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Day by Day・12
(12)

街はずれの海岸沿いに隠れるように建てられた洋館に移り住み、4ヶ月目を迎えようとしていた。
朝から邸中がなにやら落ち着かない雰囲気に包まれている理由は、009が自ら003のために
バレエ公演のチケットを手に入れ、彼女を連れて行くために出かけると、報告した日付が今日だからだ。

お節介なグレートは、この日のために何気なくジョーに”女性をエスコートする心構え”を
日々、なにかにつけて説いていた。

アルベルトは、さり気なく彼が当日何を着ていくのかを聞き出して、彼がジーンズにTシャツでいかないことに、ほっ と、胸をなで下ろしたが、女性を連れて歩くのだから、それなりのマナーが必要だ。っと、一言言い添える。

ピュンマが街にどうしても行きたい店があると、ジョーに運転を頼み訪れた先は、事前に張大人が調べたメンズ物の店。色々と選ぶのにアドバイスがいると、ジェットも誘っていた。店にはすでにグレートが見立てた”ジョーのためのスーツ”が用意してあったが、それを悟られないように勧めて見事に買わせることに成功させた2人は、普段には使はないと決めた脳派通信で嬉々として仲間に報告した。

ジェロニモは、当日にどうしても車が必要だからと言い、有無を言わせずその日のために、ジョーに車を予約させた。

今日を一番楽しみにしていたのは、ジョーでもフランソワーズでもなく、00メンバーでもない、ギルモア博士なのかもしれない。

自分が自ら先頭に立ちコードナンバー003を生み出すために、まだ年端ない美しい少女と初めて対面したのは、意識を失い手術台に寝かされたフランソワーズだった。

自分の手で、彼女の時間を、人生を、夢を、家族を、人で有り続けることを狂わした罪。
ほかの00メンバーにも区別なく、同じ罪の意識に嘖まれるギルモアだが、特にフランソワーズにたいしては娘のように思い、慕い、可愛がるほどに


・・・1日、1分、1秒でも長く、彼女が幸せでいてくれることを願い続けている。









009である、ジョーから”報告”を受けたのは、ギルモア邸に何の前触れもなく訪れた翌日。

普段の日常生活では極力その能力を使わないようにしていたフランソワーズが、突然のさくらの訪問により、以前よりも強い意識で『眼』と『耳』のスイッチを入れたために起こった視神経への強い負担。が、原因で倒れた。フランソワーズは大事をとり、
翌日は自室で過ごしたために、男ばかりが囲む夕食のテーブルを少し寂しく感じていたギルモアの胸を、喜びいっぱいに満たしたのだ。

「・・・少し先の話しになるけど」

そう言って切り出した時、彼の表情は普段と変わらなかったが、声は”009”のそれに近かった。テーブルに着いていた者が一斉にジョーを観る。

「△月△日△曜日に、フランソワーズを連れて出かける」

009が003と共に出かけ、日程まで指定すると言った事務的な物言いにダイニングルームに緊張が走った。

空気に ピンッ と、糸がはる。
目に見えないそれを、切らないように身を強ばらせた00メンバーたち。
息を止め、最強と謳われる009の次の言葉を待つ全員の目が鋭くジョーを射抜く。


「・・・バレエ公演の初日のチケットが運良く手に入ったんだ」


その場にいた・・・全員が自らの耳を疑った。
ダイニングルームに静かに聞こえる、夜の細波。これほどまでにはっきりとした波の音が、メンバーの集まる部屋に聴こえてくるのは、珍しい。この異様な空気に気づかないのか、無視しているのか、ジョーは淡々と話を続けた。

「彼女にはすでに言ってある。チケットはキャンセルが出た2枚だけだったから、申し訳ないが、
みんなの分は無理だった。出かけるのは夕方からだ。開場に入ったら携帯の電源は切ることになると思うから、”回線”は開いておくけれど、フランソワーズにはせっかくだから楽しんでもらいたいと思う、から。もしものときは僕にチャンネルを合わせて欲しい」

