RSSリーダー
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
web拍手 by FC2
Day by Day・14
(14)






ホールに盛大な拍手の波が襲う。
第一幕が終わり、暗闇からゆっくりと現実世界へ戻るために、ライトが徐々に時間をかけて明るくなっていく。15分間の休憩を間において第2幕が始まる。

ジョーは何も言わずに、隣に座るフランソワーズを見つめる。
彼女はまだ、夢の世界から現実に戻れないようだった。

ほおおおっっと温かな感嘆の息を吐いて、ようやく彼女は舞台から視線をはずして、自分の手元に視線を落とす。瞳を閉じて、先ほどの舞台の余韻に浸るフランソワーズは、どこからみても純粋にバレエを愛する女性である。

「ジョー・・・」
「なに?」
「ありがとう」

俯き加減だった顔をゆったりと上げて、ジョーを観るフランソワーズは、今にもこぼれ落ちそうな涙に潤んだ水浅黄色の瞳を、過剰なほど強く光る照明に輝かせてジョーを見つめた。
フランソワーズの、砂浜に打ち上げられた貝のように白い肌は、ほんのりと桜色に染まり、彼女の気持ちが高ぶっていることが、手に取るようにわかる。

ジョーは今にも泣き出しそうなフランソワーズに驚きながらも、彼は満たされていた。
彼女が喜んでくれている。それだけで彼は言葉に言い表せられない幸せを感じていることが新しい発見だった。

フランソワーズが瞬きをすると、小さな光の雫が舞う。
ジョーは慌ててポケットにある(グレートがアイロンがけした)ハンカチを取り出し、フランソワーズに渡した。

「・・・どうしていいのかわからないよ。そんな風に泣かれたら・・・」

傷ついて、苦しんで・・・辛い気持ちをひた隠しにして、そっと涙を流すフランソワーズなら、ジョーは何度も守り、励まし、胸に涙を受け止めてきたけれど、今日の涙はジョーが初めて観るフランソワーズの喜びの涙だ。

フランソワーズがずっと、その涙だけで生きて行けたらどんなにいいだろう、と。ジョーが渡したハンカチを目元にあてて、恥ずかしそうに微笑む彼女をみながら、思う。

「ごめんなさい・・・んふふ。変よね?」
「変じゃないよ」
「・・・もう観ることはないと思ってたんですもの」
「・・・・また、来ればいいよ、何度でも」
「来られるかしら?」
「連れてくるよ。君が嫌がっても、引きずってでも連れてくる」
「!!・・・乱暴ね・・・」
「・・・それくらいしか出来ないから」
「ありがとう、ジョー・・・・」

ホール内のライトが一段暗くなる。

「始まるみたいだね?」
「ええ・・・」

開演のベルが鳴り、アナウンスが流れ始める。
休憩に出ていた客達が慌ただしく席へと戻っていく。

フェイドアウトしていく照明の中で、アランは見つけた。
バレエの素晴らしさに胸打ち振るわせて、感動し、涙を流す彼女を。

「・・・見つけたよ、フランソワーズ。わたしのフランソワーズ」

第二幕も素晴らしい踊りで、フランソワーズは第二幕と第三幕の間の休憩時にジョーを大いに困らせた。バレエの素晴らしさに感動し涙する彼女を周りの席の大人たちが、軽く冷やかしたからだ。

第三幕目のカーテンが降りた瞬間、ホールは拍手の嵐に飲み込まれる。

ホール中の観客が立ち上がり、惜しみない拍手をダンサー達に贈る。何度も、何度も、鳴りやまぬ拍手にダンサー達は答える形で舞台に戻ってくる。最後に・・・花束を持った指揮者が舞台に上がり、オーロラー姫を踊ったプリマと抱き合い、握手し、また観客から盛大な拍手が贈られた。係員らしき人物が、マイクを指揮者に渡した。

普段のバレエ公演では観られないパフォーマンスに、会場中が色めきだった。

<今夜はよくおこし下さいました。ありがとうございます!! 普通なら・・・指揮者である私が人前で、
このように、話すことはないのですが、今夜は許して頂きたい・・・っと、言いましても舞台で指揮者が話してはいけない!なんてルールは聴いたことがないのですけどねえ。なぜ今まで、話さなかったんでしょうね?私は自分のコンサートでもアナウンスに頼らず、自分で曲順を発表してもいいと思うんですけどねえ?>

