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「003は、あっちへ」


9番目になった仲間は遠慮がちに仲間の一人にむかって指をさした。


「?」


ミッション遂行のためにドルフィンへは戻らず、乾燥しきった風にさらさらと舞う砂地で夜を明かすことになった、今。


「003はあっちへ‥.」


009は、指差して003に言ったのだった。


「009、どういうこと?」


仲間たちとは少し離れた小さな岩場の影に、どこで見つけてきたのか、そして、いつそんな場所に用意したのか。
長方形の黄色い布1枚がシワひとつない状態で砂の上に敷かれていた。


「だって・・・さ」


こんなことは初めてだった。


「女の子だし?」


今まで一度だって。
サイボーグ化されて以来、戦闘の場において一度だって”女の子”扱いなどされたことはない。


「…」
「思ったんだ、野郎ばっかりのところで休むなんて、さ・・・やっぱり、なんていうか…」


009の003に対する気遣いに、他の仲間たちはニヤニヤとした笑みを浮かべるだけだった。


「…009」


仲間になって日の浅い009はずっと考えていてくれたことなのだろうか。


「大丈夫、この距離なら僕の加速装置があるかぎり、問題ないよ」


無言でじっと自分を見つめる003の表情から、ほんの少しの距離でも離れことが不安であると読み取ったようだ。


「もう・・」


胸いっぱいに、乾燥した冷めたい空気を吸いこんだ003。
こみ上げてくる熱を我慢するには十分に効果があった。


「もうっ!009ったら!!なあに?私だけ仲間はずれにしちゃうのっ?!」


003は頬をめいっぱいに膨らませてみせた。
怒っているの!をポーズで観て分かるように、両の手を腰に当ててさえもした。


「いや・・そうじゃなくって、これくらいの距離なら離れていても安全だし・・・だって、その・・」


003はずいっと大きく一歩を踏み出し、お互いの息が触れ合う距離にまで顔を近づけた。


「ふっ・・ふらんそわー・・・ず・・?」


不意に、彼女がフランス人であるがために受けた抱擁以来の近さまで顔が近づいてきた。
真正面に見据えられた彼女の瞳に動揺する自分の顔が写り込んでいる。


「わかったわ、ジョー」


009は、息を止めてしまっていた。
自分の声発したで揺れた009の前髪を見つめ、彼がごくりと喉を鳴らしたことを合図に、フランソワーズは軽やかなステップを踏んでジョーの隣へと移動した。


「?!」


ジョーの腕に絡まるぬくもり。


「今日は私、ぴったりとアナタの隣で休むことにするわ!」
「はっぃ?!」
「ちょっとだって、私だけ離れるなんて嫌よ・・・それでアナタが私が女の子で野郎ばかり云々と心配してくださるなら、ね?そんなアナタの隣が一番安全ってことではなくて?」
「えっ?!」
「なによりも、最新型の地上最強のサイボーグ009の隣で休むのだわ。この地球上で一番安全な場所といえば、アナタのここ、隣よね?」
「ええ?!ちょ・・ちょっとまってよ、フランソワーズっ」
「なあに?」


ーーー僕だって、ちゃんとした男なんだよっ。


不純物のない、冴え切った青にむかっていう言葉だろうか。

自分が今、男なんだと主張して何の意味があるのだろう。いや、意味はある。あるからこそ、彼女を自分たちと少し距離をあけて休ませようとしたのだ。

逡巡した思考の中で青を濁らせないような答えが見つからず、フランソワーズが3回目の瞬きをする前に。


「…なんでも、ないよ」


なにもない、ふりをした。


「じゃ、決まりねvせっかく用意してくれたのだけれど・・・アナタのマフラー、こちらへもってきてもいい?」
「‥うん」


ぴったりジョーに寄添ってその日は休む事にしたフランソワーズは、頬をバラ色に染めて安心しきった様子で眠りについた。
そうなることを狙ってたんじゃないのか?と、口には一切出さず、見て見ぬふりを貫いている仲間たちだが、ときおりジョーへと投げかけてくる冷やかしの視線が聞いてくる。

軽やかに甘い寝息と少し身をよじれば触れてしまうぬくもりを隣りで守りつつ、胸底からふわりと浮かんだ綿毛のような淡い…言葉に形容しがたい感情が漂う。

喉奥にたまるばかりのそれを、ゴクリと飲み込むと淡い綿毛のようなものが、ずしっと重くなり下腹部へと落ちる。
痛みではなく与えられるのは落ち着かないむず痒さ。



ーーーああ、・・・僕はサイボーグになっていても、・・ちゃんと・・・やっぱり、・・。


躯をいくら改造しても、こころは何一つ、以前とかわらない僕なんだ、と妙なことで確信を得てしまった。
隣りで眠る、可憐な女の子のせいで。


「・・・」


はあ、っと遠慮がちに吐いたため息に、反応したのは数粒の砂。


「・・・」


こころは何一つ変わっていないのなら、今ここにある気持ちは嘘偽りなく自分の、島村ジョーのもの。


「・・・どうしよう」


世界で一番安全な場所で守っている彼女は実は、世界で一番危険な場所にいることになったようで。
はあ、と再び吐き出したジョーのため息に、くくくっと仲間の誰かの忍び笑いが聞こえた。













end.






*このお話は「ヨミに咲く花の種」にあった妄想種のお話に加筆しています。
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