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雨トキドキ不思議



冬によく蒸してもらった、張々湖飯店自慢の手作り肉まんたちは、毎回こんな気分だったのかもしれないな、と思う。


ーーー蒸し器に入れられた日本列島は、秋にやっと食べらごろになるのかな?


密やかな笑みを顔に忍ばせて、手に持っている封筒が汗に濡れないことだけを気をつけながら歩き続けた。

熱射地獄と化すアスファルトでキチンと整備された道路。空気が歪んで視界に映る街が微妙に歪んで見えて、街の雑踏もどこかいつもよりも反響が大きい気がした。

まぶしすぎて見上げることが叶わない空を、細めた視界の先にある小さく囲われたビルの合間に観る。
塗りつぶしたような青が、詰まっていた。







目的地である雑居ビルへと辿り着き、冷房の効いた室内でほっと一息つくと、背中に掻いていたらしい汗を染みこまえたTシャツに体温が奪われていく。
温度さに少し足がふらついた。

受付の警備員にビルに入った目的を短く伝えたながら、メールに添付されていた紹介文を手に持っていた茶封筒から出した。
カタカタと小刻みに揺れる粗大ゴミから拾ってきたようなダイニングテーブルっぽい机に置く。
紙の中の文を一瞥した後、警備員は私物と思われる携帯電話をどこからか取り出した。

「少し待っていてくれ」

酒やけした声で言われる。





ダイニングテーブルだっただろう受付用のテーブルから離れた体は、古いデザインの自販機前に立つことで体裁を保つ。
視線は並ぶジュース類へ。

飲みたいようで、これといって飲みたいモノがない。
紙パックオンリー販売の自販機は、飲めそうなコーヒー牛乳が売り切れ中。
牛乳は品切れ中。
残るはバナナオーレ、いちごオーレ、飲むヨーグルトに、ちょっと怪しい抹茶ミルクオーレ新発売。

「もしもし、・・はいはい。・・・若いお客さんだよ」

観られるだけ観られて、結局なにひとつ買ってもらえなかった自販機が抗議するようにヴーンと唸った。






日差しに熱された髪がジンワリと室内の空気に馴染んだころになってやっと、呼び出してもらった相手が現れる。
クールビズが普及されつつある日本のサラリーマン社会だけれど、現れた男はその最先端を良く姿だった。

「いやいやいやいやいやあああ!スンマセンなあ!お待たせいたしましたっ」

白地に赤のハイビスカス模様のシャツに短パン+ビーチサンダルに微妙な関西訛り。

「よお、持ってきてくれたな、ご苦労さん」

正直に”驚きました”の顔を載せる訪問者にたいして一向に構うことなく、応接セット一つない雑居ビル1階の入り口、エントランスの小さな空間で話しを進めていった。
観客は警備員。
舞台セットは自販機(紙パックオンリー)とプラスティックの観葉植物。

「・・・伝統というか、先代からの方針でしてねえ、堪忍してや」

インターネットが一般家庭にも普及して久しいこのご時世に、原稿の受付は手書きの原稿用紙のみ。を、徹底させる出版社は珍しい。
大学生あたりだろうか、と、視線で値踏みしつつ手渡された原稿をその場で封筒から取り出した。

「ちょっと斜めってるけど素直な字やね」
「あ、・・ありがとうございます」

アロハシャツ(っぽい)男が務めている出版社は、この世のありとあらゆる”不思議”を集めた季刊誌を出している。
正しくは、経営できていること自体がこの世の七不思議にはいる出版社が唯一出している、季刊誌だ。

「よう書けとるわ」
「どうも、・・」
「これやったら十分や。原稿用紙・・20x20の・・1,2,3,・・・おおっと、君はこれが初めてやったか?」
「ええっと・・このお話をいただく前は・・はがきで投函させてもらったんですが」
「そやそや!はがきでやったな」

自分が描き上げた原稿を買い取ってもらう。
初めてのことなので、青年はただただ成り行きを見守るしかできない。

「契約している書き手さんしか振込みしいひんねん、聞いてるか?」
「いえ、電話では何も・・・」
「さよか。じゃあ今言っとくは、持ち込みしたらみんな生や」
「生?」

生と聞いて思い浮かぶのは、ビールジョッキの絵面。

「生、現生、キャッシュや」
「ああ!・・・・」
「1万と2千円ってところやけれど、ええもん書いとるから、今日は1万と5千円にしとくわ」
「え?・・・いいんですか?」
「かまへん、かまへん、もらっとき」

