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秘密の共有者
あまり思わしくない内容に、ため息をつきながらジョーは言った。

「仕方ない、行くしかないよね」

ノートパソコンのウィンドウに表示させたブラウザは、フリーメールアドレスの受信ページ。
ジョー宛に、ではなく、それはギルモア博士宛だった。

「行くの?」
「うん」
「いつ?」
「明日の朝」
「博士へは?」
「電話しておくよ。・・留守をあずかっている僕が、今は”ギルモア”代表だからね」
「その、代表者が出ていったあとは、・・・どうなっちゃうの?」
「次の代表者をたてる」
「次はぁ、だあれだ?」

ジョーにコーヒーのおかわりを淹れてきたフランソワーズは手に持っていた丸いトレーを腕に抱き、くるっと180度躯を回転させた。
リビングルームには、くつろいでいる仲間たちがいる。
フランソワーズの態度は、次の代表者が自分ではないとわかっているようだ。

もちろん、ジョーがフランソワーズを代表者に選ぶことはない。
リビングルームにいる誰もがしっていた。


「悪いけど、・・そうだな、張大人とグレートは僕についてきてもらうよ」
「アイアイ!”ギルモア”博士、よろしくね!」
「了解いたしました、博士、吾輩がお供いたしまする」

科学会では伝説となっている”ギルモア博士”。
有名になればなるほど同時に、危険が伴ってくる。



アイザック・ギルモア。
彼だからこそ。


「ハイン、頼んでいいかい?」
「・・・何をすればいいんだ?」


ギルモア博士を守るため、00メンバー・サイボーグたちはギルモアの存在(姿)を隠した。
表(世間)から身を隠し、代理(00メンバーたち)が動くことで、アイザック・ギルモアという人物の情報操作をはじめた。

老若男女、年齢不詳。
自由気ままに返信したグレートがギルモアの名で現れるたびに、容姿や性別がかわる。
噂は尾ひれ背びれがついて混乱していた。
最近は代理と名乗る者が招待に応じることが多いせいで、死亡説も浮上している。

「朝晩、欠かさず”ギルモア”宛のメールをチェックすること。返事についてはマニュアルどおり」
「了解」
「あと、博士が存命である、てこと、強調」
「了解」

死亡説、に関してはギルモア博士自身が難色を示したので、本人の意思により、存命であることにこだわっている。

現在、ギルモア博士はジェロニモ、イワンと一緒にアンデス山脈の麓にある小さな村で暮らしていた。
赤十字グループから派遣された、ボランティアドクターとして。

他のメンバーも赤十字グループから派遣された調査員として、2,3ヶ月に1度、3人の元へと向かい交代する。
今はピュンマが出向いていた。

「じゃ、あとをよろしく」

テーブルに置かれた、コーヒーカップを持ち上げて、淹れたての薫りを吸い込んだ。

「ジョー、何泊くらいしそうだ?」
「新しいスーツケースの出番ある!」
「ジョーはスポーツバックでいいのでしょ?」

グレートが立ち上がったことで、広くなったソファにゴロリと寝っ転がったジェット。
退屈で仕方がない、と言いたげなあくびをした。
自分の名前があがらなかったことに不満はない。代理を引き受けるのは面倒だ。
けれど、なにもないってのもつまらない。

「3泊4日かな?延びる予定もいれて、一週間分かもね。予定が伸びたとしても、大人はこっちに戻ってきてほしいな。もうすぐピュンマと交代だし」
「あいあいネ。ワテは3泊4日の予定アルね!」

代理となったハインリヒは、ギルモア博士の特等席だったロッキングチェアに座っていた。
博士がいない今は、彼の定位置となっている。
今日の夕刊を、電車内で邪魔にならないサイズに畳んだサラリーマン風にして読む。

