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日常~なあ、ジェット・・・?~
 暦の上ではすでに秋色深く彩られているはずの今になって、ようやく夏の暑さが落ち着いたころ、急ぎ足でやってくるだろう冬に慌てる極東の小さな島国があった。
 盆正月クリスマス、他、他国の様々なお祝いを見事に自国風にアレンジし、祝って(商売にして)しまうあたりがなんとも平和であり、微笑ましいお祭り、イベント好きな国民性がうかがえる。
 また最近になって西洋から流れてきた行事が新しく加わろうとしていた。

 そんな国だからこそなのか。
 理由はわからないが、彼等はここを安息の地として選んだ。




 海岸沿いにせり出した崖の上。

 海鳥たちが見下ろす視界の中に、世間から隠れるように建てられた古い洋館が在る。
 潮風に揺れる雑木林の先。獣道のような私道と国道の境界に小さく『ギルモア研究所』と手書きの表札が掲げられていた。
 






「バニーガール、ナースに、フライトアテンダント、…。どれもこれも似合うと思うんだがなあ」

 ガタガタとミシンがけに精を出しつつも、ため息をついた、グレート。

「せっかくのハロウィンなんだからよぉ、なんと言うかな…普段観られない姿を、仲間としては・・・裏表ないお付き合いのためにひとつ…」

 どうやらハロウィン用・フランソワーズのコスチュームを作っているようだ。

「い・や・よ」

 愛用するピンク色のスリッパをバタバタと鳴らしながら軽やかに彼の前を通りすぎる、フランソワーズ。
彼女はどうやらグレートの提案するデザインが気にいらいないようだった。

「それよりも、ねぇ、グレート。私の部屋のカーテンを新調してくれないかしら?」

 サテンの生地を手慣れた様子で縫い合わせていく姿は熟練のテーラーに見えなくもない。
さすが元役者なだけあって、衣装製作の経験でもあったのだろうか。裁縫の腕前はなかなかのものだった。

「なんだい?今のじゃ気に入らないってのかい?」

 それにしても。いつ、どこで、ハロウィン(コスプレ)パーティをする話しにまとまったのか。

「天上が高すぎるのよ」

 フランソワーズは愛らしい唇をつんと尖らせてみた。

「市販のサイズじゃ長さが間に合わなかったの。気になってはいたのだけど…。はい、珈琲。」
「ダンケ…」 

 リビングルームの隅っこでいそいそとコスチュームを用意している彼を横目に見ながら、ハインリヒは濃い目の珈琲をすすった。

「ジェロニモ、ピュンマ、お茶がはいったわよ」

 俺は絶対に着ないぞ、と心に固く誓いながら。

「あれ?新しく彫り始めたのかい?」
「ああ」
「ジェロニモ、…それって」
「うむ」

 太陽の香りがする大きな手に、しっくりと馴染んでいる木は、彼がいつも彫る木彫り人形とあきらかに違っていた。

「かわいくできるといいね」

 かぼちゃのジャックランタンだ。
ジェロニモ風にアレンジが加わっているため見分けるのは難しかったが、見慣れている彼だからこそ、違いに気づいた。

「ほしいか?」

 手を止めることなく、木を彫り続けるジェロニモ。
彼のそれは儀式的なものであり、人に贈ったりしないものであるはずなのに、珍しい。

「え…いいの?」

 正直、西洋のお祭にあまり興味はなく、ハロウィン自体いったい何なのかイマイチわかっていないピュンマだけれど、ジェロニモの申し出に静かにコクリと頷いた。

「わかった。」 
「楽しみにしてるね」

 のんびりとした空気が流れるリビングルームに、自然と住人たちが集まってくる午後。
 平和な時間の使い方に多少なりとも戸惑いを感じている彼らがいた。
 闘うことのない平和な日々を堪能したのはほんの数カ月。徐々に、自由すぎる時間の使い方にどうしたものかと頭をひねるようになっていた。

