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Day by Day・13
(13)

ジョーとフランソワーズは、開演時間の40分前に会場となるホールへ訪れた。
日本でも伝統あるこの○XXホールは、2年ほど前に本館と別館に別れ、
新設された別館は近代的で斬新なデザインをしていたために、フランソワーズはその建物を見て、しばし呆然と見上げていた。

「・・・これが?ビル?建物なの?」
「あまり、見たことない?こういうの。最近は全部こういう感じになるよ、流行なんじゃないかな」
「?! 流行でビルを、こんなに凸凹したビルをポンポン建てるの?!日本は・・・」
「・・・ケーキやクッキーを作るみたいには作らないと思うよ」
「・・・・」
「本当に、ギルモア邸にばかり居るんだね、キミは」
「・・・・そうかしら?」
「・・・・そうじゃない?」
「わからないわ」
「・・・少し早いけど、席に着こうか?」

ジョーの言葉に頷きながらも、フランソワーズは困惑した表情でビルを見上げていた。







####

ホールはビルの4階から6階までを贅沢に使って作られていたために、入場するためには一度、エレベーターで6階まで上がらなければならない。
凸凹した近代的と言う都合の良い言葉で飾られた異様なビルの中にあるホールに、フランソワーズは驚いて、大きな瞳をさらに大きくして感動する。


入り口に立ち、チケットを確認するための係員は全員ブラックタイで正装している。
ジョーが見せた2人分のチケットが”S席”であったことから、係員がエントランス内側に控えていた初老の男性に何か合図を送ると、その男性が優雅に2人に近づいてきた。

「こんばんは。ようこそ○XXホールへ、お席の方へご案内させて頂きます」

初老の男は、笑顔で2人を出迎えてゆっくりと足を勧めながら、彼らを指定席に案内し、
2人が席に着いたことを確認した上丁寧に会場の説明する。

「S席からのお客様のご休憩所などはすべて4階になっております。お飲み物や軽食も
ご用意させて頂いてますので、ご自由にお楽しみください。」

男はそう言って軽く会釈をし、付け足すように「楽しんで下さいね、今日は素敵なゲストもお見えなんですよ」っと、初々しい雰囲気の、絵のような恋人たちに囁いた。

「すごいわ・・・私、こんな風にホールに入ったの初めてよ」
「そうなの?・・・知らないから、これが当たり前なのかと思った」

一歩ホールを出たら、上質の絨毯で埋められた広場が広がり、イスやソファがセンス良く置かれている。エレベーターから反対側の壁際にはカウンターバーや、飲み物、軽食を注文できるようになっていた。
開演にはまだ十分に時間があったたので、ジョーはフランソワーズを誘い、教えてもらった喫茶コーナーで珈琲を飲んでいた。








####

近くにあったソファにフランソワーズを座らせて、ジョーは珈琲を2つ頼み、ぱっと目にとまったものも追加した。フランソワーズの隣に座ると、ジョーのすぐ後を追うようにして頼んだ物がトレーに乗せられて運ばれてきた。

ウェイターはテーブルにそれらを置きながら、ちらちら とフランソワーズを盗み見ている。が、フランソワーズはまったく気づく様子がなく、周りの内装や色鮮やかに着飾った人々に夢中になっていた。

ウェイターが去り、香ばしい珈琲の香りに誘われてテーブルに目線を移すと、珈琲が2つ、そして、色とりどりのフルーツがイチゴのソースに和えられて、三角のチョコレートケーキにたっぶりと飾られているお皿がフランソワーズの前に置かれていた。

「美味しそうじゃない?・・・夕食まで時間があいてしまうし、昼もそんなに食べてなかったよね?」
「・・・」
「・・・甘いのが好きだと思ったから」
「ジョーは?・・・食べないの?」
「・・・大丈夫だから。・・・それは甘すぎるよ。俺には、きっと。・・・・いらない?」

フランソワーズは勢いよく、首を左右に振って、いる!と主張する。
あまり行儀が良いとは言えないが、テーブルが低すぎるために、ケーキ皿を膝にかけたナプキンの上に置いて、フォークでチョコレートと、ブルーベリーを乗せて一口頬張る。苦みが濃いスポンジに、しっとりとしたチョコレートクリームとフルーツの甘酸っぱさが口の中に広がり、思わず頬が上がり、笑ってしまう。

「・・・っ、そんなに好きなんだ、ケーキとか、甘いの」

隣でじっとフランソワーズがケーキを頬張る仕草を見ていたジョーは、彼女がケーキを口にした途端、普段は見せない・・・小さな女の子がするような満面の無邪気な笑みに、彼も思わずつられて目元を緩めた。

