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STEP BY STEP








「え?・・・私と付き合う前のジョーはどういう人だったか?」



毎週火曜日は、カフェ"Audrey”の定休日。
なぜ火曜日かって言うと・・・。
訊かない方がいいと思います・・・・。

定休日は、その年によってかわるんです。


・・・兄貴が見たいドラマによって・・・・本当に申し訳ない気持ちで一杯です、オレ。









そんな火曜日の今日。
ドアのチャイムは、一休み。




「CLOSED」と掲げられたドアの向こう側には、昼休みを終えて足早に仕事場へ戻る仕事人たち。
そんな彼らをよそに、俺たち・・・新進プリマドンナの香奈恵さん、
その親友、天使の輪を作りきらきらと陽に輝いて、麗しいローズの香りがオレの鼻腔を擽り酔わせる亜麻色の髪の乙女・・・フランソワーズさん!が、兄貴の新作ランチメニューの試食のために今日は、来てもらった。

この間の、香奈恵さんの発言が気になっていたオレは、ずっと訊きたかったのだ。



ーーー弟、島村っちはね、前はあんなんじゃなかったのよ?2人が付き合う前は、ほんとヘタレでね~・・・。




「なによ、弟~。島村っちを強請るネタ探し?」


いつものように、香奈恵さんはその大きな口を左右に引っ張ってニヤニヤと嗤う。






・・・某歌手にも負けないほど大きいっすよね・・・。


本人はそれが自分の魅力の一つだとわかっているようで、彼女の唇はいつもナチュラルなカラーで・・・しっとりと潤っている。
舞台化粧以外はスッピンに近い香奈恵さんだけれど、きちんと自分を客観的に見ることができる人だと思う。


「ネタになる内容なら使いますけど!・・・なんか気になって・・・だってさあ、ジョーは生まれたときから、あのまんまだった気がして・・・イメージでできねえだもん」
「気色悪いわよ!あんな赤ちゃん!!顔はいいけど!・・・・まあ、確かに、今の島村っちをあの時の島村っち・・・と同じ人物か?と問われて・・・はい。って素直に言えるかと訊かれればちょい疑問かな~?人間はそう簡単に変わることはないって思うけど・・あれはちょっとねえ」
「そお?付き合う前も今も・・・ジョーは何も変わってないわ?・・・少しだけ意地を張るのをやめたかしら?ほんの少しだけ、人に甘える素直さが持てるようになったわね。そして・・・自分を・・・ちょっと許せるようになった・・・・・・ただ、それだけよ」








フランソワーズさんは、そう言ってウィンドウの向こう側を見た。


それは、よくジョーがここでする仕草。

何もない、ごく普通の日常をこの上なく愛しそうに、その1分1秒をすべて瞳に焼き付けておこうとする、見つめる瞳はいつも、オレを不安にさせるほどに切ない。


「・・・それだけって、いったいジョーはどんなヤツだったんっすか?それ?」






フランソワーズさんの言い方をまとめると・・・


すっげー意地っ張りで
素直じゃなくて
甘えるのが下手?
自分を許さない?






そんなやついるのかよ?あ、ジョーか・・・ジョーなのか?





「大地さん・・・ジョーはね・・・NOと言えない人だったのよ。そして絶対に自分の意見を出さなかったの。彼はただそこにいる、だけの人だったの」
「そう!なんて便利な男だ~って思ったもの。しかも中途半端にではなくて、完璧に」
「・・・それってyesマンってこと?なんでも、はい。はい。って言う?」
「ちょっと違うわ・・・。ジョーの場合はひたすら受け身なの・・・流されるままに流れちゃうの」
「受け身・・・流される・・・」


「島村っちの口癖は・・・”キミが好きなようにすればいい””キミがしたいようにすればいい”」
「ジョーの口癖はね・・・”キミが好きなようにすればいい””キミがしたいようにすればいい”」


「み、み、見事なハモりっぷりすね~・・・」
「だって、それしか言わない人だったもの、普段」
「まあ、話すのが好きじゃないって言うのは、わかる気がするけど・・・なんでも言う通りにこなすって・・・別の意味ですげ~・・・」
「島村っちの場合、言葉に出来ないなら行動すればいいのに、前はそれさえも出来なくって・・・いじらしいっていうか。存在感無さ過ぎって言うか・・・。行動しててもわからないっつ~の!あれじゃあ!!」