「買い出し組が返ってきたアルよ~」

 キッチンに居るのが当たり前と思われている料理の達人は、玄関に居たようだ。
 ひょっこりとリビングへと顔を出し、両手に持った四角い箱を、巨大なガラス作りのローテーブルに置いた。

「ジョーとジェットがおみやげって買ってきてくれたアル」
「なんだ?ケーキか?」

 鼻をわざわざ巨大化させてひくひくと小鼻を動かすグレートは、リビングルームの端っこからそれが何であるか嗅ぎ分けようとする。

「これ昨日テレビで観たのだっ!紹介されてたプリンだっ」

 お店のロゴを観ただけで気が付いたピュンマの声に、木から目を放したジェロニモは口元で微笑んだ。

「遅いと思っていたら…、けっこう遠い店だろ?」

 どうやらハインリヒも同じテレビを観ていたらしい。

「グッド・タイミングってやつだな!」

 フランソワーズがちょうどお茶を淹れてくれた、このタイミングで届いたおやつ。3時の、と言うには少し過ぎてしまっているが、遠路はるばるテレビで紹介された店まで足を運んでくれた2人に感謝!と…大荷物をラクラクと抱えてリビングルームに姿を現した2人にむかって、パンパン!っと柏手を打った。

「グレート、拝まないでよ」

 苦笑しながらリビングルームを通り過ぎて行く、ジョー。

「まったくよぉ、並んだ並んだ…。一体どこまで連れて行くんだ?って思ったら、たかだかプリンに1時間超で立ちっぱなしだぞ?間違ってるぜ、その辺のと変わりゃしねーのにさ」

「まずは食べてみてから言いなよ…。恥ずかしかったんだからね。みんなスラング混じりの英語なんて聞き取れないって決めつけて文句ばかり言うんだ」

 2人は両手いっぱいの荷物を手にリビングルームを通りすぎていく。その後ろをいそいそと張大人が追いかけたいった。

「先に食べていいかな~!?」

 その後を、ソワソワしているピュンマがすでにプリンの容器を手にしながら、リビングルームからダイニングルームに通じるドア口まで追いかけた。
 「どうぞ~!」というジョーの声は、ピュンマだけでなくリビングルームに居た仲間たちに向けてだろう。
その場にいた全員が容器を手にし、一斉に付属されていた柄の長いお洒落なスプーンの袋を破いた。

「まあっ嫌だわ!みんなして!いただく前に手は洗ってきたの?ちゃんと座ってからいただいてちょうだい!」

 いつの間にやらリビングルームから消えていたフランソワーズは、しっかりとおみやげのプリンをいただくために、手を洗い、自分と買い出し組の2人、そして張大人の分のお茶をトレーにのせて戻ってきた。

「冷凍物や傷みやすいものだけを先に片付けたら、みんなと一緒にいただきましょうよ、ジョー!」

 首だけをひねらせて、ダイニングルームに向かって声をかける。
 そこにジェットと張大人の名前が含まれていないのは、彼がリーダーであるがためか、なんなのか。という細かいことを気にしない性格なように思えてきっちりとチェックをいれるのは、ジェロニモだったりする。

「こっちに来て見てみな、フランソワーズ。昨日お前さんが食べてみたいと騒いでいたプリンだ」
「うふふ。知っているわ」

 フランソワーズに注意されてL字型の特大ソファにいそいそと並んで座り始めた仲間たち。

「とっても美味しいっ!!」
「知っていたのか?」

 ハインリヒは座りかけた腰を停止させてフランソワーズを見上げた。

「うむ。・・・いい味だ。」
「知っていたわよ?だって出かける前に、ジョーが足を伸ばして買って来てくれるって…。どうかしたの?」

 どうかしたの?と問われても困る。

「形を崩さずにして舌の上でとろりと溶ける冷たい感触!たまごが持つ濃厚な味わいと甘みを生かしつつも、鼻に抜けていくヴァニラ独特の風味がただのプティングではないことを訴えているっ!絹のような滑らかさと相反する喉奥にからみつく、もうひとくち!と訴えたくなる旨み!ああっなんということだっ!カラメルシロップは別梱包とはっ!!にくい演出ではないか!このままのたまごプティングとしての味わいをさらにもう一弾楽しませるためのカラメル!香ばしい苦味が…うおおおおおおおっ」

