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Little by Little・27
(27)




泣き寝入ったフランソワーズの部屋を出た廊下から、見下ろせる玄関先の広間。
真上にある明かり取りの窓を染めていた藍色が消され初めていた。


「明日じゃなくて、今日だった・・」


すでに太陽は上り始めていた。

ジョーの足は、2階から地下へと進むはずだった。しかし、足はリビングルームで止まる。
チラリと視線で見たL字型の白い革張りされたソファ。
誰も座っていない、そこへと意識を失うかのように、ばたり。と、倒れこんだ。
体重がかかった分だけソファから躯がはねた。冷たい皮の感触と香り。

膝から下はソファに乗りきれずに、2本突き出している。


「泣き虫・・」


いまごろになって頬を伝っていく塩辛い水は、フラソワーズのものであるはずがなかった。
フランソワーズのために”強い”男になるんだと、決めた自分はそう簡単に彼女の前で涙を流すべきではないと判断したからだ。


フランソワーズからあやめ祭3日目の夜(little23)に言われたことと、ほぼ同じ内容の言葉を聞いた。

彼女の思考は出口のない袋小路をグルグルと彷徨っている。それは今に始まったことではない。




ーーー無理矢理にでもジャン・アルヌールに引きあわせた方が・・・いいのか・・・な・・。


幽霊島から逃れたときにも、一時的に訪れた平穏の時間にも、それはジョーの脳裏をかすめていたことだった。
アラン・モルディエ事件の後にも同じように思ったことだ。そしてその考えをフランソワーズにもすでに伝えてもある。


「・・・・今はやっぱりまだ・・黙っていた方がいいのか?」


ジョーはアラン・モルディエに調べた延長線でジャン・アルヌールについて調べを終えていた。
誰にも告げず、独りで。


彼は、アランが言った通りに生きていた。
それはイワンからフランソワーズにすでに伝えられている情報である。
ジョーも調べ始める前から彼が生存していることだけは知っていた。

ここからは、自分以外は誰も知らないだろうことだ。
イワンは知っているかもしれない。
もしかしたら、アランの件を調べていた仲間の誰かが事のついでとジャン・アルヌールについて調べていたかもしれない。
彼とは少なからず、繋がっていたのだから。けれど、誰もそのことについては語らずに黙していた。




フランソワーズがBGの手に堕ちた後。

ジャン・アルヌールは軍を退職して知り合いの伝手を頼り、パリ近郊の小さな探偵事務所に勤務した。
軍で鍛えた体力はボディーガードや警備などに最適だったらしい。
探偵を務める傍ら、その職業と情報網をふるってフランソワーズの捜索にすべてを捧げた。

結婚は遅かった。
探偵事務所を独立しないかと誘いを断ると同時に、仕事を通じて知り合った弁護士の女性と結婚。
事務所を退職した後は、妻の仕事をサポートする主夫となり、育児や家事をする傍らフランソワーズの捜索を続けた。

ジャン・アルヌールには子が二人いた。
そのうちの一人、次男はダンサーとしてイギリスのバレエ団でドゥミ・キャラクテールとして活躍しているらしく、彼がジャンとアランを繋いでいるようだった。

ジャンは弁護士として母親の後を追う長男夫婦に住んでいた家を明け渡した。
その後パリへ戻り、いつでもフランソワーズが帰ってきても良いようにと、軍を退職後に借金をして買い取った、フランソワーズと二人で暮らしていた同じアパルトマンの同じ部屋で妻と二人で暮らしている。
変わらず、最愛の妹、フランソワーズ捜索の手を休めることなく。


彼は、待ち続けていた。

アランが言った通りだった。










話すタイミングはいつでもあった。
ミッションが始まる前、あやめ祭、終わった日、そして、先刻も。

兄、ジャン・アルヌールについて知れば、現実に今を生きて存在していると実感できれば。
知ることで、フランソワーズの何かが変わるかもしれない。

そう思うも、できずに今までずっと調べ上げたことを胸に隠したままだった。





ーーー彼は Fanchon と どんな声で呼んでいたのだろう。



手に入れた写真は小さな地方紙の切り抜き。
ジャンがまだ、探偵事務所に勤務していたときのものだ。町の警察署から感謝状を贈られたという、記事。
質のよくない紙と雑な3色印刷だったが、彼の姿を十分に把握することができた。


うつ伏せにソファに預けていた躯をゆっくりと回転させる。濡れた頬がぬるりと、革張りのソファの上を滑った。
唇をかすめた塩辛い味は、フランソワーズとのキスを思い出させると仰向けた躯で独りごちた。同時に、自分の行動を思い出して、喉奥が呻く。

