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クビクロはウィンクをした。



やさしく撫でてくれる小さな白い手にうっとりと身をまかせている。
いつも世話をしてくれる主人ではないグルーミング。
申し訳ないけれど、ご主人のそれよりも心地よいと感じている。
もちろん、ご主人のグルーミングも大好きだけれど、女性のそれはまた違っているのだ。と、言い訳してしまう。

犬だけれど、雄であるがゆえに理解していただきたい。



「遅いわね」

ソファの上でクビクロを撫でる手を止めることなく見上げた壁時計。
張りが指す数字に溜め息をついたのは、フランソワーズ。
壁時計に罪はないけれど、自然と見上げた視線は、哀しみを含んだ拗ねた青。

「ここ最近、ずっと遅いわね。・・・ジョーとのお散歩も、最近は朝だけでしょう?」

フラソワーズはクビクロに尋ねた。
彼女の言葉の中にある不満に同意を求められている。
クビクロは気づかないふりをして、ただただ気持ち良さそうにフランソワーズにぺったりとカラダを寄せた。

「クビクロは知っていて?」

ピクリと耳を動かし、フランソワーズの膝にもたれかけさせていた頭をあげる。

「ユリさん、ってジョーから訊いたことはあって?」

ーーーああ、彼女ね。


クビクロは、知っていた。

数週間前に、いつもと違う散歩道を歩いて行った先の、大きな建物の前にいた女性(ひと)のことだ。
ご主人が、”おすわり”を命じて待っているように、と指示した場所は桜の木の下。もうほとんどの花びらが散ってしまい地面がピンク色に染まっていた。



”おまたせ、ユリさん”



主人の背が遠ざかって行く様子を観ながら、耳に記憶していた名前。

「ユリさんって人のところにいるのよ、ジョーは。昨日も、一昨日も、そのまた前も、・・・」

そのあたりの細かいところは、申し訳ないけれどクビクロにはわからない。
小さな欠伸をこぼしつつ、あげていた頭をぽてっとフランソワーズの膝にのせた。すると、クビクロのカラダ全体を撫でていた手が、指を立ててシャンプーをするような動きにかわった。
フランソワーズの手がクビクロの頭をマッサージしはじめる。


ーーー少し、イライラしている。


自分の気持ちを誤魔化すように、何かをかき消そうとする動き。

「・・・きっとね、知ってるわよね?だって、ジョーがサイボーグになる前にとってもお世話になった人だって言っていたんですもの」

そんな感情的な指の動きでも、クビクロにとっては気持ちよくて、気持ちよくて。
クビクロはバターが熱々のトーストの上でとろけるようにうっとりと眼を閉じた。

「ジョーが欲しいものだって、好きなのとか、好みのご飯とか、きっといっぱい知ってるわよね・・たくさん」

最高の力加減だった指の動きが鈍る。
もっと、とおねだりするように、片手を挙げてアピールしたけれど、フランソワーズの眼はクビクロの動きを写していながらも意識にははいってこなかったようだ。


「ねえ、クビクロ・・・・」

フランソワーズの指が完全に止まってしまった。
クビクロは催促するように止まった指に自ら頭をすり寄せてみる。

「・・色々がんばってリサーチしたのよ、わからなくて”欲しいものはない?”って」

指は固まってしまって動かない。

「ジョーに聞いたわ、そうしたらね・・・・・」

頭上から聞こえた溜め息に、クビクロも不満の溜め息を重ねた。

「この間買った、シュミレーションゲームの対戦相手、だったのよ」

ジョーの部屋で座れる場所と言えば、デスク用チェアとベッド以外ないのに、ごく最近になって座り心地よさそうな、ふかふかのクッションが2つ出現したことに納得。
(クビクロは未だに座らせてもらえない)


「・・・私ね、苦手なのよ。バレエと兄のこと以外は本当になにもかも下手なのよ」

フランソワーズの手は止まったまま。

「・・もう来週なのに、ジョーの好きなグラタンとケーキ以外、何をどうすればいいのか・・」

もうこれ以上のグルーミングはないと思い、のっそりとソファから起き上がったクビクロは、まもなく日付けがかわろうとする壁時計を見上げるフランソワーズの頬をペロリとなめた。

「クビクロ、もうおやすみ?一緒にジョーが帰ってくるのを待っていてはくれないの?」

ソファから降りたクビクロに声をかける。

「・・きっともうすぐ帰ってくると思うわ。・・・ね?」

シッポをひゅっひゅっと振って答えたが、足はリビングルームから出ようとしている。

「いっちゃうの?・・おいで!ほら・・・ね?クビクロ、ここに・・、・・・あっ!!」

びっくり箱をあけたときに飛び出るピエロを彷彿とさせるような、飛び上がり方をしたフランソワーズに、クビクロは驚いた。

「わん!」
「ジョーよっ!帰ってきたわっ!!!クビクロ、行きましょう!」

クビクロよりも早くジョーの帰宅に気づいた。
まさに飛び出すと言って相応しい勢いで、フランソワーズはリビングルームからクビクロを追い越して出て行った。

「おかえりなさいっジョーっ!」

リビングのフローリングに足を取られて出遅れたクビクロ。

「わん!!」

声だけは、フランソワーズと同着でご主人を出迎える。

「ただいま、フランソワーズ。やあ、クビクロ、まだ起きていたの?遅くなってしまってごめん。・・でも、言ったと思うけど、僕の帰りを待っていなくていいんだよ?」

ジョーが玄関のドアを開けるよりも早く、フランソワーズが開けた。
クビクロは正面からの主人への挨拶をフランソワーズへ譲り、ジョーの背後に回る。
見上げたジョーの背に、彼がフランソワーズから隠している、・・小さな紙袋。

