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Alles Liebe
「年頃の娘が、コンパクトの一つや二つ、持っていたところで何も問題ないだろう」

004に前振りもなく突然手を取られたと思えば・・・003の掌の上に、ひんやりとした冷たく、観た目よりもズシリと重たい、ものが乗せられた。

「・・・あ、え?」

驚きに観開く青のまま視線を掌に落とすと、繊細な細工が施されて銀色の高価そうなコンパクトがあった。

「多少年季が入っているが、そう悪いもんでもない」
「004、どうしたの、これ・・・?」
「・・・まあ、気にするな」

改造後の話しだった。

「あなたの?」

『従順である』ことを確認された後に返還された。
当時、004が着ていた、服。と、そのポケットの中にしのばせていた物が、戻ってきた。

「いや、・・・まあ、買ったのはオレだが、使う予定だったのは別の・・」
「え?」

今、004の目の前にいる003が髪に飾るカチューシャも、二人が出会ったころにはなかったものだ。

「・・・いや、悪い。ただ、それの使い道ってのが、オレにはわからん。だからお前さんが使ってくれ」

004が取り戻したそれらと同時期に003も同じように手にしたのだろう。
だからこそ。

「いいの?」

彼女は察しがついた。

「いいさ・・・・」

裏切り者呼ばわりされる者たちしかいない戦闘機の中で、異質なそれが何を意味するのかを。

「本当に?」

追われる者ではあるけれど、戦闘機内での生活、放浪の旅先でもそれなりに人らしい生活を取り戻しつつあるが、それでも、彼女の掌にある銀細工のコンパクトを004が購入する目的が見当たらない。
003は「自分のため」に、わざわざ004が購入してくれた、などとも思えない上に、彼が自分へプレゼントを贈る根拠がない。


仲間だから、にしては、・・・それは美しく高価だ。



「ああ、中身はこっちにちゃんとある」

ハインリヒは黄色のマフラーの下から、チェーンにつないだ指輪をみせた。
それは、今、003が手にしている、コンパクトの中に入れていたものだった。

もう、この世にはいない女性の指のサイズにあわせた装飾品。


「・・・本当に、いいのだったら。ありがとう。とても素敵だわ、・・・大切にするわね」

丸いコンパクトの中央に輝く石は、・・・きっと指輪の女性の誕生石。

「新しいのを、・・・アイツに買ってもらうまでくらい、で、いいさ」
「え?」


004は、組んでいた腕から、こっそりと親指を立てて自分の背後を観るように示した。


「あはは・・いや、別に隠れてその・・じゃなくて、なんだかとても・・・真剣な話をしていて、・・・ただ、僕はその・・・」
「009!」
「よ、・・・もう交替の時間か?」
「あのっ、あのねっ009」

003は、自分の手の中にある美しいそれを009に見せようとしたが、それを004はそっと、人差し指を唇に当てて制した。


shiiii....



「003?」
「ん、あの・・・・」

003は004へとちらりと視線を流す。
004から貰ったものだから、彼が009に知られたくない何かだったのだとしたら、自分が嬉々として009に見せるべきではない。

「なんでもないさ、009」

その表情を読み取って、004が先に釘をさす。

「え・・・う、うん。そうなんだ」


「なあ?003?」
「あ、の・・・004、その、・・・でも、」

けれど、003は009に変に・・・004との間を誤解されたくはなかった。
誤解してくれるのか、どうかもわからないけれど、彼との間に仲間以上の、男女のそういった感情はないのだと、009にだけははっきりと意思表示しておきたい。

「いや、いいよ、無理に・・・お、教えてくれなくても、・・・さ・・・・」

なんともいえない、・・悲しいのか困惑しているのか、笑っているのか拗ねているのか、複雑な色をみせる009の表情を読みながら、004は片方の口角をあげてニヤりとほほ笑んだ。


「じゃ、・・003」
「あ。ええ・・・004、あ、ありがとう」
「・・・」

004は003に背を向けて、軽やかに歩きだす。
009はドア口に立っている。
その向こうが彼が行かなければいけないコクピットへ通じる通路だ。

「悔しかったら、009」

一歩、左側へと躯をよけて004へと道を譲った009の肩に、血の通わない重たい銀色の手を伸ばした。

「1日も早く003の気持ちに答えてやるこったな」

009の肩にぐっと力をいれると、003には聞こえないはずもないが、ひそやかに囁いた。

「?!」
「004!!」

009の驚きの表情をかき消すかのように、003のとがった悲鳴に近い声が飛んだ。

「ハハハ・・・それじゃ、邪魔者はひっこむとするか」


春の蝶を思わせるような動きでヒラヒラと手を振りながら、なんとも微妙な関係にある男女を残して去って行った。




「・・・004のばか」
「あの・・・ええっと・・・その、・・・・003・・?」
「な、なにかしら、009」
「・・その、あ・・・の・・・004から、そのさ・・・な、何をもらったの、かな?」






end.



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