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Little by Little・26
(26)






「・・・・Fanchon」

耳に入って来た単語(ニックネーム)。
風船が割れた衝撃に似た感覚がフランソワーズの思考を、何もかも一瞬にして真っ白にした。

声をあげてカウントする、0と1の間に吸い込んだ空気がのど元で止まる。
暗闇の中でいきなりスポットライトを浴びせられたような目眩に、フランソワーズは息を止めた。





「Fanchon」



いつものように”フランソワーズ”と呼ぶはずだった。
けれど、フランソワーズと頭に描いた言葉は、口からこぼれ落ちた単語は、彼女を指していながらも、違う名前だった。

その名を口にするのにフランソワーズの許可は必要ないと頭ではわかっていても、勝手に呼ぶ事を躊躇った。いままでにも幾度か唇が発しようとしたFの発音をきゅっと唇を噛み締める事で我慢した。
不意に口にして、驚かせたこともあった。

その驚きに臆した自分がタイミングを逃し続けていることも、舌打ちをうつ原因の一つだった。


自分がどう頭をひねっても”フラン”意外の彼女へのニックネームを思い付かず、そのセンスもない。
インターネットで仕入れた別のニックネームは”フラニー”だった。が、まるで洗剤か何かの名前っぽくて気に入らなかった。
それなら”フラン”のお菓子っぽい方が、彼女にはよく似合っていると思う。先にそれを呼び始めた篠原当麻に、腹立たしさよりも恨めしい思いの方が強かった。
同じように呼べばいい。その呼び方は別に”篠原”だけのものではないのだから。

けれど、変な意地が邪魔をして呼べなかった。





フランソワーズの左の頬に、自分の右頬が触れるか触れないかの距離でいながら、彼女の温度が伝わって来る。
バスタブから引き上げたフランソワーズをベッドへと運び、しっかりと夏用の掛け布団で肌を隙間なく隠して包み込んだ後、腕が勝手な”事”をしださないように意識して力の出力レベルを脳内のコンピュータに表示させ、被いかぶさるように彼女を軽く抱きしめた。



「・・・f・・」


ファンションと呼んで良いのかどうか。
すでに口に出してしまっていたにも関わらず、ジョーは意識すればするほどに躊躇いが大きくなった。

耳元に薄い呼吸音が流れ、まったく狂いのない同じリズムで彼女の胸が上下している。
夏用の厚みのない掛け布団がフランソワーズの肌から雫を吸い取り、彼女の肌に代わって濡れていく。
ジョーの腕の力加減がかすかに強くなり、フランソワーズを自分の胸に寄せると言うよりも、ジョー自身がフランソワーズに体重をかけるように、覆いかぶさるように、抱きしめていた。


「・・大丈夫?」


人形のように固まってしまっている理由は、今頃になってお風呂場で溺れかけたことに驚いているのか、”今のこの”状況”に戸惑っているためか、それとも・・・。


「まだ、・・・苦しい?」


ジョーはフランソワーズの左耳に唇をよせて、ささやいた。
風呂上がりの、とは言えない、白く冷たい色を載せたフランソワーズの肌。腕の中のぎゅうっと何かに耐えるように固く瞼を閉じた彼女の様子を窺った。
ジョーの問いに対して、フランソワーズがささやかに顎を左右に揺らす。


「・・・・よかった」


細い糸の上に乗せたような震える画像は、押し付けられている彼のTシャツの布だった。


「・・・驚いたよ・・」


何者かからも護るようにフランソワーズの躯を覆い、彼女を閉じ込めるように抱きしめる力が強くなるたびに、沈んだマットレスの傾きを感じる。
瞳が、驚きの空白から逃れようと瞬きという名の震えをを繰り返すが、目の前には布しかない。


「・・・っ」


フランソワーズの唇が何かを告げようと空気を吸い込んだのをジョーの耳がとらえた、と同時に、フランソワーズの顎がジョーにむかって突き出す動きをみせた。
上手く声帯を揺らすことができず、声にならなかったことにもどかしく感じた行動だろう。

ジョーは抱きしめていたフランソワーズから少し躯を離した。
二人の間にできた空間にねじ込むように顔を近づける。
クローズアップで瞳に映ったフランソワーズ。彼女の顎が視線を合わせるかのように微かに上がり、折れそうに細い首筋をそらした喉もとから緊張にはった見下ろす丸い肩が、まぶしい。

