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恋心に科学の進歩は役立たず?
メールを書くよりも、葉書や手紙の方が好きなの。

紙の上に描く言葉に修正をいれるのはあまり見栄えのよいものではないし、心地よく文字の上を春風のようにさらりと触って欲しいから。

間違いがないようにね、手書きのものには必ず下書きをするの。

頭の中で思い描いたままにペンを走らせることは、とても楽しいわ。
それはまるで、懐かしいアルバムを押入の奥から引っ張り出してきたときの、嬉しいようで恥ずかしく、愛おしい感覚にとても似ていると思うの。


メールってそういう必要がないでしょう?
もちろん、言葉を伝えることに、書く方法や内容が手紙とメールとで違ってしまうことはないのよ。
メールの方が書くのも、相手に届くことも、”手書き”よりも早くて便利なのは十分に理解した上で、考えた結果なの。


急用か緊急事態でない限りは、メールよりも葉書か手紙をって、ね。
昔から、筆まめな方だったから。(この日本語の”まめ”って使い方が好きよ。可愛いわ!)


手紙を書くのには、十分な準備が必要なのをわかっていて?
レターセットを選ぶところから始まって、使うペンに、下書き用のノート。(これは前回何を書いて送ったのかを忘れたときに、とても便利なのよ。他にも色々と役立つの。ページが進めばちょっとした日記になって、面白いからお薦めよ。)

レターセットも相手の雰囲気や好み、こちらの季節や、今好きなものとか、色々と相手に伝えたい言葉以外の伝達方法でもあって、選ぶのにたくさん時間がかかるし、お店を何軒も廻ったり大変なんだから。
その大変なことが楽しいのよ。

葉書も同じね。

手紙を出すほどのことではないけれど、伝えたい言葉があったらその場でさらり。と、書けるのが気に入っているわ。
葉書自体に切手代が含まれているのはとても便利なのだけれど、できるだけ手帳に切手シートを挟んで持ち歩くように心がけているの。アナタへ送るには追加料金が必要ですものね。

いつか、そんな葉書がアナタの手に届くことだと思うわ。



住所は日本の住所よりもずっと簡単で、すらりと覚えることができたわ。だけど、手帳の中の、アナタが書いてくれた少し癖のある字をみなくていいというのが、せっかく書いてくれたのだからと言う気持ちもあってね。覚えてしまったにも関わらず、手帳を開いてアナタが書いてくれた住所を見ながら宛名を書いてるの。

アナタのこの字をみていると思い出すわ。
これを、私の手帳に書いてくれたときの、アナタを。

ジェットからのヘルプに答えて訪れたNYの「おみやげだよ」と云って、ラッピングもなく目の前に置かれた、真新しいブランドものの手帳(大きさから言えば、私にとっては日記帳なのだけれど)。
買い出し用のメモを取っていた私の手からするっとペンを引き抜いて、手帳の”持ち主”が書き込むべきインフォメーション・ページの部分に、アナタの未来(現住所)を書いて渡してくれたわね。


聞いたのよ、ジェットからね。
私が好きそうなお店があるってアナタを連れて行ったのだけれど、バッグがメインの店なのに、なんにも面白くもないでっかい手帳を買ったことに呆れた、って。
アナタにはまったく(女性への)プレゼントのセンスがない!のですって。

ケイト・スペードってというお店のなのね?
私はアナタが手帳を選んだことよりも、ジェットが女性が好むブランドに詳しいこと、そっちに興味を持ったわ。

明るい色の組み合わせに、大胆なデザインでいてとてもすっきりとしいて活用的なカバンをウェブサイトで覗いたわ。私はどちらかといえば、カバンよりも靴の方が気になったかしら。


「次回のNYのおみやげに楽しみにしているわ」なんて言ったら、アナタはプレッシャーに感じてしまうかしら?

それとも、なんて図々しいんだって、呆れてしまう?
ねえ、どっちかしら?



















ねえ、ジョー....





















移動の多い、アナタへはメールにすべきなのかもしれないけれど。
簡単に書いてしまえるでしょう?
指をキーボードに走らせるままに、メールは簡単に私の思いを書き込んでしまうの。
それで、気持ちのままに書き殴ってしまった文章を、もしもうっかり送信ボタンを押してしまったら?



「うっかり押してしまうハプニングがあればって本当は、願っていたりするのだけど」



フランソワーズは、手帳(日記帳)から視線をあげて、手帳に文字を書くために斜め前に移動させた13incのラップトップコンピュータへと視線をおいた。
設定されている通りに、HDの中のフォトアルバムからランダムに写真を選択するスクリーンセーバーは10分ほどでスリープ機能にかわる。

黒いウィンドモニタの下、中央に、コンピュータがスリープ中であることを知らせる円いランプがゆったりと点滅していた。
ペンを持ったままに腕を伸ばして、タッチセンサプレートの上に指をおき、優しく撫でた。けれど、それではスリープ機能は解除されず、フランソワーズの人差し指はすっと移動してreturn キーをダブルクリック。