「・・・彼は、自分が必要とされている。て、感じることにとても敏感なの。自分が生きている理由を探してるみたいに。だから必死でずべてを投げ出してでも、それに答えるの。どんな小さな願い事でも、・・・前の彼だったら、それを叶えるために死んでくれって言われて簡単に死んじゃってたんじゃないかしら?それも、喜んで・・・」
「なんすっか、それ?バカじゃん!」
「そうよ~、弟!島村っちは相当なおバカさんよ~!よかったわね!」







いや、喜べないっす、それ。





「愛して欲しいってすごく、すごく強く求めていながら、それを与えられてもわからないのよ、彼。・・・可愛いでしょ?」




今、ここにいないジョーについて話す、フランソワーズさん。


彼女は・・・オレに向かって冬の日に昼間の陽の光を頬に感じたような穏やかさで、ゆったりとオレに笑いかけた。・・・多分、彼女はオレをみていない。






彼女は、ジョーに笑いかけているんだと思う。
可憐な少女の微笑むではなく、それは、大人の女性の、愛する人をこころから愛しく思っている、と自信にみなぎった笑顔。


「なんか、こんな話ししてると、ちょっと前の島村っちが懐かしいわ~!あれはあれで、うん。面白かったし、可愛かったわよね~!・・・ってすごい昔の話ししてるみたいだけど、まだ2年も経ってないわよねえ?」
「んふふ。そうよ!まだそんな昔の話しじゃないのよ?」


香奈恵さんと、フランソワーズさんは2人で笑い合う。



本当にヘタレだったのかよ?ジョー?
お前、どうやって今みたいになったんだ?




オレの混乱している頭の中を覗いたのかのように、香奈恵さんはオレの顔をじっとみていたら!
いきなり鼻を指で弾いた・・・デコピンならぬ、鼻ピン?!



「よくわかんないでしょ?弟の頭じゃあ!だから、話してあげましょか?ヘタレな弟に島村っちのヘタレだったころを。ね?」




ええ?! まじで!







「それって私が知っているお話かしら?」
「知ってるんじゃない?大体あんた当事者でしょ?でもこれは私から見たヘタレ島村だから、印象違うかもね!」
「・・・あまり”ヘタレ”ってジョーのことを言わないで・・・違うもの!」
「え~・・・?ヘタレだったわよ?あの時は!」
「違うわ!!」




2人がああだ、こうだ、と話しに花を咲かせ始めて・・話しが出てこないんっすけど?



「・・・話し聴かせてください・・・」



オレはぼそっと呟いた。














####


「こんにちは!」
「・・・・・こんにちは」



ーーーまあああああ!美形じゃない!遠目にしか見てなかったけど、これはたいしたもんだわ~!


彼のはにかんだ、そしてちょっと驚いたような笑顔。


ーーーいい仕事しましたねえ、彼のご両親は!



「あなた、フランソワーズを待ってるんでしょ?」


彼は頷く。



「まだ、少し時間がかかるわよ?彼女、さっき呼びだされたから」
「・・そうですか」
「フランソワーズの彼氏?」
「?!」


彼は飛び上がらんばかりの勢いで驚いて、俯いてしまった。


「あら?違うの?あなたいつもここで彼女を待ってるじゃない?」
「・・・・」


彼は俯いたまま、答えない。


「ふ~ん・・・で。私、香奈恵」
「・・・島村です」
「彼氏じゃないんだ?」
「・・・・」
「じゃあ、あの子フリーなのね?」
「・・・・」
「もしも彼氏なんだったら、申し訳なくって」
「・・・・」
「フリーなんだったらいいわ!あの子を紹介してくれって、連日、私の携帯は鳴りっぱなしなのよ!あの子はいっつも”困るわ”って言うばっかりで、彼氏がいるのかどうかはっきりさせないの。こうやって、島村?くんは迎えに来てるしね~!いっつも聴かれるのよ、あの迎えに来る男はフランソワーズの彼か?!って!フランソワーズは聴かれる度に泣きそうになってるから、それ以上追求できないしさ~」
「・・・・」
「って、あなた本当に無口ね?」
「・・・・」


ジョーは俯いていた顔をあげて、苦笑した。


「あなたがおしゃべりな、だけ」









そう言って、可笑しそうに微笑んだ顔と、彼の囁くような声に女である香奈恵の心臓が跳ねた。
跳ねさせない人間が、この世のどこにいるだろう?