それだけを言い終わると、009、いや、ジョーは止めていた手を動かして食事を続ける。
彼は張大人が作った夕食を1口、2口、口に運んでからやっと、何かがおかしいことに気がついた。

「・・・?」

ジョーは手を止めて、1ミリも動く気配のない全員の顔を不思議そうに見回して一言。

「・・・なにか問題がある、かな?」

と、微かに眉間を寄せて、その褐色の瞳を細めた、とき。ギルモア邸全体が、ジョーを覗いた全員のリアクションで大きく揺れた。

「っっっっっっっっだよ!」
「驚かすな!」
「ビックリするじゃないか!!!!」
「そんな風にいうなんて、デリカシーがないアル!!」
「物には言い方ってのがあるだろう!!!」
「ジョー、緊張してた、だから009の口調」
「こいつがあ!緊張!?っつ~~~~~~~か!てめえっっ!ちゃっかりチケットなんか取って!
しかも2枚だああああああ?!」
「バレエって、もしかしてあの時に見ていたポスターのなのかいっっ?」
「おお!ピュンマ、なんだ?そのポスターって?」
「フランソワーズが熱心に観てたんだよ、前にっ!!なんかスゴい有名な人が来るって!」
「ほうっ、ジョー、それをフランソワーズのために押さえたのかい?」

アルベルトがニヤリっといつもよりも大きくそ唇の端を引き上げた。
それを合図に、全員が息をぴったりと合わせて叫んだ。

「デートだっっ」
「デートあるネ!」
「デートおおおお!」
「デートっ!」
「デート。」
「デーーーーーーーーーーと!」
「デート・・だな」

ジョーは目を丸くして固まり、ただひたすら仲間たちから浴びせられる言葉の嵐が去るのを黙ってやり過ごそうとしていた。

「・・・デート?」

仲間の言葉に、そしてジョー自らが発したその単語に瞳を見開いて驚く。が、その瞬間に彼はその褐色の色を鋭く光らせて素早く全員を睨んで言い放った。

「デートじゃない。失礼だろっ!フランソワーズに」

ジョーのが放った言葉にメンバーは一斉に はああああああああっ と、大きく深い、なんとも言えないため息を吐いた。

ジョーらしい、ジョーだからこその発言に聞こえる。が、フランソワーズのためにチケットを探し、すでに完売されていた公演に、キャンセルを見つけて予約を入れ、彼女から了解を得ている状態であって、それを「デート」と言わないで、何と言うのだろうか?

003と夜の時間の001以外の00メンバーたちは、脳波回線を通さずとも、今の状況を目と目で会話することができるほどに、全員が同じ気持ちで最強のサイボーグにたいする感想伝え合う。

「それはフランソワーズが喜んどっただろう?」

1人、成り行きを見守っていたギルモアが口を開く。

「・・・そうですね。かなり前から観に行きたいと思っていたみたいですけれど、
チケットがもう手に入らないだろうと、諦めていたみたいですから」

ジョーの言葉に、ギルモアは嬉しそうに何度も深く頷く。

「うん、うん。そうじゃろうな。そうじゃ、うむ。あの子は・・・一度は諦めて大学へ通ったらしいが、バレエへの情熱を捨てきれずに・・・バレエ留学をするハズじゃったからなあ」
「・・・バレエで?」
「才能もあったらしい・・・奨学金試験を受けて全額免除を受け入れてくれる先があったそうだ」

00メンバーたちは、フランソワーズがバレエを習っていたことは知っていたが、彼女のプライベートな、深い事情までは知らなかったために、ギルモアの話しに耳を傾けた。

「そんなに・・・?フランソワーズはただずっと・・好きでお稽古を続けていただけでプロとかそういうのじゃないって言ってたよ?」
「ああ、そういえばそう言うよなあ、踊ってみろ!って言ったとき、
好きなだけで上手くないからっとか、なんとか言ってたぜ」