「フランソワーズ、スーツも用意してくれるかい?あと、キミのスーツケース貸して」

グレートと張大人はまるで遊びに行くかのように、ルンルンと弾んだ足取りでリビングルームを出ていった。

「いいわよ、貸してあげる。スーツは2着用意しておきましょう、シャツとネクタイはいくつくらいいるかしら・・あと、アメニティに・・」

2人の後を追いかけるように、丸いトレーを抱えたままのフランソワーズも部屋を出ていく。

「自分の荷物くらい、自分で用意しろよ」

小さな舌打ちと一緒にジョーを注意したジェット。

「ああいうの、苦手なんだよ」

即答する、ジョー。

「まあ、そういうな。ジェット。フランソワーズはジョーの世話をやくのがいいんだ。ジョーもそれをわかっていて・・だろう?」
「そういう女、重たくないか?」

ジェットがソファから起き上がった。よ!っと、口で勢いの音を出しながら。
ハインリヒとジョーが、ジェットの発言に思わず視線を合わせた。

「重いと感じたことはないな」

過去の、誰かを思い出したのだろう。
ハインリヒの口角が少しばかり甘くつり上がったのをジョーは観ていた。

「そうだなあ。僕は、重い、なんていう発想自体なかったよ」
「ああいうのは、あとでごたつくぜ?」

チラリと視線で、今しがたフランソワーズが出ていったリビングルームのドア口をみたジェットは、自慢の長い鼻で笑った。

「ごたつくってなに?」

ジョーはテーブルに置いていたノートパソコンを膝に置き、開いていたメールへの返信用文章を作成しはじめる。
目の前で作業し初めたジョーの、半分ほどになったコーヒーカップに手を伸ばし、ジェットはそれを飲み干した。

「別れるとき、面倒になるってことだ」
「なったことがあるのか?」

ハインリヒが間を開けずに聞いてみる。

「なったことはないけどよ、なってるのを見て、巻き込まれた経験はある」

思い出したのか、それはそれは苦く、まずそうな顔をしてみせた。

「それは・・・・おつかれさん」

ジェットはドア口に投げていた視線を、目の前のジョーへと移動させた。
途中、ハインリヒと目があったが、スルー。

「巻き込むなよ?」

意地悪な声だ。

「心配ご無用。僕らはずっと変わらないさ」
「それはそれで問題じゃないか、ジョー」

そうかな?と顔に感想を載せたジョーが、ノートパソコンから顔を挙げてハインリヒを観た。

「ジェットのような心配はしていないが、このまま変わらないのはどうかと思うぞ」
「どうしてさ?円満だし、問題もないし・・・」
「今はそれでいいかもしれないが、少しはその先も考えてやれ。フランソワーズも女の子なんだ」



女の子なんだ?

ジョーはハインリヒの強調した言葉を口の中で反芻した。
ジェットはジョーよりも先にハインリヒが何を言いたいのかを察したようだ。
先程よりも大きな舌打ちをつき、再びソファにゴロリと寝っ転がった。

「そんときは、ハインと2人でBlack Eyed PeasのI Gotta Feeling を歌ってやるよ」
「なに?」
「知らないのか、ジョー。アメリカでその歌は結婚式で歌う最近の定番曲だ」
「けっ・・・・結婚!?」
「ジェット、一人で歌え。オレは(everything i do)i do it for youをピアノで弾こう」
「ぼっ僕らはそんなっまだ・・・先走りすぎだよっ・・・・・」

ジョーのキーを叩く音が大きく、早くなった。
真っ赤な顔をして、ノートパソコンの中に入り込んでしまいそうなほどに躯を小さくし、2人の視線から身を隠す。


ジェットとハインリヒは顔を見合わせて笑った。












***

翌朝。
ジョー、張大人、グレートの3人は航空機は使わずにドルフィン号に乗り込んだ。
深夜に予定が変わり、張大人は帰還せずにドルフィン号に乗り直接ギルモア博士の滞在先へと向かうことになった。
そのため、一般航空機での帰還になるジョーとグレートの二人の予定が延びることになる。


