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SIDE.J
←こちらの本編を読んでから、お話にお進みください・・・。


フランソワーズがレッスンに通っているバレエ団が、新しい街に移転した。
彼女は毎週末、以前にも増して楽しそうにレッスンへ出かけていき

・・・・この頃、フランソワーズがレッスンからまっすぐに邸に帰ってこない。

バレエ団の新ビル近くにある”とても素敵なカフェ”にあるケーキが、
彼女のお気に入りになって以来、頻繁にそれらをお土産として買って帰ってきていたけれど、
最近はそこで少しばかりお茶をしてくるようになった。

はじめは香奈恵さんと2人で行っていたようだが、どうやら最近は彼女1人で
カフェに行くようになり、今ではスクールに行くたびにその”カフェ”に寄っているようだった。
店のオーナーの奥さんにとても可愛がってもらっているようで、彼女は言った。


”まるでお友達の家に遊びに行ってるみたいなの!”


永遠にキミが喜び溢れる笑顔でいてくれることを、望みながら・・・
俺ではない誰かがキミを輝かせることを・・・

俺の知らないキミが、この世界にどこかに存在する・・・
そんなの・・・許せない。

####
「とっても美味しいのよ!新作のケーキが5つも出たのっ・・・
お店では全部は食べられそうになかったから・・・、2つ食べて、あとの3つを
買って帰ってきたの!」
「・・・そう。・・・で?その新作はキミしか食べられないわけ?」
「ちゃんとジョーの分も博士の分も、みんなの分も買ってきたわ」
「・・・新作は食べさせてくれないんだね?」
「ジョーは甘すぎるのがダメだから、いつも困るのよ?博士はフルーツ系が好きだから
すごく選ぶのが楽しいわ!」
「・・・・人の話しきけよ」
「あら、こんな時間!夕食の支度をしなきゃ!」
「・・・・」

ぴょんっと跳ねるようにソファから降りて、彼女は ぱたぱた とキッチンへ消えていった。

「おい、ジョー」
「なに?」
「いいのかよぉ?」
「なにが?」

ジェットは寝ころんでいた長い躯を のそりっ とL字型のソファの隅から起きあがらせた。

「まあ、バレエはいいことにしようぜ、オレもお前も、みんな好きなことやってんだしなぁ。
でも、そのケーキ屋ってのに入れ込んで・・・あとで辛い目みんのあいつだぜ?お前いいのかよ?」
「・・・ケーキ屋じゃなくて、カフェらしいよ」
「どっちでもいいんだよっ。・・・あんまり”付き合い”が深くなったらなぁ、わかってんだろ?」
「・・・フランソワーズも、わかってるさ」
「香奈恵って女のことは、まあ仕方ないとしてもだぜ?・・・これ以上そういうの増やすのんを
オレは気にくわねぇなっ」

ふんっと鼻を鳴らしてまた ごろり とソファに寝ころんだ。

「・・・・短い間でも、友達ができてもいいんじゃないか?」
「甘め~~~よ!あいつが買ってくるケーキ以上にな!ったく、しっかりしろよ!!・・・っつ~かよお、
お前気づいてのか?」
「何に?」

ジェットは面倒臭そうに、もう一度ソファから長い躯を起きあがらせて立ち上がり、その彼自慢の
鼻をジョーの顔に近づけ、面白そうに目を光らせながら、ニヤリ、と嗤った。

「”ダイチ”さんって誰だよ?」

ジョーは眉間に皺を寄せて、ジェットを睨む。

「だいち?」
「おー、おー、神よ!!!ここに何も知らない可哀相な男が1人!」

ジェットはグレートの芝居がかった物言いを、大げさに真似た。

「誰だよ、そいつ」

ジョーの機嫌はどんどん悪くなる。
その証拠に彼の瞳は鋭い光を宿し始め、鈍い闇の色が滲みはじめた。


「フランソワーズの新しい”これ”だよっ!!」


ニヒヒっと意地悪く嗤いながら、ジェットは親指を立てて見せた。


ーーー男・・・・?


「しっかり捕まえとけよぉっ、色男!モテんのはお前だけじゃねえんだよっ」



ーーーフランソワーズに・・・・・・・男?