ピュンマとジェットは顔を見合わせて、ギルモアとの会話に参加する。

「・・・忘れたかったんじゃろうなあ、その、その日。・・・留学するその日に・・・・B.Gに、のぅ・・・」



ギルモアはそれ以上、箸をすすめることができず早々に自室へ引きあげた。







####

「ったく!女はなんでこんなに支度に時間がかかんだよ!」

ジェットはイライラとリビング中を歩き回る。
時計をちらちらと観ては、怒ったようなため息をつくのだ。

時計は夕方の5時を指そうとしている。
この時間の邸に珍しく住人が全員リビングルームに集まっていた・・・いや、003以外の、である。

「まだ、車も来てないんだから、なんでジョーじゃなくってジェットが苛つくんだよ?」
「うっせ!」
「昔から女性は支度に時間がかかるのが、常識!そしてそれを待つのが男の喜びと言うものだよ、ジェットはまだ、お子様ってことだな」
「けっっ!女の都合で動くなんて~のが、性に合わなねえんだよ!」
「ったく、座れ。観てるこっちがイライラする」

アルベルトの言葉に、ジェロニモがジェットの襟元を ひょっいっ と掴むと乱暴にジョーが座るソファへと投げた。

「っって~な!」
「・・・ジェットは、なんでそんなにフランソワーズが気になるの?」
「?!」

ジェロニモとアルベルトに文句を言おうと、ソファから立ち上がろうとしたジェットに届いたのは、ジョーからの素朴で、とてもシンプルな質問だった。
一瞬、その言葉の意味がわからなかったジェットは、目を点にして固まる。

「っああ?!」

ジョーにその質問の意味を問いただそうとしたとき、リビングルームの扉が開く音が聞こえた。
実はグレートにも加速装置がついているのでは?と思わずにはいられないほど素早く、彼はリビングのドアに駆け寄り、恭しく頭を下げ、フランソワーズのエスコートを申し出る。

ドアの向こう側から、くすくすっ と、涼やかな笑い声。

「では、姫。みな姫を今か今かと首をなが~~~~~~くして待っておりますぞ」

グレートはイギリス紳士の命にかけて、優雅にフランソワーズの手をとった。
リビングのドアがめい一杯に開かれる。


一歩踏み入れた、フランソワーズの膝よりも心持ち短い、控えめに色づいたシャンパンカラーのスカートが揺れた。




「ドレスなんて、着る機会は絶対にありえませんから・・・」

さくらのために訪れた「ローレライ」の試着室で、フランソワーズにあれこれと世話を焼いていた入江が、さくらが店にきた目的が”ドレス”であること知り、フランソワーズに1着のドレスを店の奥から持ってきて、彼女に勧めたのだ。ここで洋服を買う予定もなかったフランソワーズが、さらにドレスまで勧められ、頑なにそのドレスを試着することを断っていた。あまりにもフランソワーズが頑固なので、入江はジョーではなくアルベルトを味方につけて、フランソワーズに強引に勧めたのだ。フランソワーズも流石にアルベルトと入江に押し切られ、着るだけですよ。と、念を押して着たそのドレスは、しっかりと、ジョーが購入してくれた洋服と一緒に、一番大きな袋に箱詰めにされてコーディネートされた靴とバッグに、メッセージカートを添えられて入っていたのだ。

”このドレスを着るチャンスがあるか、ないかは、フランソワーズさま次第ですよ。”



一枚生地で仕立てられた、柔らかな光沢があるホルダーネック・タイプのドレス。
コルセットのようにしっかりとフランソワーズの華奢な上半身にぴったりとそい、胸元が露わになっているが、彼女のなだらかに浮き立つ鎖骨と、姿勢の良さ、シミ一つなく輝く肌は、彼女に微塵も女を強調するようないやらしさを感じさせない。
彼女の細さを主張するように絞り込まれたウェストには細いベルベットの黒いリボンが ゆるり と2重にまかれ、サイドに小さなリボンとなり、それが唯一のドレスに施された装飾。ウェストから大きく広がる、ギャザーがふんだんに寄せられたスカートは、彼女が瞬きをするだけでも、軽やかに彼女の太腿を撫でて次の一歩を催促する。
フランソワーズの首に伸ばされたホルダー部分、彼女のうなじ部分にもウェストにまかれたベルベットのリボンと同じものが、光沢ある生地とと切り替わり、リボンを結び、なだらかな曲線を描く腰へと伸びて、開いた背中になびく。