原稿用紙を封筒にしまい、小脇に挟んだ後、男はアロハシャツの胸ポケットから薄い二つ折りの財布を取り出した。

「んー・・・兄ちゃんお釣りもってるか?」
「は?」
「万札しかあらへん」
「あ、は、・・はい」
「んじゃあ、5千円戻して」


青年は慌てた様子でジーンズの尻ポケットから財布を取り出し、五千円札を取り出し、2万円を受け取ってそれを渡した。


「また書けたら電話してな」
「は、はいっ」
「慌てんでええから、”本物”を見つけてきぃや」


男はじっと青年を見た。
青年は財布を元に戻してから、ゆっくりと頷いた。


「ありがとうございました」
「きぃつけて帰り、・・もうすぐ雨が降るで」

言われた言葉に反射してビルの薄汚れた入り口のドアへと振り向いた。


ーーー雨?


「雨の臭いがしとるわ」と言いながら、警備員に対して片手で挨拶をしてエレベータのないビルの、階段を面倒くさそうに上がって行く。

「明智さんの天気予報は当たるよ」

ドアから視線を戻して、その姿が見えなくなるまで見上げていた青年に声をかけたのは、二人のやり取りを何気なく観察していた警備員だった。

「鼻が効く人だからね」







一歩ビルを出た瞬間に息苦しく思うほどの湿気に襲われる。

暑さはビルに入る前よりも増していた。
緊張していた思考が熱と科学反応をおこして浮き上がっているような、無重力感覚に翻弄される。
無重力のようにふわふわした思考なのに、歩いてきた道を戻るのが面倒臭い。躯はふわふわする思考と相反して一歩進むごとに重くなるからだ。
火傷しそうなほどに熱いはずだと、決めつけているアスファルトの上に足を賢明に交互に前へと出しながら、行きしなには目もくれなかった店を物色する。

咬み合わない躯と思考のバランスを取るにはちょうどよいお題だった。

冷たいものなら、邸近くの駅周りで購入した方がいい。
アイスクリームを無事に持ち帰る自身はさすがにないから、却下する。

この暑さの中でケーキを持ち歩いて大丈夫だろうか?
それよりもシュークリームやエクレアがいいかも。

ゼリーの方が好まれるかな。

水ようかん、わらび餅、あんみつ。
和ものスイーツはどうだろう。





街の活性化は駅周りから。と、いうフレーズはどこで覚えたのだろう。
賑やかな繁華街の中。
左右に視線を振って歩いていれば規則正しく交互に出していた足の動きが当然鈍る。


「?」


加速、した覚えはない。

青年の周りを歩いていた、動いていた、世界が一瞬、ニブル。


トマル。







「あ。」





突然、指先をつかった衝撃。
トン!と、肩を叩かれて振り返る。


暑さによろけたようにバランスが崩れた。
自分の背後を歩く人間に気を配れる余裕はなく、不意をつかれた。
振り返った方角に、シャツを丸く濡らしたシミ。


ーーー雨だ。







小さな悲鳴。
驚きの声。



雨音と目が写している風景とがかみ合っていなかった。
濡れて染まっていくアスファルトが叙々に近づいてくるけれど、雨音は耳朶の舌にぶら下がっているように激しい。

激しい雨音に混じった突然の雨に翻弄される人々の声と、足音。


「まいったなあ」




駅前の小さな書店の入り口に並べられている雑誌たちの中に、それを見つけた。
片隅で日焼けしてしまった表紙の写真と使い古された煽り文句、「宇宙人は存在する!」の、インパクトの無さに、これは自分が買ってあげなければ、と思うしかなかった。
日焼けした雑誌は何年ものか?と、アンティークなモノに対するワクワク感で読み進めると、それが今年の秋に出版された最新号であることに、驚いた。
投函したのは、ほんの暇つぶしと、自分が経験した”不思議”をどこかの誰かに伝えたいという、秘密の共有者を求めた好奇心、だった。