####

「ああ!ジェットっ御飯すぐできるから待って!食べないで!」
キッチンから彼女の声。

ジェットは夕食まで待てないのか、ばりっ とスナック菓子の袋が破れる音が聞こえた。
ジョーはソファから立ち上がりリビングの隣、ダイニングルームへと足を進めてキッチンを覗く。
そこには ぴょんぴょん と飛び跳ねてスナック菓子をジェットの手から
取り上げようとするフランソワーズに、自分の頭の上までスナック菓子の袋を掲げたジェットがいる。

「っんだよ、食わせろ!メシもちゃんと食うんだから、いいじゃあねぇっかよ!」
「だめよっそう言って結局食べられなくって変な時間にお腹が空いたって冷蔵庫とか
荒らすんだもの!食べ物がなくって夜中に”腹減った~”って起こされる私の身にもなって!」
「別にいいじゃねえかよっ、夜に起こされたって」
「いやよ!」

ジェットはキッチンのドアに立つジョーの気配に気がついたようで、彼の方を振り向く。
フランソワーズもジェットの視線でそこにジョーがいることに気がついた。

「オレだってそれなりに理解があんだよっ!ナニの時には邪魔しねえって、心配すんなよ」
「っっ!?!?!?」

ジェットの言葉に、フランソワーズが固まってしまった。
ニヤニヤと嗤いながら彼女を見下ろすジェットに、ジョーは軽くため息をつき、素早くジェットが
持っていたスナック菓子を取り上げて、フランソワーズの顔前に持ってくる。

「はい」
フランソワーズは恥ずかしいのか俯いたまま、ジョーから手渡されたスナック菓子を受け取った。

「だ~~~~~~~っ!ジョー邪魔すんなあ!」
「腹減ってるなら、菓子食ったり、邪魔したりしないで夕食の準備を手伝えよ」

淡々と物言うジョーに、ジェットは面白くないらしい。
さっき言った言葉を聞いていたのかっ!と叫びたくなるが、そこはぐっと押さえた。

ーーーっちっっ!ジョーの奴。面白いもんみれると思ったのによ・・・!

####

ジョーはキッチンで、夕食後の珈琲と一緒にフランソワーズが買ってきたケーキを皿に並べるのを手伝っている。

「・・・・今日、部屋に行くよ?」
「?!」

ジョーの突然の言葉に、フランソワーズは手に持っていたケーキをお皿の上に ぼてっ と
落としてしまいケーキの形を崩してしまった。

「・・・それ、誰の分?文句言うやつのだったら、他のと変えた方がいいね」
「j、jy、ジョー・・・今日は、その・・・」
「・・・ジェットに言われたから?」

紅い顔で俯いてしまったフランソワーズ。

「だめ。決めたから」
「・・・・!」
「行く」
「・・・・そ、そんな!」
「嫌?・・・なら、俺を部屋に入れなければいい。鍵を閉めておけばいい」
「!?」

いつも我が儘を言うジョーだが、今日は”いつもの我が儘”ではなく、
強引といった方がいい物言いと、何か冷たいものが含まれた雰囲気にフランソワーズは戸惑う。

「・・・誰?」

空気に混じった、音にならない声。

「・・・?」

「誰だよ」

その声はフランソワーズにしか・・・フランソワーズでさえ聞き取るのが難しい、空気の振動。

「・・・ジョー・・?」
「キミ、俺に言うことない?」
「?」

フランソワーズは不思議そうに、そして困惑の色を瞳にはっきりと宿してジョーを見つめる。
彼女はジョーが何について話しているのか、まったく理解できていないことは、明かである。
ジョーはケーキを乗せた皿をトレーに置いていき、ふうっと短いため息をついてから笑顔をつくる。
ちゃんと笑えているかは自信はない。

「・・・ごめん。困らせるつもりはないよ、気にしないで」

トレーがケーキ皿で埋め尽くされ、それを ひょいっ と軽々と持ち上げる。

「これ。先にもっていく。キミ、夕飯もキレイに食べたのに・・・ケーキ3つも食べていいの?バレリーナが?」

いつものジョーである。

####


ダイチ だいち ダイチ だいち ダイチ だいち
だいち ダイチ だいち ダイチ だいち ダイチ


その夜、ジョーはフランソワーズの部屋を訊ねたが、”お休み”と一言を言っただけで
部屋には入らなかった。フランソワーズもそれをよく解っていたらしく、ジョーの額にキスをひとつ。