うなじ近くでリボンを結ぶために、彼女のトレードマークとも言うべきカチューシャはハズされ同じベルベットの黒の細いリボンだけで、緩くカールがついた亜麻色の髪をたよりなげに結い上げていた。

フランソワーズは足音もなく、リビングへ入る。
グレートは、自慢げに彼女の傍らに立ち、仲間達の前へとエスコートする。

「・・・・」

無言で迎えられたリビングで、不安げに、こぼれ落ちそうなほど大きなブルートパーズの瞳を縁取る、いつもよりも強くカールされた睫が微かな風をおこす。
ピンクに色づいていただけの可憐な唇は今夜、クランベリーのように紅く、よりフランソワーズの口元が鮮やかに輝いていた。

「こりゃ・・・まいったのう、フランソワーズ・・・」

ギルモア博士の、のんびりとした感嘆の息に含まれた声で、やっと”いつも”の仲間たちの調子の良い声がリビングに広がった。

「すごいよ!綺麗だよっっ!!」
「似合う。とても似合っている。」
「フランソワーズは花のようネ!本物の花も、今日のフランソワーズには負けちゃうアルね!」
「買っておいてよかっただろう?」
「・・・いいじゃん!もうちょっと色気が欲しいけどよ!まっっ、フランソワーズなら、んなもんだろ!」

それぞれが、それぞれに、好き勝手にフランソワーズを褒めた。

「フランソワーズ」

ギルモアは隣に座っていたジェロニモにイワンをわたして、ゆっくりとフランソワーズに近づき、濃紺の小さな箱を差し出した。

「・・・これは儂と、イワンからじゃ。いつもいつも世話になっとるからのう」
「!!そんな博士・・・!!!」
「受け取ってくれんかのう? こんな機会でもなければ、儂もイワンも何もしてやれんからのう」
「・・・博士・・・」

フランソワーズは震える手で、ギルモアの手から箱を受け取り、「開けても良いですか?」と小さな声でギルモアに了解を得る。ギルモアは、恥ずかし気に頷いて、さっさとソファに座ってしまった。

「・・・すてき・・・・とても・・・とても綺麗です・・・わ・・」

箱の中に納められていたのは、小さな一粒真珠のピアス。

「つけて行きなさい・・・今日のドレスの邪魔にはならんじゃろ?」

フランソワーズは両手で箱を握りしめて、ギルモアに微笑む。
その唇は「ありがとうございます」と言っていることがわかるが、声になっていなかった。


「行こうか、フランソワーズ。そろそろ車がくる」


ソファから静かに立ち上がったジョーの姿に、フランソワーズは驚いた。
彼は、黒のシンプルなスーツに身を包み、白・・・と言うよりも、シルバーのような少し艶のあるシャツを首元まできっちりと止め、フランソワーズの瞳の色のような、鮮やかなトルマリンのグラデーションがかかったネクタイを締めている。ジョーの手首から覗く袖にはカフスが付けられ、慣れないのか、苦しいのか、時折自分の首とシャツの間に指を挟む。
皺ひとつ入っていない、仕立ての良いそれらの力なのか、少し幼さが残る彼の顔立ちを、
落ち着いた物腰の青年に変えていた。普段のジョーが無言で立つ姿は、人を寄せ付けない壁となっていたが、今はそれが妙に”男”として逞しさとなって、フランソワーズの瞳に映る。