「・・・・ジョー?・・・香奈恵さん?」


蚊の鳴くような声を掛けてきたのは、シャワーを浴びて慌てて出てきたために、髪に水滴が残るフランソワーズ。


「ちょっと!濡れたままで出てきたら風邪ひくじゃない!!」


香奈恵の声にびくりっと躯を震わしたものの、足早に2人に近づく。


「ごめんなさい・・・遅れてしまったわ」


フランソワーズはジョーに謝る。
その声に、ジョーはただ首を左右に振る。


「・・・ねえ、フランソワーズ?私ここにいるんだけど?」
「あ・・・香奈恵さん・・・」
「・・・はいはい。いい男の方がいいわよ~、見るなら!」


香奈恵は2人を交互に見る。



その距離に不思議なものを感じた。
恋人同士の距離ではないことが、明らかにわかる。



けれども、2人が同じ空気の中で生きていることも、それと同じくらいにはっきりとしていた。


「あの・・・」


ジョーと香奈恵、2人が一緒に居ることに、あらためてフランソワーズは知ると、不安げにジョーと香奈恵を見た。
ジョーは何も言わずに、彼女の髪から滴る雫を見ている。


「あんたが遅くなるってこと、教えたのよ」
「あ・・・・ありがとう香奈恵さん・・・えっと、ジョー。こちら龍 香奈恵さん。クラスをご一緒させていただいてるの」


ジョーは頷く。
そして、フランソワーズが持つカバンをそっと彼女の肩から受け取る。


「香奈恵さん、彼は・・・島村ジョー・・さ・ん。同じ・・・”養父”の元でお世話になっているの」
「同じ?・・・え?じゃあ、一緒に住んでるの?」
「・・・・」


フランソワーズは愛らしい顔を紅くして俯く。
ジョーは香奈恵の方を向き、何事もないように頷いた。


「ふ~ん、じゃあフランソワーズの彼氏じゃなくって、家族なのね?」


香奈恵の言葉にフランソワーズの方が揺れる。
ジョーはそんな彼女を・・・少し寂しげに見ながら、彼女のカバンからタオルを取り出し、そうっと髪から滴る水滴で濡れた肩にかけた。


「あ、あ、ありがとう」


ジョーはその言葉に頷く。


「香奈恵さん・・・また次のレッスンで、さようなら」


フランソワーズは早々に香奈恵との会話を切り上げた。
それがわかったのか、ジョーはさっと運転席にまわり乗り込む。
フランソワーズも香奈恵から逃げるように車に乗り込んだ。


2人が乗った車を見送る香奈恵。









「・・・・な~んかあるわね~、面白いじゃない!いいじゃな~い!!それ!」







ニヒヒっと、彼女自慢の大きな口を左右に引っ張り意地悪く、笑った。





















車内で、ジョーとフランソワーズは何も話さない。

彼氏。と、訊かれて「はい」と答えたい。が、ジョーからは何も言葉をもらっていないために、それをいつも躊躇させられるフランソワーズ。

自分の気持ちを伝え、それを受け止めてもらったのは確か。
彼も自分と同じ気持ちであることは、色んな場面で感じさせてくれる。
だからこそ彼の安らかな寝息で耳元を擽り、自分の部屋には彼の着替えが置いてある。





「明るい人だね」

ジョーは運転しながら、フランソワーズの様子を伺っていた。


「香奈恵さん?」
「そう」
「ええ!とっても。・・・彼女がいてくれたから、スクールにもすぐに慣れたわ」
「そう」
「ジョー・・・ごめんなさい」
「・・・何に?」
「・・・・全部、よ」
「ふうん・・・」
「私・・・あなたが好きよ。好きなの」


ジョーは何も答えない。
ただ、その夜はいつもよりも長くジョーはフランソワーズの部屋に居た。






ーーージョーはまだ、私の言葉を本当の意味で信じてくれていない。
   
   愛してるのよ?

   こんなに、愛してるのよ?

   何度でも言うわ

   私の喉が潰れたならば、この瞳で言うわ
   この瞳がだめなら、この躯で言うわ

   愛してるの

   愛してるわ!

   気づいて!ジョー!!!
   私は、あなたを愛してるの!!!!!!!!!!















声を出して、全身で、こころで、魂で訴える夜。
ジョーは彼女の強い想いをその腕に抱き、歓喜に身をゆだねながら闇の声を聴く。


ーーー信じたらだめだよ。彼女もそうだよ。いつかきっと捨てるんだよ。
   ジョー、君をね。






























翌週のレッスンの日。

はっきりとフランソワーズがジョーのことを「彼氏」と言わなかったのをいいことに、香奈恵はしつこくフランソワーズを紹介しろと言い寄る男たちの中から、1人”岡野”を選んだ。
彼はバレエ団のポスター撮影の時にアシスタントとして、よくスクールへも来る。ほとんど岡野と彼の師である遠田が、バレエ団の全ての写真関係を担当していた。


