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24時間営業中。
煌々と光る白いライトは、夜行性となった人々の憩いの場でもあり、日中は機能停止状態の人々にとって闇の中のオアシスとなっていた。
大きいとも言えず、小さいとも思えない駅に最終電車が駆け込んでくる前後が、駅前にある青い看板が目印のコンビニエンストアにとって一番忙しい時間帯なのかもしれない。
駅前バスロータリーに設置されている電光時刻表と絶妙に連携しているが、その日の交通通量と運転手の気分によって、若干の”すれ違い”があるハプニングに振り回される人々は、昨今当たり前になった街角の24時間ストアに集まってくる。
手にある携帯に”迎え”を頼む声もあれば、家に帰るなと言うお印なのかもしれないと、呼び出せる友達に手早くメールを打って、連絡待ちの姿もある。
それぞれがそれぞれのニーズに備えて”買い物”よりも身の置き所を求めて足を向ける先だったりもする、24時間あなたの味方なコンビニエンスストア。
「DNAにも記録されている生体活動のリズムをつぶしてしまう敵役でありながらも、愛おしいわ」
「・・・ものすごい言い方」
運良く最終電車に乗り込んで、目的の駅までたどりつけたものの、それで運を使い切ってしまったのか、最終バスの乗り継ぎに失敗してしまった男女が、ふらりと足をむけた先は、例によって例のごとく、駅前のコンビニエンスストアだ。
「それで・・・、どうするの?」
「そうだね・・」
バスロータリーの端っこにあるタクシー乗り場には、同じく最終バスを乗り過ごした人の列。
雑誌が陳列する棚の前に立ち、ガラス越しに確認する。
壁一面がガラスとなっており、店内の様子をうかがうことができる作りであるのが、ちょっとした24時間営業の共通点。
「タクシー、なら並ばないといけないんじゃなくて、ジョー?」
「寒いだろ?」
「・・・歩いて帰るの?」
「同じ。寒い」
「・・・・・じゃ、どうするのよ?」
「さて、どうしたものか・・・」
「ここに居てもなにも解決されないのよ?」
「まあ、確かに・・でも、寒くないよ?」
「いつからそんな寒がりになったの?もうすぐ春なのに」と言った彼女は、3日3晩降り続いた雨の後に空気がひえきってしまっている今日だけれど、明日はきっと今日購入したばかりの、いつもよりもちょっと短めのスカートを切る事が出来るくらい温かくなると信じていた。
お買い物でお気に入りをみつけ、それを手に帰宅する女の子の心うきうき具合は、寒さなんてへっちゃらちゃに吹き飛ばす。など、ジョーは知らない。
「早く帰って試着したいの」
「・・さんざん店でしたじゃないか」
「お店じゃ、今着ているトップスとしかあわせられなかったでしょ?クロゼットの中の他のトップスともあわせたいのよ」
コンビニ店内を物色しながら、ゆっくりと歩く2人。
「自分の持ち物くらい把握してるだろ?・・必要ないよ」
「イメージと実際に着てみた印象って違うんだから!」
たまに品を手に取っては、それらの感想を言い合うが、商品は棚に戻されてばかり。
「バスは最終でちゃったし、タクシーは当分捕まえられないだろうし・・」
「迎えに来てもらうのは?」
「今日は日曜日だよ、疲れてる2人をわざわざ呼ぶのは・・申し訳ないだろ?僕らは遊びに行ってただけだしさ」
「もう!じゃ、どうするのよ?」
ぶるっと躯を震わしたフランソワーズをちらっと視線だけを投げて見る、ジョーは、用冷蔵の棚から彼女を遠ざけるように、早足に通りすぎた。
「走ってもいいけど、せっかくの戦利品が駄目になるしさ」
「当然ですっ」
カップ麺と、お菓子コーナーの棚にはさまれて。
「・・・・面倒くさいなあ」
「もうっ!」
