「・・・・オムレツ・・・・」


大地の方を見ずに俯いたまま注文をするフランソワーズの声はとても小さい。

「・・・それと、お土産用に”君を想う・恋はビター(ビターチョコレートムース)”キスの甘さを味わうムース”(ホワイトチョコレートのムース)を・・・」










end.



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