「ねえ、今日も彼が迎えに来るの?」
「え?・・・・今日は・・・どうかしら・・・もしも間に合ういそうなら電話をくれることになってるけれど」
「あら、仕事?」
「ええ、もうすぐオーブンシーズンですもの」
「彼、なにやってる人なの?」
「F3のレーサーなの」
「なに?それ?F3?」
「ええっと・・・F1の一つ下のカーレース?」
「はあ?」
「彼、レーシング・ドライバーなの、私もよくわからないのだけど・・・」
「?!・・・あらららら。また絵に描いたようないい男が、これまた小説か漫画の
主人公の設定のようにパーフェクトな響きねえ!」
「・・・そうかしら?」


香奈恵は バン っと勢いよくロッカーの戸を閉めた。


「まあ、仕事ならしょうがないわよ!お茶よ!お茶に行くわよ!もうちょっと別ジャンルの男を用意したわ!」
「?!」

フランソワーズの手をぎゅうっと掴むと、彼女を引きずるかのようにして、香奈恵は”待ち合わせ”の場所へと急いだ。













偶然は偶然を呼ぶ。
奇跡は奇跡を呼ぶ。


良い方へ流れるときは流れる。
悪い方へ流れ始めたとき、その流れを止めるには?























####

香奈恵に連れられた店で待っていた男に、フランソワーズは見覚えがあった。
香奈恵によって簡単に自己紹介を交わし、初めて彼の名前が”岡野”であることがわかった。



「すみません・・・突然でおどろかれたでしょう?アルヌールさん」
「いいえ」
「岡野さんがね、フランソワーズとどうしても知り合いになりたいって!」



そして香奈恵がそうっと耳打ちした。





<ねえ、このことを島村くんが知ったらヤキモチやいてくれるんじゃないの?>








それだけを言い、フランソワーズの耳元からぱっと離れた。
フランソワーズは驚いて、香奈恵を見る。
彼女はただニコニコと笑っているだけだ。








香奈恵のリードで3人の会話が暖まり始めたころ、フランソワーズの携帯がなった。

彼女は慌てて携帯を”マナーモード”にして、液晶画面に出たJOEと言う名前に どきり と心臓を震わせる。







香奈恵さんと一緒なのだから、別に悪いことはしていない。けれども、一緒の席に仲間以外の男性がいたと解ったら、ジョーは・・・離れていってしまうのではないか。と、不安が胸をよぎる。


こんな想いをするくらいなら、ずっと片思いのままの方が良かった、ようにさえ思う。








彼と夜を共にする時間以外、彼と一緒にいてなぜ不安に胸を押しつぶされなければならないのか。自分が不安になるのは、全てジョーのせい。



そう言いきってしまえるほどに。

彼は何も言わない。


何もしない。
何も変わらない。






ーーージョーがヤキモチをやく?まさか!




店内で携帯電話を取ることを躊躇っているフランソワーズを見て、香奈恵が言った。


「少しくらい平気よ!どうせ”お迎え”でしょ?」


香奈恵はジョーの名前もその電話の相手男であることを口に出さなかった。
フランソワーズは、香奈恵の言葉に何も言わず、携帯電話を取る。




『フランソワーズ?』
「ええ」
『今、どこ?』
「あの・・・」




フランソワーズが次の言葉を話そうとしたとき、ぱっ とフランソワーズの手から見事な手さばきで携帯を取り上げた。
岡野はその動きに呆気に取られ、思わず手に持っていたグラスを落としそうになった。


「は~い!香奈恵です~!」
『・・・・・はい。』
「今日、迎えに来られるかわからないって言ってたから、誘っちゃったのよ!」
『・・・・・そうですか』
「今仕事なの?・・・迎えに来るのかしら?」
『・・・・・今日は無理だと、彼女に伝えてください』
「自分の口で彼女に言いなさいよ!」
『・・・・・』
「大丈夫よ!ちゃ~んと彼女を駅まで送っていくから、家の近くで拾ってあげなね」
『・・・・・彼女に代わってください』
「はいは~い」


にこやかにフランソワーズに携帯を返す香奈恵。


『フランソワーズ?』
「あの、今どこに・・・」
『・・・・・・・まだ仕事』


フランソワーズは耳を澄ませる。
聞き慣れた、音が彼女の性能良い耳に届く。



「本当に、仕事?」


訪れる沈黙に、流れるサウンドエフェクトは彼女の良く知る場所の、音。


『・・・・・・ああ』
「じゃあ、私はこのまま、ここに居てもいいの?」
『キミが好きなようにしたらいいよ』









ーーーまたその科白?