狭い通路は2人並ぶせいで、買い物通行客の邪魔になったりもしつつ。
「カラオケでも、行こっか?」
「家に帰るのとカラオケ行くのと、何が違うの?」
「だってカラオケはこのビルの上だし」
ビルの上。と、人差し指で天井をさした、ジョーの動きにフランソワーズの芸術的なラインの顎がくっとあがる。と、ジョーは思わず、衝動的に彼女のその顎へと手が伸びそうになる。
「もう!カラオケなんて、行ってもどうせ歌わないじゃない、ジョー、上手なのに!」
「歌うよ。歌いたい曲がなかなかないだけで・・・ねえ」
・・が、どうにかこうにか、のばした手をフランソワーズの耳元あたりにあった、スナック菓子を取る事でごまかした。
「なあに?」
「・・音痴って直せないの、ここで?」
ジョーは、不意に足を止めて、フランソワーズのおでこをつん。とつついた。
「・・・・・なおせるものなら、なおしてるわよ」
「ふうん・・」
唇を尖らせて頬をむくれさせる、フランソワーズに音痴であると言う自覚が彼女にあることがわかり、ちょっと驚きつつ。お風呂場で気持ち良さそうに遠慮なく大声で歌う声を思い出して、くくっと喉で笑った後、ジョーはぐるっとコンビニ店内を見回して言った。
「レジで、・・あったかいなにかを買ってタクシー乗り場にならぼうか?」
「じゃあ、からあげさんと、ピザまんと、」
「夕飯食べたのに・・」
「じゃ、ジョーはいらないのね?」
「激辛カレーまん、と、・・ええっとそうだ、じゃがりこチーズ」
「サラダ!」
「先週サラダにしたから、今回はチーズ」
「・・・じゃあ、デザート・ポッキーのショコラフロマージュね?」
「駄目、プリッツのバター味」
「それならチップスは・・」
お菓子の棚のまえで、ああだ、こうだと良いながら、選ぶちょっと髪色のカップルを横目に通りすぎる人々は、2人のやり取りに今日の疲れを癒されたのか、はたまた苛つかせられたのか。
「のりしお!」
「コンソメ!」
2人は同時に自分が食べたいと思う味を棚から手にとり、まるでカードゲームバトル漫画のように、ずいっとそれらを相手にむかって差し出した。
ふらりと入ってきた独身サラリーマンは、冷たい視線をジョーの方に投げかけながら、嫌みのように、フランソワーズが言った、コンソメチップスを手に去っていく。
その胸に、「この間もいたよな、この2」と、思い出しながら。
「ほら!誰もが愛するコンソメなの♪」
「関係なしっ」
結局2人は、1時間ほどコンビニストアにてああだ、こうだと言い合いながら選んだお菓子を手にタクシーに乗って帰宅する。
「ねえ」
「なあに?」
「来週は、映画にしようか」
「特に観たいのがないって言ってたじゃない」
「映画館とは言ってないよ」
「じゃあ、家で?」
「そ」
「来週には温かくなってるかもしれなくてよ?」
「じゃあ、駅前のコンビニまで散歩して、部屋で映画」
「おでかけしたいわ、せっかくのスカートなんですもの」
「着ていけば?コンビニに」
ぶうっとふくれたフランソワーズの頬を、人差し指でつつきながらジョーは笑った。
「じゃ、コンビニでカラオケで、部屋で映画?」
来週末の予定にたいして、フランソワーズは頬をつついていたジョーの人差し指をきゅうっと握って不満そうにつぶやいた。
「・・同じ家から出て、帰る場所も一緒で・・・なんだかなあって思うわ」
今更何を、と、言いたい言葉をぐっと飲み込んだ、ジョー。
まもなく邸近くのバス停留所に近づくタクシー。
大きなカーブをゆるやかにまがり、運転手の手が握るハンドルが左へとまわされたのとをみて、ジョーが「ここでいいです」と声をかけてタクシーを停めた。
「待ち合わせとか、そういうのがしたいの?」
「もー、ジョーったら、また遅刻?」
「・・・」
「いっつも遅れるんだから、やんなっちゃう」
「・・・・」