指揮者の戯けた物言いに、会場から柔らかな笑い声が聞こえた。

<え~、今夜は実はとても素晴らしゲストがいらっしゃって下さってます。皆様もご存じだと思いますが、1ヶ月後に振り付け師、アラン・モルディエ氏の新作がここ日本で初演され、ここ○XXホールから、全国、世界へとツアーが始まります。そのアラン氏が今日、特別に、皆様にご挨拶をと、いらっしゃって下さいました!!!>


会場中が驚きと喜びの声と、拍手で紹介されたアラン・モルディエを歓迎する中、1人、先ほどまでに感動を胸に、喜びをその微笑みに讃えていたフランソワーズの顔が真っ青に凍り付く。彼女の躯が緊張に身を固めたことをジョーは見逃さない。

さっと、彼女の手を取り、握りしめる。
その熱い手の感触にフランソワーズはジョーを観た。彼女の瞳は不安と恐怖の色で支配されている。ジョーは、嫌と言うほどこの色の瞳を知っている。

「どうした?」
「・・・・」

フランソワーズはジョーを食い入るように見つめる。
誰もそんな2人を気にしない。会場中が舞台に出てきたアラン・モルディエに注目している。
ジョーはぐっと手に力を入れて、彼女を安心させようとする。
本当なら、抱きしめたい。そんな衝動を必死で押さえながら、ジョーはフランソワーズからの言葉を待つ。

「あの男を知ってるの?・・・・彼は君を視ていた」
「!?」
「開演前に珈琲を飲んでるとき、君を・・・とても強く視ていた」
「・・・私、視られたの?!」

フランソワーズの躯が ビクン と跳ねた。

「・・・困るの?君だということを知られて?」
「・・・・・ジョー・・・」
「話して」
「・・・」
「話すんだ」

フランソワーズの手を握る自分の手に、ジョーは三度、力を入れた。
その力に促されるように、フランソワーズは頷いて、震える唇を開いた。

「彼は・・・彼は、私を知ってるの。・・・・・・40年以上前の私を、人であった、私を・・・彼は視ていたの、B.Gに連れ去られる・・・その瞬間を」

「!!」

「彼は、・・・・彼は同じ・・・・バレエ学校の先輩で・・・・友人・・だったわ。とても、仲が良かったの・・・まさか!まさか!!こんな、こんなところで!」

フランソワーズの声が高くなる。ジョーは慌てて彼女の肩を抱いた。
その抱いた肩が激しく揺れているのが、直接彼に伝わり、彼女が激しく動揺しているのがわかる。

「落ち着いて。落ち着くんだ、フランソワーズ・・・まだ、彼が君だと知ったわけじゃない。常識的に考えても・・・おかしいと思うはずだよ。他人の空似だと、思っているかもしれない」
「でも!・・・変なのよ!!・・・私が乗るはずだった、乗るはずだった飛行機が!!」

フランソワーズはジョーの胸にしがみつくようにして訴えた。
ジョーは周りの様子を伺い、これ以上ここにフランソワーズを居させてはいけないと判断し、彼女に席を立つように促し、彼女を支えるようにして立ち上がった。幸運にも舞台が終わった後にもかかわらず、照明が落とされたままであったことが、彼ら2人が席を立ったことを目立たせなかった。

アランのスピーチは続いている。

<今日、上演前にとても愛らしい2人を見つけました。絵に描いたようなカップルとは、その2人のことを言うのでしょうね・・・。わたしも昔はああやってカフェで、初恋の人、フランソワーズとお茶したものです・・・・>

あと一歩でホールの扉を開けようとしたところで、フランソワーズの足が止まる。

ジョーも息を飲んだ。
2人は一斉に舞台上のアランを観る。

<ずっと忘れていた懐かしい、そんな想い出を蘇らせてくれた2人に、ぜひわたしの公演を観にきてもらいたいので、・・・チケットを用意しました。また愛らしい2人の姿を、わたしの公演の時にも見せていただきたい!>

会場が、アランのそのパフォーマンスにわき上がる。
自分たちのことでは、ないかもしれない。
けれども、彼ははっきりと”フランソワーズ”と言う名前を出した。


「・・・ジョー・・・・」


今、ジョーに支えられるようにして立っている、フランソワーズの震えが一段と酷くなる。
彼女の躯をしっかりと支え直し、抱きとめるようにして早足でホールを出た。

暗いホールから明るいロビーに出たために、軽い目眩が起こる。
ジョーは自分の腕の中にいるフランソワーズを確認し、強くその背を守るようにして、会場を出ようとしたとき、「お待ち下さい!」と聞き覚えのある声に呼び止められた。

ジョーはそのまま足を止めずに会場を去りたかったが、入り口に立つ正装した男が、何事かと、こちらに注目したために、事を荒立てたくなくその足を止めた。
フランソワーズは、ジョーの腕にしがみつくように立っている。
彼女の背にまわした腕に力を込めた。