「ウソツキ」
『・・・・・・・』
「嘘が下手ね?」
『・・・・・・・』
「今、どこにいるの?」
『キミがしたいようにしたらいいから』
「・・・・・じゃあいいわ!そうする!!」
『フランソワーズ?』
「待ってて!」


フランソワーズは立ち上がり、荷物を手に取る。
そして深々とお辞儀をした。


「ごめんなさい!!! 岡野さん、香奈恵さん!!!私行かなくちゃっっジョーが私から逃げてしまうの!」
「ちょっ!何よそれ~?逃げるって?ま・・まちなっっ!フランソワーズ!!岡野さん!行くわよ!追いかけるわよ!
「ええ?! あ。うえええ?!」


香奈恵はテーブルにお札を投げ置いて、走り去るフランソワーズを追いかけた。
岡野はただ呆然とフランソワーズと香奈恵をテーブルから見送る。
彼は、今の状況にまったくついて行ってない。




ーーーっち!!見かけ倒しで、口ばっかりの男ね!
   ・・・まさかフランソワーズがこんなに大胆な子だとは思ってなかったから、
   明らかに私の人選ミスだけど!








テーブル席に座る岡野をちらりと見て、香奈恵は毒づいた。

3人が居たレストランはバレエスクールのレッスン生や団員の行きつけの場所。2ブロックほどしかフランソワーズが通うスクールから離れていない。彼女は店を出て、すぐに『目』にスイッチを入れた。ジョーがいつもの場所で携帯を眺めながら・・・自分を待っている。


「ちょっ!!あんた足速すぎ~~~~~~!」


後ろから香奈恵の声。
彼女が追いかけてきているのがわかったが、彼女にかまっている暇はない。
人混みをかき分け走るフランソワーズに、行き交う人々の邪険な視線が送られる。
人とぶつからないように気を付けるが、それでも平日の今頃の時間は人が溢れる歩道に、イライラしながらも、その足を止めることはない。





行かないで!
行かないで!

逃げないで!

私から

逃げないで!!
行かないで!!















香奈恵は久々の全力疾走に大きく肩を上下させる。
あっちにこっちにぶつかりながら、やっとフランソワーズの姿を見ることができる距離まで追いついたとき、荒い息をなんとかコントロールしながらまっすぐにフランソワーズを見た・・・。




「愛してるの・・・好きなの」

「・・・・・・」

「好きよ」

「・・・・・・」

「どうして?ねえ、どうして嘘をつくの?」

「・・・・・・」

「愛してる。ジョー、愛してるわ・・・だから」

「・・・・・・」








香奈恵の目にした2人。








ジョーはガードレールの上に腰を掛け、ただ黙って自分の首に腕をまわし、その首元に顔を埋めて愛の言葉を小鳥が歌うように、何度も訴える少女の肩に視線を落としていた。
彼の腕は、重力に逆らうことを拒否したように、だらり と携帯を手にしたまま下がっている。









「ジョー、愛してるわ。愛してる。・・・」










ーーー 一体なんなのよ!!この2人は!



通り過ぎる人の好奇や邪な視線など気にしない。
人がまるで彼らを引き立てるための動くオブジェのように、見える。






「・・・・・・・」

「ジョー・・・ジョー・!・・・愛してるわ!」

「・・・・・・・・」








フランソワーズは、その腕に力を込めて彼の首にしがみつく。

ジョーは愛を囁く彼女に何も答えない。

ジョーは自分を抱きしめる彼女の背にその腕をまわしもしない。

自分の胸に、腕の中に抱きしめない。

ただただ彼女にされるがままに、無表情でそこにいた。








まるで、彼女に興味がないとばかりに。








フランソワーズの愛の言葉も。
フランソワーズの熱い腕も。
フランソワーズの想いも。

なにも彼に届いていない。







ぶらりと下がった腕が、香奈恵の怒りを頂点にまで突き上げた。




なあああああんつ~!!男よ!
可愛い女が人目も憚らずに愛の告白してるっつ~~~~~~~のに!!!!!
その腕で彼女を抱きしめないなんて!抱きとめないなんて!
何様よおおおおおおおおおおお!