「・・・行くよ?」
「あ・・・・ええ・・・・」

ジョーはフランソワーズの前に立ち、呆然と自分を観る彼女を不思議そうにのぞき込む。

「・・・姫、楽しんで行っておいで」

グレートがそおっとフランソワーズの背中を押す。

「行ってらっしゃい!」
「土産はいらね~ぞ!」
「いそげ。車来る。」
「行っておいで、楽しむんじゃぞ。ジョー、フランソワーズを・・頼むぞ」

歩き出していたジョーはギルモアの声に振り返ってしっかりと頷いた。

「フランソワーズ、夕食はジョーと食べてくるといいネ!!ジョーに美味しい店教えておいたアルyo!」
「ジョー、フランソワーズ・・・何も問題ない、楽しんでこい」

玄関まで見送りに出てきたアルベルトと張大人に2人は並んで立ち、それぞれに頷いて、ギルモア邸の扉の向こうへと・・・・・歩き出した。


「アルルト?」
「アル””ルトだ、・・・なんだ?」
「・・・っっとっってもキレイで、素敵なカップルに見えたアルネ」
「・・・・そうだな」
「お似合いネ」
「ああ」
「・・・・だから、幸せになって欲しいアル。フランソワーズも、ジョーも」
「なるさ、オレたちも、ジョーもフランソワーズも、・・・みんなでな」









####

ジェロニモに言われて予約を入れたBMWは、すでに邸の前で待っていた。
運転手は玄関から出てきた、ドレスアップした初々しいカップルに目を細め、にこやかにドアを開けて、2人を待った。

「すみません・・・」

ジョーは待たせてしまったのか、と思わず謝ったが、運転手は微笑んだまま「いいえ、大丈夫ですよ」と一言囁いた。

フランソワーズを先に車に乗せ、ジョーはその後に続く。

彼らがきちんと車に乗り込んだことを確認してから、運転手は慣れたようにドアを閉め、運転席に乗り込み、何も言わずに車を走らせた。
車が走り出した途端、ジョーは ふうっっとため息を吐いた。フランソワーズは、その音に思わずジョーの顔をのぞき込む。

「・・・人に運転してもらうのって、けっこう緊張するんだよ・・・自分が運転したくなるからかなあ・・・だめだよね・・・さすがに・・・」

そう言うと、ジョーは運転手のハンドルを ちらり と観る。
普通よりもはるかに運転席と後部座席との距離がある車内だが、彼には運転手のハンドルさばきの具合が解るようで、少しだけ拗ねたように、のんびりと言うジョーの言葉にフランソワーズは、ジョーと・・・・”ミッション”や”買い出し”以外で、初めての2人きりの外出のために強張っていた体の力が抜けて、リラックスしていく自分がわかった。

「んふふ、そんなに好きなの?」
「好きって言うか・・・まあ、好きかなあ」
「なんでも運転したがるものね」
「別に、なんでも・・・ってわけじゃあ・・・」
「そう?・・・・よくよく思いだしてみると、いつもジョーが操縦してるような気がするわ」
「・・・まあ、嫌いじゃない、し。出来るならしていたいから」
「心配?」
「え?」
「ハンドルを握っていないと、不安かしら?」
「・・・不安じゃないけど、ちょっと、うん。イライラするかな?」
「まあ!」

フランソワーズは呆れたように、キラキラと宝石のように瞳を輝かせて笑い出す。
ジョーは自分の着ているスーツの内ポケットにしまわれている、2枚のチケットを、無意識にその手で確認をする。
いつもより少しだけ会話が弾む2人は、どちらともなく気持が高揚していることがわかる。

「・・・せっかくだから、つけたら?」
「?」
「イワンとギルモア博士からもらったのを、さ」
「ああ・・・そうね。でも鏡がないと・・・」
「見ていてあげるよ?」
「・・・」
「せっかくだからつけたほうがいいよ」
「ええ、そうするわ」

黒の小さなクラッチバッグにしまわれた、ギルモアとイワンからの贈り物。

「ピアスのホール?あいてたんだね」
「?」

フランソワーズは、そうっと壊れ物のように丁寧に箱を開けて、中の真珠を一粒取り出す。
ゴールドの、とても小さなキャッチをはずしたとき、ジョーは手を出して、「それを持っていようか?」と、言う仕草をする。フランソワーズはイワンのホクロのように小さなそれを、ジョーの手のひらに そうっ と息を止めて、乗せた。

