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GOOD NIGHT
バスルームから、ドライヤーが唸る音。
開け放たれたままバスルームのドアから、熱を持った湿気が部屋に入り込む。
濡れたバスタオルを・・・・・その辺に置いてしまうと怒られるから・・・

「濡れたタオル!どこにでも置かないでね!」

ほらね・・・。

「どこに置けばいい?」

バスルームを覗いて、彼女に訊く。

「そこのカゴにいれておいて・・・」

濡れた髪が重たげにドライヤーが作り出す熱い風に靡く。
彼女の髪を通りに抜けた熱が、僕の肩にかかる。

カゴね、カゴ・・・。

「キミのも?」
「お願いします」

鏡越しから瞳と瞳が合う。
彼女は鏡越しに、僕が2枚のタオルをカゴへ入れたのを確認してから、かちんっとドライヤーのスイッチをoffにした。
櫛を手に取り、簡単にシャンプーの香り豊かなハチミツ色の髪を整える。

春も半ばの季節だけれど、夜はまだ冷える。
長袖のコットン地に唐撫子色のパジャマを着た彼女の背中に、僕は手を添えてそっと撫でる。

「なかなか、暖かくならないね」
「ほんと、桜もまだ4分咲きって言っていたわ・・・今年は遅いわね?」

櫛を元の位置に置いて、彼女は僕を見る。

「髪、もう乾いたの?」
「キミより短いしね」
「ダメよ、ちゃんと乾かさないと風邪引いちゃうわっ」
「大丈夫だよ。それよりさ。ちょっと何か飲まない?」
「喉が渇いたの?」
「うん・・・温かいものがいい」

僕の手に促されてバスルームから出る。
彼女を先にバスルームから出し、ライトをoffにしてドアを閉めた。

「あ!まだ浴室の換気乾燥機は切らないで、電気だけ」

はい、はい。

もう一度ドアを開けて、換気乾燥機をonにする。
静かに壁が震え始めた。

バスルームのドアを閉めて、オレンジ色の間接照明だけの部屋で彼女を見る。
風呂で温まり、ドライヤーの熱気を浴びて頬が紅く、少し逆上せたように碧瑠璃色の瞳が とろり と潤んでいた。

「キミは、何か冷たいものがいるみたいにみえるけど?」
「う~ん、飲みたいけど、きっと寝てる間に冷えちゃうわ・・・ハーブディを飲む!」
「カモミール?」

部屋のドアを開けて、彼女をキッチンへ誘う。

「そうね、それがいいわね。ジョーは?珈琲とか言わないでね?」
「りょ」
「緑茶もだめ!・・・珈琲と変わらないわ!ジョーは宵っぱりなんだから、今日はダメ!」

彼女の部屋を出て、階段を下りる。

「・・・薄い目でも?」
「カモミールじゃだめかしら?」

階段を下り、誰もいないリビングを抜けてダイニングの入り口で、ライトをonにする。

「いいけど。何か物足りないな」

彼女がキッチンのライトをonにした。

「カフェインが足りないんでしょ?」
「・・・・」
「も!・・・・ジョーには温めたミルクでいいかしら?」
「イワンじゃないんだから」
「じゃあ、温めたミルクにブランデーは?」

ごそごそとキッチンに備え付けられた棚の中に頭ごと突っ込んで何かを探している。

あったわ!っと、棚の中から嬉しそうな、声。

「見て!やっぱりまだあったわ!」

彼女は得意そうに、けれど悪戯っ子のように キラリ と、瞳を輝かせて、僕にソレを見せた。

「ああ、グレートの・・・・それ、彼の秘蔵の・・・だろ?」
「少しくらいいいじゃない!一昨日、酒のツマミだって、私がワインに付けておいたお肉を焼いて食べちゃったんだもの!いいのよっ」