腹側にははっきりとフランソワーズの感触が残っている。
ジョーの体温を急に吸った、ソファに触れている指にも、涙で濡れた唇にも、触れ合っていた頬、耳、髪、すべてにフランソワーズを感じている。


「きっと同じ亜麻色の髪と空色の瞳なのだろう・・な・・」


頭上のキッチリと閉められたカーテンを、首を反らして逆さまに見上げた。

ぴったりと閉ざされたリビングルームの遮光カーテンはその役目を果たしている。
夏の日差しをまともに受け入れてしまう、壁一面の見晴らしの良い窓が仇となり、室内の気温をオーブンレンジの如く熱っするのを避けるために取り付けられていた。





街はずれの海岸沿いに隠れるように建てられた洋館。
そこには小さくギルモア研究所と言う表札が掲げられている。
長いドルフィン号での生活に終わりを告げて、定住の地と決めた場所はアジア圏内にある島国だった。

人の手から久しく忘れられていた洋館を、少しずつ住める形を整えていった。
邸に暮らし始めた季節から数えれば、まだ1年経っていないリビングルーム。


反らした首を元に戻して上半身を押し上げるように躯を起こし、着ていたTシャツの腹部分を掴んで、ベタつく頬と目を拭った。

拭ったその瞬間から、涙は流れる。


「そんなことができるなら・・とっくに、博士が・・・・・」


人間に戻れる方法はたった一つ。
脳移植。


そのためには拒否反応が確実にない若い”生きた”健康体が必要だった。
ギルモア博士から聞かされていたことがあった。

それは助手として、ジョーがギルモア博士の技術を継ぐ決意をしたときだった。

BGの科学技術力で人間のクローンを作ることには成功していた。しかし、時間がかかりすぎる。
人一人を成人させるためには、20年の歳月が必要だ。量産型サイボーグソルジャー用の人間を生産するにはコストと時間がかかり過ぎるために、結局は”人さらい”的にサイボーグ化する人間を必要とした。

研究は進み、製作時間の短縮が図られたらしいが、その後の情報はないらしい。




00メンバー全員分、サイボーグ化する前に遺伝子・生殖細胞が”オリジナル”から摘出保存されている。
脱出計画とともに、00ナンバー全員の必要と思われる研究資料やそれらに関わる物全て”ある場所”に隠されている。
”ある場所”については、ギルモア博士もイワンも教えてはくれなかった。ただ、存在することだけを伝えられた。


その事実を知っているのは、ギルモア博士、イワン、そして、自分(009)の3人のみ。
他言無用を言い渡された上での情報だった。


「ジョー。はっきりと言っておく。お前たちを生身の体に戻せないことは、ない。・・・可能性は、ある」


止まらない涙の量が増える。


「・・・だがしかし、そのための”犠牲”が生まれること、わかるな?・・・たとえクローンをこさえたとしても、その”クローン”を・・お前たちに見合った年齢にまで育て上げなくてはならない。・・・”そのため”だけに”生かされた人間”だとしても、そこに命が、人格が、形成される」



他人の体では意味がない。
フランソワーズが、フランソワーズのまま還らなければ。

しかし、ある一つの希望をジョーは見出していた。

再生医療として応用されようとしている技術。
個体全身を作製するクローンではなく、必要な部位のみのクローン化、移植。

それならば時間がかかるけれど・・”まだ”フランソワーズなら可能性が見出せるのではないか。
その案をギルモア博士へと提示する勇気がない。きっとすでに思いついたことくらいあるだろうから。

しかし、その案が通ったとしても、すべてジャン・アルヌールが生きている間には”間に合わない”のだから、考えること自体が無意味だった。



両腕を支えにして、ジョーは上半身を起こした。

目線の先に今は静かに冬の季節を待つ暖炉があった。
その上の壁に棚がいつの間にか取り付けられて、統一感のないゴチャゴチャしたモノが置かれている。

いくつかは、写真立て。
いくつかは、誰かがどこかしらで買ってきた土産品。
いくつかは、被ってしまい、本棚からあぶれた本。
いくつかは、リビングルームに置きっぱなしにされてた、忘れモノ。

使われていない花瓶に投げ入れら得ている安物の造花に、なぜかぶら下がっている短冊。観終わったDVD、ケースなしなど、無法地帯となっていた。
そんな整理さえていない雑多な風景が生活感を演出している。


視線を暖炉とは反対側、近くのグラスへと移した。ガラス作りのローテーブルに置かれたままになっていた、グラスが3つ。少し距離を置いて雑誌が数冊積み上げられている。一番上には見慣れないバインダー。
それが津田海の持ち物だと一目でわかった。