 ハインリヒは無言のままゆっくりとソファに腰を落とした。

「うるさいよぉ、グレート…美味しいものは、美味しいでいいんだからさ…」
「足を伸ばして?わざわざ…いつもの買い出し場所(往復1時間内のスーパーを必要食品や雑貨によって使い分ける)からはるか遠い都会までか」
「…いけなかったの?」

 膝をついたフランソワーズがトレーの上にあるお茶をテーブルへとのせていく。

「…やだわ。ハインリヒ。ジョーのせいじゃなくてよ、私がいけなかったのだわ。私が、あまりにも食べたそうにしちゃったから」

 予定外の、余計な行動をジョーに強いてしまったことを後悔するように、零れ落ちそうなほどに大きな青をゆらがせた。

「いや、そういうわけではないんだ。いけないわけじゃない。ただ、それなら」

 それなら。と、言いかけて口を閉じた。

 別にプリンを買う買わないくらいの小さなことに、目くじらたてて報告した、しないを気にしているわけでもない。
 フランソワーズにだけ特別扱いをしただろ!とジョーを責めるのも違う。そんな気はさらさらないのに嫉妬しているなどと思われては厄介だ。

「なぁに?ハインリヒ」
「いや、なんでもない。ほら、食べろ…。上手いらしい」
「変なハインリヒね」

 いつもと変らない、明るく、花が咲くように軽やかに口元をほころばせたフランソワーズは、ハインリヒの手から、プリンと付属していた柄の長い、おしゃれなプラスティックのスプーンを受け取った。
 フランソワーズが座る場所をあけるため、ハインリヒが隣に座るピュンマを軽く押す。

「ジョー、ジェット!ありがとう!すごく美味しいよ」

 リビングルームの半分を埋めるように、壁に沿って「コの字」型に置かれているソファは、ジェロニモが半ダース揃っても余裕たっぷりの大きさだ。
 わざわざつまっている場所に座る必要はないのだけれど、せっかく自分のためにつめてくれたのだからと、フランソワーズがハインリヒの隣に座ろうとしたときだった。

「旨くなかったら(店を)潰してやるぜ」

 物理的な意味で本当に潰せる力があるために、物騒極まりない発言をしたジェットの声が響いた。
 フランソワーズが、落としかけた腰を再びあげた。

「つきあってくれて、ありがとう。おいしいから、店はつぶさないでくれ」

 ジョーはジェットの肩にポンポンと手を置いたことで、遠くて長い買い物へ付きあわせた礼を伝える。 
 ふんっと、面倒くさそうに鼻息だけでジェーの礼を受け止めたジェットは態度とは裏腹に、目は面白そうに笑っていた。


「俺の分は?」
「ここにあるぞ、…と、張大人は?」

 グレートは食べていた手を止めてジェットを手招きする。

「うん、彼は博士を起こしに行ったよ。さすがにそろそろ起こしてさし上げないとね」
「イワンはまだ夜か?」

 グレートの手招きにホイホイと足を運び、グレートからプリンとスプーンを受け取ったジェットは、ジョーへと振り返ったが、ジョーはその視線に気づいてはいない。
 ジェットも視線を受け止めてもらえなかったことを気にしてはいない。
 彼が投げた視線はどうやらジョーだけをとらえたものではないようだ。


