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Je vous souhaite bonne chance(後)
Souhaite-moi bonne chance (前)






波音が心地よいBGMとなる、海辺のログハウス。
サイボーグである彼らが一時身を置く場所として選んだにしては、とても大胆な隠れ屋だった。


暖炉にくべた薪がパチン!と指を弾くように鳴った。

リビングルームの暖炉前でロッキングチェアに深く腰を下ろしているギルモア博士は、手にしているパイプから、ゆっくりと吸い込んだ煙が肺を一巡する感覚を楽しみ、輪っかを作るように吐き出した。

今夜の夕食はジョーの好きな海老のチリソースに、生春雨巻き。しいたけのさっぱりサワースープ。
フランソワーズが張々湖飯店へお手伝いへ行った日に持ち帰ってくる夕食は、大概にしてジョーが好きなメニューが選ばれる。
その辺りの乙女心をジョーは気づいてないようだ。と、食後のお茶を待ちながらノンビリと考える。


ーーーいまさら気づいていない・・わけはない・・か。


腰を捻って、後ろへと振り返る。
ドアの向うにはキッチンと一つになったダイニングルーム。
二人は夕食の後片付けと食後のお茶の準備をしていた。







「・・これでいいかな?」


シンクに溜めたお湯の中に使った食器を浸し、スポンジを手に取ったフランソワーズへ、新しくストック用の棚から出してきた洗剤を渡した。


「ありがとう」
「ラベンダーでよかった?」
「ええ」


セット売りになっていた新発売の食器洗剤の香りは全てバラバラだった。


「紅茶の葉は・・・どれにしようか?」


新しい洗剤からラベンダーの香り。
スポンジいっぱいに泡立てたフランソワーズの手を見つめていたジョーは、そのままキッチンに居るために自分にできる仕事を探す。


「これが終わったら、私がするから」
「お茶くらい、僕だってもう、淹れられるさ」


目に入った紅茶缶を3,4個ほど棚から取り出した。
リズムよく食器を洗う水音。波音。リビングルームからニュースを読み上げるアナウンサーの声。
コンロにかけたポットは沸々と水を温める。

水切りカゴにお皿が並ぶ。
ツルッとピカっと、CMの謳い文句通りの洗浄力。


「どれがいいのかな?」
「・・・今夜は、レモンでいただこうかしら。ジョーは?」


フランソワーズはジョーへに背を向けたまま、答えた。
彼女の動きに合わせて揺れる亜麻色の髪。跳ねた髪の角度に、ルームライトがキラキラと散っている。


「キミと同じで」
「そう?・・・」


ギルモア博士は?と心に浮かべただろうフランソワーズの疑問に答えるように、ジョーがキッチンから出て、リビングルームへむかった。
003であるフランソワーズだから聞こえているだろうけれど、リビングルームから戻ってきたジョーは、ギルモア博士もレモンで良いという解答を伝えた。

水切りカゴにすべての食器を並べ終えて振り返ると、ティポットに熱々のお湯が注がれていた。
レモンティに合うだろうとジョーが選んだ葉がジャンピング中のようだ。
揃いの3つのティカップも並べられている。けれど、肝心のレモンの姿が見当たらない。

胸前で腕を組み、真剣な表情で砂時計を睨んでいるジョーの姿に、フランソワーズはくすっと笑う。
缶の蓋は開けっ放しの上に銀スプーンが刺さったままだ。
ジョーの後ろを回って缶を手に取り、銀のスプーンをシンクに置く。缶の蓋を閉めて、同じく棚にしまわれずに出しっぱなしな缶たちを元の場所へと戻した。

棚に伸ばした手が流れて冷蔵庫へと伸ばされる。鮮やかな黄色を選び出し、ジョーの隣へ。


「あっ・・ごめん・・・」


砂が半分ほど落ちた。


「いいの」


カット用の小さなまな板と果物用のナイフをジョーに頼んで取ってもらう。切ったレモンを置く小皿も一緒に。
真ん中から大胆に切る。


「フランソワーズ」
「なあに?」


すべての砂が落ちた。
フランソワーズの隣で、ジョーはレモンを切るフランソワーズの手元をみながら、砂時計をひっくり返した。


「今日は・・どうだった?」
「この間よりもお客様が増えてる気がするわ」
「そっか・・」
「明日にね、アルバイト募集の広告を出すのですって」
「ふーん・・」
「私たちに頼ってばかりじゃいられない、ですって」
「気にしなくても、いいのにね」
「・・・もうすぐしたら、作ってもらえなくなっちゃうのかしら?」
「ん?」
「どうしましょう・・私、あまり上手じゃないから・・・お料理」