”海”と書いた、筆文字調のシールがペタっと貼られていたからだ。


彼は大学への進学を決めている。
希望していた大学を変更するらしく、それに応じた勉強を始めると聞いた。

津田海が志望校を変えたことによって、偶然にもピュンマが希望しているいくつかの大学のうち、1つと重なった。


「・・・大学、か・・・・・」


高校に入学してすぐに提出を求められた進路希望表に書き込んだのは、どこだったか。
ジョーは滅多に思い出すことのない時代を振り返る。


記憶の奥底から手繰りだした高校指定の制服。


「ファンション、送って行くよ」


それを着ている、フランソワーズに違和感なく話しかけた。


「ジョー、今日はお夕飯を食べていかない?」
「・・・お兄さんがいるんだろ?」
「兄は・・、ずっとお仕事、お仕事で・・昨日も、一昨日も、・・もう、ずっと長い間・・・帰ってこないわ」













####

眠れない夜を過ごした。
カーテンの隙間から見える白い光が、鬱陶しいと思ったのは初めてだった。

津田海の言葉を反芻しながら、最後に見たフランソワーズの笑い顔のマスクでもつけているような、不自然な笑みを再生させ続けている。
瞼を上げているのか、降ろしているのか、よくわからない曖昧なまたたきを繰り返しながら、瞳に映っている天上は脳へと情報が送られてはいない。


「起きなきゃ・・・」


夏の明るい月が高くなったころだったと、当麻は不意に思い出す。
どこか遠いところで聴き知っている声が聞こえた。けれど、その声が象る単語は聞き取ることができなかった。

声に反射して咄嗟に体を起こした勢いでベッドは降りてみたものの、部屋を出てその現場を目にしたり、居合わせたりすることを避けた。

避けたくて避けたんじゃない。
こころは部屋を飛び出していた。
けれど、躯はこころに追いつかず、部屋の中で固まっていた。



そんな自分だから。
選ぶべき行動は1つしかなかった。



「・・海の言うとおりさ」


身を起こしたついでにライティングデスクに置かれた茶封筒を手に取り、ベッドに戻った。
ベッドの中、ナイトスタンドをOFFにした暗い部屋の中で中身を確認する。



それは、未来への選択肢。

『トーマ、これから先の未来に、”自分の力ではどうしようもない出来事”から逃れられなくなったとき。”生きていくために”誰かの力が欲しいと思ったら、』





これは、未来への一つの選択。

『・・・今から言う番号へ電話しなさい。今、”言う”から、その番号を暗記しておくれ。絶対に”形に残したり”人に教えたりしてはいけないよ?私が君にしてあげる・・祖父らしいことは、これくらいだから。』





立ち止まることができない、選ばなければならない明日への道。

『ERIKOという女性が電話に出るだろう・・彼女は必ず”君”になら力になってくれる。安心してすべてをお願いしなさい』




当麻は手に持っていたカタログ、パンフレットに案内書、そして同封されていた一通の手紙を茶封筒へと戻した。


ーーーおじいさまがお亡くなりになられて、・・おばあさまはきっともう二度とぼくの前には現われない。
・・・さえこさんとは、もう”親子”じゃなくて・・父は・・今後もきっと会うことはないかな・・。
産みの母親がいたなんて言われても、まだ実感がないし、・・。その人の祖父母という人達が、ぼくとの養子縁組を・・・受け入れられる保証もない・・。


「・・・ああ、でも」


ーーーお金で解決できるのだったら、・・そっか。さえこさんの希望通りになる・・・。


ベッドから降りた当麻は、部屋の角に避けていた2つのスーツケースを部屋の中央へ並べて開いた。


「・・・ERIKOって誰だろう?日本人、だよね・・」


意外に荷物が多いことをちょっと面倒臭く感じながら、まず初めにアルベルトが置いていった、”未来への選択肢の一つ”が詰まった茶封筒をスーツケースに入れた。


ーーーちゃんと、覚えているかな・・番号。


フランが好きだった。
今も気持ちは変わらず、フランが好きだった。


スーツケースの1つが大体埋まった頃、当麻はベッドサイドのテーブルに置かれたデジタル時計へと視線を投げた。
荷造りを中断してカーテンを開ける。
明るい太陽の光に晒された部屋に瞳を細めながら体をクローゼットへと移動させる。
開けっ放しになっているクローゼットの中に立てかけるようにして並べたスケッチブックを手に取り、それをなんとなしにパラパラと捲った。