香奈恵は考えるより行動の人間。
気がつけば2人の真横に立ち、持っていたカバンに渾身の力を込めてジョーの後頭部を殴りつけた。










「このっっっっっっっっっっっ!軟弱ヘタレ島村あああああああああ!」














ジョーは突然後頭部に受けた衝撃で、前のめりに躯を傾けた。
反射的にフランソワーズを守るように、その腕に抱いて体制を整える。
そして自分に一打を与えた香奈恵を睨み付けた。

フランソワーズは何が起こったのか全くわからずに、ジョーの腕が自分を守るように抱いていることに、驚いた。彼は絶対に”戦闘中”か”プライベート”な時以外、彼女を腕に抱きとめることはないと知っていたために。


「このおおおおおああああ、すっとこどっこおおいいい!!」







フランソワーズは香奈恵の罵声で、今の状況を把握した。
香奈恵が怒っている。
彼女のことだ。ジョーが自分にたいする態度を見て腹を立てたのだろう。
香奈恵はジョーの腕の中にいるフランソワーズの手を取り引っ張る。


「戻るわよ!フランソワーズ!!あんたには相応しくないよ、こんな薄情なダメ男!!ちょっと顔がいいからって!フランソワーズの方が惚れてるからって、調子にのんじゃないわよっっ!」


力一杯に香奈恵はフランソワーズの手を引っ張ったが、ジョーはその腕を緩めなかったために、フランソワーズは、肩に痛みが走る。それを見た香奈恵が咄嗟に言った。


「腕を解きなっっ!!!!」


ジョーは言われた通りに、ぱっと腕を放した。
急にジョーが腕を放したので、勢いでフランソワーズは香奈恵に体当たりするように彼女の方へ倒れ込んだ。


「ああああ!」
「きゃあ!」


2人が重なって倒れる瞬間、ジョーはフランソワーズのウェストに腕をまわし、その体を支え、フランソワーズの手を取ったままの香奈恵の手をジョーが引っ張った。
2人が倒れることなく体制を整えたことが解ると、再びジョーはフランソワーズから腕を解く。








一瞬の出来事だったが、香奈恵は狼狽えない。











「危ないじゃない!」
「・・・・・・」
「急にそんな風に腕を離したら、反動がついて危ないのっわかんないの!」
「・・・・・言われたから離した」
「はああああああああああああ?じゃあ!私が死ねって言ったら死ぬの!?」
「・・・・・・いいよ」
「・・・・え?」
「いいよ」


ジョーは嗤う。
本気だ。と、香奈恵は悟った。


「あんた・・・バカじゃない?」
「・・・・・・」
「あんた、フランソワーズの何?」
「・・・・・・」
「あんたの彼女じゃないの?」
「・・・・・・」







香奈恵は必死に言葉を繋げる。そうしないと飲み込まれそうだからだ。



何に?




「フランソワーズにあんなに好きだの、愛してるだの言われて・・・何様よ?」
「・・・・・・る?」
「へ?」
「フランソワーズが・・・・ちゃんと僕を愛してくれているってわかる?」
「・・・・・」


今度は香奈恵が黙る番。
ジョーの視線が、香奈恵から離れたとき彼女の体から全ての”緊張”が消えた。


「・・・・帰る」


ジョーの言葉にフランソワーズが反応し、ジョーを追いかけようとする。


「待って!ジョー」
「ちょっっ!フランソワーズ!」


香奈恵は慌ててフランソワーズの手を取る。
ジョーは何事もなかったかのように運転席ののドアを開けた。
そして、フランソワーズを見て言った。






「キミがしたいように、すればいいよ」


「・・・私が香奈恵さんと一緒にいたいって言っても止めないの?」


「キミがそうしたいなら、そうしたらいい」


「・・・私が帰りたいって行ったら、連れて帰ってくれるの?」


「キミがそれを望むなら、そうしたらいい」




ジョーが言う。




「キミが好きなようにしたらいい」
「キミがしたいようにしたらいい」









あなたはどうしたいの?
私ではなく、あなたは?

逃げないで。
私から逃げないで。

ちゃんと見て!
私はここに居るの!
私は生きてるの!

前を見て。
私を見て。

そして教えて。
そして伝えて。

愛してる。
愛してる。
愛してる。


信じてる。
あなたを信じてる。


愛してる。
愛してる。
愛してる、から気がついて!!

あなたを愛している私に気がつて!
あなたを信じている私を見て!
あなたを愛している私を抱いて!












あなたは私に愛されてる!!!!!!!!!




「・・・ジョーは?ジョーは決めてくれないの?」
あなたは私のこころに愛されてる!


「・・・・決める?」
あなたは私の瞳に愛されてる!


「ええ、そうよ。私はあなたを愛してるわ。だから、決めて欲しいの」
あなたは私の指先で愛されてる!


「・・・・・」
あなたは私の唇で愛されてる!