結局、ジョーは彼女に”だいち”と言う名前の主について訊ねられないまま、夜を過ごす。
冷たいベッドに横たわり、耳から離れない名詞に苛つきながらじっと天上を見据える。


ダイチ だいち ダイチ だいち ダイチ だいち
だいち ダイチ だいち ダイチ だいち ダイチ


知らない男のそばに寄り添うように立つ、フランソワーズ。
知らない男のそばで天使のように微笑む、フランソワーズ。
知らない男の腕に抱かれて、瞳を潤ます、フランソワーズ。

自分じゃない男が、自分にみせる彼女の全てを・・・。
自分が知らない男が、自分の知らない彼女を知っている・・・。

気が狂いそうになる。
胸の奥に押し込んでいたはずの”もの”がざわざわとうごめき始める。

じっとりとした熱帯夜のような不愉快な温度。
ゆっくりと甘い声でジョーを誘う声。
昔はその声の美しい囁きに身を任せ、酔いしれ、・・・闇に溺れた日々を思い出す。

もう二度と、その闇には囚われないと誓った日。
フランソワーズが、自分を受け入れてくれた日。

俺が生まれたことが、この世の悪。
俺が存在することが、この世の罪。

父が母の元にいない原因は、俺。
母が死ななければならなかった原因は、俺。
サイボーグにされた人々の命を奪ったのは、俺。
助けられたはずの命を、助けられなかったの原因は、俺。

彼女を愛してしまった、俺。
彼女が欲しくて欲しくて、たまらない俺。

彼女は俺以外の男に愛されるべき人。
彼女にはもっと相応しい男がいる。

だから、いつか・・・。
俺の目の前から彼女を連れて行く奴が・・・本当に彼女に相応しい男ならば、
彼女の幸せのために、彼女が彼女らしく生きていくために、俺は・・・・さよならを言える。

言えると、思っていた。
言いたいと思っていた。

フランソワーズのために。
俺が初めて愛した彼女のために。
彼女がすべてだから。


だいち?
ダイチ?

・・・誰だよ?


そいつが、そうなのか?
そいつが、彼女の運命の人なのか?


こんなにも早く・・・現れたのか?




まだ、まだだ!
まだ!

嫌だ・・・!!!

イヤだ!


フランソワーズ!

俺を・・・
俺を・・・捨てないで・・・・・。


お れ を す て な い で

お れ を み す て な い で

お れ を あ い し て

お れ だ け を み て

お れ だ け を 

お れ の も の に な っ て



####

「  j。。・・?」

何処か、ものすごく遠い所からジョーの耳に届く、声。
何かを言っているようだが、一体何を言っているのか聴き取れずに、
彼はその声のする方向へと顔を傾けた。

重く張り付いた瞼をゆっくりと引きはがすように開ける。
光の波に襲われて、ベッドの上に横になっているにもかかわらず、躯が大きく傾いたような
感覚に襲われる。

「・・・x?」

体中の水分がなくなってしまったのか、声を出そうとしたが潤いのない声帯は
空気の振動に反応しなかった。

「ジョー?」

はっきりと耳元に彼女・・・フランソワーズの声が聞こえたとき、やっとジョーはピントがずれていた
意識と躯が結びついた。

目に飛び込んできた、心配げに揺れるセリアンブルーの鮮やかな瞳。

「・・・ジョー?」

「フラン・・ソ・・・ワ・・・ズ?」

ジョーの声にやっとフランソワーズは安心したかのように微笑んだ。

「も!!驚かせないで・・・起こしに来たら・・・すごく魘されていたんですもの・・・どうしたの?」
「魘されてた?」
「ええ・・・とても・・・」

フランソワーズは そうっ と彼の目元を指で拭う。
彼女のヒンヤリとした指が、ジョーの火照った頬にあてられて気持ちよく、
その感覚に身を任せるように瞼を閉じた。

一滴の雫がフランソワーズの指に乗る。

「・・・ジョー?」
「・・・なに?」
「泣いて・・たの?」

ジョー心臓を握りつぶされたような痛みを感じた。

「・・・さあ、寝ていたから・・・わからない、よ?」
「また、変なこと考えてたんじゃないの?」
「変なこと?」
「・・・変なこと」
「どんなこと?」
「・・だから、変なこと!」
「・・・やらしーことならいつも考えてるけど?」
「?!」