ジョーは掛け布団を引っ張り、その肩を隠した。


「ああ、・・・・そうだ」


フランソワーズの前髪から頬を伝った雫が唇にふれる。それを口に含むように下唇を巻き込んだ。


「・・・・今なら、いいのかな?」


唾液が喉を通るとき、咽て引掻かれた部分が凍みた。


「”ハッピー・ポイント”を、使って。・・・俺の、分。・・キミに、・・あげる、よ」


覚えていてくれた嬉しを超えて、それは絶対に断らなければと強く思う。


「キミが、・・・少しでも元気になれるように」
「・d・・メ・・」


声がひきつり、ちゃんと届いたかどうか分からないが、首を振る動作を付けていたので、伝わっているようだ。
眉根を困ったように下げた彼が見えている。


「・・毎日、俺は、キミから、もらってるから・・・・、なくなることは、ない・・だから、今日は、・・ファンションに、」


ジョーの腕の力が強くなると、ピタリと躯が合わさり再びフランソワーズを抱きしめなおした。


「あげる、よ」


先ほどよりも、ずっと強く。


抱きしめた。











Fanchon


君 の 幸せ の ためならっ 僕 の すべて の ハッピー・ポイント を あげるよ(day by day より)





思い出せない声に、今、耳にしている声が重なる。
兄の姿にジョーの声が重なる。

アルベルトが、それを指摘する。


『そういえば・・・、ジョーにも”兄さんの、面影を重ねていたときが、あったよな?』




ジョーの声に、兄、ジャンの姿。
自分勝手な都合の良い組み合わせに、フランソワーズは泣きたくなる。

ぼやけた輪郭をクリアにするために必要な情報として、ジャンの姿を描くその一瞬に当麻の姿が重なったことを。
兄を思い描くために、”きっかけ”が必要になってしまっていたことを。


時間の流れに薄れていく記憶。
念じるように毎日描いていた兄の姿は、大雨の日の車のフロントガラスから見る人影のように把握しづらい状態になってしまっている。

古ぼけた記憶を蘇られてくれるなど、頭部に埋めこまれている機械が便利に作られているわけはない。
戦闘になんら関係のない情報であり、それらを記録しておく隙間などないのだから。




兄を想い、慕い、恋しいと訴える。
同時に会えない、会いたくない、会えるはずがないと叫ぶ。


渦を巻き濁り、ゆっくりと沈む思考。
静かに沈殿させていればよいものを、時折かき乱してそれらを浮上させる。




解っていた。

彼が向ける好意に心地良さを感じていたこと。
そこに求められている感情と等しくない、打算的な甘え。


解っていた上ですべてを飲み込み向けてくれた好意。
利用していたのは、当麻だけではない。フランソワーズ自身も、利用していた。


「・・・フランソワーズ?」
「ジョー・・・・もう、大丈夫、・・よ・・・」


そして自分は、今、ジョーの腕の中にいる。
憧れて、慕い、・・・兄の姿よりも先に描く人となった、男性の腕の中に。










最低だ。





「・・・」


腕の中に閉じ込めるフランソワーズが抵抗するようにジョーの胸を押し返した。
その力に抗うように、更にジョーは力を腕に入れた。
二人がいるベッドのマットレスのバネが大きく反応して軋む。


お年頃なんて言葉で片付けられない欲望は、もう限界を軽く越えている。
ただ、理性で押さえ込んでいると思うけれど、実のところは、腕の中に抱くフランソワーズの様子がどうしてもおかしいと思えて仕方ないからだ。


好きな女を抱きたいと思うことに、後ろめたい気持ちはない。
彼女も同じ気持だと確認し合った仲なのだから。



弱っている彼女を無理矢理に自分のモノにするほど、飢えてはいないと、信じたい。

偶然が重なった状況(チャンス)なのかもしれないと言う素直な考えは夜空の星のように瞬き、腹奥に住む獣はその空に向かって吠え続けている。
しかし、ジョーはそれらに耳を塞ぎ、瞳は腕に抱いているフランソワーズへと集中させていた。

まばたきも、なるべくしない。
刹那の暗闇に映しだされる被写体は、以前に一度目にしたソレよりもハッキリとすべてを晒している。
そして、自分はその肌に、触れてしまった。