ぶうっと頬を膨らませて、一昨日のことを思い出して機嫌が悪くなるけれど・・・怒ったキミをなんとか宥めるために、グレートは確か・・・、ま、いいか。

「キミがいいなら、ね」
「じゃ、ジョーはこれね。私もそうするわ!」

彼女はにっこりと笑ってミルクパンをコンロに置き、冷蔵庫からビンで売られている”ちょっと特別”な牛乳を出した。

「それ飲むの?」

いつもはパックのなのに。

「んふふ。ちょっと奮発!美味しいブランデーには、やっぱり美味しいミルクよね?」

僕は彼女が使い終わった”ちょっと特別な牛乳”のビンを受け取り、冷蔵庫の中に戻した。
コンロの火を弱火にして、沸騰しないように気を付ける。

キッチンの床は底冷えする。
足下からヒンヤリした空気を感じた。

「冷えない?」
「ん~・・・まだ大丈夫。でもあんまり長くここには居たくないわね?」
「僕が用意するよ?リビングで待ってる?」

彼女の肩を、僕は腕を伸ばして引き寄せる。
彼女の躯の動きが作った柔らかな風が、使ったばかりの彼女のお気に入りのシャンプーの香りで僕の鼻腔を楽しませる。

「リビングで飲むの?」
「部屋の方がいい?」

彼女の肩を両腕で抱いて、彼女のこめかみにキスをひとつ。

「・・・今、何時かしら?」
「1時過ぎてるよ、きっと」

そのまま彼女の頬に唇を寄せて、キスをひとつ。
くすぐったそうに、瞳を細めつつ・・・ミルクパンから瞳を逸らさない。

「明日、早いのに・・・」
「早いって言っても、9時までに用意ができたらいいよ」
「だから、7時には起きないと」
「・・・・8時半でも間に合うよ」

彼女の耳元で、抗議してみた。

「ジョー1人ならいいけれど、・・・博士も一緒よ?だめ。絶対に間に合わないわ!」
「そうかな?」
「飛行機は待ってくれないもの!タクシーは待ってくれるけど・・・」
「予約した?」
「ええ、ちゃんとジョーが教えてくれたタクシー会社に」
「よくできました」

彼女の唇にキスをひとつ。

ミルクパンの中のミルクが ふつふつ と、泡を出し始め、僕はそっと彼女の肩から腕を解いた。

「帰ってくるのは1週間後なのね?」
「一週間弱・・・正確には4泊5日」

ミルクパンから用意した2つのマグにミルクを注ぐ。
注がれるマグから立つ湯気が運ぶ、懐かしい香りを胸に吸い込んだ。

「・・・ボストンよね?」
「直行便がないのが、残念だよ。NY経由で行くけど」
「博士、大丈夫かしら・・・もう少しゆっくりしてから日本へ戻ってくる方がよくない?」

彼女はグレート秘蔵のブランデーのキャップを回しながら、心配そうに僕を見た。

「そう言ったんだけど、ね。キミ1人ここに残して置くのが心配なんだよ」
「1人じゃないわよ、イワンは昼の時間ですもの、それにグレートと帳大人が交代で泊まりに来るわ」

ブランデーをカップに大さじ1つずつ入れて、元の棚に慎重に戻す。
僕はマグを2つ手に持ち、キッチンの入り口で彼女を待つ。

「それでも博士は心配なんだよ」
「も!私は子どもじゃないのよ?」


・・・だから、心配なんだけどね。


ミルクパンをシンクに置いて、水を張る。
彼女は、さっ とキッチン全体を見渡してから入り口のライトをoffにした。
僕は彼女の前を歩く。だから今、全神経が背中に向いている。

「・・・部屋で?」
「部屋ね」

ダイニングのライトをoffにする彼女のために、一呼吸足を止める。
リビングを抜けて階段を上がる前に、僕は足を止めた。彼女はそのまま足を進めて階段を上がる。彼女が3,4段上ったところで僕も階段を上がる。


マグから流れる湯気が僕たちの歩いた道に記を付ける。


彼女は自分の部屋のドアを開けて待っていてくれる。
先に僕が部屋に入る。
彼女が部屋のドアを閉めた音が聞こえた。

彼女の分のマグをベッドのサイドテーブルに置く。

「せっかくNY経由なんだから、ジェットと一緒にゆっくりすればいいのよ」
「・・・一緒に日本に戻ってくるんだから、そうれも良かったんだけどね」

僕はベッドの枕元に腰を下ろして一口、ブランデー入りミルクを口にした。
少し熱めの白いそれは、まったりとした甘みを含みながら喉を通る。

「博士のお体が心配・・・」

彼女は僕の隣に座るかと思いきや、僕の両膝を割って小さなスペースを作り、そこに座った。
僕は両膝で彼女を挟み、ミルクを零さないように気を付けながら、彼女の背中にぴったりと僕の胸と腹をつけて抱き込んだ。

僕が手に持つミルクが、彼女の胸前に差し出される形になり、彼女はそのマグを僕の右手ごと包み込んで・・・僕の分のミルクを飲んだ。


2つ淹れた意味がないよ?