ジョーの愉快そうな笑いに、フランソワーズは反射的にベッドから離れようとしたが、
それよりも早くジョーの手はフランソワーズの腕を取り、自分のベッドに引き込んだ。

「j、じ、ジョー!!!」

自分の腕の中でもがくフランソワーズを、その逞しい腕で押さえ込む。

「・・・魘されてたんだ?俺」

フランソワーズは耳元で聞こえたジョーの言葉に ぴたり と、もがくのをやめた。

「何か、俺言ってた?」

フランソワーズは、首を左右に振り、ジョーの質問にNOと答える。

「そう」

ジョーはフランソワーズの額にキスを一つ。
そして瞼に一つ。
両方の頬に一つずつ優しくキスをする。

「おはよう・・・今日もバレエだろ?送ってく」


####

それから2週間。

一度も、フランソワーズの口からは”だいち”と言う単語をジョーは耳にすることがなく、
そしてジョーもフランソワーズに訊かない。


・・・怖くてきけない。


今日もフランソワーズはレッスンの帰りに”お気に入りのカフェ”に行くと言うので、
「今日は仕事ないから迎えに行く、電話して」と、飛び出すように車から出て行く彼女の背に
向かって言った。


胸の中でざらついた”もの”はずっと顔を出したまま。

ジョーはフランソワーズから迎えに来て欲しいとの電話を受けた後に、車を走らせた。
いつも彼が停めるパーキングエリアについたとき、彼女からのメールが届いていることに
気がついた。帰り際にバレエ団から所用を頼まれたらしく、少し遅れると書いてあった。
そのメールを読んでいたとき、送り主であるフランソワーズから電話がはいった。

「フランソワーズ?」
『ジョー?』
「今、メール読んだ・・・思ったより早くついてしまったみたい」
『ごめんなさい』
「いいよ、キミのせいじゃない。待ってる」
『ごめんなさい・・・あと30分くらいかかりそうなの』
「わかった」
『あのね・・・』
「ん?」
『ケーキ食べたいの』
「・・・・で?」
『あの、私のお気に入りのお店のケーキが食べたいの。先週も食べてないし、
今週も食べられないでしょ?今日はピュンマが帰ってくるから色々準備があるから時間がないわ』
「・・・・で?」
『だめ?』
「・・・・どのケーキがいいかメールして」
『うん!メールするから、絶対に読まなきゃだめよ?お店の人に見せたりしたら、ズルっこなんだからっ』
「・・・意味不明だよ、それ」
『すぐメールする!』

5分もせず、フランソワーズから大量の文字が届く。

「これ・・・ケーキの名前????」

フランソワーズが通うバレエ団の新ビルから、十字の点滅信号を挟んだ、斜め向かいの
小さな雑居ビル1階に入ったカフェを見つける。女性が好きそうな、その店の外観を普通の男なら
躊躇してしまうところを、ジョーはまったく興味がないのかスタスタと早足で入っていく。
ドアを開けると小さなチャイムが心地よい音を立てた。

ーーー客が入ってる割に静かだな?

入り口から入って正面に色とりどりのケーキを飾ったウィンドウケース。
ジョーはレジ前に立つ青年に声をかけた。彼のネームタグをちらりと観る。
”井川”と書かれていた。年齢的にみて、まだ二十歳そこそこの真面目そうな
”最近の”若者らしい青年だった。彼は少しおどおどしながら「いらっしゃいませ」と
ジョーに声をかける。

「・・・・自宅用に包んでもらえますか?」

井川と言う青年にお願いしたとき、後ろから小柄なショートヘアの女性が駆け寄ってきたので、
ジョーは振り返る。満面の・・・営業スマイルでジョーに話しかけた女性店員のネームタグも
”井川”となっていた。

「・・・えっと」

ジョーは携帯を取り出して、先ほどフランソワーズが送ってきたメールを開く。

ーーーフランソワーズ・・・俺にこれを読ませて楽しいのか?