現地に到着した、と連絡があり、1日が穏やかに過ぎていった。
ハインリヒは”代理”として朝夕の新聞の代わりにパソコンを膝に抱く。
ジェットはソファにゴロリと寝っ転がって彼専用となったテレビと更に仲良くなった。

1人、仲間がいなくなるだけで、邸の中が冷たくなる。
夏へと近づいているはずなのに、半袖を着用していることが間違っている気がするジェットは、自分の体感温度が狂ってしまったのかと、少しだけ首をかしげた。

3人分の夕食をダイニングテーブルにのせると、仲間たち全員が座っても余裕のあるため、なんとなくテーブルにたいして申し訳無くなってくる。
ジェット、フランソワーズ、ハインリヒに共通の会話はあっても、エンターテインメントに長けたキャラクタでもない3人。
サービス精神にあふれているわけでもないので、淡々と会話をし、ときおり笑いあい、いつもよりも早く食事を終えた。








そんな、2日目の夜。


「・・・なにをしているんだ?」

隠したはずのホネが見つからない犬のように、困惑した表情でくるくると廊下を歩きまわっている姿が奇妙だ。

「あ・・・」

モコモコとした、見た目ではなんとも表現に難しい、触り心地良さそうなパステルカラーのパーカーに、お揃いの7部丈パンツを着たフランソワーズがジョーの部屋前にいた。

「どうした?」
「え・・・・ハインリヒ、こそ・・?」

自分への問いをそのままハインリヒに返した。

「オレは、ピュンマの本を戻しに。借りてたんでな。・・・部屋に入ることは本人から了承してもらっている。
「そう」

ジョーの部屋の隣が、ピュンマだ。
グレートの部屋前にある廊下から曲がって、ピュンマの部屋。そしてその隣、一番奥にジョーの部屋となっている。2人が不在の今、ジョーの部屋の前にいることを誰かにみられるとは思ってもみなかった。

「それで?」
「なあに?」
「そこで、何をしているんだ?」
「・・・」

フランソワーズが、不満そうにくちびるを突き出した。
顎をひき、上目遣いにハインリヒを睨む仕草は、小さい女の子のようだ。

「どうした?」

ジョーが不在の間にフランソワーズに何かあっては申し訳がない。

「・・・その・・」
「言えないことか?・・それなら別に無理には言わなくていいが」


言わなくていい、と口では言っているがハインリヒの態度は違う。
彼の余計な几帳面さがしっかりと出ていた。

「・・どう思う?」

ハインリヒから視線をジョーの部屋のドアへとうつしたフランソワーズは、さくらんぼのように小さくぽつりとつぶやいた。

「何がだ?」
「・・・・・その、・・・・部屋で寝ようと思って」

フランソワーズの部屋は、階段を上がってジョーの部屋とは逆方向にある。当たり前だけれど、彼女が観ている部屋はジョーの部屋だ。

「いつもは外で休んでいたのか?それは知らなかったな」

ハインリヒはグレートに笑われるくらいの、大根ぶりをみせた。
ぷうっとフランソワーズは頬をふくらませ、ハインリヒに向かって抗議するような態度。

「早く寝ろよ」

現在進行形で恋をしている女の子がそこにいた。

「・・・内緒にしておいてね」

頷くことなく、ハインリヒはピュンマの部屋のドアノブに手をかけてひねった。








ドアを開けてピュンマの部屋へと入っていく。
ゆったりと余裕をもった動き。手に持っている数冊の単行本を、フランソワーズに見えるようにして。
フランソワーズは、黙ってハインリヒがピュンマの部屋へ消えていくのを見送った。
大きな青い瞳がゆっくりとハインリヒの動きに合わせて右へと動く。