スライスしたレモンを小皿に載せた手が止めて、ふうっと軽いため息。
お菓子やケーキ作りは好きだけれど、と付け足した言葉に、答えた方がいいのかどうかジョーは迷う。
そんな表情がすぐに顔に出てしまうジョーの、真っ直ぐで正直な性格そのものだ、とフランソワーズは幸せに感じる。

残ったレモンをサランラップで包み冷蔵庫へ戻したのは、ジョー。
フランソワーズはシュガーポットをトレーにのせた。


「ああ、砂糖か・・・」


自分が用意し損ねていたことに焦るジョーが、微笑ましい。
トレーの上に用意したものを二人で一緒に確認する。


「準備OKね、ありがとう」
「あっ・・」


トレーの上にティポット。保温用のカバー、最近知った”ティーコゼー”という名前のをかぶせて。


「どうしたの?」


お揃いのティカップは1つ1つの花模様は違う。


「足りないって思わない?」
「え?」


ギルモア博士は薔薇。ジョーは鈴蘭。フランソワーズは、菫の柄。


「うん、やっぱり足りない」


シュガーポットの中には角砂糖。角のない、コロコロと転がる丸い形で、白と茶の2色が入っている。


「甘いものが欲しいの?」


小皿には輪切りにしたレモン。


「いや、そうじゃなくて」


ジョーは「足りないなあ」と言いながらトレーを持ち上げた。
フランソワーズは不思議そうにジョーを観る。その顔にたくさんのクエッションマークを描く。


「わからない?」
「・・ええ、わからないわ」
「この上に、もう一つ乗せていなくちゃいけないのはね」


モゾモゾとした口の動き。
何か言いにくそうな、くちびるの、動き。


「・・・ええっと、」


トレーを持ち上げたまま、足は一向にリビングルームへと動き出さない。


「あのね」


フランソワーズは頭の中でトレーの上にないものを一生懸命に考える。甘いもの、以外になにがあるのだろうか、と。
夜のデザートは、ギルモア博士の健康のために控えようと、この間二人で決めたばかり。だけど、食べたいときもあるからときどきは、ということで話しをまとめた。

食べたいけれど、言い出せないのかしら?だったら、私が言った方がいい?
頭の中で冷蔵庫の中にある、チョコレートのマーブルパウンドケーキを描いた。


「キミの、誕生」
「え?」
「・・・キミの、誕生日の日」
「私の、・・・誕生日?」


そう、私の誕生日は、来週。と、今思い出す。
キッチンにはカレンダーがないので曜日までは確認できない。


「空いてる?」
「・・・特に・・予定なんてないけれど・・・・」


張々湖飯店のお手伝いの予定が入っていた気がする。気がするだけで入っていなかったかもしれない。あとでちゃんと確認しなければ。
フランソワーズは、頭の中のto do listにチェックを入れた。


「ここに、乗ってないのは、キミの、予定」
「・・・、」
「24日に白紙の、キミの予定をのせてくれたら・・・、僕がその日1日をいただきたいのですが・・・」



何を言っているのだろう。
フランソワーズは、ジョーとの会話を再生しては巻き戻す。




24日。

予定。

誕生日。

開いてる。

乗ってない。

お茶。

トレー。



お菓子。







24日。


誕生日。



1日。



いただきたい。











「つまり」


遠まわしすぎる言い方だ。でも、初めに少し助走を付けたかった。
流れを掴みたかった。
きっかけになる空気が欲しかった。だから、こんな言い方になった。


「キミの誕生日に、さ」


呆然とするフランソワーズをちらっと観て、ジョーは足をリビングルームへ向けて動かした。


「僕とデート・・・しよう」


ダメだ、彼女の顔を直視できない。


「答えは・・キミが持ってきてよ、向うで待ってるから。・・・ダメならダメで、いいから。・・教えて」


顔が熱い。
特に、頬の真ん中。じ
わじわと熱が広がっていく。
心臓が、紅茶の葉よりも勢いよくジャンプしている。



「じゃあ、これは持っていくね」


キッチンに、フランソワーズを一人残してリビングルームへ。
ビリジアングリーンが鮮やかなソファが気に入ってギルモア博士が購入した北欧デザインの応接セット。
ロッキングチェアから移動して、テレビが見やすいソファへと移動した博士がジョーを迎えた。