そして、彼女から言われた通りに、機械的に一字一句間違えないように注意しながら、
訳のわからない呪文を口にした。

読んでいくうちに頭痛を感じ始める、ジョー。
小柄な女性がてきぱきとケーキを詰めていき、ジョーに訊ねた。

「以上でよろしいでしょうか?」

ーーーあ。

「あ、それと、チョコレートムースのビターとホワイトを」

1通目のフランソワーズのメールに続いて送られてきた2通目に書かれていたケーキの名前は
・・・さすがに気力がなくなったのか、読むのを拒んだ。

ーーーなんだよ、これ・・・キスの甘さ?! 君を想う?!

はあっとため息を吐いたとき、手に持っていた携帯が鳴る。
フランソワーズからだ、とすぐにわかる。が、店内でそれを取ることを躊躇させたが
”もしも”を考えて、その電話を取ることに決めた。一応、向かい側にいる店員に「失礼」と声をかける。

『もしもし、ジョー?』
「そうだよ」
『今どこにいるの?』
「・・・・君の言った店にいるよ」
『んふふふ・・・ちゃんと注文してくれた?』
「言われた通りの」
『ケーキの名前ちゃんと言ったの?』
「ちゃんと言ったさ、ケーキの名前」
『本当に?絶対に?嘘はキライよ?』
「見せてないよ、メールは・・・」

話している途中で女性店員に話しかけれたので、それを機にフランソワーズからの電話を切った。

店の女性店員はジョーがすらすらと呪文のようなケーキの名前をすべて知っていたので、
彼がケーキの精算をしているときに、話しかけてきた。
その女性店員の話し方は、とても丁寧で優しく、ジョーは彼女がフランソワーズが言う、
”萌子”さんなのでは?と思う。その”萌子”さんらしき女性は、ジョーに誰に頼まれたか
知りたがっているようなので、素直に言った。

「・・・・彼女の名前はフランソワーズです、いつもよくして頂いて、ありがとうございます」


その手に大量のケーキを入れた箱を持って、店を出る。
パーキングエリアに停めた車にもたれるようにして立っていたフランソワーズが、
ジョーの姿をみつけて大きく手を振る。

「ジョー!!」

早足でフランソワーズに近づき、大きな箱を彼女の顔に突きつける。

「・・・・俺に何させたいのさ・・・あのケーキの名前言わせて」

####

ギルモア邸に車を走らせる。
フランソワーズはケーキの箱を膝に乗せて、ご機嫌にずっと話し続けていた。

「観たかったわ~!ジョーがケーキを注文しているところ」
「・・・」
「今度、お店に行ったら萌子さんに訊かないと!」
「・・・」
「ふふふ。先週も多食べられなくって今週もダメってわかったら、すごく寂しくなったのよ?
ケーキってすごい魔力よね?」
「・・・キミにしか効かないと思うよ?」
「そお?ギルモア博士も、私が買ってくるのを楽しみにしているわよ?ジョーだって好きじゃない、ムースの」
「・・・食べなくても死なないし」
「まあ!ジョーはこのケーキたちの素晴らしがさわからないのね?・・・まだ食べたりないんだわ!!
ちゃんと味わってる?」
「・・・十分に」

赤信号で車を止める。

「も!大地さんなんて毎日食べてらしても、食べ飽きることないっておっしゃるのよ?」

ジョーの躯が ビクン っと跳ねる。


だいち
ダイチ
大地?


ハンドルを握りしめる手の力を・・・強く力を入れてしまい、パシィイっ とひび割れる音が聞こえた、と
同時に後車からけたたましくクラクションを鳴らされた。

「・・・ジョー?」

いつの間にか青に変わっていた信号。

「・・・ごめん」

クラクションに急かされて、アクセルを踏み込んだ。

「どうしたの?」
「・・・ん。ちょっとぼうっとした」
「疲れたの?」
「・・・・そうかもな」
「・・・・ごめんなさい」
「なんでキミが謝る?」
「だって・・・・・」
「キミが謝る必要ない」
「・・・・でも」
「キミのせいじゃないよ」



ーーー大地って誰だよ?!



