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新しいルール /幸せのカタチ

「ジョー。風呂、あいたぞ。」

肌触りの良いコットンパジャマの色は、落ち着いた濃藍色。
縁取りに白いラインが入っているそれは、「welcome back home」の言葉と一緒に日本滞在組がジェロニモにプレゼントしたパジャマだった。

「了解」

風呂に入ることを促されたジョーはフランソワーズとダイニングテーブルに隣り合って座り、アルバイトの帰りに必ず出ているだけの数をまとめて買ってくる新聞紙を読んでいた。
乱雑に広げられた新聞紙の上にはフランソワーズが淹れた冷たい麦茶にジェロニモの視線が留まる。

「オレもいいか?」

室内の温度よりも冷えていたためガラスコップに水滴をつくり、新聞紙を濡らしてインクを滲ませていた。けれどジョーは全く気にしていないらしく放って置いている。

「うん・・、どれでも持っていっていいよ」

通勤電車でよく見かける八つ折りにして手に持っている新聞以外は全て読み終えているようだ。今のジョーにとって読み終えた新聞紙たちは揚げ物を作ったときに使う油取り用の紙に等しい。

「ねえ、ジェロニモ」

首にかけていたバスタオルをはずし、麦茶の入ったグラスを繊細な手つきでそっと持ち上げ、グラスの周りについた水滴を拭り、テーブルに置き直した。

「なんだ。」

ジョーの隣りで手作りのブックカバーを施した薄い文庫本サイズの本を手にしているフランソワーズが、彼を避けるように前かがみに躯を倒した。片方だけで頬杖をつきジェロニモを見上げる。

「甘いモノが嫌いになったの?」
「?」
「あー・・そういえば、ジェロニモ、最近はデザートをいっつも残してるよね」

ジェロニモは首をかしげながら、思い出す。
今日の夕食だったメニューはトロトロふんわぁり卵が絶妙かに玉。そしてワンタンスープとほうれん草とモヤシのナムル。他には飲み物くらいで”デザート”と呼ばれる食品が並んでいた記憶はない。
しかし、ジョーの言い方では夕食毎に何かしらデザートがあるようだ。

「今日は、イチゴなんだけど・・もしもジェロニモが食べないなら私がもらっちゃってもいいかしら?」

イチゴ?と、フランソワーズの口から出た果物の名を反復しながら、ジョーの”いつも残している”が胸にひっかかった。
ジェロニモJr.こと005がアメリカ・アリゾナ州から日本へと引っ越して来て片手以上の月が過ぎた。けれど、夕食に”デザート”が出てきた記憶はない。

「ジェロニモはイチゴ嫌いだったかい?」
「いや。好きだが。・・・」

ジェロニモは不思議そうにジョーとフランソワーズの顔を見比べる。

「甘いものが嫌いになってしまったの?」
「なっていない。」
「そうだよねえ、・・・おやつは僕らと普通に食べてるしさ」

すこしばかりジョーが頭を傾けた。
その仕草がどこかフランソワーズのそれに似ている。

「もしかして・・ダイエット中・・だったり、かしら?」

ジョーが傾いだ頭を避けるように、フランソワーズも彼の背後で同じように頭を傾けた。

「していない。」

あどけなさを残した顔立ちの二人が向けてくる視線とソックリな仕草を見て、ジェロニモは二人がどれほどの時間を”一緒”にいるかを把握する。

「胃腸の調子は?」
「すこぶる快調だ。」

これだけ仲睦まじい二人であるにも関わらず、なぜまとまらないのか。
ジェロニモはこっそりと胸の中でだけため息をついた。

「今日はイチゴ気分じゃないからかしら?」
「気分で食べる食べないは決めない。」
「昨日だってデザートの喜九屋さんのアイスクリームも残してたんだっけ・・?」
「アイスクリーム?」

昨日のデザートがアイスクリームだったとは、ジェロニモにとって初じめて知った。

「帰ってきて以来ずっと夕食の後のデザートに手をつけてないんですもの・・何か不満でもあって・・?」

何かジェロニモの機嫌を損ねるようなことがあってデザートを食べないのか、と不安になったフランソワーズは、少しばかり座っていた椅子から体重を移動させた。ジョーに寄り添う位置からジェロニモの様子を窺う。

「それはない。」

隣合って座っていたけれど、さらに近くにフランソワーズを感じられたジョーの喜びは素直に顔に出ていた。上唇がむずがゆさを我慢するように巻き込まれて、絵に書いたように鼻の下が伸びたニヤケ顔。なんとか意識的に我慢しようとしている表情筋の奇妙さがジェロニモに笑いを誘う。