振り返った先に、自分たちを追いかけてくる人物が上演前に席を案内してくれた初老の男であることが解った。フランソワーズの緊張が少し解ける。

「お、お待ち下さい!」
「・・・何か?」

この男性に何も罪はないが、ジョーは冷たく対応する。

「あの、申しわけありません、決してお時間はお取り致しませんので・・・お急ぎのところ・・・」

男は、ちらり とフランソワーズを観た。フランソワーズはその視線に、躯を大きく震わしてジョーの胸に顔を埋めた。

「何か?彼女の気分が優れないので、車に戻りたいのですが?」
「あ、ああ。ああ・・申しわけありません、これをあなた様方にお渡しするように、頼まれましたので・・・」

男が差し出しはのは、上質な白い封筒だった。

「アラン・モルディエ氏のスピーチをお聴きになられたと思いますが・・・その、氏からお二方へのプレゼントでございます・・・これを受け取ってもらうにと、私は仰せつかった物ですから・・・」
「・・・・ありがとうござます、アラン氏には、お心使い感謝します、チケットをありがとうございました。と
お伝え下さい。・・・すみませんが、彼女の具合が心配なので、失礼します」

ジョーは男から封筒を受け取り、さっと自分の内ポケットにしまう。
それを確認するかのように男は観て、安堵の表情を浮かべた。
これが、この男の仕事なのだ。

ジョーが拒めば、この男が受け止めるまで食い下がってくることが解っていた。
本心は破り捨ててしまいたかった。ジョーは、男を無視するかのように、フランソワーズを連れて会場を後にした。








####

そのままギルモア邸に戻るべきだと思ったが、フランソワーズが嫌がった。
どこでもいいから、と。ジョーに懇願する。
確かに、ギルモア邸に戻れば色々と説明をしなければならないことが出てくる。その前に、彼女は自分の中で頭も、気持ちも整理したいのだろう。と、察したジョーはタクシーを捕まえて、フランソワーズと2人の夕食のために帳大人が調べた店の中で、一番会場から遠い店を選んだ。

タクシーの中、フランソワーズはずっとジョーの手を握ったまま離そうとせずに、その手はずっと震え続けていた。

会場から離れ、窓から見える見知らぬ街並みや、車の振動。
ずっと何も言わずにただ、握り替えしてくる強いジョーの手の温もりに、フランソワーズは徐々に冷静を取り戻してくる。
ジョーも、彼女の蒼白の顔が、少しずつ色を取り戻していっていることから、先ほどから緊張した躯を少し緩めた。

「大丈夫だよ」

何も確証はないが、ジョーはハッキリと言った。
ジョーの言葉に、フランソワーズは力無く頷いた。

「何も、問題ない・・・」

ジョーの言葉、一つ一つにすがるように頷く。
フランソワーズの様子を伺いながら、ジョーは大きく深呼吸をする。
そして、少しだけ力を入れてフランソワーズの手を握った。
フランソワーズは、その手に込められた力に窓の外を見ていた顔を、ジョーの方へと傾けた。
不思議そうな表情をジョーに向ける。

「お腹空いてない?帳大人がオススメの店って、すべて中華だと思っていたら、違うみたいだよ・・・適当に選んだんだけど、ここ・・・タイ料理なんだけど?」

ジョーの言葉に・・・そして張大人がリストアップした店の中から選んだ店がタイ料理。と言う妙な組み合わせに、フランソワーズは瞳をパチパチっと瞬きさせて、今、ジョーが何を言ったのかをもう一度よく考えた。

「タイ料理?」
「そう、タイ料理」
「タイ料理?」
「うん。タイ料理」
「・・・食べたことないわ」
「どっかの居酒屋が適当にタイっぽい料理を出したことあったけど・・・」
「タイっぽい?」
「トムヤムクン・スープのなり損ないとか・・・パッタイの焼きそば風とか?」
「・・・トム?なに?」
「知らない?」

フランソワーズは困惑の表情で頷いた。

「俺もちゃんとしたのはは知らないんだよ、今から行く店は本格的なタイ・レストランみたいだね。フランソワーズは初めてか・・・タイ料理ってすごく美味しいらしいよ」

ジョーは微笑んだ。
これ以上、考える必要ない、と言うように。

ジョーは一言、タクシーの運転手に断ってから携帯電話を手に取り、今から向かうレストランに予約・・・でなないが席の確保をお願いした。
その間も、ジョーはフランソワーズの手を離すことはなく、フランソワーズはそれが嬉しくて、つい頬が緩んでしまい、慌てて窓の方へと首を動かした。