「愛してるわ、ジョー。だからあなたを信じてる・・・」
あなたは私の胸で愛されてる!


「・・・・・」
あなたは私の腕で愛されてる!


「・・・・・僕には、キミを、キミの・・・権利はない」
あなたは私の躯に流れる血に愛されてる!


「あるわ、ジョー。私が愛してるあなたにだけ、あるわ」
あなたは私の全てに愛されてる!


「・・・・・」
あなたは私の魂で愛されてる!!








「連れて行ってくれる?それとも、ここに私を置いていく?」



香奈恵は2人のやりとりをぼんやり見守っている。
初めは興味深く集まっていた野次馬たちも、2人の意味のわからないやり取りに、いつの間にか人の流れに消えて行った。










ジョーの端正な、見惚れてしまう程に東洋と西洋のバランスが神秘的に交わった仮面が、ぐしゃり と崩れる。




意図せずに外れてしまった鍵が、開いた。

小さな男の子が顔を出す。











愛して。











俺を愛して。





ちゃんと愛して。









本気で愛して。



強く愛して。

痛いほどに愛して。





教えて。
愛を教えて。

伝えて。
愛を伝えて。







愛されてる?





俺は愛されてる?
ちゃんと愛されてる?







本気で愛されてる?






強く愛されてる?









痛いほどに愛されてる?







教えて。


伝えて。












君は俺を愛してる?
俺は愛されてる?






















キミは俺を愛してくれていますか?



















「・・・・・・・・おいで」


ジョーの頬伝う、光 が 一つ。
            二つ。
            三つ。四つ。 
            五つ。六つ。七つ。八つ・・・・・・・。









重力に逆らってみた。








鉛のように重たい腕を持ち上げた。
こんなに思いものを持ち上げたことは、俺の人生で一度もない。













「・・・・・・・・帰ろう、フランソワーズ」



















ジョーが震える腕を伸ばす、フランソワーズにむけて。


















「・・・・・・・・・俺を愛してくれてるなら、来い」
































なに・・・。
なんなの、この男?
なんで泣いてるの?



バカじゃない?



わからないって言うの?自分が愛されてるのかどうかが?
バカだわ!







私、本物もバカに会っちゃった!











フランソワーズがこんなに愛してるって言い続けても、信じられないなんて!
そんなに自分に自信がないの?

そんなに、怖いのね?
そんなに、好きなのね?
そんなに、失いたくないのね?
そんなに、フランソワーズを愛しているのね?







それで逃げてるなんて、バカじゃない!







逃げてる暇があったら戦いなさいよ!
男でしょ!
愛する女に愛されるために、
愛する女の愛に応えるために、

ちゃっちゃっと立ち上がって、彼女を抱きしめろ!













は~~~~~~~~~!!こいつ!
筋金入りの”ヘタレ”だわ!!!







苦労するわね~・・・フランソワーズ。


















もう一発殴っとこうかしら?
さっきので、ちょっとは頭の配線が正常になったぽいし~?



















「香奈恵さん」


フランソワーズはそおっと香奈恵の両手を握った。


「香奈恵さん、ありがとう」


ふわり っと幸せそうに微笑む。


「ジョーが初めて、私に・・・”お仕事”以外で自分の意思を言ってくれたわ!」
「・・・よかったじゃない!今度もう一発殴ったら、もう少しましになるわよ!」
「んふふふ。そうね!お願いするわ!! また来週、レッスンでね。さようなら」


























その言い方の通り。
羽のように、彼女は重力を感じていないかのように、愛する人の元へ。

運転席のドアはちょっとだけ開いたまま。
鍵はそこに差し込んだまま。






彼は涙を流したまま。
彼女は彼が差し出した手を握る。



優しく、優しく、その手を包むように握る。


「ジョー・・・とっても素敵よ。あなたの泣き顔・・・好きよ。愛してるわ。
 きっとあなた以上に綺麗に泣ける人なんていないわね?」








ジョーはほのかに微笑んだ。
















「私の好きなようにするわ。いい?

私はあなたを私が好きなように愛し続けるわ!

私がしたいようにあなたを好きで、愛するわ!

いい?覚悟してね?

あなたは、私がすきなように、したいようにしたらいいって、

言い続けたんですもの、責任を取って?