「ジェロニモ、本当に?」
「本当だ。遠慮なぞしていない。・・ところで、だ。」
「「?」」

質問が止まったタイミングで食卓に並んでいなかったと確信している見覚えのない今夜のデザートであるイチゴの行方を尋ねた。











***

いつの間にそんなルールができてしまっていたのか。
ミッション、メンテナンス、年末年始などの短期滞在では気付かなかった。多分、その時々に応じてデザートを食べるタイミングは違っていたのだろう。

それならば、これが彼らの通常モード・・(暖かい季節の)デザートの食べ方なのだろう。



「あんまり遅くなると起きられなくなるわよ?」
「んー・・んっ!次のチャプターまで読めたら行くよ。そういうフランソワーズは?」

今夜のデザートは旬の苺、しかも贅沢な”ブランド苺”だと教えてもらったジェロニモは、ジョーとフランソワーズの二人が座るダイニングテーブルの向いに座っていた。

「あ、アタシは・・」
「苺、今食べよっか?」

ジョーがテーブルの上にある本からチラリと視線を上げて、ジェロニモが口に運んでいたルビーのように紅く美味しそうな苺を見た。

「いやーよぉう。お風呂上りの方が絶対に美味しいわ♪ねえ、ジェロニモ?」


そういうことのようだ。




新しいルール。

暖かくなった季節の夕食後のデザートはお風呂上りに召し上がれ。





ジェロニモはこの間に食べた苺の味よりも深く甘さが充実した今日の”ブランド苺”の味に満足しながら、一人で納得する。
火照った躯に冷たいフルーツやアイスは最高に美味しい。

「暖かくなったことだしね、冷たいデザートはやっぱりさ」

湯上り後に適したデザートはきっと秋口くらいまで続くのだろう。
何度か夏に邸へ帰ってきたこともあるが、そのときはデザートだと言って夕食のテーブルに並んでいたのだけれど、その時にはなかったルールなのだろうか。

「ジョーはお風呂が長いんですもの、早く入った方が良くなくて?」

フランソワーズは手を伸ばしてジョーが新聞の後に手にとった本を見る。
広辞苑のような部厚い本に軽くため息を吐きながら次のチャプターまでのページを確認した。

「まだ大分あるわ」
「すぐだよ、こんなの」
「すぐじゃないわ、あと1時間はかかるわよ!」
「かからないって・・・先に入っておいでよ」

入浴時間が長いジョーに合わせるために、フランソワーズは少し遅らせて自室の部屋でシャワーを浴びるのだと、二人の会話から推測して知る。

「・・湯冷めしちゃうわ」
「そんなに待たせないって」

自室にユニットバスがついているので、フランソワーズはあまり1階の浴室を使用しないのは以前と同じ。風呂温度もフランソワーズが好む温度よりも高めなのが可哀想だけれど、家族全員に尋ねた適温を平均した設定になっているので、仕方がない。

「ジョー、お風呂長いって自覚してちょうだい」
「普通だよ、普通」
「1時間以上入ってるのは普通じゃないわっ、お風呂でいったい何をしているの?」

二人のやり取りを耳にしながら、ジェロニモは静かに苺を味わった。

「なっ何って別に、普通っ・・フランと同じだよっ」
「えー・・・信じられないわ~・・」
「なんだよっ、その疑いの目はぁっ!」
「だってぇ・・ねえ?」
「ごちそうさま。」

ねえ?と、会話をフランソワーズから振られたと同時に、ジェロニモは立ち上がる。

「美味しかったかい?」
「ね!お風呂上りのデザートっていいでしょう♪」

立ち上がったので、二人を見下ろすジェロニモはゆっくりと頷くだけにしておいた。

「また明日を楽しみにしている。」

ジョーとフランソワーズ。
”二人”でお風呂上りにデザートを食べる。は、絶対のルールのようだ。
そのルールに辿り着くまでに、色々二人の間に”もどかしい”遠回りな遣り取りが想像できて微笑ましい。
そして、そのルールに何も言わずつきあっている日本滞在組の家族ちの努力も涙ぐましく思う。



洗面台で歯磨きをしながら、鏡に映る自分の顔にむかってジェロニモは思う。

「世間の型にはまった”男女(恋人)”じゃなくても、二人が幸せならそれで、いい・・・か。」




片思い、恋人、夫婦・・・呼び名に縛られた”イメージに囚われずに・・。


「ジョーとフランソワーズ。・・いい響きだ。」






二人は二人の世界(ルール)で幸せになれ。


















end.


*お風呂上がりにデザートを出してもらったときの感動は、忘れられない思い出です*
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