「おまたせしました」
「おお・・・?・・・・・ありがとう」


ジョーの顔が紅いことに気づくが、特には触れなかった。
テーブルの上にトレーを置いて、ジョーが紅茶のサーブを始めた。


ポットを手に、紅茶を注ぐジョー。
キッチンにまだ居るであろう、フランソワーズがこちらへやって来る気配がない。


「フランソワーズは・・」


3つ目のポットへと紅茶が注がれ始めたとき、アナウンサーが代わり、スポーツニュースへ。
明るく元気な曲が流れ、その曲に似合った元プロ野球選手が解説が始まる。

波音が遠ざかる。
暖炉にくべた薪が手を叩くように跳ねて、よく響く。
ジョーは注ぎ終えたティポットに保温用のカバーをかぶせ終えて、ギルモア博士への前に紅茶を置いた。


「・・・フランソワーズ、は?」


胸にじんわりと滲む香りを楽しみながら、ギルモア博士がティカップを持ち上げた。
紅い顔をしたジョーと真正面から、視線が合う。

彼の瞳が涙目になっているようにみえた。
硬直した躯をぎこちなく揺すっただけで、ギルモア博士の質問に答えず沈黙する。












スポーツニュースが終わり、芸能ニュースに切り替わった。



「デートに誘いました。・・・答え待ちです」
『ついに噂のカップルが公にお付き合いを宣言しました!』


女性アナウンサーが興奮した様子で、ジョーの声に被る。


「・・・ほお、」


ギルモア博士が小さな感嘆の声を漏らし、一口、紅茶を口に含んだ後、フランス語で呟いた。



「Je vous souhaite bonne chance」
「・・どうも」










まもなく、フランソワーズがフラフラとした足取りでリビングルームへとやってくる。









end?







*Je vous souhaite bonne chance = I'll pray for you. =あなたに幸運があることを!*
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コメント
えーっつ?フランちゃんどうするの?即答だと思っていたんだけど、そこはさすがACHICO様。ジョーラブの心をつかむ萌えシチュエーションを心得ていらっしゃる!?涙目の真っ赤なお顔の少し情けないジョー君、いいですね。でも、フランちゃんが一生懸命予定を思い出そうとしていたとこ見ると、きっと返事はOKなんでしょう。神父様に報告に行かなきゃいけないんですものね。
フランちゃん、きっとお料理うまいと思います。お菓子だけじゃなくて。エビチリソース、しいたけのスープ、生春雨巻きいいなあ。いつも、ACHICO様のお料理におなかがなりそうです。

神父様になんて報告するんでしょう?フランちゃんはそれきいてどんな反応するんでしょう?
続きが読みたいです~!!
2012/01/26 Thu| URL | ogityarina [ edit ]
こんにちは。

本当にフランちゃん、どうするんでしょう・・(笑)フラフラ~っとリビングルームにやってきました。で?(笑)ですよねえ。

このお話は、前後編で終わり・・なので。
ですが、私もなんだかこの後が気になって・・。ああ!いけません。私の悪い癖なんですっ。話しを長く引き伸ばしてしまうこと!!なので、続きはogityarina さんのお好きな妄想でお願いいたします。

魚介類は甲殻類が苦手だった、なんて設定がスルッと出てきてビックリなこちら(笑)
海老チリ、最近食べてないなあ・・・と思って出しました。食いしん坊なので、ご飯ネタが多い=お腹が空いた状態で創作しているです(^_^;)

楽しいコメントをありがとうございました。

2012/01/26 Thu| URL | ACHIKO [ edit ]
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