「でも、いつもよりも遅いわ、メールも・・ないし、どうしたのかしら?」
先にタクシーを降りたフランソワーズは、支払いをすませるジョーを待ちながら、脳内に描いたシチュエーションにそって棒読みで自分の台詞を読んだ。
自動で閉まるドアの音を背中で聴き、アクセルが踏まれて去っていくタクシーの排気ガスをかすかに吸い込みながら、ジョーフランソワーズが手に持つ荷物をすべて引き受ける。
「で。僕はどうして”いつも以上に”遅刻したわけ?」
「昨夜、どうしても断れなかった飲み会に出席しして、べろんべろんに酔ったの」
「・・へえ」
ジョーは荷物を確認してからゆっくりと歩き出す。
「それでね”お持ち帰り”していたことに大パニック」
「何を?」
フランソワーズは、ジョーと並んでいたが足を早めて、彼から距離を取った。
「お持ち帰りって言ったら、決まってるじゃない」
「・・工事現場の看板とか?」
フランソワーズの背中を見ながら、ジョーは言った。
柔らかな布にオリエンタルな柄がはいったロングスカートに、ウェスタン・ブーツとフォークロア・ミックスカジュアルにチャレンジ中のフランソワーズ。
こつ、こつ。と、彼女のブーツがアスファルトを心地よい音で響かせる。
「女よ、女!」
「はあ?」
ふわりとスカートに空気を含ませて振り返ったフランソワーズは、ふん!と胸を張って宣言した。
「ジョーは前からアプローチされていた女性に負けたの。♪酔った勢いに連れて帰って、さあ大変♪フランソワーズがアパート尋ねて、鉢合わせ♪」
聞き覚えのあるフレーズに載せて歌いだす、フランソワーズ。
「どんぐりころころ、・・・?」
「それえが、恋愛ドラマよねー♪」
「・・・ばか」
ジョーは疲れきった溜め息をついて、フランソワーズの隣を通りすぎる。
「ね?」
ジョーを追いかけて隣に並んで歩くフランソワーズが、彼を覗き込む。
荷物を持っている手など気にせずに、腕を組んだ。
ジョーはくまれた腕に持っていたいた荷物を、片方へと移動して、フランソワーズだけにする。
「そうなって欲しいわけ?」
「そうならないって、自信があるから言ってるの」
「ならないんだ」
「なりようがないじゃない」
ジョーは邸へと続く私道に入る前で、歩いていた足を止めた。
「なんで?」
「・・・なんでって・・?」
隣に立つ、フランソワーズの深い夜の色を映しした瑠璃色の瞳を覗き込んだ。
「わからないよ・・いつ、何がどうなるか、今のままの僕たちで居続けられるっていう保証は、ないんだから」
週末の午後。
明るい日差しの白さがまどろみに似た優しさを含み、肌を包むような温かさをのせた風がフランソワーズの頬をなでた。
「こんなに良いお天気だもの、カラオケをやめて街に出ましょうよ!」
「街に出たら、映画(DVD)の時間がなくなる」
店のマークがはいった自動ドアが、かろやかに左右に開くと、「ぃらしゃませー」と独特な挨拶をかけられる。
「観られるわよ」
「・・・・僕にはわかってるんだ。キミの目当ては”靴”だろ?」
レジに立つ3人の店員にむかって丁寧にお辞儀して答えるフランソワーズの手を引っ張るジョーは、コンビニ店員の目からフランソワーズを隠すように、商品だなの一角へと滑り込んだ。
「すごいわっ名探偵009ね♪」
「・・・・・・・持ってる靴が先週に買ったスカートにあわないって嘆いてたの、どこの誰?」
「だめ?」
「靴だけならいいけど、・・・」
「あっあと!」
「・・・靴だけじゃなくなるから、だめ」
「えー・・・ねえ、いいでしょう?」
24時間営業中。
昼までもしっかり店内を明るく照らすライトは健在の、コンビニエンス・ストア内で、今日も2人は買い物をする。
end.
*・・・何も”ドラマ”がないけれど、今ある単調な毎日こそが、幸せ。・・みたいな。