スケッチブックの中には、たくさんのフランソワーズがづいている。
一週間ぶりに見たフランソワーズは、スケッチブックの中の彼女たちよりも表情が固い。


”両思い”であるはずのフランソワーズはスケッチブックの中の”片思い”だった彼女たちよりも輝いていなければならないのに。



ーーーそれができないのは、ぼくのせいだ。
   そして、そんな優しいフランだから、好きになった。
  




フランソワーズを描く間にときおり筆を走らせて描いたギルモア邸の住人たちの姿も目に入る。それは、あやめ祭が始まるまでの間、毎週末をギルモア邸で過ごしていた時期に描いたものだった。
繰り返してページをめくっていく手に持つスケッチブックの中に、島村ジョーの姿が見当たらなかった。
意図的にそうしたのではなく、スケッチブックを手にしているときの当麻の前に、ジョーが姿をみせなかっただけである。


「・・電話、してみようか・・・」


しかし、描かれていないスケッチブックの中に島村ジョーは存在する。
描かれているフランソワーズの表情と視線が、同じ紙の上に島村ジョーの存在を表しているからだ。
当麻の前にいなくても、島村ジョーが”近く”にいるときに描いたフランソワーズと、いないときに描いたフランソワーズは、日付やスケッチした状況をメモした文などを読まなくても一目瞭然だった。


「・・そうだった。島村に・・・祖父(トーマス・マクガー)に関することは全て教えて欲しいと言われてたんだ」


当麻は、スケッチブックの中の1枚を破った。
その一枚を、ライティングデスクに置いた直後、ドアをノックする音に返事をした。


「はい、起きてます。けれど・・まだ着替えてないので、・・・」


病み上がりなんだから、気にしないでいいんだぞぃ。と、言う声はグレートの声だった。


「あの、お願いがあるのですが・・・」


ドア越しに会話しようとしたけれど、当麻は一拍置いて部屋のドアを開けた。


「どうだ?今朝の気分は?朝食のお誘いなんだがな・・あ?!」


招きいれたグレートの瞳は、部屋の様子を知り一瞬だけ驚きに瞳を見開いた。


「・・・・その痛みはな、みんな一度や二度、いや・・数じゃない。生きている限り、一生付き合っていかなければいかん、痛みだ」


視界に捕らえる開いた状態のスーツケースに向かって独り言のように、グレートが言った。
役者なだけあって囁くような小声であったにも関わらず、当麻の耳へと届き、するっとこころに入っていった。


「痛みに種類なんてない、”ただ痛い”。意味も理由もない。そしてその痛みは、人を豊かにして思慮を深めるきっかけとなる」


斜め後ろに立つ当麻へと躯を回転させて、彼の真正面に対峙した。


「・・グレートさん・・・・」


そして、当麻を昨夜飲んだアルコール臭が抜けていない躯で抱きしめた。


「・・・まあ、痛みを”快感”に感じる性質を持つのは、考えもんだが・・・芸術家になるなら、それくらいの勢いが必要だなあ」


当麻は、グレートの肩を借りた。


「・・ぼくは・・・島村に、負けたとは思ってません。けれど・・・」


借りた肩を熱く濡らしながらも、強がってみせた。


「去り際を、心得ていない、わけ、・・じゃ、・・・・」
「・・・申し訳ない、当麻くん」
「謝らないで・・ください。・・それは、おかしいですか、ら・・」




世界は広い。
必ず、フランソワーズ以上の、当麻くんに似合いの女性と出会えるさ。


「・・・グレートさん・・・・、この、痛みに・・・効くクスリを・・、ギルモア博士はもってませんか・・・・」
「ないない・・・。さすがの博士もそればっかりはな。それに、そんなもんがあったら、みーんな生きているのがツマラン人生になっちまう」
「・・・そうですか」
「だが、敢えて言うなら。ジョーを一発殴ってみたらどうだ?多少は、マシになるんじゃないかい?」
「・・殴ったら・・・ぼくの手の方が、怪我を・・・しそう、です」
「そんときゃ、もうしばらくココ(邸)にいればいいんじゃないか?・・・出て行くのを延期できるぞ」


ふっと口元で笑った当麻だが、はっきりと言い切った。


「・・・・ぼくはフランが好きなんです・・だから」


わかっているさ。と、当麻が口にする前に力強く頷いた。














####

当麻を朝食に誘いに行ったグレートはなかなか戻ってこなかった。
そのまま放っておけ。と、ダイニングテーブルに着くアルベルトが心配する張大人に言った。

食後の珈琲はリビングルームでテレビを見ながら、朝刊を広げて。が、定番のアルベルトだったが、今日は違っていた。同じように朝食の席についているピュンマと海も、リビングルームのソファでダラダラとテレビを見ながら今日はどうしようかと話すのだけれど、朝食後もダイニングルームに居た。