車をギルモア邸の車庫に入れる前に、フランソワーズを降ろす。
フランソワーズは不安げに運転席のジョーを見つめたまま立ちつくす、
その姿にジョーは苦笑しつつ、先に邸へ入ることを促した。

「キミがずっと膝に抱えてたんだから、ケーキ傷むよ?早い方が良い」

ジョーは車庫に車を入れ、ドアを閉め鍵を掛ける。



そのまま邸へ戻ればいい。

何も考えずに、今日ピュンマが帰ってきたんだ。
久々に10人、家族が揃う。

フランソワーズがケーキを買いたがったのもきっと、ピュンマにも食べて欲しかったからだろう。
彼女のお気に入りを。

彼女のお気に入りを・・・・。


「誰・・・だよ?」

誰なんだ?


どうしてキミは何も言わない?


男の名前なんて今までキミから何度も聞いた。



その度に、そいつらをスーパーガンで何度も撃ち殺した・・・俺の中で。
キミは知っているの?
俺は何度もそうやってキミを独り占めしたことを。



なんで今回に限ってその名前はキミの口からではなく、ジェットから聴かされた?


さっき・・・車の中でキミはなんて言った?



ーも!大地さんなんて毎日食べてらしても、食べ飽きることないっておっしゃるのよ?ー



あのカフェで働いている?
あのカフェに通っている?

キミは・・・レッスンに行くたびに逢っていた?

そいつと話してた?
何を話した?

そいつに笑った?
俺に笑いかけるように
そいつにもキミは笑った?


誰?

俺の知らないキミを知ってるヤツは誰?

誰?


なんで?
なんでキミは何も言わない?


俺には言いたくない?
言う意味がない?


痛い。
苦しい。

フランソワーズ。


痛い。
苦しい。


助けて。







「・・・おいっ」


力強く、自分の肩を掴んだ熱い手。
ジョーは力無くその手の勢いに ぐらり と躯を傾けた。


「・・・・ったく!バカか?」


低い声で静かに吠える。


「そんなに思い詰めることかよ?お前マゾ?」


ジョーは赤毛の男に顔を向けるが、その視線は彼の顔を見ていない。


「・・・悪ぃ、オレのせいだよな、フラン、呼んだからよ」


ーーーフランソワーズ?


「ジェット!ジョー!!」


ーーーフランソワーズ?


フランソワーズは全速力でジョーに駆け寄り、ジョーを力強く抱きしめた。
ジョーはフランソワーズに抱きしめられたまま。呆然と立ちつくす。


「ジェット!ジョーを苛めないで!!ひどいわ!!」
「・・・オレがきっかけだったのは、謝る。でも!元々はおめえが悪ぃんだよ!こいつに
隠し事なんかすっから!」
「そんなの、私がジョーにするわけないじゃない!!!!」
「へ~へ~、オレは腹減ったんで、行くぜ、てめえらとっとと戻ってこねぇと、メシなくなるからな、
さっさとくだらない”やきもち”をやめさろ!」

ジェットは逃げるように邸へ戻っていく。


ただフランソワーズに抱きしめられていたジョーは、ゆっくりと彼女の腕をほどいて、
まっすぐにフランソワーズを観た。

暗い夜の月明かりの中。
彼女の瞳の中は・・・輝く小宇宙。

その瞳に映るジョー、自分の姿がとても小さく頼りないように見えた。


「だれ?」

「・・・・ジョー?」

「なあ・・・・・・誰だよ?」

「・・・・・・何がききたいの?」

「キミの・・・こころの・・なかに・・は・・誰がいる・・・?」

「・・・・・・ジョー?・・・・・」

「・・・だれ?」

「・・・」

「大地っ・・・て・・・誰?」

「?!」

「だれ?」




フランソワーズは今までの人生で一番無邪気に微笑んだ。




「も!ジョーってもしかして本当におバカさん?」

一度は解かれた腕をもう一度、フランソワーズは力一杯にジョーを抱きしめた。

「大地さんは、あのカフェのオーナーの弟さんで、萌子さんの義弟さん!」

”大地”と言う単語に、ジョーは びくり と躯をふるわせた。


「名前を知ったのはついこの間なのよ?まったく、ジェットってば!!あなたに何をいったのよ?
あのトリ頭は・・・。最近よくケーキとかお茶とかをサービスしてもらったのよ?
とってもよくしてもらってるって話したわよね?」