「美味しいもの!」

フランソワーズは嬉々としてそれらを口に運ぶ。
ジョーに見られていることよりも、そのケーキに意識が集中している。

「すごく甘いと思うんだけど、そういうの」
「甘いから美味しいのよ。でも、このケーキはそんなに甘くないわ!チョコレートのスポンジもクリームも、濃いめでビターなの。フルーツとこのソースが甘くて・・・すごくバランスがよくって美味しい!・・・食べてみて?」

フランソワーズは、つい”昔の癖”でフォークに乗せたケーキを すう っと、ジョーの前に運んだ。それはごく自然で、そうすることが当たり前のように・・・。ジョーは驚いてフランソワーズを見たが、彼女の表情はなぜか真剣そのもので、そして何かを期待している瞳にも見えた。
その瞳がジョーがケーキを食べるのを待っている。

目の前に差し出されたチョコレートケーキの固まりと、名前の解らない赤い実。


ジョーは覚悟を決めて、ばく っとそれを食べた。


フランソワーズの手に、ジョーがフォークをその口で捉えた衝撃が伝わりそこで初めて、自分が何をしたか。に、気がついた。

ジョーの唇が、彼女が持つフォークから離れる。その動きは一瞬だが、フランソワーズにはスローモーションのように見え、手が震え出すのを懸命にこらえた。

呆然とジョーを見つめるフランソワーズに、先ほどの微笑みは消えている。

「美味しいけど、十分に甘い・・・と思う」

照れ隠しなのか、ぼそっ と、普段よりもぶっきらぼうに言いいきり、珈琲カップを手に持ち苦味がある黒い液体を口へ流し込む。その手の動きをフランソワーズは目線で追う。彼女が手にもつフォークはまだ、そのままの状態。

「・・・・ご、ご、ご、ご・・・」

ジョーが珈琲を飲む音で、やっと我に返ったフランソワーズは慌てて手を引っ込めて俯き、ケーキとフルーツをさくさくと、さくさくさくさくさくっと突く。今更ながら、どっと汗が噴き出し、心臓がフルマラソンの距離を全力疾走したかのように、ばくばくと打ち始め、全身の血が高速でぐるぐると駆けめぐる。フランソワーズは自分の顔が張大人の吐く炎よりも紅く、熱いことを知った。

「・・・ご、ご、ごめんなさ・・・いい・・」

小さな声でジョーに謝る。その声は明らかに動揺していることがわかる。

「あ、つ、つ、つい。その、ええっと・・・その、ね。私・・・」

フォークを忙しなく動かしながら何か言おうとしているが、言葉が続けられないらしい。

「・・・?・・・・べ、別に謝ることじゃないよ。・・・キミはそうなんだろ?」
「っっっえ?」

フランソワーズの手が止まる。

「・・・ちゃんと”フランソワーズとして”・・・・、リーダー命令、きいてくれたってことだろ?・・・そういうのが自然に、できる子だったんだね、キミは・・・。」

ジョーの言葉に、フランソワーズは顔を上げてジョーをみた。彼の顔が紅い・・・・。

「・・・・・・・俺は、慣れてないから」

俯いていた顔を上げて自分を見るフランソワーズの視線に堪えられず、彼は ふいっ と、フランソワーズとは反対方向を向いてしまった。ジョーの髪から少しだけ覗く耳が、いつもよりも紅い。

「早く食べないと・・・バレエ始まるよ・・・」

それだけを言い、黙り込んでしまったジョーとフランソワーズは、10分後に鳴った開演ベルに従い席に戻った。










####

自分が振り付けた公演が日本で行われるために、この極東の島国を訪れた。
日本は初めてではなく、ダンサーとして何度か舞台に立った経験もあるが、コリオグラファー、振り付け師としてこの国への訪問は初めてだった。

当初は自分の振り付けた舞台の公演日に合わせての来日スケジュールだったが、仕事もたいして入っていなかったために、少し早いヴァケーションを楽しむつもりで1ヶ月ほど早く日本入りした。
そんな自分を日本側のバレエ団や今回の海外公演のスポンサーたちは心よくもてなしてくれたので、礼のつもりで、今夜の初演にゲストとして舞台で挨拶をすることにした。



それを運命の・・・イタズラと、言っていいのだろうか。



「フランソワーズ・・・・?」

彼女は、わたしの初恋。
彼女は、わたしが求めたパートナー。

もう40年以上も昔に突然に消えた、その人。


S席以上のチケットを購入した客以外入ることができない4階ロビーを抜けると、ホールに入るための入り口と休憩所や喫茶室を兼ねた広場がある。エレベーターとは真逆にある壁に設えられたバーカウンター、飲み物や軽食をオーダーできるようになっていた。
デザインはビルの外観とはかけ離れた重々しい19世紀初頭のヨーロッパのサロンを模写したかのようなデザイン。