「次、何が書けるかな」



アスファルトを跳ねる雨よりも高く、新米投稿記者、島村ジョーのこころは弾んだ。




















***

「傘を忘れていったのにはきづいていたわ・・」

パンツのゴムまでしっかり濡れた姿で苦笑い。

「雨が降るから持って行って言ったわよね?朝、私」
「うん」

フランソワーズの口から吐き出された息に含まれる熱は、少しばかり怒っているせいだ。

「タクシーを拾わなかったの?」
「うん」
「どうして?」
「うーん・・・」
「加速しなかったの?」
「うん」

薄暗い玄関を明るく照らす照明が眩しい。

「もうっ・・取材先で困らないようにって、せっかく博士がご用意してくださったのに、たくさん!」
「うん」

出会いは、嘘のような本当。
妖怪、宇宙人、超常現象、エトセトラ、エトセトラ。

「タオル、持ってくるからそこにいてちょうだい。靴下もジーンズもここで抜いじゃってね、廊下が濡れちゃうわ」
「うん」
「・・もお・・・困った人なんだから」

雨足が強くなってきている音が空洞のように人気のない邸の中を走る。
去っていった足音が、戻ってくるのを聞きながら、いつも留守番をしていてくれるフランソワーズへのお土産を買いそこねたことを思い出した。

「ごめん、また何もないんだ・・」

多すぎるほどのタオルを手に玄関へと戻ってきたフランソワーズへ、眉を下げて謝った。

「あるでしょう?」

手に持っていた一番大きなタオルでジョーを頭からすっぽりと包む。

「?」

いままで乾燥機にかけていた、と思わずにはいられないほどに、温かい。匂いがいい。

「どんな不思議とであったの?」

タオル越しにのぞかせたジョーの瞳が、嬉しそうだ。

「・・・あのね、」
「まって、まって・・先に靴下とジーンズ!このままじゃ風邪をひいてしまうわ!」













end.











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コメント
いいなあ
こんにちわー。エントランスがすごく夏っぽくなっていて驚きました。ACHIKO様の描くイラストって、すごくほんわかしてて好きです。防護服を着ている時の画でもなんとなく、微笑んでしまう。ちびジョーとちびフランちゃんに至っては、以前も言いましたが誰かマスコット作ってーって感じです。
REジョーの設定が衝撃的だっただけに(なんでじょーだけ!?まるで戦うためだけに生かされているみたいじゃないですか)、ACHIKO様のとこのお土産に悩んで、パンツのゴムまで濡れてる(雨宿りって頭はなかったのか??)ジョー君、現物のお土産がなくても、ふんわり笑って、あるじゃないっていえるフランちゃんにほっとします。フランちゃんの洗うタオルってふんわりしていていいにおいがしそう。
そうそう、日本のこの時期って確かに張さんとこの蒸しまんじゅうの気分ですよね(笑)
いつもながら、ACHIKO様の食べ物の描写(だけではないですよ、もちろん)に感心することしきりです。
お口の中は、今日はゼリー気分になりました。

また、ラブーなお話待ってます♡
2012/06/10 Sun| URL | ogityarina [ edit ]
こんにちは。
絵にコメントをいただけて、嬉しいです。ありがとうございます。
エントランス、梅雨も何もかもすっ飛ばしまして、夏にしました(^^ゞ
なんだかそういう気分だったんです(笑)

REジョーの設定にはビックリしましたね!
でも、そうなるとよく原作で「僕達はサイボーグでも、人間だ!」って訴えていたことと違ってくるので、映画の中で納得できるお話であることを願っています。
・・願っているので、パンツのゴムまで濡れてしまう人間味?!あふれるジョーをひとつ(笑)
雨宿りする時間がもったいなくて、早くフランちゃんに会いたかったのが理由かもしれませんよー(^^♪

お洗濯上手なイメージを持たせつつある、フランちゃん。
お料理上手は張さんにまかせて、フランちゃんは洗濯上手の方がいいかも?なんて・・・。
でも、食いしん坊には変わらないんです(笑)
関西出身なので、肉まんといえば551なんですが、夏でも美味しくいただけますv

ゼリー!大好きです。
水ようかんが美味しい季節になりました。
わらびもちも、おやつにいいんですが、扇風機に飛ばされてしまう、きな粉にあたふた(笑)するんです。

楽しいコメントをありがとうございました。
2012/06/18 Mon| URL | ACHIKO [ edit ]
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