港近くのタイ・レストランは藍色と臙脂色を基調とした落ち着いたアジアン・テイストの店だった。
店内は極力照明を抑えて、キャンドルで演出され、青と赤のグラデーションの布が、キャンドルの光で紫にも見え、とても神秘的な空間を生み出している。

店員に、タイ料理は始めてたど言うことを伝え、薦めてもらったコースを頼んだ。
薄暗い照明の中、はっきりとしないお互いの顔。
声だけが妙にはっきりと浮き彫りになり、ジョーとフランソワーズはそれを頼りに会話する。

ちょっとした空間の演出が、フランソワーズの気持ちをリラックスさせ、初めて見る、味わう料理に気持ちもお腹も満たされたのか、食事が終わるころには、ジョーも大分リラックスしてフランソワーズに接していた。彼女の声はバレエ公演に行く前の彼女とかわらない気がする。



店を出たころには、時計は11時を指そうとしていた。
店からタクシーを呼んでもらおうか。と、フランソワーズに訊ねたら、彼女は少し歩きたい。と、言ったので、そうすることにした。ジョーはフランソワーズがしたいように、させたかった。

暖かくなりつつあるといえ、ショール一枚のフランソワーズに港の風は冷たすぎる。ジョーは上着を脱いで、彼女に着るようにいった。
ジョーの上着を着た彼女は、とても小さく感じさせられた。
袖に彼女の手がすっぽりと隠れ、裾もフランソワーズの太腿あたりに余裕で届いている。こんなにフランソワーズは小さかった?かと、改めに彼女の線の細さ、華奢な躯に驚かされる。



彼女はただ、とぼとぼ と歩く。
どこへ向かってるのかわからない。
ジョーはただ、彼女の隣を歩く。

「・・・なにも訊かないの?」
「・・・訊いて欲しいの?」

沈黙。

フランソワーズは、ぴたり と足を止めてジョーを見上げた。

「兄さんがいたの。・・・ジャンって名前で・・・早くに両親をなくして、ずっと2人だったの」
「うん、ずっと前に話してくれたよね?」
「アラン・・・と知り合ったのは、バレエ学校で先輩だったの」
「・・・うん」
「初めて、パートナーを組んだのが、彼だったの」
「・・・うん」
「それから、ずっと一緒にバレエを踊ってきたわ・・・・あの日まで」
「・・・・」
「一度は、諦めたの、バレエの道を・・・でも忘れられなくって、チャンスだと思ったの。アメリカのバレエ団が奨学金試験を行うことを知って・・・飛びついたわ」
「・・・・そう」

フランソワーズは再び歩き始めた。
ジョーも歩く。

いつの間にか、港から外れて車道に出ていた。
車数が少なく、深夜なこともありかなりのスピードで車が強くライトを照らしながら走り去る。
2人が並ぶには狭い歩道を、ジョーは自分が車道側に立ち、フランソワーズを守るように、その背中に腕を添えて、歩く。

「受かったの。全額奨学金生の枠は5人までだったの・・・私、入ったのよ。その5人の1人に」

その時の興奮を思い出したのか、フランソワーズの声が少し弾み、瞳は哀しみの色を捉えたままにジョーに微笑む。ジョーもつられて弱々しく微笑んだ。

「・・・兄さんはとても喜んでくれたの。離れちゃうけれど・・・いつでも会えるって」

ぶおおんっとオートバイーが歩道近くまで寄って通り過ぎた。
その勢いと風に、ジョーはフランソワーズの背にまわした腕に力が入った。


「・・・バレエ団が指定した日は9月4日だったわ。早めに行って環境になれたかったから8月16日の飛行機を取ったの・・・でも、その日、その便だけキャンセルになって、翌日の17日変えられたの。その16日の・・ま・・え・・・・・・・の10・・日・・・に」


フランソワーズの声が震える。
彼女の髪も・・・ジョーはその腕から、彼女に寄り添う半身から彼女の震えを感じた。
それでも、フランソワーズは歩き続ける。
彼女が足を止めない限り、ジョーは彼女の隣に立ち、歩き続ける。


「ア・・・アラ・ンは、私を好き・・・・・だって。告白して・・くれた・・の」


ジョーの心臓が、どくん っと大きく脈打つ。


「で・・も、でもね・・・わたし・・・その時は・・・留学のこと、で。頭がいっぱい・・・で・・・ね・・・・・・・ことわっった・・・の。それで・・・彼は・・すごく、すごく、傷ついて・・・、男の人・・だもの・・・ね・・・衝動的・・・っていうのかしら?・・・・・襲われ・・・ちゃ・・った」