「そろそろじゃないかな。でも、彼はプリン食べられないよ。だろ?フランソワーズ」

 ジョーは自分のそばに居ることが当たり前のようにフランソワーズへと首を捻り、零れ落ちそうなほどに大きな青に映る自分を見た。

「駄目なのかしら?」

 ジョーの傍らに、彼が思ったとおりの位置に、フランソワーズは自分の分のプリンをしっかり持って立っていた。

「赤ん坊だよ、駄目だよプリンなんてさ。フランソワーズ、まだ食べてなかったのかい?」

 ジェットが腰を下ろすと、続いて同じようにしてジョーも座り、その隣にフランソワーズがも座った。
 ジェットとジョーの間には二人分弱間が空いている。

「今から食べるわ」
「ね?買えただろう…。これくらい、いつだって買って来てあげるさ」
「・・・そんな、いつだってだなんて」
「明日も、明後日も、その次の日だってさ」
「うふふ、ジョーったら。いくらプリンが好きな私でも、・・・そんな毎日は」
「好きなんだろう?」
「好きだだけど、でも、毎日だと飽きちゃうわ」


 ハインリヒはその一連のフランソワーズの動きを見ながら、なんとなく2人がいつもと違うように見えた。それはハインリヒだけじゃなかったようだ。ハインヒリに押されて座っていた位置から腰を浮かせた、同じラインに座っていたピュンマも感じていることだった。
 観察者的な役割を自然と担ってしまうジェロニモも加えておこう。
 仲間内でムードメーカーな存在であるグレートは場の空気に敏感だ。

「へぇっ!旨いなっ!!!…でも1つ分の量がこれって物足りないぜ?誰かっ食ってないやつの分こっちにまわしてくれよ」

 自然とみんなの視線がジョーとフランソワーズに集まっていたのを断ち切ったのは、大きな声とジェスチャーで叫んだジェットだった。

「このプリンはだなあ、これくらいの量が食べるのに適量ということだぞ。おい、カラメルシロップ忘れてるぞ?」
「面倒だな、このままでいい、このままで!」
「おいおい…」

 少し大げさに思えなくもないジェットの動きに苦笑する仲間たち。
 ジェットは何かを知っているように見えた。
 注目されている本人たちを除いた、グレート、ジェロニモ、ピュンマそしてハインリヒが無意識にアイコンタクトを取った。

「ん~~~~~~~~っ!!」

 何かないわけがない。

「どう、美味しいかい?」

 フランソワーズにだけ、語りかける声のトーンには今までに耳にしたことがない、同性だからこそ、ジョーをよく知っているからこそ、むず痒くなってしまう、甘みを感じる。
 フランソワーズだってそうだ。
 ジョーのことを仲間以上の想いを添えて慕っていることは明らかだったが、今日のように、わざわざ座る場所をつくってもらいながらも移動するなんてあからさまな行動は観たことがない。

 さらに言えば、2人の距離だ。

「近いな」

 思わず口に出てしまった。

「うん、近いよね。近いってことに多分気がついてないよね」

 そして思わず口に出して同意してしまった。

「近い。そして見えてない。」

 2人が口に出したのだからいいだろうと、感想を述べた。

「…まあ、なんだ。プリンの礼か?」

 そんな2人の距離の理由をつぶやいていた。


 ---礼ならば、もう少しサービスしてやってあげればいいのに。


例えば、膝の上にのるとか、・・・グレートが作るコスチュームを切るとか?という個人的な願いは心のなかだけにしておいた。しかし今のフランソワーズなら喜んでジョーの膝に乗りかねない。

「そんなところだろ?」
 
 なんとなく視線を天上へと流した。

「おい、ハインリヒ!手が止まってるぜ、食わないならよこせよ!!」

 ああ、知ってるな。と確信できる。
 ジェットは嘘をつけないまっすぐな男なのだと、仲間は彼らしい一面に和んだ。


「おい、あとで話がある」
「あ、僕も!」
「そういえば、吾輩も聞きたいことがあったなあ」
「・・・あとで部屋に来い。」
「「「「なあ、ジェット・・・?」」」」





「おっと、・・・オレたしか博士に呼ばれてたんだっけ?」

end.
























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