「大地って名前は・・・聴いてない」

「?・・・あら?そう?」

「・・・・・・・・そう」

「何か問題あるの?・・・大地さんに」

「・・・・・・何も言わないから」

「?」

「ジェットからききたくなかった」

「・・・大地さんのこと?」

「・・・・・キミは何も言わないから」

「不安だった?」

「・・・・・俺のこと・・・もう・・・好きじゃない?」



「ま!あなた以外、私は誰を愛するのよ!・・・好きよ・・・大好き!!」



ジョーはフランソワーズの背中に恐る恐る自分の腕をまわして、そしてゆっくりと彼女の肩に
自分の額を押しつけた。

フランソワーズの頬にかかるジョーの柔らかな髪。
首筋に伝う、水滴。


「ほんとう・・・に?」

「好きよ」

「俺を?」

「愛してる」

「・・・好き・・・?」

「大好きよ」


少しずつ、少しずつ、ジョーはフランソワーズを抱く腕を強めていく。


「大地・・・は?」

「萌子さんの義弟さん、で。お友達になろうと努力中」

「・・・・」

「ジョーだけよ」

「・・・・」

「私を壊していいのは、あなただけ」

「・・・・」

「嬉しい・・・ジョーは壊れてくれるのね?私のために、私を愛してくれているから、
とっても綺麗に壊れてくれるのね?」

「俺以外の男に近づくな・・・」

「無理よ・・・」

「話すな」

「無理」

「笑うな」

「も!無理よ・・・」

「俺だけのキミでいて」

「あなただけの私でいるわ、永遠に」

「・・・・・」

「私を信じられない?」

「信じたい、信じてる。けど・・・」

「怖い?」

「怖い、さ。この腕にずっと抱きしめていられないから」

「じゃあ、壊して・・・」

「・・・・・」

「あなたの腕の中で壊して」

「・・・・・」

「いつでもいいわ、あなただけの私であるために必要なら」

「・・・・・」

「でも、まだ足りないの。まだ満足してないの。あなたはまだ、ちゃんと私を愛せてないもの」

「愛してる」

「愛せてないわ」

「・・・ひどいな・・こんなに、こんなに・・・・壊れてしまうくらいにキミを想っているのに、愛してるのに・・・」

「足りないの。私をみくびらないで。私をその辺の女だと思わないで」

「思ってないよ」

「私が足りないって言えば、足りないのよ?」

フランソワーズはジョーの腕の中で くすり と笑う。
ジョーは彼女の肩から顔を上げて、自分の腕の中にいるフランソワーズを観る。
彼女は満天の星明かりよりも輝く笑顔をジョーにむけて微笑んでいる。


「嬉しいわ・・・ジョーはヤキモチをやいてくれたのね?」

「・・・・」

「いっつも私ばっかりで、つまんなかったもの」

「・・・・キミがヤキモチ?」

「そうよ!いっつもジョーはいろんな子に優しいし!庇うし、助けるし、私なんか
忘れちゃったんじゃないかしら?って何度も思ったわ」

「・・・・・」

「これでおあいこね?あ!でも数的には圧倒的に私の勝ちよ、ヤキモチは!」

「・・・・・まじで?」

「まじで!」


フランソワーズはつま先立ち、小鳥のようなキスをジョーの唇にひとつ。

「ヤキモチを焼かれるって素敵ね!」

「もうヤダ」

「焼いてちょうだい!」

「ヤダ」

「お願いね?」

「・・・・・・やけないよ。もう二度と」

「どうして?」

「俺以外の男をキミに近づけさせる気はない」




####

ドアのチャイムが ちりりんっと鳴る。

今日は金曜日!
フランソワーズさんの日!


「いらっしゃいませ、フランソワーズさん。と、野郎」

「・・・だんだん酷くなるな。俺の扱い」

ジョーは日本にいる間、べった~~りフランソワーズさんのそばを離れない。
オフシーズンに入ってるから、嫌でも毎週のように顔を合わせることになる。

「ちょっとはフランソワーズさんを解放してやれよ・・ったく、いつも一緒じゃあ大変でしょう?
フランソワーズさんも」

くりくりとした大きな空色の瞳は面白そうに輝いている。

「一緒にいないと大変なのよ?大地さん」
「どうしてっすか?」
「だって、ジョーがヤキモチ焼いてしまって1人でず~~~~んっと落ち込んで泣くんだもの、
慰めるのって本当に疲れるのよ?」


ジョーが!?
泣いて!?
1人でず~~~~んっと落ち込むうううううう!?