「多分、博士が僕らの中で一番元気だよ、散々キミに土産は何がいいか訊いていただろ?昼間」
「そんなの関係ないわ!・・・博士はすぐ無理をなさるから、周りがきちんと見ておかないとダメなのよ?」

僕は空いている左手をサイドテーブルに伸ばして、彼女の分のマグを渡す。
彼女はそれを受け取る。

左手から消えたマグカップの重さ。
その重さを恋しがるように、彼女のウェストに左腕をまわして彼女の脇腹を撫でた。

「やだ!くすぐったいっ ミルクがこぼれちゃうっ」
「ああ、ごめん」
「も!気を付けて!」

彼女は躯を捩って抗議する。
僕はウェストにまわした腕に少し力を入れた。
彼女の頭に顎を乗せるようにして、ミルクを飲む。

壁にかけられた時計の秒針が耳に かちり こちり と、妙にくっきりと聞こえた。

マグに唇をつけて、ちびちび とミルクを飲む彼女を、彼女の頭上から眺める。
僕の躯に彼女の体温とミルクの熱が混ざり合う。

「博士は、大丈夫だよ。・・・ジェットと一緒の帰りだけが心配」

ごくり。と、などを鳴らしながら飲んだ。

「う・・・確かにそれが一番の大きな試練かもしれないわ・・・」
「だろ?ジェットと一緒にNYに滞在した上に、彼と日本に帰ってくる。そっちの方が博士にとっては辛いかも」
「・・・そうねぇ」
「飛行機の中で、絶対に・・・自分で飛んだ方が早い!って、飽きたら言う出すんだよ、きと。・・・美人なスチュワーデスさんがいれば、話は別だけど。・・・まあ、いたらいたで」

・・・・また騒ぐんだけどね。


また彼女は ちびちび とミルクを飲む。
僕はもう、ほとんど飲み終わった。

「美人なスチュワーデスさん。ねえ・・・」


・・・・なんかその言い方、気になるな。



マグを左手に持ち替えて、サイドテーブルにそれを置く。

彼女の瞳は僕の左手の動きを眺めている。
僕は両腕をしっかりとベルトのように彼女のウェストにまわして、隙間がないくらいに彼女にぴたりとひっついた。
彼女の右肩に顎を乗せて、僕は彼女を見る。

「来週の水曜日の2時に空港に着くから」
「はい」

優等生の、滑舌良い返事。

「昼間は1人なんだから、気を付けるんだよ。帳大人やグレートは店が終わってからここに来るんだから、さ」
「ええ、ちゃんと気を付けるわ」

彼女は深く頷いた。

「淋しかったら、時差なんか気にしないで電話すること」
「大丈夫よ、たった4泊5日だもの」

くすり と笑う。

僕は顎を持ち上げて彼女の頬にキスをひとつ。

「我慢しないこと」
「あら、我慢なんかしてないわよ」

彼女は僕の方へ振り向いて、僕の唇にミルクで温まった、いつもより熱のあるキスをひとつ。

「・・・・我慢しないこと!」

僕は念を押して、僕の唇から離れた彼女の熱を追いかけて、もう一度キスをした。

「・・・96時間くらい、電話を繋ぎっぱなしになっちゃうもの」

唇を尖らせて、彼女は俯きながら呟いた。


・・・・参った。
それって24時間x4日間=96時間・・・ってこと?


「すぐだよ、キミが・・・そうだね。新しい御菓子のレシピを覚えて、日本食のレパートリーを2つくらい増やした頃には帰ってきてる」
「ジョーの食いしん坊!」
「旅で一番辛いのは、キミの御飯が食べられないこと、だからね。楽しみに帰ってくるよ」
「美味しいの、マスターしておくわ!」
「・・・・楽しみにしてる」

彼女はサイドテーブルにミルクが少しだけ残ったマグを置いて、目覚まし時計の時間を確認し、躯を伸ばしてサイドテーブル脇の間接照明のライトをoffにする。

僕は彼女を抱いたままベッドにもぐり込んだ。
彼女の頭を腕に抱え込むようにして抱く。

「ジョー、お休みなさい・・・」
「お休み・・・フランソワーズ」











かちり こちり と秒針の音が部屋に響く。
ぶううんっと薄く、低く、浴室から聞こえる、振動。























「あ!ジョー!!浴室の換気乾燥機を切ってないわっ」

・・・・はい、はい。












「んふふっありがとう・・・・お休みなさい」

・・・・・オヤスミ、可愛いフランソワーズ。



96時間、携帯電話を繋ぎっぱなしだと、いくらくらいかかるかな?
払えないことないから、いいか、別に。


僕は彼女をベッドの中でしっかりと抱きしめる。


お休み。フランソワーズ・・・・大好きだよ。

end.


・言い訳・

「0093」番を踏んでいただいたR・・・さまへのキリリク・ストーリーでした。
頂いたリクエストは、「9と3がメインでほんわか、ほのぼのとしたお話」で9の幸せ!を。とのことでした。

ふっふっふ!
9と3の幸せな(?)日常は大好物でございます!
何もないから楽しい・・・(笑)
私自身も初心に返ったような気分で書かせて頂きました・・・。

時間を忘れて・・・(汗)
かなり忘れて・・・( ̄-  ̄ ) ンー

書いていて幸せでした・・・。

・・・・感想お待ちしております・・・・
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