「最近寝付きが悪くって、だから起きていただけなの」
「・・具合が悪いのかい?」
「ううん、そうじゃないのよ。気にしないで。ねえお夕飯は?」
「食べてきたから大丈夫」

ひくっと、フランソワーズの頬が反応した。
クビクロの柔らかな毛が励ますように彼女の脹脛を撫でる。

「・・・・お茶でも淹れましょうか?もうお部屋に戻っておやすみになる?」
「・・・う、・・・ん・・・っと、お茶、お茶、・・・うん、お願いしていいかな?」
「もちろんよ!」

2人の間を八の字を描くようにウロウロと歩き、ふんふん。と、鼻をきかせて。
ジョーの左手が後ろでに隠すように持っている、プラスティックバックの中へと顔面ダイブ。

「おわっ・・と、こらっクビクロっ!!だめだよっこれはっ」

ああ、これは。

「どうしたの?」
「え?」

お行儀が良いとはいえ方法だけれど。
袋の中にある一つをパクっと加えて、ジョーの声から逃げるようにフランソワーズの後ろへ隠れた。

「こら、クビクロ。それはジョーが買ってきたのでしょ?お行儀悪いわよ」

フランソワーズはクビクロが咥えたシュークリームをジョーの代わりに取り上げた。

「はい」

取り上げたシュークリームを、ジョーへとさしだした。

「・・・あ、ええっと・・それ、キミの分・・・。お土産、っていうやつ?」








ジョーとフランソワーズの2人に怒られたかたちを装い、尻尾を下げてすごすごと二階への階段をのぼっていく、クビクロはちらりと振り返り、ウィンクを一つ。


がんばれ、フランソワーズ!
キミのグルーミングは最高なんだからジョーもきっと同じようにして欲しいと思うよ。










end.






*こちらは「ヨミに咲く花のたね」に去年掲載したお話です。
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コメント
うわあ~。なんかちょっと切ないです!ゆりさんって、あのゆりさんですよね?そんなに遅くまで、何しに行ってたの?ジョー君。どうも、私は原作のころからほかの女性が絡むのが苦手で、(他のアニメは全く大丈夫なんですが)こと、ジョーに関して言えば、サイボーグを忘れたい自分、やさしすぎるので、相手が迫ると断れないなどなどありまして。しかも、ジョー君はしっかり面食いでもあるわけですよね。(原作で、巨人を追っかけて砂漠に行った時、メガネかけたシータって女の子は医師の下敷きになりそうだったけどほったらかしだった!!)それやこれやで、原作、平ゼロ、旧ゼロ、超銀は言うに及ばず。原作と平ゼロの風の都は私の中では封印されてます。だって、フランちゃんがあまりにもかわいそうですもの。けなげだわ~。REフランちゃんはそんなことなさそうですけどね(笑)でも、最後の方で、ジョーがこっそりお土産にシュークリーム買ってきたのには少しほっとしました。でも、犬が一遍くわえたものを、はいおみやげって差し出すのはどーよ?(それがたとえクビクロでも。あの犬、結構お口大きいぞ)
ACHIKO様のお話は切なかったり、ホンワカだったり、ちょーラブだったりしていつもドキドキです。でも、基本は93なのでどこかで安心しながら楽しく読ませていただいてます!!
お仕事ひと段落ついたらRE関連のお話がみられればいいなあ。(←遠慮なし)
2012/05/20 Sun| URL | ogityarina [ edit ]
こんにちは。

待つ女。の代表みたいになってしまったお嬢さんでした。
が!ちゃんとジョーはわかっているのです。
遅くなっても寝ないで帰りを待っていてくれるフランちゃんがいることをっ、です。

クビクロ、ジョーのぶんを食べちゃえばよかったのに、でしょうか。
シュークリームは自分のぶんは買わず、フランちゃんの一個だけだったから、クビクロがくわえちゃってもソレをあげるしかなかったのかも?
いや、きっと自分にはシュークリームじゃなくてプリンを買っていた?!とか(笑)

ゆりさん、は”あの”ゆりさん・・です(笑)
まゆみさんよりゆりさんの方を危険視している私は、なにかとお嬢さんのライバルと思うと、ゆりさんが出てくるのです。
新の中ではまゆみさんやキャシー王女よりもあっさりめな関係だったんですが、そこがひっかかってます。
その後を予想できるので・・・(^_^;)
なので、私の中でゆりさんの出現率が高いです。

風の都は私、好きなんです。じ、実は一番初めに読んだ(記憶した?)009が風の都だったので。
しかもお姫様だ~(^^♪と、・・イシュキックが好きだった幼い私・・。

色々な93を楽しんで下さっていて嬉しいです。
Reの93も映画の情報が増えれば、少しずつ妄想が広がっていくと思います。
すでに、ジョーの学ラン姿に怪しい妄想を展開中なんですが(笑)
今は、まだジョーのお誕生日妄想に浸っていたりします。

楽しいコメントをありがとうございました。
2012/05/21 Mon| URL | ACHIKO [ edit ]
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