白く細長いしなやかな指で真珠をつまみんで柔らかな耳朶に、金色の針を押し当てる。

「長く・・・ピアスをしていなかったから・・・塞がっちゃったかしら?」
「・・・」

なんとなく、フランソワーズは感覚で金色の針を耳朶の上を走らせた。
つっ と、くぼみに金色の針が引っかかった感覚が指に伝わり、ゆっくりとそれを押し入れる。
ジョーはじっとその指先と、髪を結い上げていることによって露わになっている、首筋からフランソワーズの横顔、ふっくら とした耳朶に、そしれに添えられた指を見つめる。

「ジョー?」
「あ・・・・どうした?」
「ちゃんと、針が通ってるかしら?」

フランソワーズは体をジョーの方へ寄せて、彼女の耳裏をジョーが観やすいよう彼とは反対側へ振り返るように身を捩ったとき、ジョーはいつもよりも強く香る、花。に、一瞬目の前が白く、強く光ったように思えた。

「ジョー・・?」
「・・・あ、うん、だいじょうぶ・・・ちゃんと・・・通ってるよ」

フランソワーズはそのまま片手を耳朶と真珠に添えて、ジョーの手からキャッチを取り、彼女の柔らかな耳朶を通った、針に留めた。

「・・・落ちないかしら?・・・ちゃんと留められてる?」
「うん。しっかりと留まってる」
「よかった、せっかくのプレゼントを落としたら大変ですもの・・・」

フランソワーズはもう片方のピアスも同じようにジョーに訊ねながら、その耳に飾った。両方のフランソワーズの耳朶に光る小さな一粒の真珠は、ドレスともよく合い、そして何よりも彼女が今までそれを持っていなかったのが不思議なくらいだった。

「・・・本当に、久し振りだから・・・変な感じだわ」

落としそうで不安なのか、何度もピアスと耳朶に手をあてて確認をするフランソワーズ。

「大丈夫だよ、なくしたら見つけてあげるし・・・・・・」


ーーーー新しいのを買ってあげるからーーーー


最後の言葉を喉で飲み込み、胸にしまい込む。

一言それをいえばいい。
わかっているジョーだけれど、今それは言わない方がいい気がした。

「そうね、あまり気にしていたらいけないわね・・・きっとバレエに集中できなくなるもの」
「鏡なら、きっと会場にあるよ」
「ええ、そうね。・・・でも・・・」

彼女が飲み込んだ、言葉をジョーには手に取るようにわかった。

ーーー私なんかに、似合うのかしら?ーーー

「・・とても、似合ってるよ」

自分の胸の中で囁いたつもりが、口に出ていたらしく、窓の外を見ていたフランソワーズが ぱ っとジョーの方へと振り向いた。

「え・・・?なあに、ジョー、何か言った?」
「別に・・・何も言ってないよ」
「そう?」
「・・・・うん。あ、もうすぐだね、ここをもう少しすすんだら着くよ」







ジョーとフランソワーズを乗せたBMWは、きいっと赤信号で停まる。

車のエンジン音。

ドアを一枚隔てた、外の世界。

街のざわめき。

歩く音。

走る音。

風の音。

人の声。

電子音。

アスファルトのにおい。

誰が聴いているのか、街に流れ続ける音楽と音楽と・・・音がぶつかり合う。


車内と外を仕切る1枚のドアの向こう。

ただそれだけにもかかわらず、フランソワーズと向こう側は、何も接点がなく
切り離された別世界の住人。


「フランソワーズ、聴く必要ないよ」
「・・・・でも、聞こえてしまうもの」
「聴く必要ない」
「・・・ええ、そうよ。でも・・・」
「聴くな」
「・・・無理よ」
「・・・命令するよ?」
「!!」
「009として、いい? 


キミは今日、



ちゃんとフランソワーズとして楽しんで」










======13 へ 続 く



・ちょっと呟く・

・・・職権乱用のジョーでした。

・・・2人きりにしたのが失敗だったなあ。
離れて~・・・・(泣)
らぶらぶ禁止令だすよ?
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