「っていうかさあ、そろそろ起こさなくていいの?」
「いつ寝たのかわからんのだから、・・仕方ないだろう」


每朝欠かさず観ている朝の連続テレビドラマが観られなかったことに、不機嫌さは表れていない。


「テレビいいの?」
「昼に再放送をする。・・・週末には一週間分まとめて放送もしているからな」
「へ~・・・」
「今朝はフランソワーズさん・・どうしたんですか?」
「そういえば、遅いね」


ピュンマは海の声に頷きならが”脳波通信”でフランソワーズに声をかけようとしたが、その行為を読まれた張大人に同じ通信を使って止められた。


「まあ、そういうコトもアルね」
「・・・・”アレ”と関係あるのかもな」


住人が現れたら朝食を皿に盛りつけて配膳するだけとなったキッチンで、張大人の仕事はもうない。
彼は自分の分の朝食を手にアルベルトの隣り、海の正面に着いた。


「アレねえ・・・。爆睡もいいところだよね、・・珍しい」
「ジェットがいたら、何かするんだろうが」
「あー・・そういえば、そういうこともあったよね!め・・・」


ピュンマは”メンテナンス中”と言う言葉を言いかけて、飲み込んだ。
そして言い換える。


「怪我してさ、ちょっと長くベッドに寝ていなくちゃいけなかったときのジョーにさ!」
「なんだ?」


数多い戦歴の中で、そんな状況は日常茶飯事だったため、アルベルトはいったいどの話しを持ち出したのか検討がつかなかった。


「ほらっマニキュアっ!」
「ああ!アレあるかっ!!」


”マニキュア”で、張大人が反応した。

「グレートがどこで手に入れたのか、スカイブルーのキラキラっとしたラメ入りのマニキュアを持ち出してきてさ!」
「なんで、グレートさんがそんなのを持っていたの?」
「グレートだからじゃないか?」
「グレートだから仕方ないアルよ」



そう言うならそうなんだろうと、今は納得しておくことにした、海。


「それでねえ、海、ジョーの手と足に塗ってあげたんだよ、ジェットが。でも下手だったから、わざわざグレートが塗り直したりしてさ」
「わお・・・。島村先輩、めちゃくちゃ怒ったんじゃない?ピュンマ」
「ところがどっこい!」


ああ、そんなことがあったな。と、癖のある笑い方をしたアルベルトが話しに参加した。


「オレも思い出したぞ。・・・ブルーのキラキラした不気味な指のまま、まったく頓着せずに戦場に出て行ったんだ」
「えええっ・・・そんな漫画みたいなことってあるの?!」
「まあ、そんな爪くらいで何がどうなるってことはなかったアルけれどねえ」
「問題は、フランソワーズだったな」


そのときの様子を思い出した3人は明るい夏の朝のダイニングルームに笑の花を咲かせた。





「・・・ん・・・m」

リビングルームの遮光カーテンは仕事を請け負ったままでいた。
L字の大型ソファは、ジェロニモもその躯をゆったりとくつろがせることがができる、特注品。
そのソファに足を伸ばして背の部分に縋るように躯を寄せて眠る青年が一人いた。

涙を流した痕跡は、頬に張り付いた長い前髪。
寝相が良い方だとは思うけれど、寝返りをうつ広さを夢の中からでは測れなかったようだ。


ダイニングルームでいくつかの笑いの花が咲き終えて、再び張大人がキッチンへと戻ったときだった。


「ぅわっ!」


滅多に聴くことのできないマヌケな発声と、ドスン!と尻餅をつく軽い音がフローリングに響いた。


「???」


堕ちる瞬間の不気味な浮遊感と同時に受けた衝撃に目覚めたジョーは、いったい自分の身に何が起きたのか判断できず、呆然とソファとガラス作りのローテーブルの間に挟まっていた。


「なんで、・・・こんなところで、・・俺は・・・」
「知るか」


ダイニングルームから駆けてきた家族と、そのゲストにもう一つ笑いの花を提供することになったジョーは、差し出された冷たい手にひっぱられながら立ち上がった。


「ジョー、顔でも洗ってッキリしておいでよ」
「きっと疲れてたアルヨ・・そのままお風呂に入ってゆっくりするヨロシ。着替えはワタシが部屋から持ってきてあげるネ」


乾いた涙で引き攣る顔を洗うためにバスルームへと向かった、その先でジョーは報告を受け取った。













====28に続く









前回が前回だったので、9さんは夢に見るのって( ̄ー ̄)ニヤリと思っていたら。
3を女子高生に仕立て上げていたのでありました(笑)

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