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太陽(テダ)になりて
肩に落ちていた一本の髪を取りのぞいてあげるくらい、別にどうとでもない。
気がついたから手がのびた。その程度のことだ。

ジョーが伸ばした指先にあった、髪色に瞳を細めた。
梅雨があけたと主張する太陽の自己主張の強さにあきれ果てた、夏の日。



彼の指に捕まったその髪が、うらやましかった。
彼が触れた肩よりも、取り除いてあげた。そんな些細なことに気づいた彼を恨めしく思うことも、ない。


その、彼の指先が触れて、とらえて、・・・意識された、彼女の髪の、その一本がうらやましくて仕方がないのである。


つまみ上げたそれを、ジョーは微笑んで、髪の主にささやいた。
彼女は、ありがとう。と、恥ずかしげに微笑んだ。
彼はただ、笑顔のまま、それをそっと指から離した。


フランソワーズは、見ていた。

金色のそれは陽の光をフェアリー・パウダーのように輝かせ、隣に立ってジョーをうっとりと見上げる彼女の願いを叶えたとばかりに、消えていったことを。




フランソワーズはただ黙って、鉛色に冷えきった瞳で見ていた。


「・・・003?」
「なんでもないわ」


ジョーの隣に立つ波打つ金色の長い髪を輝かせる人は、ジョーとフランソワーズのやりとりを視線で追いかける。
フランソワーズを警戒するように、かすかにその身をジョーの後方へと引いた。


「・・・・・なんでも、ないの・・」
「心配ないよ、003」
「・・・心配なんて、なにもしてないわ、009」


彼は、隣の女性に向けた微笑みと同じ笑みをフランソワーズへと向けた。



自分も、ジョーのように微笑んでいるのだろうか?



フランソワーズは曖昧に瞬きを繰り返しながら考えたが、自分の表情(かお)を確認できる距離に、彼の瞳は近くにはない。



「だから、・・・ここに、いるわ」




照りつける太陽の熱をかわすものなどない海原に浮かぶ、戦闘機の甲板。
フランソワーズは、瞼に今一度、消えた彼女の一筋の髪を描く。







あれは、私だ。











触れてしまった、その一瞬に身を焦がして。
こんなところまでやってきてしまった、私自身の運命だわ。


そろそろ出発の時間だ。と、声をかけられたけれど、フランソワーズは首を左右に降って、今少しだけここにいさせてと望んだ。


「003、先に戻るよ」
「・・・・ええ」
「行こうか」


ジョーの腕が、隣に立つ女性の背にのびて、甲板を降りることを促すのを、瞳の端でちらりと盗み見た。



陸地から離れて数日。

もう、誰も彼女を”フランソワーズ”とは呼ばず、彼女も彼を名前で呼ぶことはしない日が続いている。


「・・・・とても物静かな人なのね、003って・・・彫刻のように奇麗な人」
「奇麗な人・・か・・・」
「そう思わなくて?」
「・・・・003を、そんな風にはみないな」
「・・・・・・・恋人、・・なのに?」
「僕らが・・・・そう言う風に、・・・見えるかい?」
「ご、ごめんなさい・・私、・・・間違っていたなら・・・あやまるわ」


困惑する人に少しだけ眉根を下げて苦笑した。


「・・・今から生死をわける戦いに身を投じる人間の会話じゃないね」
「・・・・・・」
「別にいいよ・・。今はそういう時間が大切なんだから、気にしないで」
「・・・」
「・・・・・・彼女は、どう思ってるのかな?」
「え?」
「・・・・・・・・・・なんでもない、独り言」
「・・・・・気になるの?」
「・・・」
「私は気になるわ。003が、009のことをどう思っているのか、・・・」


甲板から降りて、長く狭い無機質な廊下を重なるように歩いていた、ジョーの足が止まる。


「・・・・どうして?」
「・・・・・・・・・・・003が恋人だっていったら、009、アナタもそうだよ。って言うでしょう。もしも、003が違うっていえば、アナタも・・・同じように違うって言うのでしょうね?・・・」
「・・・・」

彼の、微笑みは苦さを含んでいるけれど、かわらない。
けれど、・・・こころの中に淀む迷いの色は十分にその微笑みから穏やかさを奪っていた。


「009、・・・コックピットはここをまっすぐ進めばいいだけでしょう?・・行ってあげて。・・彼女、待ってるわ、・・・・・どう思っているのか、ちゃんと聞いてあげて・・・。後悔・・しないで。・・・ううん、後悔・・させないであげて・・・・・」


廊下を駆けて引き返して行ったジョーが作り出す風に舞う、金色の長い髪。
寂しげに、手櫛で数回撫でた後、不快ため息をついた。


「私の気持ちは、・・・まだ日が浅いものだから」










***



「003!」
「・・・・ごめんなさい、今戻るわ」


甲板にかけあがり勢い良く開けた、ハッチドア。
瞳が焼けてしまうような閃光に、ジョーはとっさに腕で顔を覆った。


「!!」


腕の隙間から瞳を細めてのぞいた先に、ジョーの方へと振り返ったフランソワーズに、ジョーの心臓が強く人工皮膚を叩きつけた。
今にも消えてしまいそうなほどに、白くまぶしく、陽光に照らされて、儚く微笑むその姿が、遠い記憶の微笑みと重なる。
もう二度と会うことが適わない、最後の記憶。


「フランソワーズ!!」


絵のように固まって動かない人の、悲しい微笑みを浮かべた、その人と、重なる。


「・・・・・ぜ・・・ろ・ゼr・・・」


伸ばした、腕。


「フランソワーズ・・・この、戦いが終わったら、・・・・・終わったら・・・」
「・・・」


指先がとらえたフランソワーズをジョーは必死でたぐり寄せるように、力強くかき抱いた。


「何があっても、僕から・・・絶対に離れるな・・・その、目でずっと、みていて。その耳で・・・僕の声を・・聞き続けて」









ジョー・・・・。
もしも、あなたのこの腕の強さが感じられなくなったとき。


「・・・ええ。何があっても、どんなことが起きても、私は・・・離れないわ」




私は、・・・・どこへいくのかしらね。




「・・・フランソワーズ」
「ジョー・・・・」




アナタは、次に、誰をその腕の中に・・抱くのかしら・・・。




「・・・・・・・・・・・・・・・戦いが、終わったら」
「終わった...ら・・・?」




きっと、どこへもいかず、・・・ただ黙ってあなたを見つめて待っているのだと思う。
この身を失ったとしても、私は、ただ、・・・一筋の光となって常にあなたを見守っていく。







光ある限り、この世に太陽が・・・存在する限り。












「・・・出発だ、003」
「了解、009」






















この戦いが終わったら、キミに聞いてみたい。




僕のこと、・・・どう思ってるのか・・・。
だから・・・生きて帰る・・・・必ず、この太陽のもとに。

end.











*「テダ」とは琉球の古語で「太陽」の意味です。
・・・多分彼らは南にむかって進行中なのでは・・・と。
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