エア・ネット回線で繋げたブラウザ内に、彼の手によって持つことになったフリー・メールのアカウント。
新規メールの内容文に、書きかけの文章が現れる。





『ジョーへ。

日本は春に別れを告げて、夏の準備に入りました。
梅雨入りまでの、季節と季節の境目にいる今は、お天気は不安定で熱かったり寒かったり。まるで壊れたトースターみたいよ。』



キーボードを操作して、いくつかフォントを変えてみた。
そして、同じ文章を、左手を添えて押さえているページに書いた。
















『ジョーへ。

日本の春は過ぎ去って、梅雨入りまでの季節と季節の境目にいる今のお天気は、不安定で熱かったり寒かったり。まるで壊れたトースターみたいに感じるわ。』







フランソワーズは、ペンをおいて、国語の教科書でも音読するように 手帳を手にとり、コンピュータ画面に映る文章と読み比べた。














「.....私、何をやっているのかしら」


不満そうに呟いた後、フランソワーズはコンピュータも手帳も閉じて、テーブルの上に突っ伏すように重ねた腕に頭を埋めた。


「手紙よりも葉書よりも、メールよりも、何よりも.....一番なのは、声を聞くこと、それよりも、」




会いたい。

会いたい。








会いたくて、声が聞きたくて。









会いたい。



笑って欲しくて。
その笑顔が見たくて。



だから、会いたくて。














ジョー。

呼びたくて、



フランソワーズ。

呼んで欲しくて。

















直接、言いたくて。















電話でも、いいけれど。
電話だと、タイミングがわからないの。










「.....もう、3ヶ月以上も」


アナタがくれた手帳いっぱいに、アナタに伝えたい言葉を書き続けてる。
その下書きを、清書させた手紙は1枚も仕上がらなくて。

メールフォルダの下書きには、書きかけのアナタ宛へのメール。
二桁から三桁になろうとする保存数を表す数字が太字でマークされている。

ジョーが旅立ってから取ったコミュニケーションと言えば、”私たちだからこそ”の、連絡。それに使用したいくつかのメールの最後に彼が心配しないように書き足した、1,2行の挨拶文。と、送って欲しいと頼まれて荷物にいれた、カードと邸のまわりの風景写真。(自分の写真をその中にいれるなんて、できないの。)


重ねた腕の中は、フランソワーズが吐き出すため息でいっぱいになり、なま暖かく、二酸化炭素過多で、少しばかり息苦しさを感じる。

腕とテーブルの間にある隙間から入り込む空気では、フランソワーズが吸い込み吐き出す量に追いつかないようだ。
彼女の腕の中の狭い空間は、彼女の胸に支えている悩みと同じ色と重さと、息苦しさを再現していた。



「......お誕生日、おめでとう」



彼の、誕生日まで一週間を切った。
手紙でも、葉書でも、最速便を使っても、16日に届けるためのリミットは明日の午後。
メールでなら、時差を計算してもまだ十分に間に合うけれど。






「私からのお祝いなんて、いらない......かも?」


彼が旅立ってから、個人的に連絡をもらったことなどない。
こちらに暮らしている”みんな”と一括りにされた、荷物のお礼のメールや、博士宛に必要な連絡の最後に添えられた、彼らしい簡潔な近況報告。


先週に、向こうでは手に入らないらしいいくつかの日本食品と一緒に、”みんな”で選んだ、彼へのプレゼントをすでに贈ってはいたのだけれど。













ジョーの誕生日というきっかけがあれば。
今度こそちゃんと。




「.....手紙でも、メールでも、なんだって送れると思ったのに.....」


フランソワーズは、ゆっくりと頭をあげた。
腕に押しつけていた額のせいで、前髪が変な風に歪み、前髪にはりついた。


「もう.....」


額にはりついた前髪のせいで感じる痒みを払う。
そのまま前髪をかきあげて、フランソワーズのトレードマークであるカチューシャを、はずした。
耳に触れないでいた髪が、押さえをなくして、耳に、頬に、カーテンをひくようにさらりと流れた。


「もう、いっそのこと、当日に電話しちゃった方が、潔いのじゃないの、フランソワーズ」


フランソワーズは、テーブルに閉じて置いていた手帳を、カチューシャと交換するように手に取ってインフォメーション・ページを開いた。
そこにある、ちょっと癖のある字で書かれた、自分の名前と、ジョーが暮らしているアパートの住所と電話番号。



手紙か葉書、カードは明日の午後がリミット。
メールか電話なら、時差を計算した当日まで。



「.....電話でも、なにを話すか決めておかないと..........」



フランソワーズは、手帳を開いて、新しいページに日付を書き込んだ。



5/16

手紙を送れなかったら、絶対x100電話かメールをすること!

電話で話すこと。
1.お誕生日おめでとう
2.近況を聞く
3....








end.

おまけ
フランソワーズは気づかない。

インフォメーション・ページに。
フランソワーズのフルネームの下に、書かれたアドレスが、ジョーが暮らしているアパートの住所。の、意味を。



フランソワーズがジョーからお土産にもらった手帳の意味を。
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