私 が 好 き な よ う に あ な た を

私 好 み の 男 に す る わ 」





















####

香奈恵さんの長い話しが終わった。

いつの間にかテーブルには、新作ランチの数々が並び、
隣のテーブルに義姉さん、兄貴に高田さんが香奈恵さんの話に聞き入っていた。



「ってことがあったわけよ!!」

話しきった香奈恵さんは、満足そうに胸を張った。
フランソワーズさんは、横でうん、うん、と何度も、何度も頷いているから、この話は香奈恵さんのでっち上げでもないようです。







・・・でも、オレ的には





「は~~!なあああああんか、大地の”へたれ”と島村っちさんの”へたれ”具合に次元の差を感じてしまうわ!同じ”へたれ”でも、やっぱり島村っちさんの方がカッコイイわ!」

・・・否定できません。





「でもね、その後が大変だったの!!すご~~~~く、
すごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおくっっ!!
大変だったのよ!私が彼を本気で愛してるっていうことを理解してもらって、信じてもらって。そこでやっと彼は、私のことをどう想っているのかを、考えて伝える努力をしようとしてくれるんだけど、それがまた・・・ちょっとずれてるの・・・んふふ。とっても可愛かったけど、もどかしかったわ!彼、伝えるのが苦手だから。それで、手っ取り早く・・・強硬手段?・・・ふふ。それはジョーが、もうどうしていいかわからなくなった、混乱の極地ね!」

「ねえ、あれは犯罪一歩手前だわ!!あれこそ、ヘタレ外道・黒島村っちね・・・」








ヘタレ外道?!
黒島村(っち)?!














「ふふふ。あれはあれで、ジョーは素敵だったわ・・・辛かったし、苦しかったけれど、ジョーはとても綺麗だったんですもの」
「・・・・あんたって、マゾかと思ってたけど、サドなの?」
「私のために苦しんでくれている彼を見て、嬉しいって想うのは変かしら?」


小鳥が首を くいっ と傾げるように愛らしく、さらり と 彼女の髪が靡く。
きらきらと舞う光は眩しく、彼女はこころの底から嬉しそうだ。


「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」


フランソワーズさんって、けっこう・・・・。



「あ・・・島村っちくんじゃないか?」

兄貴がウィンドウを指さす。
ガラスを隔てた向こう側の世界で、彼はまっすぐにカフェに向かって歩いてくる。
ガラスが陽の光に反射してキラキラと輝く世界に・・・ジョーはいた。
存在感がないって話していたフランソワーズさんと、香奈恵さんの話が、オレは信じられなかった。

店の窓枠が彼のために設えて特別な額のよう。
彼は舞台に立っているのか、映画のスクリーンの中にいるのか。
切り抜かれたその世界で・・・その存在を焼き付ける。


「ねえ!ちょっといい?」


香奈恵さんの声で我に返る・・・ち!また見惚れちまったのか!?
ジョーなんかに!(オレはいたってノーマルだ!)




フランソワーズさんはジョーを出迎えるために立ち上がろうとしたが、香奈恵さんに止められた。


「まぁだぁよ!」



ドアのチャイムが愛らしく、ちりりん と鳴る。
チャイムでさえもジョーが好きらしい。




ジョーはドアを開けて一歩店に入る。
テーブル席に座る俺たちに、ヤツ必殺の「老若男女・ときめきプレゼント実施中」の
笑顔をみせたとき・・・



「「「「「「愛してる!!」」」」」」



受け取れ!
フランソワーズさんばっかりじゃなくて、たまには別バージョンもな!









お前の「ヘタレ島村華麗なる成長記~序章・愛から逃げた男~」を聴いたんだ!これからだぜ!!

ふっふっふ( ̄+ー ̄)キラーン















偶然は偶然を呼ぶ。
奇跡は奇跡を呼ぶ。


良い方へ流れるときは流れる。
悪い方へ流れ始めたとき、その流れを止めるには?



「一発殴ればいいのよ!”へたれ”には即効性大!」by香奈恵


















end.































・言い訳・

こちらは「099」番をゲットしていただいた「・・・里」さまへのキリリク
大地くんシリーズの過去のヘタレ島村さんが→現在の男・島村っちに成長していく過程を
お嬢さん視点と香奈恵視点で・・・お嬢さんが苦労して手塩に掛けて育てた、男・島村レシピ?
 「お嬢さんの島村さん育児日記」

だったんですが・・・。


ああ!なんか違う!!

も、も、も、もっと軽快に、楽しいものになるはずが!!!
しかも中途半端?!

お嬢さん視点?これ?
香奈恵さん視点?これ?

ああ・・・キリリクなんてのは、
私にはまだ早かったんでしょうか?
これもリベンジか・・・時間があったら続編決定っすね・・・

「・・・里」さま
申しわけありません・・・こんなんになってしまいました・・・m(;∇;)m
おまけは、イメージを掴むために書いたものです。
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