「?!」


ジョーの足が止まる。


「・・・だいじょう・・ぶ・・だったのよ・・・・私の・・・悲鳴・・を訊いた人が・・・たまたま・・・その日・・・私が通っていた・・・バレエ学校の・・・先生が・・・舞台前で・・自主練習・・・を・・・していて・・ね・・・気づいて・・く・・・れ・・たの・・・」


フランソワーズはジョーの腕に、ぎゅうっと すがるように全身の体重を預けるように自分の腕を絡めた。ジョーはそのままフランソワーズを自分の方へ引き寄せて、抱きしめた。


はああっとフランソワーズは深い息を、ジョーの胸の中で吐いた。


すぐ横で、走り抜ける乗用車が吐き出す排気ガスの臭い。
一瞬だけ浴びる、舞台上のスポットライトのような強過ぎる車のライト。
カーブでタイヤがアスファルトと擦れる音が、妙に生々しい。


「そのこ、と・・・・が・・・原因・・・で・・・彼は・・も・・う・・バレ・・エ・・・学校に・・は・・・いら・・れ・・・な・・・い・・って。連絡・・・が、き。た。・・の、彼は・・・もう・・どこ・・へ、行っても・・・国・・から・・・出て・・・・も・・き・・・とずっと・・私と・・の過去・・がバレエ・・・生命・・・に汚点を・・残したって」


フランソーズを抱く腕を強める。


「・・・彼、どこ・・・に・・・も・・・いなか・・た。その。後。次ぎ・・・に・・アラン・・・に・・・会った・・の・・が。B.Gに・・・拉致さ・・・れ・・た・・・とき」

車のライトに照らされて・・・・輝くその亜麻色の髪に頬を寄せた。

「お・・・とこが・・・言った・・の・・アラン・・に、むか・・て・・thanks・・・って」


「!?」


「わたし・・・が・・・車に・・・つれ・・こ・・まれ・・・る・・・ところ・・を・・ずっと・・・みてた・・・の・・・・・・たす・・け・・て・・って叫んだ・・の」

強く、彼女を抱きしめる。それしか今、ジョーに出来ることは何もない。

「・・・あれ・・・は彼?・・・アラン・・だ・・たの?・・・私も・・・パニックに・・な・・て・た・・ぁら・・・・・見間違え・・・た?」









####

ギルモア邸に帰り着いたとき、時計は午前2時を指していた。
誰もいないリビング。
ジョーは、タクシーの中で泣き寝入ってしまったフランソワーズを抱き上げて、彼女の部屋へと運ぶ。部屋は相変わらずベッドと、彼女が熱を出したときに置かれたスチール製のテーブルと折りたたみイス、そしてベッドの上に置かれた、彼女の新しいお友達。


ドレスを着たままでは・・・辛いかもしれないけれど、ジョーがそれを脱がすわけにはいかない。
髪を結い上げていたリボンだけ、彼はそおっとはずした。簡単に解かれたリボンに解放されて、自由になった亜麻色の髪は、暗闇の中でもカーテンが引かれていない微かな月明かりに照らされ、きらり と光る。

彼女の耳朶を飾る一粒真珠を、ジョーはゆっくりとその手で外す。
ゴールドのキャッチをはずして、真珠を摘み、ゆっくりと彼女のピアスホールから引き抜く。
反対側も同じように。フランソワーズの黒のクラッチバッグの中から、濃紺の小さな箱を取り出し二つの真珠をしまう。

それをテーブルに置いた。







枕に広がる絹糸のような彼女の髪。
その髪から香る、ローズの香り。


なぜ、君だったんだろう?
なぜ、君でなければならなかったんだろう?


ジョーは、そおっと彼女の目元に残る涙を拭う。

そして・・・


柔らかな感触の形良いローズピンクに、ジョーの唇は・・・触れる。


「おやすみ」


ジョーは静かにフランソワーズの部屋のドアを閉めた。
彼の足跡が遠ざかり、遠い向こう側で彼の部屋のドアが閉まった音が聞こえた。

部屋に1人、フランソワーズは再び涙を流す。

「ジョー・・・・・どうして?」

フランソワーズは、自分の唇に残る、彼の香りに・・・酔いきれずその胸は素直に喜べない自分が悔しかった。



ーーーーどうして、キスをしたの?









======15 へ 続 く



・ちょっと呟く・

予定外の方向です!
そばにあるプロットまったく無視ってるよ、おい!
そんなに口チューしたかったのか?!
両想いまで保管計画が~~~!

どうして、キスをしたの?>私が知りたい orz
web拍手 by FC2
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。