「・・・・ジョー・・・・・離して・・」


今の自分は009として対応すべきだと意識を変えよう。
いままで無意識に切り替えていたことを、意識してそれを求めたが、上手くいかない。


「・・・」
「お願い・・・、」
「・・・・・・」


上手くいかないどころか、009である自分が急速に離れていく。


「・・ジョー・・・お願い・・・」
「無理だよ・・」


フランソワーズの願いを耳にしていても、躯はそれに反した動きをする。
頭からはちゃんと命令していた。
腕を離せと。

フランソワーズから、離れろ。と・・。


「・・・離れ、ない」



体重がかかったジョーの躯を、不利な体勢から支えて押し返すことはできない。
そのまま、重力にしたがって傾いていく。

深く沈んだマットレスの一部分が、縦に薄く伸ばされた。
薄い夏用の掛け布団を一枚挟んだ、躯が重なりあって横たわる。
全身にかかる、ジョーの体重。

背中に感じる、使い慣れたベッド。
直線で見つめるルームライトの光を背負った、たくましい肩。

すり寄せられた頬の感触。
濡れた髪に届かない、斜め上にある、枕。


ジョーの左腕が、動いた。
掛け布団の中に、風が入る。




直接、触れられたのは、二の腕だった。
なぞるように、肩へと滑る。

一度は自らの手で隠した、白く眩しい丸くて、想像以上に華奢な肩を露にする。
乗せられていた体重が軽くなる。すると、フランソワーズの左耳横に、躯を浮かせるための支柱となった腕。

フランソワーズの肩の形を確かめるように滑る、全神経を中々させっている指先が、鎖骨へと流れ、首を上り、顎を捉えた。




見つめ合う瞳に映し合う、お互いの顔。

今の状況がわからないほど、子どもではない。
子どもだと、言い訳する理由もない。


「・・・」
「・・・」


ジョーが先に、まばたきをした。
追って、フランソワーズが、2度、繰り返した。

「・・・こんな・・改造、・・・された、躯n・ぁ・・、の、・・」
「・・・・俺も、だよ」
「いいの・・?」
「・・・・・ダメ、なのかい?」
「j・・お・・・は、・・」
「俺は?」
「・・・・こんな・・から・・で、・・許して、・・くれる?」
「・・・・・フランソワーズ・・」






『篠原当麻に何を求めていて、それとおなじものを、なぜジョーに求めない?』




ジョーはフランソワーズの顎にかけた手の親指で、震える彼女の唇を押した。
もう、それ以上、話す必要はないと。

青から零れ落ちる幾筋もの雫が、濡れた亜麻色の髪に交じる。
押した指先に柔らかく振動する震えを止めることが出来ず、ジョーは、震えを吸い取るように、自らの唇をあてた。
重ね合せるだけの行為が、次第に、角度を変えて啄むように、離れては合わさる、皮膚一枚の距離感を保ったキスを繰り返し、繰り返し・・。


「j・・ぉ・・」


切れ切れの声がキスの合間を埋めていきながら、繰り返し・・・。
掛け布団1枚の間に隔たれた躯を、ピタリと寄せて抱き合いながら。


キスが、フランソワーズの唇を和らげた。


「・・ぁ、いたい・・・・」


自分が、フランソワーズよりも一足先に経験していたことにジョーは幸せに感じた。
フランソワーズのこころの淀みをすべてを受け止めてあげられるだけの余裕が自分にあることを、幸せに感じた。


「・・・かれお・・・利用して・・・・た・・・」


そうなるための自分を、ずっとフランソワーズが支えてくれていた。
そして今、自分はフランソワーズを、支えている。


「わか・・・て。・・わかって・・いたの・・・」



触れ合う唇と唇の空間を共有して。







「ど・・して・・、j・・ょ・・わた、s・・・さい・・てー  なの、に・・」



フランソワーズは何も身につけない生まれたままの姿で、ジョーの腕の中、こころの中の淀みを解き放つ。
言葉にできるだけの言葉を、伝えられるだけの、想いを、片言の表現力しかなくなった震える思考で、一生懸命に、口にした。


「自分を最低だなんて・・言わないでほしい・・・キミは・・俺が、その・・」


ジョーはただ、頷く代わりに、苦しみを吐き出すために震える唇を慰めるように、重ねていった。





「お互いさま・・だと、思う・・俺も、フランソワーズも・・・篠原も、・・みんな・・・、・・傷付き合い、傷つけあいながらも、生きていかなくちゃ、いけないんだ・・・」







ぬくもりが、融け合う。

















フランソワーズの声が途切れて、塩からくなったキスだけが淡々と続いた中、ジョーは言った。


「・・・・明日、・・二人で、・・たこ焼きでも、食べに行こう・・か・・」


泣き咽て揺れる肩を撫でた。
やっとのことで微かに唇の端で微笑むことができるようになったフランソワーズの額にキスを一つ贈り、「おやすみ」の声をかけて、ジョーはフランソワーズの部屋を出る決心を固めた。

ベッドから降りた先に開けっ放しで忘れられていたドア。驚きと焦りに戸惑うジョーの後ろ姿を、涙で濁る視界のまま、見送った。















===27へと続く。
















*ブラコン卒業への第一歩。
そして、よく我慢した!!と9を褒めてやってください・・・。で*

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