それは素晴らしい!!!!!



「!!! ふっっっフランソワーズ!!」

ジョーは慌てて彼女を背後から抱きしめたと思うと、その口を塞ぐ。
彼女はバタバタと手足を動かし、抵抗するが・・・それは無駄な努力かと思いきや・・・。

「その話ししっかり聴かせてもらいましょ!」

さすがっ香奈恵さん!
テーブル席についていた香奈恵さんはいつの間にか気配をけして
(何者っすか香奈恵さん・・・)
ジョーを背後から ぎりり っと 彼の腕を拈り上げた。
(バレリーナっすか?本当に?)

「いっっっつ・・・」

拈り上げられた腕に苦悶の表情のジョーは・・・店中の女性のハートを一瞬にして奪うほど・・・
妖艶だった。
まだ昼間だぞ?ジョー・・・それはないぞ。その顔は!

解放されたフランソワーズさんは、こそっとオレに近づいてオレの耳に囁いた。
彼女の甘い息がオレの横顔を擽った。

「あのね、ジョーは私が大地さんに知り合ったばかりのころに、大地さんにヤキモチ焼いたのよ?激しく」

は げ し く~~~~~?


「?!」

間近にあるフランソワーズさんの愛らしい顔にオレは振り返る。

「ホントよ!」

彼女は好奇心旺盛な子猫のようにキラキラと輝く瞳で嬉しそうに微笑んだ。
こんなに間近に彼女の笑顔を見ることが出来るなんて・・・。

今死んでも後悔しません・・・!

「フランソワーズ」

10cmもない距離にあったフランソワーズさんが ふい っと消えた。

「近づくな・・・」

いつの間にか香奈恵さんの腕から逃れたのか、ジョーはオレのそばにいたフランソワーズさんを
自分の腕に抱き込んで、オレから遠ざけた。

「っ!!ジョー!てめぇ!近づくなってなんだよっ」

義姉さんのトレーがオレの後頭部にゴイ~ンっと直撃。

「大地!お客さまは神様です!口!言葉!」

ジョーはその腕に抱いているフランソワーズさんを抱き抱えるように抱き直す。

「フランソワーズに近づくなよ、大地。死にたくなかったら・・・これは俺が」


ーーーー壊すんだから・・・・・・。


「んふふ。ジョー、それをヤキモチって言うのよ?・・・あなたは二度とやかないって言ったけど、
あなたは永遠にヤキモチでいないとダメなのよ?・・・私が好きなら、ね?」

フランソワーズさんは嬉しそうに、ジョーの首に腕をまわしたかと思うと・・・そのローズピンク色の
艶やかな唇を彼のそれにチュっと愛らしい音を立ててキスをした。

「この!!!おおおおおおおおおおお大バカップル!!ここは公共の場だ!」

香奈恵さん・・・あなたの声の大きさがすでに店内の平和を乱してます。




はあ。

カフェ"Audery”に平和は来るのかなあ?

・・・ジョーがヤキモチやきに決まってるじゃん。
あいつの行動自体が、そのまんま。

わかってないな~フランソワーズさん・・・・いい加減にチュッチュッチュッチュッ・・・って
止めて下さいっっっっ(TロT)



end.

・あとがき・

実はこれ・・・
キリリク「333」をゲットしていただいたメ・・ンさまへ。
「3←男 で9がやきもきしている!!」

の、ために書き始めたのですが・・・どうにも違う気がしまして・・

ジョーにやきもきさせることが、こんなに大変でハードルが高いとは・・・( ̄□ ̄;)ガーン
なんかジョーのくせに~!!
ヤキモチくらいちょちょいと焼いてしまえ~!!!っと怒りを覚えてしまうほどに・・・苦戦中(TロT)

なので、これは一応(借)キリリクとしてリベンジいたします!
>メ・・ンさま、申しわけございません_(._.)_ 
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