人気のない廊下に響いた、ドアが閉まる音。
ドアノブの金具が再び合わさった、小さな、金属音。


部屋の中で、ハインリヒはドアに背中から貼り付いた。
冷たい手で口元を覆う隙間から溢れる空気。
クックックっと鳴っていた。

「内緒にしてろって?」

ドア越しに聞こえるフランソワーズの密やかな足音。
決心がついたのか、隣の部屋のドアが開き…、閉じた。


ピュンマの部屋の本棚にではなく、彼のベッドの上に借りていた単行本を置いた。理由は、彼なりにコーディネートされている並びを乱したくないからだ。

「・・・それなら、・・・まだ当分の間は、練習の必要がなさそうだ」

置いた文庫本の分、微かに沈んだ布団にハインリヒの頬が緩む。

今夜だけ、なのか。
それとも今夜から、なのか。



細く吸い込んだい空気が冷たく肺を満たす。
隣の部屋で、遠く離れた恋人を想い、彼の薫りがするであろうシーツに包まれて眠る乙女が独り。




部屋のドアを開け、廊下へと出る。
隣の部屋のドアへとチラリと視線をなげた。


「Gute Nacht」


呟いた声が、静寂に消えていく。







***

3泊4日の予定通りに、張大人はドルフィン号を操縦してギルモア博士とジェロニモ、そしてピュンマの待つ村へむかった。
グレートからの連絡により、3日後に帰還とのこと。

連絡を受け取ったのは、ジェットだった。
ハインリヒは報告を聞きながら、リビングルームに置かれた観葉植物の世話を焼く、フランソワーズの後ろ姿を眺めていた。

「帰ってくる前に・・何かやっておくことはあるかな、フランソワーズ」



たとえば。
内緒にしておくために、リネン類の洗濯など。


ジョーは疲れて帰ってきているのに、眠れなくなるぞ。
自分のベッドに、するはずのないフランソワーズの薫りがするのだから。

「さあ・・、得にないと思うわ」

サボテンに、あげる必要のない量の水をダバダバとそそぎ、ソファに長くなって寝っ転がっていたジェットが飛び起きた。







end.
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コメント
こんばんわー。どっちかってと、もじもじ+αくらいのところでしょうか?これはジョー君絶対眠れません。もんもんとする青年ジョー君の姿が目に浮かびます。最後はうわああって叫びながら夜の海岸を全力疾走ですよ。フランちゃんかわいいなあ。彼の香りに包まれて....かぁ。私ならかえって眠れなくなりそうです。枕に顔付けて思いっきり深呼吸してみたいです(←ヘンタイ?)それだけで3日くらい何も食べなくても生きていけそうです。(うそです)アルさんもいい味出してますよね。009ストーリーは本当にこの10名がいないと成り立たないですよね。誰一人かけても、ダメ。石の森先生ってやっぱすごい。たしかに、ギルモア博士のこの設定はありですよね。でも00ナンバーが付いていれば最高のシークレットサービスになりそうですが。パソコンに隠れるくらいちっちゃくなって赤くなってるジョー君が大好きです。そしてそれを見守ってる(からかってる?)兄さんたちも素敵です。もっと、ジョーに発破かけてやってください!!
2012/07/05 Thu| URL | ogityarina [ edit ]
こんにちはー。
+α部分がとっても重要に感じますねv
ジョーくん、やっぱり眠れまずに寄夜の海外に全力疾走(笑)想像できます。
もじもじ9さんなら絶対にそうなると思います。

私も眠れないというか、潜った布団の中でバタバタ暴れていそうです・・。
怪しい人全開です。

この設定、ありですか?
なんでもREはとっても大きな研究所?になっているらしいので・・私は小さくしてみました(笑)
こんな設定もありって思ってもらえて嬉しいです。
最高のシークレットサービス!いーですねえ!
00メンバーに守ってもらいたい(うっとり)・・・。
でも防護服は目立つので、黒スーツでお願いしたい(笑)です。

パソコンに隠れちゃうくらい恥ずかしがり屋な9さんは、まだまだ青春まっただ中なんでしょうねー。
これはアルさんもジェットも楽しいでしょう(笑)

コメントをありがとうございましたv
2012/07/07 Sat| URL | ACHIKO [ edit ]
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