そこから少し離れた香染色のソファに座る・・・人目を引くカップルが目に飛び込んできた。
彼らはきらきらと光る初々しさを放っている。
どこかの美術館の展示物から抜け出してきたかのように美しい、この4階に居る人々の平均年令にに較べて若い・・・2人は、本人達は気づいていないようだが、今夜これから始まる舞台の次ぎに、注目を集めているようだった。

そんな2人を見ていると、つい昔を思い出す自分がいる。
バレエ団のリハーサルの後、オペラ座の公演を観た後、たくさんの時間をあのカップルのように2人で珈琲を飲み、ケーキを食べて彼女と過ごした。
彼女は甘い物が大好きで、ホットショコラを頼まないときは必ずケーキか何かを注文する。
そして、・・・先ほどの・・・彼女によく似た亜麻色の髪の女性が、隣に座る黒のスーツを着た青年にしたように、味見を強要するのだ。自分がどれほどに美味しい物を知っているかを自慢するように・・・。

彼女の差し出したそれを食べたと思えば、紅い顔をして彼に背をむけてしまった青年の仕草に、アランは くすり と、笑い、純情な日本青年をこころから応援したくなった。

アランは、そのままそのカップルの近くまで足を進めた。舞台慣れしているとはいえ、スピーチをすることになっているためか、緊張し始めた気持ちを落ち着けようと1杯の白ワインを喉が求めている。

「?!」

青年の陰に隠れてあまり良くは見えなかった女性の姿が、足を進めたためにはっきりとその姿がアランの目に現れる。

その若いカップルの女性は、紛れもなく。
彼が昔に何度もカフェで楽しい時間を過ごした、彼女だった。

天使の輪を作る、美しい亜麻色の髪。
こぼれ落ちそうなほど大きなセリアンブルーの輝く瞳。
その瞳をしなやかに縁取る睫。
形良くふっくらとした、ローズピンクの唇。






忘れるはずがない。

未だに大切に持ち歩く写真はセピア色の彼女だけれども、自分の目に焼け付けた彼女は1ミリとて変わらず、色褪せることなくこころの中に生き続けている。

自分に恋の喜びと苦しみ、そして、切なさと愛しさを教えてくれた彼女。
彼女との想い出は、自分の愚かさを戒める足枷。

後悔の日々。

彼女は40数年前と一寸も変わらない姿で今・・・アランの目の前にいる。



アランは首を振り、自分を叱咤する。

ーーーバカな・・・彼女はもう40年以上も前に行方不明じゃないか!
   もしも、彼女が生きていたとしても、彼女の年令は・・・・自分よりも、たった3つ違っただけ!
   ・・・あの女性なわけがない!

アランは、見れば見るほどに、自分の”フランソワーズ”にしか思えない彼女を鋭く凝視する。
その異様な視線に・・・彼女の隣に座っていた青年が気がついた様子で、アランを見た。
その視線にアランは ぞくり とした寒気を背負いつつ、背中に銃を突きつけられたような不気味な感覚に陥ったために慌てて彼ら2人から視線を逸らす。が、アランはどうしてもあの、”フランソワーズ”に似すぎている女性をこの目でしっかりと、もう一度見たかったが、再びあの青年の視線が自分に向けられるかと思うと、何もできなくなってしまった。

ーーーなんて目だ・・・!

自分はただ、青年の恋人であろう女性にに見惚れてしまっただけなのに、たしかに失礼があったかもしれないがあの人を射るような、いや。殺気だった視線を投げた青年に怒りさえ覚えた。


開演のベルが鳴る。
アナウンスが流れた。








きらびやかに着飾った人々が流れを作ってホールのドアに吸い込まれていく。
彼らもその流れに身を隠すかのように、ホールの中へと吸い込まれていった。


そこに、ぽつん と立ちつくすアラン・モルディエが1人。
テーブルに置かれたカップや食器を片づけるウェイターたちは、彼など気にしない。



「フランソワーズだ、間違いない!!彼女だ!!!!」



もう一度、ロビーに響いたアナウンスが・・・上演が始まることを告げた。


「夢じゃない。彼女だ、わたしのフランソワーズ・・・だ!」


盛大な拍手が鳴り響く。


「すごいわ・・ジョー! ありがとう」

ジョーが手に入れた席はとても良い位置らしく、舞台全体を見渡せる上に、ダンサー達の足下がしっかりと見えるらしい。

「・・・・楽しんで、フランソワーズ」

ホールの明かりが消える。
舞台には豪華な異世界が広がった。













======14 へ 続 く

・ちょっと呟く・

・・・前半部分を書いてる時の私の姿は、誰にもお見せできません・・・

ひ~き~は~な~さ~な~い~と~!!!
か~た~お~も~い~じゃ~な~い~!!!

アラン!がんばれ!!(笑)
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