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恋の味。
舌が落ち着きをなくして歯列を左右になぞった感触が胃へと落ちた。
手に抱え込んでいたファイルから視線を外し見上げたリビングルームの壁。

「5時前・・か・・」

アンティーク調の四角い1から12までの数字を指す針は、中途半端だった。
夕食はそういう規則があるわけでもないけれど、いつも7時過ぎくらい。なので、あと2時間ほどまたなくてはならないと思うと、意識したがゆえに胃が確実な食物を訴えはじめる。


小腹が空いたというやつだ。


空腹感を埋めるものは何がいいかと考えながら、リビングルームのソファに沈み込ませていた姿勢を正した。

「・・ジュースくらいじゃ、間に合わないかな・・・」

口がなにか甘いものを欲している。
胃のあたりに手を置き空腹具合を確認しながら”甘いもの”のイメージをいくつか頭に浮かばせた。

「そんなに都合よく、冷蔵庫に・・・」

チョコレート、チーズケーキ、そして(そのときどきのフルーツを使った)ショートケーキ。
チーズはレアよりもスフレタイプの口の中でふわりと消えていくようなのが好み。

「ケーキなんて・・・」

それら3つのケーキはフランソワーズがよく焼いてくれる。
昼食のあと、ほどよく時間が経過し喉の渇きを覚え始めるころに声がかかる。
「今日もね、どうかしら・・?」と。

ドルフィン号の中でも、材料があるとき。そしてミッションが遂行されてさえいなければ、フランソワーズはいそいそとキッチンで甘い香りを漂わせていた。

それは属に”三時のおやつ”だと思う。





「ないよな・・・」

キッチンでドア開けた冷蔵庫の心地良い冷気が全身を包む。
オレンジ色の輝く室内に礼儀正しく並んでいる新鮮で美味しそうな食物たちには申し訳ないため息をジョーは吐いた。
膝を折って屈んだ姿勢のまま視線を冷蔵庫内を漂わせる。すぐに口に放り込めそうな甘いものはないかと考えながらも、未練たらしく写真のような2D映像のケーキをふわふわと浮かばせて。

小腹が空いたから、甘いもの。=ケーキとは。
どうやらかなりフランソワーズの影響を受けているようだ。


「そういえば・・今日は食べてない・・か」

いろいろな種類のパウンドケーキにパイ、クッキー、蒸しプリン・・エトセトラ、エトセトラ。
甘いものに困った記憶がない。

「当たり前だけど」

低く唸る冷蔵庫の動作音が、ドアを開けっ放しにして逃げていく冷気など気にせず考えるジョーに抗議しているようだった。

「・・・ヨーグルトくらいしかないなあ」

さほど甘いものに興味がない自分であっても、毎日折り目正しくお茶と一緒に出されるそれらが当たり前になっていたことに気づいた。
なんだか胸の斜め上あたりがむず痒い。


ーーー早く帰ってこないかなあ、フランソワーズ。


腕を伸ばして手に取った、ずっしりと重いヨーグルト。450gはまだ誰も手をつけていない真っ新な重さ。

「いやいやっ、別に・・」

仲間がみんな邸を出ているのにも関わらず”フランソワーズだけ”を思い描き、誰もいないキッチンでひとり、ヨーグルトを手に否定する。


ーーーフランソワーズだけってわけじゃっ・・・。

「そうだよ、みんなに早く帰ってきてほしいよっ僕はっ」


頭の中ですべてを否定すればいいのに出来ず、口にだしてしまっているジョーの動揺具合が測ることができる。

勢いよく折っていた膝を伸ばして立ち上がる。
照れ隠しに対する八つ当たりに近い勢いで閉めた冷蔵庫のドアが、誰もいないキッチンを超えてダイニングルーム全体に響いた。

「留守番役なんてっ・・・・引き受けるんじゃなかったっ!」

作業台の上に乱暴に置いたヨーグルトの蓋を勢い良く開ける。付属している砂糖を避けて、白いセロファンのカバーをベリベリと取った。
裏側についているヨーグルトのため手にセロファンらしくない重さを感じる。それをそのままゴミ箱に入れるわけにはいかないので、躯を反転させて流しへと放った。
いつもなら、ちゃんと食べたい分量だけ器に移すのだけれども、反転させた躯の勢いに載せて素早く動き、食器棚の引き出しからスプーンを取り出した。
ヨーグルト容器にスプーンを突っ込み、避けていた付属の砂糖が入った袋を開けると、それをすべていれてグリグリとかき回す。
夕飯前に450gのヨーグルトを食べきれるのか。なんて考えはジョーの頭に今はない。

「あああっもうっ!!」

頭の中に居座っているフランソワーズを振り払おうとすることだけで精一杯。
仲間なのだから、彼女のことを思い浮かべても何も問題ない!と頭の端っこではわかっている。

「あああああっっ」

ジョーのヨーグルトの中に入れた砂糖を混ぜ合わせる動きはまるで、頭の中のフランソワーズをも一緒にかき混ぜて消してしまおうという動き。

「っ・・・・・」

手を止めたと同時に持ち上げたスプーンを口に投げ入れた。
冷たい甘さよりも酸っぱさが目立つヨーグルトの味は、どこか胸に響いた。

「・・いっ、今の僕はっ・・そのっお腹が空いてるからさっ・・ふっフランソワーズの”ケーキ”が食べたいってことだよっうん!」

ゆっくりと口からスプーンをだして、またヨーグルトの容器へ。
二度三度とジョーの口と容器とを往復し、ゆっくりとヨーグルトを持ったままキッチンから出て行った。



ジョーの頭の中のフランソワーズは、いまだ可憐に微笑んでいる。








end.

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